撮影現場に入り、やはり、皆の輪に入る勇気のなかったカールは、少し離れたセットの影で、スタッフから渡されたコーヒーを啜っていた。

ショーンの宣言どおり、撮影現場の雰囲気は、昨日までとまるで変わりがなかった。

さっきまで、ショーンのベッドの上がっていたカールのことを、やはり、誰も攻撃しない。

皆の輪に入ろうとしないカールの行動の方がおかしな位だった。

照明機材を運んでいくスタッフも、おかしな場所で休憩しているカールのことを心配そうに見ている。

昼夜が逆転した生活を強いられる撮影で、体調を崩すエキストラも出ていた。

カールに、そういった心配があるのではないかと、さっき、スケジュール関係者が聞いてきた。

ここは、ある意味、過保護な職場だった。

初めて味わう撮影での、こんな親密な人間関係は、カールをすこし、戸惑わせる。

勿論、それに見合うだけの努力と、結果も要求される。

恐ろしい特殊メークをした一群が、カールの前を首にタオルを巻いて、だるそうに通り過ぎていく。

汗のせいで、顔に湿疹ができて辛いと零していた。

「ふう…」

カールは、明日のことを考えて、重いため息を吐き出した。

綺麗な人との一時の楽しみを味合うはずが、恐ろしい悪魔の尻尾を踏んでしまった。

確かに、恋人がいるのは、知っていて手を出した。

キスもした。フェラだってしてもらった。あそこに指を突っ込んだ。とても、気持ちがよかった。

でも、これだけで、明日、悪魔の招待に応じるのは、カールにとって、重い負担だった。

ケンカのあてつけにされた。のろけだって聞かされた。

カールのしたことといったら、ふたりがいちゃいちゃするための材料を提供したようなものだ。

誰だか知らないが、いや、知りたくないのだが、恋人同士のベッドへ間男を招待するのは、いかにも趣味が悪いといいたかった。

ショーンだって、顔色が悪くなっていた。

浮気相手と、恋人を一緒に並べてベッドに入りたくはないだろう。

それも、遊びだといえるほど、カールは人生に飽きてはいなかった。

自然に、一部から続く結束の固いキャスト仲間から遠ざかり、その中で不信な行動をとっているものがいないかを、目で探してしまう。

 

キャストが集まるテントには、今日は、珍しいことに、デイヴィットが、来ていた。

こちらで、メガホンをとっている監督に呼ばれて打ち合わせ方々、顔をだしているらしい。

その周りを、主要なキャストが囲んでいる。

セオデン王役の、バーナード・ヒルと、ヴィゴが楽しそうにくすくすと笑っていた。また、きっと面白い悪戯の計画でもしているに違いない。

楽しそうだ。

しかし、カールは、その場に戻る勇気がでなくて、なんとなく撮影現場を眺め回した。

一体何人いるのかもわからないエキストラたちが、落着かな気に手に持たされている槍を弄くっている。

うろうろ歩き回っているのもいる。

ヘッドホンを耳につけた、現代的な騎士たちが、馬の周りでくつろいでいる。

ひよっこりと現れた、金の頭を見つけても、最初、カールは、スタッフの一人かと思った。

すこし、身をかがめるようにして、スタッフの間を気軽に通り抜けていく姿は、見つけたカールが嘘だと思うほど、その場に、馴染んでいて、一部で主演クラスだったキャストだとは思いにくかった。

