どうしてそういう…

 

パスタが茹で上がるまでの間に、何が出来るか考えて、ショーンは、客間に座っているカールを大きな声で呼んだ。

「カール、こっちに来てくれ」

鍋はぐつぐつと煮えていた。

殆ど立ったことのない自宅のキッチンは、どこに何があるのか、ショーンにはさっぱり分からなくて困ったが、なんとか食べ物が出来上がりそうだった。

ソースは、通いで来てくれている婦人が作っておいてくれたものを使う。

温めるだけのそれは、もう、レンジの中に入れてある。

簡単なサラダでも作ろうかと思ったが、あいにく冷蔵庫のなかは、ショーンの手におえるような食材がなかった。

食後のコーヒーは、食後に用意すればいい。

自分にできることと、出来ないことを考えて、ショーンはもう一度カールの名を呼んだ。

できない無理をするよりも、もっと客を喜ばせることのできる方法をとることにしたのだ。

キッチンに小麦が湯に溶け出すいい匂いがしていた。

パスタが茹で上がるまで、もう、あまり時間が残されていない。

ショーンは、ドアの方を振り向いた。

廊下を進んでくる足音がした。

 

「なに?ショーン」

カールが、大きな体をひょいっとドアから覗かせた。

人の家のキッチンに立ち入ることに抵抗があるのか、ドアより中へ入ってこようとしない。

「カール、皿を出すのを手伝って」

ショーンは、カールに中に入るよう促した。

カールはきょろきょろと大きな目を動かして、どの皿を取ればいいのか困っていた。

その様子は、初めての家に来て、鼻を利かせている大きな犬のようだった。

この家を訪ねた誰よりも遠慮深かった。

ショーンは、笑いながら、指示を出す振りでカールに近づいた。

「遅いぞ。カール。呼ばれたら直ぐ来ないと」

ショーンは、少しだけカールを睨みつけた。

緑の目が悪戯に笑うと、カールは困ったように眉をさげた。

ショーンが、ニュージーランドの撮影でカールと出会ったときと変わらないかわいらしい表情だった。

カールは、とても男らしい顔立ちをしているのに、少年のような素直な表情をよくした。

どんなにも格好良く決められるはずなのに、こういう表情を隠さないのが、ショーンには好ましかった。

ショーンは、下からカールの柔らかな頬を挟んで、唇を重ねた。

「キスする時間がなくなるだろ?」

ショーンは、もう一度カールの唇に吸い付いた。

カールが茫然と見下ろす。

 

「…ショーン?」

カールは、驚いてしまってキスを返すことすらできなかった。

久し振りに触れたショーンの唇は、相変らず柔らかかった。

「どうした?こういうことがしたくて、こっちまで来てくれたんじゃないのか?」

「違う。…違わないけど、でも、ショーンの舞台を見たくて来たんだよ?それだけが、目的って訳じゃ」

カールは、自分の腰に腕を回してにこにこと機嫌よく笑うショーンに、困ってしまって抱き返すことも出来ずにいた。

ショーンは、もう一度、顔を寄せる。

目を閉じて、とてもリラックスした雰囲気で、カールに凭れかかる。

「パスタの湯が噴き零れないよう、カールは見ててくれよ?」

「…ちょっ、ショーン」

用件だけ言い付けると、ショーンは、好き勝手にカールの口の中へと舌を忍び込ませた。

僅かにあけられた金色の睫が、戸惑うカールを笑う。

いい付けを守って、パスタの大きな鍋から目を離せずにいるカールをからかう。

ショーンのキスにカールがいいようにされていると、湯が、吹き上がる音がした。

キスに夢中になっているショーンより早く、カールが手を伸ばして、スイッチを切った。

それでも間に合わなくて、鍋の外へと湯が吹き零れた。

ショーンが慌てたように唇を離す。

「…ちっ」

小さく舌打ちした。

肩を竦め、情けない風情だった。

「汚したって怒られるな。やっぱり欲張ったりはせず、食事だけは外で済ませてくればよかった」

ショーンは、盛大に吹き零れたパスタの湯を茫然と見ていた。

それでも腰に絡められたままのショーンの腕に、カールは、もう、どうしていいのかわからなかった。

 

