今年読んだ本は129冊(うち海外編4冊)。昨年より14冊の減でした。
国内編の今年の第1位は、横山秀夫さんの「ノースライト」です。「64」以来の久しぶりの横山作品です。設計を気に入ってくれた客が、完成した家から姿を消した謎を主人公の設計士が追います。ロジックだけでない人間ドラマが繰り広げられる感動作です。他を寄せ付けず第1位です。
第2位は、今村昌弘さんの「魔眼の匣の殺人」です。デビュー作の「屍人荘の殺人」が年末の「このミス」「本格ミステリ・ベスト10」「週刊文春ミステリーベスト10」の3冠を制覇した今村昌弘さんの2作目です。前作はとんでもない舞台設定の中での本格ミステリでしたが、今回も前作の続編という形を取っており、予言という本格ミステリとは相容れない要素を見事に組み込んでいます。前作ほどの驚きはないものの、ベスト10入りです。
第3位は、米澤穂信さんの「本と鍵の季節」です。6話が収録された連作短編集です。どこか斜にかまえた皮肉屋の松倉と人当たりが良く人の言うことを素直に聞く語り手となる堀川というキャラの異なる高校生二人がホームズとワトソンよろしく謎解きをしていく話です。高校生が主人公ですが青春ミステリという感じではなく、苦いラストのものばかり。この後の二人の関係が気になります。
第4位は、森絵都さんの「カザアナ」です。東京オリンピックも終わった20年ほど先の未来、観光立国を目指し猪突猛進していた日本が舞台です。平清盛の時代に“風穴”と呼ばれた異能の者たちの末裔と出会った家族が政府と政府に反旗を翻すヌートリアと呼ばれるグループとの戦いに巻き込まれる様子を描きます。この家族の関係が素敵です。
第5位は、今村夏子さんの「むらさきのスカートの女」です。第161回芥川賞受賞作です。芥川賞作品を読むのは久しぶりでした。物語は常に紫色のスカートをはき、商店街をすいすいと人にぶつからずに歩いていく女が気になって後をつける主人公の目線で描かれていきますが、最初は語り手の正体が明かされず、ミステリーぽい雰囲気があるので、芥川賞といっても読み易い作品でした。ラストの終わり方もうまいです。
第6位は、小野寺史宜さんの「ライフ」です。作者の小野寺さんは今年、多摩川沿いのアパートに住む男たちをそれぞれ主人公にした「ライフ」、「縁(その中の1編「霧」)」、「まち」と立て続けに刊行し、どれも面白かったのですが、その中から選ぶのは「ライフ」です。レンタル友人とコンビニのバイトをしながら生活する井川を主人公に、彼と彼に関わる人々との関係を描いた作品ですが、何か事件が起きるわけでもありません。でも、彼らの普通の生活が読ませるんですよねえ。
第7位は、「美しき愚かものたちのタブロー」です。今年の6月から9月にかけて、国立西洋美術館で「松方コレクション展」が開催されました。現在の川崎重工業の社長であった松方幸次郎が収集した作品の展示会です。物語は、絵画の収集を行う松方を描くとともに、戦争中にコレクションを守った者、また、戦後フランス政府に没収されていたコレクションの返還に尽力した者たちを描いていきます。
第8位は、東野圭吾さんの「希望の糸」です。加賀恭一郎シリーズ最新作です。といっても、今作では加賀は日本橋署から警視庁捜査一課に戻ったものの脇役で、あくまで主人公は加賀の従弟である刑事の松宮です。親と子の関係がテーマとなっていますが、事件の当事者同様に捜査に当たる松宮と母との関係も語られていきます。
第9位は、「このミス」「本格・ミステリベスト10」で第1位を獲得した「medium 霊媒探偵城塚翡翠」です。最終話直前までは、これで第1位かと思ったのですが、最終話で見事にうっちゃられました。相沢さんの作品は初めて読みましたが、別の作品も読んでみようかと思わせてくれる作品です。
第10位は、須賀しのぶさんの「荒城に白百合ありて」です。江戸から明治へと移る激動の時代に、会津藩士の娘と薩摩藩士との恋を描いた「ロミオとジュリエット」ならぬ「トリスタンとイゾルデ」だそうです。お互いに恋焦がれ気持ちを表に出すこともなく、心の裡に秘めておいたものを、死を前にして解き放つという悲恋の話です。
以下、後2冊を。
第11位は、瀬尾まいこさんの「傑作はまだ」です。生まれてから25年間一度も会ったことのなかった父と息子の関係を描く作品。父親が作家だがほとんど引き籠りに対して、息子が誰とでもすぐ友だちになるという、まったく逆のキャラの親子が愉快です。
第12位は伊坂幸太郎さんの「クジラアタマの王様」です。やはり、伊坂作品は外せません。簡単に言ってしまえば、主人公のサラリーマンの仕事の奮闘記ですが、実は主人公は夢の中でも仲間と一緒に怪物相手に戦っており、その結果が現実に影響を及ぼしているという伊坂さんらしいファンタジックな作品となっています。相変わらず、ウィットにとんだ文章で読み易いです。
今年読んだ海外作品は4冊のみ。その中で順位をつけるとすれば、第1位は、「メインテーマは殺人」です。昨年、海外編のベスト1を総なめした「カササギ殺人事件」のアンソニー・ホロヴィッツの作品です。ホロヴィッツ自身がワトソン役となり、語り手となって、ホームズ役のホーソーンと事件の謎を追うという形式で物語が進んでいきます。叙述トリックなどなく、読了後にページを戻れば、ここにヒントがあったのかあとわかる、非常にフェアな作品です。
海外編第2位は、スチュアート・タートンの「イヴリン嬢は七回殺される」です。西澤保彦さんの「七回死んだ男」と「人格転移の殺人」を合わせたような、「タイムループ」と「人格転移」が起こる世界での殺人事件を描く作品です。主人公だけでなく犯人も人格転移をしているので、ややこしいです。最後に明かされる、この世界の正体にもびっくりです。
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