▲2015映画鑑賞の部屋

96時間/レクイエム(27.1.9) 
監督  オリヴィエ・メガトン 
出演  リーアム・ニーソン  フォレスト・ウィテカー  ファムケ・ヤンセン  マギー・グレイス  リーランド・オーサー  ダグレイ・スコット   サム・スプルエル 
 元CIA工作員ブライアンの活躍を描くシリーズ第3弾です。
 自宅で元妻が殺され、その容疑者とされたブライアン。警察から逃れながら自らにかけられた容疑を晴らすため真犯人を探すが・・・。
 前作までは愛する娘を助けるために、躊躇なくテロリストたちを殺す父親が描かれていきましたが、今回もそれは変わりません。さすが元CIA工作員らしくやることに情け容赦ないですねえ。警察から逃れる時の車での追跡シーンでは、ブライアンが逃れるためにいったい何人の人が死んだことやら。
 ブライアンと戦うのは、前作までのアラブのテロリストから変わって今回は元ソ連の特殊部隊スぺツナズの工作員だった男。でも、出番は少ないし、ブライアンには簡単にやられてしまうし、あまりキャラとしては印象に残りませんでした。
 ストーリーの展開もだいたいわかってしまいましたし、いい加減娘のために頑張る父親という同じパターンにも飽きてしまいましたね。いくらなんでも、この家族、毎回危険にさらされ過ぎます。元妻もなくなってしまい、シリーズもこれで打ち止めでしょうか。まさか、次回は娘の子供(孫)のためにということは、ないでしょうね。 
6才のボクが、大人になるまで。(27.1.17) 
監督  リチャード・リンクレイター 
出演  エラー・コルトレーン  イーサン・ホーク  パトリシア・アークエッド  ローレライ・リンクエイター  チャーリー・セクストン
     ウェルブロック・マルコ・ペレラ  ブラッド・ホーキンス  ジェニィ・トゥーリー  ゾーイ・グラハム 
 昨日発表された今年のアカデミー賞作品賞等にノミネートされた作品です。
 題名どおり、―人の少年が6歳から18歳になるまでを描いた作品です。ただ、これが普通の映画と異なるのは、実際に6歳の少年が18歳になるまでの12年間をかけて製作されているということ。主人公だけでなく、両親や姉など出演者も同様です。本当の時の流れと同様の時間をかけて作っているのですから、映画としては異例です。これは驚きです。6歳の可愛い少年だった主人公メイソンを演じたエラー・コルトレーンが成長するにつれて、可愛げがなくなっていきますね。当たり前ですけど。
 物語は何か大きな事件が起きるわけではありません。淡々とメイソンが成長していく様子が描かれていくだけです。普通の男の子が成長していく過程で経験すること、恋や失恋をメイソンも経験していきます。一番の事件は母親の再婚と離婚でしょうか。このお母さん、メイソンを産んでからも勉強して最後には大学の先生になるという立派な人ですが、なぜか男を見る目はありません。メイソンの実父である最初の夫と別れてから、アル中の暴力夫や生活能力のない元軍人との結婚、離婚を繰り返します。そこがちょっと彼の人生で波風の立つところでしょうか。
 ただ少年の成長を描いていく映画ですが、不思議と飽きずに見入ってしまいました。でも、アカデミー賞作品賞を取るには地味すぎるという印象です。 
ビッグ・アイズ(27.1.23) 
監督  ティム・バートン 
出演  エイミー・アダムス  クリストフ・ヴァルツ  ダニー・ヒューストン  ジョン・ポリト  クリスティン・リッター  テレンス・スタンプ
     ジェイソン・シュワルツマン  マデリーン・アーサー  デラニー・レイ 
 1960年代に大きな目が特徴的な子どもの絵“ビッグ・アイズ”で一世を風摩したウォルター・キーンとその妻マーガレットを巡る物語です。暴力夫のもとを娘と逃げ出したマーガレットは、路上で似顔絵を描いているときに風景画を売っていたキーンと出会い結婚する。酒場の壁に自分たちの描いた絵を飾って売っていたとき、売れたマーガレットの描いた絵をキーンはそれを自分が描いたものだと偽ってしまう。マーガレットの描く“ビッグ・アイズ”の絵が人気を呼び、夫婦は金持ちになっていくが、次第に暴力的で傲慢になったキーンのもとから母娘は逃げだし、“ビッグ・アイズ”の絵が自分が描いたものだと公表する決心をする。              
 日本でも昨年、佐村河内さんのゴースト・ライター問題が表面化しましたが、この映画も評判を呼んだ絵が実は作者だとしていた人の奥さんの描いたものだったという話です。実際にアメリカであった話ということですが、もっと早く公開されたら佐村河内事件と相まってもっと評判を呼んだに違いありません。
 監督は、ティ・ム・バートンです。ティム・バートン監督といえば、ダーク・ファンタジ一系の作品が多いのですが、今回はティム・バートン監督らしくないまともな作品です。監督名を隠されていればティム・バートンの作品だとわかる人は少ないのではないでしょうか(ティム・バートンらしいのは、マーガレットが幻覚で周囲にいる人の眼がビッグ・アイズに見えるというシーンくらいでしょうか。)。
 ラストはどちらが本物の作者かを争う裁判シーンです。ウォルターは自分自身が弁護士を務めたようですが、現実にあんな喜劇としかいいようのない振る舞いをしたのですかねえ。映画の前半でウォルターがテレビで「ペリー・メイソン」を見ていたシーンが、この裁判シーンの伏線になっています。 
ジョーカー・ゲーム(26.1.31) 
監督  入江悠 
出演  亀梨和也  伊勢谷友介  小澤征悦  小出恵介  深田恭子  渋川清彦  山本浩司  嶋田久作  田口浩正  光石研     千葉哲也   
 柳広司さん原作の同名小説の映画化です。ただ、原作ファンとしてはこの映画は別の話だと思って観に行った方がいいです。原作のおもしろさを映画に期待すると正直のところがっかりしてしまいます。
 主人公・嘉藤次郎が仲間を助けるために理不尽な上官を誤って殺してしまったという人情味厚い者だったとしても、D機関員になったとすれば、その人情味を押さえる術を身につけるはずです。それができない未熟な者をD機関がスパイとして潜入させるわけがありません。そのうえD機閣員が女性の八二ートラップに引っかかってしまうとは、原作を読んでいる人からは想像できない展開になります。
 また、深田恭子さんの出演もなんだか“ルパン三世”の峰不二子みたいで、原作の雰囲気とはまったく合いません。ラストなんか完全に“ルパン三世”のノリですよね。
 否定的なことばかり書きましたがもう1点。ジャニーズの亀梨くんが主役を演じるのも、いまひとつでしたが、これは亀梨くんファンのための映画と思えばいいのでしょう。 
アニー(26.1.31) 
監督  ウィル・グラッグ 
出演  ジェイミー・フォックス クワベンジャネ・ウォレス キャメロン・ディアス ローズ・バーン ボビー・カナヴェイル  デヴィッド・ザヤス      ゾー・マーガレット・コレッティ  アドウェール・アキノエ=アグバエ  ニコレット・ピエリーニ  イーデン・ダンカン・スミス
  ブロードウェイミュージカルの2度目の映画化です。
 今回アニーを演じるのは「ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~」で史上最年少でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたクワベンジャネ・ウォレス。最近はどこの国の子役も演技がうまいですが、彼女はそういった点では折り紙付きです。ミュージカルに必要な歌唱力やダンスにも注目です。
 市長選立候補者で、選挙のためにアニーを利用しようと考えるウィル・スタックスを演じたのはジェイミー・フォックス。「レイ」で、レイ・チャールズを演じていますから歌唱力には不安がありません。潔癖症でちょっとコミカルな役柄もお似合いです。
 里親に市から交付されるお金目当てに何人もの子どもの里親をしているハニガンを演じるのはキャメロン・ディアス。相変わらず長い足でスタイルはいいですが、年とりましたねえ。彫りの深い、口の大きな顔が意地悪なおばさん役にはぴったりです。
 スタックスの秘書・グレースを演じるのはローズ・バーン。クワベンジャネ・ウォレスと一緒に踊ると、少女と異なってダンスに女性らしさがにじみ出ています。理知的な雰囲気で、ファンになりました。
 脇役ですが、役所の担当者を演じた女性はなかなかのキャラでした。
深夜食堂(26.2.1) 
監督  松岡錠司 
出演  小林薫  高岡早紀  柄本時生  多部未華子  余貴美子  筒井道隆  菊池亜希子  田中裕子  オダギリジョー
     不破万作  松重豊  光石研  安藤玉恵  須藤理彩  綾田俊樹  小林麻子  吉本菜穂子  中山祐一朗  山中崇
     宇野祥平  金子清文  平田薫  篠原ゆき子  渋川清彦  谷村美月  向井理 
  TBSテレビで真夜中に放映されていたドラマの映画化です。僕自身はテレビドラマを観たことはないのですが、観ていなくても十分映画を楽しむことはできます。
 のれんには単に「めしや」としか書かれていないが、夜12時から朝7時までの営業ということから「深夜食堂」と常連さんに呼ばれている食堂を舞台に、3つのエピソードが語られていきます。
 「ナポリタン」は、男が死んで何の財産も残されなかった二号の身にあった女が、常連客の若い営業マンと交際を始めるが・・・という話。
 「とろろご飯」は、深夜食堂で無銭飲食をした若い女が、その罪を償うため深夜食堂で働き始めるという話。
 「カレーライス」は、ボランティアの女性の優しさを愛と誤解した男が彼女を追って被災地から東京に出てくるという話。