ダイニングテーブルの上に、カールが鍋からあげて、ソースと絡めたパスタが用意されていた。

ショーンは、嬉しそうに笑っていた。

「ショーン、売れてない頃とか、どうしてたんだ?こんなに料理ができないなんて、一体どうやって食ってた?」

カールは、口一杯にバスタを頬ばりながら、食べるという作業だけは、上品に、そして、とても上手くこなすショーンを見て、苦笑した。

鍋の中のパスタは、食欲旺盛なカールが3人くらいいて、調度の分量だった。

多分、袋まま全部を入れたのだ。

食べきれるわけがなかった。

「どうやってって、そりゃ、まぁ、いろいろ。おかげさまで、尽くしてくれる女にことかかなかったし」

結局、客に食事の用意も、キッチンの後始末もさせたくせに、ショーンは悪びれもせず、パスタを口に運んだ。

すこし自慢気に、流し目を送った。

「だから、娘さんたちに怒られるようなお父さんが育つってわけか」

「育つって、別に、娘に育ててもらったわけじゃないぞ?」

ショーンは、快活に笑った。

そして、食事の合間にも、ショーンは、カールに向かって手を伸ばした。

テーブルに置いているカールの手に触れていく。

そして、すこし殺げた頬で柔らかく笑う。

カールは、動揺にパスタが胸に詰りそうだった。

 

舞台がショーンの体を締め上げたようだった。

カールが最後に見たときより、ショーンは頬のラインがシャープだった。

けれども、魅力的であることには変わりがない。

「ショーン、どうして、そう誘惑しようとするかな?せめて、腹くらい一杯にしてからってわけにいかない?」

時間の都合で、駅までだった迎えの車の中でも、ショーンは、ハンドルを操りながら、カールの手を握っていた。

「だって、カール、俺は、食べたらすぐ行かなくちゃいけないんだぞ?お前は、開演に間に合えばいいが、俺は、準備があるから、ここにいられるのなんか、ほんのちょっとなんだ」

ショーンは、特徴的な薄い唇を尖らせた。

「だから、俺は別にショーンの家に寄らせてもらわなくてもいいって」

カールは、別れたときよりも、強烈にカールを恋しがるショーンに面食らっていた。

まるでカールを最愛の恋人として迎えてくれているようだ。

「だけどな、カール。ここじゃなきゃ、一体どこで、カールに触るんだ?さすがに本国じゃ、俺も顔を知られてるから、外じゃうかつなことは出来ないんだ」

ショーンは、さっさと食えと、カールの皿を押しやった。

自分は半分ほど残して、もう、席を立とうとしていた。

カールの後ろに立ち、プレッシャーをかけた。

カールの肩を、ショーンのなめらかな指が撫でていく。

「…残していい?」

肩越しに、フォークの上げ下げをじっと見つめられて、カールは、後、少しをショーンに待たせることが出来なくなった。

「コーヒーが欲しいなんて言うなよ」

ショーンが、カールの椅子を引く。

「ちょっと、待って、ショーン、せめて水を飲ませて」

座っている椅子を引かれて、カールは慌てて立ちあがった。

「いいだろ?同じ物を食べてたんだ。キスしたところで、同じ味だ」

ショーンは、カールをリビングまで連れ込むと、有無を言わせずカールの上に乗り上げた。

 

