My Favorite Headache

Released 11/2000


My Favorite Headache
The Present Tense
Window to the Wolrd
Working At Perfekt
Runaway Train
The Angels' Share

Moving To Bohemia
Home On The Strange
Slipping
Still
Grace To Grace




マイ・フェイバリット・ヘッドエイク

アブラハム平原に立つ一人の男が
傷付けられた日の出を見ている
一人の男が立っている
静かな崩壊へと向かう崖淵に

僕は海を見つめている
いくらかでも、僕をここにつなぎ止めておくために
僕は海をじっと見ている
少しでも、ここにいる理由になるだろうから

隠れ出したら、
ずっとそうしていなければ
パラノイアが静まるまで
見始めたら、もうやめられない
身動きが取れなくなるほど、
魅了されてしまうまで

どっちにしたって、今は
氷河期の狭間を生きているに過ぎない
語りたかったけれど
言うべきことは、多すぎるほどありはしない

そんなに虚無的になるつもりはなかったんだ
もし僕があまりに現実主義的に見えるようなら
許して欲しい

一度走り始めたら
ずっと走り続けていくんだ
筋肉が悲鳴を上げ、壊れていくまで
一度落ち始めたら
ずっと落ちつづけていくんだ
冷たい、冷たい地面に叩きつけられるまで

僕はテレビを見ている
君は僕に、何をして欲しいんだい
僕はテレビを見ている
君は僕に、何を求めているんだ

どっちにしたって今は
二つの氷河期の狭間を生きているだけ
話し合いたいけれど
言いたいことは、それほど多くない

そんなに虚無的になるつもりはなかった
もし僕があまりに現実主義的に見えたなら
許して欲しい

隠れ始めたら、ずっと隠れ続ける
絶対安心だと確信できるまで
いちど見始めたら、ずっと見続けている
身動きが取れなくなるほど
呪縛されてしまうまで

僕は海を見つめている
いくらかでも、僕をここにつなぎとめてくれるから
僕は海を見つめている
いつかテレビで見たように




ザ・プレゼント・テンス

今を生きている
過去を失った時
未来も意味をなくすだろう
君は現在時制の中に生きている
非難すべきものは何もない
重大な犠牲者がいるわけでもない
今を生きているんだ

這い出していく
守られた気分で、大胆に
無邪気な思いに浸って
目の前に迫る混乱の中へ
突然、視界はより鮮やかになり
今までとは違う世界の中に生きているのだと気づく

今を生きている
過去を失った時
未来も意味をなくすだろう
君は現在時制の中に生きている
非難すべきものは何もない
重大な犠牲者がいるわけでもない
今を生きているんだ

君が言ったこと
そのために、僕は外に踏み出していけた
その瞬間
僕の回りの世界で
視界が隅から隅まで開けた
目を開けてごらん
その可能性に手を伸ばして
君の世界の外側にある
いくらかの現実を認識してみるといい

静かな宇宙では
瞬間があまりに生々しすぎて
君はほとんど耐えられない

遠く離れた宇宙では
あまりに僕らとかけ離れすぎて
驚き、不思議に思わずにはいられない

混み合った宇宙では
話す声は騒音と化して
君は笑い出しそうになる




ウィンドウ・トゥ・ザ・ワールド

僕は飛んで行こうとしていた
君のもとに行きつこうとして
君は姿を隠していた
こんな状態のまま、僕を悩ませて

あの窓をおくれ
あの窓が欲しいんだ
世界へと通じる窓が

僕らは海を渡っている
エーテルの海に棹さして
君は後ろからずっとついてきて
君の至福のヴィジョンで
僕を躓かせつづけた

これよりほんの少しだけ多く
あれよりは、こころもち少なく
君はその手で魔法を操る
これよりほんの少しだけ多く
あれよりは、こころもち少なく
僕もこの手に魔法をつかんだ

君がそうさせたんだ
僕はこの場所を見つけた
君のインスピレーションで

あの窓をおくれ
あの窓が欲しいんだ
世界へと通じる窓が




ワーキング・アット・パーフェクト

ラインを引くんだ
強く、鮮明に
君の意思でそれを曲げてみろ
表面に刻まれたすべての線を
そのままずっと残すことも難しい

欠陥がみな消えてなくなるまで
間違ったことが消えてなくなるまで
すべての誤りが、みな消えてなくなるまで

完全なる仕事に
僕は跪かずにいられない
成功も失敗も
ただ程度の差に過ぎない
成功から失敗まで
それはただ、程度の差というだけ

日々の彩りが
いつのまにか消えてしまった
宇宙のすべての色彩が
思ったより近く感じられる

そう見えるほど、実際は近くないのか?
そう見えるだけで、本当は近づいてはいないのか?

