Chapter.12_2「習うより慣れ」の「on job training」のあやうさ

 4月になるとどんな職場でも新人が入ってきます。「必ず」のように毎年「新人教育」が話題になります。

 「まずは現場にでてもらって」とか「早くなれてもらって」とか言う言葉が良く聞かれます。
 また「習うより慣れろ」とも。  こういう教育を「on job training」といいます。
 場合によってはそれもいいのですが…。

 いろんな理由をつけますが…
   「まずは現場にでて仕事をしながら覚えてもらう」などというのは聞こえはいいのですが、
on job trainingに名を借りた人手不足対策になっていることがしばしばです。 「猫の手」である事を現場の管理者や直接の指導者が意識しているうちはよいのですが、猫じゃないので「それなりにまにあう」様になります。
其れが続くと、本人はまるで出来るようになったと錯覚し、指導者も自分の教育の成果だと(やはりこれも錯覚)満足し、 原理教育(off job trainingでのknow why教育)がぬけていたのを忘れてしまいます。こんな事が数年続くと…。
 うん、(「猫の手」が「猫の手を教える?」なんてひどいことはいいませんが)多分恐ろしいことになりますね。

 組織の価値観
   私達のような職場では(人件費が50%なのですから、それを無駄に使わないためにもなおさら)教育にどのような人材をあてたり、  時間(経費)や方法をとるのかということは大問題なはずです。
 その組織の価値観そのものといえます。経済的にも単純に考えて10%のパワーアップは人件費で言うと50×100÷110で人件費が10%以上減ったことになります。  それ以上に安全への冗長性が増えます(「余裕」です)。

 「動機付け」という教育
   こどもを育てるときに「大きくなったら何になりたい?」「どんなひとになりたい?」と問いかけると(そのひぐらしをしているような子供でも)  何か目標のようなものをもちそれに向かおうとするそうです。
 (この項では計画性や継続性について書こうと思いましたが、その前に)
 仕事の教育でもまず「動機付け」が大切かもしれません。

 仕事や教育に関する能率や「ゴールに向かう力」の向上に動機付けが大切なことは1920年代からの研究で明らかなようです。
 (詳しくはHfseminar2001)

 Whyを教える知識教育
   〜「know howよりknow why」 現場指導者の原理理解は?

 規則やマニュアルは作ったその瞬間から陳腐化していくといわれています。
 例え立派な規則やマニュアルでも、その「規則」や「手順」を必要なことをわかってそれを作ったひとたちも時がたつと、転勤したり、管理業務になったりで、 その部門からはいなくなってしまうからです。

 それにつれなぜその規則が必要なのか」「何故こういう手順なのか」という意識は薄れていきます。 その結果ルールや手順は軽視され省略され「改善」という名で消されてしまうことさえあります
 「何故こうなっているのか」「なぜこういう手順なのか」というバックグラウンド教育(know why)は日常の業務教育としても安全教育としても重要です。
 「on job」でも「off job」でもいいのですが教える方も、教えられる方もいつも「know why」を意識する必要があります。


 その結果、後輩、部下は育っているか?
   結局、どんな教育や理由であろうと部下や後輩が育っていさえすればそこの組織の教育に問題はないといえます。 入職後の教育がいいのか、放っておいても一人でのびていく人材をスカウトしたのがよかったのか、環境がよかったのか、そんなことはどうでも良いのです。
 しかし、そうでない場合(それも何年も)、「最近の若い人は・・・」などと本人のせいばかりにするのではなく組織として深刻に反省する必要があります。
 また、同じ組織のなかでも後輩が育っている部門とそうでない部門が明らかにあります。その差はどこから来たのでしょうか?
 このことは(定昇が押さえられている現実のなかで)「初任給と2年目の給与の差」云々の論議よりも大事なことなのです


 育たないのは「本人」が悪い?育たないのは「上司(教育)」が悪い?
   「それは本人が悪いに決まってますよ。こんなにいっぱい資料があって、こんなに新人教育(の用意に)時間をかけて、○○何とかシップで教えてあげて…。  本当に最近の若いこはやる気がないんだから

 「とりあえず現場にだされて、担当の先輩について先輩のやり方を見て覚えなさい、っていわれてもナー。(何のために)何やってんだかわからないし…。  何を覚えればいいのかわからない。たまに、どうしてこうするんですか?ってきくと、うちではこうやっているの、と言われてしまう。  そうかと思うと、あなた達よくやっているわよわからなくても当然なのよ、まだ○ヶ月なんだし、なんてもちあげられたりする。あんまりしつこくすると生意気な新人、と思われてしまうし。  でも、結構(給料)もらってるから、こんなもんで当分、まっいっか

 こうやってまた一年がすぎます。


 「On job training」だけでは来年になっても「それ以上」にならない。
   〜マクドナルドの「マニュアルおねえさん」を作っている?いやそれ以下?

 「know how」を覚えてしまうと、普通とりあえずの仕事は出来るようになります。多くの人はそれで満足してしまいます。  「満足」までしなくても「そのうちにやろう」と時間が過ぎていきます。

 仕事も間に合えばとりあえず問題にもならないため、組織としても教えることには手を抜きがちになります。  (ここでは教育も経営もカスカスの一般病院や一般企業を想定しています。もちろんあなたのいる超一流企業や特別の研修病院などは別でしょうが。  あっ、大学もダメな方に入ると思います)
 マクドナルドのマニュアルおねえさんは、来年もマクドナルドのマニュアルおねえさんです。パン職人にはなれません

 もう一つはon job trainingの「質」の問題があります。どうしても「man to man」(あるいは 何とかシップ)になります。  そうなると左側のman」の知識・技能、考え方に大きく依存してしまうことになります。

 Know why教育、原理教育が出来る(あるいはしようと考える)「左のman」かどうか、職業的正直さがあるかどうか、新人にとっても  (組織にとっても、いやいや患者さんにとっても)「運」まかせになってしまいます。

 新人「○○・・はどうしてでしょうか?」
 左のman「うん、うちではこうやっているの」
 新人「でも…どうして」
 左のman「そんなこと難しいから、新人は覚えなくてもいいの!

 なんて事はまさかないですよね。


 On job trainingとknow why教育、off job trainingの重要性
   Off job trainingでknow why(何故)や原理を学び(当然一回や二回聞いても解りませんよね。
 でもまず一回、原理や仕事の全体像を学ぶ必要があります)その後で、現場(on job)で「こうやるのか」とknow howを学ぶ。そして当然上手くいかない、失敗する、  想像していたこととの違いを知り、また問題意識を持ってoff job trainingに臨む、という繰り返し(らせん)が本来のon job trainingです。

 そのとき、当然指導者や現場管理者はknow whyを知っていなければなりません。

知識レベルの基準とはMRMから

レベル:基礎的な知識理論について知っている

レベル:基礎的な知識理論について理解しており、応用力がある

レベル:応用的な知識理論について理解しており、それを活用できる


 ということなのですが「レベル1」になってもらうためには指導者は「それ以上」が必要です。
 またレベル1.1もいいのですが、解らないことは解らない、という「職業的正直」がもっと必要とされます。
 なにせ、新人(初心者)に教育しなければならない最初のことは
 わからないことは、わからないという躾なのですから。

 「知ったふり」が最悪です。「知ったふり」は新人にもいずれみすかされます。
 どんな会議でも仲間内で格好をつけるのはやめましょう。  いずれわかってしまうのですからね。


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