ショーンが、なんとなくベッドの中から抜け出せずにいると、キッチンからいい匂いが漂ってきた。

ベーコンの焦げる脂臭い匂いは、鼻をひくひくとさせる。

隣で眠っていたはずのヴィゴが、ベッドを抜け出したのは、気付いていたが、ショーンは、まだ眠く、付き合って起き出すことができずにいた。

ベーコンの匂いさえしていなければ、また、眠りのなかに引き込まれそうなくらいだ。

パンケーキの焼ける匂いもしてきた。

食欲に、腹が鳴った。

ものすごい強制力をもった目覚ましにやられた気分だった。

ショーンは、小さくため息を付き、ベッドの上で大きく伸びた。

階段を足音が上がってくる。

「ショーン、モーニン。コーヒーにするか?それとも、紅茶?」

どっちともインスタントのくせに、ヴィゴは大威張りで、まだベッドにいるショーンの顔を覗き込んだ。

ショーンは、ヴィゴの格好に驚き、眉を顰めたまま、おはようのキスを受け止めた。

「どうして?」

「似合うだろ?」

ヴィゴは、ジーンズの上にストライプのエプロンをつけた格好で、現れた時と同じように唐突に部屋を出て行った。

ショーンは、飲み物の注文も受け付けてもらえず、裸足のままでヴィゴの後を追った。

「コーヒー?」

眠そうな顔をしたショーンを階段で振り返り、ヴィゴは、キッチンに進んでいた。

キッチンは、腹に音をたてさせるいい匂いをさせて、ショーンの事を誘っていた。

ヴィゴの背中は、縦に二本、それが肩からずれないように、肩甲骨の辺りに横に止められた形をした青い細い布が一本あるだけで、腰の辺りで紐と交わる部分まで、どこも隠れていなかった。