まぁ、しいていうなら、スタッフにしては、顔立ちが整いすぎている。

だが、あまりになんでもなくエキストラの間を歩いていくので、すれ違った緊張でがちがちの素人さん達は、彼をショーンだとは、気付かなかった。

ハリウッド映画にでる悪役としては、服装がラフすぎる。

「…カール?」

ショーンは、テントに集まるキャスト達を、しばらく眺め、そこに近付こうかどうか迷うような動きの後、セットに隠れているカールを見つけて、ほっとした顔を見せた。

「どうして?ショーン?」

カールは、ショーンの行動の意味がわからず、片目を瞑るようなすこし顔を顰めたショーンを見ながら、間の抜けた質問をした。

「どうして、カールは、こんな離れたところに?確かにちょうど良かったけど、一人だけこんなところにいるなんて、撮影現場じゃ、ちょっとあれだぞ?」

「え?だって、そんな…あんた、知っててそんな恐いことを」

「だから、誰か、カールを苛めたか?苛めないだろ?自分からチームを離れるような真似はするなよ。ここの現場は、人間関係が濃いから、外れちまうと、溶け込みにくくなるぞ?」

恐ろしい恋人がいながら、カールの誘いに乗って、カールを胃が痛くなるような招待を受けなければならない立場に追い込んだくせに、ブロンドときたら、先輩風を吹かせて、一人たたずんでいたカールに説教をした。

「…よく、そういうことを…」

カールは、近付いてくる美人の顔を思わずまじまじと見つめた。

さっきまで、一緒になって青くなっていたくせに。

その前は、カールと裸で抱き合って、真っ赤になっていたくせに。

「でも、離れたところに居てくれて、助かったよ。さすがに、俺も、あそこに入って行って、堂々とカールと内緒話をする勇気はないからな」

ショーンは、カールの隣に立つと、カールの頬を撫で、髪を乱暴にかき混ぜた。

「大丈夫か?撮影の方は、順調?」

ショーンの指が髪に絡んだ。

ほんの少し見上げてくる視線が嬉しいとカールが言ったら、ショーンは、笑うだろうか?

「撮影は、大丈夫。それより、なんで、ショーン、こんなところに?あんたの撮影には関係ないだろう?」

ショーンは、カールの髪に突っ込んでいた手を離して、俯き加減に視線をそらした。

カールにとって、ショーンの項が色っぽく見えるのは、さっきの後遺症だろうか。

「…だって、カール、お前、携帯の番号だって教えてくれてないし、明日の撮影は、勿論ばらばらだし…」

「え?なに?本当に俺に用事?」

「お前に用事だから、こんなところまで、車を出して来たんだよ。お前に連絡をつける方法がない」

「あ…あの…えっと…どんな用事?」

カールの頭の中には、都合のいいストーリーがいくつも浮かんで、けれども、恐ろしい恋人に尻尾をつかまれているはずの、ショーンにそれは、ありえないだろうと、あわてて、胸に浮かんだ淡い期待を全て踏み潰して回った。

