舞妓Haaaan!!!





    舞妓さん 昔からのしきたりや約束事のある女性の世界を舞台に、宮藤官九郎が脚本を書いた人情喜劇。
    「一見さんお断り」の大人の遊びの世界を楽しく見せてくれます。

【キャスト】                             〔文中に挿入している花はすべて私が撮影した写真です〕          河野 善福
鬼塚公彦 (阿部サダヲ) スズヤ食品の社員。 熱狂的な舞妓フアンで、”舞妓”のブログを作成している。
大沢富士子(柴咲コウ)  公彦の恋人。 芸者になって駒冨士と名乗る。
さ つ き  (吉行和子) 京都・夢川町の置屋「ななふく」の女主人 (お母さん)。
内藤貴一郎(堤 真一)  さつきの息子。 
駒 子 (小出早織) 「ななふく」の舞妓。
鈴木大海 (伊東四郎)  スズヤ食品の社長。
先崎部長 (生瀬勝久)  スズヤ食品の鬼塚の上司。
豆   福 (酒井若菜)  「ななふく」の芸子。

【ストーリー】
 京都・夢川町の置屋「ななふく」、今日は駒子の舞妓としてのお披露目の儀式、”お店出し”の日。お茶屋役員や芸子役員の前
で舞を披露するテストの日です。舞妓として一本立ちする駒子が”割れしのぶ”に髪を結い上げ、顔師に化粧を施され、黒紋付に
身を包んで挨拶周りに店の玄関(左足から出る仕来たりがある)を出ようとしています。 大勢の「カメラ小僧」たちが殺到してその
写真を撮ろうとしています。 鬼塚公彦もそんなカメラ小僧に混じってシャッターを切っている。 「ななふく」の玄関で駒子の背後
から切り火の「カチッ」という音がする。 奥からお母さんが「行っておいでやす」と言って送り出す。 公彦は「もう・・お人形さんみ
たいどすわ・・・押すな!押すな! 今日は駒子はんのお店出しやで・・」と言ってうっとり見とれる。 シャッターを切りながら「もう
死んでもええわ・・」と公彦が言う。

 スズヤ食品に勤めている鬼塚公彦は、会社のパソコンを使って「ぼんの舞妓日記」というホームページを造って公開している。 
今日も自分が写した舞妓の写真を新たに挿入しながら「ええ写真やわあ・・・あんまりええから8枚もアップしてもうた。」と独り言
を言っている。 すると、すぐさま掲示板に”ナイキ”というハンドルネームで「舞妓ゆうたら祇園ちゃいますのん?。なんで夢川町
やねん・・・ふん、これだから素人は・・・」と投稿が入った。 公彦は「またこいつか・・」と苦々しい思いで愚痴をこぼす。 「祇園
ばかりが花街とちゃいます。・・なかでも夢川には昔ながらの置屋も多く、お座敷通の間では隠れた人気スポットなんどすえ。」と
公彦がアップするとすぐに「通のわりにはお座敷の写真が1枚もおまへんな。もしかして管理人さんお座敷に上がったことおまへ
んのとちゃいますか?」と”ナイキ”が書き込みをしてきた。 ムカツク気持ちをぶつけるように「たとへ個人のページでも無断で内
部の写真を公開するのはマナー違反とちゃいますやろか。そんなことも判らないんどすか?」と、公彦は入力した。 また直ちに”
ナイキ”から「無断で言うてる時点で素人いうことや、ドアホウ。 お馴染みさんやったらお茶屋さんの許可とってなんぼでも公開
できるのとちゃいます。そんなことも分からないんですか(笑)」と"ナイキ”から投稿があった。
 公彦は「こいつ喧嘩売ってるのか」とぶつぶつ言いながら、「ここは舞妓さん芸子さんを応援する良心的なサイトどすえ、貴方の
ような無粋なかたは来なくて結構!(怒)」と打ってアップした。 ”ナイキ”はパソコンを前に「食いつきやったデ」と独り言をつぶや
いた。 そして「能書きはよろし、お座敷遊びも知らん田舎もんが偉そうに(爆)」と投稿した。 公彦は「買ってやろうじゃねえか、
この喧嘩!」とつぶやくと、「おたく何者どすか?(恨)」と打ち返した。 ”ナイキ”は「荒らしでおまんがな、(アホウ)」と入力した。 
公彦は「そんなことは分かってんだよ!」と叫んで立ち上がった。
 同じ職場の女子社員の大沢富士子は、そんな鬼塚を携帯電話のカメラで写して「超カッコいい」とつぶやいた。

 公彦はその後も「ネット荒し(殺)・・いい年して(殺)・・・文句あるなら(殺)・・・本名をさらせ(殺)」と毎日”ナイキ”とネット戦争を繰
り返している。”ナイキ”からは「ネット荒しとちゃうわ。(蔑)」とあしらわれる。

 京都・夢川町のお座敷で内藤貴一郎が芸者を大勢呼んで遊んでいる。 かれは目の前のパソコンに”お座敷あらしどす(悦)”と
入力した。

 公彦のホームページ「ぼんの舞妓日記」の”管理人プロフィール”によると舞妓との出会いはこうである。
 埼玉県立熊谷農林高校の修学旅行で京都に来た公彦たち3年5組の生徒は、”5時京都駅集合”という自由行動の時間となっ
た。 仲間に置き去りにされた公彦は夢川町に迷い込んだ。 泣いている公彦を見つけた芸子のお姉さんが「ぼん・・どないしは
ったん」と声をかけた。 「いやあ、ぼん泣いてはるの?・・泣いてたら分からしまへんやろ」と聞かれても、初めて舞妓さんをみた
公彦は興奮して声が出ない。 「ああ、迷子どすか・・そんなら簡単どす、ここは夢川町どす。ここまっすぐ行かはったら河原町通
り、烏丸通り、堀川通り、と並んでますさかい、どこ行きはっても京都駅です。」
これが僕と京都の出会いでした。それから僕は夕方までに8人の舞妓はんに、もう12回も道を教わりました。 この世にあんな
美しいあでやかな女性がいるなんて、僕は人生観が変わるほどのショックを受けました。

 夜の夢川町でまた芸子のお姉さんに出会った。 お姉さんは「ぼんにはまだ早いわなあ、一人前の大人になりはったら、何ぼ
でも遊べるさかいなあ。その時はおねえちゃんに花付けてお呉れやすさ」と言った。学校の先生が迎えに来たが「帰るのは嫌だ」
と言って騒いだ。

 「それからと言うものは京都が、いや舞妓はん芸子はんの姿が頭から離れなくなりました。早く一人前になって自分のお金で野
球拳がしたい。・・・しかし、一介のサラリーマンには京都のお座敷に通う経済力がない。そしたら、こんなことってあるのですね。
念願の京都支店に異動が決まりました。」

 社内で京都への転勤を喜ぶ公彦を見て、同僚の男が女子社員に話す「見てられないですね、・・・知らないのですか、京都支店
はね、社内でカヤク工場と呼ばれているんですよ」と言って自社のカップ麺をほどく。 「麺もスープも東京で作ってるのにこれだけ
京都なんです」と言ってカヤクの入っている小袋を取り出した。 「社長がどうしても残したいといって一人で粘るものだから、カヤ
クだけでも京都で作ろうかと言うことで・・・」 「要するに彼は左遷なんだ」

 同僚社員の大沢富士子と公彦は同棲をしている。 その部屋の中で布団をかむってふてくされている富士子に公彦が言う「無
理!、遠距離恋愛なんて無理だって。・・」 富士子は「やってみなきゃ分かんないじゃん」という。 「無理!・・京都に行ったら、
行きっぱなしだよ。お前我慢できるわけないじゃん」 「出来るもん。週末に会いに行くもん」 「無理!・・何しにくるんだよ!」 
「野球拳・・」 「何が悲しくてお前と野球拳しなきゃなんないんだよ」「じゃあ、別れるの?・・」「付き合ってたかどうかも微妙だけど
な」
 富士子は布団の中でうつむいて顔を伏せた。 公彦が「泣いてるの?」と尋ね「泣いたら別れるからな」と言う。 富士子が「わ
あっっ」と声を上げて泣き出すと「はいお終い!・・」と言う。 「やだ!・やだ!・・や〜だ」と言って富士子が暴れ出す。 「分かっ
た・・フーちゃんも来ればいいじゃん。実家京都だろ?・・市内か?・・祇園の近く?」と言って地図を持ち出す。 富士子が「ここ」
と言って指を差す。 「三重じゃん・・」 「住所はね・・・でも京都とくっついてるもん」「三重じゃん」 「京都弁喋れるもん・・京都の
テレビ入いるもん・・父さん京都で働いてるもん」「三重じゃん」「ああ三重だよ。三重の女だよ。・・京都なんか2回しか行ったこと
ねえよ・・京都出身だから、私と付き合ってたの?」 公彦は富士子の身体を後ろから抱きしめて「なんでウソを言ったの?・・・京
都の女でなきゃあ嫌いになるとでも思ったの?」とやさしく聞く。でも思い直したように言う「馬鹿だな・・京都の女じゃなかったら嫌
いになるに決まってるだろ。・・・あなたから京都を取ったら何が残るというんですか?・・枝毛も歯ぎしりも、これ全部京都の女だ
と思って我慢したんですからね。京都の歯ぎしりと三重の歯ぎしりはこれ全然違いますからね」「ひどい!」「ドッチがひどいか」
「君が僕のことを、女を出身県で差別するような男だと思っていたことに幻滅や。もうだめだ・・醒めちゃった。今この瞬間から君と
僕は赤の他人と言うことでお願いします」
                                            
