Rush In Rio――2002年11月23日、ブラジルはリオ・デジャネイロで行われたコンサートの様子を収めたDVDが、その11ヶ月後の10月21日、北米でリリースされました。
日本盤は遅れに遅れ、1月21日にやっと発売になりました。しかも直前になって、800円の値上げ。DVD、7800円? 高いよ! しかも3ヶ月も遅れるとは、とファン(自分も含む)からは非難ごうごうでしたが、やっとリリースですね。ふぅ、長かった…
私個人は、日本版の発売が12月17日に延びた時点で痺れを切らせ、北米版のDVDと、PS2用リージョン変換ディスクをゲットして、11月初めにはもう見ていたのですが、PS2ではなかなか見づらい(人の出入りが多い場所においてある)状況ゆえ、トータル3回くらいしか見ていません。やっと日本版で、自PCで堪能できるのは、ありがたいです。日本版高かったし、ずいぶん待たされましたが。
種々の事情で海外遠征はなかなかできづらい私としては、コンサート丸ごとパッケージング、しかもオフィシャルだから画像はきれい、音も迫力がある、というこのDVDは、まさに感涙ものです。しかも、滅多にお目にかかることができないバックステージの様子を収めたドキュメンタリーは、それだけで「DVDの値段分の価値はある」と、あちらでは言われている代物。貴重な映像満載です。
ただ、ここでは順を追ってのレビューはしません。雑感的なコラムですので、ご了承を。
いや〜なんと言っても、観客が凄いですね。ノリまくり。踊る、叫ぶ、はねる、一緒に歌う。北米でもノッている観客のリアクションはかなり大きいらしいですが、さすがにここまではないとか。お国柄ですかね。日本ではなおさら、このノリは期待できないでしょう。ここまで発散できたら、気持ち良いだろうなぁ、と思えます。
そして、至る所でコールがわき起こります。「Hush! Hush!」――バンド間違えてないですか? Neilが前にいたバンドじゃないんですよ――と一瞬思いますが、ポルトガル語では"R"の音は、限りなく"H"に近くなるとのこと。なので"Rush"は、"Hush"に聞こえてしまったり。(じゃあ、当地も「リオ」じゃなくて「ヒオ」に近いのだろうか…)
ドラムソロの後、Neilコールが起きてますが、聴いた感じは「ニル・パート、ニル・パート!」ですね。(ドキュメンタリーに出てきた女の人も、「パート」と言っていましたし)でも、北米の人でも間違えるのだから、「ピアートと呼べ」とは言えません。(^^;)
そして、特筆すべきは、観客が若いこと。DVDを見た限りだと、10代から20代前半、という感じの方々が中心です。なんでも南米でRushが広まってきたのは80年代の終わりくらいからで、90年代(それも後半くらい)からのファンと言うのが主流らしいので、その分若いのでしょうね。
観客のリアクションで、「これって南米特有だろうか?」と思えたのは、両手を上げ、頭を下げて、体を前に倒して、また起こす、まるで祈祷しているような動作。これを大勢の観客が一斉にやる光景は、なんだかある種の礼拝のような感じさえ受けます。これが顕著に出たのは、気づいた所で、Freewillのギターソロ&メンバーの激しいインターアクションのところ、そしてNeilのドラムソロでした。感嘆のサインなのでしょうか。
この驚くべき観客たちが、コンサートに躍動の息吹を吹きこみ、ステージ上のメンバーたちに火をつけ(ドラゴンではなく)、DVDを見ている視聴者にコンサートの感動を届けてくれる、真の立役者であったに違いありません。
この観客たちに煽られ、バンドのボルテージも上がっているようだ――それはたしかなのですが、ふと気づきました。Neilはともかくとして、フロントの2人――あまり動かない――特にAlex。こんなに動き少なかったっけ?