「…紅茶…いや、やっぱりコーヒーにする」

ショーンは、金色の髪を長い指でかき回しながら、木の手すりにもたれかかるようにして階段を下り、ヴィゴの後についていった。

この家のルールで、室内で履いていいのは、スリッパだけだった。

いつのまにか、ショーンもヴィゴのように家の中を裸足で歩き回るようになった。

ヴィゴは、筋肉質な背中の美しい動きを見せつけながら、コンロの前に立った。

ショーンは、倒れこむように、キッチンの椅子に座り込んだ。

「そんなに眠いのか?」

「だって、昨日寝たの、何時だよ」

ショーンは、大きなあくびをした。

テーブルに置かれた新聞を手に取ったが、目は、文字を追っていなかった。頬杖をついて、お湯を沸かすヴィゴの背中を見ていた。

「ビデオを最後まで観たいって言ったのは、ショーンだろ?」

「でも、こんなに早く起きなくても…」

「早い?いつもに比べたら、昼過ぎくらいなもんだろ。もう、10時半なんだぞ?でかけるまで、2時間もありゃしない」

ヴィゴは、大きなやかんを軽々と持ち上げて、後ろを振り返った。

ショーンが頬杖を付くテーブルには、カップしか置いてなくて、ヴィゴは、小さく舌打ちした。

「ショーン、せめてコーヒーの粉くらいは入れてくれないか?」

ショーンの目の前には、大きなインスタントコーヒーの壜が置かれていた。

ショーンは、面倒くさそうに、その蓋に手をかけた。

ヴィゴが手を伸ばしてそれを止めた。

「そうだ。ちょっと、待て。そういえば、もう少し、いいものを貰ったんだった」

ヴィゴは、一人上機嫌に、コンロにやかんを戻すと食器棚に向かって歩いていった。

食器棚の上にある箱を伸び上がって、手に取った。

背中で肩甲骨が動いた。

滑らかでとてもセクシーな動きだった。

ショーンの目は釘付けになった。

「インスタントだけどな。多分、こっちの方が、薫りがいい」

ヴィゴは、箱を開け、中から個別に包装されたフィルターコーヒーを取り出した。

ビニールを破り、カップにフィルターをセットした。

あたりに、コーヒーの匂いが広がった。

「いい匂いだ」

「だろ?さぁ、飯にするか?」

ヴィゴは、それぞれのカップに湯を注ぎ、用意してあった皿をテーブルに並べた。

ショーンは、椅子から立ち上がり、ヴィゴの背後に立った。

腹に手を回すように抱き締め、項に唇を押し付けた。

「まだ、眠い?」

体重をかけるようなショーンの重みに、ヴィゴは、笑いながら、ショーンの手を撫でた。

「違うって、わかっているくせに」

ショーンは、左手をヴィゴのエプロンの下へとくぐらせた。

削げたように引き締まったヴィゴのわき腹を撫で、ゆっくりと臍に向かって進んでいった。

「目は、覚めたのか?」

「おかげ様でね、腹ペこだって自覚したよ」

「そう。じゃ、早く食べないと」

ヴィゴは、振り返って、ショーンの頬にキスをすると、するりと椅子に座ってしまった。

「どうぞ?冷めないうちに食わないと、不味くなるぞ?」

ヴィゴの顔は、にやにやと笑っていて、ショーンをからかおうとしていることは、明白だった。

ショーンは、仕方なく、正面の椅子に腰掛けた。

パンケーキも、ベーコンも、コーヒーだって、いい匂いだった。

だが、今嗅いだヴィゴの匂いが一番ショーンの餓えを満たしてくれそうだった。

「どうぞ?」

ヴィゴは、薄いブルーのストライプのエプロンをつけたまま、ショーンに向かって、もう一度促した。

太陽の日差しが、ヴィゴを包み込んでいて、その光景は、見るものをなんだか幸せな気分にした。

ショーンは、顰め面のまま、フォークを手にとり、すこし焦げたベーコンをぐさりと刺した。

 

