方法論
オーランドは、アレックの部屋の前に立った。
ドアの鍵を開け、中へと入る。
鍵を、自分のポケットに仕舞う。
内鍵をかける。
そのまま、中へと進む。
大きく取られた窓のある部屋の中では、アレック・トレヴィエルヤンがベッドの上で身を起していた。
ベッドまでは日が差し込んでいない。
金髪は、柔らかな色をしていた。
ちょっと昼寝というくらいの気持ちだったのか、アレックの白いシャツが、くしゃくしゃになっていた。
「…本当に、来たのか」
アレックは、大きなあくびをした。
オーランドは、ずかずかと部屋の中へと進み、開いたままだったカーテンを緩く引いた。
「だって、行くって言っといたでしょ」
振り返ったオーランドに、アレックは、また、あくびをして、ぱたりと枕の上に頭を落とした。
「歓待しないぞ」
「わかってる。いいよ。寝てて」
オーランドは、手近にあったテーブルの上に、荷物を置き、アレックの横になっているベッドに近づいた。
珍しく乱れているアレックの髪を撫でた。
柔らかな手触りを楽しみながら、何度も髪を梳く。
アレックは目を閉じた。
青い血管が、瞼に見える。
「眠い?」
「起したくせに…」
「別に、起きなくても、いいじゃん。どうせ、俺だって思ってたでしょ」
この部屋には、不法に出入りする人間がいた。
正当な鍵を持ってドアを開けるのは、アレックと、オーランドだけだ。
鍵穴を回る鋼の音を、アレックの耳は聞き分けた。
下手な道具で、侵入しようものなら、撃ち殺される。
オーランドが、部屋の鍵を持っているのは、職務上などというやぼな理由はなかった。
オーランドにはそんな職権は無い。
オーランドは、MI6に勤めてはいた。
だが、ただの秘書だ。
「アレック、眠っていいよ」
ただし、女王陛下にかなり近いところにいる特別な女性、専属の秘書だが。
オーランドは、きちんとお願いして、ここの鍵を手に入れた。
いつものように、アレックに、非常に気持ちのいい思いをさせてもらい、それに見合うだけとは言えないのが辛いところだが、十分な努力をして、アレックになんとか満足していただいた後、オーランドは頼んでみた。
部屋の鍵を頂戴と。
ベッドの上のアレックは、それなりに機嫌の良さそうだった。
オーランドは、自分の限界ぎりぎりまで、努力した後だった。
アレックは、オーランドが驚くほど、簡単に、鍵の在処を教えた。
スペアーキーまでつけっぱなしのキーホルダーを投げて寄越し、ひとつ取れと言う。
「いいの?」
「いい」
「だって、合鍵だよ」
殆ど叶うはずのない望みだと思いながら口にしただけに、オーランドは驚いた。
「…いつも、そんなに簡単に渡すの?」
オーランドは、合鍵で部屋に入って、誰かと抱き合っているアレックと遭遇することを想像した。
アレックは、にやりと笑った。
「今まで、誰かにくれと言われたことがない」
思いがけない言葉だった。
アレックの部屋の鍵だ。
一ダースあっても、足らないくらいだと、オーランドは思った。
実際、鍵が手に入らなくて、この部屋には、何度かの不法進入を受けている。
アレックの在宅時にそれを行う命知らずは、007だけのようだが、ここのドアを開けて欲しがっている人間など、はいて捨てるほどいた。
だが、実際には、誰も、ここの鍵など持っていない。
ここの場所さえ知らない人間が大半だ。
しかし、オーランドは、キスマークだらけの身体で、シーツに包まれているアレックを眺めながら、そういうものかもしれないと思った。
アレックは、綺麗だが、気紛れで、しかも危険な人物だった。
この生き物が、自分のエリアへの進入を許すと思えず、誰もが、侵入する方を選ぶのだ。
鍵をくれなどと言って、望みが叶うなんて、夢にも考えまい。
たった一人、自分の欲望に忠実だったオーランドは、手の中に鍵を握った。
「本当に、貰っちゃうからね。返せって言わないでね」
「返せとは言わないが、突然鍵が変わっても、文句言うなよ」
アレックは、言った。
「なんで?」
「Qのとここの助手が、近頃、雑な仕事をするからな。今度見つけたら、その場で撃ち殺してやるつもりなんだが、なかなか、遭遇しなくて、機会を逃してるんだ」
「雑な仕事って…」
アレックは、ぐしゃぐしゃに絡まったオーディオの線を指差した。
