☆ Molson Canadian Rocks For Toronto☆

at Downsview Park 2003/07/30 featuring Rolling Stones & AC/DC




写真はCBCテレビWebページより転載しました。


 SARSFestとかSARSStockなど、他にも様々な呼ばれ方をしていますが、これが正式名称のようです。 略してToronto Rocks。

 突然起こったSARS騒動。香港、中国、台湾などの感染中心地から、不運にも観光客が病原体を持ちかえってしまい、 アジア3地域のほかでは唯一の感染地区となってしまったトロント。一時期は渡航自粛区域にまでなってしまい、 観光客、ビジネス客は激減。日本でも、台湾からSARS感染者がそれとは知らずに観光に来た時、その人が立ち寄ったホテル、 観光施設、食堂などが その後相次いでキャンセル騒ぎにあい、お客が激減したことからみても、トロントの状況は容易に察しがつくと思います。
 やっと6月に感染地域から解除されたものの、すでに街の経済は大打撃を受けてしまいまいした。さらに、 「さあ、もう安全ですよ」と言ったところで、SARS感染地域の汚名はそうおいそれと拭い去れるものでもなく、 観光客、ビジネス客が以前のレベルに戻るには、相当長い間かかるだろう――そんなトロント市の状況に、市の行政担当者たちが考えたのが、 「それでは、大きなイベントを開いて、大々的に人を集めてみてはどうだろう。人が来れば、街の経済も活気づく。 そしてトロントがもう安全なことを、世界にもアピールできる」
そこに手を差し伸べたのが、Rolling Stonesでした。
「ウッドストックのようなロックフェスを開いてはどうか。自分たちがトリになろう」
 そこで、一大ロックフェスを開くべく、トロント市と共にイベント・スポンサーとなったMolson社(カナダのビール会社) が色々なアーティストにアプローチし、6月24日に、コンサートの告知とラインナップが発表されたのです。 発表当時のラインナップは、下の通りでした。

Rolling Stones / AC/DC / Guess Who / Justin Timberlake / Blue Rodeo / The Isley Brothers / Sass Jordan / The Flaming Lips / The Tea Party / La Chicane /Kathleen Edwards / Sam Roberts

 この時点で、Rushの名はなかったわけです。もちろん、このイベントの企画段階で、「Rushは出るのではないか?」という噂は 広まっていました。その最大の根拠は、やはり「Rushはトロントを本拠に置くバンドだから」、いわゆる「地元代表」として 出るのでは/出て欲しい、ということだったようです。そして事実、イベンターから出演要請は行っていました。
 ただ、ファンの間では「出て欲しいけれど、実際は出ないのではないか」と言う見方が多かったようです。
第1に、彼らは昨年11月に大々的なVapor Trails Tourを終わらせたばかりで、今年はDVDの仕事以外はオフ、と宣言していた。
第2に、彼らはフェスティヴァル出演と言うものが嫌いらしい、ということ。'78年のPinkPop Festival、'82年のTexas Jam、と Rushが出演したフェスティヴァルコンサートはこの二つだけなのですが、大勢のバンドでごった返すバックステージの喧騒や、他の出演バンドとの交流、その力関係への配慮、 自分たちだけの観客でなく、不特定多数とも言える様々な傾向の違う観客たちへの配慮――そう言ったものが 彼らにはわずらわしい、と言うか、疲れるものだったようです。ましておや、Rushの音楽というのは決して万人うけするとは言えないので、いっそうやりにくい―― それゆえか、80年代、多額のギャラを積まれてMonsters Of Rockのトリ出演を依頼された時も、断りつづけた過去があり、Rock In  Rioの 出演も蹴って、ブラジル単独公演を選んだ。そんな彼らが、地元のためとはいえ、「オフ中/フェスティバル嫌い」と言う二重苦を乗り越えて、 出演するだろうか。しかもトリではなく、せいぜいサード・アクトの待遇で。
 それゆえ、最初の発表された時のラインナップに、Rushの名がなかった時には、「やっぱりね」と言う感じで受け止めたファンが多かったようです。(筆者もその一人)

 それがその3日後、急転直下、「参加決定」。Ticket Masterにチケットが売り出される前日という、ギリギリのタイミングでした。 最初の発表に間に合わなかったのは、それだけ彼らも迷っていたのではないかと思われます。

それから1週間ほどして、Rush.comにメンバーのコメントが載りました。

  "Even though we have not played together for 8 months, we will put a show together and join the outpouring of support for the city that we love and live in." Geddy Lee
「僕らはこの8ヶ月、一緒にプレイしてないけれど、僕らが愛して、住んでいるこの街のために、いくらかでも力になれるなら、と、 みんなでショウをやることにしたんだ」