「ショーン、今日は、いくつ同じシーンを?」

「二つ…かな?俺だけ、撮り遅れているブルースクリーンを撮るって昨日、スタッフに言われた」

「また、ブルースクリーン?さっさと撮り終えないと、他のところまで、あんただけ別撮りになるぞ?」

ヴィゴは、パンケーキを切り分けていたナイフを行儀悪く振り回し、ショーンを威嚇した。

「そんなこと言われても、俺だけの都合じゃ、撮影は進まない」

ショーンは、コーヒーカップを手に取って、香りを楽しむように、カップの中を覗き込んだ。

実際は、前に座るヴィゴが見ていられなかった。

ヴィゴは片足を椅子に乗せただらしのない格好で、パンケーキをつつき回していた。

自分で焼いたくせに、甘すぎるだのなんだのと、文句を言っていた。

エプロンから見え隠れする、胸や、腰が、ショーンを落ち着きなくさせていた。

ヴィゴは、絶対にショーンの態度がおかしいことに気付いているはずなのに、ブランチの席から立とうとはしなかった。

ショーンは、手元にあった新聞を広げた。

視界にはいるヴィゴの肌や、体毛から、目を背けたかった。

だが、この地方で起きた強盗事件や、交通事故は、ショーンの意識を攫っていってはくれなかった。

「ショーン、あんた、ちっとも食べてないじゃないか」

ヴィゴは、ショーンの皿を覗き込み、一切れ切り取っただけの、パンケーキを引き寄せた。

実に器用にナイフを操り、間違いなく均等にパンケーキを切り分けた。

「食べさしてやろうか?」

ヴィゴは、にやにやと笑って、フォークでその一切れを突き刺した。

ショーンに向かって、腕を伸ばした。

ショーンは、新聞から目を上げた。

パンケーキが目の前に迫っていた。

ショーンは、力強い腕の太さをじっと見つめて、それから、ゆっくりと口を開いた。

小さく切り分けられたパンケーキが唇の中に消える。

ヴィゴが息を呑む音が聞こえた。

「…旨い?」

「旨いよ」

ショーンは、パンケーキを咀嚼しおえると、唇に付いた蜂蜜を舐め取った。

ヴィゴの視線が、そこに張り付いているのを意識していた。

「ちょうどいい甘さだ」

「本当に?」

ヴィゴは、眉を寄せて、ちょっと困ったように口元を覆った。

すこし、首を傾けていた。

「もう少し、甘くても平気だ」

「俺も甘いものが平気な方だけど、ショーンほどは、無理だな」

ヴィゴは、テーブルの上の蜂蜜をショーンに向かって押しやった。

ショーンは、受け取ると、パンケーキの上に粘つく金色を垂らした。

「今日の天気は?」

ヴィゴは、自分のパンケーキに意識を戻すと、口の中に詰め込みながらショーンに聞いた。

ショーンは、窓の外を顎でしゃくった。

「晴れだろ?」

ヴィゴは、口を横に広げて首を振った。

「天気予報を聞いてるんだ。新聞を見てるだろ?なんて書いてある?」

「晴れ、時々、曇り。気圧についても知りたいか?」

「曇るのか…今日は青空じゃないと困るんだが」

「そうだったか?」

「ホビットと沼地を歩くんだ。確か、天気は晴れだと言っていた」

ショーンは、フォークを握るヴィゴの腕を掴んだ。

口を開けて、顔を突き出した。

「なに?」

「食べさせてくれるんだろ?さっさとしてくれないと昼になっちまう」

ヴィゴは笑って、ショーンの皿のパンケーキを突き刺した。

ショーンの口の中に押し込む。

ショーンは、もぐもぐとパンケーキを咀嚼した。

口の中のものがなくなったら、また、口を開く。

「ショーン、両手はどうした?」

「新聞を掴んでいるのに、忙しいんだ」

ショーンは、太陽よりもずっと明るい顔で笑って、読んでもいない新聞を広げたまま、大きく口を開いてヴィゴに催促した。

 

テーブルには、空になった皿が置かれたままだった。

2人は、ソファーの上で、笑い声を上げながら、お互いの身体にキスをし合っていた。

「もっと、もっとしてくれよ。ショーン」

ヴィゴは、擽ったそうに笑いながら、ストライプのエプロンに頭を突っ込んでいるショーンの背中を撫でていた。

ショーンは、ヴィゴの引き締まった腹や、突き出した腰骨を唇で辿った。

「やらしいな。ショーンは」

ショーンの口は、履きこみの浅いジーンズの際どい部分にも吸い付いていた。

「よく言う。こうして欲しくて、こんなおかしな格好をしてるんだろ?」

ショーンは、抱きこんだ腰を撫で回して、指先をジーンズの中へ滑り込ませる隙をうかがっていた。

「ショーン、こっちにおいで」

ヴィゴは、エプロンの裾をめくって、金色の頭にキスをした。

ショーンは、唇をキスの形に尖らせたまま、緑の目でヴィゴを見上げた。

「その気持ちのいい唇で、もっといろんなところにキスしてくれよ」

ヴィゴは、ショーンのこめかみにキスし、彼の身体を抱き上げ自分の膝に乗せると、まず、首を横に反らした。

「ここ。肩から耳にかけてキスしてくれ」

ショーンは、首を反らしたまま、待っているヴィゴをしばらく笑っていたが、ヴィゴの肩に掛かっているブルーの紐を横によけると、肩の端から順に、首に向かってキスしていった。