「前の奴は、ついでに、植物の水遣りまでしていく使える奴だったのに、今度のは、最悪。新しい盗聴器を仕掛けるって作業だけのはずなのに、自分好みに配線変えやがって、おまけに、出来上がりはあれだ」
「Q、懲りないねぇ…趣味って感じだよね。あの拘り方は」
「コレクションを見たぞ」
オーランドは、コレクションの存在だけでなく、盗聴器の電波を拾い上げるため、ヴィゴが用意した中継点の位置も知っていた。
「あそこの勤務って…たしか、危険手当はでないんじゃなかったかな?特殊勤務手当てだけでしょ?ちょっと命かけて勤める職場としては、どうかと思うんだけど」
オーランドは、鍵を握ったまま、アレックに近づいた。
「あそこの研究員はみんなQの手下だからな」
アレックは、Qが生活を覗くことを許していた。
だが、それは鷹揚というよりも、自分に対する無関心だ。
「006に撃ち殺されたら、ちゃんと殉死扱いかなぁ?あそこの研究員って、軍属扱いだっけ?アレックの部屋に盗聴器?カメラ?仕掛けに来てて、撃ち殺されたら、それも、勤務中の事故死って扱いになるのかなぁ?」
そんな冷たいアレックの身体に、オーランドはキスを始めた。
「研究室勤めで、あの不器用さじゃ、きっと俺が手を下す前に、Qの発明品で爆死だ」
あれほど抱き合ったというのに、アレックは、まだ、餓えたような顔をして、オーランドにキスを臨んだ。
そうやってオーランドは、アレックから、鍵を貰った。
Qの助手は、撃ち殺された気配もないが、未だ、オーランドがアレックのエリアに入ることを許していた。
アレックは、オーランドに髪を撫でられるままに、目を閉じている。
「昨日は、お疲れ?」
「すこしな」
「いいなぁ。俺も、アレックにそうやって言わせてみたい」
この半月ほど、MI6から姿を消していた007が昨日戻ってきた。
新型航空機の図面の一部と、空軍の名誉を守ったダブルオーは、Mの机に、それらを置いて、オーランドの前を通り抜けた。
長々と口説いてくる外務大臣秘書の電話にうんざりしたオーランドが、まるで心の篭っていないありがとうを繰り返しながら、受話器を置いたところで、すかさず話し掛けてくる。
「オーリ。アレックの週末の予定は?」
ダブルオーは、目の前で爆死した女性軍人のあられもない写真の流出を防いだ。
彼女は、上司とも、とある企業のスパイとも関係する、言っていいならば、あばずれだった。
誰もが、新型機の図面と、軍の体面のために、駈けずり回っていたが、ジェームズだけが、彼女のために、半月を費やした。
彼女は、金色の髪と、緑の目をしていた。
オーランドは、目の前の嫌味なほど、自分のポリシーを押し通す男に言った。
「…今日の夜は、あんたに笑わせてもらうんだとか、言ってたけど」
「それは、それは。お待たせしてしまったかな?」
ジェームズは、唇に甘い笑いを浮かべた。
嬉しそうに目を細めている。
オーランドは、机に腰掛けるジェームズの尻を押した。
Mに伝える内容としては、2行ですむ、外務大臣秘書からの連絡をメモした。
「ジェームズ。明日の昼までにはアレックを返してよ。俺、遊びに行く約束してるんだからね」
ジェームズ・ボンドは、彼にしては珍しい少し羨むような顔をしてオーランドを見た。
「そうやって、君みたいに、アレックに甘えて見たいものだよ。オーリ」
「してみれば?」
ジェームズは、肩を竦めた。
「…そうだよねぇ。残念だねぇ。ジェームズは、俺にみたいにかわいくないから、きっと無理だよ」
だが、ジェームズは、アレックの骨すら、とろとろに蕩かすことができた。
アレックは、気だるそうな顔をして、枕から顔を上げようとしない。
「アレック。お昼ご飯を買ってきたんだけど」
「…まだ、食いたくない」
アレックは、面倒くさそうに目を開けた。
「それは、お腹がすいてないってこと?」
オーランドは、その目をのぞきこんだ。
アレックは、顔を顰めた。
「ベッドに入ってくる気か?オーリ」
「おいしいベーグルサンドを買ってきたんだよね」
オーランドは、アレックのシャツに手をかけた。
だるそうに横になったままのアレックのボタンを一つ、また、一つと外していく。
「ねぇ、気持ちのいいことしてさ、すこしお腹を減らさない?」
にっこりと笑うオーランドに、アレックは、あくびを漏らした。
「眠い…」