もともとRushのライヴって、モビリティと言う点においては、少ないのですが。ヴォーカルが独立していない上に、フロントの二人はかなり機材に縛られ、自由に動ける時間が少ない。それゆえにライトやレーザー、背景映像などのヴィジュアルエフェクトに凝って、フロントの動きの少なさをカヴァーしている、というようなことは以前読んだことがあります。しかし、それでも、ESLやGUPやASOHのビデオでは、もっと動いていたのじゃないかなぁ…
ま、それでもGeddyは、わりと動いている。定位置にいる必要がなくなると、それがほんの短い間でも、あちこち移動している。でもAlex、ギターソロなどの見せ場になっても、花道に出て行かないのだろうか――ペダル操作なども、あるのかもしれないけれど。自分の定位置から、せいぜいNeilのドラムセット前あたりまでにいることが多く、必然的にインターアクションも少ない。昔のビデオでは、フロントの二人、やたらじゃれあってませんでした? あれが、今回は少ないのです。それでもセット2の半ばあたりから、Alexも動き始め、GeddyやNeilとのからみも見られるようになるのでした。
初めはその理由を、「Alexも身体が重くなったから、動きづらくなったのか(爆)」などと言う、非常に不謹慎なことを考えておりました。まあ、VTツアーのほかのブ○ト映像を見ても、以前より動きが少なくなったことは、たしかのようなので、それも理由の一端かもしれないです。(ス、すみません!)
しかし、 "Brave Worlds & Bloody Knuckles "と言うCDマガジン(なのか?)にのったGeddy&Alexのインタビューによると、もう一つ理由があったと言うことです。
それは、当日に持ちこまれた撮影用のカメラ群。もちろんDVDの撮影のため、たくさんのカメラが投入されることは、メンバーたちも承知の上のはずです。ただ、Neilのライナーにあった通り、またドキュメントでも言われていた通り、前公演地サンパウロからの機材到着がかなり遅れたため、Rioのショウはサウンドチェックなし、録音テストも、カメラテストもなし、のぶっつけ本番だったわけです。
カメラテストがないと言うことは、カメラマンにもぶっつけ本番の撮影。被写体のメンバーたちにも、カメラクルーがどう言う動きをしてくるか、まったく予測できないわけです。
Alexの側には、一人のカメラクルーが張りついて、ずっと撮っていた。(もちろん、他にもAlexを映していたカメラマンは、いたはずですが) で、Alexはだんだんそのカメラマンの動きが気になり始め、イライラするようになっていたと言います。そして、だんだんコンセントレーションがそがれて、The Big Money、Treesと、立て続けにミスった。Alex、キレる寸前。「こりゃ、ヤバい」と思ったGeddyとNeil、ハーフタイムに入ると、二人でなだめにかかったそうです。
「カメラのことは無視しろ。気にするな。怒っているところを撮られたら、みっともないぞ。僕らはプロだ。ショウに集中しよう」
それでAlexも、落ち着きを取り戻したとか。(Treesのソロのミスには、そんな背景があったのか…Alexのミスはそう珍しくないから(^^;)、気にしていなかったけれど、そう思うと興味深いです)
そしてGeddyがそのインタビューで曰く、
「他にも、カメラのクルーたちが撮影用のライトをステージにたくさん設置したのだけれど、(時間がなくて)僕らは事前には把握できなかった。本番になったら、そのライトのケーブルが、ステージに張り巡らされているわけさ。ステージ上で動く時、うっかりそのケーブルに躓きゃしないか、かなり気になったよ」
――ステージ上をスキップしていて、いきなりケーブルにつまずいてコケるGeddyを想像して、笑ってしまいましたが、まあ、やっているほうは笑いごとじゃないわけで……こけないで、良かったですね。(^^;) そのことも、普段よりフロント陣の動きが少なかった原因の一つだったのかもしれません。
そういうさまざまな条件を考えると、Rioであそこまで盛りあがったコンサートができ、素晴らしい映像作品に仕上がったことは、奇跡的かもしれません。それはひとえに、コンサートスタッフ、映像スタッフ、そしてメンバーたちの並外れたプロ根性と技術の賜物なのでしょう。(もちろん観客もですが)
しかし、考えてみれば、サンパウロとリオは2日連続のコンサートだったのですね。せめて中一日余裕があったら、リオがぶっつけ本番にならなくてもすんだのだろうに、と、ふと思ってしまいました。スケジュールの都合や、スタジアムの日程などで、中一日あけることは無理だったのでしょうけれど、この事態は誰も予想できなかったのか?と。 アメリカでも違う都市で2日続きのコンサートはしょっちゅうやってきてはいて、「たぶん南米でも大丈夫」と考えたのでしょうが、北米と南米、事情も違えばペースも違いますしね。
まあしかし、終わり良ければ、すべて良し。サンパウロの雨も、リオのスコールも、サウンドチェックなしのぶっつけ本番も乗り越えて、カメラマンの不測の動きにも、足元に張り巡らされたケーブルにもめげず、あれだけのショウをやったメンバーたち、それを盛り上げたリオの観客たちに、カイピリーニャで乾杯!
