Victor

Released 1/1996


Don't Care
Promise
Start Today
Mr X
At The End
Sending Out A Warning
Shut Up, Shuttin' Up
Strip And Go Naked
The Big Dance
Victor
I Am The Spirit




ドント・ケア

もう何も言うな、明かりを消してくれ
おまえを夜の奥深くへと誘おう
だが、視界に入る前に、出て行ってくれ
もう一騒ぎ起こす必要はないのだから
おまえの同情もいらない
優しい愛なんて、俺に期待しないでくれ
俺の前に跪くんだ
精一杯やれよ――俺を自由にしてくれ
しっかりやって――俺を解き放ってくれ
やれよ――俺を自由にしてくれ
しっかりやって――俺を解き放ってくれ

哀れみはごめんだ
慈しみも欲しくない
寛大さなどお呼びじゃない
公正さなんて、知ったことじゃない
親切はいらない
おまえの心など欲しくない
何が足りないかなんて、知ったことじゃない
スマートさなんて、どうだっていい

後ろから不意打ちを食らわせてやる
わかっているだろうが、俺のタッチは優しくないぜ
俺には愛情なんかない、力だけで縛り付けるのだと
おまえもそう気づくだろう
何の感情も見いだせやしないさ
おまえの足の間に横たわり
背中からのしかかるのを、持ちこたえろ
夜も昼も、ヤりまくってやる
しっかりやれよ――俺にやりがいを感じさせてくれ
しっかりやれよ――俺にやりがいを感じさせてくれ

哀れみはごめんだ
慈しみも欲しくない
寛大さなどお呼びじゃない
公正さなんて、知ったことじゃない
親切はいらない
おまえの心など欲しくない
何が足りないかなんて、知ったことじゃない
スマートさなんて、どうだっていい

同情など、いらない
優しい愛など、俺からは得られやしない
ただ、俺の前に跪け
しっかりやって――俺を解き放ってくれ
しっかりやって――俺を解き放ってくれ
精一杯やって――俺を自由にしてくれ、頼むから




プロミス

グラスにもう一杯だけ
うんざりするほど数限りない日々のために
タバコをもう一服
日常から解き放たれるために

決まりきった型なんて、ぶち壊せ
汗水たらして働けよ
交わした約束なんて、破ってしまえ
今、世界を捜し求めて
過去は振り返るな
今日のための約束を交わそう
安全なんか置き去りにして
この人生は捨て去って
手遅れになる前に旅立とう
君にとってたった一つのチャンスだ
ロマンスのふりなんかやめて
新しい約束を守るんだ

これほど恐れを感じないとしたら、どうだろう
なぜ勇敢になれないのだろう
分かち合ってきたものは、すべて忘れた
僕が渇望するものを、君は与えられない

グラスにもう一杯
もう一錠、薬を飲み下す
もう一日だけ
死にそうな気分だ

君が僕を行かせてくれたら、どうだろう
救いが必要なのは僕だと思っているのだろう
君の人生は悲劇的で、自己中心的な芝居
僕が渇望するものは、君にはどうにもならないものなんだ

僕が欲しいものを
君は決して与えてはくれない
君が求めるものは
僕に死んだような人生を送らせること

決まりきった型なんて、ぶち壊せ
汗水たらして働けよ
交わした約束なんて、破ってしまえ
今、世界を捜し求めて
過去は振り返るな
今日のための約束を交わそう
安全なんか置き去りにして
この人生は捨て去って
手遅れになる前に旅立とう
君にとってたった一つのチャンスだ
ロマンスの振りなんかやめて
新しい約束を守るんだ

決まりきった型なんて、ぶち壊せ
汗水たらして働けよ
交わした約束なんて、破ってしまえ
安全なんか置き去りにして
この人生は捨て去って
手遅れになる前に旅立とう
今、世界を捜し求めて
過去は振り返るな
今日、新たな約束をしてくれ

交わした約束は守れ
約束を守るんだ




スタート・トゥデイ

しっかりとその腕で私を抱きしめてほしい
私が間違っているかもしれない時には、教えて欲しい
私はピンクで、あなたはブルー
あなたを信じて、私の人生を丸ごとあなたに預けてもいい?
あなたに寄りかかりたい時に
気まぐれに扱ったりしないで
私はあなたにとって、片手間にはならないつもり
あなたが得るものは、あなたのそのもの

