ト  ロ  イ (上)



                                                           〔文中に挿入している花はすべて私が撮影した写真です〕          河野 善福


 紀元前12世紀のギリシャでに起こったと言われるトロイ国とスパルタ国の戦争を題材にした壮大な歴史スペクタクル
作品。 史上最大の戦いと言われたトロイ戦争を引き起こした伝説の恋の物語。 男の野望と権力への渇望が争いに
火をつける。 監督 ウォルフガンク・ペーターゼン     配給  WARNER BROS.PICTURES

  【キャスト】
メネラウス王(ブレンダン・グレッソン) ギリシャのスパルタ国の国王。ヘレンの夫。
ヘレン(ダイアン・クルーガ−) スパルタ国のメネラウス国王の王妃。 パリスが一目ぼれする女性。
アガメムノン王(ブライアン・コックス) メネラウス国王の兄。 ギリシャのほぼ全土を支配していた国王。報復の名の下
            にトロイ国を破滅させようと陰謀を企てる男。
アキレス(ブラッド・ピット) 無敵の戦士。アガメムノンがトロイ国との戦いのために呼び出した。 自分の名誉と栄光の
            ためだけに戦う誇り高い男。
ヘクトル(エリック・バナ) トロイ国の王子、パリスの兄。スパルタ国との戦いに祖国を捨てる男。
パリス(オーランド・ブルーム )トロイ国の王子。 ヘクトルの弟。 スパルタ国のメネラウス国王の妻であるへレン王妃
            に恋をし王妃を略奪する男。
プリアモス王(ピーター・オトゥール)トロイ国の国王。 ヘクトル、パリス兄弟の父。
アンドロマケ(サフロン・パロウズ) ヘクトルの貞節な妻。
プリセウス(ローズ・バーン)ヘクトルの従姉妹、アガメムノンへ戦いの功績の戦利品としてとられた娘。
オデュッセウス(ショーン・ビーン) アガメムノン王の臣下で、スパルタ軍の指揮官。 トロイ攻めの時、アキレスに援軍
           になるよう説得に行く男。
ハトルクロス (ブレンダン・グレッソン)アキレスのいとこの少年で、共にトロイに攻めて行き、ヘクトルに殺される男。

             
【ストーリー】
 今から3200年ほど前、アガメムノン王は数十年間の戦でテッサリアを除くギリシャの国々を支配下に置き、テッサリア
にも同盟関係を強要していた。 一方アガメムノンの弟スパルタの王メネラウスは長年の戦に嫌気が差し、ギリシャにと
って最大の強敵であるトロイとの和平を模索していた。 そんな中ギリシャ軍史上最強といわれた戦士アキレスはアガ
メムノンを軽蔑し同盟の崩壊を招きかねない存在となっていた。

  アキレスが言う「人間は永遠と言うものにあこがれる。 この世で我々の名前は死んだ後も残るだろうか?。 死ん
だ後の人々は我々の名前を口にするだろうか?。 我々がいかに勇ましく戦い、いかに激しく愛したかを・・・。」

 ギリシャ・テッサリア  騎馬軍団を先頭に、鎧をまとい手に盾と槍を持った数万の歩兵が押し寄せるように駆け足で
前進している。 指揮官の号令で両軍の兵が歩みを止めて対峙した。 両軍から二頭立ての騎馬戦車に乗って国王ア
ガメムノンとテッサリアの国王が前に出て停まる。 テッサリアの王が言う「わしの国から撤兵しろ。」 アガメムノンは
「ここはいい国だ、・・居座らせてもらう。お前の言うことに従うつもりはない。・・・今はみな我が配下だ」と言う。 「全世
界を手に入れることは出来ん。アガメムノンと言えども手にあまる。 これ以上殺戮は見たくない」と言い、「昔のやり方
で決着をつけるか?。・・・最強のもの同士を戦わせて・・」と提案する。 「もし、わしのほうが勝ったら?」  アガメムノ
ンが言う「テッサリアから撤退するぜ」

 王は自軍のほうを振り返り「”ボアクリアス”」と大声で名前を叫ぶ。 名前を呼ばれてテッサリアの兵の中から大男が
盾と槍を持って前に出てくる。 アガメムノン王も自軍に向かって「”アキレス”」と名を呼ぶが動きがない。 王が「ボアク
リアスが怖いらしい」と皮肉って言うと笑いが起こる。 スパルタの兵の中から部下が馬で駆け寄り「国王・・アキレスが
来ていません」とアガメムノン王に伝える。「どこにいる・・」 「今迎えのものを・・・」