 公彦は京都支店に出社した。 「頑張りますよってによろしゅうおたの申します」と就任の挨拶をした。 公彦は早速先崎部長の
ところに行って「あの〜歓迎会みたいなものはないんでしょうかね?」と尋ねた。「誰の?」「僕の・・」「ほな、やりまひょか」「すみ
ません催促したみたいで・・この辺だとお店はどこに?」「店ね・・祇園か夢川町・・」 公彦は躍り上がって喜んだ。  公彦の頭
の中は芸者の着物の帯を解く場面が一杯になっていた。
   ♪♪ 野球す〜るなら、こ〜いうぐわいに、しやさんせ ♪ アウト、セーフ あ、よよいのよい♪ 
 しかし、現実の歓迎会はカラオケ店で社員同士がジャンケンをして、皆が「脱げ!・・脱げ!」と手拍子をしてはやしたててい
た・・・。 「今日の主役」と書いたタスキを掛けた公彦が切れた。 いぶかる同僚に「すみません。・・あまりに楽しくて・・・祇園に
カラオケボックスがあるなんて知らなかったなあ・・・」と笑って誤魔化した。

 会場を抜け出して夢川町にやってきた公彦は「これやこれ・・・12年目の春どすえ・・」と言って駆け出した。 「一人で行ってや
れ!」と自分に言い聞かせてお茶屋の暖簾をくぐる。が、ホームページを思い出して店を出る。
 ”システムと料金”
<1回のお座敷代は銀座のクラブよりリーズナブルどす> 公彦は銀行の夜間出金機に走りお金を準備する。「銀座に行ったこ
とないから分かんないけど10万あれば足りるだろう」
 公彦はまた考える「万が一、アフターなんてことになったら?・・・」
<花町の界隈にはおしゃれなワインバーなどもあります> 公彦は再度銀行に行ってお金を追加出金する。 「スーツはアレで大
丈夫だろうか?」
<高価でなくとも、せめてブランド品を身につけましょう> 公彦はブランド品のスーツを購入する。

 公彦は勇んでお茶屋に飛び込む。 「いらっしゃいませ」 公彦はすぐに靴を脱ごうとするが下足番の男に「ちょっとお待ち下さ
い」と引き止められる。 「お兄さん・・お名前は・・」 「名前?・・鬼塚」 「鬼塚はん?・・」と言いながら男は「お伺いしてまへんけ
ど・・」と帳面を見る。 「ええ、今始めて言いました」 奥から顔を出した女将さんが「お客さん・・お茶屋遊びはじめてどすやろ・・う
ちとこ一見さんはお断りなんどす」と言う。「一見さん?」 「うちとこだけやおへん。京都のお茶屋はどこも一見さんお断わりどす」
 「僕、鬼塚です。・・一見さんじゃなくて鬼塚さん」言いかけて公彦はホームページを思い出す。
<一見さんお断わり> (安心して遊んでいただくために、殆どのお茶屋は一見さんお断わりです)「浮かれて忘れてた。・・・怪し
いもんじゃないんです。お金はあるんです。ほら・・」と財布を広げるが、「お引取り願いますやろか。玄関先で財布広げるような無
粋な人にお茶屋遊びは分かりまへんわ」と言われる。 どこに行っても「すんまへんなあ、一見さんは・・」 「どなたさんからご紹
介がないと・・」みな断られた。
  ♪♪ 一見さん、いちげんさん〜、いちげんさんは〜お断わり〜、おことわり〜。それ〜がここらのルールどす。 一見さん、
いちげんさん、いちげんさんわ〜おことわり〜。♪♪
 ♪ かな〜しい、よそ者、おざしき〜は遠い、 「のお」 野球拳! 「あかん・あかん」 ああ、理不尽。 「しょうがない」 おかね
〜では、だ〜め 「のお」 ♪♪  公彦は追い出される。 「さいなら・・」
 ♪♪ い〜つの日か、いつの日か、い〜つの日か来はって、おなじみさんに、おなじみさんにな〜ろう。 い〜つかは、い〜つ
かは、ぎょうさん言わせましょう。♪
 ♪♪ と〜こ〜しえの相手を、見においでやす。 何時かはうたかたの夢を見においでやす、ここえと〜。♪♪
                         
 夜の会社に帰ってきた公彦は「こんなんじゃ何のために京都に来たのか分かんねえよ。一生カヤク作って生きるのか。・・せめ
て常連客の・・」とぼやく。 パソコンを開くと舞妓さんの写真の後ろに、見覚えのある顔が写っている。「んん、このおっさんなんか
観たことあるぞ。・・誰だっけ。・・ああっ」と声を出して立ち上がる。 会社のテレビコマーシャルを見て確かめる。  カップラーメン
を持った女性が「チャーシュー麺が入って、本当に美味しいのはスズヤだけ。・・・ですよね社長」と呼びかけると、社長が出てき
て、「もちろんそうだ」と答える。 公彦は「うちの社長だ」と小躍りする。

 公彦は社内で外出をしようとしている社長を見つけて「失礼します。・・スズヤの社長鈴木大海さまですね」と声を掛ける。 「も
ちろんそうだ」 「失礼します」と声をかけて、社長を車まで先導し、「どうぞ、どうぞ・・夢川町までやって頂戴」と運転手に告げる。
 社長は公彦に「乗らなくていいぞ」と言う。 「何なんだ君は?」と聞かれるが、さっさと後部座席に乗り込んで喋り出す。「申し遅
れました。私、スズヤ食品に入社10年目、現在は京都支社、生産管理部でお世話になっています鬼塚と申します。本日です
ね、京都滞在中に・・」公彦は車から突き落とされた。

 夜の夢川町。 鈴木社長の車の前に飛び出して、両手を広げた男が居る。 車を降りた社長にすりより「私、14の時からお座
敷遊びにあこがれております。だけど、一見さんお断わりじゃないですか。こっちに知り合いもいないし、こんなこともあるんです
ね。たまたま私がやっているホームページにですね、社長さんのお写真が載っていまして、これはもう、ぜひお供するしかないと
言うことで、・・」 「君は僕の知り合いかな」「同じ会社の社長とカヤク工場の末端という縁で」「知り合いじゃないよね」「でも、芸
子さん舞妓さんにかける情熱だけは誰にも負けません。・・どうか、今夜だけで結構です。どうかお伴を・・」と土下座した。 「ほ
ほう、よし気に入った。とでも言うと思ったか、このばか者が」と頭を叩かれた。「土下座なんかしよって気色の悪い。・・ここはな
信用がものをいう社交の場だ。・・君を紹介すると言うことはだな、金銭面も含めて、ここでの行動全て責任を持つと言うことなん
だよ。それがお座敷遊びのルールだ。・・だから、信用できる男しか連れてこない。分かったか!」 「私は、どうしたら信用してい
ただけるんでしょう」「簡単だよ、仕事で結果を出しゃいいんだ。結果を出して、私を儲けさせてくれたら、幾らでも君の好きなだ
け・・・」公彦は社長に追い出された。 「出したろやないか。・・結果、出したろや無いか」公彦は誓った。

 公彦は会社の会議室に飛び込んで、「皆さん何をサボっているんですか?。結果、結果!、結果を出しますよ。 東京の連中が
ここを何と呼んでいるのか知ってますか?・・カヤク工場ですよ。悔しくないんですか?。カヤクはカップ麺の主役なんです。 ここ
は主役工場なんですよ。美味しいものを作りましょうよ。京都発の美味しい商品を作りましょうよ。結果を出してゆきましょうよ。」 
仙崎部長が「ほな、どうぞ。・・・プレゼンしに来たんやろ」と言って黒板の前に連れ出す。

 公彦は消費者の声を聞くため街頭で通行人に声を掛ける。「カップ麺の街頭調査やけど、最近のカップ麺どう思われます」
 「最近のは種類が多うすぎてようわからしまへん」「所詮お店のとはべつもんやし」「美味しかったら何でもええのと違います」
「おうどんの方が好きどすよ」

 会社で取材の結果を見ていた公彦は「うまいもんやったら、飾る必要おまへん。・・シンプル・イズ・ベストや」とつぶやく。
 会社の会議室。 公彦は「と言うわけで、カヤクを入れるのを止めました」といって麺とスープだけのカップ麺を皆の前に出す。 
「ナメとんのか?」 「ううん」 先崎部長が言う「アイデアだとは思うけどね、カヤクは入れようよ。そうやないと僕ら失業しちゃうよ」
 「入れますよ。はいこちら」と言って取り出したのは「カヤクを別売りにするんですよ。消費者の皆さんには入れたいカヤクを選ん
でいただきます」といって、各々がビニールパックになったチャーシュー、煮卵、もやし、ねぎ、ナルト、メンマを取り出す。「ダイエッ
ト中のお母さんはネギだけとか、スタミナのほしいお父さんは全部乗せとかね」 「コストは大丈夫なのか?」 「ご心配なく、何も
載せていない麺とスープが100円。ネギとメンマが10円、チャーシューが3枚一組で70円、これ締めて190円。当社のチャーシ
ュー麺とコスト価格共に変わりません」 チャーシューを味見をした先崎部長は「うまい! これやったら酒のつまみにもなるわ。 
これがほんまのカヤクが主役のカップ麺や」と言う。 「名前ナンにしようか?」 公彦が言う「名前ね、・・名前は、具はあなたの
好きにしたらよろしいと言う意味で”具はあんさんのラーメン”」  先崎部長は「早速サンプル作って本社に売り込もう。京都発信
のカップ麺の誕生や」と言って喜ぶ。
               
