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1-1とりあえず思いつくままに「人間と事故」について 事故原因のカテゴリーは5M(Man,Machine,Media,Management,Mission)といわれる いろいろな技術や組織は「人間が何かをしようとする為に」作り上げたもの。これが大事。 「何もしないのであれば、なにもいらない。なにもおこらない」のだ。 だから人間が介在する全ての部位にHF(人間の要因)が存在する。 だから「事故は会議室で用意され、現場で組み立てられる」ともいわれる。 HFは多くの場合「マイナスの面」ばかりが問題にされるが、実際には「プラスの面」によって殆どのシステムはうまく動かされている。 システムの柔軟性のなさ、ギクシャクは人間の柔軟性や応用力でカバーされている。 HFは殆どが二重三重に重なり合っている HFは発展途上の考え方である(数学型の「正解」はないかもしれないし、「理系の人には理解し難い」ともいわれるが、心理学や認知科学、生理学、人間工学などを応用した学際的学問である。もちろん筆者の一番嫌いな「精神論」や「根性論」とは違う) HFの問題点を考える場合、システムの大小にかかわりなく共通することが多い。 だから「・・・s」という知識体系、学として成り立つことは昨年のCRM-HFCセミナーでも書いた。 ※事故の構造の共通点は4つあるという(東京電力HFグループ)
「ヒューマンエラーは原因とされるべきでなく、事故を構成するひとつの事象であり、背後要因から誘引された結果である」という視点。 直接にはヒューマンエラーだとしても間接的に、例えば教育システムの欠陥、図書(文書)管理の不適切、設計の欠陥などを表しているのかもしれない。発生モデルの理解。 「ヒューマンファクターズ」「ヒューマンファクターカルチャー」「ヒューマンファクターエンジニアリング」「CRM-error management」などと、航空界・産業界で進化してきたHF(とその応用学)。 しかし医療システムこそ人間の介在なしには成立しない。我々の業界にとってヒューマンファクターは産業界以上に早急に、かつ積極的に取り組むべき重大な問題なはずだ。 アクシデントやインシデントがあってからの“後ろ向き”の医療事故防止だけではなく“前向きの”事故防止が可能になるだけではない。 チームや組織としての問題解決能力・パフォーマンスを向上させる力になるはずなのだ。 ※「CRMとは?」参照 1−2 定義:組織や会社によっていろいろありますがその代表的なものは以下です。 ヒューマンファクター 人間や機械等で構成されるシステムが、安全かつ効率よく目的を達成するために、考慮しなければならない人間側の要因 ヒューマンファクター(工)学 ?知識体系のこと 人間に関する基礎科学で得られた知見を、人間や機械等で構成される産業システムに応用して、生産性、安全性および人間の健康と充実した生活を向上させるための応用的科学技術。 ヒューマンファクターズなどと「複数形」で言うこともある。 1−3 安全の考え方の歴史 安全に対する考え方は、三段階を経て現在に至っているようです。 第一段階・・・本人が悪い、個人の責任という考え方 世界で一番古い法律は、ハムラビ法典(紀元前1700年)でこの法典での決まりは、たとえば、建築家が家を作り、それが壊れ、住んでいる人が腕を折ってしまった場合、 その建築家の腕を折る。住んでいる人の子供が足の骨を折ってしまった場合は、建築家の子供の足を折るというもの。 本人の責任追及というのが安全問題の第一段階であり、人間の歴史のほとんどをしめていた。 第二段階・・・機械の面からカバーしようという考え方 戦後、昭和30年代以降、人間に対しやや寛容になり、人間はエラーをするものだから、機械・設備の面で補うという考え方 第三段階・・・人間を育てていく面と機械・設備の両面 機械・設備の面から安全を図るというのは大事であるが、同時に人間も安全に強くなっていく、安全を意識し、安全のための技量を身につけるという考え方 航空機を例にすると第二段階において機体の改良が進み、それに伴って年々事故率が低下していきました。ところが1970年代になってから航空機事故の発生頻度が低下しなくなったのです。 このまま航空輸送の増加がつづくと「2010年には毎週どこかでジャンボ機が落ちている」ような事態になることが予測されました。 