他の誰よりも、あなたはひどく傷つけることができる
一人前の男なのに、子供っぽいところもあるのね
あなたには力が必要、しっかり自分の足で立つことが
私に助けを求めるように見つめないで
あなたがその気になったら、私はここにいるわ
あなたの抱く恐れを消すことを、私も手伝ってあげられる
しっかりと自分の足で立ちなさい
私のこの熱気を感じたいのなら

過ぎて行く事にわずわらされず、頭をすっきりさせなさい
過去は変えられないのよ、なのにどうしてやってみようとするの
今まで学んだことの積み重ねを、足場に変えることが出来る
今日から、始められるのよ

こんなに大変だなんて、誰も言ってくれなかった
何かを分かち合う時には、大変な覚悟が必要
あなたが私を見る時、これだけは覚えておいて
あなたはあなた、そして私は私なのだと
あなたがその気になったら、私はここにいるわ
あなたの抱く恐れを消すことを、私も手伝ってあげられる
しっかりと自分の足で立ちなさい
私のこの熱気を感じたいのなら

過ぎて行く事にわずわらされず、頭をすっきりさせて
過去は変えられない、なのにどうしてそうしようとするの
前を見て、より良き日々に目を向けて
努力をすれば、必ず報われるから
今まで学んだことの積み重ねを、足場に変えることが出来る
今日から、始められるのだから




ミスターX

インストルメンタル




アット・ジ・エンド

彼は本を開き、昨日の光景を眺める
年をとり、老いさらばえていくその前には
どんなに笑い、愛し、生きていたことか
今彼は部屋に、ただ一人で座り
時計の時を刻む音がこだまする

すべての人生の美しさを、そしてすべての恐れをさえ
かつて彼らはともに楽しんだ
彼の魂から湧き出た孤独の叫びは
ただ彼の耳にしか届かない
アルバムのどのページの写真にも
彼の涙の跡がある

どうすればいいのか、わからなかった
どうなっていくのかも、わからなかった
彼に残されたものは、何一つなかった
彼女がいってしまってからは
何も残っていなかったのだ

心は決して消せない思い出に溢れる
彼の長く孤独な人生の中で
あらゆる正しいことも誤りをも、思い起こされてくる
彼はもはや、妻の姿しか見えない
彼は言った「私の目を引き抜いてください」
彼は言った「私の耳を塞いでください」
彼は言った「私の舌を黙らせてください」
彼は言った「私の空虚な年月を取り去ってください」

唯一つ最後の願いは
彼女の顔を見ること
最後の息を吐き出して
彼は死神に呼びかける
彼は銃を取り上げながら
その銃を構えながら
最後にその銃の照準をぴったり合わせながら
彼は太陽に最後の一瞥を投げかける




センド・アウト・ア・ウォーニング

彼の心につながる神経は脆く
その発信者が吐きかけた唾が顔を流れ落ちる
渇望と要求とは、ただ意味のない二つの言葉
三番目のものは、もし彼女が知っているとしたら、優雅さなのだろう
彼女は殺し屋のように、ヴァイス・スムーザーをしっかりと握り締める
誰かの命をこっそりと消すために
彼の罪の意識はその動きを支配するが、何もうまく行かない
それははっきりしている
彼らの戦争は、他のどの戦いと同じように
すべての骨折りは無に帰し
諸刃の剣と化したのだ

警告を送る
警告を送る

彼は今、ぎりぎりの淵にいる
すべてのものは上がっていくか、下がっていくかの
彼女は彼の眼前にいる
彼は自分が溺れそうな気分になっている
彼女は復讐しようとしている
その意図は容赦なく伝わってくる
その思いにつかまれ、彼を突端から突き落とすだろう
行き過ぎだ、でも彼は彼女の油断できないやり口を知っている
彼は懸命にやった、だがどうにも修復できないことはあるのだ
あまりに多くの限界を踏み越えすぎた、その報いを受けるのだ
おまえの知っているあらゆるぬくもりは、氷へと変わるだろう

警告を送る
警告を送る…




シャット・アップ・シャティング・アップ

「そんなたいしたことじゃないのよ、本当よ、彼に台座をおろしてって言っただけ…」
「何言っているの、そんなたいしたことじゃない? すいぶんな要求じゃない…」
「そう? 私はただ夜トイレに行く時には台座を下ろしてって頼んだだけよ…私がそこへ行って座ると、冷たくて、濡れちゃうの。それにあの人、頭より足の毛のほうがあるんだから…」
「あら、私、床の上の毛皮の敷物だったら、好きよ!」
「あの人たち、何やってるの…?」
「ああ、毎日カーペットはめちゃめちゃにするし、トイレはそんなでしょう? あの人たちそんなに背が高いから、屈まなくちゃならないの? そんな大変なこと?」
「それは大変なことよ」
「でもあの人たちにも一つだけいいところがあるの、何かわかる?」
「何?」
「普段は、すっかり忘れてたんだけれど、ただギターを弾いていればいいのよ」

