「ここ白くなってるよな」

ショーンは、向かい合わせに座る、ヴィゴの唇の上をなで、髭に見え隠れする古傷に触った。

ふいのことだった。

手元のコピーに視線を落していたヴィゴは、いきなり触れてきた指先に驚いた。

ショーンの指は、何気無くと、いった気楽さで、髭のある口元を撫でていた。

「だから?」

コピーから目を上げ、ヴィゴは、撫でる指先の擽ったさに、つい笑いそうになりがら、にいっと口の端を引き上げた。

「だから?」

ショーンは、ヴィゴの聞く意味がわからず、戸惑ったまま聞かれたことを繰り返した。

「だから、何だって聞いてるんだよ。ショーン」

「…別に?ただ、白くて目立つなぁって」

ショーンの指が、傷跡に沿って動いていった。

鼻に近いその部分は、触れられるとくしゃみが出そうな擽ったさだった。

ヴィゴは、思わず、顔をくしゃりとして、それから、触れ合っていただけのショーンの足を挟みこんだ。

リラックスしていたショーンの眉の間に皺が寄った。

ヴィゴの足は、構わずショーンの腿を強く挟んだ。

「おかしいな。それは。キスしたくなるほどセクシーだとか。痛いだろうから、舐めていいか。とか、そういうことを言うべきだろう?今、だったら」

「そうか?口元の皮膚ってのは、動きが多いから、傷が目立って、仕方ないなぁって、そんなこと考えてただけだよ」

ショーンは、腿を動かして、もぞもぞと動いた。

傷跡から手を離した。

「相変らず、のんきだな」

足を脱出させようとしても、埒が空かずに、椅子を後ろに引こうとするショーンを追って、ヴィゴは、自分の椅子を前に進めた。

2人の距離がゼロになった。

休日だというのに、ダイニングのテーブルには、スクリプトのコピーが、山になっていた。

「今は、真面目にお仕事の時間だろ?」

ショーンは、手に持っているコピー用紙をばさばさと振った。

「自主的にしてる仕事だ。いつでも、オフタイムに出来る」

ヴィゴは、にやりと口元を引き上げた。

「知らないぞ。そんなこと言ってて、あした、カメラの前で、青ざめることになっても」

「ブルースクリーンの前だ。青くなってても、そんなにわからないさ」

ヴィゴは、笑って、ショーンを身体ごと引き寄せた。

ショーンの体は温かかった。

「すこし、飽きたんだろ?ショーン」

ヴィゴは、ショーンの目を覗き込んでから、抱え込んだ体の腰の部分を、特に自分に引き寄せた。ショーンは、眉を寄せた顔で、ヴィゴに引き寄せられた。

「飽きたのは、あんたじゃないのか?ヴィゴ?」

ヴィゴは、ショーンの肩に顎をめり込ませてて、ぐりぐりとした。

猫が喉でたてるような軽い笑い声を上げた。

「飽きる…か。そうだな。飽きたかも。せっかくオフのショーンが、目の前にいるのに、こんなダイニングの椅子に座って額をつき合わせてなくちゃいけないのなんか、もう、いい加減、飽き飽きした」

ショーンは、コピー用紙と共に、手に持っていたボールペンで、ヴィゴの背中をパチパチと叩いた。

「さっき、昼食のために、中断したばかりだろうが」

なかなか威厳のある声だった。

スクリプトの下には、空になった食器が、隠れていた。

2人で作って食べたのは、つい、さっきだ。

その上、パン屑が残るそれが、片付けられるのも、当分、先だ。

ショーンは、喉の奥で笑った。

ヴィゴはそんなショーンに目をくるりと回した。

 

