チェイス、ごめん。
「あの……今晩って」
「うん?」
久しぶりに職場へと顔を見せた上司を追いかけたチェイスは機能を優先させたCTUの廊下でやっと捕まえることが出来た。政府機関であるCTUは、不測の事態への備えとして監視カメラの映像が鮮明に残るよう廊下の色はグレーで統一され、照明は明るすぎるほどだった。焦るチェイスの目前でジャックの金髪が明かりに光っている。
チェイスに肘を掴まれ、振り返ったジャックは少し驚いた顔をしたものの、しょうがないと言いたげに苦笑した。
「……わかった。チェイス」
不意に上着の肘を掴まれたというのに腕を引くことさえしない上司に穏やかに微笑まれ、チェイスは自分がそんなにも切羽詰った顔をしていたかと恥ずかしくなった。ジャックは、チェイスの目の前に立ち、少しばかり面白そうに唇の端を引き上げている。チェイスは逃がすものかと力を込めてジャックの肘を掴んでいた手を離し、詰め寄るように近づけていた体の勢いを押し留める。
チェイスは自分の要求が簡単にジャックに受け入れられたことに戸惑った。あっさりと確約を貰い次の言葉がでてこない。想像では、肘を掴む手を振り払った上司は、大人の狡さであからさまにはしないものの、かすかに軽蔑の色を目に浮かべ、自分をみつめ返すだろうと思っていたのだ。あの独特のしゃがれた声で、「なんだ? チェイス?」と、勿論答えのわかっていることを聞き返してくるに違いないと踏んでいた。
しかし、ジャックは蛍光灯の光を反射し光る目に数日分の懐かしそうな色を浮かべてチェイスを見つめている。青い目には軽蔑の色などどこにもなく、それどころか、緩んだ目元には好意すら読み取れる。
予想とのあまりの違いにチェイスは落ち着かない気持ちになり、思わず目を泳がせた。だが、CTUの灰色の壁には見るべきものなど見当たらない。だからといって、チェイスはジャックへと視線を戻すことにも躊躇した。慣れない事態に嬉しさを感じることができない。チェイスはこれをジャックの手の込んだ嫌がらせかとすら思った。
「どうした? チェイス」
「……いえ、あの」
元々チェイスはそれほど言葉が上手くない。自分の受けた違和感を、先ほど貰った約束の反故へと繋がらぬよう口にすることが出来なくて、自分の爪先へと視線を落とした。
靴はもう何日も磨かれていない。ここ数日のCTUはさほど多くの懸案事項を抱えていたわけではないが、だからこそ、何日にも渡ってジャックがCTUを留守に出来たわけだが、それでも現場チーフであるジャックの穴を埋めるために、現場スタッフはいつもより多くの仕事をこなさなければならなかった。
「こっちへ。チェイス」
CTUの職員達は監視カメラの記録に残ることに慣れている。カメラの設置位置も熟知している。廊下での長話が即何かの疑惑へと繋がるわけではなかったが、ジャックは、プライベートな自分の表情が長々とカメラに納められることを好まなかった。不自然さを残さぬよう、ジャックは先ほどのチェイスのように相手の腕を掴むことはせず、先を歩く。後ろを振り返ることもなしに先を行くのは、全く普段のジャックだった。
ジャックは二つ角を折れる。行く先は、トイレだ。CTU職員がもっとも嫌う監視カメラがここに設置してあるのだが、さすがにそれは入り口にだった。全く趣味の悪い覗き窓の付いたドアを潜ってしまえば、多少のプライベートは確保される。
中に先客はいなかった。完全にドアが閉まるのを待ったジャックはチェイスを振り返った。
「なんて顔だ。チェイス」
洗面台の鏡を背中に笑い皺を刻んだ目元がチェイスを見つめた。だが、チェイスの上司は次の瞬間には頭の切れる上司らしい冷静さで目を澄ませていた。これがいつものジャックの顔だ。こういう目をすると無闇に声をかけることを躊躇わせる冷たさがジャックの顔には漂う。
