▲2021映画鑑賞の部屋

新感染半島(2021.1.14) 
監督  ヨン・サンホ 
出演  カン・ドンウォン  イ・ジョンヒョン  イ・レ  クォン・ヘヒョ  キム・ミンジェ  ク・ギョンファン  キム・ドユン  イ・イェウォン 
 2017年公開の「新感染」の続編です。監督はヨン・サンホで同じですが、前作で生き残った人が出演している訳ではなく、感染から4年後の韓国を舞台にした作品です。
 韓国陸軍の兵士、ジョンソクは避難民を乗せた船で日本に向かっていたが、受け入れを拒まれ香港に向かう。しかし、途中、船内で感染者が発生し、ジョンソクは乗っていた姉と甥を感染で失ってしまう。それから4年、香港で暮らしていたジョンソクに、裏組織から韓国内にある大金の積まれたトラックを回収する話が持ち込まれる。最初は拒んでいたジョンソクも話に乗る義兄を心配し、依頼を受け韓国に向かう。仕事のチームはジョンソクと義兄のほか2人。彼らはトラックに辿り着くが、ゾンビの集団に襲われ、更に民兵組織631部隊の攻撃を受ける。そんな彼らを助けたのはジュニとユジンの幼い姉妹だった・・・。
 前作はゾンビ映画であっても人間ドラマという印象が強くて、思わず涙ぐんでしまうシーンもあったのですが、今回はアクション映画の要素が強い作品になっています。なかでもカーアクションシーンが凄いです。ゾンビの集団をひき殺すわ、衝突して跳ね飛ばすわで、ただただ凄いという一言です。ただ、運転するのがまだ小学生くらいの女の子ですから、CGでしょうけど。
 ラストは泣かせるシーンとしたかったのか、ゾンビの集団から逃げてきた母親と子どもたちが立ち止まって抱き合ったりしていますが、「そんな余裕はないでしょ!あれでは走るゾンビに追い付かれて襲われてしまうよ!」と思わず言いたくなります。
 はっきり言って、期待外れ。続編は評判になった前作を超えるのは難しいと言われますが、それにしてもあまりに違いすぎます。
 そもそも韓国だけがゾンビの世界になっているのがおかしいです。世界中がゾンビだらけになったというのならともかく、感染爆発から4年も経って、他の国がそのまま韓国をゾンビの世界のままにしておくはずがありません。 
さんかく窓の外側は夜(2021・1・22) 
監督  森ガキ侑大 
出演  岡田将生  志尊淳  平手友梨奈  滝藤賢一  筒井道隆  和久井映見  マキタスポーツ  桜井ユキ  新納慎也 
 霊が視える男と霊を祓える男がコンビを組んで連続殺人事件の謎に迫っていくストーリーです。
 三角康介は幼い頃から霊が視える能力を持つことに悩み、恐れていた。ある日、本屋でアルバイトをしていた三角のもとに男がやってきて、三角に助手として働かないかと誘う。男の名前は冷川理人。彼は霊を祓う能力を持っており、二人はコンビを組んで除霊を行っていったが、ある日、刑事の半澤から連続殺人事件の犯人が殺害死体の一部を隠したまま自殺してしまったので、その隠し場所を探すよう依頼がされる。冷川らは死体のある場所を探し当てるが、その場所にいた犯人の霊は冷川らに除霊される前に「ヒウラエリカに騙された」という言葉を残す。果たしてヒウラエリカとは何者なのか・・・。
 元々はヤマシタトモコさんの漫画が原作です。書店でちょっとカバー絵を覗くとイケメンが描かれていましたが、実際にも主人公の冷川と三角を演じるのは岡田将生さんと志尊淳さんというイケメン俳優コンビです。除霊をする際に冷川が三角の胸に手を当てるシーンは、ちょっとBLの感じも。
 除霊をするコンビが主人公ということで、霊との戦いを描くのかと期待して観に行ったのですが、霊ではなくて、呪いとの戦いでしたね。ちょっと期待はずれ。それに加えて新興宗教ですからねえ。途中、うっかり寝落ちしてしまいました。
 冷川たちに対峙する呪いの使い手が元欅坂46の平手友梨奈さん演じる非浦英莉可。彼女の大きな目は呪いの使い手としてピッタリです。目力強いですねえ。人気者の平手さんが演じた非浦ですが、いくら幼い頃に母親を通り魔に殺害されたというトラウマが人を呪う原因になったとしても、あれだけ人を呪い殺していた人物が簡単に許されるわけがないですよね。
 北川景子さんがほんのちょい役で出演しています。登場してほんの1、2分で退場です。あのバッチは弁護士かな。
 ラストの終わり方はどういう意味があったのでしょうか。平手ファンは観に行くとしても、興行的に続編ができるほど成功となるとは思えませんが・・・。 
ヤクザと家族(2021.1.29)
監督  藤井道人 
出演  綾野剛  舘ひろし  尾野真千子  北村有起哉  市原隼人  磯村勇斗  寺島しのぶ  岩松了  豊原功補  菅田俊  康すおん  二ノ宮隆太郎  駿河太郎  
 「新聞記者」で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した藤井道人監督が再びメガフォンを取った作品です。
 舞台は1999年。父親を覚醒剤で亡くした山本賢治は焼き肉店で暴漢に襲われた柴咲組組長・柴咲博の窮地を救う。そのことが縁で、覚醒剤の売人から金と薬を奪ったことにより、売人のバックにいる加藤組に捕まり半死半生の目にあった賢治を柴咲は助け、二人は親子の杯を交わす。その後、やくざの世界で頭角を現した賢治だったが、柴咲組のシマを狙う加藤組と抗争になり、一緒に柴咲組に入った友人の大原が柴咲を狙ったヒットマンによって殺害されてしまう。敵討ちをしようと加藤組のナンバー2の川山を狙った賢治だったが・・・・。
 映画の後半では刑務所に入っていた賢治が2019年に14年ぶりに出所して社会に帰ってきてからのことが描かれます。現在は暴対法の強化によりやくざのしのぎ、いわゆる資金源がなくなり、やくざは“反社”として契約の名義人にはなれず、預金口座も作れないなどと、生活をしていく上でかなりの制約を受ける状況となっています。そのため、やくざから足を洗う人も多くなり、暴力団の構成員は年々減少しているようですが、問題はこの映画で描かれるように、やくざを辞めても生きていく方策が限られてしまうことです。結局、追い詰められて再び悪に手を染めてしまうという悪循環となるのが現実のようです。14年ぶりに出所した賢治にとってみれば、浦島太郎の気分だったでしょうね。かつては肩で風を切って歩いていたやくざが海岸で漁協の監視の目をかいくぐりながら白魚を密漁して僅かな収入を得るなんて、あまりにみじめです。柴咲を演じた舘ひろしさんの年老いた姿は今のやくざの末路の象徴ですね。
 ラストは何とも言えない後味の悪さです。若い二人の姿がそれを少しだけ救ってくれたと言えます。
 山本賢治を演じたのは綾野剛さん。賢治の恋人・工藤由香役を演じたのは尾野真千子さんですが、失礼ながらちょっと実年齢からして女子大生役は厳しいのでは(尾野さん、すみません。)。 
すばらしき世界(2021.2.17) 
監督  西川美和 
出演  役所広司  仲野太賀  長澤まさみ  橋爪功  梶芽衣子  六角精児  北村有起哉  白竜  キムラ緑子  安田成美 
 「ディア・ドクター」、「永い言い訳」などの西川美和監督作品です。
 13年前に殺人を犯し、懲役10年の判決を受けて旭川刑務所に入っていた三上正夫は、刑期を終え、身元引受人となった弁護士・庄司のいる東京にやってくる。もう二度と刑務所には入りたくない、堅気になると誓う三上だったが、刑務所帰りの三上に仕事は見つからない。一方、三上から幼い頃に生き別れた母親を探して欲しいと依頼のあったテレビ局のやり手の女性プロデューサー・吉澤は小説家を志すために制作会社を辞めたばかりの津乃田に声をかけ、三上を題材に視聴者の興味を呼ぶドキュメンタリー番組を製作しようと考える。生活が苦しい津乃田は吉澤の依頼を受け、三上の元を訪れ、取材を始める。ケースワーカーの井口やスーパーの店主・松本らの協力を得て、仕事を得るための運転免許証の取得を目指すが、生来の短気から、取得は困難を極める。吉澤と津乃田が三上に焼き肉をご馳走した帰り道、サラリーマンに因縁をつけている半グレを見つけた三上は思わぬ行動に出、それを見た津乃田は自分たちの取材が間違っているのではないかとその場を逃げ出す・・・。
 三上が10年の刑期で13年も刑務所に入っていたのは、刑務所内でも問題を起こしたためと思われます。結局自分の感情を抑えることができなかったのですよね。そんな三上ですから、今度は堅気になるとは言ってもなかなか難しい。世間の目もいわゆる“ムショ帰り”には厳しい。三上がスーパーで万引犯と誤解されたのも“ムショ帰り”ゆえ。更生を目指しても今の日本の社会がそれを支援するようになっていないので大変ですよね。“ムショ帰り”は結局再び犯罪に手を染めてしまうことになります。特に高齢者の再犯率が多いのは、その中でも高齢者ほど職につけないからでしょう。
 とはいえ、映画の中では三上は身元引受人の弁護士・庄司やケースワーカーの井口、スーパーの店主・松本らの協力を得て、ようやく職に就けることとなります。これでハッピーエンドかと思いきや、どんでん返しのどんでん返しで、ラストはあまりに悲しいです。
 三上を演じたのは役所広司さん。スマートな中年からこの作品のような元ヤクザまで、何を演じさせても上手ですよねえ。津乃田を演じたのは最近大活躍の仲野太賀さん。彼も昨年の「今日から俺は‼」でのユーモアあふれたキャラから今回の誠実な青年まで、若手ながら見事に演じますよねえ。ちょい役でしたが印象深かったのはプロデューサー吉澤を演じた長澤まさみさん。三上の暴力に撮影を尻込みする津乃田を叱咤するやり手の女性を演じています。 
ミナリ(2021.3.19) 
監督  リー・アイザック・チョン 
出演  スティーヴン・ユァン  ハン・イェリ  アラン・キム  ネイル・ケイト・チョー  ユン・ヨジョン 
 先頃発表された第93回アカデミー賞で、ノミネートされていた作品賞は受賞を逃しましたが、祖母役を演じた韓国女優のユン・ヨジョンさんが助演女優賞を獲得しました。
 韓国移民のジェイコブは農業で成功することを夢見て、妻のモニカと二人の子どもを連れて、アーカンソー州へとやってくる。孵卵場でヒヨコの鑑別の仕事をしながら、農地を買い、地元民のポールを雇って、韓国野菜の栽培を始める。子どもの世話をしてもらうために、韓国からモニカの母・スンジャを呼び寄せるが、孫たちが期待したテレビドラマで描かれる料理が上手で優しい祖母のイメージとは異なり、毒舌で口汚く、料理はできず得意なのは花札という女性。スンジャを迎え、ジェイコブたち5人家族の生活が始まったが、やがて彼らの生活に悲惨な出来事が次々と起こる・・・。
 主要なアメリカ人俳優はポールを演じたウィル・パットンくらいのうえ、言語も韓国語がかなり使用されているので、アメリカ映画とは思えません。アメリカを舞台にした家族を描いた韓国映画ともいえますね。
 この作品、こうしてアカデミー賞でも注目を浴びたのは、やっぱりユン・ヨジョンさんの演技が大ですね(もちろん、その演技を要求した監督のリー・アイザック・チョンの力でもあるのですが)。テレビのプロレスに夢中になり、花札を子どもに教え、教会の寄付をくすねるという強烈な個性が観客をひきつけます。そんな毒舌おばあさんが、心臓に病を抱え、死を恐れる孫に「絶対に死なせない」と励ますのも泣かせますよねえ。
 題名の「ミナリ」は、韓国語で「セリ」のこと。スンジャが韓国から持ってきた種からセリが見事に育っていたのがジェイコブ一家の未来を表すのであればいいですが。  
奥様は、取り扱い注意(2021.3.20) 
監督  佐藤東弥 
出演  綾瀬はるか  西島秀俊  鈴木浩介  檀れい  鶴見辰吾  岡田健史  前田敦子  小日向文世  佐野史郎  六平直政  みのすけ  浅利陽介  やしろ優   
 2017年に日本テレビで放映されたテレビドラマの映画化です。昨年5月に公開予定でしたが、新型コロナの感染拡大のために公開延期されて、1年近くたってようやくの公開です。
 テレビドラマの最終回では、綾瀬はるかさん演じる元特殊工作員の菜美が事件を解決して自宅に帰ってくると、そこには菜美に銃口を向ける西島秀俊さん演じる公安刑事の夫・勇揮の姿が。そして一発の銃声・・・。というところで終わってしまって、ドラマファンとしては、あのあとどうなったんだとやきもきしていましたが、ようやく、その後がわかるとあって、公開すぐに観に行ってきました。
 元特殊工作員の過去を持つ伊佐山菜美と公安の刑事である夫の勇揮は、桜井久美と裕司に名前を変え、久美は専業主婦として、裕司は高校教師として、小さな地方都市。珠海市で暮らしていた。新エネルギー源「メタンハイドレード」の発掘に沸く珠海市では美しい海を守ろうとする開発反対派と市長を始めとする推進派との間で争いが起きていた。その裏にはロシアと結託した陰謀が潜んでいることを知った公安は、裕司にその陰謀を調べるよう指示をするとともに、実はあることから記憶を失った菜美の監視を命じていた。やがて、二人は「メタンハイドレード」を巡る事件に巻き込まれていく・・・。
