番外.その11 「事故を起こすためにはどうすればよいか?」</font>
  逆転の発想、サボタージュアナリシスは「HFの眼」に通じる?

「1を聞いて10を知る」という諺があります。私の場合は「1を聞いて、10しゃべる」ようなもので、こんなに「聞きかじり」ばかりで良いのか?と思いますが事故防止のために「こんな発想」も役に立つかもしれません。

「事故をおこすには・・・」「裏をかくには・・」という発想法
  従来のリスク分析だとか事故防止策は、過去に起きた事故の原因をヒューマンエラーの構造に当てはめ、リスクや対策を考えていく、というものでした(この連載の考えは少し違いますが)。そういうやり方だと、事故の原因が特定できれば対策を検討できますが、原因が不明の場合は対策の検討が難しくなります。実際「まさかこんな事故が起きるとは思っても見なかった(過去に発生していない未知の事故)」「マニュアルに対策はしていたが守られなかった」ということがしばしば聞きます。そこで、発想を変えて、意図的にヒューマンエラーによる事故を創造することに力点をおき、そのあとにそれをベースに対策を考えよう、という発想があります。「サボタージュアナリシス」というトレーニング・分析方法がそれです。
もともとリスク探索のためのトレーニングの一つらしいのですが、リスクを抽出していく場合の考え方が
「どのようにして起こったかについては、情報の少ない領域であるが、どうやってある事象を起こさせるかについては、人間の長い経験の歴史のなかに豊富に情報が存在するに違いない」
というのが発想の原点です。つまり起きてしまった事故に関してはそこから因果関係を明らかにしながら、本当のHF上の原因にたどり着く事は必ずしも容易ではありません。逆にある状況からその事故・事象を引き起こすためにはどうしたらよいか?と事故の発生を最終目的として考えるというのです。そして「事故(事象)発生のシナリオ」を作成します。そのうえで、考えられたシナリオに描かれたリスクの回避策を検討します。その場合、事故の大きさや、発生の可能性からリスク対策の優先度を考えていくというものです。そして最後にエンフォースメントシートを作成し「実行させる」というものです。(エンフォースメントはあの4M4EのEですね)

この連載の最初の頃に「知識のレベル」で例に挙げました(あることを理解したかどうかを確かめるのに)「その裏をかくやりかたを3つ挙げてみろ」にも通じるような気がします。たとえは悪いのですが、「泥棒に家の危ない点を指摘してもらう」、「泥棒になったつもりで自分の家の弱点をさがす」ようなものでしょうか。

たしかに「表どうりばかり歩いている」ような「ものごとを悪く考えない」「素直(すなお)」な人間ばかりがヒューマンエラー(ファクター)分析に集まっても「情報が少ない」「原因が明らかでない」場合には、作業がはかどらないかも知れません。
もちろん「シナリオをつくる」といっても、情報が少ないからといって「きっとこうだろう」と(警察の調書のように)誰かを「犯人に仕立て上げる」ような「シナリオ」を書き上げることを目的にしているわけではありません。
その過程で、あるプロセス(業務)におけるリスク、危険因子(「or」の関係)やエラーの重なり(事象の連鎖、「and」の関係)による事故やトラブルの発生の可能性を洗い出していくことを目的としている訳です。この中には「倫理的」な問題も含まれるそうです。



沢口 学「逆転発想型機能アプローチによる創造的リスク対策」(TRIZレターNo.19 産能大学TRIZセンター)より

KY訓練や「SOP/manualの見直し」に有効かもしれない
この発想法は「何か起きてから」のリスク分析や原因分析に適応するのもいいのですが、最初から「予防策」としても応用することができそうです。たとえばあるマニュアル・作業手順を決定・作成するときに、「このプロセスで事故を引き起こすためにはどうすればよいか」「このマニュアルの裏をかくにはどうすればよいか」と考えてみることでそのプロセスの(HF的、組織的)弱点が浮き彫りになる可能性があるのです。またこれをすることによって「潜在リスクに対するセンシテイブ・センス(危険感受性?)の醸成が期待される」といいます。

「どうやって事故をおこすか」とか「泥棒の目で見る」などと穏やかでない発想に見えますが、以外とこの連載の主張でもある「日常(の業務)をヒューマンファクターの眼で見る(ヒューマンファクターカルチャー)ことが予防安全につながる」と共通しているような気がします。

(サボタージュアナリシスというのは旧ソ連の対破壊工作マネージメントからの発想のようですが文献は少なく、私も「聞きかじり」です。「もとスパイ」の大統領が詳しいかもしれませんね。あっ!また口が滑ってしまった。)


注:この文章は03.10. 頃に院内LANに載せたものですがその後webで詳しく掲載されています。リスクマネージメント論文コンクールの記事です。
こちらです。http://www.dream-inc.info/kanrenkoza.html

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