24小話 5
*反省
「ジャック……」
任務を遂行する上で、またもや自分しか通れぬ近道を強引に通りきり、結果を持ち帰ったジャックを前にトニーは小さく頭を振った。
「ジャック。……あなた、可愛がってるのに、チェイスをあんな目にあわせて」
トニーの元には、上申書が提出されている。それは、上司の部下に対する不当な暴力についての訴えが書かれている。
「痛くはなかったはずだ」
「まあね、痛くなった大半の理由は、本人の努力によるものですけど」
部屋の隅ではチェイスがジャックを睨んでいる。チェイスはジャックに睡眠薬を飲まされ、置いてきぼりをくらったのだ。眠くなった瞬間、チェイスはやばいと壁に頭を打ち付けた。怪我の原因はそれだが、トニーは、二人の上司として事情を把握しなければならない。
「ジャック。あなた、最初からチェイスを置き去りにするつもりでいながら、踏み込みの打ち合わせの最中に、チェイスに睡眠薬入りのコーヒーを差し出したんですよね? チェイスにあなたの分まで使用銃器の許可を取らせて、憐憫の情が湧かなかったんですか?」
「……いいや」
ジャックは呟く。
「チェイスは、かわいそうな奴だ。と、思った」
「だったら、ジャック……」
「チェイスは、コーヒーのおかわりを欲しがったんだ」
*頭が痛い
パソコンの画面に目を通していたトニーが呟いた。
「……頭が痛い……」
すると、ミシェルが「何か、問題が?」と、すぐトニーへと近づいた。
地図を見ながら、チェイスが呟いた。
「……頭が痛い……」
「珍しいこともあるもんだな。風邪か? 薬を飲むか?」
近くに座る職員たちは、今日、現場にも出なかったチェイスの体を気遣う。
現場から帰ったジャックは、デスクに近づくと、書類を手に「くそっ、……頭が痛い」と、額を押さえた。
1階のフロアに座るCTUの職員たちの視線がジャックに集中した。
「……なんだよ。俺だって……」
あまりに皆が自分を見るため、落ち着きなく視線を外したジャックに、眉間に皺を寄せたクロエが言いだしにくそうに、しかし、はっきりと状況を伝えた。
「……ジャック。仮病を装うには遅すぎます。あなたがチェイスを外して、対象と極秘に接触を持ったことがトニーにばれてます。あなたが帰ったら、どんなことを言い出そうと、絶対に逃がすなって、トニーが厳命を出してるんです」
*「ジャック、君の意見は?」
ジャックは、会議に出席している夢を見ていた。……目覚めると、まさしくジャックは会議に出席中だった。
*びっくりしたんです!
「好きだぞ。チェイス」
思いもかけない言葉をジャックから貰い、チェイスは驚いた。
あまりに驚き、信号が変ったというのに車のアクセルを踏み忘れたほどだ。
たまたま後続の車もなく、車は信号の色が全て変り終わるまで、愛の言葉を封じ込めたままそこに留まった。
その頃にはチェイスにもじわりと嬉しさがこみ上げてくる。キスでも!と、気分を盛り上げたチェイスだったが、ジャックは、実に迷惑そうな顔だ。
「……チェイス、お前、自分好みの色がでるまで発進しない気なのか?」
*CTU、時々、命がけ
ジャックの声が無線機から怒鳴った。
「対象の捕獲に失敗した。彼女は寝室から逃走中だ。よくあるシルバーのベンツだが、彼女は服を着る間もなく全裸で飛び出したから、発見しやすいはずだ」
連絡を受けたトニーは、ジャックの仕事への集中力を尊敬した。と、同時に、それ以外のことをまたもや失念しているらしいジャックに苦笑を漏らした。
「トニーだ。Bチームはジャックの下に集合。追跡をフォローしろ」
勿論、トニーは付け足した。
「急行するのはBチームだけでいい。わかってるな。全チーム、これは忠告だぞ。個人的な理由で作戦のフォローを希望する奴は、ジャックに撃ち殺されるつもりでいろ」