イイ! イイ! イイッ!!

 

「……ッ少し、……休ませろっ」

掠れた声は、まだ落ち着かず上がってしまっている息の合間に命令した。トニーがやっと動きを遅くすると、ジャックは暗い天井へと向かって大きな息を吐き出す。反らした顎から伝う汗を手の甲で乱暴に拭う両腕の間で、大きく胸が動いていた。ジャックの体は、トニーの腹へと乗っている。彼の体の弛緩と緊張は肛口にずっぽりペニスを埋めているトニーをダイレクトに刺激する。

「相変わらず無茶を言う人ですね」

唇を歪めたトニーの腹から胸にかけては、先ほどジャックのペニスから飛び出した精液でべとりと汚れていた。大きく何度も息をつくジャックが、今の快感に満足し、しばらくの猶予を欲しがっているのは、久しぶりにこの年上をベッドへと引き摺り上げることに成功したトニーにもわかっていたが、トニーの体は、それを叶えてやるのが難しい状態だった。射精後やっと少しばかり緩んだ年上の肛口は、彼が呼吸する度に気持ちよくトニーを締めつけている。スリープ状態のディスプレイ画面の光にようやく見わけることのできるジャックの体は、鍛えられた胸筋が性感の高まりとともに噴き出した汗でしっとりと濡れている。

「……俺は、もう終わりでもいい」

上がったままの息を無理に押さえ込んだ少し苦しそうな顔で、ジャックは唇だけを使ってセクシーに笑う。

「そうかもしれませんけど」

わがままな年上を満足させるために努力したトニーのペニスは、年上の尻穴をぴっちりと嵌っていた。後、少しの時間付き合ってもらえれば、トニーも気持ちのいい終わりを迎えることが出来そうだ。しかし、トニーは、出してしまいたい焦燥感をひとまず押さえ込み、ゆっくりとグラインドさせていた腰を大人しくさせた。暗がりの中からジャックが窺うようにトニーを見下ろす。

「休憩させてあげたら、後で続きをさせてくれるんでしょう?」

強がった態度を装っていても、ジャックの濡れた目元は、頼りないような瞬きを繰り返していた。トニーの苦笑を認めると、ジャックは褒美だとでもいうように薄い唇を近づけ額へと口付ける。

「いい子だな。トニー……少し疲れた」

先ほどの放出の余韻を残すペニスの先からは、まだとろとろと薄くにごった液体があふれ出していた。もう一度トニーの額に口付けたジャックは、大きく足を開いたまま、それを握る。

「ほら、見てみろ。もうすっかりやる気がない」

突き上げられているうちに、漏らしてしまった先走りで根元の陰毛まで濡らしているペニスは、言葉ほどは疲れてはいないようだった。しかし、一度満足してしまえば、ジャック本人がやる気をなくすのはそんなに稀なことではない。徐々に力を失っていくペニスを放り出したジャックは、なっ、と、トニーに同意を求めて薄く笑い、深い満足げなため息を吐き出した。しかし、トニーに強いられた我慢は、そんな年上のキスで釣り合いの取れるものではなかった。よく鍛えられているジャックの体は、弛緩した今ですらねっとりとした熱さでトニーを気持ちよく締め付けており、たっぷりと注ぎ込まれたジェルすら殆ど零そうとしない。本人に悪気はないのだろうが、今だって柔らかな感触で蠢き、締め付けてきて、まるでトニーの愛情を試しているかのようだった。

だが、トニーの我慢もきっと報われるはずだった。少なくともジャックは、もうやめだと跨いだトニーの腹の上から降りようとはしなかった。少し照れくさそうにしている目が、吐き出された精液で濡れたトニーの肌を辿り、視線を反らしている。ジャックから飛び出した精液は、トニーの体からはみ出、シーツにも染みを作っている。

 

「しばらく休憩ですね。わかりました」

トニーは、ジャックの腰を掴んだままだった手を、年上の盛り上がった尻へと動かし、抱え直した。

深い位置にまで入り込んでいたペニスの角度が変わり、ジャックの表情が緩む。はぁっと、もう何度目かの息を吐き出した金髪は、トニーの脇へと両手をつくと安心したように目を瞑った。

