小話24(610

 

* へぇ……そんなに前から……。

 

「トニー。信じてくれないかもしれないですけど、初めてジャックがYESって言ってくれた時、俺、しなかったんです」

チェイスは真摯な目でトニーに訴えていた。

二人は、同じ一人を共有する間柄だ。チェイスは、自分の愛情の深さをトニーにも理解して欲しかった。

だが、トニーは、メモ書きをやめることもせず答えた。

「それは当然だな。初めてジャックがYESって言ったとき、まだお前はここにいなかっただろ」

 

 

* マニアックラバー

 

トニーのオフィスに現れたジャックは、顔を真っ赤にしながら、思い切りトニーの頬を殴った。

「畜生! お前のやり方はやっぱり変なんじゃないか!」

椅子ごと倒れこんだトニーは、ゆらりと立ち上がると、ジャックの喉下を締め上げた。

「……ジャック。どうして俺のやり方が変だって気付いたんです? そう思うに至ったあなたの経験を聞かせてもらいましょうか?」

 

 

* 情報は意外なところから漏れる。

 

ジャックの遠縁にあたる女性がCTUを訪ねた。

ジャックは、彼女が連れている小さな女の子に微笑みかけた。

「どうしたの? ジャックおじさんよ。もう随分前に会ったきりだから、照れくさいの? ほら、キスしてあげたら」

女の子はしり込みした。

「嫌よ。私、さっき見たんだもん。ジャックおじさん、この人がキスしたら、ものすごい勢いで殴り倒してたのよ!」

彼女の指差す先には、チェイスがいた。

 

 

* 親切なジャックは、英文学の学士号を持っています。

 

「ジャック、あなた、なんであんなこと言うんですか!」

共通の知人を見舞いに寄ったトニーは、病院の廊下で壁にもたれ掛かると、大きなため息を吐き出した。

「ジャック、彼は自分の死期を知らないんです。短編小説ばかり勧めるのはやめてください!」

 

 

*結構寂しがりや

 

ジャックはキレるのが早い。

その時もジャックは、トニーの頭に銃口を押し付け、押し殺した声を出していた。

「トニー。3つ数える。その間に、お前の望みの死に方を決めろ」

正しい間隔をもって、ジャックはカウントを続ける。
1……2……3……

「……さぁ、どうするか、決めたか? 言ってみろ。トニー」

「俺は、老衰で死ぬことを希望しますよ。ジャック。今晩は帰りません。それで、機嫌を直してくれますか?」