 マスターは左目から頬にかけて切り傷の跡がありますが、意味ありげな傷跡のできた理由は語られていません(パンフレットによると、テレビドラマでもその点は描かれていないようです。)。やくざ相手でも普通に接するマスターを見ると、以前はそれなりの男だったと思うのですが、気になります。小林薫さんが役柄にぴったりですね。
 そんなキャラのマスターが経営する深夜食堂には特徴的なキャラの常連さんが集まってきます。いつも顔を出している忠さんと小道。映画では何をやっている人か描かれていませんが、忠さんは職業不詳、小道はフリーカメラマンだそうです。いつもお茶漬けを食べている3人の女性(いわゆる“お茶漬けシスターズ”)、ちょっと変わった交番勤務の警官(オダギリジョーさんが演じていますが、彼はドラマでは別の役柄だったそうです。)、警官に恋するラーメン屋の出前持ちの女の子、赤いウインナソーセージが大好きなやくざの竜、有名料亭の女将でマスターに気のある千恵子、ゲイの小寿々、今回特別出演という感じでちょっと顔を出している関西弁のかすみなど多種多彩です。なお、クレジットには出ていませんが、向井理さんが「永遠の0」への出演のためか短い髪で客としてカメオ出演しています。
 どこかでありそうな話を描いているだけで、そんな感動があるわけでもなし、泣ける場面があるわけでもなし、深夜食堂を訪れる普通の人々の人生が描かれているだけの作品ですが、じっくりと見入ってしまいます。メニユーには豚汁と酒だけしか書いてない昭和の匂いを感じさせる食堂の佇まいが何とも言えず温かそうです。おじさんはこういう話が好きです。
ジャージー・ボーイズ(26.2.6) 
監督  クリント・イーストウッド 
出演  ジョン・ロイド・ヤング  エリック・バーゲン  マイケル・ロメンダ  ビンセント・ピアッツァ  クリストファー・ウォーケン
     マイク・ドリル  レネー・マリーノ  エリカ・ビッチニーニ  
  クリント・イーストウッド監督によるブロードウェーの舞台の映画化です。
 1960年代、ビートルズの前に世界を席巻したグループ「ザ・フォー・シーズンズ」の栄光と挫折を描いていく作品です。僕自身はオンタイムで彼らの歌を聴いたことはないのですが、それでも「シェリー」と「君の瞳に恋してる」という曲は、歌っているグループ名は知らなくてもどこかで聴いたことのある曲でした。フランキー・ヴァリのファルセットの効いた声は印象的ですから、耳に残ります。
 映画は、メンバーがメジャー・デビュー前に窃盗を行っていたり、マフィアとつきあいがあったりといった、いわゆる陰の部分を描きながら進んでいきます。今だったらきっと芸能界デビューなどできないでしょうけど、当時はフランク・シナトラだってマフィアと関係があったといわれてましたし、ジョー・ビジネス界では裏社会とのつきあいは当たり前のことだったのでしょう。売れっ子となる一方で、グループ内での才能のあるものへの妬みや金を巡るトラブル、家庭内でのトラブルなどからグループ4人の気持ちは次第に離れていきます。どこにでもある理由ですね。
 メンバー4人のうちトミー・デヴィート役を除く3人が舞台で同じ役を演じているそうで、そういう意味では舞台から映画へと変わっていますが、彼らが演じるのはお手のものでしょう。舞台のように時々登場人物たちがスクリーンの外にいる観客に話しかけるというスタイルをとっているのが珍しい手法です。
 ラスト、登場人物総登場で歌って踊るシーンは舞台そのものです。あのクリストファー・ウオーケンも踊っているのに拍手。
マエストロ!(26.2.6) 
監督  小林聖太郎 
出演  西田敏行  松坂桃李  miwa  松重豊  古館寬治  モロ師岡  河井青葉  斉藤暁  濱田マリ 嶋田久作 小林且弥
    池田鉄洋  中村倫也  村杉蝉之介  宮下順子  中村ゆり  でんでん  綾田俊樹  石井正則  木下半太  淵上泰史 
 経営難から解散をした中央交響楽団。有能な楽団員は他の楽団に移籍し、残ったのは他の楽団に職を求められなかった普通の才能の持ち主ばかり。そんな彼らに再結成の話が持ちかけられる。ところが、集合場所の練習会場に指定されたのは廃工場で、指揮者の天道も大工道具を指揮棒に使うような胡散臭い人物。天道の突拍子もない指導方法は楽団員たちと衝突してしまう。コンサートマスターの香坂はどうにか楽団員たちをまとめようとするが・・・。
 天道の目的は何なのか。ラストでそれが明らかとなり、それは感動的なことなんですが・・・。天道の指導で楽団員たちの能力が上がり、それはそれで楽団員たちにとって実のあることなのですが、天道の目的はある意味非常に個人的なことであって、天道とある事情で関係のある香坂はともかく、直接には楽団員たちには関係のないことです。天道の個人的なことに理由も言わずに楽団員をつきあわせるのは、あまりに勝手でしょう。再結成コンサートを開催できたのも楽団員たちがスポンサーを捜し回ったからでしょうしと、ひねたことを思ってしまうのは僕だけでしょうか。
 そんな余計なことを考えてしまったためか、感動のストーリーにはいまひとつ馴染めず。ただ、役者さんたちの演奏シーンには拍手です。皆さん、いかにも本当に弾いたり、吹いたりしているように見えました。それぞれ実際の奏者から指導を受けたようですが、それにしても短期間であそこまで演じるのは、やっぱり役者さんですね。凄いです。演奏されたベートーベンの「運命」と、シューベルトの「未完成」が聴きたくなりました。 
アメリカン・スナイパー(26.2.12) 
監督  クリント・イーストウッド 
出演  ブラッドリー・クーパー  シエナ・ミラー  ルーク・グライムス  ジェイク・マクドーマン  ケヴィン・レイスズ コリー・ハードリクト
     ナヴィド・ネガーバン  カイル・ガルナー  ベン・リード 
(ちょっとネタバレ)
 第87回アカデミー賞作品賞ほか6部門にノミネートされたクリント・イーストウッド監督作品です。イラク戦争の際に160名の敵を倒したアメリカ海軍シールズのスナイパー、クリス・カイルを描いた事実に基づく作品です。
 クリント・イーストウッドはこの作品で何を観客に語ろうとしたのでしょうか。厳格な父親に育てられ、9.11事件をきっかけに国を守ろうと軍に入ったクリス。最初に撃ったのが対戦車手榴弾を持った子どもというところは、戦争というのはこういうものだと、観客の心に訴えます。
 残虐なシーンも多くあり、覚悟して観なければなりません。特にアメリカ兵と話したということで、その男の子どもを電動ドリルで殺すシーンは、直接には描かれませんでしたが、想像するだけでやりきれません。オリンピックのメダリストであった男がスナイパーとして銃を競技ではなく殺人兵器として使うのも考えさせられます。
 せっかく戦死することもなく家族の元に帰ったのに、あんなラストを迎えるとは、悲劇以外のものではありません。自分がPTSDになった経験から、同様に戦場から戻ってPTSDになった者の相談相手となっていたのに、どうしてそういうことになったのか、映画では描いていませんが、理由を知りたいですよね。先日の新聞にはクリスを射殺した男の公判が始まったとの記事が掲載されていました。
戦場から帰ってきた者が精神に異常を来すということがよくあるようですが、あの戦場の緊張感を常に感じていなくてはならないとなると、誰もがPTSDになる可能性はあります。とてもじゃないけど、僕自身には耐えられません。
 エンドロールにはバックに音楽がありません。無音の状態が何分も続きます。音を立ててはいけないような緊張感溢れるエンドロールでした。 
フォックスキャッチャー(26.2.14) 
監督  ベネット・ミラー 
出演  スティーヴ・カレル  チャニング・テイタム  マーク・ラファロ  ヴァネッサ・レッドグレイヴ  シエナ・ミラー  ガイ・ボイド
     アンソニー・マイケル・ホール   
 第87回アカデミー賞主演男優賞をはじめ5部門にノミネートされた作品です。1996年にアメリカの巨大財閥の御曹司がオリンピックのレスリング金メダリストを射殺するという現実に起こった事件を題材にしています。
 マーク・シュルツはロサンゼルスオリンピックで金メダルを取ったが、人気のないレスリングでは食べてはいけず、苦しい生活を送っていた。そこに巨大財閥デュポン社の社長ジョン・デュポンから、同じ金メダリストである兄・デイヴと共に彼が作るレスリングチーム「フォックスキャッチャー」への参加を要請される。家族との生活を優先してデイヴは申し出を断るが、マークはチームに加わることを決心する。次回のソウルオリンピックでの金メダル獲得を目指してトレーニングが続く中、ジョン・デュポンの奇矯な行動がやがて不幸な事件を起こすこととなる・・・。
 とにかく、ジョン・デュポンを演じるスティーブ・カレルの演技が凄いです。コメディ俳優という印象が強いのですが、今作はまったく笑いの要素はありません。メーキャップをした顔でほとんど表情もなく、ときに無表情に激高する異様な雰囲気のジョン・デュポンを演じています。アカデミー賞主演男優賞候補になったのも納得の演技です。
 デュポンの母親を演じたのがヴァネッサ・レッドグレイヴですが、馬だけを愛でる、これまた表情がまったくない母親です。見ているだけで、この二人の関係は異様に思えるのですが、デュポンが事件を起こした原因がこの親子関係にあったのか、それとも他にあったのか、この映画では何ら語られていません。
 デュポンとマークの関係は、マークに取ってみれば単に主従の関係ではなく、デュポンは父親のような存在だったのでしょうか。兄と離れた彼にとっては、兄に代わってすべてを指示してくれる人が必要だったに違いありません。それゆえ、デュポンが自分より兄を必要としたことは、従前から人に慕われる兄に対し嫉妬を抱いていたマークにとって、受け入れがたいものだったのでしょう。マークを演じたのは、チャニング・テイタム。アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたのは兄・デイヴを演じたマーク・ラファロですが、精神的に危ういマークを演じたチャニング・テイタムであってもおかしくありません。