CDでは、「Ghost Rider」が終わったあと、「メキ、メキッ」という異音が聞こえます。DVDを見て、この音の正体がわかりました。Neilがスティックを折っているのですね。手でベキっと折った後、ひざに当ててもう一回。そして真っ二つになったスティックを無造作に投げ捨てています。これだけなら、まあ、演奏中にスティックが折れそうになったから、折ってしまって、新しいのと替えたのだろうと思うのですが、それが「Ghost Rider」の後に起こったから、この動作、海外の掲示板では、かなり論議を呼びました。
「Ghost Rider」は、Neilの同名の本と同じコンセプトを継承した曲です。最愛の妻と子を失い、生きる希望も意味も見出せず、魂の安らぎを求めて放浪した、あの苦しい時期を反映した曲なわけです。そもそもNeilにとってはかなりこの曲、つらいんじゃないかな、と思えるので、VT Tourのセットリストに入った時には、ちょっと驚いたものです。が、これもNeilのヒーリング・プロセスの一環だったのかもしれません。
RioはVT Tourの最終公演だったわけですから、「ライヴでやるのは、これで最後(のはず)」という曲は、いくつかあったろうと思います。たとえば、アコースティック版「Resist」が始まる前、AlexがGeddyに、"One more time, Dirk."と声をかけてますが、これが「二人でResistをやるのも、あと一回(だけ?)だな」と意味に聞こえてしまうのも、その意識があるからなのだろうと思います。
「Ghost Rider」が次のツアーのセットリストに引き継がれるか、というのは、実際次が始まってみないとわかりませんが、新アルバムからの曲は、次のツアーにはスタンダードになった曲以外、あまり引き継がれないような感じですし、これで最後だと仮定すれば、その曲の終わりでNeilがスティックを折ったのは、「もう二度とGhost Riderは演奏しない」――つまり、「あの苦しい時代は終わった。Ghost Riderの旅は終わった。やっと乗り越えられた。これからは、新しい人生を生きるのだ」そういう決意表明として、この曲の終わりにスティックを折った――あのシーンを見て、そう解釈したファンも、かなりいたようです。
「深読みするな。考えすぎじゃないか?」――そういう意見も、それ以上に目にしました。「スティックが折れかけたから、折って捨てて、新しいのに替えただけだ。それがたまたまGhost Riderの時だったから、あの曲の性質上、深読みされてしまっただけじゃないか」それも、至極まっとうな意見に思えます。「それなら、なぜわざわざ折るんだ? ただステージの床にでもぽいと置くか、クルーに渡しておけば良いじゃないか」そういう反論もありました。たしかに昔は、Neilの折れかけたスティックを、スタッフを通じてファンに譲ったりもしていたようですが、「折って、一目で使えないとわかるようにしておかないと、間違えてまた使ってしまう可能性もある」という意見もまた、頷けます。そういえば、Neilの新しい奥さんであるCarrie Nattalさんのサイトに(VTのツアーパンフにも載っている)、折れたスティックの山が写っている写真があります。最近のNeilは、使えないスティックは折ってしまうのもしれません。だいたい「折れかけてもいない、まともなスティックを手で折れるわけがない。どのくらい力がいると思っているんだ」というのも、頷ける意見ですね。そして、「Ghost Rider」の次の曲は、「Secret Touch」。これは、ドラムはスネアのリムショットから始まる曲なので、ちゃんとしたスティックでないと、いい音が出ない。それで、ちょっとイカれかけてきたスティックを折って、新しいのと交換した。それがもっとも頷ける考えだと思います。
そう、深読みなのでしょうね。この曲の最後にスティックを折ったことについて、あれこれその意味を考えるのは。しかし、「次の曲は『Ghost Rider』」というGeddyのMCにかぶって、この曲を叩き始めた時のNeilの表情。目を閉じ、どことなく悲しげに見える、没我の表情を浮かべた、あのシーンを見るたびに、そして最後に、スティックを折り、投げ捨てる動作を見るたびに、さらにはCDでその音を聞いてさえ、この曲の真実に、Neilが通ってきた道のりに、思いをはせずにはいられません。たとえ、それがNeilの意図したことではないにせよ、あの動作を見るたびに、思ってしまいます。