 少年が村まで馬を走らせてアキレスのテントに走りこむ。 アキレスは裸で女と寝ている。「せっかくいい夢見てたの
に・・・」 少年は「アキレスさん、国王アガメムノンさまがお呼びですよ・・」と言う。 「朝にしてくれと言っておけ・・」 「もう
朝です。みんなが待ってます」 アキレスが武具を付けて馬に乗る。 少年が「あのうわさは本当ですか?・・・女神の息
子だと聞きました。 あなたは不死身だと・・」 「不死身なら盾などいらないだろ?・・」 「あなたが戦うテッサリア人は観
たことがない大男です。僕なら逃げだします・・」 「そんなことじゃ名を残せんぞ」  

 アキレスがアガメムノン王の所に馬で駆けつける。 兵たちが歓呼の声を上げてアキレスを迎える。 アガメムノンは
顔を見るなり「遅いぞ! 無礼者だ・・後でムチ打ってやる」と罵声を浴びせかける。 アキレスは「じゃあ、あんたが戦
え」と言う。 王が「この兵たちの顔を見ろ・・数百の命が救えるぞ、お前の剣で戦いを終えてくれ。 みなを帰らせてや
れ」と言う。 アキレスは「王自らは戦わず・・いつもそうだ」とあからさまに不満げに答える。

 ”ウオーッ!”広場に出てきた巨人ボアクリアスが叫ぶ。 アキレスは馬を下りて太刀を振り上げボアクリアスに向かっ
て走る。 ボアクリアスが槍を投げつける。 アキレスはこの槍を盾で捌き、盾は投げ捨てる。 続いてもう一本投げる。
 アキレスは身をかわして槍を避けて突進し、大きくジャンプして横とびの体制で相手の盾をかわしボアクリアスののど
を剣で横に払う。 ボアクリアスの巨体が前のめりに崩れ落ちる。 アキレスが敵兵の前に行って叫ぶ「他には居ない
か!・・ほかには居ないのか!」 兵たちが静まる。 テッサリアの王が「お前は何者だ!」と聞く。 「アキレス・・・・ペレ
ウスの息子だ」 「アキレスか?・・・その名を覚えておこう。・・・テッサリアの支配者が持つべき剣をお前の王に渡せ」と
言って剣を差し出す。 アキレスは「あの人は俺の王じゃない」と言って剣を受け取らない。

 ギリシャ。 スパルタの美しい港にトロイの船が停泊している。 メネラウス王の宮殿で和解の祝賀会が催されてい
る。 みんながにこやかに談笑し杯を掲げている。
トロイの王の代理として兄ヘクトル王子と弟パリス王子が出席している。 メネラウス王が「トロイの王子たち・・・この和
解の夜、妃とわしから挨拶を・・」と切り出す。 「スパルタとトロイはかつて幾度も戦った。 華々しく・・・・プリアモスは良
き国王、よき男だ。 これまでは敵として尊敬し、今は友として尊敬する。 ヘクトルとパリスの若き王子たちよ・・・トロイ
とスパルタの和平に乾杯!」と挨拶した。 兄王が立って「乾杯!・・われらトロイとスパルタに・・・」と祝辞を述べる。

 王が挨拶している時も、会食の時も、スパルタのヘレン王妃とトロイのパリス王子は、無言で互いに何度も目をあわ
せ見詰め合っている。 お互いに相手を意識していることは明らかである。 夜が更けてみなが思い思いに乾杯し談笑
しているとき、ヘレン王妃が階段を上って部屋に帰る。 その後でパリス王子が階段を上がるのを兄のヘクトル王子は
見つけて怪訝な気持ちでそれを見送った。 宴会場では女たちの踊りが始まった。

 パリス王子がドアを開けてヘレン王妃の室内に入る。 部屋の奥でヘレン王妃が髪を解き、化粧を直している。 パリ
スがドアの内側から鍵棒を挿す。 王妃が「ここに来てはいけないわ」と言う。 パリスが「夕べもそう言った。・・」と言い
ながら、イスに腰掛けたヘレンの後ろからはだけた肩に両手を回した。 「夕べのことは過ちよ。・・」 「その前の晩も
だ・・」頭を胸に抱きこむようにして後ろから顔を近付けるパリスに、ヘレンは息遣いを荒くして耐えている。 パリスが
「別れるときが来た。・・出て行こうか?」と尋ねるように聞く。 ヘレンはパリスの前に立ち、自からドレスの両肩をはず
し、飛び込むようにパリスに抱きついていった。 二人は強く抱き合いキスをする。
 宴会場ではメネラウス国王が美女と談笑しており、兄のヘクトルが帰らぬ弟を心配している。
         
 パリスがヘレンに「アラフラ海の真珠だ」と言って貝で作ったネックレスを渡す。 へレンが「二人ともメネラウスに殺さ
れるわ」と言う。 パリスが言う「メネラウスを恐れてるのか?」 「死ぬのは怖くないわ。・・・ただ明日が怖いわ。もう二
度と戻らないと知りながらあなたの船出を見送るのは辛い・・あなたがスパルタに来るまで私は亡霊だった。」  「恐れ
なくていい一緒に行こう」 「からかわないで、お願い・・・」 「一緒に来ても平和はない。 そんなことをしたら人々に追わ
れ、神々にののしられるだろう・・だが君を愛してる。・・いつまでも君を愛し続ける」