「あの人ったら、この間の休暇の話をいまだにしたがるの。それも微に入り細に入り、些細なことまでね」
「ええっ!…」
「もう我慢できないわよ、どうすればいいと思う?」
「あの写真は始末した?」
「ああ、あの写真ね! もし彼があれを見たら、心臓麻痺起こすでしょうね!」
「あの人たち、素敵だったわよね」
「本当にそうよね。でも彼は知りたがるのよ。『どこに行っていたんだ? バーには行ったのか? くっついて踊ったのか、離れて踊ったのか?』」
「そうね、そしてこう言うわね。『何を着て行ったんだ?』」
「なんてことでしょう。そしてこう来るわよ。『そいつらは君を見ていたのか? 誰と一緒に踊ったんだ? 君を家に送っていったのは誰だ? そいつらは僕より若いのか、年上か? 僕より優しかったか?』」
「それでどうなると思う?」
「まあ、ひどいんでしょうね」
「私はいつも彼に言うのよ。『ねえ、あなた。黙ってギターを弾いていてよ!』」

「彼はあなたに、あばずれごっこをやってくれって言う?」
「ああ……そう聞いてくるなんて、信じられないわ。いつもそうよ。本当に、いつも」
「それって、いつも同じね。あのくだらないおふざけは。ウンザリだわ。派手にお化粧して……口紅に、ヘアメイクに、おしろいに、尻軽っぽい服に、マスカラ、付け睫毛! 無駄毛の処理も頼んでくるの?」
「それ全部ひっくるめて、当たっているわ。それから髪染めもね」
「あらまあ、本当に同じね。ウンザリだわ。女はみんな、一人一人違っているっていうのに」
「問題はね、私たちには何の見返りもないってことかしら」
「ああ、まったくね、まあでも、そのうちに報いが来るでしょう」
「長い目で見れば? ああ、短い目で見れば、そうね。あの人たち、ギターを弾かなければいけないから」

「彼って、いつも自分に注目を集めたがるのに、気がついている? いつも自分が自分が自分が…なのよ」
「いつもいつも?」
「そうよ、もう耐えられないわ。彼が家に帰ってくるでしょ? そうするとね、私が彼に抱きついて、彼がどんなに素晴らしいか、あんなこともこんなことも言ってくれることを期待しているわけよ」

うるさい!

「愛しているわ、愛しているわ、あなたが最高よ。あなたのような人は、他にないわって」
「まったくね、何回そう言ったと思って? 私はただくつろいで、ちょっと一杯やりたいだけなのに」

黙れ!
「ちょっと抱きつくと、それ以上のものを求めるわけでしょ?」
「そうよ。ただ抱きつくだけじゃすまないの。それ以上どんどんエスカレートして行って、最後には……」
「いつもお決まりのコースね」

おい、黙れ!
「信じられないわよね、それがずうっと続くのよ」

うるさい、黙れ!
「でも、一つだけいいところもあるわ。ただギターを弾いている時ね」

黙れ! ああ、黙ってくれ! 頼むよ、止めろ、うるさい、うるさい、うるさーい! 黙れ!

(歌詞はPower Windows Siteより転載)



ストリップ・アンド・ゴー・ネイキッド

インストルメンタル




ビッグ・ダンス

いろんな場所で、僕を見たはずさ、そしていつも目立ってた
大勢の人の顔にキスして、よどみなくしゃべって、
そう、サメか何かのようにね
友達はいない、わかってくれたら良いんだけど
貰えるものは貰っておくことにしている、それが良いものならね
愛のためじゃない、でも君の金なら、喜んで貰うよ
悲しむふりも、愉快そうなまねも出来ない
でも僕が踊る時、その動きを君は気に入るはずさ
若々しい装いでね、入り方も心得ているさ
あいつのことは気にするんじゃない、ここにはいないんだから
まあどっちにしても、僕が気にする問題じゃないね

僕は君にとっての、愛の天使を演じたい
君の孤独の痛みを、消してあげることが出来るから
そうさ、僕の中に深く入っておいで、君の苦痛を癒してあげる
もう他の奴は、君の愛の天使には、なれやしないさ

