2003年ハロウィンパーティ(O-bakeさん宅の企画)〜いただきました
   覆面のHNで投稿して、本当のHNを当てるというものです。
   お題は「いたずら」。くるりんが当てたお話と、管理人様のお話を頂戴しました。



黒いタキシードと赤いドレス  投稿者:白夜(螢石さん→O-bakeさんのお知り合いで、創作もされています)

「女房とヨリ戻すことにしたんだ。」
「え?」
私は、白いアジア・アロワナの水槽に餌を落とす手を止めた。
「だから、君とはもう住めない。またここでやりなおすから」
私は一応、とまどってはみせたものの、すぐに」彼の求める答えを出した。
「私が、この部屋から出て行けば、コトは丸く収まるのね。」
「つまり、そうなんだ」
「始めっから、いつかこうなることをふまえた仲だったじゃない。いいわよ。私も早速荷物まとめて、次探すから」
「ありがたいね。そう、君も世話してくれた熱帯魚、何ならどれか、、」
「いらないわ。こんな色気の無い魚たち」

 「斬新な色使い」で評判のインテリアデザイナーの彼の部屋にはモノトーンの熱帯魚しかいなかった。
 白いアジアアロワナ、白いキッシンググラミー。
黒いエンゼルフィッシュ、黒いスズメダイ。そして白黒のエンゼルフィッシュ。タキシードとかいう種類の大量のグッピー。
 それぞれが個々の水槽で静かに泳いでいた。グッピーだけは数多く群をなして泳いでいたので、賑やかといえば、にぎやかだったが。
 水槽には水草の緑もなかった。それよりもこの部屋のインテリア自体が白黒なのだ。なんでも色の想像力を養うため、あえてそうしているのだそうだ。それが、あれだけ評判を得ている仕事をする人だからだれも文句は言わないが。

 二人の出会いは都心のビルで行われたショールームのオープニングセレモニーだった。インテリアデザイナーの責任者として黒のタキシードできちんと正装した彼と、派遣のパーティコンパニオンとして華やかな赤いドレスを着た私は、一見対照的だったが、言葉少なくして、お互いに好意を抱いた。水中の魚のように。
 初めてこの部屋に来たときも、このモノトーンの水槽も単一的なエアーポンプの音にも私はなじむことができた。
 それを、あっさりと熱帯魚の水槽を移し替えるように、私のものの整理をし、ここから出て行く日は近づいてきている。と、同時に本妻が戻ってくるからか、彼は部屋の隅々に気を配るようになった
そうか、私との関係は彼にとってもう不都合なものなのだ。私のものがないかチェックしているのだ。

「君は結構、色気があるから大丈夫だよ」
 別れの時、私の物が部屋に何一つ残ってないことを確認したうえで彼は言った。
「そうね。鮮やかな思い出もひとつの財産ね」
そう言って、私は何一つ彼の物はもたず、私を思わせるような物も、置いてはこなかった。ただし今現在は。

 出会った時の私が着ていた赤いドレスを思わせるようなグッピーを、彼のタキシードという種類の白黒のグッピーのなかに数匹、放したのだ。ただし、私のグッピーは見た目がタキシードの白いメスとさして変わらない白いメスだけ。
 あとひと月もすれば、2種類のグッピーは一つの水槽のなかで交配し、やがて稚魚が大量に産まれてくるのだろう。その中には、白黒のタキシードを着たオスのグッピー、鮮やかな赤いドレスをまとった赤い尾ひれのオスのグッピーもいるにちがいない。

「さてと、、」
 私は新しい水をもとめて歩き始めた。都会を泳ぐ魚のように。



ハロウィンのささやかないたずら  投稿者:O-bakeさん(Sweet Little Ghostの屋敷)

その夜、ひびきの森のオルゴール店はちいさなお客でにぎわいました。
うさぎのぼうやに、テンのおじょうさん、イタチの子……。
森の子どもたちがひっきりなしに訪れては決まり文句を投げかけます。
「お菓子といたずら、どっちがいい?」
用意していたお菓子が品切れになったころ、小さなノックがありました。
おばけに化けたつもりのキツネの子です。
「お菓子といたずら、どっちがいい?」
聞き覚えのある声に、くまはどうしたものかと思いました。
じつは、このキツネの子、仮装を変えて2度目の訪問なのです。
くまは何か思いついたらしく、店のおくから小さな包みを持ってきました。
「はい、どうぞ」
「おじさん、ありがとう!」
キツネの子はしめたとばかり、うれしそうに帰ってゆきました。
しばらくすると、キツネの子の叫び声が聞こえてきました。
くまはにやりと笑いました。
「さっそく味見をしたんだな。欲ばるからそういう目にあうんだよ」
くまが渡した包みに入っていたもの――それはトウガラシの種でした。