彗星の固有運動のキャンセル方法



 彗星の固有運動をキャンセルする方法はいくつかあります。10年前まではメトカーフ法が主流でしたが、CCD技術のおかげで、彗星の核を追尾することが可能になり、明るい彗星ではこれによる撮影が多くなっています。
 しかし、暗い彗星ではCCDが彗星核を検出することが難しく、彗星の運動を捕まえることができないケースも少なくありません。LINEAR S4彗星では核が分裂したことにより、当然CCDが核を利用して追尾することを不可能にしました。
 ここではCCDカメラを使わずに、極軸をずらすことで彗星の固有運動をキャンセルする方法を紹介します。

 まず、クイズです。
 天体の運動は1時間で何度移動するでしょう?
 1、 15度以下
 2、 15度
 3、 15度以上

答えは1の15度以下です。一見すると15度のようですが、これは赤経が15度移動するのであって、見かけの運動はそれ以下になります。たとえば、北極星なんかは、1時間経っても、ほとんど移動しませんよね。

このクイズを理解すると、極軸ずらしによる彗星の動きをキャンセルする方法が理解しやすくなります。

 まず、南北方向のキャンセルについて説明します。これは「天文年間」にも載っていますので、ここでは簡単に済ませます。
 下の図をみるとわかりやすいです。天の北極の位置を P0 とします。そして、望遠鏡の軸を P1 にずらしたとしましょう。恒星は青いラインに沿って移動し、彗星が赤いラインに沿って移動したとしましょう。望遠鏡の極軸を上にずらすことで、赤いラインは時間と伴に青いラインの外側へ移動します。 つまり、南に移動する彗星を追尾することになります。




次に赤経方向のキャンセルについて説明しましょう。 先ほどのクイズを思い出すと、天体の動きは15度以下であることから、図のように極軸を左右にずらすことで、望遠鏡の回転量を変化させることができます。 図のように彗星がL2のように移動したとしましょう。この彗星の動きはその付近の恒星の動きの量に比べると少ないとしています。 そこでその動きの量と同じだけの円弧を探そうとすると、L1がL2と同じであることがわかります。 ということは、極軸を彗星側へ移動させれば、望遠鏡は彗星の動きとほぼ同じになるというわけです。 彗星方向だけに極軸をずらせば、南北方向へはほとんど動くことはありません。




上の2つの方向についてまとめてみると、次のように極軸をずらすことで彗星の動きを近似的にキャンセルすることができます。

南北方向(赤緯) >> 彗星の方向に対し直角にずらす
東西方向(赤経) >> 彗星の方向にずらす


では、これを元に実際の撮影結果を見てみましょう。

タカハシのEM-200を使用してLINEAR S4彗星の場合について、極軸望遠鏡を覗いたときにどこに北極星をずらせば良かったのかを見てましょう。



図のように、北極軸を左下にずらすのが正解でした。極軸望遠鏡は上下左右反転していることに注意しましょう。 また北極星の移動と天の北極の移動は平行であることも留意しておきましょう。

次に、実際の撮影画像を見てみることにします。



このカラー画像は90秒露光を各色でコンポジットして、RGB合成したものです。実際の極軸ずらしを手動では厳密に行えないので、短時間露光撮影を繰り返し、これらをコンポジットすることで、安全かつ確実に彗星の動きをキャンセルすることができます。

この方法による欠点

 クイズを思い出すと、天体の見かけの動きは15度以下です。ということは赤道儀が移動させる量も15度以下になります。これが上限値になりますので、彗星が1時間に15度以上動くようなケースではこの方法は使えなくなります。

また、彗星の動きを円周運動で近似していますので、長時間露光では若干のずれが発生します。

では実際にどのくらいの量をずらせばいいのか? この考え方を元にご自分で計算しましょう。幾何学的な計算で十分な精度がでるようです。

August 12th 2000

Astronomy

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