カボチャ
「アレック!やっぱりここか!」
ヴィゴは、大袈裟な態度で手を広げた。
「何?Q。いま、アレックは忙しいの。Qと遊んでる暇なんてどこにもないってわからない?」
オーランドが、ヴィゴを牽制した。
ここは、Mの秘書室だった。
確かに、ここにアレックが呼ばれたのであれば、遊んでいるような暇はなかった。
だが、それは、Mに呼ばれた時だ。
今のアレックは、オーランドの机に寄りかかり、ハロウィン仕様のカボチャがついたボールペンにお話をされていた。
表情はすこしつまらなさそうだ。
ボールペンはオーランドのもので、それが、アレックの頬のすぐ側で、かわいらしく左右に揺れて動いていた。
「トリック オア トリート」というあの呪文が終わったら、アレックは、お菓子の代わりに、オーランドの頬にキスを贈ることになっていた。
これは、毎年のハロウィン恒例行事だ。
アレックのいる位置など、MI6の建物内であれば、どこにいようとも発見できるだけの目を仕掛けてあるヴィゴは、まさに、このタイミングを狙って現れたに違いなかった。
ヴィゴは、白衣のポケットに手を突っ込み、にやりと笑った。
目元と、口元に浮かぶのは、魅力的な皺だ。
「オーリ。その年で、マンネリとは、頭に休息を与え過ぎじゃないか?」
「失礼だな。Q。ハッピー・ハロウィンって書いたパラシュートでMI6の屋上狙って降下してくるようなスパイとその仲間よりは、ずっと心温まって、さりげない気遣い溢れるやり方だと思うけど」
オーランドはMI6一の頭脳を馬鹿にした目で見た。
ヴィゴは、態度の悪い政府高官にモテモテの受付をまるで気にせず、アレックに向き直った。
「ああ、そうだ。アレック。1度、聞いてみたかったんだ。どうして、去年のハロウィンはあんなに怒ってたんだ?パラシュートの色が気に入らなかったのか?それとも、パラシュートが開く力を利用して、降らせたキャンディーが子供っぽかった?」
去年のハロウィン、アレックは、とびきり風の強い屋上へと呼び出しを受けた。
それは正式な命令書の形を取ったもので、アレック付きの秘書が、アレックの机の上に置いたものだった。
あまりいい予感のないまま、アレックが屋上ヘリポートに向かうと、空から、いかれたスパイが口元に甘い笑いを浮かべながら、パラシュートで降りてきた。
真っ黒のパラシュートに書かれた文字は蛍光ピンクだ。
アレックは、ほんの僅かに眉を吊り上げた。
「キャンディーのいくつかが、俺の頭に当たった」
「そりゃ、悪かった。でも、ジェームズが言うように、バラの花を降らせるってのは、あまりにありきたりで、面白くなさそうだろう?」
アレックの控えめな発言は、まるでヴィゴの自信を傷付けないようだった。
「MI6の駐車場において、いくつかの交通事故が起こったことと、駐車してあった車のフロントガラスが割れたことについては、コメントした方がいいか?」
アレックは、オーランドの机に寄りかかったまま、面倒臭そうに口を開いた。
ヴィゴは、去年の大事件のことなど気にせず、アレックに近づきながら口を開いた。
「まぁ、ちょっとした不手際だな。でも、そっちは、ジェームズが処理したはずだ。あいつが、あの仕掛けを作ってくれって言い出したんだ。さすがに今年は、Mにきつく灸を据えられたみたいで、何も作ってくれと言いに来てないが」
空から降ってきたキャンディのせいで、駐車場で起きた事件は、一時、テロかとMI6を揺るがす大騒ぎになった。
アレックは、何度か頷いた。
「そりゃぁ、いい。去年のジェームズの仕掛けは、最低だった。吸血鬼の扮装など、似合い過ぎてなんの面白みもない格好をしやがって、今年もまた、あの格好で何かする気だったら、あんたの所に暗殺用の道具でも借りに行こうかと思ってたんだ」
アレックの車は、被害を受けなかった。
アレックの中でも、あれはジェームズが仕掛けたにしては、面白くなかったという分類で仕舞われているだけの出来事にすぎない。
