New Yearの衝撃


 2004年1月2日、突如飛び込んできたNews。「Alex Lifeson、保安官代理に対する暴力行為で逮捕」 ――もちろん日本のニュースサイトに載るわけはなく、THMLというRushファンサイトのメーリングリストを通じて、知ったわけですが。
 ええー! Alexが逮捕? 暴力事件で? うそだー! 今日はエイプリル・フールじゃないぞ! というのが、個人的に、真っ先に思ったことでした。ロックミュージシャンに、そういう騒動はわりとありがちとはいえ、Rushはそういうイメージじゃない。彼らはしっかり足を地に付けた、穏やかな大人のはずだ――イメージだけではわからない、それは確かですけれど、Alexを実際に知る人は皆、彼はユーモアのセンスにあふれ、寛大で親切、気さくないい人だと言う、その「良い人」が暴力沙汰を? なぜ、どうして――

 その後、海外の有名Rushファンサイトの掲示板はみな、その話題で持ちきりになり、日本でもALEXさんが、かなり詳しいレポートを載せておられます。





☆事件の経過


 新聞などの報道で、証言があって、事実だろうと思われることのみ、書きます。

 Alexはフロリダ州Naplesに、高級アパートを持っています。「Ghost Rider」に出てきたSantaFeの家についでの、セカンドハウスとして。(3件目だからサードハウスだ、という突っ込みはなしに)
 クリスマス・シーズンを祝うため、このNaplesの家にAlexと、長男である33歳になるJustin Zivojinovichさんとその奥さんであるMichelleがやってきたわけです。Newsには触れられていませんが、Alexの奥さんのCherleneさんや、JustinさんとMichelleさんの間に、前年10月に誕生した赤ちゃんも、一緒に来ていたに違いありません。

 そしてNew Years Eve――大晦日の夜、一家でRitz Carlton Hotelに晩餐に出かけたのですね。もちろん、正装して。 (赤ちゃんは、行っていないでしょうが)
 Naples Daily Newsのコラムに出た、詳しい記事によると、その時Ritzで演奏していたのは、71歳になる、Freddie Coleさんのバンド――この人は、故Nat King Coleさんの弟に当たる人だそうで、その人の話によると、演奏中、いきなり白いスーツの若者がステージに上がり、踊り始めた。その若者は、したたかに酔っていたようだ。Coleさんも長年ホテルで演奏していて、酔客が羽目をはずすことには、なれていた。それで、その若者を無視して演奏を続けていた。若者はマイクをつかんで、歌おうとした――
 このあたりで誰かがホテルのセキュリティを呼んだのでしょう。駆けつけたセキュリティと若者とが、口論になった。警察の発表によると、彼はセキュリティの指示に従わなかったので、保安官代理が呼ばれた――困った客を排除してほしいと。

 この若者が、Justinさんだったのですが、彼は保安官代理の排除命令にも従わず、抵抗した。Alexもやってきて、Naples Newsの記事によると、「息子をどこへも行かせたりはしない」と言ったそうです。保安官代理がAlexに、「命令に従わないなら、逮捕するぞ」と警告すると、Alexは「そうしたらいいだろう。今日は大晦日なんだ」と言ったらしい。
 Justinさんの抵抗が激しくなったので、保安官代理は彼を逮捕しようとし、その際、スタンガンを使った。それを見たAlex、逆上。猛然と保安官につかみかかり、無線を剥ぎ取った。そして乱闘――その際、Alexは女性保安官代理を階段下に突き落とし、自分自身は鼻に怪我を負った。そして最後はスタンガンを打ち込まれ、逮捕。

 Alexの罪状は、ラジオ無線を剥ぎ取ったことによる公務執行妨害、保安官代理への暴行傷害2件――ひとつはその女性保安官を階段下へ投げ落とした罪、そしてもう一つは、保安官代理の顔に血を吐きかけた罪。その他3つの微罪をあわせて、6つもに膨れ上がってしまいました。結果的に、Alexの罪は騒動の張本人であるJustinさんより重くなり、保釈も遅れてしまった。息子夫婦はすぐに保釈されたけれど(ちなみにMichelleさんは、「保安官代理が身の危険を感じたので」逮捕されたそうですが、きっとすごい勢いで抗議したか何か、その程度だと思います)、Alexが仮釈放されたのは、1月2日のことでした。