君は僕をかごの中に閉じ込めておこうとするんだね
覚えておくと良いよ、君は僕の二倍は年上なんだから
君は僕が永遠に君を求め続けると思っているみたいだけれど
まだ二週間しかたっていないのに、君は退屈させるね
わかっている、君はまだ慣れていないんだろう
ルールもわかっていないんだ
君の人生、僕に預けて幸せになれるって言うのかい
君が誰か他の人の妻だってことは、問題じゃないよ

僕は愛の天使に見えたかもしれない
本当の僕自身は、はっきりわからないものだけれどね
僕は愛のために生きているじゃない、だから付きまとうのは止めろよ
僕が気にしているのは、君が金持ちかどうかだけなんだから
まだこのゲームを続けたいのか、決めるのは君さ
その代償は、君にとって、もはや同じじゃないだろうけれどね




ヴィクター

ヴィクターはこの世に生を受けた、小さな赤ん坊として
父は小さな彼を膝に抱き、言った。
「一族の不名誉には、なるんじゃないぞ」
ヴィクターは父親を見上げた――大きな茶色の瞳で
父は言った
「ヴィクター、我が一人息子よ、決して嘘はついてはいけないのだ」

凍える十二月のことだった、それは決して実りの季節ではなく
父は靴紐を結んでいる間に、心臓発作で世を去った
父が墓に埋められたのは、凍える十二月のことだった
伯父がヴィクターを見つけたのは、
ミッドランド州バンクのキャッシャーの側だった

その凍える十二月、ヴィクターはまだ十八歳だった
しかし彼は立派な身なりで、すっきりとし、カフは常に真っ白だった
彼はペヴァリルに宿をとった、しゃれた下宿屋に
猫がねずみを見張るように、
時はヴィクターが日々を過ごすのをじっと見ていた
ヴィクターは寝室に上がると、目覚まし時計をセットし
ベッドに登って、聖書を取り出し、イザベルの寓話を読んだ

四月一日のことだった、アンナがペヴァリルにやってきた
彼女の瞳、その唇、その胸、その腰、
そしてその微笑が、若者を燃え立たせた
四月二日、彼女は毛皮のコートに身を包んでいた
ヴィクターは階段のところで彼女に出会い、恋に落ちた

最初の求婚に、彼女は笑って答えた。「私は絶対、結婚しないわ」
二度目の時には、彼女は沈黙の後、微笑んで首を振った
アンナは鏡を覗き込み、口を尖らせ、顔をしかめた
「ヴィクターは雨の午後のように退屈な人だけれど、私も身を固めないとね」
三度目のプロポーズの時、彼らはレザボアのほとりを歩いていた
彼女は彼にキスをした、それは頭に一撃を受けたような衝撃だった
彼女は言った、「あなたは私の求める人よ」
彼らは八月の初旬に、結婚した
彼女は言った、「キスして、私の愉快な人」
ヴィクターは彼女を腕に抱き、言った
「おお、僕のトロイのヘレンよ」

召使たちは、アンナの噂話をしていた、ドアは少し開いていた
一人が言った「気の毒なヴィクター、でも知らぬが仏だろう…」
ヴィクターはたった一人で、日没の空を振り仰いだ
そして叫んだ。「父よ! あなたは天におられるのですか?」
しかし空は言った。「所在は知らぬ」

ヴィクターは山を仰ぎ見た、山々は雪に覆われていた
彼は叫んだ「父よ、僕に満足しておられますか?」
答えが返ってきた。「否」と
ヴィクターは森にやってきて、叫んだ
「主よ、彼女が誠実だったことが、あったでしょうか?」
樫やブナの木は頭を振り、答えた
「おまえに対しては、一度もない」
ヴィクターは牧場にやってきた、そこには風が吹いていた
そして叫んだ。「ああ、神よ、僕は彼女をこんなにも愛しているんです」
しかし風は答えた。「彼女は死ななければならない」
ヴィクターは川にやってきた。流れは深く、静かだった
彼は叫んだ。「天の父よ、僕はどうすればいいのですか?」
川は答えた。「殺すのだ――」

アンナはテーブルの前に座り、カード遊びをしていた
アンナはテーブルの前に座り、夫の帰りを待っていた
ヴィクターはドアのところに立っていた。彼は一言も発しなかった
彼女は言った。「いったいどうしたの、あなた?」
しかし彼は彼女の言葉が聞こえなかったように振舞った
彼の左の耳には声がこだまし、右の耳にも声が響いていた
その声は頭骸の底から囁きかけていた
「彼女は今夜、死ななければならない」と
ヴィクターはカーヴィングナイフを手に取った
その姿は何かに憑かれたようだった
彼は言った、
「アンナ、君は生まれてこなかったほうが、良かったのかもしれない。君にとって――」