「Ghost Riderの旅は、本当に終わったのですね。これからは新しい伴侶と、新たな、そして幸福な旅路を歩むのでしょう。心から、貴方の幸福を祈ります」と。
2003年の10月21日、北米版DVDがリリースされてから1ヶ月以上にわたって、オフィシャルサイトの掲示板を初め、あちこちの北米ファンサイト掲示板を賑わせたのが、この音質についてのトピックでした。
「ひどい音だ。どうしちゃったんだ? なぜ、こんなにひどい音なんだ?」
もちろん、これには多くの反論がありました。
「自分のところでは、ちゃんと聞こえるぞ。システムがおかしいのじゃないか?」「演奏と曲と観客のノリを聞けよ。素晴らしいじゃないか。多少音が割れても、そんな細かいことにこだわるな。(VTの時と同じような論調ですが)」さらには、「まったく、一部の連中は、Rushが何か出すたびにケチをつけるんだな。それでもファンか」というような感情論まで飛び出し、かなり喧々囂々の議論に発展しました。
え〜、そんなにひどいかなぁ。というのが、最初にそのトピックを読んだ時の印象でした。まあ、歓声は大きめにミックスされているし、全体にはちょっとラフな感じの音像だけれど、個々のパートの音はちゃんと聞こえるし、迫力もあるし、いい音だと思うけれど――もっとも、PS2で(あるいはPCで)聞いている私には、本当の意味での、素晴らしい「良い音」なんて、望めませんけれどね。;)
議論を読んでいてわかったのですが、どうやら一部のDVDプレイヤーで再生すると、RIRは極端に音バランスが崩れる、という現象が発生していたようです。それも、サラウンドシステムを完備した、ホームシアターで起こりやすい、というようでした。
具体的にどうなるかというと、ドラムの音がこもる。キックドラムとクラッシュシンバルの音が、ほとんど聞き取れない。ヴォーカルがぜんぜん聞こえない。歓声が極端に大きすぎる。結果として、めちゃくちゃひどい音になる。と、いうことらしいです。そんな現象になるのは、先述のとおり、サラウンド完備の高級DVDプレイヤーの、それもごく一部らしいですが。ホームシアターを完備するほどの人は、きっとかなり音のこだわりのある方でしょうし、それゆえに余計、「音質が悪い」ことが気になるのかもしれません。
これに関して、Rush.netに興味深い投稿をしてきた方がおりました。その人は、自分の家のDVDプレイヤーでRIRをかけたら、とても良い音だった。楽器のバランスも完璧で、クリアーな音だった。兄の家には、もっといいホームシアターがある。よし、そこでDVDをかけてみよう、そう思い、RIRを携えていって、そのお兄さんの家のシステムでかけたら、上で書いたような現象が発生した。何が起こったんだ? 動転したその人は、てっきりDVDそのものがどうかなったと思い、心配しながら自分の家に持って帰ってもう一度かけたら、元通り素晴らしい音だった。なぜだ??
その人のお兄さんはプロのエンジニアで、VTのプロデューサーであるPaul Northfieldとも仕事をした経験があった。お兄さんはRIRの音質に興味を持ち、スタジオで分析してみるから、とその人に言ったそうです。そして分析の結果は、こうでました。
1.全体的に録音レベルが高すぎ。大きな音を得ようとして、全体にコンプレッションをかけすぎている。そのため、低音、高音のピークがつぶれている。(VTと同じ現象のようです)
2.特にヴォーカルトラックに、異常にコンプレッションがかかりすぎている。これが全体のバランスを崩す元となっているようだ。
3.ただし、この程度のバランスの狂いは、たいていのDVDプレイヤーなら、補完して再生されるから、問題はないはずだ。問題がおきるのは、たまたまその信号ミスを補完できないタイプのプレイヤーなのだろう。
4.この問題は、ステレオ再生でなく、5.1チャンネルでの再生で起こりやすい。ステレオモードにしてしまえば、あまり気にならないはず。
5.どうしても5.1で聞きたい人で、なおかつこの問題が発生してしまったら、ミックスを変えてみることを薦める。ドルビーProLogic(すみません。正式名称がはっきりしないです)をオンにして、さらに、センターチャンネルをかなり持ち上げ、サラウンドをかなり落とすといい。