 Alexの6つの罪状は、最も重いものだと、あわせて懲役30年に匹敵する罪だそうです。





☆事件の疑問点と推測


   最初にこの事件が伝わったとき、警察側の発表と、Justinさんが語った事情と、かなりかけ離れていました。(今も、かけ離れていることには、変わりありませんが) この事件はなお、いくつもの疑問点を含んでいます。

・発端となったJustinさんのふるまいについて

 事件は、Justinさんがホテル側のバンドが演奏中、ステージに上がって、「Happy New Year」を歌おうとしたことが発端となっていますが、これがどのくらい正当性があったのか。バンド側に招かれてステージに上がったのか、バンド側に一言断りを入れて、許可を取ってから上がったのか、それとも、演奏中勝手にステージに上がりこんで、歌おうとしたのか。
 Freddie Coleさんの話が事実であるならば、一番最後のケースだった、と言えますね。これだと、誰かが不快に思ってセキュリティを呼んだとしても、Justinさん側に非はない、とは言えない状況になってしまいます。
 たとえば、極端な話、Rushのコンサート中に、誰かが勝手にステージに上がって、マイクを勝手に持っていって、全然関係のない歌を歌いだしたら、そりゃ、やばいでしょう、というか、ファンは怒りますね。まあ、ホテルやバーでは、そんなことも、そう珍しくはないと言いますが、Ritzというと、やはりハイソなイメージありますし、そういう振る舞いを歓迎しなかったのでは、と思えます。

・息子の行為を、Alexはどう思っていたか。

――うーん、少なくとも、「たしなめた」とか「注意した」という話は聞きません。黙認していたのかな。「AlexもJustinも、Ritzのダイニングバーを、Orbit Roomと同じに考えていたのではないか」などという投書も、あちらの掲示板で見かけましたが、まあ、そこまではいっていないと思いますね。Justinさんは、かなり酔っていたらしいと聞きます。Alexは――わかりませんけれど。New Year's Eveという特殊な夜であることもあって、気分は高揚していたと思います。お酒も手伝って、陽気になって、ちょっと羽目をはずした。Alexも同様の気分に近かったなら、「あ〜あ、しょうがないな」と、笑っていたのかもしれません。特別な夜なのだから、みんな楽しくやればいい、と。

・なぜ、Alexはキレたか。

 キれるでしょうよ。楽しい気分でいるところに無粋な邪魔が入って、すったもんだした挙句に、息子にスタンガンまで打ち込まれた日には。
 Alex、ユーモアにあふれ、親切で暖かく、公正で陽気、気さくな人柄、音楽には、すごく凝り性。それだけでなく、実は気分のアップダウンや喜怒哀楽もけっこうあるほうだ、と、Alexと親しい人たちは言っています。身近なところでは、RIRのドキュメンタリーで、Geddyが言っていました。
「彼はとても理性的になったかと思うと、次の瞬間には、まったく非理性的になったりするんだ」 そして、別のインタビューでは、Rioでの撮影のとき、カメラスタッフに張り付かれて、キレかけた、とも言っていました。
 ある意味、とても人間らしくて、個人的には非常に好きですが、この場合、それがちょっと裏目に出てしまったのかな、という感じでしょうか。

・女性保安官代理を、階段下に投げ(突き)落とした?

 いくらなんでも、これはAlexのイメージには合わないなぁ。女性に暴力を振るうような人には、見えないんですけれど――勝手なファンの思い込みだ、と言われそうですが。 警察のレポートでは、「女性保安官代理の胸ぐらをつかみ、階段下めがけて突き飛ばした」とありますが、もし本当にそんなことをしたのなら、これは盲目的な怒りに我を忘れていた、としか思えない状況です。これには目撃者がいる、とのことですが、実際にこのシーンはホテルの防犯ビデオに写っているそうで、それによると、非常に大勢の人が、階段付近でもみ合っていたらしいです。これを詳しく分析すれば、本当に警察の発表どおりなのか、それとも弾みで転落したのか、はっきりすると思いますが、少し時間がかかるようです。
 この人はそれにより、重傷をおったそうですので、もし意図的な結果だとしたら、この罪が一番まずいのではないか、と思えます。

・保安官代理の顔に血を吐きかけた?