 全体的に暗いトーンで、救いようのない内容の映画でした。 
ソロモンの偽証 前篇・事件(27.3.7) 
監督  成島出 
出演  藤野涼子  板垣瑞生  石井杏奈  清水尋也  前田航基  富田望生  望月歩  西畑澪花  若林時英  西村成忠
     加藤幹夫  石川新太  佐々木蔵之介  夏川結衣  永作博美  小日向文世  黒木華  尾野真千子  市川実和子
     松重豊  安藤玉恵  木下ほうか  田畑智子  嶋田久作  塚地武雄  余貴美子  江口のりこ   
 宮部みゆきさん原作の同名小説の映画化です。原作は事件、決意、法廷の3巻に分かれたそれぞれ700ページ以上という大作でしたが、映画は今回公開の「前篇・事件」と来月に公開される予定の「後篇・裁判」との2部作となっています。
 雪の止んだ朝、登校してきた藤野涼子と野田健一が雪の中に死んでいる同級生の柏木卓也の死体を発見、警察は自殺と断定するが、学校と涼子らの元に柏木卓也は学校のワル・大出俊次らによって殺されたという告発状が届き、それをマスコミも知ったことから事件は生徒、先生、親だけでなく世間を巻き込んだ大騒ぎとなる。
 今回の前篇では、涼子らが自分たちで事件の真相を知るために裁判を開こうとするまでが描かれていきます。ただ、原作の3巻の大作を前後篇2作とはいえ、それぞれ2時間ほどの中で描いていきますので、今回の前篇でも原作とは異なる部分がかなり見受けられます。大きな改変は、主人公を涼子一人に絞っていること。原作では涼子とともに野田健一も詳細に描かれていましたが、この作品では健一は脇役という立ち位置となっています。したがって、原作では死体の発見者が健一―人であったところが、映画では健一と涼子の二人となっています。
 また、一番の大きな改変は、涼子が三宅樹里が大出たちに暴力を振るわれているのを見ながら、見て見ぬふりをしたこと、そしてそれを柏木卓也から偽善者と批判されたことが涼子の心の痛みとなっていることが加えられています。涼子が裁判を開催しようとした動機を強めようとしたものですね。そのほか、原作では担任の森口先生は自己保身に走る嫌な教師という印象が強かったのですが、映画の前篇ではそこまでの感じでは描かれていませんでした。
 原作の読者としては裁判の行方はわかっているのですが、知らない人にとっては前篇だけでは告発状を書いた三宅樹里はどうなるのか、大出の弁護人役を買って出た他校の生徒・神原和彦が裁判に参加した本当の理由は何か、そしてそもそも柏木卓也は自殺なのか他殺なのか等々様々な謎が残されており、後篇が気になるところですが、「寄生獣」のように半年も待だされることなく1月後の公開はありがたいですね。 
イミテーションゲーム(27.3.13) 
監督  モルテン・ティルドム 
出演  ベネディクト。カンバーバッチ  キーラ・ナイトレイ  マシュー・グード  マーク・ストロング  チャールズ・ダンス
     アラン・リーチ  マシュー・ビアード  ロリー・キニア 
  第二次世界大戦中にドイツが使用していた暗号「エニグマ」の解読を行ったアラン・チューリングを描く作品です。
 解読不能と言われた暗号「エニグマ」を解読するため英国軍はブレッチリー・パークにケンブリッジ大学の特別研究員である数学者のアラン・チューリング、チェスの世界チャンピオンのヒュー・アレクザンダーらを集め、解読に当たらせる。仲間とのつきあいをしようとしないアラン・チューリングは一人で暗号解読のための巨大な装置を作るが、成果はなかなか現れなかった。そんな彼もチームに女性として一人参加したジョーン・クラークによって、次第に仲間と馴染んでいくが・・・。
 このアラン・チューリングという人物が変わり者。対人関係がうまくできない(今ならアスペルガー症候群といわれるかもしれません。)という人物。演じるのは、ベネディクト・カンバーバッチ。どこか変わった人を演じさせると、彼はうまいですよねえ。
 エニグマを解読したことがドイツ軍に知られないよう(解読されたとわかればドイツ軍は暗号を変えてしまうので)、その事実は秘匿されます。そのため、味方が攻撃されることを知りながら、それを告げられず、多くの犠牲も出すことになります。情報をうまくコントロールしながら、少しずつ連合国を優位に導いていき、1400万人の命を救ったとありましたが、その影には死ぬべきことを知りながら見捨てた多くの命があったのですから、当事者としては辛かったでしょうね。映画の中でも兄が乗った船が攻撃されるのを知りながら教えることができないシーンがありましたが、堪らないでしょうね。
 唯一女性で解読チームに加わったジョーン・クラークを演じるのはキーラ・ナイトレイ。「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズや「ラヴ・アクチュアリー」に出演していたので、もう30代も後半かなと思ったのですが、まだ28歳でした。だんだん、ただ勝ち気な感じの可愛い女性から大人の女性に変わってきましたね。
 アラン・チューリングはゲイでしたが、当時はイギリスではゲイは犯罪だったようです。カンバーバッチは何となくそっち系の人という雰囲気がします。それにしても、アラン・チューリングはゲイ故のこともあったのでしょうか、最後はあまりに悲惨ですし、多大な貢献をした人なのに寂しい人生でしたね。
 ちなみに、暗号を解読するために、アラン・チューリングが作った巨大な装置が、今のコンピューターの基礎となるものだそうです。それを考えても凄い人だったんですよね。
イントゥ・ザ・ウッズ(27.3.21) 
監督  ロブ・マーシャル
出演  メリル・ストリープ  エミリー・ブラント  ジェームズ・コーデン  アナ・ケンドリック  クリス・パイン  トレイシー・ウルマン
     ジョニー・デップ  クリスティーン・バランスキー  リラ・クロフォード  ダニエル・ハットルストーン  マッケンジー・マウジー
     ビリー・マグヌッセン  タミー・ブランチャード  ルーシー・パンチ
 「赤ずきんちやん」「ラプンツェル」「ジャックと豆の木」「シンデレラ」の4つのお話のその後を描いたミュージカル舞台劇の映画化です。
 パン屋の夫婦は子どもを欲していたが、なかなか授からないでいた。ある日、隣に住む魔女から、「子どもができないのは昔、自分の畑から作物を盗んだパン屋の父親に自分が呪いをかけたからだ、呪いを解いてもらいたければ4つの品物、「ミルクのように白い牝牛」「血のように赤いずきん」「トウモロコシのように黄色い髪」「黄金に光り輝く舞踏会の靴」を持ってこい」と言われる。4つの品物は、それぞれ4つの話の主人公が持っているもの。夫婦はそれを求めて森の中へ入っていく・・・。
 作品はそれぞれの物語のその後を描くもの。オオカミのお腹の中から出てきた赤ずきんちゃんはどうなっただろう、王子様と結婚したシンデレラは幸せに暮らしただろうか、豆の木を倒して大男を空から墜落死させたジャックは宝物を手に入れて幸せに暮らしたのか(「ラプンツェル」はそもそも読んだことがなかったので話を知りません。)がここで明らかにされていきます。中でも、「ジャックと豆の木」のジャックが行ったことがこの物語に大きな影響を及ぼすのですが、大男側から見れば、怒りは当然ですよね。
 魔女にはメリル・ストリープ。この人は何を演じてもうまいですよねえ。この演技で19回目のアカデミー賞ノミネートになりますが、もういいでしょうに。パン屋の主人役を演じたのは「ワン・チャンス」のジェームズ・コーエン。パン屋の奥さんを演じたのはエミリー・ブラント。パン屋の奥さんにはもったいない(笑)。シンデレラ姫にはアナ・ケンドリックですが、ちょっとシンデレラのイメージには合わないなあ。
 ジョニー・デップがオオカミ役を演じますが、あっという間にお腹を切り裂かれて舞台から退場してしまいます。特別出演という感じですね。 
パリよ、永遠に(27.3.22) 
監督  フォルカー・シュレンドルフ  
出演  アンドレ・デュソリエ  ニエル・アレストリュブ  シャルリー・ネルソン  ジャン=マルク・ルロ  シュテファン・ヴィルケニング
     トマシュ・アーノルド  
 第二次世界大戦中、連合国がパリに侵攻してくる前夜、ヒトラーの命令によりパリの街を爆破しようとするドイツ軍将軍と、それを阻止しようと将軍を説得するスウェーデン総領事を描きます。実話に基づくストーリーで、舞台化もされ、映画では舞台で主人公を演じた二人がそのまま演じているそうです。
 今現在、凱旋門やエッフェル塔が残っているのは、二人のおかげというわけですが、予想していた感動の物語とは違います。妻子を人質に取られているのでヒトラーの命令に背くわけにはいかないという将軍を、総領事はあることで説得するのですが・・・。
 ヒトラーの狂気を感じ取って命令を聞きたくないと思いながら、家族の命との間で揺れる将軍が哀れです。それをわかりながら、彼を説得しようとする総領事が狸なんですよねえ。でも、戦争というのは騙し合いです。綺麗事ばかり言っていられないのが戦争です。 
おみおくりの作法(27.3.28) 
監督  ウベルト・パゾリーニ 
出演  エディ・マーサン  ジョアンヌ・フロガット  カレン・ドルーリー  アンドリュー・バカン  ニール・ディスーザ  ティム・ポッター
     キアラン・マッキンタイヤ  ポール・アンダーソン  