薄い唇が、盛り上がった筋肉を優しく噛んでいった。

剣を振り回すようになってから、ヴィゴの肩の筋肉は、より硬くなっていた。

「気持ちいいよな。どうして、ショーンの唇は、こんなに気持ちいいんだろうな」

「そうか?」

ショーンは、まんざらでもない顔で笑って、キスの続きを首の上へと上がっていった。

髪をかきあげ、隠れてしまっている耳の近くをゆるく唇で噛んだ。

ヴィゴの口から、小さく息が漏れた。

ショーンは、鼻を髪の中に突っ込み、ヴィゴの耳を甘噛みした。

「ヴィゴ、こんな格好でキッチンに立つなんてズルイよ」

ショーンは、先ほどずらしたブルーの肩紐を指でなぞった。

そのまま、指で背中を辿り、耳に齧りついたまま、背中を強くかき抱いた。

「こんなのが好きなのか?」

ヴィゴは、膝にのったショーンの尻を掴みながら、大きく開かせるようにして揉みしだいた。

すこしづつ、ショーンの息が熱くなってきていた。

ヴィゴは、短パンの裾から、手を差し込んで、張り詰めた尻の肉を直接揉んだ。

「ショーン、キスを止めないで」

首にすがりついてしまったショーンに、ヴィゴは、息を吹き込んだ。

ショーンの背中がびくりとしなった。

ヴィゴが片手で、強制的にショーンの顎を掴んで顔を上げさせると、濡れた緑に、唇を寄せた。

「この性悪な唇で、もっと、俺にキスしてくれよ」

ショーンは、ヴィゴの顔じゅうに、キスの雨を降らせた。

ヴィゴは、ショーンの着ている薄いTシャツの中へ片手を滑り込ませて、背中を下から撫でていった。

残った手の親指で、ショーンの薄い唇をなぞった。

「この気持ちのいいもので、何人誑かしてきた?うん?」

ショーンは、薄く口を開け、気持ちの良さそうな顔をして指の腹で優しく撫でられる感触を楽しんでいた。時に舌を伸ばして、撫でていく爪の先をちろりと舐めた。

「ここだけ、見ていると狡猾そうで、特に色気があるわけじゃないのに」

ヴィゴは、愛しげに、ショーンの唇を撫でた。

「この顔に収まるとどうしてこんなに、たまらなくなるんだろうな。むしゃぶりつきたくなるよ」

ヴィゴの指がショーンの口角までゆっくりとなぞり、柔らかい感触を楽しむと、唇で吸い付いた。

「こうやって、薄く口を開いて、もの欲しそうにされると我慢出来なくなる。本当に、ショーンは、どうにもならない」

ヴィゴは、きつくショーンを抱き締めた。

ヴィゴの匂いが、ショーンを包み込んだ。

ショーンこそ、たまらなくなって、張り詰めている自分のペニスをヴィゴに擦りつけた。

ヴィゴは、短パンのゴムを引っ張り、ショーンの丸い尻を剥き出しにした。

一瞬だけ、ショーンは、ヴィゴの膝の上で、体を硬くした。

ここが、太陽の差し込む、リビングであることを思い出した。

だが、思い出したところで、どうしようもなかった。

ヴィゴの手は、ショーンの尻を大きく開かせていたし、ショーンは、そうされるのが嫌なわけではなかった。

ショーンは、自分を見つめる優しい目のおかしな格好を、剥ぎ取ろうとした。

両手でヴィゴの腰辺りにあるエプロンのボタンを外そうとすると、ヴィゴは、子供をたしなめるような舌打ちを何度か繰り返した。

ショーンは、ヴィゴの顔を見つめた。

「外しちゃダメだ。これから、ショーンのことを料理するんだからな。この格好でいないとダメなんだ」

ショーンは、呆れて、思わず笑った。

「似合ってるとでも思ってるのか?」

「似合わない?こうやって、乳首が見え隠れする感じなんて、すごくショーンのことをそそってるんじゃないかと計算してるんだけど?」

張り出した胸の筋肉を、ヴィゴはショーンに見せつけた。エプロンがぎりぎり隠していた乳首が、動きに姿を見せた。

「キスして欲しいのか?」

「勿論。その唇は、こういう時のためにあるんだろ?」

ショーンは、背中を丸めて、ヴィゴの胸に吸い付いた。

ヴィゴは、尻を撫でていた手で、ショーンのペニスを握った。

ショーンの唇が、Oという形のまま、ヴィゴの胸で止まった。

「ものすごく料理して欲しそうじゃないか」

ヴィゴは、ヌルつく先端を指の腹で撫でた。

「ヴィゴ」

ショーンは、腰を捩ってヴィゴとの距離を縮めようとした。

ペニスの先端が、普段とまったく感触の違う糊の利いた布を撫でた。

「新品のエプロンなんだぞ。もう、汚す気なのか?」

ぬるつく体液が染みをつくり、ヴィゴは、にやにやとショーンのことを笑った。

ショーンは、太腿でヴィゴの体を挟み込み、続きをねだって催促した。

「あんたの気持ちいい唇でサービスしてもらおうと思っていたのに、先にねだられてしまったな」

ヴィゴは、充分に重みのある身体を膝の上から下ろして、ソファーの上に座らせた。そして、自分は、足の間の床に膝をついた。

ショーンの薄い唇が浅く開いて、期待するような早い呼吸を漏らしていた。

ヴィゴは、舌先を見せ付け、充分に焦らしてから、ショーンのものを口に含んだ。

 