 東京のスズヤ食品のビルの屋上で、富士子が携帯電話を掛けている。「もしもし、富士子です。・・元気ですか?。てか、この前
はごめんね。やっぱり公ちゃんのことが忘れられません。 もしもし、富士子は今、冨士の樹海にいます。・・もしもし、嫌だ間違え
た。間違い電話。・・所で元気」  ここで電話を切って、別の携帯電話を取り出して公彦に発信する。
 試作室でカップ麺を試作中の公彦は「チャーシューの品質は落とせないと言ってるだろうが・・」と言って電話を投げ出した。 す
ぐにまた携帯電話が鳴り出した。 先崎部長が電話に出たので富士子は「間違えた」と言った。 部長が電話を切った。 公彦が
「誰から?」と聞いたが「間違い電話」と先崎部長は答えた。

 テレビコマーシャルは舞妓さんが「スズヤの新製品。あんさんはやっぱり全部乗せですよね。ねえ社長」と問いかけ、「もちろん
そうです」と鈴木社長が答えるものです。 ”あんさんのラーメン”は大当たり。 ”1000万食突破祝賀会”公彦は社長に「結果見
ましたか?」と言う。

 お茶屋に向かう途中で鈴木社長が公彦に言う「料理はもちろん、芸子も舞妓もトップクラスをそろえておいた。」 「と、言うことは
野球拳もありますか?」 「もちろんそうだ」 「もうたのもしい」 お茶屋の玄関で女将さんに「今日デビューだ。鬼塚だ」と伝えた。
 靴を脱ぐと下足番の男が「お客さん・・申し上げにくいのですが、今すぐ病院に行ってください」と言う。 「私はもう40年も下足
番していります。靴を見たらお客さんの健康状態が手に取るように分かるんです。」 「ちょっと、嫌なこと言わないでよ。不眠不休
でがんばったご褒美なんだから」 「道理でストレスと寝不足で体ボロボロですわ。悪いことは言いまへん、観てもろうて下さい」 

 公彦が病院に行って検査を受ける。 X線フイルムを見ながら「胃に穴があいてるねえ。尿管結石も、ヘルペスもあるわ。即、手
術やな」と医者が言う。 公彦は手術室に運ばれる。

 ホームページ「ぼんの舞妓日記」は”管理人病気療養中につきしばらくはお休みします”とある。

 富士子が旅行用バッグを引っ張って京都・夢川町にやって来る。 お茶屋さんの玄関に立った。 「どないしや張った?」 「す
みません。・・ここって置屋ですか?」 「ここは置屋やのうてお茶屋ですねん。」 「舞妓になりたいんですけど」 「あんたはんいく
つ?」 
 
 富士子が置屋「ななふく」を紹介されて女将さんの部屋に居る。 女将のさつきさんの前で富士子が「18です」と言う。 「24・5
ってとこかな」といわれて、富士子はあわてて「4です」と言いなおす。
 女将さんは富士子を、先輩お姉さんたちの居る部屋に連れて行って「ちょっと聞いてお呉れやす。・・あたらしい仕込みさんどす
え。」と言った。 ボーッと立っている和服姿の富士子に「挨拶して・・」と言って背中を押した。 和服姿で化粧などをしている女性
が5〜6名居た。 富士子は座って両手を着き、「大沢富士子です。24歳です」と言った。 「新規一転頑張りますので諸先輩
方・・」 「硬い・・硬い、置屋のお姉さん言うたら家族なんどすえ。もっと可愛らしいして」とお姉さんが言った。 「お姉さん。・・み
んなどう見ても年下やし」 女将さんが言う。「年下でも先輩は姉さんどす。・・それからうちのことは、”おかあさん”、呼んでくれや
す。」 鏡に向かってお化粧中のおねえさんに「駒子姉さん」と声をかけた。 「はい」と振り向いた駒子さんを「あれはうちの娘」と
教えてくれた。 駒子は富士子に「お気ばりやす」と笑顔で伝えた。 富士子は「可愛い・・」と声を出した。
                                             

 和服を着た富士子は、舞妓姿の駒子姉さんに連れられて、”夢川女学園”に向かった。 「あの、駒子姉さんはおいくつ?」 
「駒子さん姉さんどす。目上の人には名前の後にもさんをつけるんどっせ。うっとおしいけどな、そう呼んでお呉れやす」 「すみま
せん。駒子さん姉さんはおいくつ?」 「19どす」 そこに都都逸を謡いながら、杖を持った老人がふらつきながらやってきた。 
「おっ、駒子ちゃんやないか。・・」 「こんにちは」 「綺麗になって、」 「ほんな言うて斉藤はん。うちにもお花つけておくれやす」 
「花・・こんどな」 「おおきに」 「駒子ちゃんこれ何?」と言って杖を見せる。 「ステッキどすな」 「うれしいな・・わしがそんなにス
テッキかいな」老人は高笑いを残して立ち去った。 駒子姉さんが「西陣の社長はん。たまーにお座敷に呼んで呉れはりますの
どすえ」と教えてくれた。 富士子は「あんなヨボヨボのじいさんともするんですか?」と聞いた。 「する、・・いややわ冨士子は
ん。・・えらい勘違い。 うちら風俗業と違います。 お客はんは美味しいもの食べて、お酒飲んで、謡って、遊んで、踊って、それ
で仕舞いです。そこらの地べたにしゃがんでいる女子高生より、うちら身持ちが硬いんどっせ。」 「なあんだ。そうなんだ」 「お客
はんと一緒に寝るつもりやったん」 「いや、まあ、そのくらいの覚悟で」

 二人は”夢川女学園”の前に来た。駒子姉さんだ教えてくれる。「着きましたえ。仕込みの半年はこの学校で、舞と三味線・鼓と
お謡のお稽古、その合間に行儀作法・お茶やお花の勉強もしてもらいます。 置屋に戻ったら、置屋言うのは芸子・舞妓が所属
するプロダクションのようなもんどす。その置屋に戻ったら、掃除、洗濯、台所仕事、お使いやお姉さん方の身の回りの世話もせ
なならんどす。同時に着付けやお化粧の勉強にもなりますさかい。そうそう、京都弁とうちらが使う花街言葉とは別もんやさか
い、それも覚えてもらいます、・・お姉さん方がお座敷から戻って来はるのが、だいたい午前12時、お姉さんの後でお風呂戴い
て寝るのはまあ2時過ぎやろか。翌朝はまた10時から学校で舞とお三味線のお稽古。見習いの間はお休みはありません」

 富士子が病院に来ている。医者が「胃にあなが空いてるね」と言う。富士子は「頑張りすぎた」と後悔する。 医者は「即、手術
やのう」と告げる。 富士子が手術室に運ばれている時、公彦が同じ病院をちょうど退院しているところだった。 看護婦が公彦に
「また来てや」と言うと「来るか、アホ」と公彦が言った。 二人はすれ違った。

 鈴木社長は公彦に「料理はもちろん、芸子も舞妓もトップクラスをそろえておいた」と言って、いつものお茶屋さんに連れて行っ
てくれた。 おかみさんが「おいでやす」と言って迎えてくれた。 「病み上がりだから少しフラフラするが」と公彦は言い訳をした。
 社長は「鬼塚!・・リベンジ」と言った。 おかみさんは二人を二階に案内して、「どうぞ今日はゆっくりしてお呉れやす」と頭を下
げた。 「まずは快気祝いだ。・・さあ」といって、社長がビールを勧める。 「どうしたの?」 鬼塚は泣いている。 「自分もう帰りま
す」 「まだ始まってないぞ」 「始まったら終わっちゃうということじゃないですか。第一始まっちゃったら、自分どうなっちゃう
か。・・自分どうなってます」 「座ってるよ」 公彦は「座ってる?」と問いながら立ち上がる。 社長が「立ったよ」と言うと、「立って
る?」と言って座り込み「やばい、やばい」と騒ぎ出した。 「おい、落ち着け・・これから京都で一番人気の舞妓と芸子が来るんだ
ぞ」 「ってことは、帰っちゃうってことじゃないですか?」と公彦が泣き顔になる。