なのだそうです。そして、最初にクレームを言っていた人が実際アドバイスどおりにやってみたところ、かなり改善した、ということでした。
原因についてですが、ヴォーカルトラックの異常なコンプレッション、というのは、BurrnでAlexが言っていた「ヴォーカルマイクはいろいろな音を拾うので、きれいにするのが大変だった」(大意)、その過程で起きたことなのかな、と、ふと思いました。もともと、ヴォーカルはPAを通る時に、コンプレッションかかっているでしょうから、相乗効果になってしまったのかな、と。それに、全体に大きな音を求めて、というのは、ライヴ盤なのだから、会場の熱気と迫力をそのまま伝えたかった、という意図だったのかもしれません。
あちらではけっこう物議をかもしましたが、日本では自分も含め、北米版DVD買った人で、そんなクレームは聞いたことがありません。(音が悪い、というか、バランスが偏っている、というのは聞いたことがありますが)日本版に関しては、補正が入っている可能性もありますし、果たしてこの問題、日本で再発するかどうか、というのはわかりません。
もちろんひどい音では困るけれど、RIR、大音量、大画面、大迫力のサラウンドで聞いてみたいです。最新ホームシアターで。(でもきっと自分では、永遠に手に入らない代物です。>高級ホームシアターシステム。;))
バンドの専属カメラマン、Andrew MacNaughtonが撮影し、監修したドキュメンタリー、「Boys In Brazil」。Rushの半プライベート映像を約1時間近くにもわたって収めたこのドキュメンタリーは、バンドとして初めての試みでした。本人たちは、「僕たちは、ドキュメンタリー向きの素材だとは思わない」と言っていましたし、撮影したAndrewも、「Rushのツアー・ドキュメンタリーか。派手なパーティがあるわけでもないし、きれいな女の子たちを呼んでの乱痴気騒ぎもない。みんな普通だからな。せいぜい15分くらいのものが撮れれば、いいほうじゃないかな」と思ったらしいです。でも、できるだけ彼らに張り付いて、カメラをまわしっぱなしにし、20から30時間ほどのビデオを撮ってみた時、「あー、案外いけるんじゃないかな」と思い、良いシーンを編集していった。しかし、切れ切れのシーンをどうつなぐか、考えた末、Andrewはメンバーのスタジオインタビューを思いつき、その映像、語りを間に入れて、結果としてDisk2で見られる、1時間弱のドキュメンタリーが出来上がったそうです。
ちなみにタイトルの「Boys In Brazil」は、映画だかテレビシリーズだかの(いい加減ですいません)タイトルのもじりだそうです。あと、Tri-netあたりでは、Rushのメンバーのことを"Our Boys"と呼ぶ慣例があるので、それも引っ掛けているのかもしれません。(Tri-netの管理人さんは、Rushの全オフィシャルサイトの管理人さんでもあり、Anthemにも近い人らしいです) まあ、50前後の方々を"BOYS"というのもなんですが、しかしドキュメンタリーを見ていると、彼らは大人であると同時に、やっぱり『永遠の少年』的な感性も持った人たちだなぁ、と、思いもしました。まあ、親しくやすくて、いいんじゃないですかね、"Boys"。
そしてともかく、Alex! あなたがいれば、決して退屈しません!
北米でDVDがリリースされてまもなく、わっとあちらの掲示板に出てきたのが、この『スープネタ』。スープって何? と、その時にはちんぷんかんぷんだったのですが、実際自分で見て納得しました。『毎日、サウンドチェック前にはスープを飲むんだ』というAlexとGeddyの会話に続いて、Neilまでが、『毎日スープを飲んだよ。それなしでは、とてもいられないね』と語る。ドキュメンタリー最後のほうで、さらにダメ押し。「ツアーが好調に運んだ最大のわけは何だと思う?」と、Andrewに聞かれたAlexとGeddy、「スープだね!」「そう、スープ」と即答。
当然のように、「では、彼らはツアー中、どんなスープを飲んでいるのだろう」という疑問が、オフィシャル等、あちこちの掲示板で出てきました。こればっかりは本人たちか、ツアーに参加したクルーやスタッフに聞いてみないとわからないのですが、特定のスープではなく、日替わりということもありえますね。今日はクラムチャウダー、明日はオニオンコンソメ、とか。
