|
年度があたらしくなり、4月になって事故防止委員会のメンバーが一部変わりました。 ということで、しばらくの間、委員会の20分ほどを使わせてもらい「事故やエラーの見方・考え方」と称してHFのイロハのミニ勉強会をおこなっています。 とはいえ毎春、同じ話を繰り返しても、知っている人には面白くないでしょう。 何か新しい話も混ぜなければ「居眠りタイム」になってしまうと思っていましたところ、 ヒューマンファクターを動的に説明するという「ダウンヒルモデル」という説明モデルを教えていただきましたので付け加えて紹介しました。 「緩斜面のトンバ」と自称する私が説明するのにぴったりのモデルなのです(なぜか院内では誰も信用しないのですが。笑) スキーの滑降をイメージした事故やエラーの起こり方 スキー場のゲレンデを思い浮かべてみてください。ハザードとして大きな穴、小さな穴、深い穴、浅い穴、があります。 また突風や雪玉が転がってきたり、他のスキーヤーが自分の直前を横切る、などのattacking hazardも考えられます。 そのなかに過去の経験から静止ハザードをうまく避けて設定されたコースが考えられます。 これがSOPとかマニュアル、いつもの決まり切ったやり方、といえます。 殆どの場合、このコースを辿っていれば、何も起こらずスキーヤーはゴールへと無事たどり着くことができるはずです。 ところがスキーや靴、ビンデイングがしっくりしなかったことに誘発されたりして自分自身がスキーの操作をミスしたりする事もあります。 またコース外からの雪玉をさけようとしたり、突風とか、他のスキーヤーとぶつかりそうになりそれを避けようとしたりして、 コースを意図せずに逸脱(=エラー)してしまうことがあります。 逸脱はそれだけで転倒(=事故)となるわけではありませんが、その危険性は増加します。 逸脱はまた意識的にする事もあります。「こちらの方が近い」とか「安全に見える」、と思って近道をしてしまうような場合です。 これは違反行為ということが出来るのですが、これだって即、事故になるというわけではありません。 コースに沿ってさえいれば100%安全でそれ以外は100%危険というわけではないからです。 しかし、コースとして設定された部分以外には大小のハザードをあらわす穴が開いている確率が高く、深いものもあれば、浅いものもあります。 コースの逸脱に加えてこの穴にはまってしまい転倒した、などというのが事故であり、穴が偶然浅くて何とか転倒せずに済んだ、 というような事態はインシデントということが出来ます。 穴があったがうまくそこを避けてコースに戻ることができた、などというのはヒヤリハットと言うことが出来るかも知れません。 またゲレンデの傾斜は仕事のワークロードを表わしています。 傾斜がゆるやかなら多少のでこぼこでもなんとか転倒しないで済むことでも、傾斜がきつければ、 小さなでこぼこでも踏ん張りがきかずに転倒してしまう可能性が増してしまいます。コースを逸脱していればなおさらそのリスクは高くなるのです。 このダウンヒルモデルは「エラー」と「事故」、SOPやマニュアルとの関係、業務の逸脱などがわかりやすくイメージすることが出来そうです。 提案者の佐久間氏(日本航空)によると「SHELが静的であり、微視的であるのに対して、このモデルは動的であり、巨視的な見方である」といいます。 問題点を抽出するような場合などは私達にとって(とくに人と人との関わりなど)SHELの方がなじんでいるので良いような気もしますが、 事故やエラーの全体像をイメージするという意味ではわかりやすいかもしれません。また、どんな現場にでも応用できるのではないか、ということです。 (スキーが趣味の委員の感想) ぼくはスキーをするので感覚的にとてもイメージしやすい、と思った。 ゲレンデが「真っ平ら」なことはないから、ゲレンデの上から見てそれなりに自分のとろうとするコースを想定する。 「スタート時点で自分の思い描いたコース」を滑ろうとするのだが、意図しなくとも「想定コース」外に飛び出してしまうこともある。 ひとつの「ハザード」を避けた直後など、例え転倒しなくともバランスに余裕はない。 そこに続いて新しいハザードがあったとしたら転倒してしまう可能性が高くなる。 また、ゲレンデにいるのは自分一人ではない。 たくさんの人が思い思いに滑っているし、その技術もまちまちである。Attacking hazardというのは失礼かも知れないがぶつかってくることだってある。 そんなときはコ−スを飛び出したほうが衝突や転倒(事故)を避ける事ができる場合だってある。 また誰かが転倒した後のおおきな「穴」は他のスキーヤーにとって新しいハザードになるかもしれない。 大きな山の場合天候も変わる。吹雪になったりガスがかかったりすると視程が少なくなる。 想定したコースだって見えなくなれば記憶にすべて残っているわけではない。 ポールや旗、といった目印があればコ−スを見失う事は少なくなるかもしれない。 でなければ霧の中から突然あらわれた「コブ」や「アイスバーン」といった静止ハザードや、 横から飛び出してくる他のスキーヤーといったattacking hazardに耐えることの出来る足腰や、とっさに避ける技術があるか?とか、 それとも思い切って「想定したコース」を変えてしまえなどという判断、HFって以外とスキーに似ているかもしれないですね。 (おじさん委員の感想) 大して教えもせずに、いきなり「まず度胸から」などと言って初心者をコースの頂上につれていって、 「さあ、とにかく滑って見ろ」などと押し出すようなこと、はしていないだろうか? (逆に「まだ駄目だ」というのに勝手に滑り出そうとするような奴もいるのではないか?) 「組織のマネージメントの問題」でもあるだろうし「いい加減なOJT」もこのタイプだ。医療現場ではときどきありそうだ。 人がいないので余裕がないこともわかるのだが、繰り返されているうちにそれがあたり前になってしまう (この連載「猫が猫の手に教えるOJT」だ)。[1] それから、最近「はやり」のカービングスキーもちょっとあぶない。 初心者には曲がりやすいのかもしれないがなれた人には危ない。 「挙動」が変だ。それからこのモデルでは「人と人との関係」があらわしにくいような気がする。 我々の現場では「人と人」あるいは「人」でのエラーや事故が一番多いのだから。 (管理人の結論) HFグループの事故防止勉強会は冬にスキー合宿をかねてするのが効果的なことがわかった。 スキーをするときは「ヒューマンファクター」を思いうかべながら滑る、そうすると、衝突や転倒が無くなるに違いない。 まわり回って病院での事故も減るかもしれない、という「こじつけの連鎖」だ。 事故防止委員会の予算で「温泉一泊スキー旅行」なんてこと認めてくれる病院、無いですよね(笑) いかがでしたでしょうか。 今回は事故防止委員会の時間を少しだけ使わせてもらいミニ勉強会と称して「HF的見方」を少しでもひろげよう・・・という、 「遅れた病院」の現実をまた公開しました。 この連載にご批判、ご意見、ご教示をお願いいたします。 今回は以下の文献を参考にしましたが、いつものとおり私達の理解は限られていますし「思い込み」もあるかもしれません。 是非ご自分で原典にあたることをお勧めします。 佐久間秀武 ヒューマンファクター実践講座 航空技術2003.8. http://www.jaea.or.jp/data/581/581-13.pdf [1] 勿論あなたの勤務する立派な研修指定病院や大学病院はこんなことを心配する必要はありません。 たくさんのすばらしい教育プログラムと有り余る指導スタッフがいるのですから。 この連載が前提としているのは、私達のような研修も経営も「やっとこさっとこ」の施設なのです。 |
  | |
  | [メインページへ] |