ヴィゴは、アレックの隣りに並んで、すこし小首を傾げると、にこりと、歯を見せて笑った。
「今年は、俺、単独のイベントが用意してあるんだが、地下の研究室まで、ご一緒してもらえるかな?アレック」
オーランドが、強くアレックの腕を引いた。
アレックは、振り向き様に、オーランドの頬へ軽いキスをした。
「ハッピー・ハロウィン。オーリ。でも、Qの言うとおり、さすがにそのボールペンは飽きた。来年は新しい企画を立ててくれ」
オーランドは、唇を尖らせたが、アレックは一度も振り返らずに、ヴィゴと一緒に歩き出した。
「思ったより、簡単に付いてきてくれたな」
「なんでだ?」
「いや、毎年、あんた達のやり取りをカメラで見せてもらってるけどね、あのボールペンひとつで、いちゃいちゃ、いちゃいちゃ、去年失敗したのは、パラシュートにカボチャの絵を書かなかったせいかと思っていた」
ヴィゴは、エレベーターのボタンを押しながら、アレックににやりと笑った。
アレックは、にこりとも笑わない。
「オーリの趣味は割合好きだ」
「安っぽいのが好きなんだな。あんなボールペン一本で、あいつ、何回アレックにキスして貰ったんだ?それともあのボールペン、本当にアレックに悪戯したりするのに使うのか?だから、あんなにも2人とも嬉しそうな顔して…」
ヴィゴは白衣から、ボールペンを取り出し、カチカチと何度かノックした。
小型の爆弾が仕込まれたボールペンだ。
アレックも使用したことがあった。
形は小さいが、その威力はなかなかのもので、ここで爆発したら、エレベーターごと2人は吹っ飛んだ。
アレックの目が、無意識に数をカウントした。
「Q、世の中全員が、あんたみたいに特殊な趣味人ばかりだと思うのは止した方がいいぞ。オーリは、割合まともなセックスをする」
「それで、満足できてる?」
下世話な内容を、とても嬉しそうな表情で尋ねるヴィゴは、また、一つ、ボールペンをノックした。
起爆スイッチが入った。
ヴィゴは、そのままポールペンをくるくると回し、遊んでいる。
「Q」
アレックが、低く叱責した。
ヴィゴの目は、悪戯に笑うばかりだ。
「Q。そういう誘いの方法は嫌いだ」
アレックは、ヴィゴからボールペンを奪い、起爆スイッチの解除をするタイミングを計っていた。
自然体を装っているが、目が獰猛な光を宿した。
「知ってるともアレック。これは、ただのボールペンでしかない」
ヴィゴは、素早くボールペンを分解し、アレックの目に自分の無実を証明した。
気が短いのが、アレックの欠点だ。
精密で繊細な顔立ちとは裏腹に、アレックは、どんな現場に潜入しても、疑わしいものは、根こそぎ破壊した。
オール・オア・ナッシング。
考えるより前に、動くアレックが後にした現場は、爆破で跡形もないというのが、定番だ。
ただでさえ少ないアレックの表情が、冷たく凍った。
「Q、何が楽しいんだ?」
「アレックのそんな顔が見られることに決まってるだろう?」
アレックは、丸腰のヴィゴを相手に、ホルスターの銃をちらつかせながら、こんな時ばかりやさしい顔をして笑った。
「やぁ、アレック。君もQに招待されたのかい?」
ごちゃごちゃと物騒な発明品の並ぶ、地下の研究室では、ダブルオーが、足を組んでコーヒーを飲んでいた。
Qの後に続いて研究室のドアをくぐったアレックは、視線さえもジェームズに向けなかった。
「アレック。スイート・ハニー。どうしたんだい?ご機嫌斜めか?」
ジェームズは、長い足を伸ばし、アレックの進路を邪魔した。
アレックは、特別気に留めた風もなく、ジェームズの足を跨ぎ、それから隣りへと腰を下ろした。
そこに、ソファーがあったからだ。
ジェームズは、すかさず、Qの助手に言いつけ、コーヒーを用意した。
「ジェームズ。今年は、牙を生やさないのか?」
コーヒーが届けられ、やっと、アレックが、ジェームズに口を利いた。
ジェームズは、どんな美女だろうが、腰砕けになるだろう笑顔でアレックの目を見つめた。
「血を啜らせてくれるはずの美人が、反対に牙をむいて、銃弾を発射したからね」