緑の目が、じっとカールを見上げる。

ちょっと、くらりとくる酩酊感をあたえる色だ。

勝手に、薄い唇から出てくるセリフを用意したくなる。

たとえば、これからも、カールと付き合いたいとか。

カールのことが好きだとか。

「…あの…な。明日、カール来ないよな…?」

不安そうな顔をして、ショーンは、カールの肯定を待った。

目がカールの表情を隈なく伺っていた。

カールは、行くだけの勇気がなかったが、ショーンのためにも、大きく頭を縦に振った。

ショーンが口元を綻ばせる。

「…よかった。まさか来るとは思わなかったけど、ちゃんと約束したわけじゃなかったし、あいつが、強引に連れてくるんじゃないかと、もの凄く不安になったんだ」

ショーンは、キャストが集まるテントの方へとちらりと視線を送った。

そこには、次に始まるシーンのため、それぞれの方法で、リラックスしているキャスト達がいた。

新聞を読んでいる人間もいたし、テレビモニターに向かって大笑いしているエルフもいた。

「カールのことは、好きだけど、さすがにちょっと、ぞっとしないだろ?」

肩を竦めて笑うショーンは、とても、可愛らしく、カールは勇気を出して、悪魔の招待を受けるべきか、すこしばかり悩んだ。

どんな目に合わされるのかわからないが、とにかくそこに行きさえすれば、ショーンを可愛がる権利だけは与えられる。

「…カール?」

つい、自分の思いに沈みこんだカールに、ショーンがいぶかしむ声をかけた。

どのくらいのことをさせて貰えるだろうかと、目の前のブロンドの肌の感触を思い出していたカールは、ショーンの声に我に返った。

ショーンは、困ったような顔をして、カールのことを覗き込んでいる。

「大丈夫?」

長い指が、カールの髪をかき混ぜた。

熱さのあまり、すぐに鬘を外したがるカールは、メイクスタッフに渋い顔をされているが、今日は、この習慣で得をした。

 

「…カール?どうして、そんなところに?」

カールが、ショーンの指の感触にうっとりとしていると、デイヴィットが、不思議そうに声をかけてきた。

「もしかして、ショーン?」

同じ国の俳優であるデイヴィットは、割合親しく声を掛け合う仲間だが、こんなに驚いた顔を見たのは、この間のパーティーの時を含めて二回目だ。

「…親しかったの?」

デイヴィットは首をかしげるように、カールに問い掛けた。

なんとなくショーンに似た雰囲気のある顔に疑問を浮かべながら、デイヴィットは、どこまで近付いていいのだろうかというように、カールと、ショーンから、離れた位置に立ち止まった。

「やぁ、デイジー」

ショーンが、デイヴィッドの可愛らしい愛称を呼んだ。ショーンに呼びかけられて、デイヴィットは、固くなっていた表情を崩す。

セットに近付きながら、デイヴィットは、親しげな笑顔をショーンに向けた。

「どうして、今日はここへ?」

「カールにちょっと、用事があって」

ショーンも、すっかり打ち解けあった友人を迎え入れる親しさで、柔らかい微笑をデイヴィットに向けた。

2人は、同じシーンを共演している。

「どこで、そんなに親しくなったんですか?兄上には、彼は、ちょっと砕けすぎてますよ?」

デイヴィットが、くすりと笑い、ショーンも、つられるように笑った。

そうして、2人で並ぶと、兄弟役の2人は、確かにどこか、似ていた。

顔立ち…は、デイヴィットのほうが整っている。髪は、ショーンの方が、ずっとブロンドだ。

体つきは、デイヴィットのほうが、背が高く、ウエイトは、ショーンの方にある。

なのに、似ているのだ。一見、近寄り難いような、スタンダートな容姿のせいか。

「この、田舎者の騎士が、兄上に何の用事が?」

「いや、俺の方が話たいことがあって」

2人は、揃って、カールをみた。

美人の視線は、嬉しいものだが、一人の視線が冷たいせいで、カールは、ちょっと後ろへと身を引いた。

デイヴィットは、パーティーの件以来、カールに対して、とげのある視線を投げかけてきた。

ショーンの手の甲にキスをしている現場を押さえられているカールには、申し開きをする言い分すらないが、そう簡単に、ブロンドの誘惑に引っかかるなと、カールは、心の中で文句を言っていた。