「ジャック、そんなに良かったんですか?」

トニーは手を伸ばして汗に濡れたジャックの髪が額へと落ちているのをかき上げた。トニーの言葉に目を瞑ったままの年上がくすりと笑う。

「酷いな、笑うなんて。こっちは、やせ我慢で、あなたの要求を優先させているんですよ」

「優先させているという気なら、もう少しサイズをダウンさせろ。休憩中の身にはデカ過ぎる」

「それは無理ですね」

しかし、トニーの見上げるジャックの顔は、ベッドに上がる前に比べれば、格段に表情が和らいでいた。勤務中報告のためにトニーのオフィスへと顔を出した彼は、恐ろしく張り詰めた表情をしていて、この年下の上司に焦燥感を抱かせたのだ。それが今はセックスの満足からか、完全に口角の下がってしまっていた口元にも、なんとか薄い笑みが浮かぶ。それでも、ジャックの顔から緊張感が消えたわけではない。解れない緊張がもたらす疲労感から、長い睫は頬骨へと影を落としたまま、なかなか開かれない。トニーは、労わる気持ちを気付かれないよう、いやらしさを装いながら、ジャックの目尻に刻まれた皺に触れ、皮肉に笑っている薄い唇を撫でていく。

 

「くすぐったい」

目を閉じたままのジャックがぱくりと口を開け、トニーの指を口に含んだ。トニーが思っていたよりもずっと、口内の温度は高く、先ほどの余韻を残し、少し粘つく口内では、悪戯をするように歯がかりっと指先を齧った。そして、癒すように舌が優しく舐める。

「おいしい?」

含んだ指先が出て行くことに未練を見せた幼いジャックの舌のしぐさに煽られて、トニーは小さく腰を揺すり、自分を取り巻く熱い肉壁を突き上げた。

「……っ!」

自分の行為がもたらした効果も考慮に入れず、見下ろすジャックの青い目がトニーを咎める。

「しょうがないでしょ」

「休憩中だ」

「じゃ、もう動きません」

曲がってしまった唇へと指先を押し付けるかわいらしいキスをして、機嫌を取るトニーは自分の上へと乗る年上にそっと笑った。だが、普段から互いの気性を知るだけに、金の睫の間から見下ろす眼差しはトニーの言葉への疑いを含んでいる。

「何をする気なんだ?」

「あなたに触りたいだけですよ」

顰められた顔は無視し、トニーの手は、ジャックの体を撫で始めた。鍛えてあるくせに丸みのある肩を撫で、そのまま筋肉が大きく張り出している胸を触る。膨らんだ胸をそっと手のひらに納めただけだが、そこが弱いジャックは、大きく身を捩った。

「トニー!」

自分で動いて、ジャックはひゅっと、息を飲んだ。

「約束どおり、僕は動いてないですよ」

トニーは、盛り上がった胸を覆う蜂蜜色の体毛ごと手の中に納めた胸肉を揉み、寄せ上げた。それだけで、ジャックの腰が揺れる。息を乱した年上は、トニーをきつく見据える。

「お前っ」

闇の中にあるはずのジャックの目に怒りの色が浮かんだのがトニーには見えた。実際、白い歯が闇の中ではっきりと見えており、年上は黙っている気などないようだ。

だが、それに気付かない振りで、トニーは手のひらで胸の尖りを緩く撫でた。枕から頭を上げたトニーは、ジャックの首筋へと顔を寄せ、何度か唇を押し当てるだけのキスをし、耳朶へとそっと囁く。

「ジャック。我慢強い僕に、餌を投げてくれる気になれませんか?」

年上は、一応トニーの我慢を評価しているらしく、しぶしぶでも牙を引っ込めたジャックの首筋へトニーはもう何度かキスをする。

「ジャック。胸、触られるの嫌いじゃないでしょう? 酷いことはしませんから、少しだけ触らせて下さい」

言葉通りトニーは、ジャックの弱点である乳首だけを集中して攻めるようなことはせず、手のひら全体を使って、穏やかに撫でるように胸を揉む。

それでも、寄せられ盛り上がった胸の尖りがトニーの肌に触れて刺激され、ジャックの目は落ち着かなく、視線をさまよわせる。

「少しだけって」

「例えば、こういうのとか。こういうのとか、ジャックが、楽しんでいられるだけってことですよ」

トニーは指で、小さな乳輪ごとジャックの乳首を抓んだ。抓まれた乳輪をあまり力を入れることなく指先で潰され、ジャックが小さな声を上げる。

「……っァ……」

「ほら、ちょっと気持ちがいいでしょ?」

トニーは、そのまま指先を動かす。

「僕がジャックの胸を触るのをとても好きなの、知ってるでしょう、ジャック? この位なら、かわいそうな僕に触らせてくれるでしょう?」

 