 テレビドラマの面白さは、見た目おっとりとした雰囲気の綾瀬はるかさんが、見事なアクションシーンを見せてくれるところにあるのですが、それはこの映画でも同じです。相変わらずカッコいいですねえ。それに黒い革のスーツに身を包んだ綾瀬さんのスタイルに見とれてしまいます。綾瀬ファンとしては大満足の映画です。
 テレビドラマでは広末涼子さんや本田翼さん演じる近所の主婦の抱える問題や彼女らを巡る事件を菜美が解決するところに面白さがあったのですが、今回はちょっとスケールの大きな問題でした。主婦の生活の中に実は・・・というストーリー展開も好きだったのですけど。
 映画のラストに日本テレビの「笑ってコラえて!」のディレクターの禿げ頭の後ろ姿がわずかですが映っていましたね。  
騙し絵の牙(2021.3.26) 
監督  吉田大八 
出演  大泉洋  松岡茉優  宮沢氷魚  池田イライザ  斎藤工  中村倫也  山本學  佐野史郎  リリー・フランキー  塚本晋也  國村隼  木村佳乃  小林聡美  佐藤浩市  坪倉由幸  石橋けい  和田聰宏  森優作  中野英樹  赤間麻里子  後藤剛範  
 塩田武士さんが大泉洋さんをイメージして主人公をあてがきした小説を、大泉洋さん自身の主演で映画化した作品です。
 大手出版社「薫風社」では創業一族の社長が急逝し、次期社長の座を巡って社長の息子一派と専務の東松一派の間で権力争いが勃発。その結果、社長の息子はニューヨーク支社に異動となり、東松が新社長に就任する。東松の方針で売れない雑誌は廃刊となる中で、速水が編集長を務めるカルチャー誌「トリニティ」も窮地に立たされるが・・・。
  原作小説は映画を観る前に読んでいましたが、はっきり言って、映画は小説とは別物と考えた方がいいです。映画の主人公は大御所の作家・二階堂の機嫌を損ね「小説薫風」から「トリニティ」に異動となった松岡茉優さん演じる高野恵ですが、原作では速水の愛人でもあり、野心を持った嫌な女性に描かれますが、映画では真っすぐな性格な女性となっています。また、社内の権力争いに関して、小説の中ではある役割を持って登場する人物がいますが、映画の中には登場しません。
 そんな高野恵の人間性の違いや、社内の人間関係の違いもあってか、ラストが映画と小説とでは全然違います。大泉さんを速水にあてがきしたのであるなら、やはりラストの展開は小説の方がいいです。  
ノマドランド(2021.4.4) 
監督  クロエ・ジャオ 
出演  フランシス・マクドーマンド  デビッド・ストラザーン  リンダ・メイ  スワンキー  ボブ・ウェルズ 
 第93回アカデミー賞で作品賞をはじめ、監督のクロエ・ジャオ監督が監督賞を、主演のフランシス・マクドーマンドが3回目の主演女優賞という主要3部門を獲得した作品です。
 ファーンは60代の女性。ネバダ州の企業城下町で夫と二人で暮らしていたが、夫が病死し、会社は倒産して、ファーンは住み慣れた家と職を失ってしまう。ファーンはキャンピングカーにすべての荷物を積み込み、車上生活をしながら過酷な季節労働の現場を渡り歩くことになる・・・。
 題名の“ノマド”とは“遊牧民”のこと。映画はファーンが季節労働の現場を渡り歩く先で出会うファーンと同じノマドとの交流、そして家を持ち夫と生活をする妹との関係を描いていきます。ただそれだけの映画ですが不思議と飽きないで眠ることなく最後まで観ることができました。
 この“ノマド”というのは、アメリカ社会の中ではもう当たり前の人々なんでしょうね。フランシス・マクドーマンドが演じたファーン以外に作品中に登場するノマドの人々は車上生活者本人が自分の名前で登場しているようです。それを考えると、この映画はドキュメンタリーの一面もあるといえます。
 劇中、ファーンが「私はホームレスではない。ハウスレスなんだ」と言う場面があります。「ハウスレス」は経済的困窮を意味していますが、「ホームレス」は家族、友人の絆が切れた人々のことを意味しているそうです。ファーンは決してノマドであることを卑下しているわけでなく、誇りを失っていないんですね。
 余談ですが、ファーンが年末に働く場所が「Amazon」です。忙しい年末の「Amazon」を支えているのがノマドたちなんですね。  
ザ・スイッチ(2021.4.9) 
監督  クリストファー・ランドン 
出演  ヴィンス・ヴォーン  キャスリン・ニュートン  セレスト・オコナー  ミーシャ・オシェロヴィッチ  ユリア・シェルトン  ダナ・ドローリィ  ケイティ・フィナーラン  
 とある地方都市で4人の大学生の男女が惨殺される事件が起きる。ブッチャーと名付けられた犯人が捕まらない中、アメフトの試合の応援後に迎えを待っていた女子高生のミリーの前にブッチャーが現れる。ブッチャーに押し倒されたミリーは、雷鳴とどろく中ナイフで刺される。翌朝、目を覚ましたブッチャーがいたのは、ミリーの部屋であり、鏡に映ったのはミリーの顔。ミリーの身体に入ったブッチャーはこれ幸いとばかりに学校へ行き惨殺を始める。
 一方、ミリーが目覚めたのはブッチャーの部屋であり、ミリーの心はブッチャーの身体の中に入っていた。警察から追われたミリーは、友人のナイラとジョシュに助けを求める。24時間以内にブッチャーがミリーを刺す際に使用した古代文明のナイフを使ってブッチャーを倒さなければ元に戻れないと知ったミリーたちはブッチャーを探す・・・。
 入れ替わりの映画となると、すぐ頭に思い浮かぶのは大林監督の「転校生」ですが、あちらは高校生の男女の入れ替わりですが、こちらは殺人鬼の男と女子高校生の入れ替わりですから、殺人鬼はともかく、女子高校生はたまったものではないですね。
 冒頭からスプラッター映画らしい、目をそむけたくなるような殺害シーンが続きます。ただし、そんな惨殺シーン以外にはコミカルなシーンもあります。いじめられっ子で服装も冴えなかったミリーが、ブッチャーが身体に入った途端、皆から注目を浴びるような服を身にまとったり、逆にミリーの身体ゆえに力がなく、殺害しようとする相手に反撃を食ったりします。一方ブッチャーの身体に入ったミリーは、力が強くなったり、歩き方が女性っぽくなったりと、思わず笑ってしまいます。この辺りのユーモラスなところはブッチャー役を演じたヴィンス・ヴォーンの演技力によるところが大ですね。
 いわゆるB級映画ですが、単なるスプラッター映画ではなく、ユーモアもあったことから、楽しく観ることができました。  
シグナル(2021.4.16) 
監督  橋本一 
出演  坂口健太郎  北村一輝  吉瀬美智子  杉本哲太  奈緒  鹿賀丈史  田中哲司  伊原剛志  木村祐一  池田鉄洋  青野楓 
 謎の無線機が“過去”と“現在”の2人の刑事を繋ぎ、ともに未解決事件を解決していくという韓国の同名ドラマをリメイクして2018年4月に坂口健太郎さん、北村一輝さんで放映されたテレビドラマの映画化です。
 ドラマの終了から3年近くがたってしまいましたので、細かい設定はすっかり忘れていましたが、ドラマのラストには謎が残されたままだったので、期待をして観に行きました。
 2021年の東京で内閣情報調査室次長の三谷が乗った車が暴走事故を起こして三谷は死亡。事故後の調査で三谷の死因は20年前の「西新宿テロ事件」で使われた毒ガスのヘロンであることが判明する。当時、テロリストは全員逮捕、ヘロンも押収済みと発表されていたことから世間は大騒動となる。警視庁、長期未解決事件捜査班の警部補・三枝は、事件が2009年に立て続けに起きた政府高官の交通事故死に類似していることに気づき、調べると、大山刑事が被害者の救護にあたっていたことを知る・・・。
 過去が書き換えられることにより現在も変わるという設定なので、タイムパラドックスの問題もある中で、こういう作品はあまり細かいことを気にすると楽しむことができないので、ある程度は目をつむることが必要です。とはいえ、主人公の三枝が過去が変わって現在も変わっても事情を全部理解しているのはOKにしても、どうして吉瀬美智子さん演じる桜井も記憶が書き換えられないのかなあと考えてしまいます。
 納得いかないのは、いったいラストはどういうことなの?と言わざるを得ない終わり方になったこと。それも無線機を置いたままですよ。う~ん・・・わかりませんねえ。ドラマは楽しんだのですが、映画はいま一つでした。  
るろうに剣心 The Final(2021.4.23) 
監督  大友啓史 
出演  佐藤健  武井咲  青木崇高  蒼井優  江口洋介  神木隆之介  伊勢谷友介  土屋太鳳  三浦涼介  鶴見慎吾  中原丈雄  小市慢太郎  平田薫  大西利空  新田真剣佑  音尾琢真  阿部進之介  柿原りんか  柳俊太郎   
 2012年に公開された「るろうに剣心」から9年、2014年に公開された「るろうに剣心 京都大火編」、「るろうに剣心 伝説の最期編」の2部作から7年、ようやくシリーズ最終編となる2部作のうち「るろうに剣心 The Final」が公開されました。
 最終作は今回公開されたシリーズ最強の敵となる雪代縁との戦いを描く漫画の「人誅編」の本作と、剣心の頬の十字傷の謎と人斬りを止めた理由を描く「追憶編」の「るろうに剣心 The Biginning」の2部作となります。
 志々雄真実との戦いを終え、剣心たちは東京で心穏やかに暮らしていた。ところがある日、剣心たちが行きつけの牛鍋屋が何者かにより砲撃を受け全焼、更に神谷道場がある町を管轄する警察署の署長であり、剣心たちと顔なじみの浦村署長の家が襲われる。やがて剣心の前に銀髪の若い男が現れる。男はかつて剣心の妻だった雪代巴の弟の雪代縁であり、剣心に「お前に与えたいのは痛みではない、苦しみだ」と告げる。剣心は薫や左之助たちに今回の事件は自分への復讐が目的だと、過去を語る。やがて、縁たちの攻撃が始まる・・・。
 今作は正直のところ、ストーリー展開より、見どころはアクションシーンです。逆刃刀で大勢の敵をなぎ倒していくシーンは圧倒されますね。どこがCGでどこがワイヤーアクションなのかわかりません。息子に言わせると漫画では登場シーンはなかったはずのある人物が剣心と共に戦うシーンは“凄かった!!”としか言いようがありません。
 とりあえず、本作はシリーズ最後となる次の「るろうに剣心 The Biginning」に繋がる作品としての位置づけ。今回ちょっとだけ登場した有村架純さんの雪代巴が本格的に登場する「るろうに剣心 The Biginning」に大いに期待です。  
くれなずめ(2021.5.14 5.30) 
監督  松居大悟 
出演  成田凌  高良健吾  若葉竜也  浜野謙太  藤原季節  目次立樹  前田敦子  城田優  飯豊まりえ  内田理央  滝藤賢一  近藤芳正  岩松了  小林喜日  都築拓紀 
  松居監督自身の実体験を基にした松居監督が主宰する劇団「」の舞台劇の映画化です。
友人の結婚式で余興(この余興というのが赤フンドシを着用してのダンスです。)を披露しようと久しぶりに再会した高校時代の友人たちが、結婚式の披露宴から二次会までの間、自分たちの過去に思いを巡らす様子を描きます。
 友人の結婚式の余興で5年ぶりに集まった吉尾や欽一たちだったが、余興の赤フンダンスは最悪の結果。二次会が始まるまで3時間を喫茶店で時間をつぶそうと思ったらどこもいっぱい。仕方なく彼らはぶらぶらしながら過去に思いを馳せる。明石が思い出すのは、高校生の頃清掃委員をしていた吉尾が委員長のミキエに後輩のごみの分別がなっていないと怒鳴られ、挙句の果ては平手打ちをされたのを見たこと、ソースが思い出すのは文化祭で赤フンダンスを披露したあとの打ち上げのカラオケ店で不良の同級生に絡まれ、彼が飲んでいたビールを赤フンでかき混ぜたのを知らずに不良がおいしそうに飲んだのを見て大笑いしたこと、ネジが思い出すのは吉尾と大成と大成の下宿で酒を飲み、「童貞だ!」「誰が好きだ!」とくだらない話をして雑魚寝をしたこと、欽一が思い出すのは仙台に住む吉尾に劇団の演劇に出演するようお願いに行った際に屋台で飲んだこと、大成が思い出すのは、友人の命日にお線香をあげに行った帰りの駅のホームでミキエに出会ったこと、そして、みんなの心に残っているのは5年前に欽一と明石の劇団の公演が終わったあとのこと・・・。
 なんとも不思議な作品です。高校時代の友人たちが高校時代の思い出を語る、いわゆる「青春映画」だと思って観に行ったのですが、そう単純なものでなく、観ているうちに次第に「あれっ?何だろう?」という違和感を覚えるようになります。やがて、明らかとなる事実はあまりに悲しい。彼らがはしゃいでいたのは、実はこの悲しさを隠すためだったのかもしれません。誰にもやり直したい過去があります。5年前の過去をやり直した彼らは、前へ進んでいくことができるのでしょうね。
