Chapter.7_2「健全な自己主張(assertive communication)」はチームを活性化する
 
 この連載やCRM,HFCセミナーで何度も述べたようにコミュニケーションの3原則は
1)2WAY、または3WAY, 2)積極的傾聴、3)「健全な自己主張」(アサーション)でした。

 病院の研修といえばこれまではどっちをむいても「接遇」「接遇」一辺倒だったのですが、最近は「アサーテイブトレーニング」が「進んだ病院」の院内教育に取り入れられています。
こんなことです。

 あなたは…
 必要な時、自分の意見をはっきりいえますか。
 頼まれごとをされたとき自分気持ちを偽らずに「イエス」「ノー」が言えますか。
 消極的になったり、攻撃的にならずに話し合えますか。


 アサーションについて看護婦さんの眼から見た原稿を書いてもらいました。

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 苦痛やストレスを感じているのになかなか解決できない人間関係のトラブル、時には心の重みに耐えかねて職場を去るケースもあると思います。  『嫌なのに嫌とは言えない』『不当だと思っても我慢するしかない』そんな現状を打開する為にいったいなにができるのか…
 言いたいことを言えるよう、自分の気持ちを分かってもらう為にはどうしたらいいのでしょうか…
自分の思っていること、感じたことをなるべく素直に表現することを「アサーション」と言います。アサーションが自然にできて、 自分の言いたいことを素直に自己主張できる人の状態を「アサーティブ」と言い、その逆に言いたいことをきちんと主張できない人の状態を「ノン・アサーティブ」と言います。

アサーテイブを自己主張できる人と説明しましたが、主張さえすればアサーティブな言い方ができるという訳ではありません。 自分の要求や意見を、相手の権利を侵害することなく、誠実に・率直に・対等に伝えていく方法論です。
長年身につけた習慣や態度はなかなか変えられません。その為に自分のコミュニケーションパターンに気づき、それを変える練習が必要になります。

アサーティブの考え方の基本となる4つの柱
・誠実であること:拍手にも自分にもウソをつかないこと
・率直であること:くどくど言い訳したり遠回しに言っても、相手に伝えたいことは伝わらない。
 率直に具体的に伝える。
・対等であること:相手と向き合うときに自分を卑下したり、相手を見下して話をしないこと。
・自己責任をもつ:言いたいことを言うのではなく、言った以上責任をもつと言うこと

 ここで、ある出来事を例にあげでみます。

ある日、仕事が終わった後いつも明るい看護婦Hさんがソファーにうなだれて「もう、私死にたーい」と、つぶやいていました。 私の頭の中では、男にでもふられて落ち込んでいるのかー位に思っていました。(キャラクター的にもそんな感じの子なので…)  何となく声をかけ「そんなに死にたいと思うような大変な事があったの?」なんて聞いてみたのですが、やっと言い出したと思ったら、  「今日受け持ちの部屋がとっても大変で、仕事が終わらなくて準夜に申し送ってからもからも患者の所で仕事をしていたら、先輩看護婦に、  “仕事の邪魔だから使った物とかすぐに片つけて!”と言い捨てられた」ということだった。

 いつもはきちんと仕事をし、抜けのあまりないHさんが重患を数人もち、あまり手の回らない状況でその捨てゼリフはかなり答えたらしい。  すかさず、「それでー?」なんて聞いてみたのですが、その一言を言われただけだった。年のいっている私にすれば、若い頃はそんなことをきつく言われ、 “自分が悪いんだ、今度からは気をつけよう”なんて自分を責め、反省していました。(心の中では、そんな言い方しなくても、嫌なヤツ位に思ったりもしましたが。)

 ここで、この先輩看護婦がアサーティブな言い方をしたらこの件はどうなったでしょう?
先輩看護婦としては、私はこれから仕事をするのだから、  患者の周りにあるものは片つけてあるのが当然!位の気持ちがあったのかもしれません。
 何かの頼み事や、命令をする時、自分の目から見ればそれをするのが当然のようにみえても、  『対等であること』という気持ちが伝わるように言った方が相手も快く動いてくれるものだと思います。