いや、多分、あの場だけでなく、ショーンは、撮影中もデイヴィットに笑顔を振り撒き、そういう意識もなしに、誑し込んできていたに違いない。

一部から続くキャスト仲間に遠慮していたデイヴィットも、カールがショーンに近付くのに気付いて、出遅れた自分を取り戻す気になったのだろう。

一体どういう気なのか知らないが、ショーンは、そんなデイヴィットに惜しみない笑顔を与えている。

カールは、あまりいい気分じゃなかった。

「デイジーの用は終わったのか?」

牽制の意味もこめて、カールは冷たい目をしたストロベリーブロンドを見た。

「終わった。帰ろうかと思ってたんだが、ショーンが撮影を見ていくっていうのなら、一緒に残る」

意味合いをしっかりと受け止め、攻撃してきた策略家は、にっこりとポロシャツの兄上に笑いかけた。

「え?」

ショーンが、驚いた声を上げる。

カールと話だけつけて、撮影現場から逃げ出そうとしていたショーンは、迫力の笑顔で、笑いかける弟に、一歩後ろへ身を引いた。

「どうして?せっかくここまで来たのに、仲間の頑張ってる姿を応援していかないつもりなんですか?」

「いや…今日は、そういうつもりじゃ…」

「きっと、みんな喜びますよ?カールだって、ショーンに見ていてもらったら、馬から落ちるなんてみっともない真似はしないだろう?」

デイヴィットの冷たい目が、ちろりとカールを見た。

明らかに、示威のある行為だった。

恐ろしい恋人と、ショーンが一緒にカールのシーンを見守るなんて、カールは願い下げだった。それこそ、馬から落ちてしまう。

そんな見学はショーンだって避けたいだろう。

カールは、なんとか、うまくショーンを逃がす手がないかと、考えた。

だが、考えつく前に、その思考は無駄になった。

大きな声が、ショーンがここに居ることを暴き立てた。

「デイヴィット!…おっ?ショーン?ショーンか?どうして、そんなところに居るんだ。こっちに来いよ。皆、あっちのテントでセット待ちだ」

デイヴィットとまだ話足りなかった監督が近付いてきて、大声でショーンを呼び、テントにいたキャストが、全員、カール達の方を振り返った。

 

「ショーン!!」

結構な距離を、金髪のエルフが走り込んできた。

監督を追い越し、勢いのままショーンの背中に飛び付いて、頬に思いっきりキスをした。

「どうして?俺に会いたかった?」

オーランドは、前に倒れ込むショーンの前面にすばやく回りこむと、残る頬にもキスをして、ショーンをぎゅっと抱き締めた。

「さびしがりなんだから」

コンタクトの青い目が、ショーンの目を見つめ、そっと額を触れ合わせた。

ショーンは、笑っていた。

オーランドの差し出した頬に軽いキスを返した。

オーランドの腰を抱き締めさえした。

カールは、目の前で展開されるあまりに親密な行為に、眉の間に皺を寄せた。

自分で自覚して、指の先でそこを撫でた。

これが…このエルフが、ショーンの恋人だった場合、カールが、ここで取るべき態度は、一体どういうのが正解なのだろうか?

「どうした?こっちに来ないのか?ショーン」

お気に入りのオーランドがショーンに飛び付いているからなのか、それとも別の理由なのか、カールの頭を杖で殴ったサー・イアンが、自らショーンをお出迎えに腰を上げていた。

「ショーン?」

ヴィゴも、あの魅力的な瞳を悪戯な色に光らせて、にやにやと笑いながら、ショーンに向かって、手を広げていた。

「どうして、ショーンが、ニュージーランドの役者とばかり一緒に居るんだ?」

ジョン・リスは、ギムリの髭をなでつけながら、顔を顰めた。

主要キャストが、揃いも揃って、こんな薄暗いセットの片隅に集結だ。

その後ろには、セオデン王が、面白そうな顔をして、カールとデイヴィットを観察しながら立っていた。

ありがたいことといったら、今日の撮影には、妹君であらせられる面白がりやの、エオウィン姫が居ないことくらいだ。緊張する表情が隠せずにいる、カールにとって、あの人をからかうのが好きな美人がいないことだけが、救いだった。