「腹が一杯で、集中できない」

堂々と言い張ったヴィゴは、ショーンの腰に回した手の指を組み合わせ、ショーンをがっちりと拘束した。ショーンは、くすくすと笑った。

「食べ過ぎるからだ。人のサンドイッチまで食べやがって」

ショーンは、自分の椅子からずり落ちるほど前のめりになっていて、ほとんどヴィゴの腿に乗り上げていた。

その姿勢のままで、ヴィゴの背中にボールペンの後ろで、いろいろな悪口を書いた。

「サーモンより、チキンがいいってショーンが言うから」

「自分のチキンを食ってない奴が、そういうこと言って、サーモンを食うんなら話はわかるんだけどな。食っちまった奴がそういうことを言うなよ」

「そうだったか?」

ヴィゴは、ショーンをぎゅっと抱き締めた。ショーンの体は、ヴィゴの腕のなかでちょうどぴったりだった。

「いいじゃないか。すこし、ダイエットしとけよ。あんたは、昼食の前に、マフィンを2個食ってただろ?」

「あれ?あれは…確かに美味かったけど…」

ショーンの語尾が曖昧に消えた。

ヴィゴはスタッフの奥方の名前を挙げ、ショーンの意見に深く頷いた。

「だけどな。体重管理という名目で、そんなことばかりしてると、腹がでるぞ?」

「人の気にしてることを…」

ショーンは、思い切り顔を顰めた。

ヴィゴは、抱き締めていた腕を離すと、ショーンが逃げようとする前に、ふっくらとした腹を撫で回した。

「ほら、あんた、トレーニングが嫌いだから、気をつけてないと、腹筋が緩むぞ?」

「今は、食ったばっかりだから、腹が膨れてるだけだ」

「そんなことばかり言って、ビールを飲んでも膨れるし、飯を食っても、膨れるしで、いつこの腹はへっ込むんだ?」

「ほっといてくれ。今は、人生において多分一番の増量中なんだ」

「運動のお手伝いをしてやろうか?」

ヴィゴは、掴んでいたコピー用紙を放り出して、ショーンの顔を引き寄せると、鼻の頭にキスをした。

とにかく、わかりやすい顔をしてにやにやと笑った。

よく、いやらしい笑い方をするなと、文句を言われる、口元が三日月のようにくるりと上を向く、目を大きく開けた顔だ。

ショーンは、唇を内側に丸め込むような苦い顔をしてしばらく顔を横に振った。

「…ヴィゴ」

「なに?ショーン」

ショーンの苦い顔が嬉しいヴィゴは、口の中に隠れてしまっている唇にチュッとキスをした。

「仕事をさぼるのが目的?それとも、俺と楽しむのが目的?」

かなりショーンも仕事に飽きていたのだろう。思ったよりも簡単に誘いにのった。

ヴィゴは、内心ほくそえんだ。

「両方。だけど、あんたと楽しむほうに、ウエイトがかかってる」

ヴィゴの微妙な言い回しに、ショーンは、今度は唇を突き出した。

「…あんたが、集中してるのを邪魔した俺が悪いな」

不機嫌そうだった。

「拗ねるなよ。ショーン。嘘に決まってるだろ?チャンスを逃さないってのが、俺の流儀なだけだよ」

ヴィゴは、小さな子供のように突き出された可愛らしい口先にチュッ、チュっと、キスを繰り返した。

「じゃぁ、どうする?どこでする?」

機嫌を直したショーンは、実に率直に聞いた。

ヴィゴは、ショーンの唇にしつこくキスを繰り返しながら、自分の寝室へ招待した。

 