 主人公6人以外に、様々な俳優さんがちょい役で出演していますが、その中でも強烈な印象を残したのはミキエ役を演じた元AKBの前田敦子さん。高校生の時に清掃委員長として吉尾へ平手打ちや駅のホームで大成に会った際の怒鳴り声など怖いですよねえ。ミキエに告白した吉尾に対し、スマホに保存してある自分の子どもを見せて幸せだと言い捨てるのも何とも言えません。それと、片言の日本語で話す屋台のオヤジ役の滝藤さんも面白かったです。
 タイトルの『くれなずめ』は、パンフレットによると日が暮れそうで暮れない様子を表す“暮れなずむ”を変化させて命令形にした造語で、「前に進もうとも様々な障害が立ちはだかったままで思い通りに進めない」という意味合いだそうです。
ファーザー(2021.5.21) 
監督  フロリアン・ゼレール 
出演  アンソニー・ホプキンス  オリヴィア・コールマン  イモージェン・ブーツ  マーク・ゲイティス  ルーファス・シーウェル  オリヴィア・ウィリアムズ 
 主演のアンソニー・ホプキンスが3月に発表されたアカデミー賞の主演男優賞を受賞した作品です。主演男優賞は昨年亡くなったチャドウィック・ボーズマンが受賞するのではというのが大方の予想であり、本人もノミネートはされたものの受賞するとは思わず、会場にも行かないで家で寝ていたというのですから、さすが大物です。
 作品は認知症の父とその面倒をみる娘を描きます。アンソニー・ホプキンスが演じるアンソニー(なぜか同じ名前です。)を見ていて、いつかは自分もたどる道だと思うと切なさがこみ上げてきます。「女王陛下のお気に入り」でアカデミー賞主演女優賞を受賞したオリヴィア・コールマンが演じる娘・アンが認知症の父に対処する大変さが伝わってきます。
 いったい、どれが現実でどれがアンソニーの妄想の中のシーンなのか、わかりません。時間の流れもアンソニーの頭の中での時間の流れなんでしょう。アンソニーが気に入っていた若い介護士・ローラは現実に存在していたのでしょうか。
 最後にアンソニーが赤ちゃん返りをして母親を求めるシーンに、近くの席で観ていた若い女性は鼻をすすっていましたが、僕ら男性としては泣けません。辛さを感じるばかりです。 
グリーンランドー地球最後の2日間ー(2021.6.4) 
監督  リック・ローマン・ウォー 
出演  ジェラルド・バトラー  モリーナ・バッカリン  スコット・グレン  デヴィッド・デンマン  ホープ・デイヴィス  ロジャーr・デイル・フロイド  アンドリュー・バイロン・バチェラー  メリン・ダンジー  ホルト・マッキャラニー   
 地球の近くを通過する彗星の破片が地球に落下し、人類滅亡の危機に瀕するといういわゆる“ディザスター”映画です。
 主人公のジョン・ギャリティは高層ビルの建築技師。地球の近くを彗星・クラークが通過するが地球には影響がないと言われていたが、破片の一つがフロリダ州の中心部に落下、大災害を引き起こす。テレビでその様子を見ていたジョンの携帯電話に、政府からジョン一家はシェルターへの避難対象者に選ばれたという連絡が入り、急いで集合場所の空軍基地へと向かう。基地に到着し、避難の飛行機に搭乗直前、息子・ネイサンの糖尿病治療のためのインスリンを車に忘れたことに気づいたジョンが取りに行っている間に、妻のアリソンとネイサンは糖尿病患者ということで飛行機への搭乗を拒否される。暴徒により基地が混乱する中、ジョンとアリソンははぐれてしまい、アリソンは父の家に向かうという置手紙を残してネイサンと父が住むレキシントンに向かう。それを読んだジョンも後を追うが・・・。
 ディザスター映画といえば、地球滅亡で混乱が起こる中での家族愛が描かれるのがお決まりのパターンですが、それはこの作品も同じです。それまでは別居をしていたジョンとアリソンでしたが、混乱の中相手の無事を祈りながら様々な危険に立ち向かっていきます。
 こうした状況の中では、人々が利己的になるのは当たり前で、自分の命のためには他人などかまっていられないと考える人がほとんどでしょう。この中で善人でいることは難しいですね。ただ、その中でアメリカ映画らしいと思ったのは住民の避難に当たる軍人たちが誰もが職務に忠実でいい人ばかりだというところ。父の家に向かう途中で誘拐されたネイサンを探すアリソンにあの混乱の中で手を貸します。普通はかまっていられないですよねえ。
 感動もあるし、ハラハラするところもあるし、ディザスター映画の要素はすべて入っているので、2時間飽きずに楽しむことができます。 
るろうに剣心 最終章 The Biginning(2021.6.4) 
監督  大友啓史 
出演  佐藤健  有村架純  江口洋介  高橋一生  安藤政信  村上虹郎  藤本隆宏  北村一輝  窪田正孝  和田聰宏  大西信満  池内万作  堀田真由  渡辺真紀子  中村達也  荒木飛羽  奥野瑛太  平埜生成  一ノ瀬ワタル  成田瑛基 
  シリーズ最後の作品となります。ただ、今回描かれるのは時代が遡り、幕末に桂小五郎の命令で幕府側の重要人物の暗殺を実行していた剣心が不殺の誓いを立てるまでの話です。前作「るろうに剣心 最終章 The Final」で敵役を演じた雪代縁の姉・雪代巴が登場します。息子が言うには、原作ではこのエピソードは人気が高かったそうで、巴というキャラへのファンの思いも強かったでしょうから、巴役を演じた有村架純さんにも相当のプレッシャーがあったでしょうね。僕自身は 原作を読んでいないので、比較はできないのですが、有村さん、喜怒哀楽を表情に出さず、淡々と話す巴の役柄を上手に演じていたと思います。
 今までの登場人物の中で今回顔を出すのは若い頃の縁を除けば、藤田五郎という名前になる前の斎藤一くらいです。新撰組3番隊隊長として登場し、あの有名な池田屋事件にも加わります。沖田総司も登場。村上虹郎さんが演じていたので、小柄で従来僕がイメージしていたスラっとした長身のイケメン剣士とは違うのですが、これまた息子が言うには原作でも沖田は小柄だったそうですね。
 今回は幕府の暗殺集団との戦いはありますが、これまでのような圧倒的な力を持つ個性的な敵との戦いを描くのではなく、剣心と巴との愛を描く作品だったと言えます。このラストが第1作に続くという流れになっているようです。う~ん、これで最後ということなら、やっぱり神谷薫や相良左之助も何らかの形で顔を出してほしかったなあという気はします。
キャラクター(2021.6.11) 
監督  永井聡 
出演  菅田将暉  高畑充希  小栗旬  中村獅童  Fukase  中尾明慶  松田洋治  小木茂光   
 山城圭吾は売れっ子漫画家のアシスタントをしながら、漫画家として自活することを目指していた。しかし、彼の絵は上手いが、サスペンス漫画を描くのにいい人間過ぎてリアルな悪人キャラが描くことができないと批評され、独り立ちができないでいた。自分の才能に見切りをつけ、漫画家をやめることを決めた日、先生から最後の仕事に頼まれた「幸せそうな家」のスケッチに出かけたが、スケッチをしていた家で山城は家族4人が惨殺されていることを発見し、警察に通報する。その際犯人の顔を見たのに見ていないと嘘をつくが、警察から帰った山城は憑かれたように犯人の顔をモデルに漫画を描き始める。リアルな犯人の顔を描くことによって、一躍山城は売れっ子漫画家となるが、やがて山城の漫画をなぞったような惨殺事件が続発する・・・。
 ネタバレになるので詳細は語れませんが、この作品、途中で「えぇ~!?」と声をあげたくなるある意味衝撃的なシーンが登場します。この展開は想定外。まさかこうくるとはねえ。このシーンでただのサイコものにプラスの要素が加わりました。
 殺人鬼が襲うのは幸せな4人家族ということで、中には幼い子どものいる家族もあったのですが、幼い子どもも虐殺されているシーンは見るに堪えません。
 殺人鬼・両角を演じたのは「SEKAI NO OWARI」のFukaseさん。初めての映画出演、それもサイコな殺人鬼という役柄で、それだけで評判を呼んでいますが、実際の演技はそれぞれ観た人が評価してくださいという感じです。主人公。山城を演じたのは菅田将暉さん、その妻・夏美を演じたのは高畑充希さん、元暴走族の刑事・清田を演じるのは小栗旬さん、その上司・真壁を演じたのは中村獅童さん。安定感あふれる俳優陣ですから、その点は安心して観ることができます。 
ザ・ファブル 殺さない殺し屋(2021.6・18) 
監督  江口カン 
出演  岡田准一  木村文乃  平手友梨奈  堤真一  安藤政信  佐藤浩市  佐藤二朗  山本美月  宮川大輔  橋本マナミ  黒瀬純  好井まさお  安田顕  井之脇海   
 狙ったターゲットは6秒以内に仕留めると言われる伝説の殺し屋“ファブル”を描くシリーズ第2弾です。
 ボスから1年間殺しはせずに普通の人間として生きろと言われ、大阪の小さな広告会社で佐藤アキラという偽名で生活するファブル。今回彼の敵としてファブルの前に姿を現すのは、かつてファブルが依頼された仕事で、途中で急に依頼が取り下げられたため、一人生き残ることができた宇津帆。当時売春組織のボスであった宇津帆は、今では表の顔は安全なまちづくりを目指すNPOの代表、しかし裏では金持ちのバカ息子をネタに親から金をゆすり取った挙句殺害してしまうという冷徹な犯罪者となっていた。ファブルは偶然公園で歩く訓練をする車椅子の少女・ヒナコと出会い、アドバイスをするようになるが、やがて、宇津帆はヒナコが公園で会う男がファブルだと知り、復讐を実行しようとする・・・。
 相変わらず岡田准一くんのアクションが凄いです。小柄ですが、肩の筋肉は盛り上がっていますし、ジャニーズ事務所の芸能人としては異質ですね。今回の岡田くんのアクションの見どころは、工事中の団地の足場が崩れる中での格闘ですが、特に岡田くんの格闘技の実際の師匠である人との格闘シーンは圧巻です。この人、無表情で無口で怖いんですよねえ。
 猫舌や芸能人のジャッカル富岡好き、そして常識を知らないところは前作よりパワーアップです。サンタクロースのことを聞かれて「まだ会ったことない」と、さらっと言うところには笑ってしまいました。この笑いのセンス、好きです。
 今回出演した俳優さんの中では、平手友梨奈さんの存在感が凄いです。太ももを堤真一さん演じる宇津帆の触られたり、下半身に顔をうずめられたり、今までのアイドル時代とは違った汚れ役を演じています。目力も凄いです。主役の岡田さんを食ってしまうほどの熱演でした。
 宇津帆の部下の一人、井崎を演じたのはお笑いコンビ。パンクブーブーの黒瀬純さんですが、この人、テレビ東京のバスvs鉄道旅に出演したときに嫌な男だなあと思ったのですが、今回の役柄はその嫌な点がぴったりの適役でした。
 前作に続き、清水ミサキ役を演じた山本美月さんですが、結婚したせいか、ショートカットになって、ちょっと顔がふっくらした感じです。 
クワイエット・プレイス 破られた沈黙(2021.6.19) 
監督  ジョン・クラシンスキー 
出演  エミリー・ブラント  キリアン・マーフィ  ミリセント・シモンズ  ノア・ジュプ  ジャイモン・フンスー  ジョン・クラシンスキー 
 シリーズ第2弾です。夫が死亡し、家も焼けたエヴリンは、生まれたばかりの赤ん坊と耳の不自由な娘のリーガン、息子のマーカスを連れ、新たな避難場所を探して旅に出る。途中“何か”に襲われ、逃げ込んだ廃工場で、エヴリンたちはかつての友人エメットに出会う・・・。
 音を立てれば“何か”に襲われる世界の中で、いつ泣き出すかわからない赤ん坊を連れての逃避行は緊張感あります。
 前作では戦う強い女性としてエヴリンが描かれましたが、今作ではエヴリンはもちろんですが。より焦点があてられたのは二人の子ども。特にリーガンは島に助かった人々がいると考え、一人で“何か”に対抗できる方法を伝えるため、旅に出ます。一方、マーカスはリーガンと違って、まだまだ子どもで一人で何もできなかったのですが、母を守るため、弱虫だったマーカスが最後に男を見せます。
 前作の続編ということで、2人の子どもたちは同じ子が演じているのですが、特に男の子は成長が著しくて、映画の時間は続けて流れているにもかかわらず、急に大きくなってしまったという違和感を覚えます。また、その子たちが過去を演じるので、前作で幼かった子がなぜか過去を描くシーンではそれより大きいのは更に違和感が大きいですね。
 このラストだと、この作品の興行成績が良ければ、まだ続編がありそうですね。 
夏への扉 キミのいる未来へ(2021.6.25) 
監督  三木孝浩 
出演  山崎賢人  清原果耶  藤木直人  夏菜  眞島秀和  浜野謙太  田口トモロヲ  原田泰造  高梨臨 
