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「バイアス」の罠 〜人間の判断にはバイアスがかかっている〜 こんなことは「黙って座ればピタリとあたる名医」のあなたには関係がないことかもしれません。 なんといっても名医のあなたの頭の中にはきちんとしたアルゴリズムが入っていてそれがフルに活動しているのですからね。 でも、「迷医」のあなたや私の場合にはそううまくはいきません。 頭に入っているのは、「とぎれとぎれのアルゴリズム」と「少しばかりの経験」と「その時々の思いつき」だけなのですから。 では迷医の私達はなぜ正しい判断のプロセスをたどることが出来ないのでしょうか? 「省エネ判断」 一言で言うと「時間が少ない」ことと「情報(知識)がない」ということにつきるようです。 「時間がない」「情報がない」といっても一般的な話とは少し違います。私達は何を決めるにしてもものすごい「情報の海」のなかにいます。 その海の中で次々と判断していくことが強いられています。 ところが、(入力源としての)私達の感覚器官は多少マルチチャンネルですが、その情報を処理するチャンネルはひとつといわれています。 そのため-、全ての情報をきちんとアルゴリズムに乗っ取って処理するという、「理想的」なプロセスをとることはできません。 どこかで「省略」したり「あんちょこ」を利用したりといった「省エネ型の判断」をしなければ時間がいくらあっても足りないことになります。 たくさんの情報[1]から「重要だ、と思ったこと」だけを(効率的に)ピックアップし、 それまでの経験と照らし合わせたり、「論理的にこうなるはずだ(結論が先にある?)」と考えたり(トップダウン処理?) することによって「とりあえずの決定」をし、毎日をなんとかしのいでいるのです。 そして、殆どの場合それで問題がおきることはないのです。 つまり私達の毎日の判断は、「論理であること」「正確であること」よりも「効率的であること」「柔軟であること」「適応性があること」 が優先されているといえます。 この省エネ型判断は「結果」さえ良ければ迷医の私達にとっても便利な思考法です。 しかし、この「思考法」には「迷医」の私達がついひっかかってしまう「罠」があります。 その「罠」の存在と特徴を知ることで、少しでも私達のエラーを少なくすることができないだろうか?というのが今回のテーマです。 「迷医」のあなたや私がしばしばおちいってしまう「罠」に「バイアス」というものがあります。 バイアスというのは「偏向」とか「先入観」とかいうことですが私たちの判断に知らず知らずに影響している「バイアス」とは・・・・・ 「思いつき(思いだし)やすいこと」にとらわれる 経験のバイアス(願望的思考)とか利用可能性による判断バイアスといわれるもので
このバイアスは以外とベテランに多いといわれています。 たくさんの経験があっても「こうあって欲しい」という願望が思考を支配してしまうようです。 その結果各方面からの情報を集め分析するというよりも、「思いついたこと」にとらわれ、より簡単な対応をしてしまい、 他の方法・原因を考えない、ということになります。「生き生きとした情報」「新しい情報」「極端な情報」には特に要注意です。 データよりも「印象だ!」ぱっと見た感じ 代表性バイアスといわれるものです。
「メーカー希望小売価格より○○%安い?」 船が碇(アンカー)をおろすように、提供された情報、最初に手に入った情報、自分で今もっている情報を基準点として定めてしまい、 その範囲だけで判断するようなこと。アンカリングといい、日常生活でも「ヨドバシでは○○○円だった。それに比べて・・・?」などとなる。 ヨドバシ価格やメーカー希望小売価格は本当は基準となる論理性はないにもかかわらずその範囲(修正限界)でしかものを考えられないことになる。 「診断」でも同じかも知れない。(本当は仮の)診断にもかかわらずあとから出てきた(違う結果を示唆する)データも「その範囲」で考えてしまう。 経験があるほど「こういう場合もあった」などと例外のようなケースを思い出し「その範囲」から抜け出せないこともある。 これに確証バイアスも加わったりすると最悪だ。 合うものだけを受け入れる 確証バイアスといわれるもので自分の「あり合わせの知識」で解釈できる手がかりだけを「採用」、解釈できない情報は軽視してしまうタイプ。
俺の予想は当たるんだ 後知恵バイアスといわれるもの。
いやいや、これは何かの間違いにちがいない!まてまて! 正常性バイアスといい「いやいや、これは何かの間違いだ!こんな(異常な)ことがあるわけがない。まてまて」と判断が遅れるようなこと。
ゆっくりやればちゃんとできることでも・・・・・ 他にもたくさんのバイアスがあるようですが、バイアスがかかりやすくなるのは「正しい情報処理能力」「十分な時間」「知識」に欠ける状況だといいます。 しかし、「省エネ型判断」を強いられている現実の中ではこの全ての条件がそろっていることなど殆どありません。 つまり私達はバイアスの可能性を完全になくすることは出来ないのです。 できるのはそれを少しでも減らすこと、とその影響を少なくすること、 つまり決定(判断)が実行に移される過程で「他の基準(他の人の眼でもいい)でのチェックがはいる」「危険な場合には機械的に作動しなくなる」 ようなしくみを工夫する必要があります。 結局、バイアスによる判断のエラーを少なくするためには、ありきたりかも知れませんが・・・・
日常なにげなく使用している「省エネ判断」(ヒューリステイックというそうです)は殆どの場合、「迷医」の私達でも、大きな間違いもなく、 便利に使うことが出来ます。ところが上の3つの条件がいくつか不足したときに、いつもはうまくいくことでも、 正しい判断とならずに「思いこみ」へと陥ってしまう可能性をふくんでいるのです。 「名医の山勘は知識と経験のエッセンス」といえますが「迷医の山勘はバイアスのかたまり」かもしれません。 もっとも「名医」として賞賛されるか「迷医」として非難されるかは案外、結果次第なのかも知れませんが・・・・。 いかがでしょうか? この連載にご意見、ご批判、ご教示をお願いいたします。 また、「こんな事なら俺が(私が)書いたほうが・・・」と思われたかた、リレー連載をお願いします。 今回は以下の文献を参考にしましたが、いつもそうですが内容をじゅうぶんに理解できているわけではありません。 きっと確証バイアスとか願望バイアスとかに影響されていると思います。ぜひご自分で原著に当たられることをお勧めします。 印南一路 「すぐれた意思決定」判断と選択の心理学 中公文庫 [1]人間のコミュニケーションでは効率性が優先されるため、伝達される情報それ自体が必要最低限の事が多いと言えます。 それを補っているのが、文脈であったり、状況であったり、他の(関連の)知識であったりというわけです。 日本では「あ、うん」の呼吸や「遠慮と察し」といった極端なことまで期待されることがあります。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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