寝室のドアをヴィゴが閉めようとしていた時、もう、ショーンは、自分の服に手をかけていた。

ヴィゴは、肩を竦めながら、ショーンに近付き、自分の楽しみを奪おうとするショーンの手をぎゅっと握った。

ショーンは、緑の目でヴィゴを覗き込み、すこし、首を傾げた。

止められた理由が全くわかっていない顔だった。

「ダメだね。ショーン。これは仕事とは違うんだ。もっとゆっくり楽しんでやらないと」

ヴィゴは、トレーナーを脱ぎに掛かっていたショーンの指をはがし、捲れあがっていた裾を元に戻した。

ヴィゴのたらしこむような声に、ショーンは鼻を鳴らした。

「いつもながら、まめなサービス振りだな」

「あんたが、サービスしなさ過ぎなんだよ」

ヴィゴは、その目をのぞきこみ、やたらと過剰な笑顔をみせた。

その威力に、ショーンは怯んだ。

目線を反らし、けれど、強がった口を利いた。

「することなんて、どうやったって、一緒だろ?いいじゃないか。とっとと始めようぜ?」

ショーンは、そうやって言うくせに、そのセリフを口にするために、目元を薄く赤くしていたりするのだ。

両手が、ジーンズを理由もなく撫で回している。

「そういう事言うと、どんな目にあわせてやろうかと、ファイトがわくね」

ヴィゴは、たまらなく愛しくなって、赤くなっている目尻にキスをした。

「相変らず、趣味が悪い」

ショーンは、独り言のように聞き取りにくく呟いた。

下を向いてしまっている。

ヴィゴは、口を開けば、照れ隠しに、ろくなことを言わないショーンの口を、キスで塞いだ。

ショーンは、窓のカーテンすら引かないうちに、堂々とヌードになろうとしていたくせに、本格的なキスを始めると、されるがままになった。

舌で何度も誘ってやらないと、応えてこない。

ヴィゴは、何度も誘いをかけた。

まだ、照れ屋は舌を延ばそうとしない。

ヴィゴは、唾液で濡れたショーンの唇を舐め、自分を見つめてこない瞳の中をのぞき込んだ。

 

「ショーン、俺の傷を舐めてくれる?」

ヴィゴは、さっきショーンに触られた傷跡をショーンに触れてもらうことを望んだ。

セックスよりも、もうすこしだけ、ささやかな触れ合いで、照れ屋の恋人を困らせてみたかった。

ヴィゴの要求に、ショーンは、戸惑った顔で、視線をさ迷わせた。

ヴィゴは、ショーンの顔を両手で挟んで、逃がさなかった。

視線も、ショーンから外さない。

ショーンの舌がしばらくの逡巡の後、おずおずとヴィゴに向かって伸ばされた。

「くすぐったい」

下手に遠慮してショーンが触れてくるものだから、ヴィゴは、どうしても笑いを止めることが出来なかった。舌先が、そっと唇と髭を舐めていた。

「白くなってる?目立つ?」

ヴィゴは普段、そこに傷があることなんて、殆ど忘れてしまっていた。こんな風に触れるのも久し振りだ。

ショーンは、笑うヴィゴの顔に手を伸ばし、顔を両手で挟んで舐め出した。

「目立つよ。自分じゃ、もう見慣れて何も感じなくなってるのか?」

「確かに最初は、気になったけど…そういや、この頃忘れてたな。髭もあるし」

「髭があるほうが目立つんじゃないか?口元が動くたびに、つい気になって見いってしまう」

ショーンは、次第に、自分から熱心に傷跡を舐めるようになった。

けれど、舌先の感触は相変らず擽ったかった。ヴィゴは笑いに耐えながら、恋人との触れ合いを楽しんだ。

「そんなに、キスしたかった?」

「…そんなんじゃない」

ショーンは目線をヴィゴから外した。

「じゃ、キスして欲しかったんだろ。いいんだぜ?いくらでも、要求しな。おれは、あんたに甘いって自分でも自覚があるんだ」

赤い目元の恋人が愛しくて、ヴィゴは軽口を止められなかった。

ショーンの舌が、小さな獣のように、ヴィゴの傷をペロペロと舐めていた。

痛くもなんともない傷跡だが、そうされると、癒されているような気になった。

 

舐めつづけるばかりで、しばらく、黙り込んでいたショーンが、唐突に、口火を切った。

「…じゃ、キスしてくれ」

ショーンの怒ったような顔の目元は完全に赤く染まっていた。

ヴィゴは熱くなった。

ヴィゴは、本当に何度文句を言われたかわからない、歯を見せるいやらしい笑い方をしてにいっと笑うと、ショーンの頭を引き寄せた。

 

