2020年読了本マイ・ベスト10

順位 題名 著者 出版社
国内編1 暗約領域 大沢在昌  光文社
   1 逆ソクラテス 伊坂幸太郎 集英社
 1 暴虎の牙 柚月裕子 角川書店
 1 きたきた捕物帖 宮部みゆき PHP研究所
 1 インビジブル 坂上泉 文藝春秋
 1 透明人間は密室に潜む 阿津川辰海 光文社
楽園とは探偵の不在なり 斜線堂有紀 早川書房
歓喜の歌 博物館惑星Ⅲ 菅浩江 早川書房
Another 2001 綾辻行人 角川書店
少年と犬 馳星周 文藝春秋
うるわしみにくしあなたのともだち 澤村伊智 双葉社
蟬かえる 櫻田智也 東京創元社
 1 ドミノin上海  恩田陸  角川書店 
海外編1 死亡通知書 暗黒者 周浩暉 ハヤカワ・ミステリ
特捜部Q アサドの祈り ユッシ・エーズラ・オールスン ハヤカワ・ミステリ
網内人  陳浩基  文藝春秋 
 4 その裁きは死  アンソニー・ホロヴィッツ  創元推理文庫 

 今年読んだ本は116冊(うち海外編4冊)。昨年より13冊の減でした。
 今年はランクをつける余裕がないので、面白かった本を上げておきます。
 大沢在昌さんの「暗約領域」は新宿鮫シリーズ11弾です。今回は、後ろ盾となってくれていた桃井がいなくなった鮫島がどうなるのか、新しく就任した女性課長との関係はどうなるのか、今まで常に単独捜査を行っていた鮫島が相棒の若手刑事とどうやっていくのか等々読みどころ満載です。
 伊坂幸太郎さんの「逆ソクラテス」は伊坂ファンとしては外すわけにはいきません。5編が収録された短編集です。どれもが子どもを主人公にしたもの。やっぱり伊坂作品は素敵だなあと思う読了感爽やかな作品ばかりです。一つ一つは別々の作品ですが、表題作の「逆ワシントン」のラストで、その前に収録されている「アンスポーツマンライク」の登場人物がテレビに流れるあるシーンを見て号泣するところがグッときますねえ。「アンスポーツマンライク」にさりげなく張ってあった伏線をものの見事に回収しています。
 柚月裕子さんの「暴虎の牙」は「孤狼の血」、「狂犬の眼」に続くシリーズ完結編です。主人公の沖が前作の主人公犬上、日岡以上の強烈な印象を残します。
 宮部みゆきさんの作品からは新シリーズとなる連作短編集の「きたきた捕物帖」です。題名の「きたきた捕物帖」の“きたきた”というのは、この物語の主人公である北一と「だんまり用心棒」から登場した喜多次のこと。あっという間に人を気絶させたり、家の中に密かに侵入することができる喜多次の正体はいったい何者なのか、謎を抱えながらシリーズ化がなされるようです。差配人の富勘や笙之介が絵を描いていた村田屋の治平衛も登場するほか、「初ものがたり」に登場する稲荷屋の親父の正体が明らかになるという、宮部ファンにとっては嬉しい他作品とのリンクもあります。
 坂上泉さんの「インビジブル」は昭和29年、大阪市を管轄とする自治体警察として大阪市警視庁という“警視庁”を名乗る組織が東京以外に存在していた頃、大阪で起きた連続殺人を捜査する東警察署の巡査・新城洋と国警大阪府本部警備部二課の警部補・守屋恒成のコンビの活躍を描きます。
 阿津川辰海さんの「透明人間は密室に潜む」は4編が収録された短編集ですが、何と言っても表題作である「透明人間は密室に潜む」が一番です。透明人間であるが故の殺人の難しさ、更に密室内で透明人間が隠れる場所はどこかを描きます。
 斜線堂有紀さんの「楽園とは探偵の不在なり」は、とにかく、二人殺すと天使によって地獄に引きずり込まれる世界での連続殺人という設定の面白さが一番ですね。
 菅弘江さんの「歓喜の歌 博物館惑星Ⅲ」は地球の衛星軌道上に建造された博物館惑星“アフロディーテ”を舞台にエピソードが語られる博物館惑星シリーズ最終作です。前作で謎めいた人物として描かれていた兵頭健の叔父である兵頭丈次の正体が明らかとなり物語は大団円を迎えます。ラストを飾るのが、ベートーベンの交響曲第9番「歓喜の歌」というところが大団円らしいところです。
 綾辻行人「Another 2001」はシリーズ第3弾です。主人公はシリーズのスピンオフともいえる「Another エピソードS」で重要な役を演じた少年・比良塚想。もちろん、高校3年生になった見崎鳴も登場します。この作品、ホラーですが、クラスに紛れ込んだ死者は誰かという謎解きのおもしろさもあります。この点、前作の内容を詳細に覚えている人には、今回は最初からわかってしまうようです。ただ、死者が誰かが分かってからが今回はもうひとひねりがあって面白いです。
 馳星周さんの「少年と犬」は第163回直木賞受賞作です。狂言回しの役目を与えられた犬はシェパードと和犬との雑種である“多聞”という名前の犬。東日本大震災により飼主と離れ離れになったらしい多聞は、仙台で認知症の母とその介護をする妹のために犯罪に手を染めた男に拾われてから様々な人と交流しながら旅を続けます。「その理由は?」というところは泣かされます。
 澤村伊智さんの「うるわしみにくしあなたのともだち」はホラーですが、呪いをかける人物は誰だというミステリーの要素のほうが大きい作品です。この謎解きが意外に難しいです。ものの見事に澤村さんにミスリードされます。
 櫻田智也さんの「蟬かえる」は「サーチライトと誘蛾灯」に続く、昆虫好きの青年魞沢泉(えりさわせん)の活躍を描く5編が収録された連作短編集です。前作では、とぼけた味の探偵としての?沢が強調されましたが、今回の作品では、あとがきで作者の櫻田さんが書かれているとおり、?沢に人間味が与えられ、事件の当事者に近い存在として描かれています。
 恩田陸さんの「ドミノin上海」は2001年に刊行された「ドミノ」の続編です。冒頭の登場人物紹介には、前作では27人と一匹の動物がいましたが、今作では25人と三匹の動物が紹介されています。前作でも登場した映画監督・フィリップ・クレイヴンのペットであるイグアナのダリオは、なんと、冒頭でホテルの中華レストランの厨房に迷い込んでしまい、料理人の王によって料理の材料として調理されてしまうというかわいそうな運命。それ以降は、彷徨う霊として物語に登場します。代わって物語の中で大暴れするのがパンダの厳厳。人間たちを凌駕する知恵で上海動物園を逃げ出します。この厳厳のキャラは好きですねえ。擬人化されて描かれる厳厳の心の動きが面白いのなんのって。この作品一番のキャラですね。