ショーンは、ヴィゴの頭に縋りつくように身体を丸めて、舌の動きに声を漏らしていた。

ヴィゴによって押し広げられている太腿は、はしたないほど、大きく開脚していた。

ショーンが内腿に力を入れ、少しでも幅をせばめようとしても、ヴィゴは、両手でそれを押し返し、そんなことを許しはしなかった。

ヴィゴの指が、足の付け根を何度も撫でた。

金色の体毛が生い茂る部分を指の腹がなぞり、唾液は、ソファーまで濡らしていた。

ショーンは、自ら、両膝の裏に手を入れ自分の脚を引き上げると、ソファーの背もたれに背中を預けて、腰を浮かした。

ヴィゴは、その態度に、ペニスの先に何も繰り返しキスを与えた。

「ヴィゴ」

明らかに誘う目をして、ショーンは、ヴィゴを見下ろした。

唇を舌が何度も舐めていた。

ヴィゴは、エプロンのポケットから、チューブとコンドームを取り出した。

物音に、ショーンは、うっすらと濡れている目で、ヴィゴの手元を見た。

ヴィゴの手に持っているものを見て、大笑いした。

「なんて、用意のいい奴なんだ!」

胸につくほど上げていた足を下ろし、ヴィゴの身体を挟み込んだ。

両手でも、ヴィゴを抱き締め、髪に、頬にとキスをした。

「いつから?いつから、それをポケットに?」

ヴィゴは、憮然とした顔をした。

「あんたを起こしに行く時からだよ。そんなに笑うことはないだろ。サービス精神の現れだ」

ショーンは、キスを止めなかった。

「好きだよ。あんたのそういうところが大好きだ。どんなにも抜け目がないのに、こんなに笑わしてくれるなんて、やっぱり、ヴィゴのことが好きになって良かった」

ヴィゴは、ショーンの細い足首を掴み上げ、勢い良くソファーへと押し倒した。

だが、まだ、ショーンは、笑っている。

捲れあがったTシャツの腹は、ひくひくと引きつるように震えていた。

仕方なくヴィゴは、もう一度、愛撫を最初からやり直した。

 

あまりにもゆっくりした時間を過ごしたせいで、ショーンが、うっとりと濡れた目を瞑り、身体を震わせたときには、もう、時計が出勤の時間を超過していた。

自分だけ気持ちよく精液を吐き出したショーンは、長いため息を付いた後、気まずそうな目で、足元に蹲るヴィゴのことを見た。だが、もう、どうしようもない時間だった。

「この借りはすぐ返してもらうからな」

ヴィゴは、ショーンに散々汚されたエプロンを脱ぎ捨て、バスルームに向かった。

ヴィゴの唾液や、指を挿入するために使ったジェルで汚れているショーンもソファーから跳ね起きると、その後を追った。

「ショーンは、スタジオの方に直接?」

ヴィゴは、洗面台で手を洗い、水を手に掬うと何度か口をゆすいだ。

「ヴィゴは?」

そんな部分だけでなく汚れているショーンは、シャワーカーテンを引きながら、大急ぎで身体に石鹸を擦りつけた。

「俺は、ロケ地の方なんだ。悪いが先に出ていいか?鍵をかけて出てくれ。送ってやれなくて悪い」

今晩もこの家で過ごすつもりの2人は、一緒に現場に向かう約束をしていた。

「早く行けよ。鍵だけでいいのか?他にすることは?」

ヴィゴは突然、シャワーカーテンを引いた。

石鹸の泡を流していたショーンは、驚いて動きを止めた。

「濡れるぞ」

ヴィゴはショーンの目の前で、勢い良くジーンズを下ろした。

「どうせべたついて気持ち悪いんだ。濡れたって平気さ」

まだイっていないヴィゴのペニスは、充分に硬く、重そうだった。

ショーンは、ヴィゴに向かってシャワーをかけ、首を伸ばして、キスをした。

「そう。このキスを貰わないことには、出かけることもできやしない」

舌を絡め、お互いの息を吸いあい、濡れた身体を離すと、ヴィゴは手早くタオルで身体をぬぐって、バスルームを飛び出していった。

ショーンも、後を追うように、鍵をかけ、撮影現場に向かって、車を飛ばした。

 

