妄想系2 (チェイジャ、トニジャ)

 

ジャックは、情けない思いで、クッションに顔を埋めていた。ソファーに上半身だけを押し付けるようにしてうつぶせているジャックは、なんとか上半身をシャツに覆われているものの、下半身は靴下しか履いていない。しかも大きく足を開いて足は床についている。晒した尻を覗き込む、二つの顔は面白がっている。

「あと、俺の分は……」

「今度は僕に入れさせてくれよ」

二人は、各自の皿に乗った小さな丸い粒のチョコレートを指先で摘まんでは、ジャックの尻の穴へと押し込んでいく。ぎゅむりと押し込まれたチョコレートは、一つ、一つの大きさは大したことがないものの、二人が交互に押し込むものだから、もうかなりの数になっていた。カラフルなそれを、一つ一つどこか欠けたりしていないか、十分吟味すると、二人は、また、ジャックの尻を開く。

肛門の口を指先で引っ張るように広げられ、入り口付近まで詰まったチョコレートは、零れ落ちそうな様子で、それでもピンクの粘膜の中に納まっていた。少し溶け出し始めている。

「少し押したほうが?」

「どうだろう? ジャック?」

ジャックは、全く平気ではなかった。それどころか、今すぐ殴って二人に自分の立場を思い知らせてやりたい。けれど、これはジャックが引き起こしたことだった。

ふらふらと決断を下すことができず、ずるずると二人と出来たままいることを、この二人は互いに知っていながら上手くやり過ごしてくれていたのだ。そんな二人に対して、気配りを忘れたのはジャックだ。

確かにあの日は忙しくて色々気を取られていた。けれども、考えもせずいい加減に返事をした。

約束は、同じ時間に同じ場所を指定していた。

つまり、現時刻、ここ、ジャックの家を。

 

気詰まりな顔をして顔を合わせた二人の男を前に、一番気詰まりだったのはジャックだ。確かにそろそろ問題を解決すべき時が近づいているのはわかっていた。けれど、まだ、ジャックは決めていなかったのだ。

「どっちに帰って欲しいです? ジャック」

ストレートに聞いてきた若いチェイスに、ジャックは答えが返せなかった。

「とうとう話し合う気になったと、いうわけでもなさそうですね。ジャック」

トニーは、仕方がないと笑っていた。

 

この場の解決策についての提示は、意外にもそれを一番認めなさそうなチェイスから出された。

「とりあえず、やりません? もうどうせ、何がしたくてこうやって集まってるかはわかってるんだから、取り繕ったところでしょうがない」

「じゃぁ、どっちが?」

「この際、一緒にってのはどうですか? トニー?」

トニーの目は普段より大きく開かれた。けれど、ジャックは口まで大きく開いた。馬鹿野郎!と怒鳴ってやりたかったが、けれどもそんなことがいえる立場ではなかった。嫌だと断るのは簡単だ。けれど、では、もう一人を待たせたまま、片方とセックスするのかといえば、勿論それも願い下げで、ジャックにはこの場を上手く納める方法が全く思い当たらなかった。何か発言をすれば、即それが、この場でのこれからを決断することに繋がりそうな気がして、ジャックが何も言えないでいる間に、ジャックの恋人たちは、どうやら平和的に合意に達したようだ。ジャックは、最早自分が消えてなくなってしまえばいいとさえ思った。二人は嫌に和やかだ。職場でだってこれほど二人の仲は良くない。

「ジャック」

両方から手を差し出され、ジャックは一歩後ろへと後ずさった。残念なことにそこにソファーが待ち受けていた。

 

「こういうことするんですか?」

「チェイスはしない?」

柔らかな、けれども決して逆らうことを許さない笑顔を顔に貼り付けてジャックを見つめる恋人たちは、手早くジャックの下半身だけを脱がせてしまうと、そのままソファーにうつぶせになることを強要した。