  幼い頃両親を事故で亡くし、父の親友だった科学者の松下功一に引き取られた高倉宗一郎は、松下の薫陶を受けて今では若手の科学者として名声を得ていた。しかし、松下の事故死後その会社を引き継いだ松下の弟・和人と宗一郎の婚約者でもあった白石鈴の策略で、宗一郎は会社や権利を乗っ取られてしまう。絶望した宗一郎はコールドスリープ(冬眠)の契約をし、冬眠に入ろうとしたが、もう一度和人らと話そうと彼の家に向かう。しかし、白石鈴によって、逆に宗一郎は30年のコールドスリープに入らされてしまう。目覚めたらそこは30年後の世界。松下功一の娘・璃子がコールドスリープ中の彼に会いに来ていると聞いた宗一郎は、病院を抜け出し、彼女の行方を捜す。宗一郎に同行するのは彼の面倒を見る役目を与えられていたロボットのピート。やがて、宗一郎は璃子が死んだことを知らされる・・・。
 タイムトラベル小説といえば必ずこの作品が挙げられる、タイムトラベル小説の不朽の名作、ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」を舞台を日本に移して映画化したものです。タイムトラベルものがおもしろいかどうかは、いかにつじつま合わせがうまくいっているかにあります。松下の家で眠らされてしまった宗一郎の代わりに車を運転して去っていったのは誰なのか、今ではロボット会社の社長になった坪井豪太に子どもの頃なぜ会っていたのか等々、様々な謎がパズルのピースが組み合わさるように形を見せてくるのが楽しいです。
 ロボットのピートを演じたのが藤木直人さん。アンドロイドなので無表情で感情のこもらない話し方がいつもの藤木さんと違ってなかなか愉快でした。
Arc アーク(2021.6.26) 
監督  石川慶 
出演  芳根京子  寺島しのぶ  岡田将生  清水くるみ  井之脇海  中村ゆり  風吹ジュン  小林薫  倍賞千恵子 
 ケン・リュウの短編「円環」を原作とする作品です。
 リナは17歳で子どもを産むが、その世話は親に任せて放浪生活を送る。ある日、クラブのフロアで踊るリナの姿を見た黒田永真に誘われ、彼女が経営する大手化粧品会社で働くこととなる。そこで、リナは“ボディワークス”と呼ばれる、死者を生きていた姿のまま保存する施術の第一人者である永真からその技術を学ぶ。一方、永真の息子・天音はボディワークスの技術を発展させた不老不死の研究を進めていた。30歳になったとき、リナは不老不死の処置を受け人類史上最初の永遠の命を得た女性となる。やがて、世界は不老不死が当たり前となるが、遺伝子の関係で不老不死にはならない人も出てくる・・・。
 “ボディワークス”を行うには死体と繋がった無数の糸を操ってその形を整えていくのですが、その過程のダンスのような動きが永真を演じる寺島しのぶさんと比べると、リナを演じる芳根京子さんではその美しさに雲泥の差があります。ダンスも踊れない僕が言うには失礼な言い方ですが、芳根さんの場合は流れるようなスムーズさが感じられません。そこは寺島しのぶさんの経験のなせるところなんでしょう。何年かが経過してリナが永真にとって代わるようになるまで“ボディワークス”の技術を身につけたというには無理があるというのが正直な感想です。
 この物語のテーマは「不老不死」。果たして「不老不死」の薬が発明されたら、私自身は積極的に飲むかなと自分に問えば、今の年齢ではきっと死も身近になっているし、飲むと思います。でも、生きていても楽しいばかりのことが続くのであればいいけど、辛い毎日が続くのであればどうなるのでしょう。
※ここからネタバレ
 結局、リナは最後には不老不死であることを止めるのですが、それはどうしてなんでしょうか。自分が捨てた息子が不老不死の処置をせずに老い、妻の病死とともに行方不明となってしまうことが原因だったと思うのですが。そこのところの心の変化がよくわからなかったですねえ。 
ゴジラvsコング(2021.7.2) 
監督  アダム・ウィンガード 
出演  アレクサンダー・スカルスガルド  ミリー・ボビー・ブラウン  レベッカ・ホール  ブライアン・タイリー・ヘンリー  小栗旬  エイザ・ゴンザレス  ジュリアン・デニソン  カイル・チャンドラー  デミアン・ビチル 
 日米両国が誇る怪獣「ゴジラ」と「キングコング」の戦いを描くモンスターバース最終作です(たぶん。いつものようにエンドロールで次作の思わせぶりな映像が出ませんでしたからね。)。
 ゴジラは「破壊神」で、コングは「守護神」というアメリカ贔屓の呼称ですが、やっぱり日本人の思いとしてはゴジラに共感しますよね。コングは巨大で力が強いだけですが(ゴジラに合わせるせいか、また一段と巨大になりました。)、ゴジラには何といっても口から吐く放射能熱線があることを考えると、やはり強いのはゴジラでしょう。でも、それぞれ製作会社(日本でいえば「東宝」)のメンツがあるだろうから、簡単に黒白つけるわけにはいかないのだろうなあ、どう決着つけるんだろうと思っていたら、そうきましたか。予告編ではまったく描かれなかった、ある“もの”が登場するとはねえ。これはびっくりですが、ゴジラファンとしてはうれしい演出です。
 前作の「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」のエンドロールで、ゴジラに敗れたキングギドラの首を何者かが買うシーンがありましたが、あの購入者がエイベックス・サイバネクティクスのCEO・シモンズだったんでしょうか。まさかキングギドラの首があんな使われ方するとはねえ。
 小栗旬さんが芹沢猪四郎博士の息子・芹沢蓮という役柄で登場しましたが、芹澤博士の息子にしてはやることがえげつない。白目剥いてしまっているし、あれではお父さんに怒られるぞという感じです。役どころとしては重要な人物のはずなのに、ちょっと軽く扱われて、登場シーンも少なかったです。
 ストーリーとしては、冒頭から地下世界に行くまでの流れがわかりにくいです。地球の中心に空洞があるということはこれまでのシリーズの中でも言われてきましたが、そこがコングの故郷で、コングを使ってその地下世界に行くところの話は吹替版でも理解しにくいところでした。コングを故郷に戻すという計画の裏には実は別の目的があったのですが、字幕版ではより分かりにくかったのでは。
 落としどころとしては、ゴジラvsコングの結果はあんなものでしょう。でも、ゴジラvsコングなら、やはり勝者はゴジラです。 
東京リベンジャーズ(2021.7.9) 
監督  英勉 
出演  北村匠海  山田裕貴  吉沢亮  杉野遥亮  今田美桜  鈴木伸之  眞栄田郷敦  磯村勇斗  清水尋也  間宮祥太朗  塚家一希  伊織もえ  湊祥希 
 週刊少年マガジンに現在も連載されている同名漫画の映画化です。
 フリーターをしているタケミチはある朝、テレビのニュースで高校時代に付き合っていた橘日向・ヒナと弟の直人の二人が東京卍會=トーマンの抗争に巻き込まれ、死亡したことを知る。翌日、タケミチはバイト帰りの駅で何者かによって背中を押されて線路に転落してしまう。電車が入ってきてもう駄目だと思った瞬間、タケミチは10年前の高校時代にタイムリープする。そこは彼が負け犬として人生を過ごすことになった出発点だった。10年前のその日、タケミチとアッくんら高校の仲間はトーマンのキヨマサにぼこぼこにされ、その日以来彼の奴隷として扱われる毎日を過ごすことになり、それから逃れるためにタケミチは高校を中退し、誰にも言わずに家を出て、フリーターとして生活していたのだった。この日も結局キヨマサにぼこぼこにされ、公園に一人いたタケミチは、不良に絡まれていたヒナの弟・直人を助け、彼に10年後に死ぬ姉を守るよう頼む。そして直人の手を握った途端、気づいたのは駅の事務室。戻った世界には刑事になった直人がいて、10年前にタケミチから聞いたことで直人が生きていること、しかし姉を助けられなかったこと、タケミチのタイムリープするトリガーは直人と手を握ることだということ、姉を助けるためにトーマンが極悪化した契機となったトーマンのトップ佐野万次郎ことマイキーとトーマンの幹部である稀咲鉄太との出会いを防いでくれと言われ、再び過去へと戻っていく。
 タケミチと直人が手を握ることにより10年前の同じ日にタイムリープするという前提は、深く考えないで楽しみましょう。タケミチが過去に戻るたびに未来が変わるのですが、どうして直人だけは以前の記憶を持ったままなんでしょう?などと追及はしない方がいいです。設定はSFですが、内容は青春ものですから。タイムリープのことを論理的に説明することは横に置いときながら観るのが一番です。
 漫画が人気があるのか、登場人物を演じるイケメンたちのファンが多いのか、珍しく劇場内はかなりの入りでした。イケメンたちがそうそうたるメンバーです。主人公・タケミチを演じる北村匠海くんが、あとで漫画を見てみましたがイメージピッタリですね。トーマンのトップ・マイキーを演じたのが、今や大河ドラマで主役を張っている吉沢亮くん、マイキーの右腕でトーマンの良心ともいう立場のドラケンこと龍宮寺堅を演じるのが山田裕貴くん、同じくトーマンの二番隊隊長を演じるのが眞栄田郷敦くん、タケミチの高校の仲間であるアッくんこと千堂敦を演じたのが磯村勇斗くん、タケミチたちをぼこぼこにしたキヨマサを演じるのは清水将貴くん。磯村くんと清水くんは「今日から俺は!!」でもヤンキーやってましたねえ。そのほか、直人役は杉野遥亮くん、キサキこと稀咲鉄太役は間宮祥太朗くん、ハンマこと半間修二役は清水尋也くんと、これでは若い女性が観に行くはずですよ。
 唯一のヒロイン・ヒナを演じたのは今田美桜さん。今までと髪型が違いましたので、最初有村架純さんかと思ってしまいました。かわいかったですねえ。
 今回は完全に続編を意識しての作品です。駅でタケミチの背中を押したのは誰かは判明しましたが、なぜ彼がそんなことをしなくてはならなかったのかは明らかになっていませんし、ハンマを演じた清水尋也くんなんか、カメオ出演という感じのわずかな登場です。漫画自体が続いていることであるし、この観客の入りでは興収も良さそうなので続編は間違いないですね。
 見どころはダメダメ男のタケミチがヒナを助けるために過去に戻るうちに、次第に心が強くなっていくこと。思わず声援を送りたくなってしまいます。劇場内は若い人、それも女性がいっぱいで、おじさんは自分だけという感じでちょっと気恥ずかしいところもありましたが、大いに楽しむことができました。これは続編も観たいです。 
ブラック・ウィドウ(2021.7.10) 
監督  ケイト・ショートランド 
出演  スカーレット・ヨハンソン  フローレンス・ピュー  レイチェル・ワイズ  デビッド・ハーパー  ウィリアム・ハート  エウィ・ウィンストン  O・T・ファグベンル 
 “アベンジャーズ”の一員、“ブラック・ウィドウ”ことナターシャ・ロマノフを主役に描いたSFアクション大作です。
 物語の舞台となるのは時間的には「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」と「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」の間で、ブラック・ウィドウがアベンジャーズから離れていた時期に起こった出来事がブラック・ウィドウの過去と共に描かれます。
 冒頭描かれるのは、ナターシャが幼い頃アメリカの機密情報を盗み出すため架空の家族と共にアメリカで生活し、シールドの追及を逃れて機密情報を持って国外へ脱出するシーン。そんなナターシャを待っていたのはロシアのスパイ組織レッドルームのドレイコフ将軍だった。その後ドレイコフ将軍から逃れ、アベンジャーズの一員となっていたナターシャだったが、ソコヴィア協定に反し追われる身となったナターシャに謎の暗殺者タスクマスターが襲い掛かる。襲われた理由を求めてブタペストに行ったナターシャの前に疑似家族で妹を演じていたエレーナが現れる・・・。
 物語は、かつて疑似家族だった4人が、ロシアのドレイコフ将軍率いるレッドルームと戦うというストーリーです。少女たちを精神的にコントロールして世界の各地で戦わせていたドレイコフから少女たちを解放するためにナターシャたちが戦います。。
 母親役を演じていたのがレイチェル・ワイズ。「ナイロビの蜂」でアカデミー主演女優賞を獲得してからかなりの年数がたつのですが、相変わらずきれいですね。
 ブラック・ウィドウが高いところから飛び降りた時の決めポーズがありますが、それを妹のエレーナが真似をして馬鹿にするところが笑えます。また、父親がかつてはロシアの超人兵士だったのですが、今では太ってコスチュームの腹回りがキツキツという場面にも思わず笑ってしまいました。