「ショーン、すこし運動をしようか?」

「すこし?」

ヴィゴは、窓のカーテンを閉め、ショーンを誘った。

ショーンをうやうやしくベッドに横にし、服を脱すと、丸みのある体のそこかしこにキスを落した。

ショーンは、ヴィゴの腰に手を回して、背中を撫で回した。

協力的な態度だ。

ヴィゴは、にやにやと笑った。

「少しじゃ足らない?」

ショーンが眉を寄せながら、ヴィゴの顎にキスをした。キスをしながら、更に眉の間に寄せる皺を深くしていた。

「ショーンが、結構好きだから、遠慮してすこしと言ってみただけだよ」

不満そうな顔にキスすると、ショーンは、ヴィゴの髭に噛み付いた。

「俺ばっかりが好きなのか?」

「いや、俺も好きだけど…」

ヴィゴは、ニヤニヤと笑い訂正して、ショーンの額にキスをした。

「する?」

「する。こんな格好にしてから、確認するな。これでしないって言うんだったら、俺はお前のことを嫌いになる」

裸の身体同士だ。どういうことがしたいのかなんて、隠しようがない。ショーンは、照れ隠しにヴィゴを噛み付き恐い顔をして脅した。

ヴィゴは、ショーンの手が出るのを承知で、なおも、ショーンをからかった。

「恐い。お姫様だなぁ」

「誰が!」

やはり、ショーンは、ヴィゴに向かって、手を振り上げた。

ヴィゴがひょいと、頭を振って避けたので、その手は空を素通りした。

ショーンは、諦めず、今度は両手をヴィゴに伸ばした。

片手で、ヴィゴの頭を捕まえ、もう片手で、ヴィゴの頬をつねった。

皮膚が横に広がるほど、強く横に引いた。

「恐い、恐い。こんな暴力的な恋人は初めてだ」

ヴィゴは、頬を抓られ、間抜けなことに口が半開きになっていた。

なのに、まだ、ショーンは、離そうとしない。

ヴィゴは、なんとか、ショーンの罰から抜け出し、手の早い恋人に謝罪のキスをした。

「怒るなよ。ショーン。今日は、『どうやったって、一緒』なんてことはしないし、『とっとと済ます』なんてことも、しないからさ」

にやにやと笑うヴィゴのことを、ショーンは、うるさげに払いのけた。

けれども、ヴィゴは、ショーンの上に馬乗りになっているのだ。

それをショーンは許しているのだ。

ヴィゴは、とりあえず、ショーンの気持ちを解すために、とても嫌がられる愛の言葉を垂れ流しにした。

 

「ちょっと、待て!」

ショーンは、自分がとらされつつある体勢に、激しい羞恥に駆られて慌てて抵抗をした。

ヴィゴが珍しく、プレイの中に小道具を取り入れ、スカーフを持ってきたところまでは、まぁ、たまには。くらいの気持ちで受け入れた。

何をするのかと思ったら、足首を一緒にしてくくり上げ、足を開かなくしたのだったが、足を広げられたわけでもないので、そんなに恥かしさも感じず、ショーンは、ヴィゴの言うとおりにした。

騙されていた。

こんな格好にされるなんて想像もしていなかった。

柔らかいシルクのスカーフは足首をきつく縛っても、それ程痛みを感じさせなかった。

もの凄く楽しそうなヴィゴの目の色にも、そそのかされた。

しかし、両手で太腿を抱きこむようにして、そのまま手首を縛られるとなると、話が違った。

まるで、さぁどうぞと、自分から、足を持ち上げているのと変わらない格好だ。

ショーンは、恥かしさのあまり、出来上がってしまった格好のまま、ヴィゴのことを睨みつけた。

「ヴィゴ。止めろ!」

膝裏に回った手は、どう頑張っても、足首を抜くことができない。

膝を付けたままでいることが、苦しくなって、次第に足が開いていくのも、恥かしい。

「あんたって、ちょっとぼうっとしてるよな。どうなるんだろうって、じっと見てて、今になって慌てるなんて、可愛すぎるぞ?」

「可愛くなくていい。いいから、外せ。こんな格好は嫌だ」

「いいじゃないか。どこもかしこも、舐めてやれるぞ?」

「だから、そういうこと言うヴィゴが嫌だって言ってるんだ!」

「まぁ、せっかく縛ったんだし」

最初に身体を開く形に足を縛らなかったせいで、ショーンは、完全に油断していた。

ヴィゴは、そんなショーンののんきさを心の中で笑いながら、手早く仕事を進めていった。

膝裏で手首を縛った時には、すぐさま抵抗されるかと思ったが、手首を下へと引っ張るようにして足をあまり持ち上げず、出来上がった形を想像させなかったのが、成功した。

ショーンは、スカーフと、自分の腕で、足を持ち上げる形に拘束された。

肉のついた尻の部分は、丸見えだ。

この姿勢の難点は、された本人が、腕を後ろに回してしまえば、抱え込んでいる足を下ろすことができることだったが、ありがたいことにショーンは、全く気づいていなかった。

ヴィゴの視線に晒されているというのに、ショーンは、何とか足首を抜くことができないかと、恐ろしいようなセクシーポーズを連続実行中だ。

目の保養と、言うしかない。

 