やっとチェイスは恋人が無事帰還したことにほっとすることができた。
「ジャック、……さっきのは本当に?」
安心したチェイスは、安堵のあまり油断してジャックに約束を翻すためのチャンスを与えるような質問を投げかけてしまった自分に臍をかんだ。
ジャックは人悪くにやりと笑った。評判の悪い覗き窓の向こうへと一瞬視線を向けると、チェイスに顎をしゃくる。そのまま一呼吸すらおかず、胸倉を掴み揚げるようにしてジャックに個室へと連れ込まれたチェイスは、鍵をかけるジャック手の動きを驚きの目で見つめ続けた。一連の動作には全くよどみがなく、それはいかにジャックが荒事になれているのかといった証明にすらなった。不意を衝かれたとはいえ個室の仕切りへと、どんっと大きな音を立て押し付けられたチェイスにCTUの現場スタッフとしての面目はない。いや、チェイスが鈍いというわけではない。ジャックが上手すぎるのだ。ジャックが暴力的な動きをするとき、それは呼吸のように自然だ。
「あなたは職業選びを間違えてますよ。ジャック」
チェイスは身動きも適わぬほど仕切りへと押し付けられた背中の痛みに顔を顰めながら、ぼやきを口にした。まんざらでもなさそうな顔をしたジャックは、チェイスの喉元を息苦しくなるほどの力で押さえていた腕を下げる。そうして一歩チェイスから体を離したジャックは、耳であたりの気配を探っているのか目を細め、納得した顔をしながらも、しっ、っと口元へと指を当てた。
闖入者に対する警戒はチェイスだって解いてはいない。誰もトイレに入ってくる様子はない。だからチェイスは口を利いたのだ。
チェイスは、ジャックの体温が離れてはじめて、情けない状況だったとはいえ、恋人の体臭すら感じられるほど近くに彼の体があったんだと気付いた。抱きしめればよかった。そんなことが適わぬ状況へと、この目の前の暴力になれた上司に追い込まれていたことは割愛し、チェイスは自分の鈍さに顔を顰める。
決して思い通りにはならない年上と付き合うようになったチェイスは、ため息の回数が増えていた。
ジャックが何を考え、この個室の鍵を掛けたのか、それを楽観的に捕らえることができないほど、チェイスの恋人はわかりにくい。意外にもジャックは身持ちの固いところがあり、だから、先ほどとてもプライベートな約束を貰っていながらも、チェイスはここで行われるかもしれないことが、ただいまのキスなどという甘いものではなく、説教である可能性を70パーセントだと思っている。
しかし、チェイスの予想はいい方へと裏切られた。さっと身をかがめたジャックの手がチェイスの腰を探った。
ジャックはそこに期待していた高ぶりのないことに失望した表情でチェイスを見上げる。
ジャックの青い目は、金よりも少し暗い色をした睫が影を落とすと、途端に頼りない雰囲気を漂わせた。これに参る人間は多い。彼には全くその気がなくても、普段はタフなジャックに頼りない表情を見つけてしまうと、見た方は心が落ち着かなくなるのだ。
「なんだ……」
ジャックはかすかな不機嫌さを頬へと漂わせ、チェイスを見上げる。チェイスが見下ろす位置にいなければ、ジャックの不機嫌はそのままチェイスへと伝わっただろう。しかし、睫の影を落とした青い目がその表情を寂しげにみせていた。チェイスの胸がどきりと跳ね上がる。
「してやろうかと思ったのに」
ジャックは不満を伝えただけだった。しかし、語尾の形で口を緩く開いたまま見上げるジャックの顔は、あどけなくさえ見えて、チェイスの体をジャックの満足いく状態へと変えるだけの効果があった。
チェイスのジーンズの前は、正直に膨れ上がり、めずらしくジャックが口角を大きく引き上げ笑う。
心地よい温さの口内で、湿った舌にペニスの先を舐め回される快感に、チェイスは唇を噛んで声を殺していた。執拗に頭を前後させ、チェイスを追い詰めようとするジャックの髪を掴んだ指が湿っていたが、それは自分のせいなのか、ジャックが汗をかいているせいなのかわからない。
