妄想系1 (トニジャ)

 

ベッドに押し付けられ、シーツに顔を埋めている人は大人しく抵抗しない。この場合、ジャックは抵抗しないことが相手をこれ以上興奮させないための方法だと知っているからこうしているだけだ。金色の髪がシーツに沈む。背中を強く押され、肺から息を押し出されても抗わない。

「ジャック」

ジャックは返事をしなかった。ただ大人しく顔の半分をシーツに埋めている。開いた口からは普段とあまり変らなく軽く息が吐き出されていた。ただ、目がトニーの様子を伺う。そして、目が合ったことを悔やむように視線を逃がす。

「いいわけしますか?」

その顔が、どれほど気持ちを煽るのか。

「お前が聞いてくれるなら」

トニーは、掴んでいたジャックの腕をさらに捻りあげた。さすがにジャックの額に汗が浮かぶ。顰められた顔は苦痛の声を洩らさぬためか唇を噛んだ。ジャックの背に覆いかぶさるトニーは、汗の浮かんだ額に自分の額を合わせた。

「自信がない俺を笑いますか?」

ジャックは笑わなかった。けれども、目を合わせようともしない。トニーは、彼の目が許しを請うように自分のことを見つめてくれるのを望んでいた。ジャックは、今の時間を最小限の被害でやり過ごそうとしているだけだ。

トニーがジャックの目尻に唇を寄せると、ジャックは痛いかのように強く目を瞑った。

「怖いです?」

「……怖い。……」

「痛いことはされたくない?」

「……して、気がすむのなら、……それでもいい」

 

暴力に対するジャックのこの諦めのよさは、どこで培われてきたものなのかとトニーは思うのだ。捻り上げた腕は、続く苦痛にそろそろ感覚がなくなる頃だろう。抗うだけの力を持ちながら、従うジャックは額に汗を浮かべたまま目を閉じてしまっている。長い睫がそれでも時々、ひくりと動く。殴ったら?

トニーは、殴る代わりに柔らかなジャックの頬へと口付けた。ジャックはうっすらと目を開ける。従順な様子を見せ、どうするつもりなのかを問う恋人に、トニーはやるせなく笑った。

「殴ってすませておけばよかった」

「今からするか? 顔以外なら」

「いいえ」

キッパリと断るトニーは、拘束にこわばるジャックの肩へと口付けた。トニーは自分の性癖を理解していた。けれどもそれにジャックを付き合わせたことはない。いや、誰も付き合わせたことなどない。多分、ジャックは、トニーのそういった部分に対して感づいてもいないはずだ。

けれども、彼は、耐えられるんじゃないか?楽しめるかどうかは別として。

そうトニーに思わせることがたびたび、ジャックの周りでは起こる。怒りで判断力の鈍ったトニーをそそのかす。

今日だって、トニーにとって最悪な提案でジャックの友達は簡単に誘った。

「そいつ? へぇ、じゃぁ、どう、一緒っていうのは?」

 

 

ペニスを頬張り、懸命に広がった尻の穴には、もう皺が一本もなかった。赤く色づき広がっている窄まりは、根本まで太いペニスを飲み込み、咥え込んでいる。よく肉のついた白い尻は、つらそうな息にあわせて、小刻みに震えていた。けれどもトニーは容赦なく突き入れ、引き出す。強引に突き入れたものを、ゆっくりと引き出すと、肉壁をじわじわと擦りながら出て行く感覚には感じてしまうのか、ジャックのペニスがひくひくと動いた。トニーはカリの張り出しでジャックの粘膜がめくれ上がるまで引き出し、そのままそこの眺めを楽しんだ。頼りないような小ささだった尻の穴が粘膜の色まで見せて懸命に大きく開き、必死にペニスを咥えている。肛口を大きく広げられたまま放置されるのが気持ち悪いようで、ジャックがぶるりと震える。トニーは満足し、また、強く突き入れる。

「……っ」

シーツに手をついた形のまま、衝撃をなんとかジャックはやり過ごした。簡単に倒れ込んでしまわないジャックの強固な筋力は、トニーを高ぶらせる。今のような強いだけの突き入れでは、快感どころか痛みを感じたはずの下腹をトニーは撫でてやり、そのついでにいつもよりずっと力なく勃っているペニスを握った。陰毛ごと強引に扱く。

「楽しんでないみたいですけど?」

目を閉じてしまっている人の耳を噛む。

「……痛い……痛い。トニー」

「さっきのは我慢して、こんなちょっとした痛みのことは、言うんですね」

トニーがあまり強引にペニスを扱いたせいで、ジャックの陰毛が何本か抜け落ちシーツへと落ちた。一旦、トニーは力をなくしてしまったものから手を離す。けれど、ジャックの腹の深い位置にペニスを埋めたまま、もう一度、楽しんでいないペニスを今度は撫でるように握りなおした。ゆっくりとしたテンポで中を穿ちながら、ジャックのペニスを擦る。ジャックのいい位置をトニーはとっくに知り得ており、緩く締め付けながらペニスを扱き、的確な位置を狙って尻の奥を犯してやれば、手の中のペニスは、徐々に力を増していく。

