昨年のフジ・ロック・フェスでミラレパ基金の田原さんに話を聞いた時、「来年はどんな形になるかわからないが、何かが起きる。起こす。もう一発はガツンと何かがしたい!」と力強〜い言葉を聞いていたので、期待してました。そして、ガツンとぶちかましてくれました。
東京では3回目のトータルでは9回目となるチベタン・フリーダム・コンサート。今回はしかもあの、ビースティー・ボーイズがチベタンでパフォーマンスするというではないか。これはもう行くしかないでしょう。
ということでソッコウでチケットを購入して行ってきました。
ビースティーズ以外には1回目の東京でも出演した清志郎にチベット人アーティストのナワン・ケチョ、それにMO'SOME TONEBENDER開催直前にはRIZEも決定して全部で5バンドの出演となった。
翌20日には台湾でもチベタンが行われるとのこと。中国と仲の悪〜い台湾での開催はクリントン前大統領が中国訪問を目前にして行われたワシントンDCでの公演に匹敵するぐらいナイスな選択だと思う。
イラク戦争が始まって
3月20日にイラク戦争が始まった。アメリカはどうやら、自分たちの思うように世界が動かないと勝手に戦争でもなんでも仕掛けるらしい。
毎日のように目にする罪のないイラク国民の映像がテレビから流れる。チベタンが行われる4月19日の前にはこの戦争も終結に向かったようだが、こんな今だからこそチベットが掲げる“非暴力”という主義が世界にもっと広がってほしいと切に願わずにはいられない。
イラク戦争が注目を集める中での開催決定には、なぜ今チベタン・フリーダム・コンサート? と思う人もいるかもしれないが、これに対してMCAは「戦争が唯一の問題解決方法の手段として頻繁に提案されているクレージーな時代、我々はより現実的で合理的なアイディアを提示することが必要とされている。今、世界が必要としているのは、非暴力主義に基づく解決方法への理解で、チベット問題はこの解決方法を具体的に表現、提示している。だからこそチベットに自由を再びもたらすための活動を通し、我々は世界の平和に向けても前進していると言えるんだ」とコメントしている。
この時期だからこそ“非暴力”というわけだ。
それに、イラク戦争は今最も懸念される事だけれども、だからといってチベット問題が解決しているわけではないし、今でも多くの政治犯として囚われているチベット人たちが苦しんでいることに変わりがあるわけじゃない。イラクだけじゃなく、アフガンや北朝鮮やその他の世界中の国々で相変わらず問題が山積しているのが地球の現状なのだ。
会場に到着!
午後3時すぎに会場の東京ベイNKホールに到着。前回もこの場所だったが、いや〜東京ディズニー・リゾートって恐ろしいぐらい巨大だねぇ。舞浜の駅前はまるで別世界。ミッキー型の窓がついたバスが走り、頭にはミッキーのミミをつけた女の子や大人の女性が楽しそうに歩いている。このディズニー・ランドの傍でチベタン・フリーダム・コンサートをやろうっていうんだから、まったく不相応な会場だ。でもそこがまた、面白いんだけどね。
まだ開場までは時間があるんで、観客はまばらだ。ボランティアのブースでは緑のTシャツを着たボランティアの人たちが集まって打ち合わせをしているようだ。前回はこの中に自分もいたんだよなぁ。
せっかくのボランティア活動の機会を僕が邪魔しない方がいいと思い、今回はボランティア活動は若い人に任せて、僕は僕なりに動いてみようと思った。それは会場のボランティアや観客から生の声を訊くということ。
開場が近づくと観客も集まってきている。場内に入ると前回同様ダライ・ラマ法王事務所やSTUDENTS FOR A FREE TIBET、アムネスティ・インターナショナルなどのブースが小さいながらチベット関係の冊子や書物、Tシャツなどのグッズなどを販売したり、配ったりと活動をしている。
入り口で今回のパンフレットを受け取り場内を歩いていると、ボランティアの人に署名を求められた。早速署名をした後に彼に話を訊いてみることにした。
仲良く、正直、対話、LOVE & PEACE
訊いた内容は、年齢、チベタン経験、チベット問題の認識度、政治とコンサートやミュージシャンの関係について、署名活動やデモ行進参加の経験、最後に世界をよくするためのキーワードといったところ。
18歳とまだ若〜い彼は今回のチベタンが初参加。Fujirockers.orgのミラレバのボランティア募集を見たのがきっかけで、ボランティアに参加するようになったらしい。ライヴが見れるからボランティアに参加していると正直に答えてくれた。もちろんボランティアの活動の方もがんばってくれているはずだ。
チベタンのような政治色のあるイベントや政治的メッセージを出すミュージシャンについては、何でもかんでもムヤミに開催するのはよくないが、共感する事が多いものならいいんじゃないかと。ミュージシャンの活動については素晴らしい事ではあると思うが、それには自らの言動にちゃんと責任を負うべきだと、18歳にしてはなかなかしっかりした考えを持っているじゃないか。