「死ねば、本物の吸血鬼になれたかもしれなかったのに」
ジェームズの笑顔は、目の前の美人には何の効力も示さなかった。
アレックの目は、今まで無かったはずのドアに消えるヴィゴの背中を追っている。
「そんなに、去年の扮装はまずかったか?」
「面白くなかった」
アレックはにべもない。
だが、緑の宝石は、ジェームズの姿を冷たく反射した。
「…じゃぁ、どんなのが良かったんだい?アレック」
ジェームズ・ボンドの美点の一つは、美人に対して、決して感情を荒立てないということだ。
あくまで、穏やかに、しかし、隙なく追い詰めていく。
「…さぁ?でも、Qと組むのなら、せめて箒で空くらい飛べ」
アレックは、ジェームズの企画に期待していたような発言をした。
ジェームズは口元に甘やかすような笑いを浮かべた。
「箒で空ねぇ。魔女ルックでか?」
ジェームズは、腕の上に肘をついたポーズで、僅かに小首を傾げた。
指先が、唇を触っている。
「似合うかな?」
「鏡に結論でも出してもらえ」
「アレックさえ、似合うと言ってくれるのなら、どんな格好だってするのに」
「じゃぁ、やめておけ。人間、分をわきまえた方がいい」
アレックは、コーヒーを飲みながら、冷たく言い捨てた。
ジェームズは、その横顔を見つめながら、優しく囁いた。
「スイート。きっと君は似合うよ」
もし、この声で囁かれたら、MI6に務める大抵の女性は、すぐさま魔女ルックで通勤を始めるだろう。
「ああ、そういう奴は、山ほどいるだろうさ」
ヴィゴが、用意ができたと二人を呼びに現れた。
「アレック。君のために、この一年研究してみた」
ヴィゴは、誇らしげに笑いながら、白い布がかけられた大きな物体をアレックに紹介した。
ダブルオー2人が通された部屋は、この間まで、無かったはずの空間で、多分、このために、どこかの倉庫が潰されたことは間違いなかった。
物体は、戦車ほどの大きさがあった。
2パーツにでも分かれているのか、布が酷く落ち込んでいる部分があった。
そして、なんとなく、甘い匂いがした。
「これは、なんだい?Q」
ジェームズは、鼻をうごめかしながら、Qに聞いた。
どこかで嗅いだことのある匂いなのだが、匂いがかすかなため、わかりにくい。
「なんだと思う?なかなか、素敵なものなんだが」
ヴィゴは、ジェームズの質問には答えず、アレックににこりと笑いかけた。
アレックは、すたすたと物体に近づき、白い布をさっと捲った。
ジェームズの知る限り、アレックが焦らされるのを我慢できるのはベッドの上だけだ。
「…相変らず、短気で…」
苦笑するダブルオーを気にせず、アレックは、全ての白布を捲ってしまった。
布の下から現れたのは、巨大なかぼちゃだ。
ご丁寧に、ハロウィン仕様のあの顔に刻んであった。
そして、底の部分には車がついている。
別パーツは、木馬だった。
つまり、メリーゴーランドにでも使っているようなメルヘンなデザインの馬が、カボチャの馬車を引いていた。
まるでおとぎ話だ。
あまい匂いの根源は、このカボチャだった。
このカボチャは、本物なのだ。
「予算の関係で、動力部分もカボチャの方に仕掛けることになってしまってね。馬は、ただの飾りなんだ。でも、足は動くように作ってあるから、ちゃんと馬車を引いているようにみえるんだよ」
Qは、時速120キロまで出ると、おとぎ話に出てくるようなカボチャの馬車の機能を説明し始めた。
5変速ギアで、ターボエンジンまで搭載してあると、自慢気な様子だ。
ジェームズは、さすがに、Qへと呆れた目を向けた。
「Q。つまらないことを聞くが、去年、あの失敗の後に購入していた家庭菜園の本が、これになったのか?」
ヴィゴが頷く。
「Q。オーリばかりが勝利するのは、カボチャのせいだって、去年ぶつぶつ言いいながら、あんた確か、初心者向けの家庭菜園の本を買っていたよな」