1976年NASAは技術・経験ともベテランのクルー36組を集めてシミュレーターを使った膨大な実験をしました。 その結果は、クルーが適切な状況認識をしクルー間のチームワークがとれていれば無事に乗り越えることができたはずの「シミュレーター上の負荷・トラブル」を乗り越え「生還」できたのはたった1組だったのです。 この実験結果を解析したNASAは「クルー間の適切な、積極的コミュニケーション」「適切な権威勾配」「機長のリーダーシップ」などHF教育(CRM)が必要だ、と結論づけたのです。 そして1981年のユナイテッド航空を先頭に世界の航空会社がCRMに取り組みはじめました。 このことが多分産業界においてそれまでの「根性」、「訓練」、「機械の改良」といった事故対策から転換し人間(L)とそれを取り囲む「S」「H」「E」「L」に目を向ける最初の契機となったのです。 ※CRMとは? 航空機事故の防止に有効な手段としてCRM (Crew Resource Management )訓練が重要視され日本の航空会社も80年代後半から取り組んでいます。 昨年からは定期運送用操縦士の全てに義務化されました(昨年のCRM-HFCセミナー記録をみて下さい)。 CRM とは、操縦室内で得られる利用可能な全てのリソース(人?経験や知識も含む、機器、情報等)を、有効かつ効果的に活用し、チームメンバーの力を結集して、 チームの業務遂行能力を向上させるというものです。 具体的には「エラーマネージメント」のコンセプト(エラートロイカ)に基づき、
など多岐にわたる項目により構成されており、 LOFT(Line Oriented Fright Training)と呼ばれる実践的シミュレーター訓練とともに行われ、効果を上げています。 現在では航空界のみならずBridge Resource Managementとして海運、Maintenance Resource Managementとして整備、そして医療界でも同様の訓練の必要性が指摘されており、 一部では導入されています。 CRMの具体的な問題については昨年からCRM seminarを行ないましたがこのサイトでもあとでご紹介します。 Optimize Human Performance(乗務員の業務効率の最適化) Reduce Human Error(ヒューマンエラーの減少) 図1・CRM概念 1−4 [ヒューマンエラー防止への二つのアプローチ] ヒューマンファクターカルチャー CRMとの関係を明確に述べることは出来ませんが、CRMが上の二つの目標を実現するHF的・具体的・実践的行動指針、とするなら 「HFカルチャー醸成」というのは日常の業務をHF的な目でみる、見直す、ということです。もちろん内容的には重なっているのですが・・ 今までの事故防止策は振り返り型安全策でした。ヒューマンエラーの結果起こったインシデントやアクシデントに対して対策を練る、というものでした。これはこれで大事なのですが・・・ ところがHF的な眼、考え方、感性、雰囲気(「HFカルチャー」という)を養うことによって、「自分の業務の安全などに関してHF的な眼から起きそうなヒューマンエラーを想定することができるのではないか。 内省し改善提案を!」というのが未然防止型対策です。そして想定したヒューマンエラーの原因を検討し対策を考えよう、というものです。 何かが起こる前に…という発想です。そのためにHFCでは具体的に8つのヒューマンファクター項目についてとりあげ教育を始めています。 (2001がHFC第1回セミナー)その一部は当HFセミナーにも使用させてもらいました(人間特性、集団特性・コミュニケーション、ソフトウエア、ハードウエア・インターフェース、管理・安全文化、HF/HE、疲労・生理などです)。 図2・HF的視点〜電力中央研究所資料より HF的な眼で日常の仕事を見る態度を養い,CRM的な行動指針を身につけることは医療事故防止や身の回りの危険を回避するだけではありません。 組織やチームとしての問題解決能力、パフォーマンスの向上にむすびつきます。 そして、何よりも「いきいきと」「明るく」かつ「安全に」仕事をすることは我々自身のためなのです。(事故報告書の見方だって違ってくると思います)。 もちろん仕事に対する知識や技術の維持・向上と車の両輪であることは忘れてはなりませんが。 | ||||||
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