彼が挙げてくれたキーワードは「仲良く」。そう、この仲良くする事がいかに難しいか。イラク戦争などを見ていると、つくづく仲良くする事の難しさを思い知らされる。
その後も何人かのボランティアや観客に同じ質問をぶつけてみた。以下がその回答のいくつかだ。
話を訊いた人の年齢幅は10代後半から30代前半まで。女性にはちょっと年齢は訊きにくかったな。
過去のチベタンの経験者はボランティア、観客でそれぞれ1人づつしかいなかった。
チベタンに来るというよりも、出演バンドのファンで出るから参加するってことなのかな。まぁ、好きじゃないバンドしか出ないなら、誰も足を運んだりしないから当然か。
ちょっと淋しい気もしたが、前回、前々回とはまた違った人たちにチベット問題をアピールできると考えれば、初参加の人が多いのはいいことなのだから、この方がいいのかな。
チベット問題については、チベタンがきっかけという人が多かった。ボランティアに応募したので本を買って勉強してから参加した人もいたりして、ボランティアに参加する人の意識の高さに嬉しくなったりもした。
これからもチベット問題に限らず、色々なことに積極的に関わっていってもらえるといいんだけれどな。
高校の授業で習ったって言っていた人もいて、今時の高校って社会の授業でこんな事も教えてる学校があるんだとチョットばかりビックリした。
コンサートなどのイベントに政治的な部分が入る事を嫌がる人はいなかった。こういう問題を知る機会があっていいという人が多かった。これは予想できたが、もっと政治政治しててもいいと言う人や、“非暴力”という主義を訴えるこのイベントなら主旨がOKなのでいいが、その内容次第では参加しないともう少し突っ込んで考えている人もいた。
ミュージシャンの政治的発言については、その影響力を考えると、いいことと考える人も多かったが、影響力があるだけに、ミュージシャンの軽はずみな発言などで悪影響を与える事にもなりかねないので、慎重に発言するべきだという意見も。もちろんその発言に耳を傾けるかどうかは聴く本人次第なので、聴く側の我々もしっかりしなくてはいけないという事を言ってくれる人もいた。
イラク戦争で署名活動やデモ行進が頻繁に行われていたので、こういった活動に参加している人が何人かいるかなぁと思って訊いてみたが、デモ行進に参加した人が一人いただけだった。
まだまだ、こういったことに積極的に参加するのは難しいようだ。
そして、最後に訊いた世界を良くするためのキーワード。これがタイトルにある「仲良く」「正直」「対話」「LOVE & PEACE」といった言葉だった。それ以外には「行動」「平和」「非暴力」「相互理解」など。「宗教をなくす」なんていったのまで挙がった。確かに宗教が紛争に結びつく事って多いから、僕も宗教をなくす必要があるんじゃないのと思う事もしばしばあるのは事実です。
もし、あなたなら何が世界を良くするためには必要だと思いますか? そして、今世界に欠けているものは何だと思いますか?
チベタン・フリーダムついにスタート
前置きが長くなってしまった。ここからは、チベタン・ライヴのレポート!
ホールの外で観客から話を伺っていたら、ホール内で声が聞こえてくる。おお、ついに始まった。ミラレパ基金代表の田原さんにスペース・シャワーTVなどでおなじみのブライアンらが登場して、今回のイベントの主旨を説明。最後に「RIZE!」と叫ぶと、RIZEのメンバーが登場してきた。
ヒップホップのノリで、勢いを感じさせるステージを繰り広げるRIZE。勢いで押すタイプなだけにトップバッターにはもってこいだ。彼らなりのメッセージを曲に載せ熱いステージであっという間の30分だった。
続いてはMO'SOME TONEBENDER。3ピースのシンプルな構成のバンドから轟音を浴びせながら、ヒョウヒョウと曲を演奏していく彼ら。途中2度も楽器のトラブルがあって、今回のステージはチョットかわいそうだったな。
次はMCAからのメッセージがあるが、それまで少し時間があったので、ホールの外に出てボランティアの話をしていると、またしてもホール内から声が聞こえてくるではないか。ボランティアの人との話を終えると、ホール内に戻る。MCAがすでにメッセージを伝えているではないか。ボランティアの人もきっとMCAのメッセージを初めから聞きたかっただろうに、ごめんなさい。ステージに出てくるのチョット早いじゃないか。
MCAは今回も“非暴力”の重要さを訴えていた。それを真剣に聞いている観客たち。この光景を見ていて、確かにミュージシャンの影響力の大きさを改めて感じる思いがした。よかったよ、MCAが思慮深くて賢い人で。MCAのメッセージはあなたの心に響きましたか?