完全なものなど、ありえない
僕がそうでないことは、確実だ
成功から失敗まで
それはただ、程度の差というだけ
完全なる仕事に
僕は膝を屈せずにはいられない

でも、それは正当なんだ
雨が正当なのと同じくらいに
正しくあった時には
苦痛はなくなる
正しくあれたら
もう一度出直せる

完璧なる仕事は
君を跪かせてきた
成功も失敗も
たんに程度の差というだけ




ランナウェイ・トレイン

愛のない部屋に
咲き出でる花など、何もない
君が自ら望まなくては
君が望まければ始まらない

無関心が支配する場所では
誰が愚か者なのだろう
君が自ら望まなくては
君が望まなくてはならない

君がそう欲しない限り
ずっと同じであり続けるだろう
心に潜む闇が
ゲームをしたいと望んでいる
果敢に抵抗しない限り
ずっと狂気のままだろう
すべてを受け入れ続けるなら
同じことが繰り返されるだけだ

悪意が支配する場所
それより苛酷なものはない
自ら望んでごらん
そう欲してみるんだ

ぶつけられた傲慢さから
身を守るすべはない
自ら望まない限りは
そう欲してみることだ

君がそう欲しない限り
ずっと同じであり続けるだろう
心に潜む闇が
ゲームをしたいと望んでいる
恥じる思いを捨てられたら
驚くかもしれない
そして太陽は昇り始め
また新しい、無気力な一日が始まる

心が痛むのなら
恥じる気持ちを取り去ってごらん
自分の意志をしっかり持って

君の魂を奮い立たせて
非難を跳ね返すんだ
君にはその権利がある




ジ・エンジェルス・シェア

天使たちの領分
宇宙の神秘
めったに公平ではない
祝福されるものも、呪われるものもいる

僕らが知りえない
そう言うすべてのことについて
夢を巡らせたり
推測してみようとする
たぶんそれは
空の彼方から見下ろしている存在にのみ
許される神秘なのかもしれない