 そこに「おこしやす」と声をかけて和服を着た芸子さんがやってきた。 「小梅どす」 「いゃあっ」公彦が悲鳴を上げた。 「なん
だ、嫌なのかこの子じゃ」と社長が聞く。 「けったいなお兄さんどすなあ。 うちどの恐い顔してます」と小梅が効いた。 「あの・・
僕のこと覚えてませんか?」 小梅姉さんは「いや・・修学旅行で迷子になったはった」 「ひゃあ・・何でおぼえてるんですか」 
「うちら花街の女は、いっぺんお顔見たら忘れしまへんさかい、・・それにしてもまあ、ご立派にならはって」 「お姉さんもなんか、
大人っぽくなられて」 「あの時分は舞妓でしたさかい、だいぶ前に襟替えしたんどす」 「襟替え?・・」 「ああ、 舞妓が芸妓にな
るってこと。・・より大人の女になったって意味だよ」 「いや、おとなの女・・ええどすな」 思い出したように小梅姉さんが言った
「お名指しやった豆福さんが他の座敷に行ってはって、代わりの舞妓はんどすけど・・」 深々と頭を下げて「駒子どす」と舞妓さん
が挨拶をした。 公彦が「いええ〜・・駒子はん?・・駒子はんじゃ」と、うろたえる。 「どこかでお会いしましたかなあ?」と駒子が
入ってくる。 駒子が思い出したように「ああ、お店出しの日にお写真」 「撮りました。・・バッシバシ撮りました。・・なんで・・なん
で覚えているんでしょう」 「それがトップクラスの実力なの」 「どうぞお一つ」 「いえ、・・自分病み上がりなもんでこれ」 「何が入
ってますのん」 「お番茶です」と言ってポットを出す。

 ♪♪ 月は朧に〜ひが〜しやま〜、霞むよご〜とのォ、かが〜り〜火に〜、夢もいざ〜よう ♪♪   「祇園小唄だな」と社長
が言った。
                               
 公彦は夢の世界に居る。 舞妓姿の駒子と海に行って波と戯れている。 駒子と結婚した。 子供が生まれ記念写真を撮って
いる。 年老いて車椅子の自分の脇に駒子が居る。 臨終の時も駒子が看取ってくれている。
 ウトウトとしていると、いきなり襖が倒れてきて突き破り、酔っ払った男が立っている。 隣の部屋が見えて「ああ、酔うてしもた。
 すんまへんな」と言いかけたが、襖を冠った公彦を見て「河童やカッパや」とはしゃぎ出す。 おかみさんが出て来て謝るのを
「わしが弁償する・・べんしょうする」と追い返して、「よっしゃあ、試合再開」と自分の部屋に要る大勢の芸子さん達に言った。

 隣室で ♪ よよいのよい やきゅ〜う、す〜るなら ♪ と野球拳が始まった。

 公彦が「ストップ」と大声を出した。  社長が「今のは確か、プロ野球の内藤貴一郎だぞ」と言うが、公彦は「そんな事どうでもい
いの・・あいつ明らかに僕らより楽しんでいました。・・野球拳してますよね?・・」と社長に聞いた。 内藤が「野球選手が野球拳
したらあきまへんの?」と言いがかりをつけてきた。 「やっぱりだ・・神戸ブラスホッパーズの内藤だ」と社長が言う。 社長が内
藤の席にいる豆福さんを見つけて、「おう、豆福!」と声を掛ける。 豆福は「すんまへんなあ、スズヤのとうはん・・こっちは、もう
すぐお開きやさかい」と言う。 公彦は「あれが一番人気の・・・」と聞く。 「うん」 公彦は豆福のところに走っていって、カメラのシ
ャッターを切るマネをしながら”カシャカシャ、カシャカシャ”と口で音を真似ている。 内藤が「管理人さんも合流しまへんか?・・・
新人舞妓が九人居るんやで」と言った。
 公彦は社長に「社長ここは涙を飲んで、吸収合併されたほうが・・・」と聞く。 社長は「そう、それじゃお言葉に甘えて・・・」と立
ち上がろうとした時。 公彦が気がついた「管理人!?・・」 内藤は「遅いわ、ボケ!・・」 「な、な・・何でそれを・・」 「ホームペ
ージに我がの写真ぎょうさんアップしとるやんヶ、アホみたいに」 「内藤貴一郎・・・ないき・・ナイキ・・貴様”ナイキ”か?」 内藤
がうなずく。 社長は「何だ・・知り合いなの?」 「これがぼくのサイト荒しの犯人ですよ!・・・」 小梅さんが「鬼塚はんホームペ
ージやってますのん?」と聞いてきた。 「ええ」 内藤は「芸子やら舞妓やらを隠し撮りして、ニヤニヤしてまんねん。・・気いつけ
なはれや、今日も隠しカメラで撮られてますぜ」と言った。 「ニヤニヤなんかしてねえよ」 「客、選ばな、いけんがな駒子・・・ぼ
ん!、」 「ぼん?」 「お座敷遊びの基本中の基本を教えたる。・・ええ思いしよう思うんなら、のし上がるこっちゃ。・・おなじみさ
んも一見さんもあらへん、・・・銭、払うたら何してもかまへん」といって、豆福の胸もとに右手をすべり込ませた。 公彦は歯軋りし
て悔しがった。

 会社で先崎部長が「夕べ、どうやった?」と聞いてきた。 公彦は「ぶっ殺す!」と叫んだ。 しかし、公彦は考える「落ち着
け、・・・相手は超の付く有名人だぞ。・・張り合ったってしょうがないじゃないか?。・・・」

 スポーツ新聞の一面は ”内藤選手の来シーズンの年俸8億円” の文字が大きく掲載されている。 公彦は早速バッテングセ
ンターに行って無茶苦茶に練習をする。

 富士子が置屋に戻ってきて和服に着替え、駒子姉さんに「休んだ分取り戻さないと・・・」と伝える。 舞妓姿になっている駒子
は「富士子はん病み上がりやし・・・」と心配する。 富士子が「今日はどちらのお座敷どす?」と聞く。 駒子は「スズヤ食品の鬼
塚はんいうてな、最近よう声かけて呉れはる・・・そや、一緒に行く?」と、言われる。 鬼塚と気がついて、どぎまぎしている富士
子のことも知らず、駒子は「あんたも、もうすぐお店出しのことやし・・・鬼塚はんええ人やさかい。・・安心して勉強出来ます」と言
う。 富士子は大きく首を振ってうっかり「まだ逢いたくない」と言ってしまう。 「えっ」 富士子は「明日は舞の試験やし、やめとき
ます」と答えた。
             
 おかあさんが、「富士子ちゃん、目録がとどいてますえ」と教えてくれる。 見に行くと ”駒冨士さんへ” と書かれた大きい木製
の目録がたくさん並べられていた。 お母さんが富士子に「あんたの名前どす。」といい、駒子姉さんが「うちの駒の字を取って駒
冨士、これでうちとあんたが姉・妹や言うことが、夢川中に知れ渡りますえ」といった。 「お姉さん!・・」 「あんたの粗相はうち
の責任やし、しっかり頼みますえ」 「はい」

 今日も公彦がお座敷遊びをしている。 三味線の音にあわせて ♪ そらそ〜ら、そ〜らそら。  そらそ〜ら、そ〜らそら。 は
いっ ♪  と歌声が聞こえてくる。 屏風の陰から二人が飛び出して、公彦が「勝った!」と奇声を上げている。
 三味線の早引きに合わせて  ♪ 金比羅ふね船 シュラシュシュシュ 廻れば四国はさんしゅう・・・ ♪ と謡いながら両手で
テーブルを叩き勝負をしたり、芸子と向き合って手遊びをするなど、公彦は「たのし〜」と叫ぶ毎日であった。 手のひら一面にマ
メが出来ているのを芸子さんに見られるが「何でもない、なんでもない」と言って誤魔化し、「ときに、野球馬鹿は来てるの?」と尋
ねる。 「内藤はんのことですか?」 「そいつや」 「ああ、来てはりますえ。・・・夕べは豆福はんと」 駒子が言葉をさえぎった「ち
ょっと・・おねえさん」 「ええやない、お目出度いことやさかい」 「何、なに、なに?」 「あの人、豆福はんの、旦那はんに成らは
るらしいわ」

 小梅姉さんが公彦に教えてくれる「旦那はんに成るいうのは、置屋のお母さんに申し込んで、特別の関係になること。・・・平た
く言えばスポンサーになることだすなあ、着物や帯を買い与えたり、歌舞伎にもつれていき、発表会がある言うたら切符を買うて
配ったり、面倒観はるんどす。それが男のステータス言うんやろうか、・・・それだけ男として、懐が深い証しなんどす、・・・この頃
は不景気どすやろ、そやから、帯はだれそれ、着物はだれそれって、何人かの旦那はんが付くことが多いさかい、内藤はんのよ
うに一人で旦那はんに成らはったいうのは、ちょっとしたニュースなんどすえ」  話を聞いた公彦が駒子さんのそばに行って「駒
ちゃん旦那居るの?」と詰め寄る。 返事のない駒子に「ようし、決めた、公ちゃんは駒子の旦那になる」と大声で言う。

 バッテングセンターでバットを振っている公彦のそばに、先崎部長が来て「鬼塚課長・・・会社に来てよ。・・・君とっくに有給使い
切ってるよ」と言う。 社長もやって来て「観てこれ・・・京都のお座敷の請求書、すごいことになってますよ。・・・俺、言ってなかっ
たかな・・・君が遊んだ分の支払いはね、紹介した僕ん所へ毎月廻ってくるんだよ。」と言う。 「どうりで、僕、1回も払ったことな
いですもん」 「ああ言うところへは月に1回か2回、頑張った自分に対してのご褒美として行くわけで、毎日ご褒美出しちゃだ
め!。・・・これじゃあ私は破産です」 「破産ですとおっしゃいましたよね?・・・そんな社長に儲け話をプレゼントしたい、僕なんで
す」という公彦だった。