 主人公のジョン・メイはロンドン市ケニントン地区の民政係。孤独死した人を弔うのが彼の仕事。独身で几帳面な性格で常に背広でネクタイ、ベストという出で立ち。夕食は魚の缶詰めに食パンとりんごと紅茶というように、毎日変わったことのない生活を送っていた。ある日、ジョン・メイは人員削減のため首を言い渡される。最後の仕事はジョン・メイの自宅の真向かいのアパートの一室で亡くなったビリー・ストークの葬儀。ジョン・メイは、ビリーに縁のある人に葬儀に立ち会ってもらうため、彼のこれまでの足跡を辿っていく。
 非常に静かな映画です。題名から日本の「おくりびと」のような映画かなと想像していたのですが、まったく違います。あまりに淡々としていて正直のところ冒頭は眠くなってしまいました。
 調査の過程で、何もないと思っていたビリーにも、これまでの人生の中では様々なことが起こっていたことがわかります。それを知っていく中でジョン・メイも次第に変わっていきます。笑顔を見せたことがないジョン・メイが、調査で知り合ったビリーの娘と食事の約束をしたときに見せた嬉しそうな表情。明るい水色のセーターを着て、今まで決してしたことのない立ちション(車のところでしていたのはそうですよね)をし、犬好きの女性のために犬が描かれたマグカップを買います。よかったなぁと思ったのに予想外のラスト。いやぁ~これは・・・。
 ラストシーン、地味で誰が喜ぶわけでもない仕事をやってきた彼に感謝をする人たちが集まってきます・・・。泣けますよねぇ。 
ジヌよさらば(27.4.5) 
監督  松尾スズキ   
出演  松田龍平  阿部サダヲ  松たか子  二階堂ふみ  西田敏行  片桐はいり  中村優子  杉村蝉之介  オクイシュージ     伊勢志摩  荒川良々  皆川猿時  モロ師岡   
  東京で銀行員をしていたが、お金で不幸になる人の姿を見てお金アレルギーになり、お金を一切使わない生活をしようと東北の田舎「かむろば村」に移住を決意した高見武春ことタケ。494人の人口で高齢化率40パーセントを超え、限界集落寸前の村には、町の病院等へ行く年寄りのために自らマイクロバスを運転する村長の天野与三郎、その妻の亜希子、自他共に神様だと認められているなかぬっさん、その娘で旅館の女将、奈津と板前の勝男、村長の代わりに実務を取り仕切る助役の伊吉(制度が変わって、“助役”という名前はなくなったんだけど・・・)、村では珍しい女子高校生の青葉、タケの農業の指導をするみよんつぁんらの個性的なキャラがタケの生活に開わってきます。
 いがらしみきおさん原作の漫画「かむろば村へ」の映画化です。タケがお金を一切使わずに村でどう暮らしていくのかを描く話かと思いきや、それよりは村長の過去の話が主となってストーリーが動いていくという予想外の展開でした。
 お金への執着はなくなったのに、若い女性には欲望を感じてしまうタケを演じるのは松田龍平さん。お金は捨てても男は捨てていないタケには苦笑です。なかぬっさん役の西田敏行さんのとぼけた演技にもクスッと笑ってしまいます。奈津役の中村優子さんのどこかおっとりとした雰囲気がいいですねえ。また、「夢売るふたり」に続いて阿部サダヲさんと夫婦役を演じた松たか子さんですが、妊娠される前に撮ったものでしょうけど、ちょっと以前よりふっくらされていますね(これってセクハラ?)。女子高校生の青葉役の二階堂ふみさんは、相変わらずのハスキーボイスと色っぽい表情で、このままだと役柄が固定されてしまいそうです。
 監督が松尾スズキさんのため、松尾さん自身を始め荒川良々さんら大人計画の役者さんが大量出演。芸達者なところを見せてくれます。 
 大いに笑わせてもらいましたが、ただ、暴力的シーンがちょっとひどすぎます。田舎のほのぼのとした生活の中に、村長の暴力は似合いません。全体を通しての笑いの中に、怒りの理由は理解できますが、あそこまでひどい暴力を描く必要があったのかという気がします。
 「ジヌ」とはかむろば弁でぜに(銭)、つまり、お金のことだそうです。
エイプリルフールズ(27.4.7) 
監督  石川淳一   
出演  戸田恵梨香  松坂桃李  里見浩太朗  富司純子  寺島進  高嶋政伸  りりィ  岡田将生  ユースケ・サンタマリア
     生瀬勝久  窪田正孝  矢野聖人  菜々緒  戸次重幸  小澤征悦  大和田伸也  小池栄子  古田新太  滝藤賢一
     木南晴夏  宍戸美和公  高橋努  浜辺美波  山口紗弥加  千葉真一  千葉雅子  浦上晟周   
  4月1日のエイプリルフールの日に様々な嘘が巻き起こす騒動を描く群像劇です。
 登場するのは、自分を妊娠させた男に結婚を迫るため、男のいるレストランに乗り込んだ女性と居合わせた客、お忍びで下々の行く店を回るやんごとなき身分の夫婦とその案内を頼まれたタクシー運転手、小学生の女の子を誘拐したやくざとその子分、自分は宇宙人だと信じるいじめられっ子、怪しげな占い師と彼女を逮捕する刑事、幼い頃海で遭難し、インドネシアで生きてきた男、そして二人の男子大学生。群像劇らしく、最後には別のエピソードに登場していた「あの人とこの人はこんな関係があったんだ」ということが明らかにされて大団円です。ちょっとホロッとくるエピソードの中で、二人の大学生のちょっとした嘘とその結果には爆笑してしまいました。
 里見浩太朗さん、富司純子さんの大御所をはじめ、寺島進さん、小澤征悦さん、古田新太さんら中堅俳優に若手の戸田恵梨香さん、松坂挑李くん、岡田将生くん、窪田正孝くんらそうそうたるメンバーが出演した豪華な作品です。
 また、脚本が古沢良太さんに加え、生瀬勝久さんらテレビドラマの「リーガル・ハイ」の出演者が多数出演し、更にはちょい役で登場した小池栄子さんが「リーガル・ハイ」のパロディまで披露してくれます。
 難しいことを考えずに、ストレス発散にはもってこいの作品です。
ソロモンの偽証 後篇・裁判(27.4.11) 
監督  成島出 
出演  藤野涼子  板垣瑞生  石井杏奈  清水尋也  前田航基  富田望生  望月歩  西畑澪花  若林時英  西村成忠
     加藤幹夫  石川新太  佐々木蔵之介  夏川結衣  永作博美  小日向文世  黒木華  尾野真千子  市川実和子
     松重豊  安藤玉恵  木下ほうか  田畑智子  嶋田久作  塚地武雄  余貴美子  森口瑤子  津川雅彦 江口のりこ 
 いよいよ裁判の始まりです。原作を読んでいるときには思わなかったのですが、あれだけのことを夏休みの5日間をかけてやる意味があったのか。長くても2日間ほどで終えることができたのではないかと映画を観て思いました。
 そもそも裁判と言いながらも、弁護士役の神原が自分が弁護すべき大出のいじめ、暴力等を糾弾するという弁護士なのに被告に不利なことを行うという通常の裁判であればあり得ない展開。裁判官もそれを止めないし、検事は更に追及するのですから被告はたまったものではありません。原作を読んでいる際にはそんなことは感じなかったのに、映像化されたらいやに気になりました。おかしな裁判と言わざるを得ません。
 やはり、前篇の際にも書いたように、3巻に分かれた原作を前後編に分けたとはいえ、4時間半ほどの上映時間の中で描ききるのは難しかったと改めて思います。特に、残念だったのは、死んだ柏木卓也の人となりがあまり描かれていなかったことです。原作では卓也の兄でさえ恐ろしい弟だと感じ、被告の大出さえ不気味なやつだと思っていたのに、映画ではその当たりは描かれていません。ただ単に性格のひねくれた嫌なやつとしか捉えることができませんでした。そもそも卓也と大出たちとの関係が描かれていないため、大出たちを犯人にする説得力に欠けます。
 また、この後篇での中心はある人物が自分を罰してくれと申し出るところにあるのですが、裁判の終了後、あれほどまでに自分を糾弾したこの人物がみんなと笑顔でいるのは、違和感を覚えました。
 更には森内先生の隣の主婦がなぜ先生の郵便受けから手紙を盗み出したのか、なぜ先生を殴りつけてしまったのかも、映画に描かれただけではわからないでしょう。
 先生となって母校に赴任した涼子と校長先生とのシーンはとってつけたような感じです。だいたい校長先生が言うようにあの裁判以来この学校にはいじめがないなんてあり得ないでしょう。そんなきれいごとで終わる問題ではないでしょうに。
 藤野涼子ら子役たちの演技には拍手です。オーデションで選ばれたほとんど素人だったのに頑張りましたね。 
バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(27.4.12) 
監督  アレハンドロ・G・イニャリトゥ 
出演  マイケル・キートン  エドワード・ノートン  ザック・ガリフィナーキス  エイミー・ライアン  エマ・ストーン  ナオミ・ワッツ
     アンドレア・ライズブロー  リンゼイ・ダンカン  マリット・ウェヴァー  ジェレミー・シャモス  ビル・キャンプ  ダミアン・ヤング 
 2月に発表された第87回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞の4部門を受賞した作品です。
 かつてスーパーヒーロー作品「バードマン」の主役を演じ世界的映画スターとなったリーガンだったが、今はすっかり落ち目。レイモンド・カーヴァーの作品を舞台化して起死回生を図ろうとするが・・・。
 リーガン役を演じるのが、かつて「バットマン」で一躍有名となったマイケル・キートンですから、観客はどうしてもリーガンとマイケル・キートンを重ね合わせてしまいます。そういう点では、彼をリーガン役に据えたのは企画の成功でしょうね。でも、マイケル・キートンはよくこの役を演じたものです。それにしても、老いたし太ったなあ。