僕らはただ、人類の一員でしかないのなら
超自然的な場所から来た、超自然的な存在ではありえないなら
解けない問題を抱えていたら
僕のところに言いに来ておくれ

天使たちの領域
人類のあらゆる神秘
天の歴史における盗人たちに
捧げる祈りなどありはしない

誕生と同時に僕らが忘れてしまった
完全なる英知の神話
悪意をはらんだ一種の共謀
天使たちの永遠のジョーク




ムーヴィング・トゥ・ボヘミア

そこでは空気もきれいではなく
水は緑色に輝き
犬も意地が悪くなる

ボヘミアに移って行くところさ
君を一緒に連れて
郊外に別れを告げるといい
もう芝生は刈らなくていいから

こことは違う場所を夢にみていた
いつもと違う表情の君を夢にみた
絶望にかられたような叫びが聞こえた
君はたぶん、そこで見つけたものが気に入る
そんな気がする

そこでは僕たちがテレビに出ていて
お金は木になっていて
ビールはただなのさ

ボヘミアに移って行くところなんだ
君を一緒に連れて
ユートピアに別れを告げるといい
立ち去る前に、手を振ろう

こことは違う場所を夢にみていた
いつもと違う表情の君を夢にみた
熱望に高鳴る胸の鼓動が聞こえる
熱気を感じるんだ
今が、僕らの旅立ちの時だと
僕らの始まりの時だ

ボヘミアに移って行くところなんだ
そこでは文学は卑猥になっていく
強烈な幸福感に浸りながら
そこではスクリーンの上に
赤裸々な真実が浮かんでいる




ホーム・オン・ストレンジ

彼はチェンソーを側において眠る
無法者のような目つきをして
彼は軽い散歩をする
話をするのは、好まない

彼は変化を好まない
彼は変化が好きじゃない
少々イカれた奴にみえるかもしれないが
それが奴の性分なんだ
奇妙だけれど、彼のスタイルなのさ

彼はカナダの偶像
服を着たまま眠る
自らの手で働くのを好み
彼は政治嫌いな奴だ

生涯に、一つのもの
世界に、一つのもの

彼はチェンソーを側において眠る
彼は適当な歌を歌う
自らの手で働くことが好きで
政治にはまったく無関心な奴だ




スリッピング

君に言うつもりだった
最初に、言おうと思っていた
この浅薄な心の中を
君に見せるつもりだった
でも僕は見つけられなかった
言うに値するだけの言葉を

僕は道を踏み外した
何処かでずれてしまった

そこにいようとした
君が倒れた時、そこにいられるように
人生が君に自分は小さな存在だと思わせた時
君は大きな存在なんだと、そう感じさせたかった
でも僕は見つけられなかった
間に合うように、すばやく踏み出す一歩が

物事を変えたい
空気を清浄にしたい
僕らの回りにある
ひどく修理が必要なものを
直していきたい
でも、僕は何かを変えられるほど
十分なセンスは持っていないかもしれない

僕は道を踏み外した
何処かでずれてしまった




スティル

光の悪戯
それとも、ただ遠近感を見失っただけ
壮大な計画の中の欠陥
それとも、ただそれがあるがままの姿

遠くからは良さそうに見える
でも、近づいて行くにつれて
次第に威圧的になっていく
でも、この瞬間も過ぎていくのだろう

それでも
丘を登る途上で
指から血を流すかもしれない
でも、僕はそこに行きつかなければ
じっとして
丘の上に立っていると
僕の心は解き放たれる
でも、僕はそこに行きつかなければ
それでも、なお

抽象的思考の中に迷いこみ
幻惑され、惑乱されて
息もできない、その中でも
僕は疑いの断片に捕らわれている
反響のために気をそがれて
でも、こんな瞬間も過ぎさっていくのだろう

それはただの混乱
たやすく乗り越えられる幻想
決断がやってくる
そして贖罪が

それは幻想じゃない
たやすく乗り越えられる虚構でもない
革新がやってくる
贖罪とともに――

光の悪戯
それとも、ただ視点が多すぎるだけ
遠くからは良さそうに見える
でも近づいて行くにつれて
次第に威圧的なものになっていく
でも、こんな瞬間も過ぎていくのだろう

それでも
丘に登る途上にいて
指から血を流すかもしれない
でも、僕はそこに行きつかなければ
じっとして
丘の上に立っていると
僕の心は解き放たれる
でも、僕はそこに行きつかなければ
それでも、なお




グレイス・トゥ・グレイス

10万年の年月
10万マイルの行程
10万の涙
そのくらい多くの
呼び返すことのできない魂

暗闇が退いた時
永遠が通りすぎていく
今とかの時の狭間に横たわる
断層線の上を

真実が姿を隠した時
永遠が通りすぎていく
今とあの時との間にある
深い亀裂の上を

優雅に、あくまで優雅に
そうあるべきであったはずの
穢れなきまぼろし

顔を見合わせて
そうなったかもしれない
雄弁な物語を(話そう)

10万もの夢
10万もの光の柱
天の神さえ正しく導きえない
それくらい多くの巧妙な計画

暗闇が沈下した時
永遠が通りすぎていく
かの時と今とを隔てる
深い亀裂の上を

真実が姿を隠した時
誠実さはひっそりと落ちていく
あの時と今との間にある
断層線の上に

優雅に、あくまで優雅に
そうあるべきであったはずの
穢れなきまぼろし

場所から場所へと(語られていく)
そうなったかもしれない
優美な物語





 2000年11月に発表された、Geddyのソロアルバムです。参加ミュージシャンは、ギターとストリングスに元FMのBen Mink、ドラムスにSoundgarden〜現 Pearl JamのMatt Cameron(Home On  The Strangeのみ、Our Lady PeaceのJeremy Taggart。その他にも、3人ほどチョコっと参加しているようです)
 GeddyとBenは友人同士で、以前から「機会があったらコラボしてみたいね」と言いあっていたそうです。 T4E Tour終了後、Neilが二重の悲劇に見まわれ、Rushの活動が停止して、再開のめどもまったく立たなくなっていた、いつ明けるとも知れない長い休暇の間に、 自らの創作欲のはけ口を求めて、Geddyは昔からの懸案だったBenとのコラボレーションを実現してみようということになったとか。
 GeddyはToronto在住で、BenはVancouverに住んでいるので、どちらかの家で1週間ほど一緒に曲を書き、 そのあと2,3ヶ月放置して、また一緒に1週間ほど曲作り、というペースで作業していったらしいので、 制作は足掛け2年に渡ったといいます。
 ただ、Geddyとしては「曲を書きたかった。自分の中にあるものを、曲の形にして生み出したかった」 と言う動機が強く、その曲たちを世に出そうという気は、初めはなかったそうです。いくつかデモができたところで、Anthem(今Atlanticにいるそうですが) のVal Azzoliに 聴いてもらったら、「ソロ名義で出せ」と言われて、多少迷いながらも、「やっぱり、できた曲たちに日の目を見せてやりたい」と、 ソロリリースに踏み切った、という経緯があるそうです。リリースを決めてから、ドラマーやプロデューサーを探し始めた、とも言います。