 この映画エンドロールである場面が挿入されていましたが、新たな物語への布石ですね。ただ、ブラック・ウィドウは亡くなってしまっているので、後を演じるのは妹のエレーナでしょうか。
 この映画、コロナ禍の中でなかなか公開されず、ようやく公開となったらディズニー・チャンネルでの同時配信ということになり、それを大手映画館が怒ったのか、TOHOシネマズ等でのシネコンで上映されず、地元でもようやく120人程度のミニシアターでの公開となりました。ミニシアターには申し訳ないですが、こうしたアクション大作は大きなスクリーンで観たかったですねえ。このことはブラック・ウィドウを演じたスカーレット・ヨハンソンさんの訴訟問題にもなっています。スカーレット・ヨハンソンさんはその出演料が観客動員数に比しているようですから、ネットで放映して映画館に来てくれなければ、出演料が減ってしまいますものねえ。 
HOKUSAI(2021.5.28) 
監督  橋本一 
出演  柳楽優弥  田中泯  阿部寛  永山瑛太  玉木宏  瀧本美織  青木崇高  津田寛治  河原れん  芋生悠 
  江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の生涯を描いた作品です。映画は若き頃の北斎を描く前半と、年老いた北斎を描く後半に分かれます。
 若き頃の北斎を演じたのが柳楽優弥さん。葛飾北斎といえばすぐ頭に浮かぶのは「富嶽三十六景」ですが、これを書いたのは晩年、それも72歳以降のことで、若き頃の北斎のことはあまりよくわかっていないそうです。この映画で描かれる若き北斎の姿は映画のオリジナルストーリーというべきもののようですが、自分の絵が一番だと信じ、人の意見を聞こうとしない頑なな北斎に柳楽さんの演技がピッタリです。
 年老いた北斎を演じるのが田中泯さん。脳梗塞(脳溢血?)で倒れ、筆もうまく持てない中で、絵と向き合う執念の北斎を見事に演じます。ベロ藍と呼ばれる北斎独特の青色を完成させた際に青い雨を浴びるシーンは鬼気迫るものがある圧倒的な演技です。
 この二人とともに印象的な役どころだったのが、柳亭種彦を演じた永山瑛太さん。彼が演じた柳亭種彦は武士でありながら戯作者として読み本を書き、天保の改革で奢侈禁止、風俗が取り締まれる中で、最後には上役に責められ、非業の死を遂げますが、その死に際は迫力ありましたねえ。
OLD(オールド)(2001.8.28)
監督  Ⅿ・ナイト・シャマラン
出演  ガエル・ガルシア・ベルナル  ヴィッキー・クリープス  トーマシン・マッケンジー  ルーファス・シーウェル  アレックス・ウルフ  アビー・リー  ニキ・アムカ=バード  ケン・レオン  アーロン・ピエール  キャスリーン・チャルファント  ノーラン・リバー
 ガイとプリスカ夫妻は娘のマドックスと息子のトレントを連れて南の島のリゾートホテルを訪れる。翌朝、4人はホテルのマネージャーから特別に自然保護区内にあるプライベートビーチに招待される。ビーチ行きの車に乗ったのは、心臓外科医のチャールズ、彼の母親のアグネス、妻のクリスタルと娘のカーラの一家。岩場の道を潜り抜けた先には絶景のビーチが広がっており、そこにはラッパーのミッドサイズ・セダン、看護師のジャリンとパトリシアの夫婦がいた。子どもたちが遊んでいると、女性の死体が流れ着く。彼女はミッドサイズ・セダンの連れだった。連絡を取ろうとするが電話は繋がらず、来た道を戻ろうとすると途中で気を失ってしまう。やがて、彼らはこのビーチから抜け出せないことに気づく・・・。
 時間の流れ、というよりこのビーチでは人間の成長のスピードが外界より速く、1日で50歳になってしまうということで、人々は見る間に老いていきます。6歳の少女だったのに、あっという間に大人の女性となって妊娠してしまうというシーンにはびっくりです。カルシウムを取ることにこだわっていたクリスタルの老いの姿は怖かったですねえ。それに対し、急激な老いが二人の関係にプラスに働いたのはガイとプリスカです。老化で視力を失っていくガイと聴覚を失っていくプリスカが過去のわだかまりを水に流して穏やかに命を終えるシーンはちょっとジーンときます。
 果たしてビーチから抜け出すことはできるのか。マネージャーはなぜ彼らをこのビーチに連れてきたのか。ラストでその理由が明らかとなりますが、彼らの命を犠牲にすることが許されるものでしょうか。それを仕方がないと考えるマネージャーたちは恐ろしいです。
 いつものとおり、この作品でもⅯ・ナイト・シャマラン監督が皆をビーチまで連れてくる車の運転手役で出演しています。Ⅿ・ナイト・シャマラン監督も「シックス・センス」の印象が強すぎて、それ以降この作品を超える作品はなく、というよりだんだんつまらない作品ばかりになってきましたが、今回はラストに救いもあって、眠らずに最後まで観ることができました。
鳩の撃退法(2021.8.29) 
監督  タカハタ秀太 
出演  藤原竜也  風間俊介  豊川悦司  土屋太鳳  ミッキー・カーチス  リリー・フランキー  村上淳  駿河太郎  浜野謙太  坂井真紀  濱田岳  佐津川愛美  岩松了  西野七瀬  桜井ユキ  柿澤勇人 
 佐藤正午さんの同名小説の映画化です。
 かつて直木賞も受賞したが、3年前に他人の秘密を暴露する小説を書き、名誉棄損で訴えられて以降作品を書いていない作家の津田伸一は東京のバーのカウンターで編集者の鳥飼に自分が書いた小説の原稿を読ませていた。それは、富山でデリヘルの送迎運転手をしている津田がある日コーヒーショップで出会って話をした男がその晩、妻と子供とともに行方不明となり、さらに亡くなった馴染みの古本屋の主人が津田に残したキャリーバッグの中に3千万円の帯封がしてある金と1万円札が3枚、そして「ピーターパンとウェンディ」の本が入っているのを知る話だった。やがて、使った1万円が偽札であることが判明し、“本通り裏の男”と呼ばれる男が姿を現す・・・。
 果たして、この小説はフィクションなのか、それとも津田が事実をもとに小説として書いたものなのかがそもそもの謎ですが、小説(あるいは事実)として、家族3人の失踪事件の真相はどうなるのか、同時期に姿を消した妻の恋人であった郵便局員はどうなったのか、キャリーバックの現金を古本屋の主人はどこから手に入れたのか、“本通り裏の男”と呼ばれる倉田とはいったい何者なのか、倉田たちが“鳩”というのは何なのか等々様々な謎が観客の前に提示されるので、どんどんスクリーンの中に引き込まれていきます。
 最後に、時系列で一連の事実が並び替えられていって、「3万円はこれだったのか」とか「本はこういう移動をしていたのか」等説明がされてすっきりです。
 津田という男は自分勝手で女性には手が早いし、弱いくせに見栄を張りたがるという男としては共感はまったくしなかったのですが、藤原竜也さんにこうしたダメ男の役を演じさせるとうまいですねえ。 
孤狼の血 LEVEL2(2021.9.3) 
監督  白石和彌 
出演  松阪桃李  鈴木亮平  村上虹郎  西野七海  中村獅童  中村梅雀  吉田鋼太郎  かたせ梨乃  宇梶剛士  寺島進  宮崎美子  滝藤賢一  斎藤工  早乙女太一  音尾琢真  渋川清彦  毎熊克哉  筧美和子  青柳翔  矢島健一  三宅弘城 
 柚月裕子さん原作の同名小説を役所広司さん、松坂桃李さん主演で映画化した「孤狼の血」の続編です。ただ、柚月さんの原作はその後「狂犬の眼」、「暴虎の牙」と2作が刊行されていますが、今回の作品は小説とは異なるオリジナルストーリーとなっています。
 広島県呉原市を拠点とする暴力団「尾谷組」と県内最大の暴力団「広島仁正会」との抗争の手打ちを裏で仕切った呉原東署のマル暴刑事・日岡は今では大上に代わって暴力団から一目置かれる存在となっていた。しかし、先の抗争で尾谷組の一之瀬に殺害された「広島仁正会」傘下の「五十子会会長・五十子正平に忠誠を誓う上林が出所したことから、再び呉原市に抗争の幕が上がる。出所した上林はさっそく担当の刑務官の広島の実家を訪ね、妹を惨殺する。この殺人事件の本部に日岡は応援に呼ばれ、今では監察官から捜査一課の管理官となった嵯峨の命令で元公安で定年間近の刑事・瀬島とコンビを組んで事件を捜査する。その間、上林は仁正会理事長・溝口を殺害、更に二代目五十子会会長・角谷も殺害し、上林組を旗揚げし、尾谷組への復讐を図る。日岡は自分を兄のように慕うチンタこと近田幸太をスパイとして上林組に潜入させるが、過去の抗争への関与を疑われて窮地に立たされる・・・。
 前作では国立広島大学でのエリート刑事であった日岡が、今では大上同様暴力団とどっぷり交際し、金まで受け取る刑事となっています。更にその顔つきも前作の特に最初の頃のようなおどおどした感じは全くなく、厳しいシャープな顔つきとなっています。演じた松坂桃李さん、熱演でしたね。
 でも、そんな松坂桃李さん以上にこの作品で強烈な印象を与えたのは上林役の鈴木亮平さんです。鈴木さんといえば、現在TBSテレビの日曜夜の「TOKYOU MER」で救急救命チームを率いるドクターとして、常に沈着冷静に事に当たる好人物を演じていますが、まったくそのキャラが異なります。あの優しそうな顔が上林になると狂的な表情へと様変わりです。笑いながら残酷なことをする鈴木さん、怖いですねえ。日本アカデミー賞の助演男優賞にノミネート確実です。
 フロント企業、パールエンタープライズの吉田は前作で、大上により、大事な部分に埋め込まれた真珠を切り取られた人物ですね。だから会社名が“パール”なんだと笑ってしまいました。前作から引き続き登場した人物では監察官から捜査一課の管理官となった滝藤賢一さん演じる嵯峨がいますが、今回もまたラストでは日岡にしてやられてしまい、観ている側としては溜飲が下がります。
 ストーリー的には単なるやくざ映画にとどまらず、ある人物を巡る思わぬどんでん返しもあり、おもしろかったです。うまく騙されましたねえ。ラストからすればまだまだ続編を作ることができそうです。松坂桃李さんに頑張ってもらいたいです。
 ヤクザ映画では同じ広島を舞台にした「仁義なき戦い」がすぐ頭に思い浮かびますが、本作品でのナレーションは「仁義なき戦い」のナレーションを真似しているんでしょうね。 
レミニセンス(2021.9.17) 
監督  リサ・ジョイ   
出演  ヒュー・ジャックマン  レベッカ・ファーガソン  タンディ・ニュートン  クリフ・カーティス  マリーナ・デ・タビラ  ダニエル・ウー  モージャン・アリア  ブレット・カレン  ナタリー・マリティネス  アンジェラ・サラフィアン  ニコ・パーカー 
 海水面が上昇し、水没する都市もある近未来を舞台にした話です。
 人の忘れた記憶を映像化することを仕事とするニックは、ある日、なくしてしまったカギを探してほしいと訪れた女性・メイに一目ぼれする。やがて二人は愛し合うようになるが、突然メイは姿を消してしまう。ニックは相棒のワッツが止めるのも聞かず、記憶復元装置を自ら使い、メイの行方を探そうとする。そんなとき、検察から依頼され、ある犯罪者の男の記憶を探る過程で、男の記憶の中にメイの姿を見つける。果たして、メイは何者なのか・・・。
 観る前に予想していた映画の内容とは全く異なりました。予告編を観たときには、ニックの役が“記憶潜入エージェント”とあったので、ニックが人の記憶の中に入ってその記憶の中の世界で戦うというイメージを持っていたのですが、それとは異なりSFとしてはスケールの小さな映画でした。SFの設定を借りたラブ・ストーリーといった方がいいです。製作がクリストファー・ノーランの弟のジョナサン・ノーランであり、監督がその妻のリサ・ジョイだったので、スケールの大きなSF作品を期待して観に行ったのですが肩透かしです。だいたい、海水の上昇によって水に覆われた世界という設定が何らこのストーリーに活かされていませんでした。まあ、海面上昇で陸地の価値が上がったことがストーリーの展開に関係してくるのですけどね。とにかく、期待外れでした。 
マスカレード・ナイト(2021.9.18) 
監督  鈴木雅之 
出演  木村拓哉  長澤まさみ  渡辺篤郎  小日向文世  梶原善  泉澤祐樹  沢村一樹  木村佳乃  麻生久美子  高岡早紀  鶴見慎吾  篠井英輔  石橋凌  東根作寿英  石川恋  中村アン  田中みな実  石黒賢  勝村政信  鳳稀かなめ  博多華丸 
 2019年に公開された「マスカレード・ホテル」の続編です。原作は東野圭吾さんの同名小説ですが、小説としてはシリーズ3作目となります。
 都内マンションで起きた殺人事件の犯人が大晦日にホテル・コルテシアで開催されるカウントダウンパーティー「マスカレード・ナイト」に現れるという匿名のファックスが警視庁に送られてくる。捜査のため、警視庁捜査一課の刑事たちは従業員や客に扮して犯人が現れるのを待つ。捜査一課の刑事・新田浩介は再びフロントマンとして、フロントクラークからコンシェルジェへと昇進した山岸尚美の協力を得て、捜査を進めるが、パーティーは出席者500人全員がマスクをして出席する趣向となっていた。