 “いつもより大変だったね。私もこれからがんばるから、患者さんの周りを片つけてくれたらうれしいな?” “〜〜してくれると助かるな?”等言えたら、お互いが嫌な思いをすることなく、 お互いの関係も保てたのではないでしょうか…
 Hさんも死にたいと思うことは無かったと思います…

 仕事をする上で、“あの人はいつも口調がきつくて苦手だわ?”という人が少なからずいると思います。
 例えば、「早くこれをしてよ!いつも遅いんだから」等とクドクド言われたとします。言われた本人としては、“こわい言い方だな、あんな言い方されたら何も言えないよ”
 または、“色々と思った以上の仕事が舞い込んできて、自分の思うように進まないのに…”なんて思いながらも何も言えず、  ただ不快感だけを心にしまい込んで何も言えずにいるかもしれません。
 そんな時、『○×さんの言い方、こわくてドキドキしてしまいます。』『思うように仕事が進まなくて因っていたんです。』など、いまの自分の考えを素直に率直に言うことによって、言った本人も  「ついつい感情的になってごめんね。」「そんな事で因っていたんだ。〜〜してみたらどう?」なんて違う提案を示してくれるかもしれません。

 いつも攻撃的な言い方をする人というのは、相手に反応がないからついつい口調がきつくなりがちなものだと思います。それを変える為には、自分の考えをきちんと表現することではないでしょうか  (自分のコミュニケーションパターンをかえてみる!!)

 しかし、すべての感情を出すのではなく、“私の気持ちをわかってもらう為に、今これだけは伝えておきたい”と考えながら自分の気持ちを素直に伝えると良いと思います。  それが相手とのよりよい関係を築いていくきっかけになると思います。

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 「4つの原則」をふまえた自己主張ということですね。なかでも「率直に」、というところがもっとも難しいようです。 同僚でもこうなのですから、相手が上司であったり先輩であったりするともっと難しくなります。 「死にたーい」といじける程度ならまだ回復の余地がありますが、こと安全となると本当に死んでしまいます。

何度も述べましたが安全を最優先しなければならない航空会社はこの辺を身にしみてわかっています。
航空機関士が疑問をもったにもかかわらず、それを強く主張できずに離陸滑走を開始し583名もの死者を出してしまったテネリフェの事故。 権威のある機長が意識を失っていたのに操縦に手を出せず墜落してしまった事故などなど。

 「墜落するかどうか」までいかなくてもチームのパフォーマンスの向上を目的として航空会社は「アサーション」「インクワイアリー」をCRMトレーニングとして実施しています(具体的には別稿)。
その中でアサーションの定義を安全への主張と言い換え行動指標を定めています。
1)エラーを発見したら早い時期に節度をもって指摘する
2)安全を逸脱する行為には勇気を持って粘り強く主張する。

 またインクワイアリー(質問)に関しては
1)おかしいと思ったら必ず確認する
2)(安全に関して)初歩的な質問を馬鹿にしない

 必ずしも充分に上手くいっているかどうかは難しいそうです。しかしこのような行動指標を定め、明示していることで迷ったときに「一歩前へ」踏み出すことができるのかもしれません。

 医療の場合は個々の患者が違いすぎることやわけのわからない「裁量権」などということで正解が一つになる(あるいは正解がないこともあります)ことはないかもしれませんが 「安全への主張」「質問」は常に意識していなければなりません。

 意を決してやっとの思いで「主張」(エラーの指摘)したところ、案外「おっ、そうだ。なーんだ、早く言ってくれればいいのに」なんて関係が続くと そのチームのパフォーマンスは向上していくに違いありません。

(あとで)「私は変だと思ったけど・・・・・・・・」なんて事が無いように、ですね。

いかがでしょうか?
この連載に苦情、ご意見、ご批判をお願いします。
また、こんなことなら私が(俺が)書いた方がましだ、というかたもリレー連載をお願いします。
 
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