「二人がかりで無理やり入れたりはしませんから」

「怪我させるようなことはしません」

最低限の約束をするトニーとチェイスは、しかし、それ以外のことは受け入れろと強要していた。ジャックは、両足を二人の足で軽く押さえつけられる形で大きく足を開かれ、目を瞑ってソファーの上のクッションに突っ伏している。チェイスは、トニーの話に興味津々の様子だ。

「ジャック、嫌がりません?」

「嫌がるよ」

それは、ジャックが大嫌いなトニーの性癖だ。それのせいで別れようかと思ったこともある。けれども、あまりに嫌がったせいか滅多にしないため、ジャックは未だにトニーと付き合っている。

どうやってするかという話になり、そのプレイに対してチェイスは興味を示した。

「お仕置きとか、そういう意味合いなんですか?」

「違う。純粋に僕の趣味」

チェイスは笑ったようだ。だが、ジャックは笑うどころではなかった。チェイスがスポーツコートのポケットに入れていた一袋の粒チョコレートが、二人の間で等分に分けられている。トニーは、そういったたわいもない食品をジャックの大事なところに埋めるのが好きなのだ。しかも、そこから食べもする。絶対にジャックには理解できない性癖だが、けれど、恋人との間の二人きりの秘密だと思えば、ジャックもなんとか我慢することができた。けれども、チェイスまでそれをしたがっている。

「……やめてほしい……」

ジャックの願いは、二人にきれいに無視された。いや、返事は返してくれた。

「トニーだけにさせてることがあるなんて、ずるいです。ジャック」

今度はトニーが笑ったようだ。

「そんなことないだろ。きっと、チェイスにしかさせてないことだって、あるさ。……ね、ジャック?」

 

丁寧にチョコレートに傷がないかどうかを検分しながら行われる作業は、チェイスにとって目を輝かせるのに足る出来事だったようだ。チェイスが深い場所へと押しやろうとしたチョコを、トニーはあまり深くまでは後でジャックが辛いからと教えていた。一粒づつとはいえ、何度も指で押し込まれるチョコレートに、ジャックの腹は次第に重くなってきていた。何度も腸壁を開かれるのも苦しい。中を使われることになら、楽しめるだけの経験のあるジャックも、ただものを詰め込まれるとういだけでは耐える、しかすることがないのだ。小さくとも形のあるものがみっしりと詰め込まれてゆくと、中で、カラフルにコーティングされたチョコの表面が触れあい、キシキシと音を立てる気がする。いや、実際、肉壁は詰め込まれたものを締め、ぎちぎちと音を立てると、トニーにジャックは注意を受けた。

「あまり締めない。ジャック。チェイスの前で零したくないのはわかりますけど、締め過ぎて中で割れたら事です」

ジャックは泣きたかった。

「チェイス、この辺りで気がすまないか?」

トニーはやっと止めてくれる気になったようだ。いや、いつもだったらここまでの量をトニーは入れない。

しかし、チェイスは不満らしい。

「え? まだ入りそうですよ?」

「ジャックが、もうそろそろ限界みたいだし、今日のは、思いつきで選んだものだからね。本当に割れでもしたら大変だから」

 

割れるんですか?と、尋ねたチェイスに、トニーはどうかな?でも、万が一にも怪我はさせたくないからねと、答えていた。俺、このまま突っ込むのかと思ってました。と言うチェイスは、確かにトニーよりもずっとサディストとしての才能がありそうなセックスを好む。

「溶けるだけなんじゃないですか?」

「溶けは、するけどね」

トニーはジャックの耳元で小さく囁いた。

「苦しいでしょう? 出して」

ジャックは真っ赤になった。嫌だと頭を振る。じゃぁ、我慢がしたいんだと、トニーに決め付けられ、ジャックは慌てて目を上げた。トニーは本当にジャックにできないのかどうか見極めて、やり方を選ぶ。だが、ジャックがトニーに許しを得ようと視線を捕まえる前に、チェイスがジャックの前に顔を突き出しだ。

「泣きを入れるには早いでしょ? ジャック。俺もトニーも、今日はちょっとジャックのことが嫌いですよ」

トニーはジャックの頭を撫でた。

「ジャック、困りましたね。どうやらチェイスはご立腹みたいですよ。とりあえず、彼のご機嫌をとりましょうか」

 