次のアーティストはナワン・ケチョ。米国在住のチベット人ミュージシャンだ。
第1回目の東京公演では、初めて見せたその素晴らしい演奏に観客をアッといわせたらしいが、今回も素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた。彼が「チベットが自由になり、平和な大地になりますように」とメッセージを告げると、会場からは一斉に賛同の声が挙がった。
それにしても、あのブォーと唸るチベットのホーンのような民族楽器には本当に驚かされる。まさにアートと言うに相応しいアーティストだナワン・ケチョという男は。
通訳を通してチベットの開放を訴える彼を皆が暖かい目で見ている感じがして、とてもいい雰囲気に包まれていったのが印象に残っている。
最後には前回同様元ブルーハーツのドラマー梶原徹也とのセッションでこれまた圧巻なステージを見せてくれた。
やってくれました清志郎
ステージチェンジの間にダライ・ラマ法王事務所の代表者が中国政府の西部大開発による中国人の移住などにより、チベット自治区ですらチベット人は少数民族になっているなどのチベットの現状を報告。
こういった報告を聞くたびに、本当にチベットが開放される事を願わずにはいられない。
そして、忌野清志郎が今回は頭にハゲおやじのようなカツラをつけて、なにやらおかしなカッコウで登場。すると、ダライ・ラマをもじって「ラダイ・マラ」だったか、「マライ・ダラ」だったか、と名乗ってとぼけた感じでスタートした。
ヘンナおじさんの清志郎だが、やる事はさすがと思わせる内容だ。一曲目にはボブ・ディランの「風に吹かれて」を日本語にして聴かせると、次には今回もぶちかましてくれました本人曰く大ヒット曲? タイマーズの「あこがれの北朝鮮」。
そのチョ〜危ない歌詞に客は大受け。拉致問題やテポドンの事なども織り交ぜる2003年ヴァージョンで演奏し、その存在感を見せつけてくれた。
いや〜、この曲を聴けただけでも今回来た甲斐があったってもんだ。って、ちょっとオオゲザかな。
チベタンのためのセットリストということなのか、少ない曲数の中であえて政治色の強い曲を選んでいるみたいだ。
この後も、「イマジン」の日本語ヴァージョンに最後は「君が代」と持ち味を十二分に発揮したステージだった。
ビースティーズ! ここにあり
そして、最後はもうほとんどの人が待っていました! ビースティー・ボーイズだ。ミックス・マスター・マイクのスクラッチに導かれて"SURE SHOT"でスタート!! 一気に場内がヒートアップだ。
ロイヤル・グランド・レーベルの閉鎖など、あまり芳しいニュースが聞かれなかったここ数年だがマイクDやアド・ロックはいつも通りよく動く。ビースティーズは健在だ。ただ、前回の来日公演でも気になったが、MCAはあまりステージを楽しんでいるように見えないんだが、気のせいだろうか。
新曲も交えての約1時間のパフォーマンス。今回はフルセットではないため、来日もメンバーの3人にDJのミックス・マスター・マイクのみ。そのためだったのか、バンド・スタイルの演奏はなし。これもアリなんだろうけれど、バンド演奏がなしということで、"SABOTAGE"もなし。やっぱ、最後はこれで締めて欲しかったんだけどなぁ。
ミックス・マスター・マイクが"INTERGALACTIC"のサワリを始めるもマイクDがそれをストップさせる。これが最後の曲になると説明するメンバーたち。わざわざミラレパの田原さんを呼んで、アンコールはないからこれが本当に最後の曲になると念押しまでして。
わかったよ。"INTERGALACTIC"で盛り上がってやるさ。で、最後の曲となった"INTERGALACTIC"で大盛り上がり大会。
ビースティーズの健在ぶりをしっかりと見せつけてくれたが、新作はまだあまりできていないらしく、次に繋がるような方向性は見ることはできなかった。
会場を後にして気が付いた。しまった、今回はどれぐらい署名が集まったんだろうか。チェックするのを忘れていた。また数字が分かったらミラレパのホームページで報告があるだろう。
チベット問題が解決するまでミラレパのスタッフならびに、関係者のみなさんがんばってください。今回も楽しく有意義なイベントに参加できてよかったですよ。
また機会があったらお話を聞かせてくださいね、田原さん。このホームページでもチベタン・フリーダム・コンサートの裏話なんか紹介できるといいなぁ。
チベット人にいつも笑顔が絶えない日がいつかは来る事を祈りながら会場を後にした。