「生物兵器開発という名目で研究開発の申請をしてみた。その手始めが、バイオカボチャだ。倍体を作るくらいは、簡単なものだからね。でも、さすがに、初めてだったから、最初は、促成栽培も失敗続きで、何度か実験皿の種を腐らせてしまったよ」
「Q。中は、プラスティックコーティング?」
アレックは、もう、馬車のドアを開けていた。
中は、カボチャの中身をくりぬいたままのまっ黄色だった。
「そう。内装も本当は凝りたかったんだが、実は、これを作っていることがばれて、あちこちから、注文が入ってね。そのどれもが、本物のカボチャをくりぬいたままの形で作ってくれってものだったんだ。内緒だけどね。女王陛下もご注文されている。だから、中は、身をくりぬいた上に、プラスティックコーティングを施した」
「女性はいつまでも、少女だからね」
ジェームズが、口元に笑いをのせた。
アレックは、しばらく馬車の中を覗いていたが、乱暴に扉を閉めた。
「で?これが、何だって?」
アレックは、大きく口を開いたカボチャの隣りで、冷たい目をしてヴィゴを見つめた。
なかなかシュールな眺めだ。
「アレック。この馬車でデートでもどうだい?ハロウィンの夜にはぴったりの演出だろう?」
「Q。馬車に、今から、ミサイルを搭載できるか?」
「なんでだ?」
「Qの家についたら、発射ボタンを押してやる。なぁ、それから、この一台だけ、特別仕様なのか?なかの配線。どうにも憶えのあるやり方なんだが、やった奴をここに呼べ」
「アレック。相変らず、冷たい…」
ヴィゴは、苛付いたアレックの目の色に、インターフォンで、助手の名を呼んだ。
ドアが開き、カボチャ頭が顔を出す。
助手は、馬車を上手く、くりぬくため練習でもしたらしいカボチャを頭に被っていた。
自分の頭が大きくなっていることを計算していなかったのか、開けたドアに頭をぶつけ、なかなか中に入れずにいた。
「…余程、死にたいんだな」
アレックは、目を細め、とても低い声を出した。
白衣のカボチャ、ヴィゴの助手に銃の照準を合わせた。
躊躇いもなく安全装置は解除される。
「俺の部屋の配線を弄ったの、お前だろう?」
アレックは、引き金に引く指に力を入れた。
「マイ・スイート。さすがに、この程度での発砲は始末書を書くことになるから、やめるんだ」
「アレック。ここでは、やめて欲しい。向こうの実験場ならいいんだが、ここは、総務課の配置上、いまだ資料室の倉庫なんだ。ここでは、実験中の事故ってのが起きるはずもないから、ちょっと困る」
ジェームズと、ヴィゴは、口々にアレックを止めた。
助手も、大きなカボチャの頭を振って、ジェームズや、Qの言葉に同意した。
銃弾が響いた。
アレックは、部屋の隅に積み上げてあった、カボチャランタンを、いくつか銃の的にした。
部屋の中には、カボチャの甘い匂いが充満した。
吹っ飛んだカボチャの破片を受け止めながら、ジェームズは、ご立腹の美人に困ったような顔で笑いかけた。
口を開きかけたが、アレックの銃が、ジェームズを狙ったため、大人しく口を閉じた。
ジェームズは、代わりにQに向かって口を利いた。
「Q。あんた、こういう企画に対して、あまり才能がないな」
ヴィゴは、自分の計算違いにおかしいな。という照れたような表情をした。
「アレック。カボチャを馬車にしたのが、お気に召さなかった?」
Qは、残ったカボチャランタンを一つ手に取って、アレックに渡した。
アレックは、どういうわけか、そのランタンは受け取った。
扉の前で茫然と立っているカボチャ男を蹴り飛ばし退かせると、秘密の実験室から出て行ってしまう。
ジェームズがにやりとヴィゴに笑った。
「今晩のデートは、俺の方が有利になったようだな」
ジェームズは、白衣のポケットに手を突っ込んで肩を竦めるヴィゴにウインクを一つすると、アレックの後を追った。
アレックが、本来のQの研究室へ戻ると、そこには、資料室にいるはずのディヴィッドが立っていた。
ディヴィッドは、カボチャランタンを脇に抱えたアレックに、おや?っと、いう目を向けた。