枕に頭を預けたまま、ゆったりと寝そべるトニーの指先の動きは、ジャックにもう一度火をつけようとするセックスの手管の一つとしてというよりは、ただ自分がそこの柔らかな感触を楽しみたいがためだけのようだった。だから、指先には腹へと跨る金髪の反応を試すようないやらしさ含まれず、抓まれた乳首から湧き上がる快感も極穏やかなもので、ジャックも、最初は安心してトニーに触らせていたのだ。現場に出ないトニーの指先は柔らかく滑らかで、触られるのは気持ちがいい。力を入れることもなく繰り返し、角度を変えて、乳輪ごと尖りを抓む指先は、ジャックを楽しませるためだというのなら、物足りなさを感じさえる程で、単調過ぎると言えないこともなかった。だが、ジャックが膝をつくシーツにはいつの間にか大きな皺が寄っていた。気付けばジャックは、上がってしまっていた自分の体温と、上手く折り合いをつける方法を見失ってしまっていた。唇を噛んでいなければ、上がる息を抑えられない。乳首を緩く摘ままれる度、快感が、繰り返し、繰り返し、ジャックの中で湧き上がるのだ。さっきまでは、安心して楽しめる程度の快感でしかなかったというのに、今は、もう、膝に力を入れ自制していなければ、尻に咥えたままトニーのペニスからの刺激まで欲しくなって、自然と尻が浮き上がってしまいそうだった。

ジャックは、唇を噛んで、トニーから与えられる刺激に耐えていた。しかし、左右の乳首を交互に抓まんだまま緩く引っ張られ、とうとう唇が開いてしまった。

「あッ……っ、ん……」

腰が自然と捩れる。すると、尻の中を穿つものに、内部を刺激され、更にジャックの体温が上がる。

ジャックが小さく声を上げても、トニーの触れ方は変わらなかった。まるでジャックの変化に気付いていないかのごとく、トニーは指先に入れる力を強めない。乳輪ごと大きく乳首を抓んで、優しく指先ですり潰す。だが、その刺激が、もうジャックにはダメだった。

「……ッあ、アっぁ、んうっ」

ジャックは、じんじんと熱を持ったように感じ続ける胸の刺激を持て余し、自ら大きく腰を振ってしまった。先ほどのセックスの余韻もあり、快感に貪欲な尻には自然と力が入っている。引き伸ばされたままの肛口は擦り上げるトニーの太さにヒクヒクと喜んだ。濡れたままの腸壁でぎゅっとトニーのペニスを締め付けたまま上下すれば、それの張り出しに擦られじんっと痺れるような熱い快感が湧き上がる。

「んんッ、あ、……ア」

ペニスの深さを感じようと、トニーの腹へと尻を押し付けるジャックは、何度も何度も、自分から腰を上下に動かした。トニーがジャックの様子を窺う。トニーの腹へとペタリと寝ていたはずのジャックのペニスは、とうに角度を持って揺れている。

「動いちゃダメなんじゃなかったんですか?」

トニーは、ジャックの乳首を緩く抓んだまま、頭を擡げ、また汗をかきだした人の耳元で囁く。

「あっ、トニー、んんっ、……あ」

「ねぇ、ジャック、この腰、どうしてこんなに動いてるんですか?」

ジャックは、頭を振って囁くトニーの息から逃げようとしていた。赤く染まった首筋は、うっすらと汗で濡れていた。トニーは、柔らかく湿ったジャックの肉壁でぎゅうぎゅうと締め付けられる快感に耐えながら、枕へとまた頭を下ろす。そして、変わらぬ手つきで、ジャックの乳首を抓む。