"When we were first asked to play Molson Canadian Rocks For Toronto, it seemed impossible to say yes. We had been off the road for 8 months, our gear was in the warehouse, most of our crew was out on other tours, and even we were all over the place - Geddy with his family in France, Alex working in the studio mixing our Rio de Janeiro show, and me on my motorcycle in the California mountains. However, when we thought about everything Toronto meant to our lives, to our work and play, our homes and families and friends, it seemed impossible to say no!" Neil Peart
「Toronto Rocksでプレイしないかと、最初に依頼された時には、yesと答えるのは不可能に思えたんだ。僕らはもう8ヶ月もロードに出ていなくて、 機材は倉庫の中、クルーはほとんど他のツアーで仕事中、僕ら自身もばらばらに散らばっていたしね。ゲディは家族とフランスにいて、 アレックスはスタジオでリオデジャネイロのコンサートのミキシング中、僕はバイクに乗って、カリフォルニアの山の中にいたんだ。 それでも、トロントという街が僕らにとってどういう意味を持つのか、僕らの生活、僕らの仕事、遊び、僕らの家庭、家族、そして友人たち―― それを思ったら、noと言うのも不可能だと思えてきたんだよ」


 もちろん、秋に発売予定のDVDの良いプロモーションになるだろうとか、出演料が高かったのだろうかというような打算的な見方も多少は あったかもしれませんが、少なくとも彼らの場合、そう言う戦略的な行動にはどちらかと言えば無縁な人たちであり、なおかつ、 いくら45万人の観客を見越すコンサートでも、Stonesという超大物がヘッドライナーとして出るコンサートのサードアクトに、 80年代バブル期のモンスターズ・オブ・ロックのトリと言う以上のギャラが払われるはずもなく、(そもそもチャリティコンサートの出演バンドに それほどたいした出演料があるとは思えない) 色々困難な条件を乗り越えて参加した理由は、やはり彼らがトロントのバンドだから、地元代表として、街のために何かをしたい、 という彼らのコメントは、やはり本心なのではないでしょうか。


 ともあれ、Rushも加わっての13バンド(考えてみれば、不吉な数。しかも13番目の決定か・・)で、チケットは16US$(カナダドルで21$) という破格値。Stonesは普通にチケットを買うと百ドル単位なことを考えると、とんでもなくお得。と言うことで、チケットは飛ぶように売れ、 46万5千枚が出ました。

 さて、会場のDownsview Parkですが、Toronto北部にある、Downsview Airportという空軍基地の跡にできた広大な公園で、 (ちなみにGeddyの生地Willowdaleは、旧Downsview空港の近隣地区です。>iapetusさん、Thanksです!)数年前ローマ法王が訪れた際には 80万人が謁見したという場所でもあります。
 コンサート当日は、真ん中通路と後ろの方にフードテントを作り、それ以外は自由席。持ちこんで良いものは、せいぜい毛布、使い捨てカメラ、ペットボトルに入れた水くらい、 基本的には水以外の食べ物、使い捨てでないカメラ、椅子はNG。録音機材や危険物はもちろん禁止。飲食品は会場で売っているので、それを買うように、水はペットボトルに 自由に詰められる、という感じだったそうです。もちろん、直にステージが見られるのは、前の方の観客だけなので、会場のあちこちに、ステージの様子を映し出したスクリーンと スピーカーが設置されていました。
会場全体は、こんな感じです。

コンサートのタイムテーブルは下の通り。

-------------- Afternoon -------------------
12:30 pm - 12:45 pm  Dan Aykroyd and Have Love Will Travel Revue
1:00 pm - 1:15 pm   Sam Roberts
1:30 pm - 1:45 pm   Kathleen Edwards
2:00 pm - 2:15 pm   La Chicane
2:30 pm - 2:45 pm   The Tea Party
3:00 pm - 3:15 pm   The Flaming Lips
3:30 pm - 3:45 pm   Sass Jordan and Jeff Healey
4:00 pm - 4:20 pm   The Isley Brothers
4:35 pm - 4:50 pm   Blue Rodeo

----------------- Evening -------------------
5:05 pm - 5:20 pm   Jim Belushi, Dan Aykroyd and Have Love Will Travel
5:40 pm - 6:00 pm   Justin Timberlake
6:20 pm - 6:45 pm   The Guess Who
7:10 pm - 7:45 pm   Rush
8:10 pm - 9:10 pm   AC/DC
9:45 pm - 11:15 pm   Rolling Stones

Have Love Will Travelというのは、司会役であるDan Aykroyd(後半はJim Belushiも)の コントショーです。


 以下、実際に行った人のレポートによりますと、Afternoon(昼の部)のショーは、各15分単位で、まだ観客の流動も激しく、今のうちにと食べ物や飲み物を買ったり、トイレに行ったりする人も多く、 しかも会場が広大で、売り場も混雑するため、一度席を離れると戻ってくるのにゆうに1時間半くらいかかり、 「全部は見られなかった」と言う人が多々いたそうです。(さらにフードテントやトイレには、音楽は聞こえて来なかったとか)
昼の部はウォーミングアップと言う感じだったのかもしれません。


