今年読んだ本は127冊。昨年が122冊ですからほぼ同じです。だいたい月10冊ですね。
今年の国内編第1位は、長岡京さんの「プリンシパル」です。今年一番印象に残る主人公だったのが「プリンシパル」の綾女です。暴力団組長の家に生まれながら教師になる希望を持って家を出たのに、第二次世界大戦後の激動の時代のさなか、家族以上の存在だった乳母一家を殺害されて、自らが極道の家の跡継ぎになり、邪魔をするものを倒しながら社会の中でのし上がっていきます。望んで得た立場ではないのに、ラストで描かれる彼女が生きてきた結末はあまりに悲しい。
第2位は第166回直木賞を受賞した初めて読む今村省吾さんの「塞王の盾」です。戦国時代に城を護るための石垣づくりに秀でる一族とどんな守りも打ち破る鉄砲づくりに秀でる一族の戦いを描く作品です。同じ目的を持ちながら手段の違う両者の決着がどうなるのかページを繰る手が止まりません。
第3位は今年最後に読んだ夕木春央さんの「方舟」です。出入口を塞がれた地下建造物というクローズドサークルで助かるためには誰か一人が犠牲にならなければならないという状況の中で殺人事件が起きます。いったい、なぜという動機にラスト愕然とさせられる一作です。
第4位は「このミス 2023年版」で国内編第1位を獲得した呉勝浩さんの「爆弾」です。都内に爆弾を仕掛けたと警察をあざ笑う「スズキタゴサク」を自称する得体のしれない男が、ラストでは仮面がはがされてつまらない男であることがわかるのがすっきりします。
第5位は米澤穂信さんの「本と鍵の季節」の続編である「栞と嘘の季節」です。発行月の関係で「このミス」等の今年のベスト10には選ばれませんでしたが、来年度のベスト10には入ると期待される作品です。前作は連作短篇で、そのラストでは続編が難しいのではと思われた堀川次郎と松倉詩門の関係が復活したのが嬉しいです。青春ミステリ―大好きです。
第6位は今村作品でもう一作、「幸村を討て」です。「幸村を討て」と発した5人の武将がこの言葉の裏で何を思っていたのか、真田幸村はいったいなぜ家康に歯向かったのかを描く作品です。個人的には「塞王の盾」にも劣らぬ面白さでした。
第7位は小川哲さんの「君のクイズ」です。クイズ番組の決勝戦で、何ら質問が読まれる前に回答者が正答できたのはなぜかを追うストーリーです。殺人も何も起こらないミステリですが、その謎が解かれていく過程が論理的で面白いです。
第8位は奥田英朗さんの「リバー」です。10年前に迷宮入りした事件と同様の殺人事件が連続します。事件の捜査に携わる刑事たちだけでなく、10年前の事件の被害者の父親、10年前に犯人を逮捕できなかったことに忸怩たる思いを持つ元刑事、全国紙の地元支局に配属された新人女性記者などの視点からも事件が描かれていく群像劇となっています。それぞれの思いが丁寧に描かれており、650ページを超える大部ですが、読ませます。
第9位は町田そのこさんの「宙ごはん」です。とても素敵な心がほっこりする作品からの選出です。故あって二人の母に育てられた川瀬宙が、シェフの佐伯から料理を習いながらやがてレストランを開くまでを描きます。とにかく、宙の気持ちが優しいし、シェフの恭弘が宙を見守る姿がいいです。でも、恭弘があんなことになるとはねえ。
第10位は相沢沙呼さんの「invertⅡ 覗き窓の死角」です。シリーズ第2弾で2編が収録されていますが、後半の「覗き窓の死角」が読ませます。やはり、城塚翡翠に翻弄される男たちより、綺麗だけどあざとい態度を見せる翡翠に反発する女性との知恵比べの方が面白いです。
次点は万城目学さんの「あの子とQ」です。これまで、人間の言葉を話す鹿や鬼、神様などが登場する破天荒な物語が多い万城目さんですが、今回は“吸血鬼”の登場です。前半の青春小説の趣から後半は一気にワクワクドキドキの展開です。
海外編はそもそも読んだのが5冊と国内編に比べて圧倒的に少ないですが、その中で圧倒的な第1位はスチュアート・タートンの「木曜殺人クラブ 二度死んだ男」です。これも発行月の関係があって、今年の「このミス」等のベスト10には間に合いませんでしたが、来年のベスト10には間違いなく選ばれる作品だと思います。シリーズ第2弾、前作ではぼやかされていたエリザベスの若い頃の職業が明らかになります。元スパイではその頭脳や行動力に秀でたものがあるのは当たり前ですね。ただ、彼らクラブのメンバーが万能ではなく、高齢者としての弱さを見せるのも読みどころです。
第2位は前作のイヴリン嬢は七回殺される」で「このミス 2020年版」で第4位を獲得したスチュアート・タートンの二作目となる「名探偵と海の悪魔」です。前作のタイムトラベルSF+ミステリとはまったく異なる海洋冒険小説+怪奇小説+ミステリの要素が詰め込まれた贅沢なエンターテイメント作品に仕上がっています。名探偵は船の牢屋に閉じ込められている中での驚きの結末です。
図書館で借りた本を読むのに追われて、自分で購入した本が積んだままです。宮部みゆきさんの「子宝船」と「よって件のごとし」、池井戸潤さんの「ハヤブサ消防団」と「民王 シベリアの陰謀」、小路幸也さんの「ハロー・グッドバイ」、辻村深月さんの「嘘つきジェンガ」、大沢在昌さんの新宿鮫シリーズ最新作「黒石」と、購入してあるとどうも後回しになってしまいますね。
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