でも単純にそれだけでなく、「スープとは、本当にスープなのか?」と、疑問を呈する人もあらわれました。たかだかスープで、あれだけ強調して連呼するのも変だ。スープとは、文字通りの意味でのスープではなく、彼らのインサイド・ジョークなのではないか。たとえば、ステージに上がる前の一連の儀式をさした隠語ではないか、いや、単に意味のないものをふざけて提示しているだけに過ぎない、さらにはスープとはドラッグの隠語だ、などと言い出す人も現れました。さすがにこれは、「彼らは最近、皆健康マニアなのだから、ドラッグなどやってるわけないだろう」と即座に反論されていましたが。(そんなやばい話を、たとえ隠語表現とはいえ、ドキュメンタリーでするわけない、と個人的にも思います) そして、Ghost Riderのスティック折り同様、「なぜ、そう深読みしたがるんだ。スープはスープでいいだろうが」という意見も、多々ありました。
たしかに、何かのインサイド・ジョーク、という線は、ありうるかもしれません。でも、ツアー・ミュージシャンにとって、ことにRushのように、パーティやお色気とはあまり縁のなさそうな(失礼)バンドの場合、食事は最大の楽しみの一つ、だとも思えます。実際、彼らのツアースタッフの中には、「専属シェフ」がいますし、プロモーターに対する、楽屋に用意するケータリングの好みが、わりとうるさいことで有名だという話も聞きます。Ghost Riderでも、この日はホテルの食堂で何を食べた、近くのレストランで何を、などという食事の記述がかなりありますし、Alexはグルメが嵩じて自分で料理する、というのもわりと勇名だったりします。2003年2月にQ107というトロントのラジオ局での公開インタビューで、ファンから「ウェニペグにきたら、ぜひうちへ来てください。おいしいボルシチをご馳走しますから」と言われて、Geddyが「ビーツ? キャベツ?」と受け、ファンが「あー、えーと、ビーツです」と言うと、「いいね、ボルシチにはビーツに限るよ」と答える一幕もありました。
こうしてみると、スープは、本当にスープなのじゃないかな、とも思えます。グルメなメンバーたちにふさわしい、特製のおいしいスープ。気持ちを和ませ、栄養もつけてくれる。楽屋で三人、スープを飲んでいる図、というのも想像すると楽しいです。夏場は、ちょっと暑苦しいかもしれませんが、まあ、冷たいスープもありますしね。(ちなみに、「話すこともあるし、話さないこともあるけれど」というのは、「Best In Show」という映画の台詞なのだそうです。時々、Geddyは映画の台詞のパロディをやるらしいですね。DSの「Yeah! Beautiful!」も、そうらしいです)
このドキュメンタリーのおかげで、「スープ」と聞くと、にんまりしてしまう日々です。野菜スープやポタージュをやたらと作ってみたり、子供がおやつに「スープちょうだい」と言ってきた時、カップスープ(手抜きでごめんよ!)を渡しながら、「そう、あんたもスープ好きなのね〜」(謎笑い)などとやってみたり。「スープ」と聞くとRushを連想する、という妙な条件付けになりそうです。
個人的にはドキュメンタリー最大の見所だと思っているのが、このシーン。Alexと奥様の夫婦漫才。(亜沙美さん、この表現お借りします) しかしAlex、まさか、ず〜とあのテンションではないと思いますが、本当に面白い人ですね〜というのが、あのシーンと、記者会見シーンだけでも、よくわかります。Geddyもドキュメンタリー中で、Alexについて、「彼ほど面白い奴に今まで会ったことないし、これからもお目にかかれるとは思えないね」と言ってましたが、本当にAlexって、友人としても家族としても、そばにいると退屈など決してしないだろうなぁ、と思えますね。また、そのAlexのジョーク攻勢にたいする、奥様の反応&受け流し方が見事。さすが、30年以上連れ添った夫婦という、呼吸の合い方です。
朝食シーン、冒頭「シャロ〜ン!」というのは、Ozzy Ozborneのまねですね。OzzyはMTVで、「The Ozbornes」というドラマショーを家族ぐるみでやっているので、そのパロディだと思います。奥様、名前が似ているせいかな?