 映画の始まりが「これはオウム真理教か!?」と思ってしまうリーガンが座禅して宙に浮かんでいる後ろ姿。リーガンに囁きかけるバードマンの姿。空を自由に飛び回るリーガン。単に一時の栄光から奈落の果てに墜ちた男の再生の物語ではないと思うのですが、監督がいったい何を描こうとしているのか、最後まで理解できませんでした。こういう難しい作品がアカデミー賞会員の好みなんてすね。ラスト、姿を消したリーガンを探す娘のサムの笑顔は何を表していたのでしょう。
 人間的にはダメでも観客を呼べる俳優マイク役でエドワード・ノートンが出演していますが、パンツ一枚でリーガンと喧嘩するシーンやパンツの前を膨らませるシーンなど、今まで観たエドワード・ノートンの印象とはだいぶ離れた役柄でしたが、これがまたぴったり合っています。アカデミー賞助演男優賞候補になったのも無理ありません。
 ※ドラムのリズムに合わせて映画が進行していくのが印象的です。 
繕い裁つ人(27.4.18) 
監督  三島有紀子 
出演  中谷美紀  三浦貴大  余貴美子  片桐はいり  伊武雅刀  中尾ミエ  黒木華  杉咲花 
 祖母の後を継いで南洋裁店を営む南市江。彼女は祖母が仕立てた洋服の仕立て直しと、生活のために友人・牧葵の雑貨店で売るわずかばかりの洋服を作るだけの仕事をして暮らしていた。デパートの洋服売り場を担当する藤井は市江の作った洋服に惚れ込み、ブランド化して売りたいと彼女に申し出るが、拒否されてしまう・・・。
 仕立て直しとわずかな洋服を作るだけで食べていけるのか、であれば仕立て直し代は相当高いのではと現実的なことを考えてしまうのですが、この作品はそんなこと考えずにファンタジーと思えばいいのでしょうか。だいたい祖母に服を作ってもらった人は毎年1回催される夜会にその服を着て集まってくるなんて、やっぱりファンタジーです。
 市江が祖母が使っていたミシンで服を縫う場面で、某企業の中国工場で多数の工員がミシンを踏んでいる様子を思い起こしましたが、今はオーダーメイドで個々その人に合った服を作るというのはお金持ちならともかく、なかなか少なくなったでしょうね。映画の中でもありましたが、洋服屋さんが店を閉めようと思うのは無理からぬところです。使い捨ての時代で、お直しして使うなんて考えませんものね。
 ちょっと今どきではない洋服が市江役の中谷美紀さんによく似合います。中谷さんのあの服を着ているときのおっとりとした(あるいはツンとした)雰囲気と、パジャマ姿の慌てふためく様子にかなりの落差があって、それも素敵だなと思ってしまいました。髪もこの映画のためにショートにしたようですね。
 ラスト、祖母のデザインでなく自分が作りたい服を作ろうと決心したときのシャツとスカートの後ろ姿もきれいですねえ。 
セッション(27.4.24) 
監督  デイミアン・チャゼル 
出演  マイルズ・テラー  J・K・シモンズ  メリッサ・ブノワ  ポール・ライザー  オースティン・ストウェル  ネイト・ラング 
 第87回アカデミー賞においてJ・K・シモンズが助演男優賞を受賞したほか録音賞、編集賞を獲得した作品です。ノミネートされていた作品賞は残念ながら受賞となりませんでしたが、僕としては受賞した「バードマン」より、この作品か「アメリカン・スナイパー」に受賞させたかったなあと思ったほどの作品でした。
 ジャズドラマーを夢見て全米屈指の名門、シェイファー音楽院に入学したニーマンが、鬼教師フレッチャーの常軌を逸した狂的とも思える指導によって心身共に追い詰められていくさまを描いていきます。J・K・シモンズの鬼気迫る演技はアカデミー賞も当然と思えるほどの熱演です。

(ここからネタバレ)

 ラストのコンサートのシーンで、フレッチャーがニーマンに演奏曲を嘘をついたため、ニーマンが楽譜の用意ができずに演奏がメチャクチャになり、大勢の観客の前で恥をかかせたのは、退職をさせられたしっぺ返しだったのか、それとも彼に悔しい思いをさせて最高の演奏をさせることに目的があったのか、どちらだったのでしょう。あの表情からすると、しっぺ返しだった気がしますが、もしそうであるなら、このフレッチャーという男、最低の男としか言い様がありません。だいたい、ニーマンを初めて練習に呼ぶ際、練習が10時からなのに、6時半からだと嘘をつく必要性がどこにあるのでしょう。単なる弱い者いじめとしか考えられません。
 主人公・ニーマンも本当に嫌なやつに見えてしまいます。自分から告白して、つきあい始めたニコルに対して、つきあう時間がない、会っても頭は音楽のことばかりで君と楽しく話せない、そんな自分を君は嫌いになるだろうからと別れを切り出します。偉大な音楽家になるために彼女は邪魔だと平気で言うことができるニーマンに対し、彼女が「何様のつもり!」と怒るのも無理ありません。ひとかどの音楽家になるには、ある程度音楽以外のことを切り捨てるのも必要なんでしょうけど、こんな傲慢なやつは好きになれないですねえ。また、初練習の集合時間が嘘だったとしても、初めてメンバーに選ばれた練習に寝坊して遅刻するニーマンも如何なものでしょうか。考えられないですね。フレッチャーにしろニーマンにしろ、音楽的に才能があっても人間的には欠格者と思わざるを得ません。
 フレッチャーに騙されたニーマンが意地を見せる緊迫のセッションシーンでしたが(パンフレットでは9分19秒という長さのようです)、確かに圧倒されました。主役のニーマンを演じたマイルズ・テラーのドラム捌きは鬼気迫るものがあります。もちろん、撮影を始める前に練習をしたのでしょうけど、あそこまで叩くことができるまでになるのですから、俳優さんというのは凄いですねえ。僕は小学校の頃、合奏で小太鼓役でしたが、連打がうまくできずに根を上げて、「先生、できません!」と友だちと交代してカスタネット担当になった悲しい過去があります。映画で描かれないこの後のニーマンの運命がどうなるのか気になります。 
パレードへようこそ(27.4.24) 
監督  マシュー・ウォーチャス 
出演  ビル・ナイ  イメルダ・スタウントン  ドミニク・ウエスト  アンドリュー・スコット  ジョージ・マッケイ  パディ・コンシダイン
     ベン・シュネッツァー  ジョセフ・ギルガン  フェイ・マーセイ  フレディ・フォックス  ジェシカ・ガニング  ヨシュア・ヒル 
  サッチャー政権下のイギリスにおいて全国的に起こった炭鉱労働者のストライキに対し、ゲイとレズビアンたちが支援に立ち上がったという実話に基づく作品です。
 1984年、ロンドンで活動するゲイとレズビアンの活動家グループの中心、マークは、全英炭鉱ストライキの報道をテレビで見て、彼らを支援するための募全活動をすることを決意する。しかし、同性愛者に対する差別が強かったイギリスでは、炭鉱労働者の組合はことごとく彼らからの支援を断る。その中で唯一、マークらの設立したLGSM(炭鉱労働者支援レズビアン&ゲイ会)の“L”をロンドンの頭文字と誤解したウェールズの炭鉱の村が彼らの寄付を受け入れることとなるが・・・。
 当時、サッチャー政権は同性愛者も敵視していたことから、同性愛者と炭鉱夫というあまり接点を持つことがなかった者たちが、共通の目的のために(根本にはサッチャー打倒という大きな目的があったわけですが)、手を取り合っていく姿に感動します。ゲイバーで炭鉱の代表、ダイのスピーチ「皆さんがくれたのはお金ではなく友情です」には目頭が熱くなります。
 話としては、同性愛者たちに理解を示す者たち以外に当然彼らを毛嫌いする者もいるわけで、マークたちの努力は報われず、最終的には歴史が示すように、ストライキは炭鉱労働者の敗北に終わります。ここで、一気に盛り上がった気分がすと-んと落ちるのですが、ラストで思わぬ感動が・・・。
 キャラクターが本当に魅力的です。特にヘフィーナを演じたイメルダ・スタウントン。自分たちを純粋に支援してくれるマークたちを分け隔てすることなく、いやそれ以上に積極的に彼らと関わっていきます。ロンドンで開催した支援コンサートに出かけたヘフィーナたちのはしゃぎぶりには大笑いです。ビル・ナイが演じた人前で話すことが苫手なクリフのキャラクターもいい味出しています。彼の告白にはにやっとしてしまいます。
 感動とユーモアでいっぱいのこの映画、オススメです。
寄生獣 完結編(27.4.25) 
監督  山崎貴  
出演  染谷将太  深津絵里  阿部サダヲ  橋本愛  新井浩文  浅野忠信  大森南朋  北村一輝  ピエール瀧  國村隼 
  昨年11月に公開された「寄生獣」の完結編です。
 前編は寄生獣の出現からしだいに人間に寄生していくまでを描きましたが、完結編ではいよいよ寄生獣の存在を知った山岸率いるSATと寄生獣との戦いが始まります。寄生獣側でもより戦闘能力に優れた、前編で最後にちょっと顔を出した浅野忠信さん演じる後藤が登場。最終的にはこの後藤と主人公・泉新一との対決となっていきます。
 原作の漫画を読んでいないので、原作と比較してどうだという評価はできないのですが(だいたい、原作を超える作品というのはまず皆無)、完結編はなぜ寄生獣がこの世界に現れたのかという意味が語られることによって、ただ単に人間と寄生獣とのアクションシーンだけを主眼に描くことだけに留まっていません。表情がない深津絵里さんが演じる田宮良子が、我が子を見て笑顔になるシーンは感動ですし、彼女の「私たちをいじめないでくれ」という言葉にグッとくるなど、前編よりおもしろく観ることができました。
 新一と橋本愛さん演じる村野里美とのラブシーンにはドキッとしてしまいます。戦いの中に挿入されたこのシーン、橋本愛さんファンヘのサービスかとも思ったのですが、監督が言うには、生命というものを撮りたかったという重要なシーンのようです。
 放射性廃棄物のあるところで戦った結果が新一とミギーとの別れに繋がっていきます。ここでの戦いが、後藤だけでなく、新一にも影響がないのかと思ったのですが、そこはきちんと辻棲を合わせていましたね。