 海外編は順位付けです。
 第1位は周浩暉の「死亡通知書 暗黒者」です。ミステリといっても謎解きにとどまらず、警察小説でもあり、サスペンスでもあるという贅沢な作品です。いわゆる“華文ミステリ”としては今まで陳浩基さんの「13・67」「ディオゲネス変奏曲」を読んだだけですが、それらの作品以上に面白くていっき読みです。現在のところマイ・ベストを争う作品です。
 第2位はユッシ・エーズラ・オールスンの「特捜部Q アサドの祈り」です。今回はミステリとしての謎解きよりは、ついにアサドの秘密が明らかとなるシリーズファン必読の作品です。更にカールの相棒で釘打ち事件により全身不随のハーディの登場はわずかですが、その際の彼の話で、釘打ち事件の新たな展開があることがわかります。目が離せないシリーズです。
 第3位は陳浩基の「網内人」です。ネットのあらゆることに精通する凄腕のハッカーであるアニエとスマホさえ満足に扱えないアイという対照的な二人がアイの妹のシウマンの死の真相に迫っていきます。このアニエという男、非常に変わり者で、ネットに疎いアイを馬鹿にするのですが、この強烈なキャラはルパンのイメージのようです。作者の二重三重の罠が仕掛けられており、単純なミスリードだと考えると、作者に土俵際でうっちゃられます。最後に様々な伏線が回収されて真実が明らかになったところで、やられたなあと言うこと請け合いです。
 第4位はアンソニー・ホロヴィッツの「その裁きは死」です。ホロヴィッツ自身がワトソン役となり、語り手となって、ホームズ役のホーソーンと事件の謎を追うという形式で物語が進むのは前作と同じ。相変わらず傲岸不遜なホーソーンにホロヴィッツが翻弄されます。この作品には、事件の話とは別に、ホーソーンの秘密が顔を覗かせます。ただ、この秘密は最後まで解き明かされません。事件の謎とは別に大いに気になりますよねえ。