「ショーン、最初に言っておかないといけないことが…」

ショーンは、トマトの匂いのするキスをカールの顔じゅうに降らせていた。

ショーンは、カールをソファーに長々と寝かせ、その上にぴったりと重なっていた。

やはり、ショーンは、すこし痩せたようだった。

カールの手に触れる部分が、この間の感触よりも、固い感じだった。

だからといって抱き心地が悪いわけではない。

舞台のせいで絞り上げられた筋肉は、適度な反発力でもって、カールの腕の中に収まっていた。

「なに?カールもここに泊めて欲しいのか?デイジーがそうしたって、聞いた?」

「いや…聞いたけど、そういう話じゃなくて」

ショーンは、カールの髪をかきあげ、鼻を突っ込むようにして耳の後ろまでキスをしていた。

さすがにここまでの歓待をカールは予想していなかった。

ショーンお得意のはにかんだような笑みを見せるくらいだと思っていた。

もしかしたら、一度は同じベッドに上がったことのあるカールに、キスくらいは許すかもしれないと思っていた。

しかし、ショーンはとても、情熱的だ。

カールの髪をかき混ぜながら、カールに話もさせない勢いで、キスを繰り返していた。

ヴィゴの、あの、魔法のようなキスに比べれば、威力は落ちるかもしれないが、カールから理性を奪っていくには十分すぎる舌使いだった。

舌が、柔らかくカールに絡みつく。

「デイジーは、泊めてやったけど、カール、お前はダメだ。お前、ホテル取ってるだろ?俺がそっちに行く。この家では、セックスはしない」

「ちょ…ショーン」

ショーンの髪が、カールの頬を擽っていた。

長い指が、カールのシャツのボタンを外し、そこを啄ばむように唇で触れていった。

カールは、もう、ショーンの頭を抱き込んで、好きなようにさせながら、唖然とした思いで、繊細なクロスの貼られた天上を見上げていた。

ショーンは、次々とカールのボタンを外していく。

「ショーン、ちょっとだけ、聞いて欲しいんだけど、…その…セックスことなんだけど、俺、ヴィゴに絶対ダメだって言われてて。もし、俺がこっちでショーンとやったら、もう二度とショーンに触らせてやらないって、宣言されちゃってて…」

ジーンズのボタンにも手をかけられて、カールは、勿体無いと思いながらも、ショーンを止めた。

どこまでが、セックスの範疇にはいる接触なのか、微妙にラインのあやしい触れ方をしていたショーンが、驚いたようにカールの胸から顔を上げた。

「…ヴィゴが?」

金色の睫が慌てたように瞬きした。

「そう、ショーンのこわ〜い恋人が」

カールが怖いの部分を強調してやると、途端に、ショーンは、カールの体を探っていた長い指をぱっと離した。

どこにもヴィゴなどいないのに、落ち着きなく辺りを見回した。

カールは、ショーンの表情が変わったことに、苦笑を漏らすしかなかった。

ラブラブの恋人の中に割り込んだのはカールだ。

「撮影中にセットの影まで呼び出されて、ヴィゴに凄い顔して笑われちゃったよ。だからね。残念だけど、今回は無しにしよう」

カールが、苦笑を漏らすと、ショーンは、カールの体の上から降りて、きちんとソファーに腰掛けた。

髪をかきあげるようにしながら、自分の膝に頭を埋めた。

じっと、思いつめたように床を眺めた。

「大丈夫?ショーン」

「あいつ…」

「なに?ショーン?」

深く反省でもしてしまったのかと、カールが心配になって、声をかけると、ショーンが、唸るような低い声を出した。

カールは、ショーンの声の低さに怪訝な気分になった。

足をソファーから下ろしたカールは、頭を抱えてしまったショーンの隣に座りなおした。

俯いてしまっているショーンの肩を抱こうかどうしようか悩んだ。

もう一度、ショーンが、低い声で唸る。

「…あいつ、ちっとも連絡も寄越さないくせに、そういうことばかり手を回しやがって…」

「え?ショーン?」

いきなり、ショーンは、強くソファーを叩いた。

座っているカールにまで振動が来た。

カールが驚いていると、ショーンは、苛立ったようにソファーから立ち上がった。

頭を掻き毟りながら、カールの前を行ったり来たりした。

立ち止まって、びしっとカールに指を突きつけた。

「カール、お前、今晩、うちに泊まれ!ヴィゴのことだから、今晩は電話してくる。その時、あいつを慌てさせてやる!」

そして、時計を見上げ、急に慌て出したショーンは、舞台がはねたら、必ず裏口で待つことを繰り返し言いつけ、先に家を飛び出して行った。

 

感動の舞台も、ショーンの宣言を聞かされたカールには、現実味が薄いものになってしまった。

舞台の上にたつ、いっぱしのシェークピア役者は、カールに何を言ったのだ?

いま、カールに客間を用意してくれているのは、本当にショーンなのか?