フォーカス(27.5.5) 
監督  グレン・フィカーラ&ジョン・レクア 
出演  ウィル・スミス  マーゴット・ロビー  ロドリゴ・サントロ  ジェラルド・マクレイニー  アドリアン・マルティネス  B・D・ウォン
     ロバート・テイラー 
  今回、ウィル・スミスが演じるのは詐欺集団を率いるニッキー。詐欺集団といっても、前半にチームで見せるのはスリです。見事なテクニックとチームワークでカモの視線をそらして、財布や貴金属を相手に覚られないように盗んでいきます。でも、財布はともかく、直接身につけている時計や指輪をああも見事に気づかれずに盗むことができるのか未だに疑問ですが。
 後半は自動車レースを舞台にした詐欺となりますが、その前に描かれた中国人ギャンブラー、リー・ユァンとの賭けのシーンはなかなかのもの。深層心理に働きかけた騙しのテクニックは見事です。心理学的にこういうことはあるのでしょうね。この場面でニッキーの人間性を疑ってしまったのですが、やられましたねえ。
 いわゆる、こうしたコン・ゲームの映画では、いかにして観客を騙すことができるかで、おもしろい映画かどうかの評価が分かれるのですが、そういった点での最高峰はロバート・レッドフォードとポール・ニューマンの「スティング」です。あれほど「やられたなぁ~」と思った映画はありません。この映画でも重要なシーンが、完全に「スティング」のマネをしていました。せっかくのクライマックスシーンで種が想像できてしまったところは残念です。
脳内ポイズンベリー(27.5.9) 
監督  佐藤祐市 
出演  真木よう子  西島秀俊  神木隆之介  吉田羊  浅野和之  古川雄輝  成河  桜田ひより  ともさかりえ  野波麻帆     岡本玲  カンニング竹山 
 真木よう子さんといえばテレビドラマの「SP」や「MOZU」での、男勝りの凛々しい役柄か「さよなら渓谷」のような暗い役柄ばかりが印象的なのですが、今回はイメージを一新。いつもの眼力の強い女性ではなく、どこかズレた、かわいい女性を演じます。このイメージの異なる真木さんは、この作品の売りですね。
 美大出の年下男・早乙女に一目惚れしたいちこ。そんな彼女の頭の中ではポジティブの石橋、ネガティブの池田、衝動のハトコ、記憶の岸、理性の吉田が、吉田を議長にして、この恋愛をどうするかの脳内会議を開いていた。
 いちこが恋する早乙女は、見た目はイケメンだけど、おじさんから見ると「こんなやつに惚れるな!」と言いたくなるような男。女性を好きになれば、その人が既婚者であっても欲望の向くまま行動するという、自分の心に正直といえば正直なのですが、大人としてはど
うなのかなあと思ってしまいます(まぁ、モテない男のやっかみもあるのですが。)。一方、いちこに恋する編集者の越智は真面目なサラリーマン。僕からすると、越智を応援してしまうのですが、いちこが心ときめくのは早乙女。どうして女性って(と、一括りにすると怒られそうですが。)、こんなはっきりしない男に惹かれてしまうのですかねぇ。
 それにしても、ポジティブの石橋が眠りについたのはなぜなんでしょうか。そして眠りから起きたら、それまでは早乙女との交際に積極的だったのに、急に考えが変わったのはなぜなんでしょう。
 脳内会議の5人のドタバタは楽しいですね。中でもポジティブ役の神木くんは最高。どちらかといえば、雰囲気はネガティブな感じですが、ものの見事に弾けています。ネガティブ役を演じる吉田羊さんは役柄にぴったりです。あの顔はどうみてもネガティブ顔です。いつもは男らしい役ばかりの西島秀俊さんが、脳内会議をまとめられず、優柔不断な理性を演じるのも見物です。
 ラストでいちこは再び恋をするのですが、相手の顔は見えず靴だけ。越智だといいのですが・・・。直前のシーンで書店にいた越智はあんな靴履いていなかったでしょうか。 
シグナル(27.5.15) 
監督  ウィリアム・ユーバンク 
出演  ブレントン・スウェイツ  オリヴィア・クック  ボー・ナップ  ローレンス・フィッシュバーン 
 MIT(マサチューセッツ工科大学)に通うニックとジョナは、ニックのガールフレンド、ヘイリーの引っ越しのため、大陸横断の旅に出る。その途中、大学のネットワークにハッキングした正体不明のハッカー“ノーマッド”の挑発に遭い、彼の居場所を探してネバダへと向かう。ニックらは“ノーマッド”の居場所を見つけたが、何かに襲われ、意識を取り戻すと政府の隔離施設に監禁されていた。そこで、防護服に身を包んだデイモンという男からニックらは“何か”に接触したことで感染が疑われていると言われるが・・・。
「スタンリー・キューブリックとデヴィッド・リンチを合わせたような作品だ」という宣伝文句に惹かれて観に行ったのですが、正直のところ、よく分かりませんでした。分からないという意味ではスタンリー・キューブリックとデヴィッド・リンチを合わせた作品といえるかもしれません。
 作品の内容としては、エイリアン・アブダクション(エイリアンによる誘拐)ものといえばいいのでしょうが、ちょっと説明不足。主人公ニックが足の悪い理由も何ら説明ありませんでしたし。ラストも、この風景はいったい何だと呆気にとられました。パンフレットに掲載されていた監督のインタビュー記事を読んで、初めて「ああ、そういうことだったんだ」と分かりました。ただ、“ノーマッド”の正体については、観た人にはすぐわかるでしょうね。
 この作品は、観る人を選びます。 
駆込み女と駆出し男(27.5.16) 
監督  原田眞人 
出演  大泉洋  戸田恵梨香  満島ひかり  樹木希林  堤真一  山崎努  陽月華  内山理名  キムラ緑子  木場勝己
    中村嘉葎雄  武田真治  北村有起哉  中村育二  山崎一  麿赤兒  高畑淳子  宮本裕子  橋本じゅん  松本若菜 
 物語は、駆け込み寺として有名な鎌倉の東慶寺を舞台に、駆け込みを行った3人の女性を巡る騒動を描くと共に、老中・水野忠邦による天保の改革が行われている時代に、水野の元で改革を進める“妖怪”と呼ばれる南町奉行・鳥居耀蔵による東慶寺取り潰しの策略に立ち向かう者たちを時にユーモアを交えながら描いていきます。
 駆け込む女は、江戸の唐物問屋・堀切屋の妾・お吟、七里ヶ浜・浜鉄屋の鉄練り職人のじょご、武士の娘の戸賀崎ゆうの3人。そん
な彼女らを手助けする人物が医者の見習いであり、駆け出しの戯作者でもある中村信次郎。駆け込んだ女は正式に東慶寺に入る前に、手続きとして門前の御用宿・柏屋で事情を聞かれます。この柏屋のあるじが信次郎の伯母である源兵衛。名前からして会ったことのなかっ
た信次郎が“伯父”だと勘違いしてしまったところが愉快です。
 病気の医者に代わって東慶寺に信次郎が往診に行くシーンは見物です。特に、想像妊娠をした女性を診察する場面では大笑いです。こういうところは信次郎を演じた大泉洋さんの真骨頂ですね。
 駆け込みを行った3人の女性を満島ひかりさん、戸田恵梨香さん、内山理名さんが演じますが、この3人より印象的だったのは、東慶寺の院代・法秀尼を演じた陽月華さんです。初めて見た女優さんですが、凜々しくて尼さん姿の似合う綺麗な方でした。宝塚の娘役トップ出身だそうですね。 
メイズ・ランナー(27.5.22) 
監督  ウェス・ボール 
出演  ディラン・オブライエン  カヤ・スコデラリオ  アムル・アミーン  キー・ホン・リー  ウィル・ポールター  パトリシア・クラークソン
     トーマス・ブロディ=サングスター  ブレイク・クーパー  デクスター・ダーデン  クリス・シェフィールド 
 「トワイライト」や「ハンガーゲーム」同様、アメリカで若者に人気を博しているライトノベルの映画化です。三部作が予定されている第1作となります。
 主人公はトーマスという名前の少年。彼は気づいたときは上昇する貨物エレベーターの中におり、着いたところは回りが高い壁に囲まれた場所だった。そこではアルビーをリーダーとする少年ばかりが暮らしており、全員が名前以外の記憶を失っていた。壁の外は日々姿を変える迷路となっており、足の速いものが“ランナー”として朝に開き夕に閉じる出口から迷路の調査にあたっていたが、そこには蜘蛛のような化け物“グリーバー”がいて、今までに何人もが命を失っていた。調査に出てグリーバーに襲われ意識を失っているアルビーを救ったことからトーマスは“ランナー”に選ばれ、迷路を調査することとなる。そんなある日、貨物エレベーターが運んできたのは、初めての女の子・テレサだった・・・。
 若者たちがある場所に閉じ込められるということからは、「十五少年漂流記」やF蝿の王」という小説を思い浮かべますが、定番の仲違いでグループが分かれるというのは、この作品でも見られます。そして仲間たちの死という場面にも直面するのもお決まりのパターンです。
 三部作のこの作品はまずは導入部ということで、いったい、彼らはなぜ閉じ込められているのか。トーマスの脳裏に浮かぶ研究施設の風景は何なのか。「WCKD」はいったい何を意味するのか。そして、彼らはこの迷路から脱出できるのか。様々な謎が明かされないまま(ラストで一つの答えが提示されますが、果たしてそれが真実なのかもまだわかりません。)、シリーズ2へ突入です。 
イニシエーション・ラブ(27.5.23) 
監督  堤幸彦 
出演  松田翔太  前田敦子  木村文乃  三浦貴大  前野朋哉  森田甘路  片岡鶴太郎  手塚理美  木梨憲武  山西惇
     森岡龍  矢野聖人 
