今年、昨日までに読んだ本は143冊。国内139冊、海外4冊という結果でした。昨年は144冊でしたからほぼ同じです。
各ミステリベスト10で海外編ベスト3に入っている「カササギ殺人事件」と「ミランダ殺し」は積読状態で、海外編からのランクインは2冊のみ。セバスチャン・フィツエックの「乗客ナンバー23の消失」とスティーブン・キングの「任務の終わり」です。前者の題名の“乗客ナンバー23”とは、豪華客船の乗員の間で使用される“行方不明者”の符丁のこと。5年前に妻子が乗船した豪華客船“海のサルタン”から行方不明となったままのドイツ警察のおとり捜査官マルティンを主人公に、再び起こった“海のサルタン”での行方不明事件が描かれます。後者はエドガー賞長編賞を受賞した「ミスターメルセデス」から始まる三部作の最終話です。純粋な警察小説であった「ミスターメルセデス」と異なり、この作品ではキングの本領発揮。不可思議な力を持って蘇った“ミスターメルセデス”ことブレイディと元刑事のホッジスとの最後の戦いが繰り広げられます。ラストは涙ですねえ。やっぱり、キングはこうでなくてはいう作品です。
国内編では「このミス」で第1位に輝いた原ォさんの14年ぶりの沢崎シリーズ第6弾「それまでの明日」です。もう沢崎は読めないのではないかと思っていたので、嬉しかったですねえ。やはり、沢崎の一人称の語りにはしびれます。錦織をはじめ、橋爪や相良などいつものメンバーの登場も嬉しいです。相良の“今”にはびっくりしてしまいます。
深緑野分さんの「ベルリンは晴れているか」は、第二次世界大戦でドイツが降伏した直後のアメリカ、イギリス、フランス、ソ連の四か国による分割統治下に置かれたベルリンを舞台にした作品です。主人公のアウグステを戦時中匿ってくれた音楽家毒殺事件の謎が描かれます。犯人に疑われたアウグステが犯人を捜して盗人と旅をします。敗戦時のドイツの状況をあれほどまでに描くことができる深緑さんの筆力に脱帽しますが、ミステリとしても十分以上です。真実が明かされるラストは圧巻です。
瀬尾まいこさんの「そして、バトンは渡された」は素敵な小説です。少女と血のつながりのない父親たちの関わりを描く作品です。“バトンを渡される父親たち”誰もが素晴らしい父親です。
伊坂幸太郎さんの「フーガとユーガ」は双子の入れ替わりの物語です。入れ替わりといってもトリックではなく、SF的な超常現象によってのものです。ラストではいつもどおり張り巡らされていた伏線が回収され、驚きの、そしてちょっと感動の展開となります。
東野圭吾さんの「沈黙のパレード」は久しぶりのガリレオシリーズです。再び湯川と内海のコンビが見られるのはファンとしてうれしい限りです。「容疑者Xの献身」と肩を並べるガリレオシリーズの傑作です。
葉真中顕さんの「凍てつく太陽」は、第二次世界大戦終戦直前の昭和19年から終戦までの北海道を舞台に濡れ衣を着せられた特高刑事が網走刑務所を脱獄し真犯人を探す物語です。脱獄というサスペンスと犯人捜しの謎解きだけでなく北海道らしいヒグマとの闘いもあって、目が離せません。
池井戸潤さんは「下町ロケット ゴースト」と「下町ロケット ヤタガラス」がストーリー的に前後編という体裁なので合わせてランクインに。いつものとおり、佃製作所のみんなが力を合わせて大きな敵に対峙していく姿に感動です。
月村了衛さんの「東京輪舞」は、田中角栄宅の警護の警察官から公安刑事となった男を主人公に、ソ連(ロシア)の女性スパイとの関わりとともに時代に刻まれた事件を描いていきます。同時代を生きている者にとっては、あの事件の裏側に実はこんなこともあったかもしれないと語られるのは楽しいです。
宮部みゆきさんは「あやかし草紙」と「昨日がなければ明日もない」という、前者は「三島屋変調百物語シリーズ」、後者は「杉村三郎シリーズ」というどちらもシリーズものの大作が刊行されましたが、ランクインは「昨日がなければ明日もない」を。前作で探偵事務所を開設した杉村が本格的に探偵業を始めます。収録された3編とも依頼者は女性、どの話にも関わり合いたくない女性が登場しますが、中でも「絶対零度」に登場する女性は絶対会いたくないですね。
市川憂人さんの「グラスバードは還らない」は「ジェリーフィッシュは凍らない」、「ブルーローズは眠らない」に続く、パラレルワールドの警察官、まりあと九条漣の活躍を描くシリーズ第3弾です。今作では密室殺人事件がメインとなるのですが、作者はそれとは別に思わぬ仕掛けをしています。これはやられました。
久保寺健彦さんの「青少年のための小説入門」は約7年ぶりの新作です。題名だけを見ると小説家を目指す青少年へのガイド本のようですが、実は中身はディスレクシア、すなわち知的能力及び一般的な理解能力などに特に異常がないにもかかわらず、文字の読み書き学習に著しい困難を抱えるヤンキーの登といじめられっ子の一真が二人で小説を書いていく姿を描きます。
三崎亜紀さんの「30センチの冒険」は、不思議な世界に紛れ込んでしまった男の冒険譚です。従前の作品では、舞台が、普通の世界のようだが、どこかちょっとズレた不可思議な世界だったのですが、今回はロールプレイングゲームの世界での冒険譚という感じになっています。
朱野帰子さんは「わたし、定時に帰ります」と「対岸の家事」、「会社を綴る人」と、今年働くことをテーマにした作品を次々と刊行しましたが、その中では「わたし、定時に帰ります」をランクインに。働き方改革が叫ばれている現在、タイムリーな作品です。サラリーマン必読です。
|