そして夜の部。

☆Justin Timberlake
 今回の出演者で、もっとも気の毒だったのがこの人。彼はN'Syncと言うティーンエイジャーポップバンドのメンバーからソロになった人で、 かのBritney Spearsと噂になったりもした人ですが、いかんせん、この夜の部の他の出演者とは傾向が違いすぎ、観客からブーイングが。 さらにペットボトルやゴミまでステージに飛び交う始末。(ペットボトルの中身が水ならまだマシですが、こういう野外フェスの場合、えてしてトイレが遠いので…(以下略)) 果敢にその中を4曲歌いきり、予定どおりステージを降りました。これに同情したのか、Stonesのメンバーが自分たちの出番の時、彼をステージに上げ、 「Miss You」をデュエットしました。Timberlakeはそのことに、いたく感激していたそうです。

☆Guess Who
 地元カナダ代表(と言っても彼らの場合、出身地はWenipegですが)、そしてどうやら久々のステージだったようですが、衰えぬ確実な演奏力、さらにRandy Backmanも加わり、 「American Woman」など往年のヒット曲に、会場は大盛り上がりだったそうです。

☆Rush
 トロントの地元代表。まあ難しい音楽なので、フェス向きかどうかはわからん、しかもまだ明るいので、ライティングもステージの仕掛けも使えないし・・と言う見方も多かったらしいですが、 そこはそれ、なにせ地元&一般に知られている曲中心のセット&確実な演奏力で、おおいに盛りあがったそうです。良かった〜! The Sprit Of The Radioでは、会場の90%くらいの人が一緒に手を叩いていたそうですが、その様子、ビデオで見られます。 StonesのPaint It Blackをチョコっと演奏すると言うおまけ付きでした。
 今回もVT Tour同様、ステージセットに乾燥機を持ちこんだのですが、それを知らない一般観客の中には、「Timberlakeの服を 乾かしているのか?」と素で思った人もいたようです。(笑

☆AC/DC
 このフェス、真の主役と言うべきは彼らだ! と言われるほど素晴らしい演奏で、観客は大ノリしたそうです。実際、CBCのアンケート調査で 「誰が一番良かったか?」と言う項目、ぶっちぎりの一位でした。(ちなみに2位はRushとGuess Who ほぼ同点。さらに僅差でStonesだったそうです) あまりの反響に、Stonesの開始時間がかなり遅れたらしいです。
 Angus Young(ちょっと額が広くなったようですが)を初めとして、みなさんまだまだ元気ですね〜。Stonesのアンコールにも、 メンバーが飛び入りしたそうです。

☆The Rolling Stones
 そしてトリです。さすがに貫禄の演奏だったようで。まだまだ若いもの(AC/DCも、決して若くないんですがね。Rushと同年輩だから・・)には負けないぞ、と言う感じだったのでしょうか。 ただ、実際行った人で、あとでレポートを掲示板に投稿した人の中には、「疲れたし、なかなか始まらなかったから、1、2曲で帰った」と言う人もいました。(汗) 観客、Stonesが出る頃には、疲れた、と言う人が多かったのは事実のようで、その分かえってトリゆえに損したかな、と言う部分もなきにしもあらずでしょうか。 炎天下に12時間はきついですからね〜。それでも見た人の話では、「とても楽しめる演奏だった。素晴らしかった」そうです。


全アーティストのセットリストを、一度ネット上で見かけたのですが、もう探せなくなってしまったので、Rushだけのせておきます。 たぶんAC/DCやStonesは、雑誌で確認できると思いますので。すみません。

  Tom Sawyer
  Limelight
  Dreamline
  YYZ
  Freewill
  Closer to the Heart
  Paint It Black(1分ほどのインストヴァージョン)〜
  The Spirit Of The Radio