 乾くるみさん原作の同名小説の映画化です。原作は叙述トリックを使ったミステリですが、映像作品では叙述トリックを使用するわけにはいかないので、別のトリックが仕掛けられています。ただし、このトリックのネタばらしになるような予告編が流れているのは理解できません。原作を読んでいない人でも、この予告編を見ると、いざ本編を見て導入部でおかしいなという印象を持ってしまいます。更にその後のストーリーの大きな転換点で、このトリックは見破ることができてしまいます。映画の最初に「秘密を話さないように」というお願いが出ますが、そもそも予告編であのシーンを流してはダメでしょうと言いたいですね。
 ストーリーは、合コンで知り合い交際を始めた二人が、男性が東京へ転勤になったことにより、遠距離恋愛となり、東京では同僚の女性が男性を好きになるという、いわゆる三角関係になってしまう様子が描かれていきます。
 謳い文句では最後の5分間でそれまでの恋愛物語がミステリーへ変貌するということで、ネタばらしがされていきます。予告編を観なくてまっさらな状態で観ても、いろいろなところに伏線が張り巡らされていて、注意深い人なら気づいてしまうものもあるかもしれません。
 主人公の鈴木を松田翔大さん、彼を巡る二人の女性、地元の彼女・成岡繭子を元AKBの前田敦子さん、東京の同僚の女性・石丸美弥子を木村文乃さんが演じます。前田さんファンには申し訳ないですが、彼女だけ異質な感じです。あの甘ったれた話し方は、大人の女性である木村文乃さんとの対比で役柄上狙ったものでしょうが、それにしても学芸会の延長のように感じられてしまう演技はどうにかならないものか。
 時代設定が80年代で、その当時の音楽や“もの”が映画の中に登場してきて、僕らの年代には懐かしさを感じさせてくれました(でも、コンパのときのブーツ型のビールジョッキは知りませんでした。)。さらに、当時放映されていたテレビドラマの「男女七人秋物語」のことが劇中で話題になっていましたが、それに出演していた片岡鶴太郎さんと、手塚理美さんがこの映画に出演しているのも、当時を知る者としてはニヤッとしてしまいます。 
チャッピー(27.5.26) 
監督  ニール・ブロムカンプ 
出演  シャールト・コプリー  デーヴ・パテル  ニンジャ  ヨーランディ・ヴィッサー  ホセ・パブロ・カンティージョ  ヒュー・ジャックマン
     シガニー・ウィーヴァー  ブランドン・オーレット 
 南アフリカ・ヨハネスブルグでは多発する犯罪を取り締まるため、テトラバール社のディオンが開発したロボット警官・スカウトを導入していた。ディオンは自分でもっと考え行動できるロボットを作ろうと、廃棄処分になる予定のロボットを持ち出したが、それをギャングのニンジャに奪われてしまう。AI(人工知能)をセットしたロボットはチャッピーと名付けられ、ニンジャとその恋人ヨーランディの元で様々な知識を学んでいく。一方テトラバール社のヴィンセントは自分が作った戦闘ロボット・ムースを警察に採用させようとして、ディランのロボット警官を追い落とすため策略を講じる。
 「チャッピー」と名付けられたロボットが、だんだん知識を増やしていくところが、人間の赤ん坊が成長していくようで、ここが観る人がチャッピーに心惹かれていく理由になるのでしょう。ヴィンセントに襲われ腕を引き抜かれ、町のチンピラに火をつけられ、ひたすら家に帰ろうとするチャッピーの姿に涙が浮かんでしまう観客も多かったのでは。
 「チャッピー」という題名と予告編を観た限りでは、お子様映画かと思っていたのですが、そこは「第九地区」や「エリジウム」の監督らしく、単純な感動作にはしていません。戦闘ロボット・ムースとの派手な戦いのシーンもあります。
 「チャッビー」はモーション・ピクチャーで撮られています。演じているのはニール・ブロムカンプ監督作品にお馴染みのシャールト・コプリーです。
 ギャングを演じたニンジャとヨーランディは実際の芸名のままの出演です。芸名が“ニンジャ”とは、よほど日本の忍者に惚れたのでしょうか 
夫婦フーフー日記(27.5.30) 
監督  前田弘二 
出演  佐々木蔵之介  永作博美  杉本哲太  佐藤仁美  高橋周平  宇野祥平  大石吾朗  並樹史朗  梅沢昌代  吉本選江
     小市慢太郎 
  知り合って17年たって結婚をしたコウタとユーコ。結婚直後妊娠が判明するが、それと共に、ユーコは大腸癌に冒されていることがわかる。作家志望だったコウタはユーコとの闘病生活をブログに記していく。
 物語は亡くなったユーコが幽霊となってコウタの前に出現するという、僕が大好きな“ゴーストもの”です。映画は二人の出会いから17年後の結婚、妊娠、そして闘病生活が描かれていきます。コウタが書くブログに幽霊となったユーコが「そこ違うだろう!」という突っ込みが愉快です。
 この映画はやはり死んで幽霊となったユーコ役の永作博美さんの演技のインパクトが強いです。男勝りの口の利き方で、立ち止まってばかりいる佐々木蔵之介さん演じるコウタの尻を叩きます。彼女の演技あってのこの作品といっていいのでは。
 一方、コウタ役を演じた佐々木蔵之介さんですが、冒頭、若き頃のニ人の出会いのシーンでの短パン姿はさすがに年齢的に無理ありましたねえ。
 “ゴーストもの”となれば、当然幽霊と残された人との別れのシーンがあって、観客は涙というのが定番ですが、この作品は予想を裏切ります。
ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス(27.6.5) 
監督  フランシス・ローレンス 
出演  ジェニファー・ローレンス  ジョシュ・ハッチャーソン  フィリップ・シーモア・ホフマン  リアム・ヘムズワース  ウディ・ハレルソン       ジュリアン・ムーア  ジェフリー・ライト  エリザベス・バンクス   スタンリー・トゥッチ  ドナルド・サザーランド  サム・クラフリン
     ウィロー・シールズ  ジェナ・マローン
 「ハンガーケーム」シリーズ最終章、2部作の前編になります。
 前作のラストで反乱軍に助けられたカットニスは、その本拠地である第13地区に身を潜めていた。第13地区の首相・コインはカットニスを反乱軍の象徴として担ぎ上げ、反乱軍の士気を鼓舞しようとしていた。一方、独裁国家・パネムに捕らわれたピーターはカットニスに停戦に応じるようテレビ放送で語りかけ、反乱軍から裏切り者と非難される。
 今回は前作までのように“ハンガーゲーム”をどうやって生き抜いていくかを描くものではありません。まったく“ハンガーゲーム”とは関係なく独裁国家パネムと反乱軍との戦いを描いていきます。2部作の前編なので、決着は後編へ。果たして、ピーターはどうなるというところで終わります。
 カットニス役を演じるジエニファー・ローレンスは、いつの間にかアカデミー賞を受賞するほどの大女優になりましたが、この映画では成熟した女性とは異なる少女の雰囲気を見事に纏っています。化粧の仕方もあるのでしょうが、女性は化けます。
 今作から今年のアカデミー賞主演女優賞を獲得したジュリアン・ムーアが演じる第13地区の首相・コインが登場します。反乱軍を率いますが、だからといって彼女が正義というわけでもありません。カットニスは彼女にとっては、フランス革命の際のジャンヌ・ダルク
と同じ反乱軍をまとめる象徴にすぎません。コインの仕掛けたプロパガンダに乗って反乱の前線に立って命を散らしていく人が無残です。また、悪と正義ということでいえば、カットニスたちが黒系でパネムのスノー大統領が通常は正義を表す白というのも皮肉です。
 昨年2月に亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマンが出演しているので、撮影はかなり前だったのでしょうか。 
予告犯(27.6.6)
監督  中村義洋
出演  生田斗真  戸田恵梨香  鈴木亮平  荒川良々  濱田岳  田中圭  宅間孝行  坂口健太郎  小松菜奈  小日向文世
     福山康平  窪田正孝  滝藤賢一  本田博太郎  仲野茂  
 ネットで犯罪を予告する男が出現。顔を新聞紙で作った覆面で隠した男は“シンブンシ”と呼ばれるようになる。彼は、食中毒事件を起こしても反省の言葉もない食品メーカーの工場に火を放ったり、バイト先の店でゴキブリを揚げてネットに流した男に揚げたゴキブリを食べさせたり、男に乱暴された女性に対し自業自得だとネットに書き込んだ男を拉致して性的暴行を加えたりの事件を起こします。警視庁サイバー犯罪対策謀の女性キャリア係長・吉野絵里香はそんなシンブンシを追うが・・・。
 物語は、派遣先でのパワハラによって体調を崩し、会社を退社せざるを得なくなり、ハローワーク通いをする主人公・奥田ら日雇い先で出会った4人の青年が犯す事件とそれを追う吉野らを描いていきます。
 派遣やパワハラといった現代的な問題を扱いながらも、この作品の主眼が派遣やパワハラ、日雇いの過酷な労働環境、あるいはこういう事件をおもしろおかしく煽るネット社会に対する批判かと考えると、そういうわけではないようですね(それも少しはあるでしょうけど)。彼らの本当の目的は想像もできないものでしたが、う~ん・・・そのためにこんなことするのかという説得力がいまひとつだった気がします。
 キャリア警察官・吉野を演じた戸田恵梨香さんですが、セリフとはいえ、彼女の口から「〇〇ぶち込まれたのね」なんていう言葉が出るとは、びっくりです。
トゥモローランド(27.6.6) 
監督  ブラッド・バード 
出演  ジョージ・クルーニー  ヒュー・ローリー  ブリット・ロバートソン  ラフィー・キャシディ  トーマス・ロビンソン  ティム・マッグロウ
     キャスリン・ハーン  キーガン=マイケル・キー 