 スパルタの港を出た船が帆をいっぱいに膨らませて沖合いに進む。 船上でヘクトル王子とパリス王子がにこやかに
海風を受けて立っている。 急にパリスが兄ヘクトルに問いかける「僕を愛しているか?・・」 「愛してるよ」 「どんな敵
からも心から守ってくれるか?」 「もちろんだ。・・・前にお前がそんなことを言ったのは10歳の時で、父上の馬を盗んだ
ときだったな。・・今度は何をした?」 「来てくれ!・・見せたいものがある」兄を船底に案内する。 薄暗い船底にヘレ
ン王妃が立っている。

 メネラウス王が妻のヘレンの部屋に駆け込み下女に聞く「どこに行った!。・・神々の父ゼウスに誓って今すぐ言わん
とその腹を切り裂くぞ」 ドアのところに部下が駆けつけて来て報告する「国王!・・ヘレン様はお発ちになりました。 ト
ロイの船に乗るところをこの漁師が見たと・・」 「トロイへ?・・」 漁師が答える「夜明けにトロイ人と逃げました・・」 側
近が「きっと王子のパリスです」と答える。 メネラウス王が叫ぶ「船を用意しろ!」 

 ヘクトル王子が甲板に出て船長に命令する「船をスパルタに戻せ!」 船長が「帆を降ろせ!」と船員に号令する。 
船員がいっせいに動いて帆が降ろされる。 弟パリスが「待ってください!。・・」止めようとするが「父上が苦労の末成し
遂げた和平をぶち壊す気か?」と言う。 「愛してるんです」 「お前には遊びなんだ。街から街へと商人の女房や巫女
たちを口説きまわっているやつが、偉そうに愛なんて口にするな。・・・お前はあの女を乗せたことで父上の愛につばを
吐いたんだぞ。 祖国に対する愛はどうした。 あの女のために国を焼くのか?。・・・女のために戦はできん」 「聞いて
ください!・・。確かに僕は兄上にも父上にも迷惑を掛けました。 彼女をスパルタに戻すならそれでもかまいませ
ん。・・でも、僕も行く」 「行けば殺されるぞ」 「では、討ち死にします」 「それが男らしいと思ってるのだろ。・・お前は
人を殺したことがあるのか?。 人を殺したか?。 最後の叫びを聞いたか?。 死に様を見てきたが華々しさなど微
塵もない。・・愛のために死ぬなんて言うな。・・何も知らないくせに・・・。」 「だとしたら・・彼女のために戦ってくれとは頼
みません」 兄ヘクトルは「頼んだも同然だ」とはき捨てるように言って船長に「帆を揚げろ」と言う。 船長が船員に大き
い声で命令する「帆を揚げろ!・・」船が再び動き始める。

 ギリシャ。ミュケナイの宮殿でメネラウス王が狂気のように荒れて騒いでいる。 兄のアガメムノンが従者を引き連
れ、馬を走らせてやってくる。 メネラウス王が兄との挨拶もそこそこに兄に「取り返したい!」と言う。 アガメムノンが
「連れ戻すのが当然だ。・・美しい女だ」と言う。 「なんとしても取り返して、わしの手で殺してやりたい。・・トロイを焼き
尽くしてやる」と叫んでいる。 兄王が言う「和平を結んだのではないのか?」 「兄上が正しかった」 「弱者と帝国を築
き挙げるのは戦だ」 「これまでずっと戦ってきた。・・・兄上のために」 「兄が栄光を手にするのは世の習いだ」 「この
メネラウスが一度でも不平を言ったことがあるか」 「いいやお前は・・・誉れ高き男よ」 「俺と一緒に戦ってくれ」 二人
は握手し肩を抱き合ってともに健闘を誓い合う。  

 宮廷内に臣下を集めて兄アガメムノン王が言う「弟の嫁はおろかな女だと思っておったが、なかなか役に立つことが
多かった」 側近の老人が言う「トロイはいまだ陥落したことがなく、難攻不落と言われております」。 「プリアモス王は
ばか高い壁の向こうで太陽神アポロンに守られて安心しきっておる」  アガメムノン王が叫ぶ「ハブリンが落ちればわ
しがエーゲ海の支配者だ」 「ヘクトルは同胞一の軍を率いています。」 「世界一の兵力を持って攻撃する。・・・明朝使
いを出せ!」 「決め手になるのはユルミドンが率いるアキレスです」 「アキレス?・・・やつは手なずけられる。・・トロイ
側に就いてはやっかいだ」 「手名づけなくとも、けしかければよいのです。 あれは人を殺すために生まれた者」 アガ
メムノンが言う「そうだが、わしの築いたすべてを脅かす。  未来を築いていくのはこのわしだ!。」  占術者が言う
「アキレスは神の御子です。一匹狼だから、どの国にも属さない男です」 別の部下が問う「彼の剣が幾たび勝利を招き
ました?。・・これはこの世界始まって以来の大戦です。 最高の戦人が必要です」 アガメムノン王がいう「やつが耳を
貸すのはただ一人だ・・・」

