1 コミュニケーションの欠如
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コミュニケーションは、仕事にかかわる人たちの間の意思伝達手段として極めて重要です。
医療ばかりでありませんが、協同で何かをしていく場合には、情報伝達など、必要な情報はコミュニケーションにより伝えられます。
コミュニケーションとは言葉によるものだけとは限らないことは昨年の「コミュニケーション〜航空・原子力に学ぶ」でお話ししました。
例えば文書もコミュニケーションの手段であるし、言葉と文書が併用されることもあります。
(医者の字が汚すぎて、読み違いを誘発し誤薬にいたった、なんてことですね。
これは「読めない」と思った時点でつき返す事が必要です。これは会議でも言ってあります)
グループでの作業は適切なコミュニケーションなしには正しい作業は行われません。
不十分なコミュニケーションは、作業の質や効率の低下をもたらし、エラー発生の原因となります。
ところでコミュニケーションの目的は知ってますよね。
コミュニケーションとカンバセーションの違いも知ってますよね。
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2 自己過信、思い込み
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同じような仕事を繰り返していると、その状況に慣らされて、異常に気が付かないことがあります。
例えば、たまたまある患者さんの様子が違っていても、これまで何回も行った検査や毎日の回診や見回りで問題がなければ
つい見過ごして、記録板やカルテには「チェックの結果すべてOK」とサインしてしまうことがあります。
人工呼吸器のチェックリストでも同じです。「同じ」…「同じ」…と続くと充分に確認していなくとも「チェック」をつけてしまうことがあります。
先入観にとらわれず不具合の存在を疑うこと、「チェックリスト」には正しく従うことが必要です。
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3 知識の不足
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「知識の不足」は、もっとも一般的な判断エラーの原因です。しかし、実際には知識が十分ではないのに
「やってみればできるだろう」というような気持ちを持つことはよくあることです。
エラーを防ぐには、正しい訓練を受けること、最新のマニュアルに従うこと、
自分で判断できないときは躊躇せず知識のある人に尋ねること、などが必要です。
「思い込みエラー」対策の第一も「知識の豊潤化」でした。
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4 注意逸脱、気移り
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「注意の中断」はエラー原因のかなりを占めているというデータがあります。
仕事の中断はいろんな事で起きます。もっとも指摘されているのは投薬・注射(作業)中の患者さんからの声かけ、やナースコールです。
そのほかにも電話での作業の中断、指示箋を書いているときの「声かけ」、手術中の執刀医に「病棟からの指示受け電話」が何度も来たら…。
など、仕事を中断される原因は沢山あります。
作業が何らかの理由で中断した後、その作業に戻るときそのステップは既に完了したと信じ、
その先の作業にかかることがあります。場合によってはいくつものステップが抜けてしまうことさえあります。
これは早く作業を終了させようという人間の心理に共通のものです。
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5 チームワークの不足
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チームワークの不足は、コミュニケーションと密接に関係します。
複数の人間が同時にかかわることが多い場面では、これまでに経験された大きなエラーで共通した主要要因となっています。
病院でのヒューマンファクター訓練では、チームワークとコミュニケーションが最も重要かもしれません。
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6 疲労
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一般に疲労を伴わない労働はあり得ません。我々の仕事もその結果として当然疲労が発生します。
しかし、通常は「適切な休息により回復し、次の仕事に移ることができる」のが正常な状態です。
ただ場合によっては、疲労が蓄積したまま仕事を続けなければならない状況になることがあり、また、そのことに本人が気付かないこともあります。
そのような時は、状況に対する認識能力、注意力、判断力が低下する恐れがあるため、
そのことを意識してより慎重に行動することが重要です。
昨年の自己チェックリスト「I’m SAFE?」を覚えていますか?
シフト勤務が行われる場合などは管理者はそのことに留意し周到な勤務計画(勤務表も)をたてるとともに、自身も適切な自己管理が必要です。
(時々病棟に配っている「working night」もみて下さい。昨年のHFC seminarの「疲労」も参考に)
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7 資源の不足
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医療現場ではさまざまな資源を必要としています。その中で一番影響を及ぼすものは人的資源です。
計画的な仕事の場合は別として、「相手が人間」では必ずしも労働負荷が一定とは限りません。必要な労働量が正確に予測しがたい場合があります。
時によっては人員が不足したまま、実行しなければならないケースも発生します。また必要な器具、材料や量が十分でない場合もあります。
このような(質も量も)資源の不足(そして時間の制約)は、往々にしてエラーの要因となります。
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8 外部の圧力
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外部からの圧力も避けられないものです。 特に民間病院などでは、「ベッドの効率的運用」とか
「経済性」がおおきくのしかかってきます。
現場以外の内外の、さまざまな部門から意識的あるいは無意識の圧力を感じることがあります。「在院日数の規制を守れなければ…」とか
「保険からの圧力」とか、「機器の効率的運用」とか…。
そのことがエラーを誘発させる大きな原因となるわけです。
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9 独断、思い込み
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医療従事者は、教育や訓練を通じて(一応)規定、基準に従うよう訓練されています。
従って本来なら独自の判断で「非論理的なこと」を行うことはないはずです。
しかし、定型化した作業が続いたり、あるいはこれまで得た知識や経験上、問題ないと考えて、類似の作業を自分の判断で行い、
それが後になって事故の原因となることもあります。思いこみであったり、ナレッジベースの仕事でなければならないところをついスキルベースでしてみたり…と。
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10 ストレス
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内部的なストレスも、外部の圧力と同様つきものです。
医療従事者に対して、(何時までにしなければならないといった)時間、
(しっくりしない器械、誤報の多いモニターなど)器械の状態、薄暗い、騒がしい環境
などあらゆるものがストレスとなる可能性があります。
通常の場合はそれに耐え業務をしているのですが、それに個人的な悩み事、家庭の事情などその他のストレスが加わると、
精神の安定を欠き不完全な作業を誘発し、時によっては大きなエラーや事故の原因となる可能性があります。
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11 状況認識の欠如
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人間の行動は事象を認識し、自分の記憶、知識と照合して計画を立て、
実行するという過程を経ます。そのとき第一に重要なのは、
どのような状況かを正しく認識し判断することです。
状況認識が不十分のまま行動し、かえって問題が拡大し大事に至った例は少なくありません。
発生した「いつもと違うこと」、緊急事態などが、どのような状態か、どのように対処すればよいかを
冷静に判断してチームとして
「認識を共有し」次の行動を決定する必要があります。
(昨年のCRMseminar「状況認識」「問題解決」を参考にして下さい)
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12 規範・集団の行動様式
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人間は集団として行動していると自然に習慣、風習あるいは風土のようなものが形成されます。
場合によっては積極的できわめて前向きな風土が培われ、職場でのエラーの発生がきわめて少ないという好ましい状況もあります。
しかし、問題の多い職場ではこれと反対の雰囲気があることも少なくありません。(昨年のHFCseminar「安全文化」「安全組織に学ぶ」を参考に)
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