 新田を演じた木村拓哉さんには申し訳ありませんが、どうも新田の行動が鼻につきます。それをいちいち注意する山岸にも。まあ、この掛け合いがこの映画の売りですから、それも仕方ありませんが、面白さという点で前作を凌ぐことはできなかった気がします。
 いったい誰が犯人で、誰が密告者なのか、怪しげな人物が次々と登場しますが、ネタバレしても全く問題がない、いかにもというか、絶対に犯人ではないとわかる傲慢な客・日下部を演じたのは沢村一樹さん。この沢村さん演じる日下部は実は…というお楽しみもあります。作品の中で一番印象的な人物でしたね。最近、割とコミカルな役どころが多い、麻生久美子さんが今作ではコミカルさは全く見せない役を演じます。こうした役もお似合いです。 
総理の夫(2021.9.23)
監督  河合勇人
出演  田中圭  中谷美紀  岸部一徳  余貴美子  貫地谷しほり  片岡愛之助  嶋田久作  工藤阿須加  松井愛莉  木下ほうか  米本学仁
 原田マハさん原作の同名小説の映画化です。
 北海道に鳥類の生態を調べに行って、戻ってきた鳥類研究所の所員、相馬日和は空港で突然記者に取り囲まれる。彼が北海道に行っている間に直進党の党首であった妻の凛子が総理大臣に就任することとなっていたのだ。その日から日和の生活は一変。鳥類研究のために住んでいた森に囲まれていた家から総理官邸に引っ越し、行動も官邸広報官の富士宮あすかから制限される。そんなある日、日和は同じ所員の若手女性の伊藤るいから日和の家にある事典を見せて欲しいと頼まれ、家に戻るが、その際に何者かに彼女との写真を撮られ、脅される。日和の様子がおかしいことに気づいた富士宮により、写真が週刊誌に載ることは避けられたが、その事件の黒幕は凛子の直進党と連立政権を組み、凛子の総理就任に尽力した政界のドン、原久郎だということがわかる・・・。
 大企業グループの次男坊でありながら世間知らずで鳥類研究しか興味のない日和のイメージに田中圭さんのキャラがピッタリです。総理の夫として色々慣れないことをするときの困り顔もいいですが、総理会見場で大勢の記者たちをバックに凛子に愛を述べる姿もかっこいいです。一方、凛子という名前どおり凛とした美しさと聡明さを備えた凛子のイメージに、中谷美紀さんがピッタリです。とにかく、選挙演説をしている時も、自宅で日和と話している時も、中谷さん、奇麗です。また、写真騒ぎの際に車から登場した時のコート姿の中谷さんはかっこよかったですねえ。もう最高です。日和も凛子も、どうも脚本段階で田中圭さんと中谷美紀さんの二人をあて書きして書かれたようです。
 名前どおりに腹黒い原久郎を演じる岸部一徳さんも、イメージピッタリです。こういう狸オヤジを演じさせると岸部さん、うまいですよね。
 映画の中では日和の凛子へのプロポーズシーンはありましたが、鳥類研究者と政治家である二人の出会いがどうだったのかは描かれていませんでした。原作でもそうだったでしょうか(かなり前に読んだので、忘れてしまいました。)。日和自身は女性へのアプローチに積極的ではない性格ですし、そもそも二人の出会いの機会は通常ならありえないでしょう。まあ、この映画が日本初の女性で総理になった妻と、それによりあたふたする夫の姿を描くものなので、2時間で描く映画としては出会いのシーンはカットだったのでしょう。
 何はともあれ、笑いあり、ほろっとさせる場面あり、楽しく観ることができました。
 現在、自民党の総裁選が行われていますが、女性候補も2人出馬しており、映画はタイムリーです。
護られなかった者たちへ(2021.10.1) 
監督  瀬々敬久 
出演  阿部寛  佐藤健  清原香耶  倍賞美津子  吉岡秀隆  永山瑛太  緒形直人  林遣都  岩松了  波岡一喜  奥貫薫  井之脇海  宇野祥平  黒田大輔  西田尚美  千原せいじ  原日出子  鶴見辰吾  三宅裕司   
 東日本大震災から10年が過ぎた宮城県の仙台市で廃屋となっていたアパートの一室で拘束されたまま餓死した男性の死体が発見される。更に同じように空き家から拘束され餓死した男性の死体が発見される。被害者2人とも善人、人格者と言われていた人物だったが、彼らが以前同じ福祉事務所で生活保護を担当していた市の職員だったことから、犯人は生活保護を受けられずに彼らに恨みを抱く者ではないかと警察は捜査する。やがて、かつて知人が生活保護を受けられずに餓死したことから、2人のいた福祉事務所に放火し、服役して、最近刑期を終えて出てきた利根泰久が容疑者として浮かび上がるが、そのときには既に利根は姿を消していた。
 物語は現在の警察の捜査と大震災直後の利根の状況を交互に描きながら進んでいきます。物語のテーマは生活保護ですが、それとともに東日本大震災が根底にあります。震災に生活保護と、語られるのはあまりに辛い現実です。
 犯人を追う、阿部寛さん演じる笘篠刑事も、震災によって妻子を失い、その過去を今も引きずっています。そして佐藤健さん演じる利根も震災で仕事も住居も失っただけでなく、津波に流されていく人を助けることができなかったという忸怩たる思いを心の中に抱えています。
 生活保護の問題については、戸籍上家族等がいれば行政としては援助ができるかどうかを確認しなければならず、この映画にもあるように、保護の申請をした人の中には様々な理由から今更連絡を取ってもらいたくないと、受給をあきらめる人もいたようです。このことに関する様々な問題が起こって、現在ではある程度の取扱いの変更はされたと思いますが・・・。
 被害者の一人であった生活保護担当の三雲は生活保護の仕事では、なるべく保護を受給させないように申請者に対応していましたが、その彼が震災で倒れた墓地の墓石を黙々と一人で治している様子を見ると、人間を簡単に評価はできないなと考えてしまいます。彼も政治の犠牲になった一人かもしれません。
 元生活保護担当者を餓死させるという事実からストーリーの展開は想像できます。ただ、ミステリーとしての面からは、犯人があの人というのは、ちょっと無理があるのではと思ってしまいました。 
007 ノー・タイム・トゥ・ダイ(2021.10.2) 
監督  キャリー・ジョージ・フクナガ 
出演  ダニエル・クレイグ  ラミ・マレック  レア・デドゥー  ラシャーナ・リンチ  ベン・ウィンショー  ナオミ・ハリス  ジェフリー・ライト  クリストフ・ヴァルツ  レイフ・ファインズ  アナ・デ・アルマス  ロリー・キニア  ビリー・マグヌッセン  ダリ・ベンサーラ  デヴィッド・デンシック 
 007シリーズ第25作目、ダニエル・クレイグが007を演じる第5作目であり、ダニエル・クレイグが007を演じる最後の作品です。
 MI6を辞め、恋人のマドレーヌと旅立ったジェームズ・ボンド。イタリアで平穏な生活を送っていたが、過去と決別するため訪れた、かつて愛したヴェスパーの墓でスペクターに襲われる。刑務所に収監中のプロフェルドからの電話でマドレーヌを信じきれなくなったボンドは彼女と別れる。ジャマイカで一人暮らすボンドの元に、友人でもあるCIAエージェントのフィリックスが訪れ、イギリスからスペクターによって拉致された細菌学者オブルチェフの救出を依頼される。MI6ではすでにボンドに代わって女性のノーミが“007”に任命されオブルチェフの救出任務を受けており、ボンドもフィリックスの依頼を受けて救出に向かう・・・。
 ダニエル・クレイグ版の前の007は一話完結でしたが、ダニエル・クレイグとなってからはストーリーが続きものになっており、今作でもマドレーヌとブロフェルドは前作から引き続き登場しますし、「カジノ・ロワイヤル」で亡くなったボンドの愛する人だったヴェスパーの墓参りに行ったりと過去からの話が反映しています。そして、今回はマドレーヌの過去に関わるラミ・マレック演じるサフィンとの闘いになるのですが、これまでのシリーズの伏線が一挙に回収されていきます。もう一度「カジノ・ロワイヤル」から見直したくなります。
 ダニエル・クレイグ版の007シリーズは人間ドラマの一面もあって、それ以前の007シリーズと異なってダークな雰囲気があるのですが、ダニエル・クレイグが今作で007を降りるとしても、まさかあんなラストになるとは思いませんでした。日本の北方領土らしき島も舞台になるとは驚きです。 
キャンディマン(2021.10.15) 
監督  ニア・ダコスタ 
出演  ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世  テヨナ・ハリス  ネイサン・ステュワート=ジャレット  コールマン・ドミンゴ  カイル・カミンスキー  ヴァネッサ・ウィリアムズ  ブライアン・キング  ミリアム・モス  レベッカ・スペンス  カール・クレモンズ=ホプキンス  クリスティアナ・クラーク  マイケル・ハーグローブ  ロドニー・L・ジョーンズ3世  アイリオン・ローチ 
 シカゴの公営住宅「カブリーニ・グリーン」地区には「鏡に向かって“キャンディマン”と5回唱えると、右手がかぎ爪になった怪物が現れ、襲われる」という都市伝説があった。やがて老朽化した公営住宅は取り壊され、再開発されたメゾネット型マンションに住んでいるアーティストのアンソニーは、この地に伝わる都市伝説に興味を覚え、更にこの地区の元十人だったウィリアム・バークとの出会いによって都市伝説に隠された恐ろしい真実を知り、翻弄されていく・・・。
 ホラーだと心して観に行ったのですが、視覚的な怖さはまったくありませんでした。「ゲット・アウト」、「アス」の監督、ジョーダン・ピールの製作・脚本らしく、雰囲気的にはこれらの作品と似ています。
 正直のところ、まったくおもしろくありませんでした。なぜアンソニーのもとで都市伝説が蘇るのかがよくわかりませんし、女子学生が学校のトイレでキャンディマンに惨殺されるエピソードも唐突過ぎます。アンソニーの話とどう関係があるのでしょう。エンドロールで影絵があり、このキャンディマンの都市伝説に隠された昔からの出来事が何となくわかります。最近もアメリカで黒人が白人警察官によって意味なく殺害された事件がありましたが、結局、キャンディマンは白人の暴力によって殺害された黒人の怒りを表す存在なのではないでしょうか。 
DUNE デューン 砂の惑星(2021.10.15) 
監督  ドゥニ・ヴィルヌーヴ 
出演  ティモシー・シャラメ  レベッカ・ファーガソン  オスカー・アイザック  ジョシュ・ブローリン  ジェイソン・モモア  チャン・チェン  スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン  シャロン・ダンカン=ブルースター  ゼンデイヤ  シャーロット・ランプリング  ハビエル・バルデム  ステラン・スカスルガルド  デイブ・バウティスタ  デビッド・ダストマルチャン 
  10190年、宇宙は皇帝シャッダム4世のもと、1つの惑星を1つの大領家が治める大領国連合が形成されていた。大領家の一つであるアトレイデス家は皇帝の命によって、豊かな水の惑星カラダンから長年にわたって対立しているハルコンネン家が治めていた砂の惑星アラキスへと移ることとなる。そこは人間の精神を拡張する力を持つ香料(スパイス)を産する惑星であり、それによって財を成したハルコンネン家にとっては、自らに代わってアラキスに移るアトレイデス家に対する憎しみを一層増すことになったが、それは、慈悲深く勇気あるアトレイデス公爵の人気を怖れた皇帝の罠だった。やがて、皇帝軍とハルコンネン軍は連合して砂の惑星を攻撃する・・・。
 ヒューゴー賞、ネビュラ賞、星雲賞といったSF小説の賞を総なめしているフランク・ハーバートの同名SF小説の映画化です。1984年には「エレファントマン」や「ツイン・ピークスのデビッド・リンチ監督が映画化しましたが、デビッド・リンチ版は長大な原作を2時間17分の上映時間にまとめたがゆえに面白くなかったという評価になってしまいましたが、今回は最初から続編を予定しているため、とりあえず今回は皇帝とハルコンネン連合軍から逃れたポールとレディ・ジェシカがアラキスの先住民であるフレメンに保護されるまでということで、次作を期待させます。2時間半強の上映時間も長いと感じませんでした。とはいえ、ヒロインというべきゼンデイヤ演じるチャナが登場したのは、主人公のポール・アトレイデスの幻想の中と終わる直前でしたから、レヴューを見ると不満の人もいたようです。ゼンデイヤの活躍は次作に期待ですね。
 今回、アトレイデス軍は奇襲攻撃を受けたので、宇宙船同士の闘いはほとんどありません。それより地上戦ですが、未来になって科学が進んでも「スターウォーズ」でもそうでしたが、結局剣の闘いというのが何とも言えません。