 ギリシャ・ピニイア 美しい海の見える丘の上の宮殿の庭でアキレスと従兄弟の少年が木太刀で武術の練習中であ
る。 アキレスが「遠慮するな」とけしかけている。「剣を使いこなせるようになったら、俺に逆らってもいい。」 そこに馬
に乗った兵士集団が来る。 アキレスが近くにあった槍を投げる。 兵士のそばの木に槍が刺さる。 使者の男が言う
「客に対するお前のもてなしは伝説になりつつあるぞ」 アキレスがそばに立つ少年を紹介する「従兄弟のハトルクロス
だ」 「オデュッセウス・・・ミタケの王だ」 王と名乗った男は「ハトルクロス・・・ご両親のことは残念だった。」とハトルクロ
スに悔やみを述べて、「アキレスから剣術を習うとは、諸国の王が死ぬほどうらやむぞ」と言う。 アキレスは「アガメム
ノンの使いか?」と聞く。 「まあ・・そうだ」 「戦う義理はない・・・」 「やつのために戦えとは言わん。 ギリシャのために
戦ってくれ」 「ギリシャ人同士でやるのは飽きたか?・・・トロイにうらみはない。・・・一人のギリシャ男が女房を寝取ら
れただけだ。・・・俺には関係ないことだ」 「戦うのが仕事だろ」 「みな戦いに生きている。 しかし、やつには節操がな
い」 「じゃあ、名誉のために戦え。・・アガメムノンは力のために戦う。・・どちらが栄光を授かるかは神々が決める・・・
アガメムノンのことはいい、女房が安心するから俺のために戦え。・・・今だかってない大船団を繰り出す、・・・軍船が千
隻だ」  従兄弟のハトルクロスが聞く「ヘクトル王子って噂どおり強いの?」 オデュッセウスが答える「最強だ。・・・・ト
ロイは今まで一度も陥落したことがない・・・ギリシャでも誰も太刀打ちできないと聞いている。 お前の従兄弟は来なく
てもお前は来てくれ」 アキレスが言う「大事な従兄弟だ、たぶらかすな」  「お前は剣・・・俺は知恵が武器だ。・・神々
の贈り物は生かさねばな・・・三日後、トロイに発つ。・・この戦は歴史に残るぞ。 そこで戦う英雄の名もな」そういって
オデッセウスは帰っていった。


 水のきれいな海岸。 海に足を入れて老婦人が何かを取っている。 老婦人はアキレスの母だった。 息子のアキレ
スが近づく。 母が言う「首輪にする貝を探しているのですよ。 小さいころ作ってあげたのを覚えてますか?。・・・こうな
ることは知っていたのです。 お前が生まれる前から分かっていたのです・・・トロイの戦に呼ばれることを・・・」 「母さ
ん・・今夜決めます。 」 母が静かに語り始める「この地にとどまれば安らぎを得られる。 きっとすばらしい女性とも会
える。 子供が大勢生まれ、その子供も生まれ、みんなお前を愛し、死んだ後も覚えていてくれる。 でも子供や孫がみ
んな死に絶えたとき、お前の名は消える。・・・トロイへ行けば栄光を手に出来る。 お前の勝利は物語りとなり、数千年
語り継がれる。 世界の歴史に名が残る。 でもトロイに行けば、ここへは戻れない。 お前の栄光は、破滅と手を携え
て訪れる。 あなたと私はもう二度と会えないでしょう。」