ショーンに拉致られるように家へと連れて来られたカールは、家人である娘たちに挨拶もそうそう急きたてられるように、部屋へと案内された。

ショーンの言い出したことなど、嘘だろうと、キャンセルもせずにいたホテルは、本当にキャンセルが必要そうだった。

ショーンは、カールにバスローブを渡してくれた。

しばらく部屋で寛いで、落ち着いたらショーンの寝室へ来るよう言ってカールを置いて出て行った。

 

カールが一時間も部屋の中で逡巡していると、ショーンが、カールを呼びに来た。

見たことのある意地の悪い顔をしていた。

どんな取り澄ました顔よりも、カールがめちゃくちゃにキスしてやりたくなる顔だ。

その顔で、カールのことを挑発した。

「どうして来ない?俺よりも、ヴィゴのほうが大切か?」

ショーンは、うっすらと赤い頬をして、一人で寝酒を楽しんでいたに違いなかった。

いや、寝酒というよりは、景気付けの一杯なのかもしれない。

意地悪くカールの意気地のなさをからかうと、ベッドに腰掛けていたカールの手を取り、すたすたと自分の寝室へと連れ出した。

カールの通された客間より、よほど雑然としたショーンの寝室は、ベッドが大きかった。

そこにカールを座らせ、膝の上にショーンは乗り上げた。

カールの太腿に、ショーンの重みが掛かった。

「カール」

ショーンは、キスを望んで唇を突き出した。

金の睫が閉じられていた。

カールは、どうしようかと眉を寄せた。

「ショーン、やばいだろう。あんた、この家ではセックスしないって言ってたし、ヴィゴにばれたらどうする気なんだ?」

カールは、精一杯自制して、ショーンの誘惑に打ち勝とうとしていた。

しかし、ショーンは、つまらなそうな顔で、カールに舌打ちした。

返事もせずに、カールのパジャマのボタンを外し始めた。

「ちょっと、ショーン、何、意地になってるんだよ。子供さんがいるんだろう?まずいだろ。やめようぜ?俺、始めちまったら、加減なんて出来ないぜ?」

「加減もなにも、そんな意気地なしじゃ、セックスそのものができないんじゃないのか?」

ショーンは、カールのまだ本気じゃないペニスに尻を擦りつけるようにした。

つりあがった目で、カールを睨んだ。

至近距離の緑は、威力が十分だった。

「カールは、いつから、ヴィゴの言いなりになったんだ?あいつが、お前のご主人様か?お前がセックスしたいのはあいつなのか?」

「ちょっと!ショーン!!」

機嫌の悪いショーンは、ベッドにカールを突き飛ばすと、パジャマを毟り取るように脱がしていった。

まるで、カールが襲われているようだった。

ショーンは、カールの腕を折り曲げて、遠慮なくパジャマの袖を抜き、ズボンのゴムに手を掛けた。

煽り立てるようにカールの身体にキスを繰り返し、緑の目を苛立たしげに光らせた。

いまだ、ショーンを脱がそうともしないカールに怒って、ショーンは、体に歯を立てていった。

噛まれる痛みがカールを襲った。

ショーンの鼻っ柱の強さに、カールの支配欲がむくむくと湧き上がっていた。

なるほど、ニュージーランドでヴィゴを困らせていたのは、こういうショーンだったのかと、カールは、おかしなことを納得した。

待ちきれないショーンは、自分から、パジャマのボタンを外し始めた。

自分の乳首を晒して、カールのと擦り合わせた。

 

ベッドの脇に置いてある机の上の電話が鳴った。

「やっぱり!」

ショーンは、舌打ちしそうな罵り声を上げると、しばらく電話を睨みつけるようにした。

「でないの?」

カールは、受話器を取らないショーンを見上げた。

カールは、ベッドの上に丸裸で押し倒されており、腰の上にショーンに乗られていた。

幸いなことに、まだ、ショーンは、パジャマのズボンを脱いでいなかった。

電話はヴィゴからに違いなかった。

この状態でセックスしていないと言い切るのは難しいかもしれないが、未遂ではある。

カールは、ショーンが受話器を取るのを待った。

「焦ればいいんだよ」

ショーンは、意地悪く唇を引き上げ笑うと、カールの身体にキスの続きを始めた。

自分の尻で、カールのペニスを刺激しながら、カールの肌を啄ばんでいく。

電話が一度切れる。

そして、再度鳴り出す。

「ショーン、鳴ってるって」

「出て欲しい?」

「…出てくれない?俺、理性が、ぎりぎりになってるから…」

カールは情けない声を出した。

カールのペニスは、固くなっていた。

ショーンの尻に自分から押し付けたくなっていた。

そこをぐっと我慢していたのだ。

ショーンは、大きく舌打ちした。

腰を浮かして、自分が下敷きにしていたカールのベニスが直立するのを確認すると、指先でぱちんと弾いた。

痛かった。

「この忠犬め!」

ショーンは、カールが体を丸め込むのを尻目に、コードレスの受話器を取った。

 