固く勃起したものを口内でいいように舐られ、何度も締め付けられているチェイスは射精を引き伸ばすために、痛いほどの力を込めてジャックを押さえつけようとしていた。
しかし上司は、部下の努力に報いようとはしない。額に皺を寄せて、それでもジャックは舌を伸ばす。
「ジャック……ちょっと、ジャック!」
散々煙草を吸うくせに、健康的なピンク色をした上司の舌は、チェイスの抗議を無視して、また強引にペニスへと絡まった。先走りはとっくに嘗め尽くされ、普段は冷酷な印象を与える薄い唇が貪欲にチェイスのペニスを食もうと大きく開けられている。
甘噛みを繰り返しながら飲み込まれていく若く固いペニスの持ち主は、口内の心地よい温度に、辛そうなため息を吐き出した。もう、あまり保たないことはチェイスも自覚している。
こんなのはチェイスがどれほど夢想しようと、ありえないはずのシュチエーションだった。今まで職場でなんて、そんなこと、この上司は許しはしなかった。
そのジャックが、じゅぶじゅぶと音を立てて、固いチェイスのペニスを唇で扱く。普段、難度の高い要求ばかりを部下に課す上司の唇が唾液以外のチェイスのペニスから漏れ出たいやらしい液体で濡れている。
「ジャック……っジャック」
チェイスの手は、もう、ジャックを遠ざけるためでなく、引き寄せるために金の髪を掴んでいた。ジャックは優しく濡れた口内をチェイスに明け渡し、舌でペニスの表面を舐めるサービスまで付加させ、部下が自分の頭を揺さぶることを許している。
ジャックの鼻がチェイスの下腹をくすぐっていた。チェイスは、不安定な姿勢のジャックが少しでも楽なようにと彼の体を自分の足へと凭せ掛けるようにして、ジャックを挟み込んでいる。
銃を扱う職業についているにしては、なんだか頼りないようなジャックの手が、唇から溢れた唾液で濡れてしまったチェイスの陰毛を掻き分け、ペニスの根元へとマッサージを加え始めた。
「ジャック。それ……くそっ、気持ちいい……」
チェイスは、悔しがるように個室のドアをどんっと一つ叩き、切羽詰まった声を漏らす。するとジャックの指は更にいやらしく動いた。
額に皺を寄せたまま見上げてくるジャックの目はただチェイスの様子を観察しているだけなのかもしれないというのに、睫が青い目に濃く影を落として頼りなく、チェイスに自分が彼に無体な支配を加えているような気にさせた。
冷たい印象の唇が一杯に開かれ、限界の太さまで膨張したチェイスのペニスを懸命に咥えているのだ。
嫌がおうにも興奮する。
「もう……だめですっ……ジャック」
チェイスの足が間にあるジャックの体をきつく挟み込むと、ジャックは顔を前後させるスピードを上げた。唇が熱心にチェイスのペニスを扱く。
「出せ。……このまま出せばいい」
いつもより熱い息で吐き出されたジャックの声は、彼も興奮しているように掠れていた。チェイスはジャックの頭を掴んで揺さぶりながら、ジーンズの足でジャックの腰を探り、前へと押し当てた。固くなったものがチェイスの足に当る。
ジャックはトイレでチェイスのペニスをフェラしながら、興奮しペニスを固くしているのだ。
ジャックはばれると自分からチェイスの足へと腰を擦り付けてきたというのに、チェイスが靴の先でジャックにサービスを加え始めると、腰を捻って体を逃がした。
「いい……俺は、いい……それより」
熱く濡れた舌にチェイスのペニスを乗せたまま、ジャックはチェイスの腰を掴んで引き寄せると、熱心に吸い上げた。
「なんで……? 後で……?」
チェイスはもう限界で、確かに今はジャックにサービスを与えるより、自分の欲求を果たしたかった。
「……ああ」
ここは職場のトイレで、それほど長くは留まることなど出来ない。