コーヒーはやめたといいながら、コーヒーは飲んでるっぽいですが、タバコは本当にやめたんだそうですね。Second-Hand Smoke(副流煙)とSecond Hand(利き手じゃないほうの手)を引っ掛けたジョークは、日本語には訳しずらかったかな、と思えますが、まあこれは仕方がないかと。
「カーボン板を食べたのかと思った」と、ヨーロッパの掲示板で指摘していた人がいましたが、Alexがベーコンをかじるシーン。私も最初に見た時、あれがベーコンだとは思えませんでした。だって、「パキっ」という感じですからねぇ。一瞬、おせんべいかと思いましたが、ブラジルにせんべいがあるわけないし。「あまり質の良くないベーコンを厚めに切って、カリカリに焼くとあんな感じだ。ベーコンの風味が台無しだが、自分がこの間VTツアーを追いかけてカナダへ行った時、向こうのホテルでそんなベーコンを食べた。だから、ブラジルでもそんな感じに頼んだのか、それともブラジルでもベーコンの焼き方はそうなんじゃないか」という投稿が、そのあとにありました。まあ、どうでもいいネタですが、個人的には、ちょっと興味をそそられたので。
Andrew MacNaughtonがRush.netに、ドキュメンタリーとはいえ、ホテルの中のような、メンバーのプライベートな映像、それも奥さん同伴のものは、基本的にはずした。でも、AlexとCherleneのこのシーンはとても面白かったし、Cherleneもシーンを使うことを快諾してくれたので載せた、と書いていました。彼によると、この奥様もAlex同様、面白い人だそうで、まさに似合いの夫婦ですね。
ただ、NeilとGeddyの奥さん、ぜんぜん出てこないかといいますと、実はチラッと出ています。Neilの奥さんCarrieさんは、サンパウロの会場へ向かうヴァンの中のシーンで、ほんのちょっとだけ出てきます。Neilの隣に座っている、長い黒髪にサングラスをかけた女性です。Geddyの奥さんはRioへ向かう飛行機に乗るシーンと、Rioの会場を二人で歩いているシーン、どちらも後姿ですが、金髪を後ろに巻き上げている人。Rioの会場では、手をつないでますね。あれ、もしかしてこの人は冒頭、トロントの空港にも出てきてないかな……まあ、とにかくみんな奥さん同伴で、仲良くて微笑ましい感じですね。
これ、Geddyがドキュメンタリー中で言っていたことですが、具体的な曲名をあげていないことから、ファンの憶測を呼びました。「彼はLakeSide Parkが嫌いだと言っていたから、それじゃないか?」「いや、I Think I'm Going Baldじゃないか?」「あれは好きだと言っていたぞ」「いや、あれはAlexが嫌がるはず(爆)」「Alexなら面白がりそうだが」――まあ、ファンにとっては、自分の好きな曲が、アーティスト側からは嫌われていて、二度とライヴでやってもらえないかもしれない、と思うと、気にはなるのでしょうね。
「好き嫌いの問題より、もうこんな高い声は出ないからやれない、というのもないか?」という意見もあって、個人的にはそっちのほうが納得がいきます。「どうもぴんとこない」「好みじゃなくなった」「今にしてみると、稚拙に感じる」「ヴォーカルキーの問題」まあ、いろいろ複合した結果、「やらない曲」になったりするのでしょうが、それが自分の好きな曲でないことを祈りましょう。
Geddyのケースはサンパウロの楽屋で、けっこう詳しく見せてくれてますね。個人のステージ関係の持ち物や何かは、みんなそこに入れて運搬するようで。内扉にけっこう写真がはってありますが、きっと奥さんや子供の写真なのでしょうね。
これと同じ形の、青と赤のケースが楽屋においてありましたが、たぶんそれがAlexとNeilのでしょう。個人的な推測では、青がAlexで、Neilが赤かな。(Neilの赤好きを考えると。違うかもしれませんが) 二人のケースも、ちょっと見てみたかったです。
ところでGeddy、この中に靴は入れてないの?
「Geddyの機材ケースにAA(Alcholic Anonymous:アルコール中毒者自主治療協会)のステッカーが貼ってあるけれど、まさか彼もメンバーなのか?」という投書が、Rush.netに。「ありえんだろ。Geddyはワインマニアだし、AlexもNeilもお酒は飲むし。でも、アル中というわけではないと思う」と、即座に反論がきましたが。 しかし、細かいところを見ているものですね〜。私は気がつきませんでした。というか、AAのステッカーがどんなのだか知らないし。
この団体を詳しく知る人の話では、AAは匿名団体ではあるけれど、メンバーは自覚を促すために、目に見えるところにステッカーを貼ったり、キーホルダーを持ったりしている。そして、その人の回復段階によって、色が違うのだそうです。