アンナはテーブルから飛び上がった
アンナは悲鳴を上げ始めた
しかしヴィクターはまるで悪夢のように、彼女の背後からゆっくりと歩み寄った
彼女はソファの背後に逃げ込んだ、彼女はカーテンを引きちぎった
しかしヴィクターは彼女をゆっくりと追いかけていた、そして言った
「神の前に立つ心積もりは、できたかい?」

彼は死体を見下ろして立っていた、彼はまだナイフを捧げ持っていた
階段を流れ落ちていく血が、歌っていた
「我は生命の復活なり――」
彼らはヴィクターの肩を叩き、ヴァンの中に連行していった
彼は一塊の苔のように静かに座り、言った
「我は人の子なり――」

ヴィクターは片隅に座り
粘土の女性を形作っていた
こう言いながら
「我はアルファでありオメガである。我はいつの日か裁きを下すために現れる」




アイ・アム・ザ・スピリット

私は−冬の、満天の星空
私は−それをうっとりと見つめる瞳
私は−冷たく、灰色の岩山
私は−その山道を登ろうとする人
私は−海、穏やかで、それでいて恐ろしげな
私は−チャンスをつかもうとする者
私は−清浄で、それでも汚れた空気
私は−立場を表明しようとする者
あなたが所持するものはすべて、そうあるべきもの
あるものはすべて、あなたが作り出したもの
あなたが作り出したものは、すべてそこにある
すべてのものが、あなたのために

私は丈高く、見目麗しい建物
私は建築者、そして保守するもの
私はキャンバスに描かれた絵画
私は絵描き、そして分け与えるもの
私は−木々、力強く、沈黙している
私は−大地、すべての生命を生み出す
私は−太陽、愛し、そして殺すもの
私は−子供、あなたを通して生きる
私は明日のために、建造物が必要
私は今日、始めなければならない
私には、過去の悲しみに生きる時間はない
自らの道を進みたいだけ
確信するだけの力が欲しい
最後の日が必要だ
的確な選択をするセンスが欲しい
自らの道を進みたいだけ

あなたはあなただけのもの
私は私だけのもの
あなたは一人きりで寂しい
私は一人きりで寂しい
あなたが私に分け与えてくれたなら
私もあなたに分け与えることが出来る
私はいつもあなたに分け与えている
私たちはいつも――

私は風、温かいものも、凍えさせるものも
私は真実、いつも公平とは言えないもの
私は雲、静止しているが、いつも流れていく
私は心、重荷に耐えていく
私は−あらゆる季節の中心にいるもの
私は−恐れを知らない少年
私は−あらゆる理を知る女性
私は−涙に暮れる少女


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あくまで私的解説

 1996年1月に発表された、Alexのソロアルバムです。'94年5月、Counterparts Tour終了後、Geddyに二人目のお子さん、Kyraちゃんが生まれたのをきっかけに、「しばらく休んで家庭に専念したい」という彼の意を受け、Rushは約一年半ほど、休業体制に入りました。その間にNeilはBuddy Rich Tributeを手がけ、Freddie Gruberについてドラムスの腕にさらに磨きをかけ、Alexは長い間「時間があったら作りたい」と思っていた、自らのソロアルバムを作り上げたわけです。

 Alexは休暇に入る以前から、少しずつ曲を書き溜めていたようで、Rushのレコーディングのように長い間集中して仕上げた、というのではなく、一曲、または二、三曲ずつと、という感じだったのかもしれません。曲ごとに参加パーソネルが違うのは、そのあたりを反映しているとも思えます。

 参加ミュージシャンは、I Mother EarthのEdwinをメイン・ヴォーカルに、「Start Today」はLisa Dalbelloという女性シンガーを起用、「The Big Dance」ではベースにLes Claypolが参加しています。その他は、リズム・ギターにBill Bell、ドラムスにBlake Manning(うーん、このお二人、不勉強ながら知りません。失礼しました)、「Shut up, Shutting' up」「Victor」2曲のベースがPeter Cardinali(この人も不勉強ながら、知りません)、そして「At The End」と「The Big Dance」のプログラミングにAlexの次男であるAdrian Zivojinovichさん(彼はトランス系のキーボード、シンセサイザー・プログラミングを手がけるミュージシャンだそうです)が参加しています。Adrianさんは2曲で共同作曲もしていて、Bill Bellさんは5曲を共作しています。それ以外は、すべてAlexが手がけているわけです。

