今年読了した本は、国内編が116冊、海外編が6冊の計122冊。だいたいいつもどおりでした。今年はミステリのシリーズものに名作が多く、豊作の年でした。
国内編の第1位の「黒牢城」は、年末のミステリベスト10の第1位を独占した作品です。歴史上の事件を舞台に有岡城に幽閉された歴史上の人物・黒田官兵衛を探偵役にして、歴史上の事件の裏で起こっていた架空の事件の謎解きをさせるというのが面白いです。へそ曲がりの私でもこれは第1位にせざるを得ない面白さでした。
第2位は「機龍警察 白骨街道」です。この作品の連載中に、現実に軍事クーデターが起きて政権が交代してしまったミャンマーの地を舞台に姿、ユーリ、ライザの3人が日本を離れて活躍します。今回は自分たちの龍機兵ではなく、既成の機甲兵装で戦う3人の活躍、更には黒社会の幹部・關の予想外の形での登場にページを繰る手が止まりません。
第3位は「遠巷説百物語」です。前作から11年ぶりのシリーズ6弾です。今回は不思議な話に相応しい柳田国男の「遠野物語」で有名な遠野が舞台です。仕掛けをするのは長耳の仲蔵と六蔵屋の柳次ですが、あの人物も登場し、591ページという京極さんらしい相変わらずの弁当箱本ですが、やっぱり京極さん、うまいです。いっき読みでした。
第4位は「兇人邸の殺人」です。「屍人館の殺人」「魔眼の匣の殺人」に続く剣崎比留子と葉村譲のコンビのシリーズ第3作です。第1作の○(ネタバレになるので伏せます)、第2作の預言者、そして今作の怪物と今回も突拍子もない設定の中で起こる殺人事件を剣崎比留子が解き明かします。今回、剣崎は安楽椅子探偵の立場というのも面白いです。
第5位は「硝子の塔の殺人」です。この作品は綾辻さんから始まる新本格ミステリを継ぐ“館もの”です。閉ざされた館の中での密室殺人に加え、ダイイングメッセージや読者への挑戦など新本格ミステリファンにはたまりません。
第6位は「蒼海館の殺人」です。「紅蓮館の殺人」に続くシリーズ第2弾です。前作の結果で名探偵であることに悩み不登校となった高校生探偵・葛城に会うために葛城の実家にやってきた田所たちが殺人事件に遭遇します。前作では館に山火事が迫りましたが、今回は決壊した川の水が迫るタイムリミットが示されます。
第7位は、「invert 城塚翡翠倒叙集」です。「medium 霊媒探偵城塚翡翠」の続編で、今回は倒叙形式の3編が収録されています。ただ単に霊媒探偵城塚翡翠が犯人と対決するだけでなく、読者も騙すもうひとひねりがあるところに見事にやられました。
第8位は「アクティベイター」です。物語は、中国から戦闘機が亡命を求めて日本の空港に降り立つということから始まる、遥か昔ソ連のミグ戦闘機が亡命した時のような話です。中国人パイロットが女性というのが現代的です。警察や外務省、自衛隊に加え経済産業省まで登場する上に、中国、アメリカが介入してきて事件が錯綜し、これまたページを繰る手が止まりません。ホッケーマスクをかぶった女性の殺し屋のキャラもこの作品だけではもったいないですね。
第9位は「ボーンヤードは語らない」です。マリア・ソールズベリーと九条漣のコンビシリーズ第4作です。今回は短編集ですが、マリアと漣が警察官になるきっかけがそれぞれ語られているので、ファンとしては外せない作品です。
第10位は「ペッパーズ・ゴースト」です。伊坂さんの今年の新作はこの1作だけでしたが、伊坂ファンとしては外すことはできません。主人公の教え子が書く小説の登場人物であるはずの二人のキャラが愉快です。
第11位は「同志少女よ、敵を撃て」です。第二次世界大戦下のロシアとドイツの戦いを舞台に、狙撃兵として訓練され戦場に赴いた少女を描いたアガサ・クリスティー賞受賞作です。戦場で最後に主人公・セラフィナがとった行動はあまりに切ないです。
第12位は昨年「半席」が評判を呼んだ青山文平さんの「半席」と同じ徒目付の片岡直人を主人公とする短編集「泳ぐ者」がなかなかです。
第13位は「幻月と探偵」です。太平洋戦争前夜の満州を舞台に後に怪物と呼ばれた若き吉田茂が殺人事件の裏で暗躍します。しかし、この吉田や名探偵の上を行くのが犯人です。
第14位は「ヒトコブラクダ層ゼット」です。13位までの作品とは全く雰囲気の異なるSFであり、ファンタジーであり、冒険小説であるという万城目さんらしい奇想天外の作品です。理屈抜きに楽しむことができる作品です。
第15位は「帝国の弔砲」です。「抵抗都市」に続く、日本が日露戦争でロシアに敗れたパラレルワールドの世界を舞台にした作品です。「抵抗都市」はミステリ小説でしたが、こちらは一人の男の人生を描く大河小説という形の重厚な物語でした。
海外編は6冊を読了。今年の各ミステリ・ベスト10で上位の「ヨルガオ殺人事件」、「自由研究には向かない殺人」、「スリープ・ウォーカー」、「オクトーバー・リスト」は積読状態で読むことができませんでした。6冊の中の新作では台湾の探偵小説である「台北プライベートアイ」が一番。大学教授の地位を捨てて探偵になるという主人公の思考回路もユニークですし、探偵なのに車も運転できず、移動手段が自転車とは笑ってしまいました。「木曜殺人クラブ」も題名からわかるようにアガサ・クリスティにオマージュを捧げる作品で年寄りたちの活躍に拍手です。
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