ちみCSINY 4〜6(ダニさん受けかなぁ……) 

 

*奢ってくれて、ありがとな。

 

店の前まで来て、急にダニーがポケットを探り出した。

「どうした?」

「ん? いや」

平気だと返事を返したが、ダニーはいつまでもポケットを探る。何度も胸ポケットを叩き、ズボンの尻ポケット、そして、左のポケットを探る。

「金を忘れたのか?」

ドンは顔を顰めた。

「いや、絶対にあるはずだ」

ダニーは言い張る。しかし、いくら探しても出てくる様子は無い。ドンは、昼食を注文し、二人分払った。

「あ、悪い。サンキュ。ドン」

「なぁ、ダニー、さっきから見てると、お前、右のポケットを一度も探してないぞ」

バーガーとコーヒーを受け取りながらダニーは、軽蔑するようにドンを眺める。コーヒーが熱かったらしく、やけどした舌を出して、顔を顰める。

「当たり前だろ。ドン。もしそこを探して金がなかったら、俺は本当に金を持ってでなかった間抜けだぞ?」

 

 

*ダニールール

 

ある朝、4時にドンの携帯電話がうるさく着信を伝えた。

夢もみず、ぐっすりと寝入っていたドンは、唸り声をあげ、不機嫌に電話を取り上げる。

「なぁ、ドン。お前が言ってた毛織物業者の証言をもう一回聞かせろ」

「……ダニー、お前、今、何時だと思ってる? 4時だ。大抵の人間はまだ寝てるんだ。お前、非常識にも程があるぞ……」

重く擦れ、眠りの深さを覗わせるドンの声にもダニーはひるまない。

「俺がお前の仕事のやり方にケチをつけたことが一度でもあるか? お前にも俺の仕事のやり方に文句つける権利なんてない」

ドンの恋人は、いつもどおり強引だ。

「ドン。寝ぼけたこと言っててないで、さっさと教えろ」

 

 

*……モウ、シマセン。

 

「ダニー、君が書いた論文と、エイデンの書いたものが、一語一句全く同じなのは一体どういうわけだ?」

ばさりとクリップ留めされた紙の束を机へと置いたマックは、部下に詰問した。

「同じ鑑識法への考察だからです」

直立不動の姿勢をとってはいるがダニーはにやにやと返事を返す。しかし、マックの視線が強くなると、部下は落ち着きをなくし始めた。ダニーは後ろに隠し持っていた新たな論文をそっとマックの机に載せる。

「嘘です。ちゃんと書いてあります。あ、……実はですね、俺たちの書いた論文がなかなか雑誌で選ばれないのは、忙しい主任が論文に目を通しもせず、ありきたりな推薦文をつけているせいじゃないかっていう噂があってですね。勿論、俺はそんなの信じてませんよ? でも、疑いは晴らすに限るじゃないですか」

小刻みに体を揺すり、何度も眼鏡のブリッジに触りながら言うダニーは、自分から今嘘をついていると打ち明けていた。マックは、部下の癖など十も二十も把握している。

何か言葉をかけて欲しそうに立っているダニーをじっと見つめただけで、マックは静かに机へと置かれた論文へと手を伸ばし、目を通し始めた。

そわそわと落ち着きの無いダニーを待たせたまま、文章へと目を通し終えたマックの手は、数度キーボードを叩く。プリンターから用紙が排出される。

マックはそれへとサインした。

「ダニー、これを一緒にして投函しておいてくれ。これがエイデンの論文への推薦状、そして、こっちがお前のだ」

うやうやしい顔で受け取ったダニーだったが、ちらちらと何度もマックへと視線を投げかけた。ダニーは、初見後、あまりにも短い間にマックが推薦状を作成したことが不審でしょうがないのだ。ダニーは我慢しきれず、その場で自分の推薦状へと目を通した。文章はダニーが疑っていたような、ありきたりな推薦文ではなかったが、その内容は全く自分の論文に即していない。

「マック! 俺の推薦状、エイデンの名前を俺に変えただけじゃないですか!」

「ダニー、私も常々、どうして私が良いと認め、推薦した部下の論文が雑誌の選考委員の目を引かないのか不思議だった。どうだろう? この疑問に解決を得るため、私が事件の合間に長い時間をかけ書き上げた推薦文に、本当に彼らが目を通しているのかどうかを、この機会に確かめてみようじゃないか」