「ああ、やっぱり。うん。きっと電話してくると思ってた。…カール?ここにいるよ?ああ、そう。俺の部屋。うん。ベッドの上だよ。いいつけ?ああ、聞いた。でも、そんなの守れるはずないだろう?そう。いま、やってたとこ」

ショーンは、平気で現在の状況をヴィゴへと報告した。

受話器から聞かされたら、ちょっと泣かせてやりたくなるような憎々しげな声だった。

受話器の向こうの声は聞き取れなかった。

慌てたカールは、ショーンの肩に追いすがった。

「ちょっ、ちょっと、ショーン!」

ショーンは、カールを払い除けた。

「なに?いいだろ別に。わざわざイギリスまで俺の舞台を見に来てくれたカールを一人で寝かせるなんて真似、できるわけないだろ?そんなの当たり前じゃないか。カールとは一度寝てるんだぜ?なにがいけない?」

ショーンは、口元に笑いさえ浮かべていた。

完全にヴィゴへと喧嘩を吹っかけていた。

受話器を奪おうとするカールの手をかいくぐる。

「ええ?なに?カールと代われ?嫌だね。お前、カールに言い含めようとしてるんだろう。何だよ。ちっとも連絡してこないくせに、こんな夜にだけ、連絡して来やがって。どうせ俺が、カールのホテルについてかないよう、確認しようとしてたんだろう。姑息なんだよ。ヴィゴ。ルールは改定だ。俺は、この家でも、カールとなら、セックスする」

「ショーン!!」

カールは受話器の向こうにも聞こえるよう、大きな声でショーンの名を呼んだ。

特別扱いは、嬉しかったが、喧嘩の種はごめんだった。

非難するようなカールの声に、ショーンがじろりとカールを睨んだ。

これ以上、カールの声が向こうに聞こえないよう通話口を塞いだ。

カールは、手を突き出して、ショーンに電話を代わるよう要求した。

恋人同士の間に入り込ませてもらう以上、カールは、ヴィゴにだって嫌われるわけにはいかなかった。

「ショーン、頼むから、電話を代わってくれ。ヴィゴと、喧嘩するなよ。喧嘩して、後で嫌な思いをするのは、ショーンだぜ?」

ショーンは、顎を突き出すような冷たい顔をして、カールを見下した。

目が、完全にカールのことを馬鹿にしていた。

カールには返事をせず、電話の向こうのヴィゴと話をした。

「…ああ、そう。どうしても、代わって欲しいってわけ?俺とお前が話すのは、2週間ぶりだよな。へぇ、それでも、カールと話したい。どうぞ?カールも、お前とどうしても話がしたいってさ。…もう、いい!好きなだけお前たちでしゃべってろ。もう、俺に代わってくれなくていいからな!」

ショーンは、受話器をカールに突き出すと、シーツの中へ潜り込んだ。

頭までシーツを被って、小さく丸まった。

怒っているのが丸分かりだった。

舞台の上でも聞いた呪いの言葉を歯軋りするように吐き出していた。

カールは、恐々受話器に耳を当てた。

 