肛門の入り口付近まで一杯にチョコレート粒を詰められたまま、ジャックは口を開けてチェイスのペニスを舐めていた。椅子に座ったチェイスは腰を突き出すようにしてリラックスした体勢で腰掛けている。その足元で這うジャックは、尻の中に詰め込まれたものを落とさないために、懸命に堪えていた。

「……気持ちいい」

年若い方の恋人は、切羽詰った尻の具合を気がかりにしながらも、ジャックの舌が懸命にペニスを舐めるのに満足の表情を浮かべている。普段、そんなことはしないのに、よくジャックの頭を撫でるトニーへの対抗心からか、チェイスはジャックの頭を捕まえ、髪をかき回す。けれど、ジャックは、今、あまり体に触れて欲しくはなかった。無理に体勢を変えられると、排泄欲が刺激される。中に詰まったものを出してしまいたい気持ちを堪えるのが辛い。

 

「ジャック。僕にもさせて下さいね」

中の重い尻を床に近づけるのは、余計に排泄欲が湧くような気がしてジャックが、恥ずかしさを堪えてあげていた尻にトニーが顔を近づけた。ジャックは、咥えていたチェイスのペニスから口を離した。

「ダメ。だ。トニー!」

逃げようとした尻は、トニーに捕まった。トニーは、ジャックの尻に一つ愛しげなキスをする。チェイスの声は、驚きと好奇心で一杯だった。

「本当にするんだ」

トニーの舌が、尻の穴をこじ開け中へと入り込む。ジャックは頭を振って嫌がった。けれども。

「トニー、溶けてます?」

「少しは、ね」

ぐにゅぐにゅと腸壁を嘗め回す舌に、一つ、チョコが奪われた。ジャックの目に涙が溢れた。

「……っい、やっ!」

奪ったチョコをトニーは舌の上にのせて、チェイスに見せる。懸命に我慢をしていたのに、刺激を受けてしまった肛口は、もう、ジャックの我慢では利かなかった。

「……トニー……。トニー……」

助けて欲しいかのように、ジャックはトニーを呼んだ。

盛り上がった赤い尻の穴から、つぷ、つぷと押し出してしまうチョコの粒を、トニーはそのまま口へと含んでいく。

泣いているジャックの尻の穴を舌は優しく舐める。

 

いきなりチェイスの両手が、真っ赤な顔で泣くジャックを捉えて、まっすぐに見つめた。

「浮気者」

ジャックは鼻を啜ってチェイスを見上げた。

「……悪い」

「二度目があると、思わないで下さい」

 

 

チェイスが当たり前のようにジャックの顔を精液で汚すのを、トニーは面白そうな顔をしてみていた。

「トニーはあまりしません?」

ジャックは汚れたそのままの顔で、チェイスのペニスに残るにごった液体を吸い上げる。

「全くしたことがないよ」

確かにトニーは、ジャックの頭を押さえつけてするようなセックスをしない。

 

 

 

「また、ここで会うようなことにはなりたくないけど、楽しくなかったとは言わない」

ドアのところで別れようとしているトニーは、チェイスに苦笑した。

「ええ、会いたいくはないですけどね。ジャックに出来ることがもっとあるってわかったのは、発見だった」

側に立って二人を見送るジャックは、自分のミスに二人が本気で気分を害していたことに気付いていた。

楽しげな顔をして二人はジャックを弄びはしたものの、二人とも、ジャックを抱こうとはしなかった。まだ時間は早い。

抱く気がしないようなルール違反を犯したのは、ジャックだ。

 

「おやすみなさい?」

それでも、トニーはジャックの唇にキスをした。

「明日の朝、会った時にもしおらしい顔をしていたら、許してあげます」

チェイスは、ほんの一瞬、頬に触れるキスをしただけだった。

 

 

END

 

トニーに変態さんの役割を押し付けて申し訳ありません…。