 主人公ポール・アトレイデスを演じたティモシー・シャラメは「君の名前を呼んで」で、アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞にもノミネートされた人気・実力を兼ね備えた俳優ですが、私にとっては初見。個人的にはポールの母であるレディ・ジェシカを演じたレベッカ・ファーガソンに注目です。彼女を一躍有名にした「ミッション・インポッシブル/ローグネイション」でも派手なアクションを演じてくれましたが、この作品でもかっこいいし、きりりとした表情が意志の強いジェシカ役にピッタリです。
 この原作小説は多くの作品に影響を与えているようで、宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」もそのひとつだそうです。この映画のアトレイデス軍の乗るトンボのように羽の飛行機は宮崎監督作品にも似たような飛行機が登場しますよね。また、ポールの持つ能力は「スター・ウォーズ」のフォースのようですし、砂漠の虫サンドワームもエピソード6に同じようなものが登場しましたよね。
燃えよ剣(2021.10.19) 
監督  原田眞人 
出演  岡田准一  柴咲コウ  鈴木亮平  山田涼介  伊藤英明  尾上右近  山田裕貴  金田哲  松下洸平  村本大輔  たかお鷹  安井順平  村上虹郎  柄本明  坂東巳之助  谷田歩  阿部純子  高嶋政宏  市村正親  大場泰正  山路和弘  坂井真紀  渋川清彦  マギ-  松角洋平  淵上泰史  酒向芳  三浦誠己  吉原光夫 
僅か5年しか存在しなかった新撰組の始まりから終わりまでを五稜郭の戦いを前にした土方歳三が語るという形で物語は進みます。原作は司馬遼太郎さんの小説ですが、文庫で上下2巻に及ぶ内容を2時間半強に収めるのは難しかったと思いますが、土方の語りで重要な出来事を中心に描かれていきます。
 描かれるのは武州多摩でバラガキと呼ばれていた土方たちが京都に出る過程、芹沢鴨の暗殺、池田屋事件、伊藤甲子太郎の暗殺(油小路事件)など。特に新選組と言ったらこの事件と言うべき「池田屋事件」はこの映画の中での一番の見どころです。
 土方歳三役を演じた酒宴の岡田准一さんですが、最近の「ファブル」でも見せてくれたように、格闘技の技能の高さが、今回の剣術にも表れています。原田眞人監督も剣での戦いのシーン、殺陣はすべて岡田さんに任せていたというから、凄いです。剣の腕前では土方以上とされる芹沢鴨を殺害するシーンで、土方と齋藤が芹沢鴨が寝る布団の上に倒れたふすま越しに何度も刀を刺すシーンは迫力ありました。また、人斬り以蔵を絞め落とすシーンはさすが岡田さんらしいです。
 このところ、テレビドラマ「TOKYO MER」での爽やかな医師役とそれとは180度異なる「弧狼の血 LEVEL2」でのやくざの組長役にその演技の幅の広さが絶賛されている鈴木亮平さんですが、今回は近藤勇という新撰組組長を見事に演じます。
 永倉新八とか斎藤一など新撰組では有名な人物も登場しますが、今までの新撰組ものでは存在に焦点が当てられていなかった井上源三郎という人物に焦点を当てているところもこの作品も特徴です。今まで新選組で全く知らなかったで存在すね。
 また出演者としては、お笑い芸人である“はんにゃ”の金田哲さんと“ウーマンラッシュアワー”の村本大輔さんが新撰組の藤堂平助と山崎丞を演じています。金田さんは確か剣道をやっていたと思いますから、一応剣術シーンは素人というわけでもなかったですね。一方山崎丞を演じた村本さんですが、ぶつぶつと早口で話す商人風の男だけど目付きは鋭いという強烈な印象を残していました。
 コロナ禍の前に撮影された京都をはじめとする様々な撮影場所も見どころです。 
CUBE(2021.10.22) 
監督  清水康彦 
出演  菅田将暉  杏  岡田将生  田代輝  斎藤工  吉田鋼太郎  柄本時生  山時聡真   
 1997年公開のヴィンチェンゾ・ナタリ監督の「CUBE」の日本版リメイクです。
 後藤裕一が目覚めると、そこは六方向に出入口がある立方体の部屋の中。そこには越智真司と名乗る青年と中学生の宇野千陽がいたが、彼らの誰もなぜここにいるのか理解できていなかった。やがて、隣の部屋から井手寛と甲斐麻子が現れる。ここから出るという井手の後について彼らは別の部屋へと移り、やがて別の部屋にいた年配の会社役員である安東和正が加わり、彼ら6人は“CUBE”からの脱出を試みる。部屋には様々な死に至るトラップが仕掛けられた部屋もあったが、トラップのない部屋がどれかが分かる仕組みに千陽が気づく・・・

(ここからネタバレあり)

 6人がいったい何者なのかは、自らコンビニでアルバイトをしていると言った越智や会社役員と名乗った安東、そして年齢的に中学生だろうという千陽はわかったのですが、後藤らは、ラストになるまで職業さえわかりません(終わりも終わり、映画が終わるときにようやく彼ら個々のキャラクター、後藤がエンジニアだったことがわかります。)。そして、一番肝心な、なぜこのCUBEの中に彼らがいるのか、彼らをここに連れてきたのは誰かは最後まで明らかにされませんでした。たぶん、これはオリジナルでも同じだったと思いますが、やっぱり、さっぱりしませんねえ。消化不良です。
 菅田将暉さんが演じた後藤裕一は父に虐待されていた弟を自殺から救えず、更には自殺しようとした弟に差し伸べた手を引いてしまったという後悔があり、岡田将生さん演じる越智真司は何をやってもうまくいかず誰からも馬鹿にされているという思いを持ち、千陽はいじめを受けていたようであり、斎藤工さん演じる井出寛は詳細は不明ですが妻のために早く脱出したいと思っています。また、吉田鋼太郎さん演じる安東は、傲慢な男でしたが、やがて自分がここまでになるために他人を蹴落とし悪いこともやってきたと告白します。そんな彼らに対し、自分自身のことを何も語らない人物がいることで、「ああこの人は閉じ込めた側の人だな」と分かってしまいます。もう少し、他の人々に合わせる必要があったのではないでしょうか。だいたい、後藤たちも「その人に聞けよ!」と思ってしまいました。
 主題歌を星野源さんが歌うということで評判を呼びましたが、エンドロールで流れる歌は個人的な感想としては映画に合っていないし、何言ってるかもよくわかりませんでした(星野さんファン、ごめんなさい。)。
 冒頭、悲劇的な結末を迎える男を演じたのは柄本時生さん。セリフもない役でしたが、彼の舞台からの退場がその後の6人の運命を暗示させる重要な役どころでした。 
ライトハウス(2021,10,23)
監督  ロバート・エガース  
出演  ウィレム・デフォー  ロバート・パティンソン  
 1890年代、ニューイングランドの孤島にある灯台の管理のため2人の灯台守がやってくる。4週間にわたり灯台を管理するのが仕事だったが、2人の灯台守、ベテランのトーマス・ウェイクと新人の若者、イーフレイム・ウィンズローは初日からそりが合わずに衝突する。やがて、島を襲った嵐により、2人は孤立状態になってしまうが・・・。
 スクリーンはモノクロで、サイズも昔のテレビのような正方形。登場人物もほとんどが二人の灯台守だけで、あとは人魚と二人が灯台に来た時に交代して帰っていく二人の灯台守だけ。まあ地味な映画でした。
 狭い空間の中で男が2人ですから、そりが合わなければ一緒に暮らすのは苦痛でしょうね。特にベテランのトーマスは新人のイーフレイムを常に馬鹿にした態度で接するのですから、イーフレイムが正常な精神状態を保つのは大変でしょう。娯楽もないし、気にくわない者同士で四六時中顔を突き合わせていなければならないなんて、たまったものではありません。せめて、太陽が輝く天気だったら気分転換にもなるでしょうが、外は嵐かどんよりとした空模様ですから、気分も落ち込みます。やがて二人が精神に異常をきたしていくのも無理ないところです。
 トーマスを演じたのはウィレム・デフォー、イーフレイムを演じたのは最新シリーズの「バットマン」を演じることになったロバート・パティンソン。映画を観ているというより、二人の舞台劇を観ているような感じでした。
 映画評でわりと評判が良かったので、東京から3か月遅れで地元のミニシアターで上映されると聞いて、観に行ってきました。こんな地味な映画、東京ではともかく地元では人が入らないだろうなあと思ったら、意外に観に来た人がいました。 
ハロウィンKILLS(2021.10.29)
監督  デヴィッド・ゴードン・グリーン 
出演  ジェイミー・リー・カーティス  ジュディ・グリア  アンディ・マティチャック  アンソニー・マイケル・ホール  ジェームズ・ジュード・コートニー  カイル・リチャーズ  ナンシー・スティーヴンス   
(ネタバレあり)
 2019年に公開された前作で、ジェイミー・リー・カーティス演じるローリーとその娘たちにより、ブギーマンは火に焼かれて死ぬはずだったのに、そうはいかないのがホラー映画の定番。焼ける家の中から出てきて火事の消化に当たっていた消防士たちを次々惨殺します。
 40年前のハロウィンの事件で生き残ったトニーやマリオンたちは町の住民たちにブギーマンことマイケル・マイヤーズを倒そうと呼びかけるが、ブギーマンは凶行を重ね、やがてマリオンらも殺害されてしまう。恐怖に捕らわれた住民たちにより、ブギーマンではない者が間違えられて住民に殺害されるなど、町は混乱に陥る・・・。
 今回も、住民たちによりブギーマンは倒されたかと思いきや、やっぱり駄目でした。でも、あんなに殴られ、刃物で刺され、拳銃で撃たれても死なないのでは、もうどうにもできませんね。来年にはこの3部作の完結編が公開されるそうですが、果たしてブギーマンはどうなるのでしょう。そして、今回は前作での大怪我という設定のため、あまり活躍しなかったジェイミー・リー・カーティス演じるローリーはどうなるのでしょうか。 
そして、バトンは渡された(2021.11.2)
監督  前田哲     
出演  永野芽郁  田中圭  石原さとみ  岡田健史  大森南朋  市村正親  稲垣来泉  朝比奈彩  戸田菜穂  安藤裕子  木野花
 瀬尾まいこさん原作の同名小説の映画化です。何せ、2019年の本屋大賞受賞作ですから、これを映画化する監督も役を演じる俳優さんたちも勇気が言ったことだろうと思います。
 物語は幼い頃に母を亡くし、父の再婚相手と暮らす“みいたん”と血のつながらない父・森宮さんと暮らす高校生・森宮優子を描いていきます。
 映画には小説にはないある仕掛けが施されているのですが、これは完全に泣かせにきているなあという感じです。その点ではかなり成功したのではないでしょうか。劇場内には映画が始まるまで大きな声で話をしてうるさかった女子高校生たちがいたので、上映中静かでいられるかなあと危惧していたのですが、予想外に静かに観ていて、ラストは大号泣。映画を観てあれほど声をあげて泣いている人を見るのは初めてでした(ある意味、逆にうるさかったですけどね。)。
 “みいたん”の父の再婚相手・梨花を演じたのは石原さとみさん。やはり、悩みがあっても、他人の前では元気で明るく振る舞う梨花の役には石原さとみさんはピッタリですねえ。森宮さんを演じたのは田中圭さん。このところ、「総理の夫」「あなたの版です 劇場版」と続けざまの出演です。売れていますねえ。嫌味のない誠実そうなところがいいのでしょう。“みいたん”を演じた子役の女の子も上手でしたし、何より森宮優子を演じた永野芽郁さんが今まで主人公を演じてもそれほど印象に残らなかったのですが、今回はよかったですねえ。初めて印象に残りました。泣かそうというあざとさはありましたが、個人的にはここまでの邦画の一番です。 
老後の資金がありません!(2021.11.3)   
監督  前田哲 
出演  天海祐希  草笛光子  松重豊  新川優愛  瀬戸利樹  加藤諒  柴田理恵  若村麻由美  石井正則  友近  クリス松村  三谷幸喜  竜雷太  藤田弓子  佐々木健介  北斗晶  哀川翔  毒蝮三太夫  高橋メアリージュン  荻原博子  
 垣谷美雨さんの同名小説の映画化です。
 後藤篤子はサラリーマンの夫、フリーターの長女、大学生の長男との4人暮らし。人生100年時代、老後の資金は2000万円が必要と言われる中、2人の子どもを育てながらパートでこつこつと老後のためにお金をためていた篤子の楽しみは月謝5000円のヨガ教室と店のウィンドウに飾られた憧れのブランドバックを眺めること。そんな篤子の家計に経済的危機が訪れる。昔、老舗の和菓子屋だった義父が亡くなり、見栄張りの義母の要望で派手な葬式を行ったが、弔問客はほとんどなく、期待の香典も少額で大幅な赤字。更に正社員登用を期待していたパートは期間満了で終了となり、娘は突然結婚相手を連れてきて豪華な結婚式をするといい、その上、夫の会社が倒産。ローン返済の頼みだった退職金も出ないことになってしまい、貯金はどんどん減っていってしまう。とうとう義母への仕送りもできなくなり、義母を自宅に引き取って同居することになるが、この義母が金遣いの荒い浪費家だった・・・。