「……それは……後で、十分に時間をかけて楽しませて欲しい……ってことですか?」
こみ上げる射精感に口の中で唾が粘つき、チェイスはセンテンスを何度にも分けなければならなかった。
頷くジャックの口内にチェイスは射精を果たした。ここ何日かの禁欲生活で溜まった精液は数回に分かれ、ジャックの喉を叩いている。
体の弛緩とともに、満足のため息を吐き出したチェイスは、ジャックの手が唇を拭っているのに気付いた。
「……飲みました?」
チェイスは信じられなかった。ジャックは頷かない。しかし、吐き出した痕跡もなく、上司は追及を避けるように目を反らしている。
「……チェイス。俺はこのまま帰る。……」
「ええ。勿論、後で伺います。……覚悟しといて下さい」
無理やり口付けたジャックの口からは精液の匂いが濃厚にして、チェイスは、突き飛ばされるまでキスを止めることができなかった。
チェイスがテイクアウトの夕食を片手にドアを開けると、家の中はとても静かだった。
確かにこの家にはジャック一人しか住んではないが、それでもテレビの音、ひとつしない。チェイスは身についた習性でそっと足音を忍ばせたままリビングのドアを薄く開くと、その原因がソファーの上で丸まり寝息を立てていた。
ビールが缶も壜もごっちゃになって机の上に転がっている。任務が一段落し、ほっとした上司は、何通もの報告書を魚に、冷蔵庫へとしまわれていたチェイスのビールを全て飲み干したらしい。
白いバスローブに包まれた体は、ソファーの上でかわいらしく丸まっていた。シャワーを浴びた後なのか、髪は少し湿り、肌はとても清潔そうだ。無意識にジャックの全身を観察し終えたチェイスの喉はごくりと音を立てていた。
しかし、ソファーの上のジャックの裸足の爪先も、レポートを握ったままの手の指にも全く緊張はなく、幸せそうに弛緩している。
チェイスの頬がかすかに緩んだ。持ってきた夕食から自分の分だけを取り出すと、音を立てないようにしながらジャックの向かいにあるソファーへと腰を下ろす。
目の前で眠るジャックはまるでチェイスを待っていたかのようなセクシーなバスローブ姿で眠っていて、確かにチェイスはこのまま項へと口付け抱きしめてしまいたい気分になった。
しかし、チェイスはこのままジャックを起こしたく気分でもあった。腹が減ってはいたが、それよりも強く感じている欲を誤魔化すため、チェイスはテイクアウトのボックスを開く。だが、目ざといジャックは、チェイスが二口目を口に入れようとしたところで起きてしまう。
「来たのか。……起こせばいいのに」
目を擦るジャックは、寝顔を見られたことを照れくさそうにして、何度か瞬く。濡れた髪はやはりまだ完全には乾いていないようで、寝癖がついている様子はなかった。
「起こしたら、もう、あなたのこと寝かせてなんておけませんよ」
恋人の寝起きを見つめるチェイスは、プラスティックのフォークを持ったまま自嘲した。フォークの先で、肌蹴ているジャックのローブの裾を示す。
「ドアを開けたとき、寝ててもいいからやりたいって思ったんです」
チェイスは自分の指摘にジャックの機嫌が悪くなることを予想した。
しかし、ジャックの照れは翳らなかった。
「腹が減ってるんだろう? 飯は食べなくていいのか?」
「えっ……?」
今日はチェイスの予想がことごとく外れる。ジャックは足を引き寄せた。肌蹴ていたローブの裾は、きわどいところまで白い太ももを見せる。
「こんな格好なんだ。待ってたってわかるだろう?」
「ええ、……まぁ、そりゃぁ……」
「チェイス……」
掠れた声で名を呼ぶジャックの腕がチェイスに向かって伸ばされた。
上司に抱きしめられ、そのままソファーの上で、白い尻へと圧し掛かること許され、チェイスはとても幸福だった。