「こんにちは。アレック。残念ですが、お菓子の持ち合わせはないんですよ」
ディヴィッドは、長い指を開き、アレックに何もないことを示した。
アレックは、立ち止まり、ディヴィッドの耳元で囁いた。
「ディヴィッド、お前、今晩、暇か?」
「ええ、まぁ」
ディヴィッドはすこし驚いた顔で、アレックを見た。
「ですが、すでに後ろで、順番の優先権を主張していらっしゃる方がいらっしゃるようなんですが」
ディヴィッドの言葉に、ジェームズ・ボンドが、アレックの後ろで当然という顔をして頷いた。
アレックは振り返りもせず、ディヴィッドに話し掛けた。
「アニバーサリーに、奴と一緒に過ごすのは、嫌いなんだ」
ジェームズは心外なと、小さく肩を竦めた。
余程エスコートに自信があるのだろう。
ディヴィッドは遠慮もなくアレックの誘いに同意した。
「そういうわけでしたら、私の方は、全く構いません」
「それじゃ、終わり次第迎えに行く。カボチャの馬車は、廃棄処分に決まった。すぐ資料室の倉庫は復活するぞ。お前、あの馬車の売掛金何パーセントであの場所を貸す取引した?」
「35パーセントです」
「じゃぁ、今晩は、お前のおごりだ」
アレックは、ディヴィッドの肩をぽんっとたたくと、実験室から出て行った。
ジェームズは、冷たい恋人の背中に視線を送りつづけた。
ディヴィッドが、声をかける。
「どうも、去年のハロウィンが最悪の印象だったみたいですね。ミスター・ジェームズ」
「ああ、どうやら、そうみたいだ。女の子達には、とても受けがよかったんだがね」
「アレック、ハロウィン自体は、好きなんですよね?」
「そうらしいね。カボチャランタンを、持って帰るくらいだから」
ヴィゴが、実験室へと戻ってきた。
後ろには、未だカボチャを被ったままの助手が付いている。
ジェームズが提案した。
「Q。カボチャの馬車は、Mにでも差し上げたらどうだい?」
ジェームズは、苦笑しながらQに言った。
アレックがいらないという以上、例え女王陛下からも注文が入ったものと同じであっても、あれは、もうリサイクルするしか仕方のない代物になっていた。
「残念。あれは、アレック特別仕様なんだ。女性じゃ、頬を染めたくなるようないろいろなオプションが付けてあるから、ちょっとMには、差し上げられない」
アレックの勘に障った助手の仕事の結果だろう。
ヴィゴは、口元に色気のある笑いを浮かべた。
ディヴィッドは、尊敬する頭脳をたしなめた。
「Q。アレックに撃ち殺されたいというあなたの意思は自由ですが、倉庫を元の状態に戻してからにしてください」「ディヴィッド、お前、アレックにデートに誘われてたな。お前の家にカメラを仕掛けてもいいか?」
ヴィゴは、ポケットから、爪の先ほども無い監視カメラを取り出し、強請る目付きでディヴィッドを見た。
「ダメに決まっているでしょう」
「じゃぁ、ジェームズ。お前、今から、仕掛けに行かないか?」
いつもなら、にやりと笑って受け取るくらいのことはしてみせるジェームズが、小さなため息をついた。
「どうして、俺のやり方が、アレックのお気に召さないのか、教えてくれたら、アレック以外には絶対に取り外せない場所にカメラを仕掛けてきてやるとも」
ディヴィッドは、去年のハロウィンにジェームズがした吸血鬼の写真を、資料として保管していた。
ファイル名は、1030不祥事だ。
写真のジェームズは、俳優張りに決まっていた。
だが、ハロウィンという行事を意識してだろう。
大袈裟な吸血鬼メイクが、どこか笑いを誘おうとしていた。
アレックは、ジェームズが自然体で行う大袈裟な愛情に満ちた言葉と行為に笑い(好感)を感じているのだ。
アレック人格の擬似プログラムまで作り上げているディヴィッドは、アレックの機嫌を損ねた原因を、的確に言い当てることが出来た。
が、勿論、口にしなかった。
END
BACK
ハロウィン企画v
カボチャの発芽を見守るために、何度か徹夜で泊り込んだQの残業代が、支払われたのかどうかが気になるところ(笑)