小話24(1〜5)
* ジャックの正しい状況判断
日差しも柔らかな休日の一日だったが、ジャックとチェイスは上議院議員と会う必要があった。
親しみやすい笑顔の議員は、自分がハンドルを握って二人を迎えにくるという。
「そんな、結構です」
「いや、家族サービスでね、子供の買い物に付き合う約束があるから」
止まった車の助手席には、恐ろしい顔をしたブルドックが寝そべっていた。
そして、後ろの座席には、二人の男の子。
「狭くて悪いんだが」
乗るように勧める議員に、ジャックは前後の座席を見、そして、自ら助手席のドアを開けた。
チェイスは、自らを危険に晒し、庇ってくれようとする上司に感動を覚えた。
「ジャック。そんな、俺が前に座ります」
「いいんだ。チェイス」
正しい状況判断はジャックがもっとも得意とするものであり、チェイスは、ジャックには犬に噛まれずにすむだけの策があるのだと判断した。
……違った。
車が発進するや否や、議員の二人の子供がチェイスにがぶりとかぶりつき、それは、とうとう車が止まるまでそのままだった。
* 余計に気になります。
ジャックとチェイスは、とあるディナー・パーティに紛れ込んでいた。
「チェイス、何をそんなに気にしてるんだ?」
人目に付くことを避けなければならない任務中の行動だけに、ジャックは、一人の男を気にし続けるチェイスをいぶかしんだ。
「何かあるのか?」
チェイスの背中に隠れるようにしながら、ジャックがちらりと男を伺う。
チェイスもCTUの現場担当だ。機会を逃さず、すばやく背中越しのジャックに伝えた。
「いえ、あの人がしきりと俺の顔ばかりみてるんです。何かばれたのかもしれない」
「ああ、気にするな。あの人は、サットン教授だ。痴呆症の研究で有名な学者だ」
* 女という生き物。
オフィスに立ち寄ったトニーにジャックは尋ねた。
「トニー。こないだの件、マントニ夫人に事実がわかるまで口外しないでくれって、念押ししたか?」
トニーは書類を机に置きながら、ジャックの顔を覗きこんだ。
「しません。……ジャック。そんなことして、これが重要な懸案だって彼女が気付いたらどうなると思ってるんです?」
* 経験者は語る
妻帯者であった経験を持つ二人の意見は同じだった。
「えっ? だって、メアリーが彼に会ったのは、3日前だって言うんですよ? それなのに、もう結婚した!?」
しかし、吠えるチェイスに、ジャックとトニーは顔を見合わせると小さく笑い、背後の机にもたれ掛かるようにして、盛り上がっている区画を遠巻きに見つめた。チェイスは、食って掛かる。
「喜ばしいことですよ。確かにそうなんですけど、でも、信じられない!」
ジャックが床へと僅かに視線を落としながら、チェイスに説明を試みる。
「いや、チェイス。女というものは、馬に乗れもしない乗馬服を着たり、ゴルフがを知らなくても、ゴルフをするような格好をする。泳げなくても水着だって着る」
緩く腕を組んだトニーも若造に世の中を教えてやった。
「ああ、そのとおり。でもな、チェイス。女がウエディングドレスを着た時、この時だけは本気なんだ」
* 学び
「ジャック。こっちを向いてください。どうして、俺の質問に答えてくれないんですか!」
いきり立つチェイスは、ジャックを問いただしていた。
「俺がこんなに怒ってるっていうのに、なんでそのわけすら尋ねてくれないんですか!」
「すまない。チェイス」
ジャックは、車のドアをばたんとしめた。
「その手の質問をすると、今晩俺がどんな目にあうのか、もう、俺は十分学習済みなんだ」