ヴィゴが多少遅れて現場入りし、2時間も叢を歩きつづけた後、青空は次第に雲が多くなり、雲が切れるまで、休憩となった。

テントの下に置かれた椅子にヴィゴが腰を下ろしていると、ボロミアの格好のままサングラスをかけたショーンが姿を現した。

「なんで?ショーン?」

ショーンは、口元を覆って照れたような笑いを浮かべた。

早速、その傍らに、年若い共演者たちが、纏わりついていた。

「向こうのカメラの調子が悪くて、風景の中で立っているシーンを先に撮って来いと追い出されたんだ」

ホビット達は、会えないはずだった共演者の登場に、早速遊びに誘っていた。

ショーンは、くったなく笑って、チェスに誘うホビットに頷こうとしていた。

ショーンのシーンも、背景は青空だった。

雲は太陽を覆い隠し、そう簡単には、顔を出しそうになかった。

「どっちも待ちって訳か」

「そういうことだな。まぁ、ブルースクリーンの前で一人待ってるよりは、こっちに居た方が、楽しくていいけどな」

「そうだよね。一緒に遊んで待ってようよ」

ホビットは、スクリーンに映るシーンよりもずっとボロミアに懐いていた。

ボロミアも、カメラの前のように、彼らを抱えて走るような真似は勿論しないけれども、それ以上の笑顔を連発して、ボビット達と時間をつぶすことを楽しんでいた。

ヴィゴは、片眉を吊り上げるような笑い方をして、チェスをはじめようとしたショーンを牽制した。

「散歩に行かないか?」

ショーンは、しばらく考え込むように、頷かなかった。

傍らでは、ショーン・アスティンと、イライジャが、チェスの駒を並べていた。

「酷いな王様。ショーンを独り占めする気かい?」

ドミニクが、ショーンの袖を引いた。

ドミニクの顔は、落すわけにはいかないメイクのせいで、鼻の頭が汚れていた。

「ヴィゴは、充分歩き回っただろ?もうしばらく、椅子に座って休んでなよ」

ビリーも、ひょいと顔を覗かせ、ショーンの意識を自分たちに向けようとした。

ショーンは、頬を指で押し上げるようにして何度か撫で、それから、2人にごめんな。と謝った。

仲のいいホビット達の顔はすぐさま不機嫌になった。

「ずるいな。ショーンは、いつも、ヴィゴが優先だ」

「仕方ないのさ、2人は、オヤジだからな。どうしても話があうんだよ」

毒のあることをさらりと口にして、巧いジョークにする二人に、ショーンは、苦笑して、ヴィゴに向かって歩きだした。

ヴィゴは、立ち上がり、さっきまで歩き続けていた沼地へとショーンを誘った。

 