 というか、唾じゃなくて、血なんですか? 顔に唾を吐きかけたのなら、明らかに意図的でしょうけれど、口の中に血がたまって気持ち悪いから、勢いよく吐き出したら、相手の顔にかかった、という線もありえるのでは? 勢いよく吹くこと自体、意図的かもしれませんが――侮辱罪、になるのでしょうか。それより、血を流すほどの怪我を負わせるほうが、問題になるのでは、と思えてしまいます。まあ、ファンの偏った見方なのかもしれませんが。

・Alexの鼻は折れたのか?

 上でも触れた、血が流れた原因ですが、鼻を殴られて、激しく鼻血を吹いたのが原因のようです。保釈されたときのビデオでも、白いシャツの胸元にべっとりと乾いた血の跡がついています。あれだけ出血したのなら、そして、逮捕写真のAlexは明らかに鼻が腫れ上がっていたことからも、「折られた」というJustinさんの言い分も、ありえるのかもしれません。負傷の程度は、医師に診てもらえば、わかるのでしょうが。
 Alex自身も逮捕の際、スタンガンを、それも一発ではなく打たれたこと、そしてこれだけの怪我を負わされたこと、これを逆に保安当局に訴えることによって、今後の裁判を少しでも有利に進める上で、使えるか、そのあたりが焦点なのでしょう。
 そして、私個人としては、思います。折れたのなら、曲がらずに治ってね、と。





☆ 事件の余波と今後


 この事件、Alexでなかったら、多分こんなに大きくは取り上げられなかったと思います。もしかしたら、新聞にも載らないような、どこにでもあるような事件だったのでは、と。実際、フロリダ州警察側から出たレポートにも、「Alex Zivojinovichが音楽業界にかかわりのある人物だったために、この事件は思わぬ広がりを見せた」と。
 たぶん、警察側としては、Alexを逮捕したとき、彼が誰であるか、ということは、まったく知らなかったのではないでしょうか。無軌道な若者とその父親――たぶん裕福な、そのくらいの認識だったのでは、と思われます。Alex、タキシード着てRitzで食事しているところを見ても、ロックミュージシャンには見えないでしょうから。

 ところがどっこい、Rushファンというのは、一般的なアーティスト水準から比べて、熱心な人たちが多いので有名だったりします。そして、日本ではともかく、北米ではニュースバリューのある一線バンドだったりするので、あっという間にニュースが広まった。その結果、かなりのファンが騒いだ。当然でしょうね。思い切り衝撃的なニュースですから。ファンサイトの掲示板で騒いでいる分には、まだいいですが、中にはフロリダ警察に抗議のメールや電話をしたり、Ritz側に抗議してみたり、もちろん新聞社にも問い合わたり、というファンも相当数いたようです。それで、フロリダ警察がうんざりして、レポートに「ファンと称する連中が、事件を実際見聞きしたわけでもないのに、勝手な憶測を基にして警察を叩く」などと書いたりしたのでしょう。
 このレポート文、ALEXさんのサイトに詳しい記述がありますが、ファンを挑発しているともとれますし、思いもよらぬ反響に困惑しているようにも感じられます。騒げば、警察へのプレッシャーになるのか、それとも下手に警察を刺激してしまうか――いずれにせよ、理性ある行動が求められるところですね、どちらの側も。

 そして気がかりなのは、事件の今後です。6つの罪状、あわせて、最悪では懲役30年。本当にそんなことになったら、えらいことですが、しかしまあ、楽観論ですが、これは多分ないのでは、という見方が体制のようです。CounterpartsやRushtour.comといった掲示板の常連さんには、法律関係の職業の人もいるようで、その人たちの話によると、「Alexには、フロリダ一の腕利き弁護士もついているし、実刑を食らう確率はそう多くないだろう。一番ありそうな線は、10年くらいの執行猶予付き刑+数十万ドルの罰金、それに数日の勤労奉仕だろう。もちろん、それ以前に、不起訴ということもありえる。裁判の結果がどう転ぶかは、完全には予想がつかないけれど」ということでした。

 最初の公判は1月26日で、決着がつくまでには、半年くらいはかかるだろうということ。ちょっと待て、今年は30周年記念ツアーじゃないの? どうなるんだ――

 Alex、保釈直後の会見では、「ファンたちに一言ありますか?」ときかれ、「ああ――Happy New Year!!」と言った後、「See you in the spring」と言っているんですね。「春に会おう」ということは、予定通りツアーで、ということか――6月からなら、夏じゃないのか、とは思いますが、それはさておき――裁判もあるだろうし、予定通りツアーできるのだろうか。それはRushファンなら気になるところですが、新しいNaples Daily Newsの記事によると、何とか実行できるだろう、という感じでした。原文は、こうです。

"With a world tour set to begin in May, Alex Zivojinovich will be allowed to travel anywhere despite the charges against him.