 千艘もの船団がトロイに向かって漕ぎ出された。 アキレスもその船団のうちの一艘に乗り込んでいる。

 トロイ王国。 町は人々でにぎわい活気がある。 この王国の門が開きゲートをくぐった馬車の隊列が街に入ってき
た。 人々は歓喜の声をあげて、パリス王子とヘレンの帰国パレードを迎える。 先頭の馬車に二人が立ち、続く馬車
には兄ヘクトルが民衆に手を振って答えている。 歓迎の紙ふぶきが舞う中を隊列は宮殿に到着する。    
宮廷の部屋でプリアモス国王が待っている。 兄ヘクトルが王の前に進む。 王が両手を広げて迎え、だき抱えて頬を
合わす。 続いてパリスとヘレンが歩み寄る。 パリスが「父上!」と声をかけ、二人は抱き合って喜ぶ。 パリスが「父
上・・へレンです」と妻を紹介する。 「ヘレン?・・・スパルタのヘレンか?」 「いいえトロイのヘレンです」 王が祝福の
キスをヘレンの顔にする。 「美しい人だ・・・よく来た。さあこちらへ」と席に案内する。  ヘクトルは妻アンドロマケを見
つけて抱きあいキスをする。 妻が「見て・・・強い子ですよ」といって子供を見せる。 ヘクトルは「おお・・大きくなった」と
いってわが子を抱き上げる。 従姉妹のプリセウスがパリスを見つけてに走り寄る。 「プリセウス!・・」 「パリス!」互
いに名を呼び合い抱き合って再開を喜び合う。 「かわいい従姉妹だ。 ますます美しくなった」とヘレンに紹介する。 
パリスがプリセウスの着物を見て聞く「アポロンに仕えているのか?・・」 プリアモス王が「プリセウスは神の道を選んだ
のだ」と教える。

 プリアモス王と兄のヘクトルが会っている。「ゆゆしき事態を招いてしまいました」 「この世のことはすべて神々の思し
召しだが、彼女を連れ帰ったのには驚いた」 「メネラウスと戦わせていたら、今頃はパリスの亡骸を焼くことになってい
たでしょう」 「メネラウスに和平の使節を送るか?」 「スパルタに着くや否やすぐに殺されます」 「ではどうすればよ
い?」 「彼女を船で送り返すのです」 「パリスは数々の浮名を流してきた男だが今度は違うようだ。・・・ヘレンを送り
返せばきっと後を追うだろう」 「ここは私の国です。・・・弟のわがままのためにわが国民を苦しめるわけにはいきませ
ん。 ・・メネラウスはすでにアガメムノンに助けを求めにいってるでしょう。 アガメムノンは昔から、トロイをねらってい
ましたから・・・」 「何世紀もの間いくたの戦いにこの城壁は守ってくれた。」 「父上、今度ばかりは勝てません」 「我等
にはアポロンが付いておる。いかに、アガメムノンといえども神には勝てないだろう」 「アポロンがいくつの隊を指揮し
てくれるんですか?」 「神々を侮るな」 

部屋の中でヘレンがパリスに言う「追っ手がせまってくるわ」 「逃げなきゃ・・今夜、いや今すぐに、厩に行って馬を二
頭出して二人で逃げよう。・・東に向かって走り続けるんだ」 「でもどこへ?」 「とにかく遠くへ・・・」 「家を捨てるつも
り?」 「君も家を捨ててくれた」  ヘレンが言う「私はスパルタに未練はないの・・親に命じられてあそこに16歳で嫁が
されたけど、なんの愛着もないわ」 「二人だけで生きよう。・・宮殿がなくても、召使がいなくても生きていける」 「でも、
家族は?」 「家族を守るためにもだ」 「メネラウスはどこまでも追ってくるわ」 「あいつはここの地理に不慣れだ」 
「あなたは彼を知らないのよ。 恐ろしい兄弟なの・・・私たちを見つけるためにはトロイ中の家を焼くわ。・・誰も信じな
い。・・信じたとしても腹いせに焼くわ」 「でもやつらの前に出るまでは君は僕のものだと言ってやる」 

 城内の見張り台では夜を徹して兵の見張りが続く。 
 城内の祭壇の前には、神に祈る父王の姿がある。

 朝、海岸の砂浜では、丸木の先を尖らせた木材を防衛柵として並べて打ち込む作業が始まった。 城のベランダでヘ
クトルが妻と子供をつれて休んでいる。 突然城内の鐘が鳴り響く。 ヘクトルが妻に「観てごらん」と教えて沖合いを指
差す。 はるかかなた水平線を全て埋め尽くすように船影が見える。 続けて何度も鐘が城内に鳴り響く、街の中は騒
然とし、人々が荷物を抱えて逃げ惑う。 「持ち場に付け!・・」命令が飛び、兵士が走る。 沖合いの船団が近づいて
来る。

 海上ではアキレスの船だけが先に進み、後の船団を置きざりにして行く。 心配した部下がアキレスに尋ねる「ご主人
様、・・ほかの船を待つべきかと・・・」 「戦うために来たんだろ」 「ですがアガメムノンさまが・・・」 「お前の指揮官はア
ガメムノンか?」 「あなたです」 「じゃあ、俺に従え」 「あいつらはアガメムノンに従えばいい」 

 船団の中で軍団を離れ一艘だけ先に行く船を見つけてアガメムノン王が聞く「あの黒い帆の船は?・・」 「アキレスの
船です」 「あの馬鹿何をやってる」 「たった50人でトロイの浜を制する気か?」 
            