 政府は2000万円がないと豊かな老後が送れないと言っていますが、いったい国民の中でどれだけの人が2000万円の貯えがあるのでしょうか。小泉政権以降、持つ人と持たざる人との格差が広がり、持っている人は使い切れないくらいの財産を持っているのでしょうけどねえ。土地や家屋の不動産を有していても、バブルの頃とは異なって、今はそうそう売れませんから、不動産という財産があっても現実にその日その日を食べていくことはできません(固定資産税はかかりますし。)。
 物語の設定のように夫婦2人が50代でそろってリストラで無職となれば、年金は当分出ませんし、現実は暗いですよねえ。50代でそれも篤子の夫のように事務系で手に技術も持っていないようでは再就職も難しい。今の収入を期待して組んだ家のローンも払うことはできないから、結局売却せざるを得ないでしょうね。
 とにかく、篤子を演じた天海祐希さんが適役です。右往左往しながらも前に突き進んでいく篤子の役はもう天海さんしか考えられません。また、家計のことは妻任せで、どこか深刻さの足りない篤子の夫・章を演じた松重豊さんも役にぴったりです。そして、一番強烈な印象を残したのは義母の芳乃を演じた草笛光子さん。芳乃より高齢の80歳後半の年齢でありながら、ヨガでの体の柔らかさは見事ですし、さすが松竹歌劇団出身だけあって「ラスタダンスは私に」の歌唱も素晴らしいです。そうそう、篤子が「宝塚に入ろうと思った」と言ったことに対し、芳乃が「あなたには無理よ」という会話には笑ってしまいました。
 設定はかなり厳しい状況の映画ですが、この映画はコメディですから、暗いことは考えずに大笑いしてストレスを発散するのが一番です。 
エターナルズ(2021.11.6)
監督  クロエ・ジャオ  
出演  ジェンマ・チャン  リチャード・マッデン  アンジェリーナ・ジョリー  サルマ・ハエック  ブライアン・タイリー・ヘンリー  ローレン・リドロフ  バリー・コーガン  ドン・リー(マ・ドンソク)  クメイル・ナンジアニ  リア・マクヒュー  ハーリッシュ・パテル  キット・ハリントン
 マーベル・シネマティック・ユニバースの1作です。
 7000年前、宇宙の創造主・セレスティアルズに命じられ、凶悪な生物・ディヴィアンツから人類を守るために地球にやってきた不死の異性種族エターナルズの10人。ディヴィアンツと戦い、時には人類に知恵を授けながら生きてきた彼らだったが、ディヴィアンツの最期の一匹を倒すと、迎えが来るまで人類の中でひっそりと暮らすこととなる。ところが現代になって、突然彼らの前に倒したはずのディヴィアンツが現れる。彼らは再び結集しようとする・・・
 マーベル・シネマティック・ユニバースの1作であるなら、これだけ、様々な能力を持ったエターナルズが、サノスが指パッチンをして人類の半分が消えた時に何もしなかったのは、どうしたなんだ!と、最初思ったのですが、エターナルズはディヴィアンツが関わったものでないと手を出すことが禁じられているということが前半にサラッと語られます。でも、人類が滅んでしまったらそもそもエターナルズの存在価値がないと思うのですけどねえ。
 10人のメンバーの中心となるのが中国系イギリス人のジェンマ・チャンが演じるセルシ。更に怪力のギルガメッシュを演じるのが韓国人俳優のドン・リー(マ・ドンソク)で、キンゴを演じるクメイル・ナンジアニがパキスタン系アメリカ人ですから、かなりアジアに気を使っていますね。また、現代を反映してか、ブライアン・タイリー・ヘンリー演じるファストスはゲイです。
 この10人の中でいえば俳優の格としてはセナを演じるアンジェリーナ・ジョリーでしょうけど、今回は脇役に回っています。10人がこのまま続編にも登場するかと思いましたが、何人かが死亡し、能力を捨てた人もいます。でもラストできちんとその穴を埋める人物が登場しましたね。さて、次作はどうなるのでしょう。
カオス・ウォーキング(2021.11.12) 
監督  ダグ・リーマン 
出演  トム・ホランド  デイジー・リドリー  マッツ・ミケルセン  デミアン・ビチル  シンシア・エリヴォ  ニック・ジョナス  デヴィッド・オイェロウォ 
 かつて地球を旅立ち、新たな星「ニュー・ワールド」に移住した者たちは先住生物スパクルと戦いながらその星に街を築く。しかし、そこは男が心の中で思ったことが“ノイズ”として外に現れてしまう星だった。街には先住生物によって女性が虐殺されたため、男性しか存在せず、“ノイズ”を自らの意思でコントロールできる能力を持つプレンティスが首長を務めていた。そこに住む青年・トッドはある日宇宙船が落下しているのを発見し、一人の若い女性・ヴァイオラだけが生存していることを知る。トッドはプレンティスに知らせ、ヴァイオラは捕まるが、なぜかプレンティスはヴァイオラが母船に連絡することを止めようとする。逃げ出したヴァイオラを助けたトッドは二人で母船への連絡をするため、育ての親のベンから聞いた別の街に向かうが・・・。
 「スパイダーマン」のトム・ホランドと「スターウォーズ」のデイジー・リドリーの共演ということで、期待をして観に行ったのですが、期待外れというのが正直なところです。未来の話ですが、中身は西部劇みたいですし、何より、先住生物に虐殺された女性の本当の死因に「え~!」と思ってしまいます。先住生物との関係も中途半端です。トッドが戦ってわかりましたが、肉体的には相手の方が強いわけですが、その科学力とかどうなっているのでしょう。
 心で思っていることがすべて他人にわかってしまう世界なんて、とてもじゃないけど生きづらくてたまりません。気が合わない者同士なら喧嘩になるだろうし、何より女性を前にした場合は恥ずかしいことが女性にダダ洩れですからねえ。それを思えば、男だけの街というのもある意味理解できないでもありません。 
ディア・エヴァン・ハンセン(2021.11.27) 
監督  スティーヴン・チョボスキー 
出演  ベン・プラット  ジュリアン・ムーア  ケイトリン・ディヴァー  エイミー・アダムス  ダニー・ピノ  アマンドラ・ステンバーグ  コルトン・ライアン  ニック・ドダニ 
 ブロードウェイのミュージカルの映画化です。
 自分に自信がなく、孤独なエヴァンは、自己を見つめるために精神科医から自分あての手紙を書くように言われて手紙を書くが、エヴァンはその手紙を学校の嫌われ者のコナーに奪われてしまう。後日、コナーが自殺し、ポケットに入っていた「ディア・エヴァン・ハンセン」で始まる手紙を読んだ彼の両親は、嫌われ者で友人がいないはずだった息子にエヴァンという友人がいたと誤解する。喜ぶコナーの両親の気持ちを考えて、エヴァンは真実を話すことができなくなってしまい、コナーの友人として嘘を続けることになってしまう。更にネットで流されたコナーを送る会でのエヴァンのメッセージが大きな感動を生み、エヴァンは嘘を重ねることになってしまうが・・・。
 ただでさえ、自分に自信がなく、自分の気持ちをはっきり口に出すことができずに精神科も受診しているエヴァンが喜ぶコナーの両親に対し、当初真実を述べることができなかったのは無理もないことでしょう。そのうえ、エヴァンを片親で育てるために一生懸命働く母親がなかなか家庭を顧みることができないのに対し、コナーの家は裕福で母と義理ではあるが父もいる家庭で、エヴァンにとっては心安らげる居場所となっており、それを失いたくないという気持ちもあったのでしょう。ただ、嘘の上塗りでどうしようもないところまで行ってしまうのもよくある話。エヴァンを信用してクラウドファンディングを始めたアラナやそれを支援した人々を裏切ることになっても、嘘をやめられなかったエヴァンを見ているのが辛いです。
 最後には嘘がわかり、エヴァンは批判されますが、そんなエヴァンが行ったことが感動を呼びます。 
ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ(2021.12.4) 
監督  アンディ・サーキス 
出演  トム・ハーディ  ミシェル・ウィリアムズ  ウッディ・ハレルソン  ナオミ・ハリス  リード・スコット  スティーブン・グレアム  ペギー・ルー 
 シリーズ第2弾です。
 地球外生物シンビオートに寄生されたエディは奇妙な共同生活を送っていた。そんなとき、エディは連続殺人鬼・クレスタに刑務所に呼び出されるが、彼に噛まれてしまう。シンビオートの細胞が入ったエディの血が体内に入ったクレスタは怪物・カーネイジへと変身し、脱獄、彼の恋人であり、口から音波を発することにより物質を破壊する能力を持ったフランシスを彼女が幽閉されていた研究所から連れ出す。更にエディをおびき寄せるためにエディが愛するアンを拉致する。アンを助けに行ったエディはヴェノムに変身し、カーネイジと戦う・・・。
 この映画、本編よりエンドロールで描かれるシーンの方が衝撃的です。マーベルのコミックではヴェノムはスパイダーマンに対抗するヴィランのようですが、前作、今作でもスパイダーマンとの関わりは描かれていませんでした。今作のエンドロールのシーンでエディがいる部屋が突然変わり、テレビにスパイダーマンが映るニュースが流されていました。今後新たな展開になるのではと予想されるシーンなので、場内が明るくなるまで席を立つべからずです。スパイダーマンの新作「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」の予告編ではスパイダーマンがピーターだという記憶をみんなから消そうとドクター・ストレンジがしたことによって、いくつかの世界がくっついてしまったようですから、元は違う世界にいたスパイダーマンとヴェノムが同じ世界にいることになってしまうのでしょうか。そこは「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」で種明かしがされるのでしょう。
 それにしても、人を食べたいというヴェノムに対し、チョコレートと鳥で空腹を我慢させるのには笑ってしまいます。このあたりはコメディです。 
マトリックス・レザレクションズ(2021.12,17)
監督  ラナ・ウォシャウスキー
出演  キアヌ・リーブス  キャリー=アン・モス  ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世  ジョナサン・グロフ  ジェシカ・ヘンウィック  ニール・パトリック・ハリス  ブリヤンカー・チョープラ・ジョナス  エレンディラ・イバラ  ジェイダ・ピンケット=スミス  ランベール・ウィルソン
 キアヌ・リーブス演じるゲームクリエイターのトーマスは社長のスミスから作りたくないゲームの製作を迫られていた。指針的に追い詰められたトーマスは精神科医にかかり、処方された青いカプセルを常用していた。やがて、トーマスはカフェで出会うティファニーという女性が気にかかるようになる・・・。
 1999年に公開され、その映像表現が観客を圧倒し、その後2003年公開の「マトリックス リローデット」「マトリックス レボリューションズ」の3作品が製作されたシリーズの18年ぶりの新作です。前3作は、1作目の印象があまりに強烈すぎて、2作目、3作目と次第に尻つぼみという感じが個人的にしていました。今でも1作目の銃で撃たれたネオが身を反らして銃弾をよけるシーンはシリーズの中でも一番印象的なシーンで鮮明に覚えています。今回、一応全3作で完結だったシリーズをどう新たに展開していくのかと期待をして観に行きました。以前もマトリックスの世界観がよくわからなかったので、今回は敢えて吹替版で鑑賞したのですが、やっぱり、よくは理解できなかったというのが正直な感想です。今までのシリーズはゲームの中の世界だったとネオに思わせていたということでしょうかねえ。
 当然のことですが、ネオを演じるキアヌ・リーブスもトリニティーを演じるキャリー=アン・モスも歳をとっていましたし、キアヌ・リーブスなんか、長髪と髭という風貌がジョン・ウィックみたいでした。モーフィアスはローレンス・フィッシュバーンではなかったし、エージェント・スミスもヒューゴ・ウィーヴィングでなかったのは残念です。以前のシリーズからの二人のサービス・カットはありましたが、モーフィアスとスミスのキャラはローレンス・フィッシュバーンとヒューゴ・ウィーヴィングで確立されていましたからね。
 最後は何だかゾンビとの戦いみたいだったのにもあ然です。