恋人候補たちに、ショーンと隠れるようにセットの陰にいた現場を押さえられ、カールとしては、冷や汗が顔を伝いそうな気分だった。

意外にショーンは、とても冷静な態度で、出迎えてくれた仲間たちに笑顔のまま、ハグを返している。

「撮影の邪魔をするつもりじゃなかったんだ」

「全然、邪魔なんかじゃないよ。こんなとこにいないで、向こうへ行こう。俺のシーン、見ててくれるんでしょ?」

オーランドは、ショーンと手を繋いでいる。

それを、誰も不審に思わない。

思っているのは、カールと同じように、連れ去れて行くショーンを見送るデイヴィットくらいだろう。

ショーンは、すっかり一部のキャストに囲まれて、テントへと連れ去られようとしていた。

皆、ショーンと話をしている。

誰もが、ショーンと親しげだ。

だが、誰も、カールを特別視しなかった。そして、ショーンとの関係を匂わそうとはしなかった。

オーランドのあれも、親密すぎた印象があるが、同じ事をしている場面に出くわしたことがあった。

恐ろしすぎる。

「デイジーも、撮影見てくんだろ?」

すっかり取り残された新参者2人は、顔を見合わせて、金髪を中心に盛り上がるテントへと戻るしかなかった。

 

「ショーン?」

自分のシーンを終えてテントへ戻ったカールに向かって、ショーンが手を振った。

自分の隣を指差して、そこに座るように促す。

ショーンの周りには、今カメラに映っていないキャスト達が座を占めていて、そこに割り込んでいくのは、さすがのカールでも、すこしばかり気が引けた。

しかし、ショーンのもう片方の隣には、ちゃっかりデイヴィットが腰掛けていた。

それに、対抗心が燃え上がって、カールは誇らしい経歴をひっさげた面々の間に、足を進めた。

「いつの間にそんなに仲良く?」

カールのために、椅子を引いたヴィゴが、カールを覗き込むように顔を近づけ、にやにやと笑った。

「おかしいな。カールは、俺のファンだと言ったはずなのに」

カールは、大好きなヴィゴに、どういい訳するべきか、思わず鼻の頭に皺を寄せた。

ショーンが、笑い声で割り込む。

「ヴィゴのファンは、ここにもいるだろ?これ、こっちも、ちゃんと管理しといてくれないと、俺は今晩帰れなくなっちまう」

ショーンの背後には、オーランドがぴったりと背中を預け、こんな大人数の中だというのに、居眠りをしていた。

ショーンは、その重みを笑いながら、カールに座るよう手を広げた。

「それは、うるさいから、いらない。でも、カールは、可愛いから、ショーンにはやらない」

「えー?俺も、カールのがいい。カールの髪は、くしゃくしゃやると、すっごく気持ちいいんだぞ?」

「へぇー」

ヴィゴのつめの先に泥の詰まった大きな手が、カールの髪をかき混ぜ、ついでに、ジョン・リスが、初めてカールの髪に触れた。

「確かに、これは、いい感じだ」

ジョン・リスと、ヴィゴが頷きあう。なんと、デイヴィットまで、手を伸ばしてきた。

「始めて知った。なんだ、もっと触ってみればよかった。見かけを裏切らない、なかなかナイスな手触りだ」

「デイジー…?」

こんな態度を取る奴だったとは知らなくて、撮影所の中では親しく付き合ってきたつもりだっただけに、カールは、驚いてデイヴィットを見やった。

デイヴィットは、なんでもない顔をして、まだ、カールの髪を引っ掻き回している。

鬘を脱いで、軽くタオルで拭ってきたが、洗いたてとはいかない髪は、汗でしっとりと濡れているはずだ。

「犬の毛並みみたいだ」

デイヴィットは真顔で酷評した。

「…誉めてないだろ?お前」

カールの言葉に、俳優仲間たちは、声を立てて笑った。

その声でも、オーランドは起きない。ショーンの背中にぺったりと張り付き、すっかり眠り込んでいる。

「次のシーンだそうだぞ?どうした?とても楽しそうだな」

サー・イアンがテントに戻った。

すると、オーランドが魔法でもかけられたようにすっくりと起き上がり、まるで寝起きだとわからない顔つきで、椅子から立った。

ジョン・リスが後を追い、ヴィゴを、セットに残っているバーナード・ヒルが呼んだ。

「帰ってもいい?」

ショーンが、みんなの背中に声をかけた。

オーランドが振り返って、大きくゼスチャーで×印をした。

ショーンは、肩を竦めて笑う。

「もう少し、お邪魔していてもいいですか?サー?」

「いいとも。ショーンが居た方が、みんな張り切っていい絵が撮れる」

ショーンは、照れたような笑いを浮かべて、サー・イアンにお礼を言うと、隣に座るカールとデイヴィットに視線を寄越した。

 