「単純な仕掛けだ」

強張るばかりだったジャックの背中の筋肉も弛緩しだした。無意識だろうが、ジャックの尻は快感を求めて少し位置を上げた。トニーは、望みをかなえてやる。

 

「……トニー、……トニー」

どうやら普段に戻ったようなセックスに、ジャックは安心し始めたようだった。それでも頭を枕に押し付けるようにし、大きく足を開いたポーズは、いつもの彼よりもずっと献身的だ。トニーは正直ジャックの態度に驚いている。

けれど、このままジャックを満足させるセックスはする気もない。

先端のくぼみへと雫を溜めているものが十分に感じているのを確認し、トニーはジャックの一杯に開いた尻の穴を指の腹で撫でる。口にはぎゅっと力が入って窄まった。指で繋がった部分を撫でられるのにぞくりと感じたしたらしく、ジャックの体には力が入り、中のトニーを締め上げた。トニーはそのまま尻のスリットを指先で奥へと撫でていく。

「ジャック」

開かれた足の間は暖かく、トニーはそのまま陰嚢の裏まで指を進める。

潤んだ目をして首をねじって振り返ったジャックを、さらに安心させてやるように甘く微笑みながら、トニーは緩く揺れている二つの袋を掴んだ。そっと揉む。ジャックが、薄く唇を開く。

「あなた、気持ちがよさそうだ」

トニーはそこから手を戻して、もう一度、つながったままの肛口に触れた。そこはもう、一杯に開いている。けれど、トニーは容赦なく指を埋めた。

「……っひ、痛っ!」

ペニスを納めるだけで精一杯の尻の穴に、さらにまた指が増やされ、ジャックの手が必死にシーツを掴む。

「辛そうだ」

もう余裕のない肉の間へ、無理やり埋めていく指にはそこが例え濡れていてもきつい負荷がかかった。だが、トニーは止めることなくずぶずぶと沈めていく。

「やめ、ろっ! トニー!」

ジャックの目が助けを求め泳いだ。

「大丈夫、入りますよ」

「……無理っ……!」

「……ほら」

トニーは、緊張に固いジャックの尻を眺め、唇を舐めながら、満足そうに笑った。「入った」

 

実際、無理やり引き伸ばした場所に納まった指は痛いほどだった。四つん這いのまま、強くシーツを握るジャックは額に汗を浮かべ、不快感に耐えている。だが、トニーは、うねる腸壁を指の腹で刺激した。

「やっ! や、だっ! やめてくれ! トニー!!」

突き入れたままのペニスを軽く動かしながら、内側の膨らみを指先でそっと撫でてやれば、ジャックの体はきつく収斂する。

「気持ちがいいから?」

ひくひくと熱い赤い粘膜は動いている。トニーはとうとう睨みつけてきたジャックに甘く尋ねた。

「いきそうでした?」

ジャックは長い睫を濡らして俯いてしまった。

「いいですよ。出して。いったら抜いてあげますよ」

 

苦痛と同居した甘い感覚のなかから、快感だけを拾うと、懸命に目を瞑って指まで咥え込んでいる尻を振る人を痛ぶるように、時々、タイミングを外しながらペニスを使っていたトニーに、ジャックが許しを求めてきた。

「いき、そう。……そのまま、もう少し」

しかし、トニーはジャックの望みである同じペースでの突き上げはやめてしまった。辛そうな顔をしたジャックが求めたペースを乱して、いきなりトニーは指を使い内側から前立腺をなで上げる。

ビクビクと体を震わせ、あっけなくジャックは射精した。だが、強すぎるだけだった快感に、ジャックは体を丸め込むようにして、シーツに額を埋め耐えている。シーツを汚した精液の匂いが部屋に広がる。

はぁはぁと、苦しそうに吐き出していた息が落ち着くと、ジャックは気が済んだか?とトニーに尋ねた。

「……抜いてくれ」

トニーは、さすがに機嫌の悪そうなジャックを引き寄せ、口付けた。

「ジャック。指が抜けたのわかりませんか?」

 

もう嫌だと怒鳴るジャックに、トニーは続きを強要した。

「僕は、誰かとの共有ってのは、嫌いなんです」

「だから、今は、もう、誰とも!」

「ええ、でもあなたの昔なじみは、そう思ってるかどうか、怪しいものですけどね」

 

 

疲れ果てたのか、意識を失うようにすとんと眠りに落ちたジャックの髪を撫でながら、トニーは、大きなため息をついた。

「……嫉妬深過ぎる」

どんな過去があるのか、想像するのも嫌になる経験深そうなジャックにとって、こういった行為がそれほどの爪あとを残せぬことをトニーはわかっていた。ジャックも嫌な思いはしたと思う。

けれど。

トニーは決して開けたくなかった扉を開けてしまった。最悪な気分だ。酷いことを強要すればするほど、興奮する自分は最低だった。しかも、トニーは、それに恋人が耐えることが出来ることを知ってしまった。

 

 

 

「ジャック、好きなんです」

トニーは、このとても大事な年上の恋人が好きだった。

 

 

END

 

色々問題があってすみません。