 Rushとしてではなく、自分一人にすべてかかってくる、というのは、Geddyにとってはかなりストレスのたまる状態だったらしく、ミキシング中は 肩こりや腰痛に頻繁に悩まされたけれど、リリースしたとたんに開き直ったのか、全快した、という話も伝え聞きます。長いことずっとRushと言う枠内でのみ 活動をしていたのが、いきなり枠をはずされて自分個人になったことに、戸惑ったのだろう、と推測されます。(ある意味、繊細な人なんでしょうねぇ。この点はAlexの方が図太そう…)

 個人的な感想では、なまじGeddyはRushの声で、メロディメイカーでもあるだけに、どうしてもRushが想起されてしまい、AlexとNeilが恋しくなる、という面はあります。 ことに、「ギターにシャープさが欲しいなぁ」ととみに感じてしまうのですが、そう言うことに捕らわれずに聴いてみると、非常に良くできた、良質の、洗練されたアルバムだな、と感じます。
曲のクオリティは非常に高いと思うので、「日の目を見せてくれて良かった」と。
個人的には、Present Tense、Runaway Train、BohemiaにStill、そしてGrace To Graceが、 My Favorate 5です。(曲順で、順位はこうではありません。RTとGTGとStillが自分的、同着ベスト3かな)

 歌詞についてですが、RushにはNeil Peartと言う大作詞家がいるので、GeddyもAlexも長年歌詞を書くということは、考えなくとも良いこと だったわけです。でも、ソロとなると、そうもいかない。Alexも歌詞を書くのは苦手なのだそうで、「次のソロアルバム作るなら、全曲インストにしたいくらいだよ」などと 言っておりました。Geddyも歌詞を書き始めの頃は、勝手がつかめなくてずいぶん悩んだらしいですが、やっているうちに、結構面白くなってきた、ということでした。 未確認情報ではありますが、ファーストの歌詞はGeddy中心で書いていたそうなので、本人にしてみれば、大昔にとった杵柄、という感じでもあるのでしょうか。
 しかし……もしファーストの詞がGeddy作であるのなら……このアルバムの歌詞は、別人としか思えない。20年以上、Neilの歌詞を歌いつづけていたので、洗脳されたのか。(爆)

 いや、正直なところ、かなり考えさせられるような、知的な歌詞が多いので、驚きました。(考えてみれば、失礼な言い方…すみません。汗)
 Rushの場合、完全分業性の形を取っているので、できあがってきた歌詞とメロディをつき合わせてはめていく、という感じになるゆえにか、 メロディーに対する言葉の乗せ方が時折イレギュラーっぽくなることがあります。(TotemとかPeacable Kingdomのような) それはそれで面白い効果があるのですが、 MFHの場合、たぶんメロディが先にできて、その上に言葉を載せている、という印象を受けます。それゆえか、歌った時の流れは非常にスムーズな感じがします。 それに、自分の言葉で歌える、というのは、ヴォーカリストにとっては非常に安心できる感覚のようで、全体的にはかなりリラックスした歌い方のような感じを受けます。
 まあ、メロディ先行のせいか、場合によっては「うん? ちょっと言葉が足りないかなぁ…」という感じになることもありますね。 「結局だから、何を言いたいんだぁ?」ということを知るには、かなり行間を読む必要があるような気がします。 (たとえば、The Angel's Shareは、言いたいことは良くわかるけれど、だからどうすればいいの…という結論は良くわからなった) 全体的に、問題提起のみで、答えのない曲、というのが、わりとあるような感じなのですが、答えは自分で探せ、という感じなのかもしれません。


