ちみCSI NY(……ダニさん受けかなぁ?)
*朝5時の会話
朝5時半にラボに寄った刑事が見かけたCSI捜査官がよれよれの作業着を着ていれば、彼が徹夜に違いないと刑事が思ったとしても、別段洞察力に優れているというわけではない。
「何か、食うもんあるか?」
ダニーは顕微鏡の接眼部分に眼鏡を寄せたまま、顔も上げずに聞く。気付かれていないと思っていた若い刑事が一瞬返事に後れると、顔を上げたダニーの眉間には深い皺が刻まれている。
「使えねぇな、ドン! お前、この時間に差し入れもなしに顔だすなんて、どんな教育を受けてきたんだ。死ね!」
「なぁ、ダニー、お前、ちょっとは寝ろよ」ドンはダニーの行き詰まり具合を心配しながら、新たな証言を書き込んだメモをふってみせた。「お前が、少し寝たことに俺が満足したら、この話を教えてやる」
「ドン。その話を今すぐ俺に教えろ」
ダニーは手を伸ばす。
「俺は話に満足したら、たっぷりお前と寝てやるぜ?」
*田舎者だって馬鹿にしないでくれる?
昼食時がたまたま一緒になったリンジーと、ダニーはそれぞれ別のテーブルに着いた。リンジーは新しい職場で出来た親切な女友達と、おしゃべりを始める。それを小耳に挟みながら食事をしていたダニーは食べ終わるとテーブルから立ち上がり、リンジーに近づく。
「へぇ。そうなんだ。リンジー、結婚しようかと思ってた彼氏と別れて、こっちに来たんだ」
「どうせ、ガチガチにお堅い職業についてるつまんない男だろ? 貧乏な教師ってとこか?」
ダニーはニヤニヤとテーブルの会話に口を突っ込む。
そんな男と、あんたやったの?と、ダニーは訴えられても仕方のない態度だ。
リンジーは、もういい加減、この同僚の口の悪さに飽き飽きしていた。
「ええ、ダニー、彼は周りから堅い、堅いと言われてたわ。彼は銀行家なの。でも、彼、周りが言うほど、実際は全く硬くなかった。だから、私、つまんなくて別れたの」
*コーヒーだけ頂戴。
まるで結果を掴めず消耗するだけの徹夜明けには、むき出しの本能が顔をだす瞬間がある。朝7時、繊維のマッチングに疲れ果てたステラは、休憩室のソファーに座っていた。コーヒーのいい匂いがして、顔を上げれば、ドンがにこりと笑いながら、ステラに近づこうとしている。
ステラは、歩み寄るドンの均整の取れた体と甘いマスクに笑顔を返しながら、セックスがしたいと、口に出すのがはばかられることを思いついた。しかし、ドン・フラック刑事のすばらしい体は、現在体に重く圧し掛かる疲れを、心地よい疲労感に変え、満足いく眠りを与えてくれそうだ。
ドンの背後からあらわれたダニーが、ステラの顔をまじまじと見た後に、刑事からコーヒーの袋を取り上げた。
「ステラ。君は、自分の欲しいものを欲しいって言ってくれていいんだぜ?」
袋から出した二杯のコーヒーを、両方刑事に持たせ、くんくんと嗅ぎまわると、自分の一杯を見分けて、ダニーは満足そうに飲み始める。
「ちなみに俺は、ドンの貸出料500ドル欲しいけどね」