 こうしてみると、ほとんどが「Permanet Waves」と「Moving Pictures」からの選曲ですね。それ以外といえば、 Closer To The HeartとDreamlineだけ。そして、Rushにしては珍しい他アーティストのカヴァー、Paint It Black(Stonesのナンバー。邦題「黒く塗れ」)を少しだけ演奏したのは、 Stonesに敬意を表して、なのかもしれません。(ちなみにTea PartyもPaint It Blackやったらしいです)
 この選曲に関しては、「まあ、妥当ではないか」という意見が大勢でした。Rushをあまり知らない人たちでも、比較的知られている 曲を中心にした、と言うのは、ファン以外にも出来るだけ楽しんでもらいたいという、彼らなりの配慮なのでしょう。
「Rushは今だに良質のアルバムを発表しつづけている現役アクトで、いわゆるノスタルジア・バンドではないのに、やっぱり20年以上前の 曲でしか認知されないのか。一般の認識では、それから時は止まっているのか。そう思うと寂しい」というファンの声も聞かれ、 個人的にはとても同意なのですが、彼らはそう言う「現実の理想の狭間」をも、受け入れているのかもしれません。 まあ、Dreamlineもアメリカではラジオでスマッシュ・ヒットしたナンバーなのですが、カナダでの認知度はちょっと低いようだったので、  Dreamlineのかわりに、One Little Victoryでもよかったのではないか。その方がフェスティヴァルにはふさわしい曲調だし、Vapor Trailsの 良い宣伝にもなっただろうに、という意見もあり、個人的にはこれにも同意なのですが、まあ、欲を言えばキリがないのでしょうね。



 

☆ Web Castとテレビ放送

 コンサート前に、開始時間から終演まで、CBCとMuchMoreMusicの二つのテレビ局と地元のラジオ局Q107が中継し、CBCとQ107では、 インターネットを通してプログラムを世界中に発信する、と言う情報が流れました。7月30日は平日ということもあって、 実際アメリカ(だけではないですが)のファンで、トロントまで見に行ける人はそう多くなく、大勢のファンたちはインターネットでの中継、 いわゆるWebCastに、大いに期待を持ったのです。
 かく言う私も、朝8時前に夫が出勤した後、PCをつけてWebCastにつないだ一人です。時差を考えれば、そろそろRushの出番のはず、と思ったのですが、 画面に出てきたのはIsley Brothers。その後、Rolling StonesやAC/DCのインタビュー、プロモ、以前の番組でのシーンの再放送、時折Rushもかかるものの プロモばかり。その間にBlue Rodeoが出て、Timberlakeが出て・・でもみんな一曲だけ。
 ほぼ同時につないだQ107では、「Bastille Day」が聞こえてきました。ライブっぽいけど、今のRushがこの曲をやるはずないし、 Geddyの声も明らかに若い…これ、ATWASのじゃないか…DJは「今、Rushが出てきました。会場は多いにのってます!」なんてことを言っているのに、 なぜ曲は古いライヴ盤から…??
 海外のファンサイトの掲示板にもつないでみたら、やっぱりみんな不思議がって、騒いでいる。う〜ん、何が起こったんだ…?

 結局、Rushのこの日のライヴは、Web Castでは、10時半少し前にかかった、オープニングのTom Sawyer1曲だけでした。その後、 用があってPCを離れ、お昼頃に戻ってきた時にはWebCastは終わっていたので、AC/DCやStonesはわからなかったのですが、やっぱりフル中継はなかったと思います。
 アメリカのファンが何人か抗議のメールを出し、その返信の結果、どうやら放映権の関係で、何処もフル中継は出来なかったとのこと。 だったら事前に言え! と思ったのですが、待てよ…じっくり読み返してみたら、どのメディアも「完全生中継」とは言っていない。 放映時間がちょうどコンサートの時間とぴったりかぶったから、「完全生中継だ」と、読んでいるほうが勝手に解釈したっぽい。 と言うことが、後になって判明しました。

   ということで、Web Castはかなり期待外れだったのですが、その時のTom Sawyerの映像は早くも当日、Web上にアップされ、 さらにカナダ国内のTV放送で流れたというFreewill、Limelightの完全演奏ビデオが、24時間も経たないうちにWebに流出。 その後、TV放送で流れたほかの部分、Dreamline、YYZ、The Spirit Of The Radioの部分演奏、そしてPaint It Blackのmp3が Web上に出てきました。TV放送された分は、これで全部なので、これ以上出ないと思ったら、なんとさらに35分完全演奏版まで。 コンサートわずか数日で、その内容がすべてWebに出てしまいました。Web時代とはいえ、この速さには驚きました。 (Rushだけでなく、Stonesも同様だったらしいし、またAC/DCもそうだったようです。そっちはチェックしていないので、詳細はわかりませんが、 Stonesの方は、Alt.Music.RollingStonesのニュースグループで出まわっていると言う話です)

 ともあれ、イベントは成功裏に終わり、このコンサートがトロント市にもたらした経済効果も、狙った以上のものが上げられた、 とのことでした。
 特筆すべきは、これだけの人が集まるイベントで、さしたる混乱も乱闘も起きず、怪我人も出ず、逮捕者は数人出たものの、いずれも 不法売買に関するもので、暴力沙汰ではなく、唯一お点と言えば、Timberlakeにゴミとペットボトルのシャワーを浴びせたくらいのもので 終わったとことだ、カナダ人のモラルの良さを象徴しているようだ、という意見がかなりあったことを紹介して、終わりたいと思います。




ScrapBook     Rush