 城内では武器庫の前に兵士たちが並んで、一人づつ武器を受け取っている。 兄ヘクトル王子が部下に聞く「アポロ
ンの守備隊はどうした?」 「門前で待機を」 「よしすぐ行く・・ニューサンドロス・・いつごろ体制が整う」 「地方からの兵
力が着き次第です」 「もっと急げ!」 

 アキレスの指揮する船の中。 いとこのハトルクロスが槍を持っているのを見てアキレスが「槍を置け」と言う。 「俺も
トロイと戦うよ」 「だめだ!」 「戦い方はもう教わったし・・・」 「お前はまだユルミドンじゃない。 あいつらはギリシャい
ちのつわものぞろいだ。・・お前は残れ。 お前を気に掛けてたら戦いづらい。・・船を守れ」 

 ヘクトル王子が率いる騎馬軍団が城の前に集合する。 ヘクトルが言う「トロイの兵士諸君・・私はこれまで掟に従っ
てきた。・・・明快な掟だ・・トロイは我々の国だ、神々を崇め、妻を愛し、祖国を守ると・・・」 みんなが”ウオーッ” と同
調の声を上げ槍を掲げる。 「母なるトロイのために!・・・戦おう!」再び雄たけびを轟かせて、アポロンの宮殿を目指
し騎馬軍団が出発した。 

 アキレス率いる船上でアキレスが兵士たちに言う「ユルミドン・・・親愛なる戦友たち、どんな大軍団よりもお前たちを
頼りにしている。 俺たちの強さを教えてやれ、・・・ 何が待ってるか知ってるか?・・・トロイの永久の名声だ!。手に
入れろ!。・・・お前の物だ!」 ”ウオーッ”・・ここでも兵士たちの雄たけびが上がる。

 アポロンの宮殿の前に、アキレスの率いる船が砂浜を滑るように乗り上げて停まる。 兵士が船から次々と飛び降り
て太刀を振りかざして突進する。 丘の上や宮殿の屋上で控えていた弓隊がいっせいに空に向けて矢を放つ。 火の
付いた矢が雨のように降ってきて前進していた兵士がばたばたと倒れる。 アキレスが「集まれ!。 陣形を作れ」と声
をかける。 数十人の兵士が一箇所に集まり盾で隙間なく饅頭のように壁と屋根を作り攻撃に耐える。 陣形を作った
ままで徐々に前進をする。 「俺の合図を待て・・・!」 アポロン軍の眼前まで迫る。 射手が攻撃をやめたとき「散
れ!・・散らばれ!」と再び号令を発し、ユルミドンの兵がスパルタの軍に突撃していき、アポロンの宮殿守備隊と戦闘
になった。 

 砂丘をけって兄ヘクトルの率いる騎馬軍団がアポロン宮殿に近づく。 まだ沖合いにいて浜辺の戦闘振りを船から見
ているアガメムノン王が「あいつ死にたいのか?」といい、「アキレスのやつ手柄をあせりやがって・・・」とあきれて言う。
 アキレス軍が周りの兵士を切り倒しながら宮殿に進む。 ユルミドンの兵が暴れまわる。 ヘクトルたち騎馬軍団がア
ポロンの神殿が見える丘にやってくる。 惨状を見てヘクトルは「援軍が必要だ。・・行け!」と言って部下を一人城に帰
させる。 激しい戦いの末、アポロン軍の戦いが不利になり指揮官が「退却だ!・・城内へ戻れ!街へ戻れ!」と叫け
び、みんな散り散りになって町に逃げ帰って行く。

 アキレスが言う「アポロンはトロイの守護神、我々の敵だ。・・・ほしいものをほしいだけ奪え」  ”ウワーッ”と声を上げ
て兵が宮殿になだれ込む。 宮殿の前に金色に輝く男が弓を引く姿のアポロン像が沖合いをにらんで置かれている。 
 一人の兵士がアキレスに「一言いいですか?・・」と言う。 「何だ!」 「アポロンはお見通しです。・・怒らせないほうが
賢明かと・・」 言われてかまわずアキレスは太刀を振り上げアポロンの首をはねる。 神殿前にヘクトルの率いる騎馬
の軍団が近づく。 一気に迫る騎馬の軍団に向かってアキレスが槍を投げる。 槍は一人の兵士ののどを突き抜け
る。 アキレスは神殿の中へ引き上げる。  宮殿内にヘクトル軍が入ってくる。 隠れていたユルミドンの兵が一気に
襲い掛かる。 一人で奥に入って行ったヘクトルが暗がりでアキレスと出会う。 アキレスが言う「一人で追ってくるとは
よほどの勇者か馬鹿者か。・・・お前がヘクトルか?。・・・俺を知っているか?」 ヘクトルが「神官は武器を持ってない」
と言う。 アキレスに「逃げるな、戦へ!・・・」と言うが、アキレスは「今、見物なしで王子を殺してはもったいない。誰も見
てないからな」と言って戦うそぶりを見せない。 二人は神殿の外の広場に出てくる。 ヘクトルが聞く「なぜトロイに来
た?・・」 「この戦いは千年も語り継がれる戦だからだ」 「千年後には我々の骨さへ残ってないぞ」 「それでも名前は
残る」と言い、「帰れ王子!・・・戦はまた明日だ」と嘯く。 「戦を遊びのように言うな・・・トロイには帰らぬ夫を待っている
妻がどれだけいると思う?」 「弟に慰めさせろ・・・人妻に好かれるたちなんだろ・・・」 ユルミドンの兵が恐る恐る二人
のところにやってきて回りを取り囲む。 ヘクトルが残った仲間のところに力なく歩いていく。 「行かせていいんです
か?」 オデュッセウスが聞く。 「朝っぱらから、王子様を殺せるか!」 ヘクトルが馬にまたがる。 アキレスが言う「あ
わてないで・・・王子だぞ」 ゆっくりと一人帰って行くヘクトル。 トロイの兵たちが道を明けて王子の帰りを呆然と見送
る。 