・My Favourite Headache
 タイトルトラックです。「結局今は二つの氷河期の間を生きているだけなんだ」(いずれ終わりが来るんだから、そうしゃかりきになってもしょうがない) と言う人たちに対するアンチテーゼ、だと聞いたことがあります。ちょっと抽象的な感じです。
 ちなみに歌詞中に出てくる「アブラハムの平原」と言うのは、 Quebec City郊外にある、「アブラハム戦場公園」だと言う話です。となると、国内盤対訳の「アブラハムの戦場」でも良かったかな、とも思えますが、う〜ん、 どっちにしても注釈が要りそうな感じですね。(ちなみに私自身は輸入盤しか持っていないので、伝え聞いたこと以外、国内盤対訳はわからないのですが)
 Geddyのコメントによれば、冒頭部は「視覚的イメージを想起できれば良い」と言う意図で書いたのだそうです。ちなみに「damaged sunrise」というのは 「太陽が傷ついて血を流しているような→異様に赤く見える日の出」という感じなのだと思います。

・The Present Tense
 中学の英文法でやったところの「現在時制」というやつですね。過去でもなく、未来でもなく、「今を生きている」
 補足。「過去をなくした時、未来は意味をなさなくなる」 と言うのは、決してネガティヴな意味ではないと言う印象を受けます。今までなかった新しい局面に出会った時、未来もまた変わってくる。 「過去に捕らわれるな」「狭い世界に捕らわれるな」そんな感じのメッセージにも聞こえます。

・Windows To The World
 これは、なんとなくラヴソングっぽいですね、感じとして。「エーテルの海」と言うのが、宇宙的な、はっきりしない霞のような混沌とした世界を 漂って行くような感じで、雰囲気出ていると思います。

・Working At Perfekt
 Geddyは完璧主義者なのだそうです。でも、完璧なものなどありえないと、本人が良くわかっている。だから、わざとスペルもミスっているわけで。 かなり悟った歌詞のような気がします。
(ちなみに関係ないですが、rush.net/geddylee.net/tri-netを管理する会社がPerfekt Worksというそうですが、 その社名、ここから取ったのでしょう。)

・Runaway Train
 この曲の原題は「レクイエム」だったそうで、それだとちょっと重すぎる、ということで改題されたとか。Soul AsylumやTom Pettyにも同題の曲があるそうで、 runaway train、結構ポピュラーな単語のようですが、日本語にはしにくい言葉だと言う感じがします。文字どおり「家出列車」だとしたら「辛い状況に甘んじているな。勇気を持ってそこから脱出しろ」的なメッセージに聞こえるし、「際限なく繰り返される連鎖」の意味だとしたら、「堂々巡り」に近いものだ、という気もします。まあ、この場合も「堂々巡りを断ち切って行け」的なものになり、どっちにしても「現状は自分からなんとかしようとしない限り変わらない」と言う主張になるのだと思いますが。
 そう言えば以前、「この曲の歌詞は、Everyday Gloryに出てくる、小さな女の子がティーンエイジャーくらいに成長した、その子に呼びかけているみたいだ」と言っていた人がいました。まあたぶんGeddyはそこまで意図してなくて、偶然なのでしょうか、たしかに二つの絵はつながるかもなぁ、と、思えました。

・The Angels' Share
 GL.netのQ&A上で、最初の宗教議論を引き起こすきっかけになったこの曲ですが、(Lyrical Discussionページ参照)「結局、運命や神様や魂の真実なんて、僕ら人間にはわかり得ないことなのだから、 天使の領分、人間が決して手を出せない領域、ということにして、知らないままでもいいんじゃないか。どっちにしろ、結局はわからないんだから」という Geddyの考え方(Q&Aで、そんなようなことを言っていた)が、そのまま歌詞になったものだと思います。歌詞中、「で、結局どうなるの?」という 答えが出ていないのも、「元々答えの出せない問題だから」なのだと言う気もします。
 ある意味考えされられる歌詞でもあり、個人的には とても共感できるスタンスだと思います。(私自身も無宗教な人間だから、なのだと思いますが)

・Moving To Bohemia
 この場合のボヘミアって、いわゆるユートピアとはちょっと違って、「芸術家たちが自由にやれるところ。こだわりも慣習もない自由な天地」 という感じだと思います。後半、ちょっと原欲っぽくって、怪しい感じがしますが、それもまた、ボヘミアだから、でしょうね。