「もうすこし、身体を柔らかくしおくべきだったか?」

ヴィゴは恥かしげもなく足を胸につけてもがくショーンを、にやにやと見つめた。

「これが抜けれる奴はタコだ!タコ!俺の身体が固いとかそういう問題じゃない!」

ショーンは、ひたすら怒っていた。手首を振ってみたり、足をばたばたさせたり、無駄な足掻きを続けていた。

「腹が邪魔なんじゃないのか?」

「ヴィゴ!!」

怒ったショーンは、横に転がって向かってこようとして、そうやって横を向かれると、腕が抜ける恐れがあり、ヴィゴはショーンの上に伸し掛かった。

ショーンは、鼻息を荒くして、ヴィゴを睨みつけた。

「いいじゃないか。絶対に気持ちよくしてやるぜ?」

ヴィゴは、自分の身体で、ショーンの足ごと抱きこんだ。

「最悪だ。こんなことなら、真面目にスクリプトを読んでれば良かった」

ショーンは、怒っていた。しかし、ヴィゴにどこをどうされるのかと、怯えてもいた。

ショーンの怯える原因を知るヴィゴは、わざとらしく舌を伸ばした。

べろりと伸びた舌に、ショーンの目がますます怯えた。

「舐められるの好きだろ?いつも、気持ちよさそうな声をだしてるじゃないか」

「嫌だ。こんな格好でなんて、絶対に嫌だ」

「またまた。嘘を言うなよ。俺とショーンしかいないんだぜ?して欲しいって、正直に言っても、恥かしくなんかないぜ?」

「…お前、嫌いだ。どうして、そういう恥かしいことばかり言わせようとするんだ」

「あんたが、かわいいからに決まってるだろ?」

ヴィゴは、すこしでも、ヴィゴから逃げようと尻でずり上がっていくショーンを押さえつけ、顔に覆い被さった。

「好きだよ。ショーン。俺も、あんたのことを舐めてやろう」

逃げるショーンを捕まえ、ヴィゴは、目の上にあるショーンの傷跡に舌を這わせた。

ショーンは、驚いて固く目を瞑り、それから、肩に入っていた力と一緒に息を吐き出した。

「…何をするのかと思った」

「何って、あんたが期待してくれてることも、勿論してやるよ。でも、まず、こっちが先だ。さっき舐めて貰ったお礼に、たっぷり、俺もしてやるよ」

ヴィゴは、明らかにほっとした顔の恋人ににやりと笑った。

 