 株主総会の会場。 公彦が株主を前に説明する「シーズンオフの間に経営不振で球団を手放す企業が2社あります。 ・・・そこ
にどうでしょう・・・絶好調のスズヤ食品が名乗りを上げて、京都をホームグラウンドにした野球チームを作るのです。」 社長も「私
もね、彼の話を聞いた時、頭がおかしいんじゃないかと思いましたよ。 しかし、私の経験上、卓越したアイデアと言うものは、彼
のようなおかしな頭から生まれるものなのですよ」と説明する。  株主が「なぜ、京都なんですか?」と質問する。 社長が「京都
と言う土地にはですね・・・修学旅行で毎日大量の中高生が出入りをしております。・・・中高生というのはカップ麺が大好き、お金
の匂いがしてきましたね・・・」といって、「はい、・・それではチーム名を発表します」と告げた。 壇上に引き出された公彦の背広
の袖を、社長と先崎部長が持って強く両方に引っ張ると、背広が左右にちぎれて、ユニホーム姿の公彦が立っていた。 胸には”
Oideyasu”と書いてある。  「そうです・・京都オイデヤースです」と社長が告げた。

 京都ドーム球場でプロ野球が始まった。 観客はほぼ全員がカップラーメンを食べながらの観戦である。 背中にお湯の入った
大きなボンベを背負った女性が、ラーメンを売り歩く。 カップ麺の紙の蓋を少し開けて、レバーをにぎると、お湯が勢い良くカップ
麺の中に飛び出す。
                                         
 「・・・日本のプロ野球に新たな歴史が刻まれる、その歴史的瞬間を最後までごゆっくりお楽しみ下さい。」場内アナウンスが流
れ、”ショータイム”と告げられた。 観るとドームの天井から、大きなカップ麺の器が静かに下りてきた。 観客全員のどよめきの
中で、球場に降り立ったカップ麺の中から、鈴木社長が手を振りながら出てきた。 鈴木社長はマウンドに立って剛速球を投げ
た。 ダックアウトに引き上げてきた社長に先崎部長が「やっとここまで、漕ぎ着けましたな、社長!」と言うと、鈴木社長は「先崎
君・・・今日だけはオーナーと呼んでくれんかな」と言って笑う。 先崎部長が「鬼塚君、・・君は何でユニホーム着てるの?」と聞
く。 公彦は「はあ、忘れてた・・・」と言って、辞表を社長に差し出す。 公彦は「これからは社員としてではなく、選手としてお世
話になります」と言う。

 アナウンサーが「京都オイデヤース・・・バッター丸井に代わりまして鬼塚」と告げる。 観客が興奮状態になっている。 打席に
入った鬼塚は外野手の頭上を越える大ヒットを打った。 「すごいね」 「すごいですね」
 連日、野球選手として鬼塚は大活躍を続けた。 一方の富士子も舞妓・駒冨士として”お店出し”の日を迎えた。 ”割れしの
ぶ”に髪を結い上げ、顔師に化粧を施してもらって、黒紋付に身を包み、置屋のお母さんの切り火の音を背後で聞いて玄関を出
る。 カメラ小僧が殺到する。
 "彗星のごとく現れた三十路の新人” "球聖誕生” と新聞が書き立てる。

  公彦は駒子に誘われてレストランで食事をしている。 「いやあ、自分でもびっくりやわ・・・人間眠ってる才能ちゅうのあるもん
やね」 舞妓姿の駒子が「公チャン・・・無理せんといてほしいの・・・」と言う。 「してないよ無理なんか。・・・野球はちょっと無理し
ているかも知れないけど、それもこれも駒ちゃんの旦那になるためだもん、旦那になれなかったら、ただの無理で終わっちゃうよ」
 「ええの。・・うちは置屋の娘やし、おかあさんの紹介してくれはる人も居てはるやろし。」 「ちょっと、それダメ。・・バツ・・」 駒
子が言う「うちな。・・こんな店に入ってみたかったの。お客さんと行くのは高いクラブとかワインバーとか大人の店やろ。・・まだ未
成年やし、・・・いいなあ、こう言うとこで彼氏の話などしてはるんやろな。」 「じゃあ、今度デートしよう。・・映画見て、マンガ喫茶
に行って、新京極でプリクラ撮って、クレープ食べよう。・・・普段着で・・」 「あかん」 「何でえー。旦那もあかん。デートもあか
ん・・・野球拳もあかん・・・どうすればいいの?」 「たまにお座敷呼んでくれはったら・・・」 「あか〜ん。本気なんだよ、僕ずっ
と・・・修学旅行で京都に来て以来、ずうっとお茶屋遊びがしたくて、堪らなかったんだよ。・・・無理してたとしたらその頃だ
よ。・・・同級生に馬鹿にされたよ。会社でも変人扱いされたよ。・・・でもね、始めて駒ちゃんの踊りを見たときに、ぼくは間違って
なかったんだ。もう無理するの止めよう。・・自分の好きなことに誇りを持とうと思ったんだよ。・・・駒ちゃんの踊りが僕を無理から
解放してくれたんだよ」 周りの席に居た人達が立ち上がって、公彦の話に拍手をしてくれた。
 駒子は泣いていた。 公彦がフアンの人達にサインしたり、一緒に写真を撮りながら再度聞いた「旦那になってもいいよね」 泣
きながら駒子は「あかん。・・・だって公ちゃん、ほんまにうちのこと好きとちゃいますもん、・・・舞妓さんが好きなんやもん。・・うち
のこと、まだなにも知らんと旦那さんになるって?、・・・信用出けへん。・・・内藤はんと張り合うてるだけでっしゃろ」と言った。 
公彦は立ち上がり、「来い!」と言って、舞妓姿の駒子の手を引いて店を出た。

 公彦は駒子の手を引いて置屋「ななふく」へ行った。 公彦は「君の事を知る第1歩だよ」と言って、駒子の顔の化粧を拭き取ろ
うとした。 駒子は「自分でするさかい」と言って、額の化粧をふき取った。 お母さんがこの様子を物陰から見ていた。 化粧を落
した駒子の額には、大きく×しるしの傷が付いていた。 公彦が「これ、誰にやられた?」と聞く。 お母さんが出てきて言う「ばれ
てしもたら、しょうないな。・・・あんた、これからする話、決してよそで口外しないと誓えます?」 「誓います」 「一言でも言わはっ
たら、このビニール傘で差しますぜ」と言って傘を振り上げた。 「言いません」 「ほな、喋ります。・・・あんたが、目の仇にしてい
る内藤貴一郎、あれな、うちの息子どす。・・」 公彦が「えっ!・・・じゃあ・・・妹」といって、駒子を見る。 「そんな、簡単な話ちゃ
います。・・・駒子は私生児だす。・・・駒子の母親は、夢川町の芸子で、器量は良かったんやけど、しょうしょう勝気な女。・・・早
い話が姉さんの旦那さんと関係を持って、駒子を身ごもったんどす、」 「父親は?・・」 「そんなもん、・・・認知出けへんゆうて逃
げはりましたわ。・・・じゃけど、子供に罪はない。・・・うちも、跡取り無かったさかい、ゆうて引き取ったんだす。・・・身請けと言うこ
とにして、」
                   
 お母さんが話を続ける「駒子が物心付いてからも、いつか真実を告げにゃと思いながら言えしまへんでした。 駒子にはうちの
後を継いで貰いたいし、何しろ駒子はほんまに貴一郎になついてましたから・・・」 
 幼い駒子が「キチロウ兄ちゃん!・・」と言って駆け出し、喜一郎に抱っこされる。 「キチロウと違う、キイチロウや」と教えるが、
駒子は「うち大きくなったら、キチロウ兄ちゃんのお嫁さんになる」と言う。 貴一郎は「そりゃあ、むりや・・」と言い。 駒子が「なん
で?・・」と聞いても、お兄ちゃんはいつも何も答えては呉れなかった。

 お母さんがまた話す「駒子は中学で仕込み始めたんどすけど、駒子にしたら複雑や、兄・妹違ごうたら貴一郎の嫁になれる。 
そやけど、うちに見受けされたからには、舞妓にならんとあかん。・・・身の上と貴一郎への心づかいが、駒子を追い詰めてしも
て、とうとう14の時に、自分の額にハサミで・・・」
 貴一郎がそれを見つけて、「何してんねん!・・・ドアホウ!・・・離せ!」と怒鳴りながら、部屋に駆け込みハサミを取り上げた。
 駒子は「うち、いやや・・・舞妓になんかなりとうない、兄ちゃんのお嫁さんになるんや」と泣きながら言った。 お母さんが部屋に
飛び込んできて「何してるんや?、・・・貴一郎!」と叫ぶ。 駒子の額から出ている血を見て「病院や、!・・早よして!」と騒ぎ出
す。 

 お母さんの話が続く「それから、貴一郎には、ここへ来んように、きつく言うといたんですけどな、・・・駒子が舞妓になった時か
ら、また顔を出すようになって、しばらく逢わへん間にあの子、すっかり変わってしもてな」

 内藤の席に富士子が呼ばれた。、次の間から「駒冨士どす」と挨拶する。 「入れや・・」 「へえ、・・おおきに・・」 内藤は舞妓
姿の富士子の手をにぎり「来い!」と言って部屋に引ッぱりこんだ。  酔った内藤は富士子の前でズボンを脱ぎ、パンツを脱いで、
「わいは、年俸8億の男やで・・・」と言う。 富士子はマッチに火を付けて内藤の股間に押しつける。 「熱ッ!」と言って座り込む内
藤に、富士子は「いやァ、すんまへん、・・ショートホープや思うてん」ととぼける。 「われ、・・・おもろいやんけ」と内藤は言った。