「メンバーのジョークでなければ、ローディーのじゃないかな」という結論に落ち着きましたが、もしローディがAAのメンバーなら、ツアーは結構きついんじゃないかなぁ。以前麻薬中毒から抜けたクルーの一人が、T4Eツアー中にまた悪癖に戻ってしまった、という、Ghost Riderに書かれていた、NeilからGeddyへの手紙の内容を思うと、その人も大変だろう。だからこそ、自覚を促すために、目に付くところにステッカーを貼っているのだろうか――そうも思いました。
まあ、これも「深読みするな」というネタの一つではありますがね。
ドキュメントのBGMは、Andrewがお気に入りのRushナンバーを、ヴォーカル抜きで使った、とAndrew自身が言っていました。完全に歌が抜けて、カラオケバージョンのようになっているので、たぶんミックス前の物に手を入れて、使ったのだと思います。歌抜きにしたのは、きっとBGMとして、語りや他の音楽にかぶっても干渉しないように、必要以上に音楽に気をとられすぎないために、なのだと思いますが、純然たるインストのみの曲は、アルバムヴァージョンとはまた違った趣があって、「気に入った。欲しい!」という人が、続出しました。
ドキュメンタリーのサントラとしてでも、企画物でもいいので、あったら買いたいな、と個人的にも思います。カラオケにしてよし、インストのみを楽しむもよし。それにしても、この選曲、ほとんどAtlantic時代のですね。Andrewの好みって、そうなのか。
ポルト・アレグレの舞台裏で、Alexがビニールの切れ端を持ち、「Pratt、ほら!」(字幕では、ブラッドに見えるけど)と、Neilの足に巻きつけ、終わってNeilが一言、"I'm ready for surgery"と言う、あのシーンがあります。
ポルト・アレグレではコンサート当日、朝から昼にかけて土砂降りの雨が降っていたため、ステージは乾かしたものの、通路はまだ濡れている。でもNeilはバレーシューズのようなものをはいてステージに上がるので、そのまま濡れている通路を歩くと、靴が濡れてしまう。そこで即席カバーをAlexが作ってあげていたのですね。ステージに上がる直前、Neilがそのカバーをはずしてもらっています。
Alexの心配り、泣かせますね。
テロップの、Sao Paulo Show Day が2002年11月20日になってます。その日はポルト・アレグレのコンサート日だったはず。同時に二箇所で、コンサートはやれません。サンパウロは11月22日ですね。単純ミスだけど、最後まで残ってしまったあたり、ちょっと笑えます。
Alexのシーンもですが、最後のShrimp Cotのジョークも、苦肉の策ですね。わかるけれど、英語で聞いた時ほどの面白さは伝わりづらい。字幕翻訳者さんの苦労がしのばれます。
ブラジルのファン層は、前にも書いたとおり、若い人が多いですね。それゆえ、そして国民気質からか、ノリが熱い。日本でも、テレビカメラの前でガッツポーズやらVサインやらやる若い子たちがいますが、それより凄い弾けぶりですね。
もちろん、年配の方もちらほらいました。うら若き女性たちもいました。「ブラジルの女の子は美人が多い」という投書もたくさんありました。彼女たちは、いわばドキュメンタリーの花ですね。
一生懸命英語で、時には涙ぐみながら、Rushへの思いを語る彼らに、思わずうんうんと頷いてしまいました。ところ変われど、ファンの思いは同じ。日本ではあのノリは無理ですが、思いのたけは、変わらないと思います。
三人三様の個性が出ているドキュメンタリーですが、こうしてみると若干Neilネタが少ないかな、という気はします。ドキュメンタリーでも、本を読んでいるシーン、ドラムを叩いているシーンが大半でしたし、またその印象が強いようです。でも、インタビュー映像で時折見せる、おどけたような表情(実は凄く表情豊か)に、彼のユーモア精神を垣間見るような気がします。
Rushって、家族ともメンバー同士とも、そしてクルーたちとも仲が良いだなあ、信頼しあって、楽しんでツアーをしているのだな、と見ている方に伝わってきて、派手さはないけれど、とても心温まるドキュメンタリーだと思いました。
そして、Neilも書いていたとおり、三日とも雨に脅かされたブラジル公演も、スタッフたちの超人的な仕事振りで無事切り抜け、VTツアーの最後を最高のショーで飾ることができました。特にサンパウロからリオの二日間は、スタッフ、クルーは不眠不休だったそうです。
プロのステージを作り上げるために集まったプロたち。このドキュメンタリーを見てから、本編のコンサートを見ると、また新たな感慨に見舞われます。
今後もツアーするたびに、ドキュメンタリー付きのDVD出してー、と思うのは贅沢でしょうが、ついそう叫びたくなるほどの出来でした。Rush In Rio。アメリカではめでたく、BillboardのMusic Video部門で一位を取り、ダブルプラチナディスクになりました。
「毎晩、この曲を弾くのはこれで最後かもしれない、と思いながら弾いているんだ」と、Alexが言っていました。先には何があるか、わからない。でも彼らには、出来る限りツアーを続けていってもらいたいな、RIRを見ていると、そう熱望してしまいます。そしていつか、生で見たい。そう思わせずにはいられない作品でした。