 アポロン軍が逃げた砂浜に続々とメネラウス王やアガメムノンなどスパルタの軍船が到着し数万人の兵士が上陸す
る。 メネラウス王がやってくる「アキレス・・・この恐れ知らずめ・・・一緒に戦えて光栄だ」 「俺もだ。・・今頃来てももう
終わるぞ」 そこにアキレスの部下がやって来て言う「アキレス様お見せしたいものが・・・」 アキレスのテントに兵が連
れて行く。 テントの中に女がいる。 手を後ろ手に縛られ、顔を怪我して座っている。 「この女 アポロンの神殿に隠
れていました、お楽しみ下さい」と言って部下は出て行く。 女はおびえている。 アキレスが聞く「名前は?・・聞こえた
だろ?・・」 「神官を殺すなんて・・・」 「五つの国で人を殺したが神官は殺さない」 「では、あなたの部下よ・・アポロン
が復讐するわ」 「なぜ、さっさとやらないのか?」 「時を見計らってるのよ」 アキレスは体を洗いながら言う「神官は死
んで、その助手は捕虜とは神様も怖気ついてるだろ」 「アポロンは太陽の神よ。何も恐れないわ」 「じゃあ、どこにい
る」 「あなたは人殺しよ」 「お前・・王家の者だな?」と言いながら髪のにおいを嗅ぐ。 「男を見下して話をする。 ・・・
なんて名だ・・・アポロンの巫女にも名前はあるだろ」 「プリセウス」 「怖いか?・・プリセウス」 テントの外からアキレ
スを呼ぶ声がする。 「どうした入れ・・・」先ほどの部下がやってくる。 「アキレス様・・・アガメムノンさまがすぐ来るよう
にとのことです。・・・国王たちが勝利を祝うからと・・・」
プリセウスが聞く「何を求めてトロイに来たの?。・・スパルタの王妃じゃないでしょ」 「ほかの男と同じだ。 ちょっと欲
深いが・・・俺を恐れなくていい。お前だけは助けてやる」
          
 近隣の王たちが祝いの品や、貢物を持ってアガメムノン王に挨拶に来ている。「見事な勝利です。・・王の中の王よ」 
「こうも簡単にトロイの浜辺を手に入れるとは誰がおもったでしょう・・・」 「すばらしい勝利をたたえます」 「見事な勝利
をたたえます」 口々に祝辞を述べる。 アガメムノンは「ありがとう友よ・・・明日はトロイの庭で夕食でも共にしよう」と
答辞する。 アキレスがやってくる。 「はずせ」と近隣の王や家臣を下がらせる。 アキレスが言う「大勝利でした
な・・・」 アガメムノンが言う「朝、トロイの砂浜はプリアモスのものだったが、午後からはアガメムノンの物になってい
た」  「砂を奪いに来たわけじゃない」 王が言う「お前は未来永劫に名を残すために来たのだろ。 今日は見事な勝
利だった。 だが、勝利はお前のものではない」 「国王は海にいて見てないだろうが勝利したのは兵士だ」 「歴史に残
るのも国王だ。兵士ではない」  メネラウス王が言う「あす我々はトロイの壁を破る」 アガメムノンがいう「ギリシャ中
の芝に勝利の記念碑を建てる」 「気の早い王様だ。・・・まずは勝ってからだ」 「お前の兵が神殿を襲ったそうだな」 
「黄金がほしいのか?」 「もう手に入れたか?・・。アポリンス!」 呼ばれた兵が「いやッ!・・あーッ」泣き叫ぶ捕虜の
女プリセウスを連れてくる。 王が言う「戦利品だ」 女を見たアキレスが怒る「お前らに怨みはないがその女を離
せ!・・・離さんと生きて返さんぞ」 アキレスが剣を抜く。 プリセウスが女の前に飛び出す、「やめて!・・・もうこれ以上
殺さないで・・殺すことしか出来ないなんて哀れな人」 アキレスが剣を投げ捨てる。 アガメムノンが言う「無敵のアキレ
スが、奴隷女に口を封じられるとは・・・今夜は風呂の世話をさせる。その後はどうするかな」と言う。  アキレスが怒る
「飲んだくれが・・よく覚えておけ。・・・いつかお前の命を狙ってやる」

