ちみCSI NY(ドンちゃん受方向)
*学歴の差?
被害者の自宅の捜索をもう一度マックに命じられたダニーは、検査着のまま、まだ証拠品を薬液につけていた。
訪問には刑事の同行の必要があり、連絡を受け、駆けつけたというのにコートを片手に物々しい実験セットの前で待たされているドンは手持ち無沙汰だ。
「ドン、触るな。汚染する気か?」
「……だったら、早くしろ。こっちだって、暇なわけじゃない」
確かに現在一番ホットな殺人事件の担当をする刑事が暇だということはないだろう。だが、ラボ内にいる時の、みるからに場違いだと落ちつかないドンの態度はダニーをにやつかせる。手袋を嵌めたダニーの手は、実にゆっくりと動いている。
「ドン、HNO3ってのが、何の化合物かわかる?」
「はっ? それが、今何かに必要なことなのか?」
「さぁ?……それも含めて、答えたら教えてやる。ほら」
ドンの目が何かを、多分、答えを求めてラボの中をさまよう。ダニーはビーカーの中の証拠品をガラス棒でかき混ぜながら、下を向いて舌を出している。
「ドン。お前が答えないと、出かけるのが遅くなる」
ダニーはドンを急きたてる。しかし、ドンはラボの人間どころか、学校で科学を学んだ時間すら遠い。
「いや……、ダニー、舌の先まででかかってるんだが」
「早く、吐き出した方がいいぜ。ドン」さぁ、終わった。出かけようと眼鏡を押し上げたダニーはにやにやと笑う。「硝酸だからな」
*お前はただの酔っ払いだ!
「なぁ、酔ったお前のどうしても今すぐ、セックスしたいっていう言い分聞き入れ、しかも入れさせろとかほざいてるアホのために俺がプライドを投げ出して、きっと、痛い思いまでして、それで、俺にお前は何をくれるっていうんだ?」
俺のメリットは?と、ドンは、酔いにごった目を無駄にキラキラさせて、陽気ににこにこと笑っているダニーを睨んだ。
ダニーは少し真面目な顔になると考え込んだ。ドンの頭には、過去がフラッシュバックする。……ああ、そういえば俺は、こういうシュチエーションを経験したことがある。……友人のつもりだった彼女に告白されて、泥沼になった。
ダニーは伏せていた顔を上げた。めずらしく口が重い。顔が真剣だ。「もう、いい、言わなくていい!」
「……ドンは何が欲しいわけ?……領収書?」
*やっぱ、お前は信じられない。
ドンは、しつこくセックスさせろ、入れさせろと煩いダニーに言った。
「なぁ、もし俺がお前に入れられるなんて絶対に嫌だと拒否したら、お前本気で自殺するって言ってるのか?」
今だって、バスケコートの側にあるベンチだ。健康的な休日の昼間に刑事とSCI捜査官がする話題として、これはどうなのか?
「俺は、昔からそういう主義だ」
*「マック、それは、俺を信じてるって言ってくれてるんですか?」
事件にドンが巻き込まれた。
現役の刑事に殺人の容疑がかかり、マックの率いるCSIチームにも緊張が走る。
現場に急行したマックとダニーに、懸命な目をしたドンが死体の側から離れ、まるで肩からぶつかるような勢いで近づいた。
「マック、信じてくれ。俺は無関係なんだ。なんだったら、今すぐ身体検査でもなんでもしてくれ」
ダニーの足が一歩前に出る。マックが視線でダニーを封じる。
「ドン、ダニー、お遊びは後だ」
*……それは違う!
ある男が病死した妻を陵辱したという罪で逮捕された。
しかし、彼は無罪となった。
「すみません。刑事さん。本当に、俺、妻が死んだなんて気付きもしなかったんです。妻はもう二十年も前から、ずっとあんな風だったんです」
事件を終え、ダニーはドンの肩をしみじみと叩いた。
「俺が、上手くてよかったな。ドン」