カールは、ショーンを人気のないセットの中に連れ込んでいた。

屋外のセットは、ドアのついたところなんて殆どなくて、ここも辛うじてドアの形をした板が取り付けられているが、勿論、鍵などありはしない。

ショーンは、突然のカールの行動に、驚いて少し大きく目を開いていた。

ドアを閉め、密室に2人きりになっても、まだ、カールが繋いだ手を離せずにいた。

「どうした?カール?」

「…ショーン、あんたたち、極悪すぎる」

「ああ……」

ショーンは、ため息のように頷くと、強く握っていたカールの手を振り解いた。

「あんたの恋人は誰?あんた、俺のことは、必要以上に構ってくるけど、ものすごく上手く立ち回って、恋人と、そういう関係だって全然匂わせないよね」

カールは、俯くブロンドの髪を見つめた。

「俺は遊びだから、ばれても平気で、恋人は、本気だから、絶対に隠すってわけ?」

ショーンの態度は、多少事情を知るデイヴィットがみたら、眉を顰める程度にカールに対して、スキンシップが過剰だっただけだが、それ程、問題になるというものではなかった。

その上手さに、カールは、いらいらしていた。

「俺は、もう、用済みっていうわけかな?」

カールは、自虐的に決め付けた。

ショーンが顔を上げた。困った顔をしていた。

「恋人だけが恐いんじゃなかった。ショーン、あんたも恐いよ。何?あの態度。一部の撮影中、ずっとああいう態度で過ごしてたわけ?ものすごく仲のいい友達って枠から、一歩も踏み出してないね。あんたも、撮影現場じゃ、恋人の浮気相手がいても、眉一つ動かさないって態度を取れる人間なんだ」

カールは、撮影の経過ごとに苛立っていった。

ショーンは、カールに親しげな態度を取るが、二人きりで過ごした時間のように、恋人の影を全くちらつかせなかった。

その秘密を守る態度の揺るぎなさに、カールは、2人の愛情の深さを見せつけられているようで、いたたまれなさが、ますますこみ上げていった。

「ショーン、俺、明日行ってもいい?」

絶対行くつもりのなかった招待を受けるつもりになっていた。

ショーンは、眉を寄せた。不必要な怒りに燃えている遊び相手を、上手く言いくるめる方法でも考えるように、何もない左上を緑の目が見つめた。

その顔が、ますますカールを煽った。

「その前に、どうしても、あんたのこと、知っときたいんだけど」

カールは、落着かない金髪を腕の中に抱き締めた。

「ショーン、悪いんだけどさ、どうも、本気であんたに惚れちゃったみたい。この脳みそが悪いことを考えれば考えるほど、俺、あんたのことが好きになってくみたいなんだ」

カールは、ショーンの金髪にキスをし、愛しげに背中をかき抱いた。

腕の中で、ショーンが身じろぐ。

「あんたの恋人と同じベッドに上がるには、俺、ショーンのこと何も知らないだろ?せめて、俺にもショーンのいい顔を見せてよ。それからじゃないと、彼の前でショーンにキスする勇気がでないよ」

カールは、ショーンの顔を両手で挟んでキスをした。

「今日も俺のこと利用したって、気があるよね?今日のべたべたは、監視のきつい彼氏に対する当てつけだろ?それに見合うくらいの報酬は貰うよ?」

ショーンは、反論しなかった。

カールは、諦めたような顔をしたショーンの足元に蹲った。

 