ヴィゴが瞼の傷跡を舐めるのに、ショーンは、体の力を抜いた。

すぐさま恥かしいことをされるとばかり思っていたショーンは、思ってもみなかった部分に執着されて、ほっとしていた。

だが、擽ったかった。

あまりに擽ったかったので、縛られている足首を振り上げて乗り上げているヴィゴの腹を蹴った。

ヴィゴは、笑い事では済まされない威力に、息を詰まらせながら、それでも、顔には出さなかった。

そのくらいのプライドは手癖も足癖も悪い恋人を持つ以上、守っていなければならない。

「かなり酷い跡だな」

ヴィゴは、蹴られた腹を気付かれないよう撫でながら、ショーンの瞼に触れた。

「だろ?結構、お気に入りだ」

ショーンは、ヴィゴの努力に気付かず、傷跡を撫でられるのを嬉しそうに笑った。

「他所の男につけられた跡を自慢するな」

ヴィゴは、傷跡に唇で触れた。

「あの頃は、あんたのことなんて、これっぽっちも知らなかった」

ショーンは、あっけらかんとしている。

「こんな格好で、言って許されることかどうか、考えて発言した方がいいぞ?ショーン」

恐い顔で脅しながら、ヴィゴは、皮膚の割れた跡を残す瞼の上を何度も舌で辿った。

皮膚は、傷をはっきりと残していた。

「これだけの傷だと、あんたのことだから、泣いたな。ショーン」

「いや、まず、驚いた。あんまり驚いたんで、しばらく血が滴ってきても茫然と動けなかった」

ショーンは、笑っていた。

「スタジオは騒然?」

「すぐ、救急車で運ばれた。俺よりも、スタッフの方が青い顔をしていた」

俳優の顔の怪我だ。まぁ、そうだろうなと、ヴィゴは、思わず頷いた。

舌が、あまりに何度もそこを辿るので、ショーンの睫も、眉毛もすっかり濡れてしまっていた。

ショーンは、あまりにも傷に執着するヴィゴに呆れた顔をした。

「結膜炎になったらどうしてくれる?」

ショーンは、頭を押さえつけているヴィゴに向かって文句を言った。

「眼球を舐めてるわけじゃない」

ヴィゴは舐めるのを止めなかった。

「そんなとこ舐められたら、気持ち悪くて、俺は吐くぞ。絶対するなよ」

「なんで?結構、気持ちいいらしいぞ?」

「試すなよ。絶対、俺にするなよ!」

冗談でヴィゴがショーンの瞼を引き上げようとするのに、ショーンは、思い切り目を瞑って抵抗した。

ヴィゴは必死の顔を笑うだけ笑って、ショーンの傷を舐めるのを続行した。

ショーンの傷跡は、昔のフィルムに残る美しいばかりだった顔立ちに、ちょうどいいアクセントを加えていた。冷たく整った容姿に凄みを与え、彼をすこしばかり醜くした。

しかし、その醜さは、彼を貶める要素ではなかった。

どちらかといえば、もっと彼に引き寄せるチャームポイントの一つだ。

傷まで持つ恐い顔をしている癖に、本当に、嫌になるくらいショーンは明るく笑うのだ。

その落差は、ちょっとした魔法を場にいる人間にかける。

 

舐められ続ける感触に嫌になったのか、しきりにショーンが頭を振った。

金の髪が、ぱさぱさとシーツを打つ。

「本当に、結膜炎になる」

「俺をばい菌扱いしないでくれ」

ヴィゴは、まだ、傷跡に未練があったが、続きを待っているショーンのために、最後にチュッとキスして、そこから離れた。

 