「カール、ショーンは、ご機嫌斜め?」

受話器から聞こえてくるヴィゴの声は、カールの予想よりもよほどソフトだった。

「そう。あの…ヴィゴ、いろいろショーンが言ってたけど…」

カールは、慌てて言い募ろうとした。

それを、ヴィゴは遮る。

「弁解はいい。大体、わかってるよ。悪いね。お守りさせるようなことになって。それより、これから俺のいう通りにしてくれるかな?」

ヴィゴは電話を通しても十分通用する甘い声でカールに要求した。

「え?」

「俺と電話を続けたままで、ショーンのこと可愛がってくれるか?」

「え?ヴィゴ…本当に?」

「本当に。正し、俺の指示通りにだ。できる?カール?」

「…できるけど…いいの?」

「まぁ、仕方ないな。そのままこっちに戻ったら、お前二度とショーンに口利いてもらえなくなるぞ?」

カールは、ちらりと丸まったシーツを見た。

カールに背中を向けて拒絶しているショーンは、しかし、聞き耳を立てているようだった。

もぞもぞとシーツの山が動いていた。

カールは、指示どおりその皺の中に手を突っ込んだ。

ショーンの顔を探し出し、ヴィゴの言うように頬を撫でた。

ショーンは、口を開いて、カールの指を噛んだ。

油断していたカールの指には歯形がついた。

「痛っ、ヴィゴ、ショーンに噛まれた」

「カール、大分、ショーンに舐められてるな。シーツを引っぺがして、とりあえず、ショーンを裸にしちまえよ」

「…あっ、実は、まだ、ショーン、裸じゃなくて」

カールは、ショーンの歯の形に窪んだ情けない指に息を吹きかけながらショーンの潜んでいるシーツの丸みを見つめた。

ショーンが、電話のおかしさにシーツの中から、目だけを出した。

剣のある緑の目が、カールを伺って睨みつけた。

「おやおや、随分ゆっくりだったんだな。そりゃ、ショーンの機嫌も悪くなるさ」

ヴィゴが、電話口でくすくすと笑った。

絶対にそういうわけではないと断言できたが、カールはヴィゴに逆らうのは止めておいた。

電話のこちら側だけでも、十分に手に負えなさそうな生き物がカールのことを睨んでいた。

「ショーン…すっごい怒ってるみたいなんだけど」

もう一度カールが手を伸ばしても、また、ショーンは、噛み付いてきそうだった。

「じゃ、すこしだけ、電話を代わって。ショーンをその気にさせるから」

どこから、その余裕がくるのか、ヴィゴはくすくす笑いを止めようとせず、ショーンに電話を代わるよう言った。

カールは、恐々、ショーンに電話を差し出した。

叩き落とされる覚悟をしていた。

しかし、ショーンは、もぞもぞと、片腕だけシーツから出し、電話を受け取った。

ちゃんと、受話器を耳に当てた。

ヴィゴの言葉に耳を傾けていた。

最初は、随分横柄な口を利いていたが、次第に、ショーンの目が潤んできた。

反発する言葉より、頷きが多くなった。

とろんとした目で、カールを見上げた。

もの欲しそうな顔をして、カールのペニスに目を留めた。

ショーンにたっぷりと視姦されて、カールの方がもじもじとした。

そして、ついにショーンは陥落した。

「…わかった。言うとおりにする。電話は、このまま?ああ、そうか、このままじゃ、カールがどうしていいか分からないよな。わかった。ああ、大好きだよ。ヴィゴ。あんたの愛情を疑ったことなんてない」

すっかり機嫌のよくなったショーンは、カールに背中を預けるようにして、凭れかかってきた。

面食らったカールは、ショーンを受け止めながら、両手の置き場所に困った。

片手自分を抱きしめさせ、もう片手で、受話器を受け取るようショーンが促す。

ショーンの手が、カールの足を撫でた。

首を捻じ曲げて、カールの頬にキスをした。

「ヴィゴ?どういう魔法?」

電話を受け取ってしまったカールは、正直、この魔法の掛け方を教えて欲しかった。

見事だというほかなかった。

「それは、秘密だ。それより、カール、ショーンのペニスを触ってやれよ」

やはりヴィゴは、くすくすと笑っていた。

「これ以上待たせると、また機嫌が悪くなるぞ?」

ヴィゴは、カールを急きたてた。

「あ、うん」

カールは、受話器を肩に挟んだまま、ショーンの腰を抱いて、パジャマのズボンに手を突っ込んだ。

ショーンのペニスは、興奮していた。

多分、カールにではなく、ヴィゴに向かって欲情していた。

自分から、カールのものに尻を擦りつけるショーンは、機嫌のいい鼻声を上げながら、電話口を意識していた。

上げる声が大きい。

「カール、扱いてやりながら、玉も揉んでやって。ただし、ものすごくやわらかくな。怖がるくせに、さわって欲しがるんだ。だから、気をつけて」

「うん。…ショーン、この位?ヴィゴが、絶対ソフトに触れって言ってるけど」

「…気持ちいい」

ショーンは、うっとりとした顔で目を閉じた。

ペニスの先には、汁が溢れ出していた。

「で、これからは?」

カールは、電話口のヴィゴに尋ねた。

カールは、すこしだけここにいない恋人のことしか考えていないショーンが腹立たしくなったが、あまりに気持ちの良さそうな顔をしているショーンに、ペニスを扱く手を早めた。