ショーンのペニスは、カールの口の中に含まれていた。

固くなったペニスは、カールの喉を突いている。

「…カール」

ショーンは、洞窟に見えるよう作り変えられた岩壁にもたれかかり、大きく足を開いていた。

開いた足の間には、カールの手が入り込み、後ろの穴に指を入れ込んでいた。

ひっきりなしに、ショーンが鼻に抜けるような声を漏らしていた。

昼間、ジェルをいれたまま放置された部分は、まだ、ぬめって、カールの指を柔らかく締め付けていた。

「ショーン、やっと、あんたのこと、かわいがってる気がするよ」

ショーンの頭髪より少し色の濃い下の毛は、カールが舐め回したせいで、すっかり濡れて柔らかくなっていた。

そこに、鼻を埋めるほど、深くペニスを含んで、カールはきつく唇を締め付けた。

「…んっ」

そのまま、激しく顔を前後させれば、ショーンは、指をかんだまま、腰をゆらゆらと動かし出す。

「はしたない身体だねぇ」

カールは、吸い付く穴の中へ入れる指を増やして、後ろも激しく擦り上げた。

「…あっ」

崩れ落ちそうな腰を片手で支える。

「ねぇ、今日の昼にも思ってたんだけど、聞きたいことがあってさ。結構、プライベートなことなんだけど、聞いてもいい?」

このままペニスを吸い上げれば、間違いなくいきそうなショーンの赤く染まった顔を、カールは見上げる。

指が、内を捏ね回すように動き回り、ショーンは、涙ぐみそうな目を薄く開いて、カールのことを見下ろした。

「…なに?」

カールは、観察するように、じっとショーンを見つめており、腰の動きが止められないショーンは、恥かしくて、目が合った瞬間に瞼を閉じてしまった。

「ここのことなんだけど…」

カールは、ショーンの入り口で指を大きく開いて、襞を伸ばした。

広げた指のまま、内に入り込み、ショーンに甘い声を上げさせる。

「ここさぁ、毛がないじゃんね。もともと?それとも、恋人がそういう方針なの?」

ショーンの尻が、カールの指を強く締め付けた。赤くなっていた顔だけでなく、耳元までかぁっと、ショーンは、赤くなった。

「普通、あるでしょ?手入れしてる?それとも、されてるの?」

ショーンの穴の周りには、産毛が微かに生えているくらいで、殆ど、毛がない状態だった。

ありえないことではないが、珍しいといってもいいだろう。

前の毛も、薄いのなら、なんとなくわかるが、ショーンの場合、別段薄いわけでもない。

「…言わないと?」

ショーンは、攻撃を緩めないカールの指に、カールの頭に縋りつくようにして、身体を前に倒し、尻を突き出して、腰を振っていた。

「教えてくれない?いやらしくって、とっても、興味があるんだけど」

ショーンが何度か息を飲んだ。

カールが、じっと答えを待っていると、小さな声が返答を返した。

「……自然なんだ」

ショーンは、カールの頭を強く抱き締め、耳元に唇を寄せると、呟くように囁いた。

カールの腰を直撃するような声だった。

「自然…って。なんていやらしく生まれついてんだよ。ショーン」

カールは、ショーンの顔を起こして、薄く開いた唇にキスしながら、伸びている襞を親指に腹で撫でた。

「だって、ここまで、無毛って、ショーン、前はちゃんと生えてるのに」

ショーンの舌は、カールのエッチな質問に答えるのが嫌だとばかりに、キスを催促して、話そうとするカールに絡みついた。

「ありえない。信じられない。あんたたちのプレイの一環として、ここを綺麗にされてるのかと思った」

ショーンは、聞きたくないというように、カールの顔を挟んで、キスを繰り返した。

ポロシャツの首から除く胸元も、赤く染まってしまっている。

確かに、ここの毛も薄い。

「弄くってもらうためにあるような穴だな」

カールは、一周指の腹で、穴の縁を撫でて回り、こちらは十分な毛のなかで震えているペニスを口に含んで扱き上げた。

「…んっ、カール」

襞の内の、デリケートな粘膜を、揃えた指で突き上げる。

無毛のわっかが、カールの指を食いしばる。

太腿が震えている。

声が高い。

ペニスの先は、味のする粘液がトロトロしている。

「いいよ。いきなよ。ショーン」

ショーンは、カールの背中に覆い被さるようにして、精液を溢れさせた。

 

