熱帯林は降水量や気温条件によって熱帯多雨林、熱帯季節林、熱帯サバンナ林、その他に分けられていて、その中でも最大の熱帯林が南米ブラジルのアマゾン流域の熱帯雨林になる。
熱帯林は世界の陸地面積の7%(17億3000万ヘクタールで森林地域全体の約半数が熱帯林)を占めているにすぎないが、500万から1000万種と言われる地球の生物種の半数近くがこの地域に生息している非常に大切な地域なのである。
その熱帯林が1940年から80年までの40年間で約半分消滅していて、81年から90年までの10年で日本の面積の4倍、さらに91年から95年まででは日本の面積の1.5倍ものスピードで熱帯林が消滅しているのである。
それに伴って、一日当たり約200種、これまでに約1万種の生物種が絶滅しているといわれている。
減少の主な理由としては、無計画な焼き畑農業、燃料としての大量利用、商業伐採、農場や牧場への転用、酸性雨、道路やダムの建設などがあげられる。
特に日本は、世界一の木材輸入国で全体の約2割を占めており、この問題に対して大きな影響を与えている。
熱帯林の減少が及ぼす影響
二酸化炭素を吸収する熱帯林などの森林が破壊され減少すると、二酸化炭素量が増加し、地球温暖化が今以上に進むことになってしまう。また、森林は多量の水を樹木や土壌に蓄えていて、その水が蒸発して雨となるため、蓄えていた水が減少して雨の量が減るといった気候変動を招いてしまう。そして、水を蓄えられない土壌となってしまうと、一旦大雨が降ると雨が森林に吸収されず流れ出てしまうため、洪水が起こる可能性が高くなってしまう。同時に栄養豊富な土壌が雨と一緒に流出し、森林の環境が著しく破壊されていってしまう。
気象に関すること以外にも、熱帯林の破壊によって未知のウイルスが人間社会に現れるといった危険もある。実際、エイズ、エボラ、マールブルグなどの致死率の高い恐ろしいウイルスは突然変異で現れたのではなく、人間がジャングルに侵入したために発見されたものなのだ。
熱帯林にある貴重な植物種の遺伝子資源の成分から現在使われている薬の開発が行われているが、熱帯林の破壊と共に、これらの貴重な植物種が消滅してガンなどの治療に有効な遺伝子資源がみすみす消滅してしまうとこともあるのだ。
熱帯林の破壊はこの地に住む原住民をも絶滅の危機に追いやっている。例えばアマゾン地域のインディオは、白人がこの地に来て以来1000万人近くいたにもかかわらず現在では32万人に減少してしまっている。実に96%もが死滅しているのである。
熱帯林の保護対策
1983年に採択された国際熱帯木材協定(ITTA)や、85年に採択された熱帯林行動計画(TFAP)などにより、熱帯林の適正な開発と保全がはかられるようになった。
また、86年には国際熱帯木材機関(ITTO)が設立され、熱帯林の保護、育成に関するプロジェクトが実施され、94年に新たに国際熱帯木材協定が採択され、2000年までに熱帯木材の輸入は持続可能な森林に限られることになった。つまり、森林破壊に繋がる木材は輸入できなくなったのである。
しかし、こういった動きの中で問題も多く残されている。例えば、植林に関して言えば、将来の伐採を目的としているため、成長の早いユーカリやアカシアを植えるため土壌の栄養分を短期間で吸収してしまい、土地の劣化を招いたり、同じ樹木ばかりで豊かな生態系が形成されないといった問題がある。
1992年のブラジル地球サミットで条約を作って規制することが検討されたが、先進国の思惑が絡み法的拘束力のない「森林原則声明」が作られるにとどまり、思ったような成果は上がっていない。
生物種の保護に関してもブラジル地球サミットでできた「生物多様性条約」の下に『森林議定書』を作成しようと試みられたが、自国のバイオ産業を優先するアメリカが条約に加盟せず生物多様性条約自体が役立たない状態が続いている。
先進国や大企業が、利権に絡んで一方的に開発を進めてきたために、熱帯林をはじめとする地球の環境は著しく悪化してきている。いまこそ、我々一人一人が真剣にどうするべきかを考える時が来ているのではないだろうか。