「それは、ジェームズが、寝かしてくれなかったせいでしょ?」
「…面倒くさい」
全てのボタンを外し終えたオーランドは、大きくシャツの前を開いた。
アレックの肌は、雪のように白い。
「やっぱり、あの色男。一つも跡を残してないじゃん…」
ジェームズは、大抵、アレックの肌に跡を残さなかった。
そうして、主張しなくてもいいだけの余裕をあの男は持っていた。
アレックの肌を点検して回るオーランドは、真っ白なアレックの肌に、さっそく一つキスマークを残した。
アレックは、ベッドの上で呆れた顔をした。
「オーリ、夜も、ジェームズと会うんだ」
「知ってる。会議の護衛だっけ?ご苦労様だね」
オーランドは、アレックを抱きしめ、胸にぐりぐりと鼻を押し付けると、大好き、大好きと、キスを始めた。
アレックは、オーランドに甘かった。
多分、他の誰よりも、甘やかされる位置に、オーランドは立っていた。
そうでなければ、昼寝をしていたアレックのベッドなんかに近づけない。
アレックはため息をついた。
オーランドの巻き毛に指を差し込み、ぐしゃぐしゃとかき混ぜると、一つ髪へとキスをした。
「知ってると思うが、会議はMも一緒なんだ。見えるところには跡を残すなよ」
「了解」
夕べ、散々、ジェームズ・ボンドに愛されたアレックの身体は、艶やかに潤んでいた。
どこを触っても、敏感な反応をみせ、アレックが、今晩のデートにも期待を寄せていることが、すぐにわかった。
乳首は、指先で、触っただけで、すぐ硬くなった。
捏ね回されるのを待っていた。
オーランドは、ぺろりとピンクの乳首を舐めた。
小さな引っ掛かりは、舌で舐めるだけでは勿体無い感じだった。
「噛んじゃおうかな」
「噛むよりも、吸えよ」
アレックは、オーランドの頭を引き寄せた。
「ちゅうちゅうって、赤ちゃんみたいに吸ってみな。お前のベビーフェイスにぴったりだ。オーリ」
甘い息を漏らしているくせに、アレックはオーランドをからかう。
「赤ちゃんみたいに吸って欲しいのは、アレックでしょ」
オーランドは、アレックの要求どおり、乳首を吸い上げた。
「昨日、ジェームズにも吸ってってお願いしたの?」
「しない」
「でも、一杯吸ってくれたでしょ?」
オーランドは、硬く立ち上がっているアレックの乳首を舌で丸め込むようにして吸い上げた。
アレックは、すこし顎を反らす。
オーランドは、その反応に気をよくして、いままでのセックスで、わかってきたアレックの好きな場所を唇で辿った。
わき腹から、腰に向けての滑らかな線。
腰骨の下辺りのへこんだ下腹。
白い肌を金色の毛が覆始めるその境目。
ひとつだって、キスの跡は残っていないが、ジェームズ・ボンドは全てを辿ったに違いなかった。
そして、オーランドが跡を残せない部分のことだって、ジェームズは知っているに違いなかった。
柔らかなアレックの穴が、オーランドのペニスを優しく包み込んだ。
指で慣らす間もなく、挿入を望んだアレックは、全くオーランドを拒まなかった。
差し出された尻は、オーランドのペニスを柔らかく受け入れ、そして、強く締め付けた。
オーランドは、ジェームズが、たっぷりの前戯を施しておいてくれたんだと考えることにした。
アレックは、オーランドが、ペニスを押し込んだだけで、もう、勃ちあがったペニスの先から、ぽとぽとと、滑った液体を漏らした。
いつもに比べたら、ずっとアレックは、セックスに夢中だ。
開いた口からは、ひっきりなしに声が漏れた。
オーランドに向かって尻を突き出し、自分でペニスを扱いている。
アレックは、とても、正直な態度だった。
夕べから続く、セックスに、欲望のボルテージが上がったままなのだろう。
アレックは、自慰する姿すら、隠そうとはしない。
アレックの背中が、動いていた。
出来たくぼみが、あまりに美しくて、オーランドは、そこに唇を落とした。
「んっ…オーリ。もっと。もっと…」
感じるちょうどのところが、突いて欲しくて、アレックが腰を捩った。
オーランドは、アレックの腰に指を食い込ませ、ペニスを突き上げた。
オーランドの腹が、アレックの尻を打つ。
オーランドは、自分に届く最奥を、ペニスの先で抉りながら言った。
「アレック。俺、顔を見ながらしたい」
後ろから襲うこの体位は、アレックの好みだった。