鍵の閉まっていない扉をノックする音があった。

ショーンは、びくりと扉に目をやった。

ノックは、とても、紳士的で、礼儀正しく、決して扉を開けて乱入しそうなそんな雰囲気ではなかった。

カールは、扉をノックされたことに動揺しない自分を、かすかに笑いながら、ショーンの服を直す手伝いをした。

「タイムアウトだってさ」

こうなるような気がしていた。

ショーンの狡猾な恋人が、カールと2人、姿を消したショーンを野放しにしておくはずがなかった。

「俺に、フェラされちゃったこと、ばれたかな?」

追い詰められすぎると、人間、開き直ってしまうものだ。

カールは、今まさに、自分がその状態にあると思っていた。

どうしたことか、ショーンの方が、ずっと、動揺した顔をしてドアの向こうを気にしていた。

「もう、いないと思うけど?」

カールの冷静な判断に、ショーンは、息を吐き出し、肩を落した。

「お仕置きされそう…なのかな?さすがに、おいたが過ぎたと、反省中?」

「……聞かないでくれ」

ショーンは、床に足を投げ出して、がっくりと肩を落した。

「俺をだしに、焼きもちを焼かせようなんてするからだよ。そういうことをもっと上手にしたかったら、どんなに俺が詰め寄っても、こんな風に許しちゃダメだね」

「…あまり駆け引きは上手くないんだ」

「そうみたいだね。意外だけど。まぁ、天然でそれだけ、人を誑し込めるんなら、必要ないか?駆け引きなんて」

カールは、俯いている項にキスを落した。

ショーンが、ぼんやりとした顔で、カールを見上げる。

「明日さ、ほんとに、行くから」

カールは、無慈悲にショーンに告げた。

「…嘘だろ?」

「ほんと。ショーンのこと好きになっちゃったからね。無駄な努力でもしてみるだけはすることにした」

「…嘘だ…」

すっかり力の抜けてしまったショーンを抱き上げ、立たせると、カールは腰を抱き締めた。

ショーンは、ぐったりとカールに凭れかかっている。

「ぽい捨て出来なくて悪いね。ショーンは、もう少し、自分の魅力を自覚した方がいい」

「嘘だ…」

扉がもう一度ノックされた。

さっきよりは、強い叩き方だった。

カールは、彼の余裕のなさに、すこし笑った。

「まだかって、言ってるよ?」

腕の中のショーンに、キスをする。

「ショーンの恋人には明日会うよ。先に出てって。今日の撮影分を無事終了させるため、まだ、顔を合わせたくないから、扉もあけてあげられないけど」

ショーンは、カールに背中を押され、とぼとぼと扉に向かった。

扉を開けて、きょろきょろと周りを見回している。

「いないの?」

「いない」

「じゃ、もう一回だけ、キスしない?」

カールは、強気で要求した。

「…カール、お前も十分恐いよ…」

ショーンは、扉からするりと脱け出して、カールの前から逃げ出した。

カールは、開き直った度胸の良さで、その後を直ぐに追った。

明日、また、抱き締めることが出来るはずのショーンの金髪が、急ぎ足でセットを脱け出そうとしていた。

 

 

END

 

            BACK

 

 

あと、1回くらいで終わりしょうか?

次って、3Pですか?(笑)

今回は、正確に部位っていうより、妄想入っちゃいましたね(笑)

リリコ様、いかがでしょう?

あまりお待たせせずに、カール君お届けできてほっとしてます。