State prosecutors, who agreed to $14,500 bond set by a judge in Naples on Jan. 2, the day after the arrest, said state law doesn't require any restrictions on a defendant released from jail on bond. And prosecutors didn't ask the judge to confiscate Zivojinovich's passport. "

 パスポートは没収されなかった。公判は最悪、代理人が出てもOK。旅行は許可されるだろう――と。事件に関して、Anthem側からも、Rushとしても、他の二人のメンバーからも、何もコメントが出ていないので、確定とはとても言えないのですが、無事に敢行できることを祈りたいです。

 そして、もう一つの気がかり。アメリカで犯罪を犯した外国人は、査証を没収されてしまう。アメリカに入国拒否される、という事態になったら、Rushはアメリカでツアーができなくなる。それはバンドにとっては、死活問題だ――
 確かにそんなことになったら、一大事です。最大の市場であるアメリカを失ったら、Rushは存続の危機、間違いなし。腕利きの弁護士が選ばれたのも、一つにはそんな事態を避けるためでしょうし、Anthem側も最大限努力するには違いない、と思います。幸いにも、そんなことには、たぶんならないだろう、というのが大勢の見方ですし、そうありたいと切に願います。





☆ 雑感


 好事魔多し、といいますが、とかく順調な時ほど、思わぬ落とし穴にはまりがちなのかもしれません。
 バンドとしては、VTのセールスこそ今ひとつだったものの(それでも、市場的には大健闘)、ツアーは大成功し、RioのDVDも一位をとり、みんなにやる気がみなぎって、次のアルバムを、さらに30周年記念ツアーを、と、非常に波に乗っている時期です。バンド存亡の危機を乗り越えて得た高揚感に加えて、個人的には初孫(?)誕生。 50歳の誕生日は、父親が亡くなって悲しい日となってしまったAlexにとって、このクリスマス〜新年こそは、家族で楽しく過ごしたかったのではないでしょうか。
 なのに、突然の暗転。大晦日の夜を、そしてお正月を、冷たいフロリダの刑務所で過ごしたAlexの心中は――それを思うと、心痛む思いです。ミュージシャンとして、人間として敬愛すべき人物、Alex Lifeson氏の将来に、この事件が影を落とすことのないよう、そしていつか、Rushのコンサートのラントで、この事件を自ら笑い飛ばせるような日が来ることを、心から願っています。

 最後に、あちらの掲示板をあちこち見ていて、印象深かった意見を一つ。事件を深刻に捕らえた投稿が多かったのはもちろんですが、ユーモラスに捕らえたものもかなり目立っていました。いわく、「Rushがこんなにニュースに出たのは初めてだ。いい宣伝になったのじゃないか」「ローリングストーン誌も見直すかな?」「VH1のMan Behind Musicに、いいネタができたね」「きっと次のラントはこれだ!」「Justinの歌、Alexの歌唱力並なら、セキュリティ呼ばれても仕方ないかな」etc、etc。さらには、TreesやManhattan Projectの、ユーモラスな替え歌。(もちろん、主題はこの事件)
 それを不快に思ったファンが、「なぜこんな深刻なことなのに、面白おかしく捕らえようとするんだ」投稿したところ、こんな答えがたくさん返ってきました。
「もちろん自分も心配だし、心を痛めている。しかし心配や絶望が、この事態を良くしてくれるとは思わない。悲観主義に落ちたくないから、あえてユーモラスな側面を捕らえようとしているのだ」  ――いいなぁ、このポジティヴな考え。Alexも、きっとそうだろうな。ふと、そう思いました。

2004年1月14日Up



More Info

Naples Daily News
ALEXさんのサイト




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