「すっかり暗くなっちゃったわね」  霧子達は、夜の学校を玄関へ向かって歩いていた。 「あいつ、この状況でも攻撃してくるかな?」 「わからないわ。私達以外の人がいないのは好都合でしょうけど。  私を攻撃できないなら、狙うにはリスクが大きい」 「一応、中村君と雨宮さんも呼んでおいた方がいいのではないか?」 「そうね、連絡してみる」  霧子は携帯電話を取り出し、二人に電話をかける。 「つぐみさん、大丈夫?」  進がつぐみを心配して、声をかける。 「ええ。そりゃ、ショックだったがな……」  つぐみが相当落ち込んでいるのは、様子を見れば明らかだった。  進はどう声をかけるべきか言葉が見つからず、黙りこむしかなかった。  しばらくして、霧子が電話をかけ終えた。 「佳織は来てくれるって。でも宗介君が電話に出ないのよ」 「そういや、帰って寝るとか言ってたな」  三人は玄関から校庭へ出た。 「見つけたぜ、そこかぁ!」 『!』  廊下の窓を割り、炎の塊が飛び出してきた。  よく見るとうっすら人の形をしている。異形の化け物に三人は息をのむ。 「こいつ……」 「見たまんま、炎の能力者ね。  まずいわ……進君の氷、私の光、おそらくつぐみさんの電気も効果はない」 「試してみる」  つぐみは足に意識を集中させる。すると電気を纏ったブーツが形成された。  そのブーツで空を蹴ると、電流が凱へと飛ぶ。 「はっ! そんなんで俺の炎を貫けると思ってるのか!?」 「! 来る、避けて!」  突進してくる凱を、進達は三方向に散ってかわす。  凱は霧子へと向きを変え、再び突進する。 「!?」  霧子はシャイニングフェザーを展開し、空中へ退避する。 (こっちを狙った……?) 「そう不思議そうな顔すんな。回復役から潰すのがセオリーだろうがっ!」  凱は手から炎を放出し、空中の霧子を狙う。 「くっ!」  大きすぎる炎を霧子は避け損なう。彼女の羽を焼かれ、浮力を失って地面へと落ちる。 「もらった!」  落ちた所を狙って、間髪入れず凱は突撃する。 「危ない!!」  進が駆け寄ろうとするが、距離は遠く離れていた。 (やられる!?)  霧子は覚悟し、目を閉じる。  が、直後に鳴った轟音で目を開けた。 「佳織!」 「ふー。なんとか間に合ったね」  佳織は自分の身長ほどはある大盾で、凱を受け止めていた。 「早く逃げて! あんま持ちそうにない……」  佳織は盾の裏から自身の体で体重もかけて、凱を受け止めている。  霧子は、急いで凱から離れた。 「よし。ブーストっ!!」  佳織が叫ぶと、盾の外周から炎が吹き出した。 「うおっ!」  噴射によってできた推進力で、凱の体を地面へ叩き付け、退避する。  その間、他の三人は作戦を思案する。 「まいったなあれは。氷、光、電気、炎。  俺達の攻撃手段が全て通じそうにない」 「そうね……  残された手段は一つ、血を使い果たさせるしかないわ」 「うん、私もそれしか無いと思う」 「……ちょっと待ってくれ」  持久戦を覚悟する二人を、進が止める。 「どうしたの進君?」 「あいつ、水をかければ効くんじゃないか?」 「……あのね進君、そんな弱点は本人も百の承知。  だから、ホースも蛇口も無いここで襲ってきてるの。  あなたの氷を佳織の炎で溶かす手もあるけど、それじゃ量が少なすぎるし」 「……いや、一つだけ巨大な氷を作る方法がある」 「! 進君、後ろ!」  三人の所へ、凱が飛び込んでくる。間一髪で、炎から逃れた。 「霧子さん、俺は雨宮さんを連れて屋上へ行く! なんとか時間を稼いでくれ」  進が宗介へ叫ぶ。 (屋上……なるほど) 「わかった、任せて。佳織も、進君の指示に従って」 「おっけー。二人とも、気をつけてね」  二人は屋上へ向かうため校舎内へ走る。 「さて、後はこっちがどう時間を稼ぐかね……」 「私が行く。佐保旗さんは隠れてて」 「……それしかないか。頼むわ、つぐみさん。  進達が屋上についたら、合図する。その後は……」 「大丈夫、言われなくてもわかる」  サンダーブーツを形成し、つぐみが凱へ向かう。 「お前らが何を企んでるのかしらんが、  お前の電気じゃ、俺に効かんのはわかってるだろ?   なんで向かってくるかねぇ……」  凱がつぐみを燃やそうと迫る。 「遅い」  つぐみは今度は地面を蹴らず、ブーツを纏った足の部分を電気に変化させた。  それによる高速機動で、凱をかわす。 「うぜぇんだよっ!」  凱は火炎放射と自身の突進を組み合わせてつぐみを狙うが、  炎はつぐみの体をかすりもしない。  やがて、凱の後方の茂みが淡く光る。  凱に気づかれないようにした霧子の合図だった。 (よし、後は……)  つぐみは徐々に、校舎側へ凱を引きつけていく。 「しぶとく避けるじゃねぇか。だがな、俺が自滅するのを待ってても無駄だぜ。  炎ってのは一度ついてしまえば後は酸素の消費で燃え続ける。  まず間違いなく、お前の方が先にエネルギー切れだ」  凱の言葉に返すコトなく、つぐみは無言で炎を避け続ける。 「追いつめたぜ」  つぐみの背には校舎の壁があった。 「それはこっちの台詞だ」 「何?」  影が出来ない夜。  凱は、自分の上空にある物の気配にようやく気づいた。  巨大な氷の塊が降ってきていた。 「ブーストリバースモード! パワー全開っ!」  佳織は屋上から、盾を裏表逆に持ち、叫ぶ。  吹き出した大量の炎が、落下途中の氷を溶かし水に変えた。 「ハーハッハッハッ! なるほどな」  だが凱は、自分の弱点が降ってきていても全く動揺がない。 「馬鹿め。これは能力で出した炎、いつでも消せるんだぜ?」  瞬時に能力を解き、自身を人間の体に戻した。  そこへ水が降り、凱を濡らす。 「馬鹿はお前だ」  水が振るタイミングに合わせて、既につぐみが空を蹴っていた。  濡れたと同時に、凱の体中を電流が襲う。 「ぐああああっ!!」  凱は気絶し、倒れた。 「……ふう」 「つぐみさん! 大丈夫!?」  霧子が駆け寄る。 「問題ない」 「まさか給水塔の水を使うとは、こいつも思わなかったでしょうね。  逆に戦う場所が違ったら危なかったかも」 「そうだな……さて、始末はどうする?」 「情報を聞きたい所だけど……  縄でしばっても、燃やされて逃げられちゃいそうね」 「なら殺すか?」 「……そうね、いい気はしないけど」 「それは私達の誰もが同じだ。  でも生きるためには、割り切らねばならない」 「わかってる」 「早く終わらせたいな、こんなことは」 「ええ、ほんとに……」  氷雨降る中、少女達はその手を汚した。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  短めですが、5話でした。  正直やる気が出ず、描写が投げやりです。すいません。  最初は宗介の風でわざと炎を強めて血を切らせて勝たせる予定だったのですが、  すごく地味になりそうなんで急遽変更。  ようやく味方サイド5人の能力が全て判明、つぐみのはアレコレ悩みました。  やっぱ敵でも人が死ぬのはきつい。  殺さなくてもいいようにプロット練っとけばよかったかもといまさら後悔。  次回はコメディー色を強めてみたいと思ってます。