ヴィゴの足は、どんどんとロケ現場から離れていった。

ショーンは、後に従いながら、笑いを顔に浮かべていた。

「なぁ、もしかして、俺はここで、借りを返さないといけないのか?」

ヴィゴは、振り返り、口元をきゅっと引き上げて笑った。

「今日は、勘が冴えてるじゃないか」

「まぁな。こんな草で周りが見えないようなところに連れ込まれちゃ、処女じゃない限り、大抵気付くんじゃないのか?」

ショーンは、隠しになっているポケットから携帯を取り出し、電波の状況だけ確かめると、ちょうどあった岩の上に腰を下ろした。

立っているヴィゴを促し、隣に腰を下ろすよう袖を引いた。

「こんな場所でよくやる気になるな」

ショーンは、膝の上に頬杖を付き、横目でヴィゴの汚れた顔を見た。

出かける時よりも、メイクのせいで余程汚くなっていた。

「場所も選べないほど、あんたに惚れてるんだっていうので、どうだ?」

「まぁ、ぐっとくるってほどではないけど、借りをかえさなきゃいけない気持ちくらいにはなるな」

ヴィゴは、ショーンの顔を引き寄せ、唇に指を這わせた。

「あんたがきれいな顔でよかったよ」

「ヴィゴは本当に、薄汚い顔になってるな」

笑うショーンの唇に、ヴィゴは、唇を重ねた。

「汚さないでくれよ。俺は、スライダーみたいに、汚くなるわけにはいかないんだ」

「わかってる。さっさとその気持ちのいい口をおしゃべり以外のことに使ってくれ」

ショーンは、ヴィゴに向かって、身体を丸め、スライダーの衣装紐をするすると緩めていった。

「タオルとか、持ってる?」

ヴィゴは、ショーンの唇が、先端にキスをするのを感じながら、ショーンの背を撫でた。

何枚も重ねられた衣装は、ショーンの肌の感触を伝えることはしなかった。

「ハンドタオルなら一枚」

ショーンは、唇でペニスを扱きながら、ごそごそと衣装を探り、不似合いな現代ものを取り出した。

「絶対に汚せないな」

ヴィゴは、気持ちの良さそうな顔で、ショーンの頬を撫でた。

「零さずに飲める?」

ヴィゴの指が、ショーンの唇を撫でた。

唇は、ペニスの形に窄まっていた。

皺の寄った唇の山を、ヴィゴは執拗に撫でつづけた。

「そういうこと、言うのが好きだな」

ショーンは、濡れた唇で、ヴィゴを見上げた。

ヴィゴはその顔が堪らなくて、頭を抱きこむと、息も出来ないほど唇をぴったりと合わせ、舌を引っこ抜くような勢いで、ショーンの口の中を蹂躙した。

ショーンは、ヴィゴの搾取を受け入れた。

酸欠になりそうなキスが終わる頃には、ヴィゴのペニスは、もうショーンの口からはみ出すほど大きくなっていた。

ショーンは、舌なめずりをして、もう一度、ヴィゴのペニスを口に含んだ。

熱い口内が、ペニスを包み込み、唇がヴィゴを扱いていった。

「本当に、ショーンの唇は、最高だ」

ヴィゴは、優しく金の髪を撫でつづけ、ショーンのことを褒め称えた。

ショーンは、一層熱心になった。

鼻から甘い息を漏らして、ヴィゴのことを更に煽った。

 

ショーンは、衣装を汚す事無く、巧く仕事をやり終えた。

 

「今晩は、一緒に食事が取れそうか?」

「どうかな?ここの天気があんまり回復しないようなら、なにか、別のシーンを撮ることになるかもしれないし」

ショーンは、自分の口の周りをハンドタオルで拭った。

ヴィゴは、ショーンの唾液で汚れたところを、そのタオルを借りて、きれいにした。

「先に帰って、コーヒーでも用意しておいてくれないか?」

「匂いが気になる?」

ショーンは、僅かに顔を顰めた。

ヴィゴは、衣装を直すと、ショーンを引き寄せ、口元に鼻を寄せた。

唇にチュッと小さくキスをした。

「用意しといてやるよ。ゆっくり帰ってくればいい」

「こんなところで、ゆっくりなんかしたくないね」

ショーンは、ヴィゴを睨んでさっさと行けと手を振った。

「俺の撮影が早く済んだら、飯を作って待っててやるよ。楽しみにして帰ってきな。ショーン」

ヴィゴは、草を掻き分けながら、ロケ地に向かって歩き出した。

「もう、エプロンはいいからな!」

ショーンは、岩の上に腰を下ろして、雲が覆う空を見上げた。

 

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ヴィゴとショーン。

ここのところ、花ちゃんばかり書いていたので、唐突に書きたくなってしまいました。

カールさんの話ほど、フェチ臭くない気がするんですけど、私自身、ショーンさんの部位については、まだ、拘りたい部分が、沢山残っています。

大概、病気ですね…。

できれば、お付き合いください。

皆さんの好きな部分なんかも、聞かせてもらえると、一緒に萌えられて嬉しかったりするんですけど(笑)