ショーンは、体中に力をいれて、ヴィゴのすることをじっと見ていた。

つま先までいった唇が、次にどこを目指すのか、それを、ひたすら気にしていた。

ヴィゴの唇は、つま先までゆっくり進み、そこから、膝へと折り返した。

スタートに戻ると、今度は、太腿に反って、焦らすような速度で、進んでいった。

ショーンは、今更としかいいようのない、抵抗をまた賞懲りなくヴィゴに示した。

もう、ずっと自分で足を上げたままだったくせに、その足でヴィゴのことを蹴ったくせに、ヴィゴがショーンの膝に唇を寄せると、恥かしがって、つま先で蹴り上げた。

ヴィゴは、足首を掴んで押さえつけると、殊更ゆっくりと唇で、つま先まで辿った。

「ショーン、そんなに腰を振られては、俺も動揺しちまうんだけどな」

ヴィゴの唇が目的の場所に近づけは、近付くほど、ショーンは、腰を捩って逃げようとした。

その動きは、見せられているものには、堪らないものがあった。

ヴィゴは、殊更ゆっくりと唇を進めた。

時々、動き回って逃げようとする太腿に、罰として、キスマークを残した。

ショーンは、そのいちいちに過剰に反応した。

身体を捻るようにして、ヴィゴがどこまで進んだのかを見ようとし、更に恥かしく足を胸へとつける格好になった。

「腕、痛くない?」

丸みのある尻にキスをしながら、ヴィゴは、ショーンと目を合わせた。

ショーンは、目が合った瞬間に、顔を反らして、身体を横に倒して逃げようとした。

そんなことをされては、せっかく拘束してる足が外れてしまう。

勿論、ヴィゴはそんことをさせるようなへまはしなかった。

「もっと、足を広げてくれていいぞ?」

腰を押さえ込んで、緊張に力の入っているショーンのゴール地点にキスをした。

ショーンの体が跳ね上がった。

「…嫌だ」

「いいじゃないか。とっても、気持ちよくしてやるから」

ヴィゴは、舌先で、皺の一本一本を舐めてまわり、ますます固くなる入り口に、唇を押し当てた。

「嫌だ。嫌だ。ヴィゴ。絶対に嫌だ。こういうのは、嫌だ」

ヴィゴが舌を穴の中に押し入れようとすると、ショーンの抵抗が本気になり、足はせわしなく振り上げられ、振り下ろされた。

踵がヴィゴの背中を蹴った。

「大人しくしろよ。はじめてじゃあるまいし」

ヴィゴは、音を立てて、その部分を啜り上げてやった。

「そういう問題じゃない。こうやって縛られてるってのが問題なんだ。これを外せ。もう、嫌だ」

「はずかしいのか?ショーン」

「当たり前だろ!ヴィゴのことを嫌いになるからな!」

声が本気になっていた。

振り下ろされる足も、全く容赦なくなっていた。

「怖いなぁ」

ヴィゴは、とうとう、諦めて、ショーンのその部分から顔を離した。

唾液に濡れたその部分は、すぐさまショーンの足で隠された。

「なんで?気持ちよくない?」

「縛ってるのを外せ」

「仕方がないなぁ」

しかし、まだ、遊びを続けるつもりのヴィゴは、ただ、ショーンを横倒しにした。

この撮影のため、本当に増量中のショーンは、尻から腕を抜くのに少しばかり努力を要したが、ヴィゴの手助けで、足を抱え込む形からは解放された。

「これでダメ?」

足首と手首を拘束されたショーンは、ベッドの上で倒れたまま横になっていた。

なかなかそそるポーズだった。金の髪の間から見える緑の目が挑戦的に煌いていて、写真の一枚にも残したくなった。

「さっきよりは、マシだろ?」

「どうしても、縛ってやりたいのか?」

ショーンは、不機嫌な声だった。

「『どうやったって、一緒』じゃなくて、『とっとと済ます』なんてことのないセックスがしたいんでな」

「俺の言ったことが、ヴィゴのプライドを傷付けたってわけ?」

「べつに?ショーンに俺とのセックスに飽きて欲しくないだけだけど?」

ショーンは、縛られた不自由な格好のままもぞもぞとシーツの上で動き、うつ伏せの姿勢になった。

腕が縛られているので、必然的に尻が高く上がった格好になった。

「ショーン?」

肉感的な尻が目の前に晒されて、ヴィゴは、動揺した。

縛られた足首とのバランスを取るため、膝が開かれ、全てがヴィゴの目の前に晒されていた。

「ショーン?」

ヴィゴは動揺のあまり、ショーンの名を繰り返した。

「…しろよ。お預けばかりじゃ、あんただって俺に飽きるだろう?だから…さっさとしろ!」

ヴィゴは、思わず、ショーン顔を覗き込んだ。

ショーンは、シーツに顔を埋めてしまって、殆ど顔をみることなどできなかったが、それでも、赤くなっているのは、わかった。

太腿にだって、必要以上に力が入っている。

ヴィゴは、固くなっている背中に唇を落とし、ショーンのペニスに手を伸ばすと、あやすように優しく摩った。

「ショーン。あんたが、大好きだよ」

ショーンのペニスは、こんなめにあっていながらも、ちゃんと愛情を示してくれていた。

ヴィゴは、愛しさに、なんども背中にキスをして、嫌がるのを承知で、顔を覗き込み、瞑ってしまっている瞼の上の傷跡にもう一度、キスをした。

 

              

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あの…やってないじゃないですか…。

でも、これ以上書いてもだらだらと長くなっちゃうんで、一応ここで終わりにしたんですけど。

…蛇足なんですけどね…やってるだけのとこ。

おまけにつけてみました。

ほんとうに、それだけです。

でも、そっちが私にとって、メインなのかもしれません…(笑)

気力のある方はどうぞ。

 

 

うやってするから