 置屋「ななふく」の部屋で、駒子は「うち、旦那はんなんかいらん。・・一人で生きて行くの。・・・ごめんね公ちゃん・・・嫌いになっ
たやろ」と言う。 公彦は立ち上がり「馬鹿ァ!」と言って駒子の頬を平手うちにする。 「そんな傷で、僕が駒子ちゃんを嫌いにな
ると思ったの?」 「公ちゃん・・・」 「馬鹿だなァ・・・こんな傷くらいで嫌いになるに決まってるじゃん」 「ん?・・」 「えっ?・・」 
「逆だ!・・ならない!。・・嫌いにならない。・・ますます好きになった。・・この傷も込みで駒ちゃんを愛す公ちゃんは、・・・内藤と
張り合っているんじゃないんですよ。・・・信じてください・・その証拠に、今の話全部聞かなかったことにします。・・・出来ます。・・
アホやもん。・・・あっ、出来ました。・・・」改めて駒子の顔を見て「どうしたのこの傷?」とおどける公彦だった。 「あんた、幸せも
んどすなァ。・・・この人は正直もんや。・・あんたさへその気やったら、旦那はんになって貰らいやし」とおかあさんが駒子に言っ
た。 公彦には「月々のお手当やらは、改めて相談しましょ」と言った。 「よろしゅう、おたのもうします」と駒子は両手を着いて頭
を下げた。 「やった!。・・やったやったァ!・・・逆転サヨナラや・・・」と公彦が握りこぶしを作ってガッツポーズをする。 そして
「いや・・・さよならしたらあか〜ん」と言い直す。

 酔っ払った内藤が部屋を間違えて襖を開く。「あっツ。間違えたわ・・・すんまへん。・・ちょっと酔うてしもうたわ」と言って襖を閉
めかけて、公彦に気付く。 「あらあら・・・管理人はん、・・お楽しみでしたかいな」 「そんなんじゃねえや、・・」 「なんじゃ・・部屋
変えて話そうか?」

 内藤と公彦がテーブルを挟んで二人で酒を呑んで居る。 内藤が言う「調子ええみたいやな」 「早ければ来週早々にマジック
が点灯する。・・そっちもリーグ優勝はもらったも同然だろうが、いよいよ直接対決や」 「止めや、酒がまずうなる・・・」 「うるせ
え!・・・約束しろ!・・・いいか?・・・日本シリーズの第一打席、俺がヒットを打ったら二度とホームページを荒らすのや、お座敷
荒らすな!」 「三振やったら?・・・あんたの女、一晩貸してくれんか?・・・」 公彦が怒って内藤の顔にお茶を架ける。 内藤は
「残念ながらその勝負受けることできまへんな。・・・社会人やったら、新聞読んだほうがええで・・」といって、公彦の前に新聞を
放り投げる。 "内藤、電撃引退”の文字と写真が一面を飾っている。 「芸能ニュースを読まなあかんで」と内藤は言う。 中を開
くと ”内藤映画初出演 マウンドのヒーロー 貴一郎銀幕デビュー”とある。 「ナンやこれ・・」 内藤は「寝むっとる才能言うのが
有るよな。・・今年はひじの故障で登板回数が少なかったので、チョコット映画でたら興業収入70億の大ヒットですわ。・・野球な
んてあほらしゅうて、やってられへん」 「なんでもかんでも、スポーツ新聞ですませやがって。・・・スポーツ新聞内でお引越し
か?」 

 内藤は「ついでに紹介しますわ。」と言って二度手を打った。 舞妓さんが来て「駒冨士やす」と言って頭を下げた。 顔を上げた
舞妓を見て公彦が「あっ」と声をだした。 駒冨士が「あれ・・どこぞでお会いしましたかいな?」と聞く。 公彦は「いえ・・・こんな
綺麗な人観たことないです」と答える。 (公彦は駒冨士と富士子が似ていると思った。しかし、「京都の歯軋りと三重の歯軋
り・・・これ全然違いますからね」と思った。) 内藤が「忘れやすい男やな」とからかう。 駒冨士が「うちは内藤はんをお慕いして
ますさかい」と言う。 内藤が「そやねん、わし、この子の旦那になろう思うてんねん」と言う。 駒子がやって来て「ちょっと、うち、
そんなん聞いておまへんえ」と怒り出す。 「そりゃそうや、今決めたことやもん」と内藤が言うと、駒子が「駒冨士さん、・・そういう
ことは、まず、うちやお母さんに相談するものですえ」とさとす。 「おねえさん・・・もしかして焼いてはんのどすか?」 「あんた
は、・・にくたらしい子やな」 公彦が「でも可愛い」と言うと、駒子は「なんや、」と怒って駒冨士に「その男は豆福さんの旦那はん
や、それを横取りするて、どういうことかわかってんの?」と聞いた。 内藤は「だまされてええがな・・・それが、お座敷遊びのス
テータスや、・・なあ、おかあさん」と言う。 「あんたみたいな礼儀知らず、姉と妹の縁を切らせてもらいます」と駒子が言った。 
内藤が「ええかげんにせえ!・・・何が姉・妹の縁や気色悪い、ほんまの姉妹でもあらへんで。・・・こっちは金払うて、面倒見る言
うてんねん。・・男と女の話や、本人同士が言うとるのや、文句あらへんのと違ゃうんか?・・・なあ、おかあさん」とまた母に聞い
た。 「お帰り下さい。」と言う母の声に、内藤は「気分悪い・・」と言って立ち上がり、駒冨士に「お前がこの町に来た理由が分か
った」と言って帰って行った。 公彦が内藤主演の映画のポスターを見てにやりと笑った。

 撮影所のスタジオ。  時代劇の武士の衣装を着けた公彦が「僕がやりたかったのは、本格的な野球じゃなくて、野球拳ですか
ら」と言いながらやって来る。 鈴木社長も「ほんと、目まぐるしい、男だよなあ。・・・それにお金出してる僕もぼくだけど・・・」と公
彦の変身振りを嘆いている。 「言っておきますけど、内藤と張り合ってる訳じゃ有りませんから」 社長は「分かってるよ。・・君に
は眠ってる才能があるんだよ。・・その証拠がこれだ・・・内藤の映画なんかよりはるかに面白い。・・・この勢いで日本中を泣かせ
て、ハリウッドまでもな、・・・夢が広がるな」と言いながら映画の台本を示す。 
      
 スポーツ紙の一面が ”格闘王 年間王者に 内藤貴一郎” で埋まった。 鬼塚が手にグローブをはめてリングに上がった。 
「おい、内藤!・・出て来いや!」とマイクを持って叫んでいる。
 内藤のレストランにやって来た公彦が、厨房に立った内藤に聞く、内藤は「すんまへんなあ、店が忙しゅうて、行けませんでした
わ」と話す。 公彦が「一応聞くけど。・・儲かってるのか?」聞く。 「儲からへんかったら、誰がやるか・・ボケ」 そこに駒冨士が
顔を出して、「京都と大阪に三軒ずつあるんどす」と言った。 さらに内藤は「味は保証付きやで、強力な助っ人がおりますさかい
に」と言う。振り向いた男は先崎部長だった。 「一緒に走っていこうと思うたらな、追い越してしもうた」と言って先崎が笑った。

 公彦は会社に帰って「スズヤが本格的なラーメン屋をプロデュースするんですよ、・・・同時にその味を忠実に再現した、京都発
信のオリジナルカップ麺を製作・・・・こんな話、前もしましたね。」 「振り出しに戻っただけやね」 「ほんなら振出からやったろうじ
ゃないか」 打ち合わせ中のまどの外を「京都市長候補、内藤貴一郎でございます。地元の皆様にご挨拶に参りました。・・ご声
援ありがとうございます」選挙の広報車が通り過ぎていく。 
 広場に聴衆を集め内藤が「私、内藤貴一郎は、開かれた京都、奪われた京都を救うために・・・」と演説を行っている。そばで、
駒冨士が聴衆に頭を下げている。
 路地裏を自転車に乗った公彦が「公彦です。・・公彦です。・・鬼塚公彦です。」と訴えて走る。 歩行者天国でも「鬼塚はやる時
はやるんです」と拡声器を抱えて歩き、街頭では鈴木社長も「京都市長選には、鬼塚!鬼塚きみひこにどうか、清き一票をお願
いします」と訴えた。 公彦は「京都は日本の宝だ!」と訴えた。

 内藤候補の選挙事務所「それでは、当選を祝して、ばんざ〜い。ばんざ〜い。ばんざ〜い」と先崎の音頭で三唱された。 事務
所の外で物陰から、この様子を見ていた公彦が、ダルマの頭に付いた導火線の先に火をつけて、会場内に滑り込ませた。 内
藤が「皆さんのお陰でこうして当選することが出来ました。本当に、有難うございました」と挨拶しているときだった。 火花の飛び
散る導火線を見て、会場内が騒然となったが、達磨は「ポン」と音を立てて二つに割れただけだった。 よく観ると中に巻紙があ
り、仙崎部長が取り出した。 巻紙を広げると "殺” と一字のみが書かれていた。 「鬼塚か?」と言って皆が笑った。