・Home On The Strange
 この曲のモデルは、「Ghost Rider」にも出てきた、芸術家であり音楽家でもある、Mendelson Joeのことだ、と言われていましたが、 実際の所は違うらしいですね。Geddyは「本人が歌詞を読んだら、自分のことだ、と気づくだろうけれど、あえて名指しはしたくないな」と言っていたので、 はっきりしないですが、レコーディングスタッフの一人、という説もあります。あ〜、でも単なるスタッフなら、「カナダの偶像」じゃないしなぁ。
 実の所を言えば、「Neilのことかしらん?」と、チラッと思ったのですが、(あちらでも、そう思った人いたようです) どうやら違うようですし。 (Neilはチェンソーおいて寝ないだろう…)

・Slipping
 これがBenとのコラボで、一番最初に書いた曲なのだそうです。「思いだけが先走って滑ってしまう」という感覚、よくあると思いますし、 それゆえもどかしい、という感覚も伝わってきます。
 ちなみにこの歌詞、一節は奥さんあてで、二節は息子さんあてではないか、と言っていた人がいました。 どうだろう〜、深読みかな、でも、そう取れても不自然ではないけれど…でも、本人その辺の質問は流していますので、実際はわからないですね。

・Still
 ふわっとした曲調なのに、歌詞には不屈の意志が感じられて、不思議なアンバランス感がなんともいえません。
戸惑いながら、迷いながら、「それでも辿りつきたい所」が何処であるのかわからないですが、 個人的にはTest For EchoのライナーでNeilが書いていた、「僕らは何処かへ辿りつこうとしている。一緒にまとまって」に呼応しているような気がしてなりません。 「そこへ辿りつけたら良いですね。(できれば一緒にまとまって)」と思ってしまうのですが、翻って、自分自身には「どうしても到達したい所」と言うのはあるだろうか、 と思うと、考えさせられてしまう歌詞でもあります。

・Grace To Grace
「この曲はNeilの悲劇を暗に示しているのですか?」と言う質問に対し、「いや、それもあるけれど、母のことが最初だったかな。母は戦争で人生の一番楽しい時期を奪われてしまったのだけれど、それでも それを恨むことなく、前向きに生きている。Neilもそうだけれど、そう言う、運命のような巨大な力で、貴重なものを奪われてしまったり、翻弄されたりして、それでもなお 優雅さを失わない人たちに、僕は感嘆しているんだ」というようなことを言っていた記憶があります。そういう思いが元になって 書かれた詞のようです。
 ちなみに「A hundred thousands」を文字どおり10万と訳すか、「とても多くの」とするかで悩んだのですが、まあ、あえてこの半端な数字なのだから、 語呂以外にもわけがあるかもしれない、と、文字どおり10万でいってしまいました。芸がなくてすみません。(汗)



 アルバムタイトルの由来ですが、Ben Minkのお父さんの言葉らしいですね。お母さんを指して、「ほら、またお気に入りの頭痛が始まった」と。 とても好きでやらずにはいられないのだけれど、それには非常な苦痛も伴う――自分にとっては、それは曲作り作業、ひいては音楽そのものがそうなのか、と 思ってつけたタイトルだとか。
 個人的には頭痛持ちなんで、favoriteと言うのはちょっと、という感じですが、感覚はなんとなくわかる気はします。私にとっての「Favorite Headache」は 子供たちかな、と。

 最初に書いたように、Geddy自身はなかなかソロに踏み切る決心がつかず、作業中も時々、「どうなんだろう〜、いいのかな――」と考える側面も あったそうですが、そんな時Alexが「大丈夫だよ――がんばれよ〜」と、しばしば電話で励ましたりしていたそうです。いったん作曲パートナーを解消して、 別々のことをやっていても、根底ではしっかりつながっているんだな、と、改めて思いました。

 正直に白状しますと、私は好きなバンドでも、ソロ作となると、バンド本体ほどには評価し得ず、あくまで本人がバンドで表現できなかったものを発散するためのもの、 と言う程度にしか考えていなかったのですが、このアルバム、そしてAlexの「Victor」ともに、「バンドとは別に、ソロもまた悪くないな」と思わせてくれた作品でした。  そして普段は一緒に曲を作る二人の、それぞれ個人の持ち味、というのも、別れてみて初めてはっきり見えた部分もありました。色々な意味で、二人のソロ作は 興味深いものがありました。




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