 Edwinのほかにも、ゲストヴォーカリストとしてSebastian Bachの名が候補に挙がっていて、実際コンタクトを取り、何曲かセッションもしたそうですが、スケジュールその他の都合で最終的に断念した、という話もあります。個人的にはバズが歌う「Promise」聞いてみたかったですが、EdwinもSebastianも、わりと似たような声質かな、と思えます。Rushとは異質の「声」を求めたのかな、という感じですね。「Start Today」のDalbello嬢は初期Geddyしてますが。

 ある程度コーラスの取れるメンバーがソロ作を作った場合、自分自身で歌うことが少なくないのですが、Alexはソロ作でもヴォーカルは「語り」しかやっていません。まあ、Alexの場合、一応バックヴォーカル、と言っても、実践ではほとんど聞こえない程度のミックスしかされていませんし、歌うことは好き、と本人は言っていますが、そう得意ではないのだろうな、と伺えます。
(実際、La Villaのラントで歌う時には、「お、案外いけるんじゃない?」と思えるのですが、Scanner Recordingという、Alex用モニター音をカットして作ったブ○トを聞いた時には←Alexの歌声がGeddyより大きくはっきり聞こえるという代物)思わずひっくり返りそうなお歌でしたので(失礼!)、いっそう納得した次第です)
 しかし、語りはなかなか味があります。

 Alexって、いまやRushのコメディアンと言えるほど(笑)、明るいキャラというイメージがありますが、「Victor」全体のイメージは、かなり暗いです。Rushは(GeddyのMFHも)、かなりポジティヴ系の感触が強いのに、Alexのソロはダーク系だ、というのは意外な感じがしますが、Alex自身が2002年の「Classic Rock誌」に、こう語っています。

「このアルバム(Victor)にこめられた怒りは、当時僕の周りで起きていた人間関係の崩壊が影響しているんだ。僕も、自分の人間関係に問題を抱えていた。妻と僕はお互いを、空気のように当たり前の存在だと思い始めていることに気づいたんだ。(中略) 僕らは中年の危機に差し掛かり、お互いに自分たちの関係を見直して分析し、どうすべきか考える必要があったんだ。僕の周りの、他の人たちの関係も、壊れてしまったものがいくつかある。僕の友人の多くがやっぱり、中年期の危機に瀕していたんだ。僕の周りでいろいろなことが起きて、人生や愛情の暗黒面というものについて、考えされられた。僕はそもそも、性格的には、とても楽天的でちょっとロマンティックで、たぶんちょっと面白い奴でもあるだろう。でもあの時には周りで起こっている出来事にかなり共感されられて、それがこのアルバムに反映したのだと思うよ」

 Alexも歌詞を書くのは苦手で、そしてRushではNeilというその道のエキスパートがいる。なので、RushでAlexが作詞を手がけたのは、Lessonsと、Making Memories、それからHere Againの一部くらいだと言います。出来上がりは――現地のファンの評価を見ると、Neil>Geddy>Alex――が多いですが、まあ、うーん、そうかなぁ、そうかもしれない。(汗) 特に「Don't Care」の歌詞は評判悪いですが、Alexの名誉のために言えば、これは特に「暴力的、退廃的」な面を強調して書いた歌詞らしいですので、仕方がないのでしょう。

 アルバムのムードは暗めですが、制作は非常に楽しかったようです。なんら制約なく、自分の思うようにやれ、新しい人たちと新鮮な気持ちでセッションし、曲を書き、レコーディングし、作り上げたソロアルバム。でも、やり遂げた満足感と楽しかった経験がさめないうちに、Rushの新アルバム、のちの「Test For Echo」の制作が始まるわけですが、その落差にAlexは最初、非常に落胆し、やる気をそがれたと言います。Neilも繰り返し本に書いていましたが、Rushの活動というのは、メンバーたちにとって「仕事」感が強い、というと誤解が生じそうですが、「仕事」は趣味とは違う、責任とプレッシャーがつきまとい、密度の濃い作業が必要とされる、という意味でしょう。そしてアルバムを作って、ロードに出て、という非日常がまた繰り返される――
 自分に正直なAlexは、作業が始まると、作曲パートナーであるGeddyに「やる気が起きない!」と正直にぶつけ、Geddyも「気持ちはわかるから、しばらく様子を見よう」と、最初の一週間は二人で日がな一日、コーヒー飲んでしゃべっていただけで終わったそうです。二週間目から、「一週間だけやってみて、それでダメなら止めよう」と作業を始めたところ、Alexもノってきて、そして「Test For Echo」の完成を見た、というエピソードを、AlexがT4Eのリリース当時のインタビューで語っていました。
 まあ、無事完成して良かったですが、AlexとGeddyだったからこそ、なりえた顛末だったかなぁ、とも思えます。このコンビ強力だわ、と思えたエピソードでもありました。