「トニー……トニーっ」

「ジャック、動くのをやめないと」

「やっ……」

胸にもっと強い刺激が欲しくて、自分から突き出すような形をとっていたジャックは、トニーの指が両方の乳首から離れようとすると、あからさまに求める言葉を口にしそうになって、はっとした。胸だけでなく、尻だって突き出すような格好で、自分の気持ちいいように腰を振り続けていたジャックの肛口からは、ジェルが咥え込んだペニスを伝い零れだし、トニーの腿の付け根を濡らしている。しかし、それを恥ずかしく感じていても、尻の動きを止めてトニーの指が再び乳首を抓んでくれるのを待つ間ですらジャックは我慢が出来ず、せつなさに悶える体は熱く震えた。浮き上がった状態で止まっている尻を、ずぶりとトニーのペニスを突き上げて欲しかった。深く入り込んだペニスで中を何度も擦って欲しい。

中途半端な位置で、もじもじと落ち着かなくジャックの腰が揺れていると、トニーの手が伸び、年上の尻は大きな手で掴まれた。これで、いい様に腰を突き上げられ、揺さぶられ、下腹に熱くたまった快感へと更に愛情を注ぎ込まれて、いかせてもらえるものだとばかり思ったジャックは、自ら、トニーの動きに合わせようと尻の力を抜こうとまでした。

しかし、うっすらと笑うトニーがジャックを見上げて言ったのは、違うことだ。

「ジャック。休憩中なんでしょう?」

唇に淫蕩な笑みを浮かべた年下の余裕は、しかし、ジャックが見れば、額に刻まれた皺が言葉を裏切っていた。トニーの額には汗も浮かんでいる。

ジャックは、トニーに掴まれたままの尻をゆっくりと動かした。

「……っぅん、ん」

自分の口から、堪えきれず声が漏れるが、トニーを見下ろせば、年下はしきりと唇を舐めている。気付いているのかどうか、この癖を見せるとき、トニーは余裕をなくしていた。下腹に溜まった熱に急かされジャックは、体の重みを支えていた手でトニーの顔に触れた。気恥ずかしさを押さえ込み、撫でながら額に頬にとキスをして誘う。

「トニー……」

トニーの唇が上を向き、そこへのキスを望まれていることにジャックは気付いた。薄く開いている唇に唇を重ねる。舌が絡み合い、トニーの手が優しくジャックの尻を撫でる。しかし、

「休憩中だって言ってるのに、このいやらしい尻はなんですか?」

トニーは、自然と上下していたジャックの尻をぴしゃりと打った。痛みよりも、叩かれたことにむっとしたジャックは、にやにやと笑うトニーの頬を抓る。

「お前って奴は!」

「あなた程じゃないつもりなんですけど」

するりとジャックの手を逃れたトニーの顔が、胸へと潜り込み、すっかり立ち上がっている乳首を口に含んだ。

「あッ……!」

「勝手ばっかりする人を甘やかしてばかりいるのは良くないんですけどね」

キュっと吸い上げられた甘い快感に、ジャックは、トニーを拒むことも忘れて、シーツについた手で、崩れ落ちそうになる自分の体を支えた。右の乳首を吸われ、左は指先で捏ねるように抓まれる。弱い胸を熱心に攻められ、ジャックは完全に陥落した。

「いいっ! トニー、……っぁ……もっと」

「……ジャック、何をもっと?」

「……もっと、吸って……くれっ、ァ……っ、イイっ、あ」

 

「お尻、揺すりたいんでしょう? 好きに振っていいんですよ?」

「あっ! あッ! ……んっ!」

振りたてられるジャックの尻へとトニーがペニスを突き入れると、金髪の頭は激しく振られた。グチュグチュと、ジャックの中を濡らすジェルが音を立てる。

「んんっ、ァあ!……トニーっ、……っトニー!」

トニーはジャックのいい部分を狙って、何度も突き上げる。

「イイ!……いい!……イイっ!」

 

 

すっかり満足した様子で眠るジャックの顔からは緊張が消えていた。

薄く開いた唇からは、規則正しい寝息が漏れる。

求められるままに吸ってやった乳首は、赤く色づいていた。

「大好きですよ」

汗まみれのまま眠ってしまった人の額に皺が寄っていないことを電源が入ったままのディスプレイから漏れている光で確認したトニーはそっと口付け、その隣で目を閉じた。

 

END