しかし、あの綺麗な顔が見られなかった。
アレックが振り返った。
意地の悪い顔をしていた。
「…あれだと、お前、もたないから…嫌だ」
確かにこの体位だと、オーランドは、自分の射精をコントロールがしやすかった。
夢中になったアレックに、足を絡められ、追い詰められてしまうという醜態も間逃れた。
アレックの目元はピンクに染まっていた。
舌が、ぺろりと、唇を舐めた。
いやらしい顔だ。
もっと見たい。
アレックに本気になられて、余裕をかましていられる人間など殆どいなかった。
柔らかく湿った中の肉が、無慈悲にペニスを締め上げるのだ。
がっちりとペニスを噛んだ肉は、天国の心地よさだ。
オーランドだけが、特別耐久力がないというわけではない。
オーランドは、アレックの尻が持ち上がるほど強く下から突き上げた。
「でも、俺、アレック顔みながらしたい。ダメだったら、もう一回頑張るからさ。ねっ、お願い」
二度、三度と強く突き上げ、それから、奥に居座ったまま、オーランドは、アレックの背中にキスの雨を降らせた。
片手で、アレックの乳首を摘み、もう、片手で、アレックの手の上から、ペニスを扱いた。
今日は、アレックの身体も、早い上り詰め方をしている。
アレックの体液が、オーランドの手をも汚した。
オーランドは、それをアレックの手に擦りつけた。
ぬるぬると濡れた二人分の手で、アレックのペニスを扱く。
「ねっ、いいでしょ?ちゃんと、アレックのこといかすまで、続けるって約束するから。アレックの大きく口開いた顔見せて」
オーランドは、アレックの腰を掴んで、何度も強く突き上げた。
「ねぇ。お願い」
おねだりをするベビーフェイスは、お願いを聞き入れてもらえるまでいつまでも、うるさく口を開く。
たしかに、細い身体をしているくせに、回数と、いう話であれば、オーランドは、アレックを満足させた。
「…わかった。正し、満足させろよ」
オーランドは、勢い良くアレックからペニスを引き抜き、アレックに声を上げさせた
そして、胸に付くほど足を曲げさせた。
回数はともかく、技巧的には、オーランドはアレックを満足させない。
だから、アレックは、オーランドを抱き寄せ、耳を噛んだ。
「オーリ。お前にコナをかけている外務大臣秘書って、私設の方?」
「え?何?急に、何?」
アレックの膝を押さえつけ、尻を浮かせたオーランドは、ペニスの先を潜り込ませようとしているところだった。
オーランドは勢いを殺がれた。
叩きつけようとしていた腰を引き、思いかけず、アレックにいい声を出させた。
「え?ここ、好きなの?こうやって、入口、弄られるの好き?」
「…おりこう…さん」
アレックは、オーランドの頬にキスをしながら、粘膜を引っ掛けて、出入りするペニスの先に、小さな声を何度かあげた。
オーランドは、繰り返し、繰り返し、ペニスを出し入れした。
肉を割り裂いていく感触は、ペニスの先へと十分に重く伸し掛かり、きつく奥歯を噛み締めないと、ここで漏らしてしまいそうだ。
「アレック。…大臣の秘書って何?」
オーランドは、アレックの感触から意識を切り離そうとした。
しかし、無意識に、オーランドの挿入は、少しづつ、深くなっていた。
快感には、勝てない。
「あいつ、Sだから、気をつけろって言ってやろうと思って」
アレックは、大きくスライドするペニスに、合わせて腰を振った。
「体験したんだろう。アレック」
オーランドは、アレックの腰をがっちりと掴んだ。
唇を強くかみ締めた顔をして、何度もペニスを引き抜いた。
オーランドは、きっちり、ペニスを引き抜き、そして、また、アレックの穴にずぶりと差し込む。
「…大臣の方の…趣味、知ってる?アレック?」
深くなるペニスが一気に引き抜かれると、アレックも刺激に腰が痺れた。
自然に口から、声が漏れる。
「…あっ・・お人形遊び…」
オーランドは、とうとう、ペニス全体を埋め込み、それを一気に引き出し始めた。
「あっ、オーリ。いい。それ、いいっ」
「アレック、…それも体験済み?…」
しかし、若いオーランドは、長く続かない。
ペニスを埋めたまま、腰を早く振り出す。
「…あいつに…コネが…あると、便利…だろ」
急に腰を止めたオーランドは、アレックを抱きしめたまま、口の中で唸った。