 Rushにおいては、この作曲チームはいくつかの例外を除いて、ほとんど共作しているので、どっちがどっちの持ち味なのか、というのはなかなか分析しずらかったのですが、奇しくも二人がそれぞれのソロを発表してくれたので、Rushの音楽が因数分解されると、こうなるのか――と、興味深くもありました。GeddyのMFHがメロディ重視で、ポップ感覚があって、結構ストレートで、ある意味Rush Liteという感じなのに対して、AlexのVictorはシャープなエッジがあって、ハードで、捻りが効いている、Rush Heavyかな、という――どちらの個性も好きですが、Geddyも言っている様に、「Alexとはアプローチが真逆だから、共同作業はぶつかるし、試行錯誤の連続になる」のも、非常に頷けます。そしてまた、だからこそ強烈な化学反応が起きて、Rushの曲になるのだなぁ、とも。「二人で作業すると、お互いの領域を飛び越えられる」と、以前Alexが言っていましたが、それが共同作業の醍醐味なのでしょうね。

 でも、個人に戻りたい瞬間もあるわけで、ソロ作というのは、外交的なAlexにとって、非常な楽しみである、というのも十分頷けます。その後、Victor2、というのは仮題ですが、第二弾ソロアルバムを作る予定でいたところ、Victorの売り上げがAtlanticの予想に届かなかったため、難色を示され、お蔵入りになったらしい、という残念な噂もあります。
 ソロ作品というのは往々にして、有名なバンドのメンバーであっても、バンド本体ほどにはセールスを記録できない、というのがわりと普通ですし(逆に成功すると、ソロになって、バンドが危機に陥るという例もありますが)、Alexの場合リリース時期とTest For Echoの作業がかぶってしまったため、プロモーションがほとんどと言って良いほど出来なかったのも、祟ったのではないかと思います。だからGeddyの時にはAtlanticが、かなりプロモーションやったのかな、とも思えますね。サイン会とか。
 Alexも、AtlanticがVictor発売周辺の事情を汲み取ってくれて、Victor2、発売してくれたら、と切に思います。北米だけでなく、世界各地でサイン会付きで。


☆Don't Care
  前述しましたが、アルバムの歌詞の中でも、最もファンの評判が悪かったものです。いわく、「品がない」「下ネタだし…」 しかし、これはやはり前述のように、意図的に粗野に書いたと思われます。エドウィンのうなるようなヴォーカルが、マッチしていると思います。

☆Promise
  この曲、ラジオシングルとしてカットされたのか、プロモーションビデオが作られています。RushのPV同様、演奏シーンとイメージ映像の組み合わせですが、少し退廃的な雰囲気です。この曲、最初はSebastian Bachが歌う予定で、デモも撮ったのだけれど、最終段階でぽしゃった、というのは前述したとおりです。残念! この曲はBill Bellさんと共同作曲です。

☆Start Today
  ヴォーカルはリザ・ダルベロ。ハイトーンばりばりで、この中では一番Rushっぽい曲かもしれません。(初期Rushより明快さがある感じですが) 北米Rushファンにもわりと評価の高い曲で、「もしRushが各自のソロをコンサートで一曲ずつやってくれるとしたら何がいい?」というスレッドで複数の人が候補に上げていた曲でした。(MFHの方は、Grace to Graceが一番人気だったようです)

☆Mr. X
 これはインスト曲ですね。Alexの本領発揮、という感じです。Alexが言っている様に、もしVictor2が全曲インストでも、結構イケるのでは、とも。訳詞の手間が省けるし。

☆At The End
 これは一転して暗いですね〜。妻に先立たれた老人が、絶望して自殺してしまうという、このアルバムの「暗さ」を代表する曲の一つで。Alexの語りとEdwinのヴォーカルが、切なさをそそります。この曲は、Alexと息子さんAdrianの共同作曲のようです。

☆Sending Out a Warning
 切迫したような雰囲気のこの曲、アクション映画のような感じです。サスペンスかスパイものか――そのあたりを見て、インスパイアされた曲なのでしょうか。これもBill Bellとの共同作曲ですね。