恋人の足はチェイスに絡みつき、尻を開いて貪欲にチェイスのペニスを味わおうとしている。先ほどチェイスだけを楽しませた興奮のせいか、ジャックのペニスはチェイスが触れてもいないというのにさっそく勃起し、先端の滑りでチェイスの腹を汚していた。
「んっ、……チェイス……チェイス」
ジャックは最早腕に絡み付いているだけのローブの拘束をもどかしげにしながら、自ら胸を突き出し、そこへのキスを望んだ。チェイスは小さく立ち上がっている乳首へとキスを繰り返す。つぷりと固くなっている乳首はよりディープなキスを望んでいそうで、チェイスは口に含むと、そっと歯を立ててやった。
「っ……ぁ!」
チェイスのペニスに尻を串刺しにされたまま、ジャックがのけぞる。上がる声がせつなく濡れて、チェイスはジャックの乳首を吸い上げながら、掴んだ腰を揺さぶった。
「あっ、あっ……っい!」
すっかり汗でぬれたジャックの体をバスローブで包み直し、二人は遅い夕食にありついたのだが、その後またベッドへとジャックの手を引いたチェイスに、ジャックは嫌がりもせず応えてくれた。
チェイスの引き締まった腹へと手をついた上司が、すっかり感じ入った顔をして、腰を上下させている。
それも、一回いった後もチェイスが2回目を求めれば応じてくれる。
ぐじゅぐじゅに濡れた肛口の柔らかな肉をペニスで突き上げ、真っ赤になりながら汗まみれになっている恋人に遠慮のない声を上げさせ、この辺りがその晩のチェイスの最高に幸福な瞬間だった。
しかし、それが、今度は恋人に3回目をねだられ、確かに、ジャックにもセックスに対して積極的になる日はあるものの、そんな時でも、互いの洋服を毟り取る様にしてベッドにもつれ込んでおきながら、やらせてもらえてせいぜい二回、大抵は一回という経験しかもたないチェイスは、なんだか不安になってきた。
恋人は、背中を汗で光らせて腰を捩っている。
そして。
ハードなセックスの疲れでぐっすりと眠り、明け方目を覚ましたチェイスは、隣でチェイスの身じろぎに目を覚ました恋人に頭をなでられ、驚いてしまった。
薄く差している朝日の中、眠そうに顔をむくませている恋人を思わずじっと見つめ、すると、ジャックはじっと見つめるチェイスの視線を誤解したようだ。
「なんだ……仕方ないな」
くすりと笑ったジャックが、チェイスを引き寄せる。チェイスの手を取ったジャックは、まだ濡れ、少し腫れぼったくなってしまっている穴へとチェイスの手を導く。
チェイスは青ざめた。夕べもたっぷりやったのだ。どれほど恋人が魅力的でも出来る回数には限界がある。悪いが今朝のチェイスには朝立ちの兆候すらない。
「俺はもう勃たないかもしれないが……」と、照れくさそうにジャックが口にするより早く、チェイスは、悔しそうに顔を歪めて謝った。
「ジャック、すみません。俺、多分、できません」
チェイスはすっかり自信を喪失していた。夕べ、十分やったはずなのに、ジャックは満足せず、朝にも求めてくる。
「……ジャック。俺のセックス、そんなに下手なんですね?」
だが、ジャックは、長期の禁欲生活をやりたい盛りの年下の恋人へと課した罪滅ぼしをしようとしただけだった。めずらしく甘い気分で心を砕いたジャックの思惑は、チェイスには通じず、尻の穴が腫れぼったく痛むほど努力してサービスしたつもりだというのに、チェイスはジャックを誤解している。
「……くそっ」
ジャックは吐き捨てた。
チェイスはベッドの上で座り込み、シーツに頭を埋めると、重く暗いため息を吐き出している。
「……本当にすみません……必ず、必ず、今度は満足させます……」
会話の少ないカップルに誤解は生まれがちだ。
職業柄、必要なことを最小限の言葉で伝え合うことに慣れている二人は、それをプライベートにも持ち込むせいで思い違いをよく起こす。
いや、この場合、チェイスの欲求に応えられるだけ、年のわりに体力のありすぎる年上が問題だという説もある。
END