「…ごめん。アレック。一回いかせて。ごめん。このまま続けるから。ごめん」
オーランドは、強くアレックを抱きしめ、激しく腰を動かした。
アレックは、中に叩き付けられる精液の噴射に、小さなオーガズムを感じた。
「アレック。お腹すいた?」
「少し…」
「ベッドに運んだげようか?」
オーランドは、さっぱりした顔で、ベーグルサンドをアレックの元まで運んだ。
アレックの隣りに腰掛け、自分もパンに齧り付いている。
「さっきの話なんだけどさぁ。アレック、大臣に何されたの?」
オーランドは、アレックに聞いた。
アレックは、オーランドに視線を流しながら、氷が溶けてしまって水っぽくなっているコーヒーを飲んだ。
アレックの喉を通るコーヒーは、まだ、冷たかったが、美味くはなかった。
オーランドは、まだ、口を付けていない分があるというのに、アレックのコーヒーを頂戴と奪った。
そして、同じように、不味そうに顔を顰めた。
それから、やっとアレックの視線の意味を汲んで、口を開いた。
「俺?俺は、頭撫でられて、うちに遊びにおいでって言われただけ。噂を聞いてたんだよ。あの人、着せ替えさせて、撫でまくるらしいじゃん」
「撫でるだけじゃなくて、舐めるぞ」
アレックは、自分の情報を開示した。
「うげ。最悪。爺さん、自分のものが勃たないから、ねちっこそ」
オーランドは、興味深そうな顔をして、アレックを見た。
次に言う言葉が、アレックには簡単に想像できた。
「アレック、何、着せられたの?」
オーランドは、大きな口を開けて、ベーグルに齧り付いた。
もう、半分もベーグルはオーランドの腹に収まっていた。
勿体ぶるのも面倒で、アレックは、端的に答えた。
「ウエディングドレス」
「は?」
オーランドが目を見開く。
「さすがに、自分でも似合わないと思った」
アレックは、美貌だが、そういうのがぴたりと嵌るといったタイプではない。
女性的な容貌というわけではないのだ。
アレックも、ベーグルサンドに齧り付いた。
オーランドは、食べるのも忘れて、しげしげとアレックを見ていた。
顔中をさ迷う、オーランドの視線をアレックは感じた。
視線は、体にもはい回る。
大きな黒い目は、目尻を下げ、反対に口元がにんまりと引き上がった。
「ねぇ、アレック」
オーランドが、甘えた声を出した。
「オーリ。お前が3回出して、やっと1度満足させて貰った」
「でも、ねぇ、アレック」
「俺は、確かに、お前の顔が好きだけどな。物事には限度がある。お前から、引き出せるものでは、あんな格好なんてできない」
「だけどさぁ、アレック」
アレックは、オーランドの手から、コーヒーを取り戻した。
飲み干して、にやりと笑った。
「あの秘書を舐めてかかるなよ。オーリ。お前が思ってるほど、あいつ、馬鹿じゃないぞ。足もと掬われないように、ちゃんと仕事しないと、些細なミスで、つけ込まれるからな」
外務大臣と、MI6部長のアポイントは、時間の調整が難しい。
お互い、業務が複雑に込み入り、且つ又、極秘に会談する相手が多い立場なだけに、連絡ミスなどあった時には、ごめんなさいと、謝る程度では、事が収まらない。
そんなことは、オーランドもわかっていた。
まぁ、余計な口説きをさせてしまうのは、オーランドの隙のせいだったが、仕事のことだけは、しつこいほど確認を取ることを忘れなかった。
Mは甘い女性ではない。
食べ終わったアレックは、オーランドを置いて、ベッドから立ち上がった。
キスマークだらけの体を洗いに、すたすたとヌードで歩く。
アレックは、そんな体で、今晩の仕事をこなし、その上、ジェームズのベッドにも上がろうと考えているに違いなかった。
「じゃぁ、ねぇ、アレック。今晩、ここに泊ってもいい?」
オーランドは、懲りずに、アレックにねだった。
明日の朝、ジェームズはこの部屋までアレックを送るだろう。
ありがとうと、言ってアレックを受け取るのは、なかなか気分が良さそうだった。
オーランドには、オーランドにしか出来ない方法で、ジェームズに勝つことが出来た。
「Qに寝言を録音されてもいいんなら、好きにしろ」
アレックは、平然と、バスルームに姿を消した。
END
INDEX
花アレへのリク感謝ですv
そして、お昼寝するアレックv
こちらも、感謝なのですv
花のバージョンで使わせて貰いましたv