「じゃ、カール、ショーンの項にキスを。そこから、背中にもすこしキスしてやって」

カールが、苦労して受話器を挟んだままキスをすると、ショーンは、カールの太腿を強く掴んだ。

顔を捩ってカールの頬にキスを繰り返した。

ショーンのペニスが、くちゅ、くちゅと水音を立てた。

ショーンが、はぁっと、熱い息を吐き出した。

カールの指に、全身を預けていた。

「カールは?カールはショーンにどうされたい?」

ヴィゴは、カールに尋ねた。

ショーンの媚態に夢中になりかけていたカールの気持ちを見透かしたようなタイミングだった。

もう少し遅かったら、邪魔な受話器を放り出して、ショーンの丸い肩へと吸い付いていたかもしれなかった。

「どうされたいって、そりゃ、ショーンとやっていいってお許しがいただけるんなら、ぜひともやらせて貰いたいけど」

カールは、片手だけペニスから手を離して、受話器を握りなおした。

目を閉じていたショーンが、カールを振り返った。

電話の返答に怖いくらい真剣に聞き耳立てた。

「それは、ダメだ。口を使うくらいは許してやるよ。でも、突っ込んでみろ、お前とは一生口を利かない。ショーンにも二度と合わせない」

ヴィゴは、きっぱりとカールの要求を撥ね付けた。

聞き耳を立てているショーンがどうするかと思ったら、にやりと満足げに笑った。

カールの手の中のペニスが、一層大きくなった。

カールは、小さくため息を落した。

「どうした?不満か?」

受話器からそれを受け取ったヴィゴが、カールに問い掛けた。

「全然。それだけで、満足だよ。俺、自分が割り込んでるんだって、自覚があるからね。ヴィゴから横取りしようってつもりじゃないし、こんなに嬉しそうに笑われちゃったら、強姦なんてできないでしょ」

ヴィゴが、楽しげに笑った。

カールは、やはりため息を落した。

胸に凭れかかるショーンは、まだ、聞き耳を立てていた。

「ショーンを強姦しようなんて強気だな。俺よりずっと手が早いから、ただじゃ済まないぞ?」

ヴィゴが軽い脅しを掛けた。

「そうかな?…そうかも。ショーンも、怖い顔して睨んでる」

「じゃ、ちょっと、お前の権威を示してやれ。受話器を置いていいぞ。両手で顔を掴んでフェラさせてやれよ。頬と顎をがっちり掴むんだ。そうしたら、自然にショーンは、喉の奥まで咥え込むよ」

ヴィゴが、甘くカールを唆した。

ショーンは、もうヴィゴの言葉を承諾していた。

カールが受話器を置いて、頭を掴むと、自然にカールのペニスへと顔を近づけた。

頬と顎を掴んで大きく口を開けさせても嫌がらない。

いきなり喉の奥深くまで、カールのペニスを咥えこんだ。

ベッドに膝を付き、カールに向かって何度も頭を上下させた。

「…うっ」

散々、ショーンの尻で捏ね回されていたカールのペニスは、それだけで軽い絶頂感を味わった。

ショーンが慌てて顔を上げる。

「まだ、我慢しろ。カール」

ショーンが、カールを冷たく睨む。

「分かってるって…畜生。この性悪が!」

カールは、ショーンを押さえつけ、もう一度、ペニスを口にねじ込んだ。

脱げ掛けたショーンのパジャマのズボンをずり下げ、白い尻を剥き出しにした。

「ヴィゴ!触るくらいは許してくれよ!」

置いたままの受話器に向かって大きな声を出すと、ショーンの尻肉を掴んだ。

さすがに、ショーンも体が大きいので、楽々と、というわけにはいかなかった。

それでも、腕を伸ばして、両方の山を両手で掴んで捏ね回した。

ショーンが、調子よく、鼻声を漏らす。

完全に、電話を意識していた。

電話の向こうで、ヴィゴが何をしているのか知らないが、なにかをしているのだとしたら、十分に手助けになるだろう声を惜しげもなくショーンは漏らしつづけた。

「ああ…いい」

「…んー…もっと」

名前を呼ばないのは、最低限のショーンの礼儀なのかもしれなかった。

「…大きい…」

と、満足げなため息。

「…すごい」

と、ペニスに音を立てたキス。

カールのものを舐めながら、ショーンはうっとりと目を閉じた。

 