 洋服に着替えた駒冨士が置屋「ななふく」のお母さんの前で頭を下げている「お世話になりました。・・・」 「無理に引き止めても
しゃあ無いわ。・・けどな、舞妓辞めても、うちはあんたのおかあちゃんどすよ。・・駒冨士ちゃん、東京で自分が一人ぼっちや思う
たら、いつでもええ、帰ってきなさい。

 一方の公彦も会社を辞めて東京に帰ろうとしている。 社長が「君のお陰で、僕も会社も随分儲かった。・・・いい思いもさせても
らった。・・・それで充分じゃないか、これ以上何が必要なんだ。」と言った。 公彦も「社長の言うとおりだ、もう思い残すことは何
も無い・・」と思った 女子社員が「鬼塚さん、・・・」と玄関で見送ってくれた。

 駅のホームで新幹線の電車を待つ。 電車に乗り込んだ公彦が座席に座って思い出す。 「あっ・・まだ野球拳をしてない」 引
き返す途中の路で駅に向かう富士子と出会う。 公彦が「久しぶり」と声をかける。 「久しぶり・・」と富士子も言う。 「何で?・・
なんで京都に居るの?・・」 「何でって、・・観光。」 「そうか・・観光地だもんね」 「今、お盆休みだし」 「知らないの?」 「知ら
ない・・おれ、舞妓はん以外に興味ないから・・案内しようか?・・京都」 「いい」 歩き始めた公彦に富士子が「ねえ、・・携帯替
わった?」と聞く。 「替わってない」 「私も・・何かあったら電話して」 「ああ、何かあったら電話する」 遠ざかる公彦の背に、泣
き顔の富士子が「ばか」と言った。

 富士子は置屋「ななふく」に飛び込んだ。 お母さんが「早!・・・もう帰って来はった」と声をかけた。
 「京都市条例改正案の概要」を、お母さんは「新しい条例やて・・」といって、富士子に見せた。 第1条には"一見さんお断わ
り”のお断わり。とある。 お母さんが「こんなもん議会で通ったら、うちら置屋はおまんまの食い上げどす・・・”一見さんお断わり”
の廃止。・・・支払いも現金払い。料金は店ごとに時間幾らと明記しろ、と、・・・。」と言った。 「なんで?・・」

 京都の舞妓はん、芸子はんが和服姿のまま、鉢巻をして、なぎなたを手にして市長室に押しかけた。 内藤は「こないに大勢に
にらまれたら、話でけんわ・・・代表者はお前か?」と言って駒子を見た。 「ほな、ほかの皆はんは外で待っとって下さい」 「皆で
話し聞きとおす」 「聞こえまへんか?」

 置屋「ななふく」に電話が架かってくる。 お母さんが出て「おおきに、ななふくどす」と言って出る。 「どないしよう、さつき姉さ
ん。・・・お座敷の予約どすけど」とお茶屋の女将さんからの電話であった。 「今日は、一人もいやへんし、お断わりして・・」 「そ
う言うたんだすけど、・・・鬼塚さん聞かはらしまへんのどす」 「予約って、鬼塚はん?」 置屋でお母さんの話を聞いていたのは
富士子さんだけだった。

 公彦が待つ席に舞妓が来た。 「すいまへん。・・今日お姉さん方出払ってて、うちしか空いてまへんのどす。・・野球拳しまひょ
うか?」 入ってきたのは舞妓姿の駒冨士だった。 「いきなり?」 「三味線もお囃子もあらへんけど、アカペラでよろしやろ」 
「あ、はい」と、言って公彦は立ち上がった。 
                                     
 市長室では、駒子を座らせて内藤が落ち着かず室内を廻っていた。 駒子が「貴一郎兄ちゃん・・」と声をかけると、貴一郎は
「兄ちゃん、違ゃう。・・お父ちゃんや」と言った。

 駒富士と公彦は ♪ アウト、セイフ、ヨヨイノヨイ。 ♪ と唄いながら、ジャンケンをしていた。「勝った、勝った!・・一勝一敗
だ」と公彦がはしゃいでいる。 「脱がないんだ・・?」 「女が負けたら、お酒戴くのが、うちらの野球拳だす」 「へえ、そうなん
だ。・・知らなかった。・・・」 駒冨士は「お酒を飲んで、・・止め張ります?・・」と聞いた。 「あっ・・やります」 駒冨士が立ち上が
った。 ♪ 投げたなら〜こう打って、打ったなら〜こう受けて、ランナーになったら ♪  駒冨士が踊りを止めて泣いている。 公
彦はもうパンツだけになっている。 「あれ、どうしたんですか?・・泣いてるの?・・・な、な、なんで・・?」 「泣いてしまへん」 駒
冨士が泣きながら踊り始める。 「いいんです・・泣きながらするもんじゃないし・・・」 駒冨士が「楽しいこと、おへんか?・・」と聞
く。 「楽しいです・・ウソです・・・思ってたほど楽しくなかったです」と言って公彦は席に戻る。

 公彦が駒冨士に話す「じつはね、ぼく、京都で野球拳するのが夢で、そのために東京ら来たんです。・・・でも、疲れちゃった。 
身も心も弱り果ててですね、そしたら、こんなことってあるんですね、別れた彼女にばったり出会ったんです、昼間。・・・それが
ね、なんかいい感じだったんですよね。
 なんかね、いい女に成ってたんですよね。・・すみません、どうでもいいですよね、こんなこと。」 駒冨士が「聞かせてお呉れや
す」といってそばに来た。 パンツだけの姿で公彦が話し出す「かなりや〜な、それはそれは、や〜な別れ方をしたんでね、もう一
生会わないと思っていたんですけど、会ったらもうねえ、・・・あなたと野球拳しているのに、ずっと、彼女のこと考えちゃうんだな
あ。」 「そやけど、お客さん、駒子お姉さんの旦那さんでっしゃろ。」 「いやいや、僕、そんな器じゃないですもん。・・もうね、東
京に戻ろうと思って・・・お座敷にも上がったし、野球拳もしたし、前の彼女とより戻してね」 駒冨士がいきなり公彦の頬を平手打
ちにした「アホか?・・お姉さんには・・駒子さんお姉さんには、あなたしかいやはらへんのどっせ。・・そやのに、なんやあんた、
何でここに居はるの?・・何んでうちと野球拳してはるの?・・別れた女の自慢話をたらたらと、気色悪いわ。・・・旦那やったら、
旦那らしくびしっと決めるとこ、お決めやす。」 「そやな・・駒ちゃんには公ちゃんしか居らへんもんな。・・・有難う。・・目が醒めた
わ」 あわてて、服を取りに行こうとする公彦に駒冨士が「お待ちやす!・・・お姉さんとこに行く前に、前の女と縁をお切きりやす」
 「それは今でなくても・・・」 「今や!・・早う電話をおしやす」 「あ、はいッ」あわてて、公彦は携帯電話を探す。 発信ボタンを
押して待っていると、すぐに駒冨士の胸元から携帯電話の呼び出し音が鳴り響いた。 公彦は狼狽し、駒冨士の顔を見る。 
「え、お、おまえ、ふ・・・わ」 「早よう行け!」駒冨士が叫んだ。 駒冨士は帯の間から携帯を取り出しテーブルの上に置いた。 
泣いている駒冨士のそばで呼び出し音が鳴り続けた。 

 公彦がパンツ一つのままで、市長室の内藤のところにやって来た。 「ナンや?・・」 「駒ちゃんは?・・」 「ああ・・だいぶ前に
帰ったわい」 「くそー」と言って帰ろうとする公彦を内藤が呼び止めた。 公彦が「置屋をつぶそうとしているらしいな?・・」と聞い
た。 「それがどないしてん」 「いいか、良く聴け!・・"一見さんお断わり”つうのはな、素晴らしいシステムなんだよ、おれも最初
は頭にきた。・・でもな、あれは客に心の底から、実家にいるような気分でくつろいでもらうために、どうしても必要なルールなんだ
よ。・・・おれやお前みたいに、お座敷荒らすバカが居る限り、"一見さんお断わり”は永久に不滅なんです。」 「そんなこと、今更
言われんでも知っとらい、ボケ!」  

 駒子が家への帰えり路を泣きながら歩いている。 公彦はまだパンツ一つで「駒ちゃん!・・どこや・・」と夜の町を探し歩く。 公
彦は思い立ったように頷くと、ポリタンクに一杯入った石油を持って山に走り、あたり一面に撒き始めた。 ガソリンスタンドからの
通報で警官が来る。 「服装がね・・」
パトロールカーが走る。 「おったぞー」警官が近づくと公彦は、ライターを取り出し火を付けて、油の中に投げ込んだ。 一面が火
の海となった。 公彦が「駒ちゃーン」と叫んでいた。 市長室から観る内藤にも山の炎は”大好き”と読めた。

 警察の留置所に居る公彦に、内藤が面会に来ている。 「あんたには、負けましたわ。・・京都に恨みを持っているわしも、さす
がに”大好き”文字は思いつかなかったわ。・・けど、あれはやったらあかんぜよお前。・・・今日ここに来たのはほかでもない。・・
あんたとは色々あったし、そろそろほんまの話しようや。・・」 「ほんまの話?・・」 「駒子とわしの話や、」 「ああ、血のつながら
ん話やろ。・・・知っとるわ。ボケー・・」 「つながっとるわ、ボケー・・」 「えっ」 「めッちゃつながっとるんや。・・・わしが、にきびと
スケベと野球のことしか考えとらん14のときや。・・たちの悪いお姉さんが居ってな、・・二階の部屋につれて行かれたんや」

