今年の第1位は直木賞と山本周五郎賞をダブル受賞した永井紗耶子さんの「木挽町のあだ討ち」です。芝居小屋の裏通りで起こった敵討ちについて、若侍が関わりのあった人々を訪ねます。仇討のことだけでなく、その人々の“来し方"を話してほしいという依頼が、次第にあだ討ちの裏に隠された真実を浮かび上がらせるところが見事です。
第2位は京極夏彦さんの17ぶりの百鬼夜行シリーズの新作「鵼の碑」です。京極堂を始め榎木津、関口など個性的なキャラクターが勢ぞろい。日光を舞台に一人の男の行方不明事件から彼らがそれぞれ関わった関係のなさそうな事件が大平洋戦争中の軍の秘密に収敏していくところが見事です。京極堂の「不思議なものなど何もないのだよ」というセリフをまた聞くことができたのは嬉しい。
第3位は東野圭吾さんの「あなたが誰かを殺した」です。別荘地で6人が殺傷される事件が起きる。犯人は自首したが犯行の詳細について何も話そうとしない中、関係者が集まって検証会が開かれる。体暇中の加賀恭一郎は金森登紀子の依頼でその検証会に参加し、事件の謎を明らかにしていきます。
第4位は伊坂幸太郎さんの「777」です。殺し屋シリーズの新作。「マリアビートル」では新幹線から降りようとして降りられず騒動に巻き込まれる殺し屋の天道虫こと七尾が今度は高層ホテルを舞台にドタバタ騒ぎに巻き込まれます。やっばり、伊坂さん、うまいなあ。新たな殺し屋も登場し、楽しませてくれます。
第5位は吉田修一さんの「永遠と横道世之介」です。シリーズ最終作、世之介が38歳の頃が描かれます。特別に何か事件が起きるわけでもなく、ただ単に世之介の日常が描かれていくだけなのに、なぜか惹かれる作品です。
第6位は塩川武士さんの「存在のすべてを」です。主人公の新聞記者・門田がかつて同じ誘拐事件を追った刑事の葬儀を契機に未解決となった誘拐事件を調べなおします。誘拐されて3年後に戻ってきた少年はどこにいたのか。重厚な人間ドラマです。
第7位は白井智之さんの「エレファントヘッド」です。タイムループという特殊設定の中での殺人事件ですが、設定は特殊でも論理的に謎解きがなされており、文章だけでなく図で説明があって、意外にわかりやすいです。ただ、エログロ満載のミステリで、これは読者を選びます。
第8位は市川憂人さんの「ヴァンプドックは叫ばない」です。パラレルワールドでのマリアと漣の刑事コンビの活躍を描くシリーズ第5弾。今回は吸血鬼が登場と思ったらゾンビまで出てくるという作品です。今後、シリーズの行方を左右しそうなマリアの敵が登場するシリーズの転機となる作品です。
第9位は今村昌弘さんの「でぃすべる」です。オカルト好きの小学6年生のユースケが同じ掲示係になった2人の少女とともに、亡くなった少女の従姉が残した“七不思議"を解明していきます。
ミステリかオカルトか。ラストは予想外のどんでん返しに唖然。
第10位は米澤穂信さんの「可燃物」です。今年の年末のミステリ・ベスト10で1位又は2位を獲得している群馬県警捜査一課の葛警部を主人公とする連作短編集です。個人的には葛警部に共感できなかったし、以前1位を獲得している「満願」ほどではなかったなあと思うのですが。とはいえ、米澤さん、やっばりうまいですよねえ。
次点は万城目学さんの「八月の御所グラウンド」です。「ホルモー六景」以来の京都を舞台にした2編が収録されています。表題作は8月に行われる草野球を舞台にした8月らしいファンタジーです。
海外作品で今年刊行されたもので読んだのは2冊のみ。ユッシ・エーズラ・オールソンの「特捜部Q カールの罪状」と、三部作の最後となるホリー・ジャクソンの「卒業生には向かない真実」です。どちらもベスト10級の作品です。「カールの罪状」はいよいよ佳境に入った特捜部Qシリーズ第9弾です。カールたちが取り組むのは30年前の工場爆破事件ですが、ラストに思わぬ展開が待っています。
「卒業生には向かない真実」は前作でのスタンリー・フォーブスの射殺がトラウマとなり、更にマックス・ヘイスティングスが裁判で無罪となったことで心に痛手を負ったピップをストーカーが狙います。後半は衝撃の展開になります。
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