カールは、ゆっくりとショーンの穴に向かって指を伸ばした。

無毛のそこは、見えなくとも、指先に柔らかく触れた。

この中に気持ちのいい部分が隠されていることをカールは知っていた。

それをすれば、カールも、ショーンも気持ちよくなれた。

ただし、今、快楽を味わうのはショーンのみ、限定だ。

カールに使用する権利は与えられていない。

「あっ、カール!」

カールの指先が触ると、ショーンが、逃げるように腰を捩った。

急に現実に戻った目をしていた。

真面目な顔をしてカールの手から遠ざかろうとした。

「悪い、カール。何の準備もしてないんだ。触るんなら、ゴムを」

ゴムをといいながらも、ショーンは、声に拒否を含ませていた。

カールは、思わず笑ってしまった。

ものすごくおかしくなって、大笑いした。

あんなにも全身で誘惑してきたくせに、ショーンはカールとする気じゃなかった。

また、やられた。と、カールは、ショーンの性格の悪さに感服した。

ニュージーランドで、散々やられたくせに、また、カールはショーンにひっかかってしまった。

カールは受話器を取り上げ、ヴィゴに向かって、話し掛けた。

「お取り込み中、失礼。ヴィゴ、ショーンは、全く浮気する気じゃなかったみたいだよ。もう、あんたたち、ラブラブなんだから、勘弁して」

カールは、ショーンににやりと笑いかけた。

ショーンは、ばつの悪い顔をして、下を向いた。

受話器からは、しばらく反応がなかった。

しかし、気の重くなるような沈黙ではなかった。

そして、やっと返ってきたヴィゴの返答は、酷く掠れたセクシーな声だった。

「カール…かわいいショーンにサービスしてあげてくれるかな。カールのをさせながらでいいから、ショーンのペニスにもフェラしてあげて」

「ラジャー、じゃ、ヴィゴの代わりにショーンを可愛がってあげるとしようか」

不自然な息継ぎの合間に下されたヴィゴの指示に、カールは機嫌よく従った。

シックスナインに繋がったショーンの口元に受話器を置いた。

ショーンは、カールのペニスを舐めながら、受話器に向かって、いい声を聞かせていた。

ぐちゅぐちゅと、派手な水音を立ててカールのペニスを啜り上げた。

カールのフェラに大袈裟な声を上げた。

しかし、カールが先だけを繰り返し吸い上げると、声は本物になった。

ショーンのペニスが、ぴくぴくと限界に震えていた。

カールは、遠慮せずにショーンを追い上げていった。

金色のヘアのなかで、固く立ち上がっているペニスの先を吸い上げ、指で扱いてやる。

「あっ…あっ…」

ショーンがカールのペニスを吐き出して、しきりとシーツに頭を擦りつけた。

自分から腰を突き出して、カールにもっと、と、ねだった。

カールは、ショーンの尻を掴んで、深くショーンのペニスを咥えこんだ。

ショーンが腰を揺すり出す。

受話器から、何かを囁くヴィゴの声が聞こえた。

ショーンが、切ない鼻声で答えた。

残念ながら、カールにはヴィゴの言葉が聞き取れなかった。

ショーンは、うめくような声を出した。

「あっ…ヴィゴ、いく」

カールの口の中にショーンの精液が広がった。

最後の言葉を、カールは、聞かなかったことにした。

ショーンの息が収まるのを待って、カールは、電話の通話をオフにした。

 

 

「ショーン、悪いけどさ、これだけは面倒をみてよ」

カールは、うっとりと夢見心地なショーンの髪を撫でながら、自分のペニスを指差した。

ショーンが、びっくりしたように、顔を上げた。

カールは、悪戯に、にやりと笑った。

「頼めるかな?」

性悪は、やはりカールへと近づいた。

 

END

 

BACK

 

 

久々の刈豆藻。こういうときはどうやって、表記するのが正しいんですか?(笑)

刈豆←藻?藻豆←刈?(笑)

どれでもいいんですが、ようするに三人の話です。

今回は、モーちゃんが参加してないんで、最後まではなし。(笑)

でも、豆さんが満足されたようですので、それでいいです。

三人揃うという状態が難しいんで、この話は難しい(笑)