☆Shut up, Shutting up
 一転してコミカルなこの曲、ある意味一番Alexらしいかも。インストをバックに、奥さんのCherleneとお友達のEstherさんが延々おしゃべりしているというもの。Frank ZappaのValley Girlをちょっと思い出しましたが、最後はAlexの”Shut up〜〜!”で終わります。いや〜〜主婦の井戸端会議って、こんなものでしょうかね。私も時々やりますが。(おばさんである……)
 これの歌詞、というか喋りがPower Windows Siteにありましたので、それに基づいて訳してみました。まあ、「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ……うるさ〜い!」で終わってもいいのですが。(^^;)

☆Strip and Go Naked
 これもインスト曲ですね。怪しい曲名は、CanoeのJam Musicの記事によると、Bill Bellさんが作り出したオリジナルドリンクの名前で、二、三杯飲むと本当にそのとおりのことをやりだす、という代物なのだそうです。でもそれはこの曲そのものにも当てはまるかな、とAlexは思ったとか。余計な装飾を取り去り、ベーシックにしたかった、と。(まあ、それでも構造は結構、複雑ですが)

☆The Big Dance
 この曲のベースには、Les Claypoolさんが参加しています。ただ、CPツアー時の「Cream誌」に載ったGeddyとの対談で、この曲のセッションについてLesが語ってますので、かなり早い段階で出来た曲の一つなのかな、と推測されます。そしてLes曰く、「Alexのソロ曲に参加するので、セッションしに行ったんだけれど、その夜、一緒に飲んでしまって〜あんなに飲んだのは初めてなくらい、底なしに飲んで、次の日は、もう起き上がれない状態になって、とってもベースなんか弾けないほど、ひどかったなぁ」それを受けてGeddy曰く、「Big Alには、気をつけなって!」 ……まあ、そんな状態でレコーディングされたらしいですが、たしかに妙なリラックスムードとはじけ感は、漂っているかもしれませんね。
 この曲は、Adrianさんとの共同作曲です。

☆Victor
 この曲の詞は、イギリス生まれでのちにアメリカに移住した有名な詩人、William H.Audenの詩を、Alexがダイジェストして使ったものです。だから作詞は、W.H.Audenになるわけです。これだけ作風が違うのも、それゆえですね。
 これも非常にダークな詩でして、不貞の妻を殺して狂気に陥る青年の物語です。Alexが96年のRocklineで語って曰く、「この詩は、このアルバムの本質を良く捕らえていると思うんだ。愛情の暗黒面と、人生のひどく恐ろしいことに、どうやって手を染めてしまうのか、ということについてね」
 この詞、所々聖書のフレーズが見受けられます。最後の「私はアルファでありオメガである」と言うのは、有名な黙示録の台詞です。

☆I am the Spirit
 アルバムのラスト曲は、わりとアッパー系の不思議な浮遊感を持っています。Spiritは精霊なので、物事を高みから超然と見下ろす感じと、それでも前を向いて、というポジティブさが伝わってきて、最後がダークでなくて、Alexらしくてよかったなぁ、と個人的には少しほっとしました。
 この曲もBill Bellさんとの共同作曲です。この人との共作は、曲にフックと明るさが入るような気がして、個人的には気に入っています。


 このAlexのソロ作ですが、私は実はリアルタイムでは買いませんでした。Victorリリース当時は、個人的には音楽シーンから遠ざかっていた時期であり、また特に'96年前半は家の新築やら引越しやらで、かなりバタバタしていた時だったので、出たことは知っていましたが、あまり気に止める余裕がなく、実際店頭で実物を見かけたにもかかわらず、買わずに棚に戻してしまったのでした。(な、何を考えていたんだ、我ながら……乱心していたとしか、思えない……)

 そうこうしているうちに店頭からは姿を消してしまい、再びファン魂に火がついた頃(2001年以降)には、ほとんど手に入らない状態となり、ようやく買ったのが2001年暮れ。Geddyのソロよりあとになってしまって(MFHを買ったのは2001年の7月でした)、Alexごめんなさ〜い!状態でした。

 そして最初に聞いた時には、正直あまりピンときませんでした。Rushを期待していたわけではないですが、ほとんど接点がないように思え、Alexでなくともいいように感じたのです。しかし、何度か聞いていくうちに、それは大きな誤解だということに気づきました。VictorはRush Dark、もしくはRush Twistedだ。それがAlexの素晴らしい個性なのだ、と。これは、非常に吸引力が強く、底が深く、聞けば聞くほどに引き込まれるアルバムです。

 Altantic様、Victor2、出してください!



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