 宮殿の中でトロイの家臣たちを集めてプリアモス王が言う「やつらが望むなら、一戦交えようではないか。 トロイいち
の精鋭をぶつける」 占術士に尋ねる「お前の40年間の経験から見て勝ち目はあるのか?」 「城壁が破られたことは
ありません。 トロイの弓兵は世界一。ヘクトル様もいらっしゃる。必ず勝てます」 家臣たちが歓喜の声を上げる。 神
官が報告する「今日、一人の農民が参りました。 一羽のわしが鉤爪で蛇をつかみ、飛ぶのを見たそうです。 これぞ
太陽神アポロンからのお告げ、明日は必ず大勝利かと・・・」 ヘクトルが怒る「鳥が何だ!。・・お前は鳥をみて大事な
戦術を練るのか?」 王がたしなめる「ヘクトル・・・無礼だぞ。神々に身をささげる者に・・・ 「私はトロイに身をささげる
者。 日ごろから神々を崇めています。 だが今日、アキレスがアポロンの像を辱めたのに、天罰は下りませんでした。
 ・・・神々は戦をする気がないのです」 弟パリスが言う「これは国どうしの争いではなく二人の男のいさかいです。 僕
のために民が死んでいる、これ以上私のせいで民を死なせるわけには・・」 「パリス!」兄が止めようとする。  パリス
が続ける「明日の朝、へレンを賭けてメネラウスと戦います。 勝者はヘレンを連れ帰り、敗者は日暮れまでに焼かれ
るでしょう。・・・父上心配をおかけしてすみません」 父、プリアモス王が聞く「ヘレンを愛しているのか?」 「父上は祖
国を愛する偉大な王です。・・・トロイのすべてを愛しておられる。 僕もヘレンを愛しています」 「わしは若いころ散々戦
った、領地のため、権力のため、栄光のために・・・でも、愛のために戦うことのほうが利にかなっているのかも知れん
の。・・・しかし、戦うのはこのわしではない。」 王は剣を抜いた、「トロイのつるぎ!・・・」パリスが思わず口にした。 
「わしの父もその父もこれを手に戦った。  トロイの国が築かれた時から、トロイの国はこのつるぎで刻まれてきたの
だ。・・明日はこれを使え・・トロイの魂が宿る剣だ。・・・トロイの男が持つ限りわが民には未来がある」   

 ヘクトルと妻のアンドロマケが部屋の中で話している「神殿の前にテクトルを殺した男がいた。・・あんな槍は始めてみ
た。人間技じゃない」 「あなた明日は行かないで・・・お願いです」 「戦うのは私じゃない・・・」 「決闘を見るためだけに
5万人も海を渡ってくるわけないわ。・・・あなたはずっと闘ってきた。 たまにはほかの人に任せて・・・」 「私は戦いたく
ない。息子が大きくなるのを見たい」 「あなたを失っては生きていけないわ」 アンドロマケが泣き伏す。 ヘクトルは
「ハリスと話してくる」と言って部屋を出る。 廊下のはずれを黒い影が走りぬけるのが見える。 「待て!。・・」 ヘクト
ルが後を追って女の腕をつかむ。 「ヘレン!・・何をしてる」 「行かせて下さい。」 ヘレンはその場に座りこんで泣く。
 「兵士たちが焼かれるところを始めて見たの・・・私のせいだわ・・残された妻たちの悲しみが聞こえるわ。 あの人た
ちの夫が死んだのは私のせいよ。・・・船着き場に行きます」 「それはだめだ!」 「メネラウスのもとへ戻らなけれ
ば・・」 「今更遅い!・・・」 「アガメムノンが弟のために来たと思うか?。狙いは力だ・・・愛じゃない」 「明日の朝、パリ
スがメネラウスと戦うのでしょ?・・・彼に殺されます。 私は耐えられないわ」 「あいつが決めたことだ」 「だめよ、・・私
のために戦うなんて・・・もう王妃ではないのだから・・・」 「トロイの王子の妃だ。・・・今宵は弟のそばにいてやってくれ」
 へレンが部屋に帰る。
            「 トロイ (下)に続く 」


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