 置屋「ななふく」のお母さんの部屋。 女がお母さんの前に両手を付いて謝っている。 「ご報告が遅そうなってすんまへん」 
「遅すぎるわ・・で、相手誰?」 テレビが「ドラフト選択、希望選手1位、内藤貴一郎」と告げていた。

 警察の留置所の面会室。 「わしの血気盛んな遺伝子が、姉さんのミットにバシッと納まって、ほんで生まれたんが駒子や。・・
それからうちの親族と球団幹部とで話し合いや、”ルーキーに隠し子がおったらまずいやろ”言うて、その子はわしの血のつなが
らん妹と言うことになったんや、」 (うち、大き成ったらキチロウ兄ちゃんのお嫁さんになる。・・そりゃあ、無理や。・・・なんで?) 
 「親子やからなあ。・・・駒子のことが気になってるし、暇さえあれば京都に足運こんだ。・・それが裏目にでたんや。・・わしのこ
と、血のつながらん兄貴や思うたんやな」  
            
 京都市長室。 駒子が「貴一郎兄ちゃん・・」と声をかけると、貴一郎が「兄ちゃんと違ゃう。・・お父ちゃんや。・・わし、お前のお
父ちゃんや。・・駒子、」と言った。 「何それ?・・」 貴一郎は駒子の前で両手を着いて「許してくれ、・・この通りや、わし、お父ち
ゃん、一生かけて償うさかいな」 駒子は黙って立ち上がり出口に向かった。 「駒子、・・待て!・・まて、まて!・・聞いてて」と内
藤は駒子の前で両肩を掴んだ。 「聞いてて!・・」 駒子は内藤の頬を平手打ちした。 黙って立ちすくみ泣いた。

 警察の留置所の面会室。 内藤が言う「以上がほんまの話や。・・・ご静聴有難うございました。」 公彦は望然として、黙って聞
いている。 「何や・・ノン・リアクションかいな。・・ええとか、マジでとか無いんかい。」     公彦は唄うともなく口ずさんだ。
 ♪ 夢の流れる夢の川、はんなり踊るは舞妓は〜ん。・・・なんやそれそれ、なんやそれ。  そ〜れそれそれ、よ〜いやさ ♪
 公彦が言う「梅川町のお祭りがあるだろ。・・4月に、」 「ああ、”夢川踊り”、な」 「駒ちゃんにいい着物着せてやってくださ
い。・・・ケチるんじゃねえぞ。・・最高級の着物をプレゼントするんだ」 「分かった」 「俺もプレゼントする。・・・」 「なんや
て?・・・・」 「俺が贈った着物を駒ちゃんが着たら俺の勝ち。・・あんたの着物を着たらあんたの勝ちだよ」 「最初に言うたやろ、
ボケ!・・あんたには負けたって。」 「負けたとか、関係ないだろう、ボケ!・・・俺まだ勝ってないんだから・・・俺が勝つまで続け
る!・・・あんたが勝ったらおとなしく引き下がる。・・・ただし、俺が勝ったら、・・・おとうさん、娘さんを僕に下さい。」 「お前、・・ほ
んまに駒子が好きなのか?」 「好きとか嫌いじゃないよ」 「いや、好きとか嫌いやろ・・」 「勝つまで続ける・・・」

 ”夢川おどり”の当日。 
 置屋「ななふく」。 お母さんが「駒子は〜ん、そろそろ出かけにゃ間に合いまへんえ。」と駒子に声をかけながら”京都市条例
実施要綱”をバッグに入れる。 駒子は「分かってます」と返事をしてから、座敷に広げられている二枚の着物の前に行った。 内
藤が贈った緑色の着物と、公彦が贈った赤い着物である。 駒子は望然と立ち尽くす。 「許してくれ!・・この通りや。・・わし、お
父ちゃん。・・一生かけて償うさかい、」と言って土下座をした兄。 「嫌いにならない。・・この傷も込みで駒ちゃんを愛し続ける」と
言ってくれた公彦。

 警察の留置所。 公彦が、食事のカレーについてきたスプーンで、鉄格子を切断しようとしている。

 置屋「ななふく」。 駒子がどれを着るか迷っている部屋に駒冨士がやって来る。 駒冨士は「ほんと、申し訳ないけど、あなたと
野球拳してるのに、ずっと彼女のことをね・・考えちゃうんだなあ」と言った公彦のことが頭をよぎる。

 ”夢川おどり”の会場。 「ななふく」の、さつきお母さんのところに内藤が来る。 お母さんが「貴一郎。・・これ・・」と言って”京都
市条例実施要綱”をバッグから取り出す。 貴一郎は「こんなところで・・・」と言って取り上げる。

 留置所にスズヤの鈴木社長と先崎部長が来て、「保釈金です。・・こちらに収容されている、鬼塚公彦を引き取りに着ました」と
言って札束をカバンから取り出す。 「いや・・こんなに・・・」 「お幾ら?」 「100万円です」  二人はあわてて、残りをカバンに
仕舞う。

 留置所の公彦の部屋。 やっと格子を切り終えたところに係官が来て、「保釈だ!」と告げる。 「ななふく」の座敷ではまだ二人
が並んで着物を見つめている。

 ”夢川おどり”の会場。 内藤が席に着いて、”京都市条例実施要綱”を手に黙祷している。 太鼓が鳴って、 ♪♪ よ〜いやさ
ァ の掛け声が聞こえた。 緞帳が上げリ、大勢の舞妓・芸子が舞台で踊りを始めた。 客席の脇の花道から、赤い着物の舞妓
さんと、緑の着物の舞妓さんが踊りながら登場した。 会場に公彦が駆け込んでくる。 「観に来たぜ・・駒ちゃん」 公彦は内藤
の隣の席に座る。 「駒ちゃん出てきた?・・多すぎて分かんないな。・・・お前の何?・・俺、赤なんだ。・・・燃えるような赤」
♪ な〜にやそれそれ、なにやそれ ♪  内藤の顔を見ると泣いている。 「泣いてるの?・・わしの勝ちか?・・よっしゃあ」と小
躍りする公彦。
♪ そ〜れそれそれ、よ〜いやさ ♪  駒子が緑色の着物を着て踊っているのが見えた。 「駒ちゃんが・・・」 ♪ つき〜もお
ぼろなゆめのかわ〜、 ♪
  「アホ・・ちゃんと観んかい」と、内藤が言った。 公彦が目を凝らし舞台を見ると、赤い着物で踊る駒冨士の姿が見えた。 ♪
 うか〜ぶは、はなかんざ〜し、まいこ〜はん ♪
「似合ってんじゃねえかよ、」公彦は駒冨士の姿に満足した。  ♪ たれをまつ〜のやら、し〜ろい、かんざ〜し、つ〜き〜のよ
を、・・・・・ な〜んやそれそれ、なんやそれ♪
内藤が席を立って舞台に向かった。 「ちょっと、なにしてんねや」 「え〜、すんまへんな。・・・市長の内藤です。・・これ、条例
案、ホゴにさせてもらいますわ。」と言って破き捨てた。  「”一見さんお断わり”お断わり、お断わりや」 公彦が「何やそ
れ?・・」と言ったが、客席からは「そのとおり・・ようゆうた市長!」と言う声が聞こえた。 そして、拍手が続いた。 「ややこしい
ことして、すんませんな・・・ほな、引き続き・・・♪ なんやそれそれ、そーれそれ」  公彦が「♪ 何やそれそれ」と唄い、お母さ
んが「そ〜れそれ」と唄った。  駒子と駒冨士が「よ〜いやさ〜」と唄って、一斉に踊りが始まった。
 芸子さんたちが内藤を舞台の真ん中まで連れて行った。 公彦が「あっ・・・おい!」と言って立ち上がると、舞台の上から駒冨
士が「あんたもや」と言って、手招きした。 観客の笑い声の中で「しょうがないな・・」と言いながら公彦も舞台の上に走っていっ
た。

 鈴木社長と先崎部長が駆けつけた。 舞台を見るとかつらを冠り、着物を着て女装した内藤と公彦が、舞妓の踊りの列の中に
入って踊っていた。 「先崎君・・・京都もおわりだな・・・」 「はい」

 内藤が部下を連れてお茶屋に来る「ほんとに野球拳していいんですか?」 「今日は京都でもトップクラスの芸子と舞妓が相手
や・・」 「まじっすか・・」  玄関に女将さんが迎えに出る。「いやあ、市長はん・・お待ちしてましたえ」 駒子が「お出でやす」と
言って迎えに出る。 部下の若者が「よろしくお願いします」と挨拶する 「そない硬とうらんでも、よろしおす」 脱がれた靴を持ち
上げた下足番が「お客さん・・・悪いこと言いまへん。今すぐ病院に行ってください。・・」と言う。 下足番は顔を上げてニヤリと笑
った。 公彦だった。
                    = 終わり =

                        平成19年6月16日 ロードショウ公開
                        平成19年6月17日    鑑賞 記載                              
    




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