 1964年、ニューヨーク万国博覧会の発明コンテストの会場に自分の発明したジェットパックを持ってやってきた11歳の少年・フランク・ウォーカーは、そこで出会った少女・アテナからもらったバッチによって、見たこともない未来都市を訪れる。時が経過して現在、スペースシャトル計画が終了したことに不満を持ち、NASAのロケット発射台の解体を阻止しようとする17歳のケイシーは、敷地に侵入しようとして警察に逮捕されてしまう。釈放時に返された所持品の中に見慣れないバッジを見つけ、それに触れたとたん、ケイシーは見たこともない世界の中にいた。バッチのバッテリー切れで元の世界に戻ったケイシーは再びその世界に行こうとするが・・・。
 正直のところ話がよくわかりませんでした。うっかり、ほんの5分ほどウトウトしてしまったせいでしょうか。なぜ冒頭では華やかだったトゥモローランドが荒れ果てているのか。地球の滅亡とトゥモローランドはどういう関係があるのか、なぜフランクは追放されたの
か、そもそもトウモローランドとはどういうところなのか。それに、なぜ○○たちはロボットに追われなくてはならないのか等々結局さっぱりわかりませんでした。
 ディズニーらしく、子どもたちに頑張ってくださいというラストですが、どうすれば地球は滅亡しないのでしょうか。
 内容より、アテナ役を演じたそばかすだらけの少女、ラフィー・キャシディの印象が強烈です。まさしく、アメリカの少女という感じですね。彼女が車を追って走るシーンは「ターミネーター」みたいで笑ってしまいました。
 成長したフランクを演じたジョージ・クルーニー、久しぶりに見ましたが、年取りましたねえ。 
マッドマックス怒りのデス・ロード(27.6.22) 
監督  ジョージ・ミラー 
出演  トム・ハーディー  シャーリーズ・セロン  ニコラス・ホルト  ヒュー・キース=バーン  ゾーイ・クラヴィッツ  ライリー・キーオ
     ロージー・ハンティントン=ホワイトリー  アビー・リー  コートニー・イートン   
  前作から30年。「マッドマックス」第4弾です。とはいっても、監督はジョージ・ミラーで、時代設定は核織争で荒廃した世界というのは同じですが、続編ではなく、ストーリーは新たなものとなっています。                   
 水源を独占し、人々を支配するイモータン・ジョーの元から大隊長のフィリオサは彼の子どもを産むための女たちを連れて、武装タンカー・トレーラーに乗って彼女の故郷へと逃走する。イモータン・ジョーに捕らわれていたマックスはフュリオサとともに追っ手から逃げることとなるが・・・。
 マックスの前に時々現れる少女の幻覚は何なのか(これは自分の子どもでしょうけど、なぜそれを恐れるのか)、イモータン・ジョーの私設軍隊であるウォーボーイズの大隊長まで務めていたフュリオサがどうして女たちを連れて逃げることになったのか、ウォーボーイズの兵士である者たちはなぜ命が長くないのか等々、あまりはっきりと描かれていない部分が多かったです。説明不足という気はしますが、2時間の上映時間でメインとなるのが派手なカーアクションですから仕方ありません。
 しかし、この映画、「マッドマックス」という題名ですが、マックス以上にフュリオサの方が目立ちます。マックスは冒頭であっという間にイモータン・ジョーに捕らわれてしまうというだらしなさです。また、フュリオサだけではなく、おばあちゃん戦士も派手に活躍しており、強い女性映画と言っていいかもしれません。
 シャーリーズ・セロンが丸刈りになってフュリオサを演じますが、他に登場する女性と異なって、しっかりとした骨格で、女戦士役がぴったりです。格好いいですよねえ。
 マックスが格好良かったのはラストシーンで、フュリオサに背を向けて、ひとり群衆の中を去って行くシーンです。ここはマイケル・パレとダイアン・レインの「ストリート・オブ・ファイヤー」のラストシーンが思い浮かびました。
 ウォーボーイズの兵士でありながら途中で寝返った(?)ニュークスを演じたのはニコラス・ホルトという「アバウト・ア・ボーイ」で少年を演じていた俳優だそうです。まったくわかりませんでした。
ストレイヤーズ・クロニクル(27.6.27) 
監督  瀬々敬久 
出演  岡田将生  染谷将太  成海璃子  松岡茉優  伊原剛志  豊原功補  石橋蓮司  白石隼也  高月彩良  清水尋也
     鈴木伸之  栁俊太郎  瀬戸俊樹  黒島結菜 
  本多孝好さん原作の同名小説の映画化です。物語は親へ強いストレスを与えることによって分泌された異常ホルモンにより特殊な能力を持って生まれてきた子どもたちと、遺伝子操作によって特殊な能力を持って生まれてきた子どもたちが大人たちによって翻弄される姿
を描いていきます。
 いつもの本多作品とは異なるアクションシーン満載の原作はそれなりに楽しむことができたのですが、3分冊された原作を2時間の上映時間の中で描ききることは難しかったのでしょうか。特殊能力を持って生まれてきた少年少女たちの悲しみや苦しさをうまく伝えきれていなかった感じがします。能力などなくても生きたいと切実に思う学ぶ率いるアゲハがなぜ殺人事件を起こすのかも、あれではよくわかりません。
 ラストも原作と異なっていますが、映画のあのシーンはいただけません。本当であれば非常に残虐な場面というべきものを、昴たちが回りで見つめていられることができるでしょうか。原作のラストの方が好きです。
 また、伊原剛志さん演じる渡瀬が悪役ということですが、彼の考えがこの映画ではどうも理解できません。子どもを幼くして亡くし、妻も自殺したという状況が、彼の考えにどう影響を与えているのか、いないのか、そのあたりも微妙です。
 映画でよかったと思ったのは、アゲハグループの女性たちが住むアパートの隣室に住む男子大学生とのエンドロールで流れるシーンです。ちょっとホッとします。
 主人公の昴を演じたのは岡田将生くん。今まで彼のアクションは見たことがなかったのですが、以外に動けていましたね。
アリスのままで(27.7.1) 
監督  リチャード・グラッツァー&ウォッシュ・ウェストモアランド 
出演  ジュリアン・ムーア  クリステン・スチュアート  アレック・ボールドウィン  ケイト・ボスワース  ハンター・パリッシュ 
 今年(2015年)のアカデミー賞で主人公・アリスを演じたジュリアン・ムーアが主演女優賞を受賞した作品です。
 アリスは言語学を研究する大学教授。ある日、講義中に言葉が出なくなったり、キャンパス内をジョギングするうちに道がわからなくなったりしたことから、精神科を受診したところ、若年性のアルツハイマー病と診断される。
 僕自身も中年から老年へと向かう年齢となり、記憶力の低下は目に余るものがあります。特に、人の名前が思い出せません。テレビの芸能人の名前が思い出せないならともかく、会社の人の名前が思い出せないのですから、認知症かとすごく不安です。妻との話の中でもお互いに言葉が口から出ずに、「あれ」、「それ」という会話が多くなってきました。
 アリスは言葉を研究する言語学の教授ですから、言葉を忘れていく辛さは相当なものでしょう。癌であった方がよかったと叫ぶのも無理ありません。すっかり自分のこともわからなくなったときのために、パソコンにそんな自分に語りかける映像を残しますが、身につまされます。ただ、映画は夫や子どもたちがアリスを優しく見守ることができる環境にあるがゆえのあのラストでしょうし、実際に認知症になったときのもっと悲惨な状況は描かれていません。ちょっと綺麗すぎる話という気はします。とはいえ、しだいに表情を失っていくアリスを演じたジュリアン・ムーアは熱演でした。 
グローリー(27.7.1)
監督  エヴァ・デュバネイ
出演  デヴィッド・オイエロウォ  トム・ウィルキンソン  ティム・ロス  キューバ・グッディング・Jr  カーメン・イジョゴ  オブラ・ウィンフリー
     ロレイン・トゥーサント  テッサ・トンプスン  キース・スタンフィールド  
 公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング・Jrを描いた作品です。
 冒頭が黒人少女たちを吹き飛ばす爆破シーンから始まります。キング牧師のノーベル平和賞授賞式の模様が出てきたので、映画はそこに至るまでの道程を回想シーンで描いていくのかと思いましたが、違いました。驚いたことに映画で描かれるのはその後の話です。
 公民権法が成立し、黒人にも選挙権が与えられたにもかかわらず、有権者登録に行くと嫌がらせを受けて、実際には登録できないという状況が続きます。だいたい50数人もいる判事の名前を全部言えなんて無理でしょう。映画はそんな状況を打破するため、アラバマ州のセルマから州都モンゴメリーまで抗議の行進をしようとするキングらを描いていきます。
 映画ではキングが参加しなかった行進の際に警官隊が無抵抗の黒人たちに警棒を打ち据える残忍な様子が描かれます。あんな残虐な行動を肌の色が自分と異なるということで躊躇なくできるものなのかと自分に問いかけてしまいます。人間の心の恐ろしさを感じてしまいます。更には恐ろしいことに、黒人と一緒に行進をした同じ肌の色の人まで簡単に殺してしまうのですから、これほどまでに人間の残酷さを見せつけられるとは・・・。最近白人の警官が黒人を射殺するなどの事件が相次いでいますが、今もこの時代と何ら変わっていないのですね。
 エンドロールで流れる主題歌は今年のアカデミー賞主題歌賞を受賞した作品です。コモンとジョン・レジェンドの歌うこの歌は心に響きます。
 キング牧師は1968年にわずか39歳の若さで暗殺されますが、彼を敵視したアラバマ州知事ウォレスも1972年に狙撃され車椅子生活となるという、アメリカという国の怖さがここにも出ています。
忘れないと誓ったぼくがいた(27.7.6) 
監督  堀江慶 
出演  早見あかり  村上虹郎  西川喜一  渡辺祐太朗  大沢ひかる  ちはる  池端レイナ  二階堂智  ミッキー・カーチス 
  平山瑞穂さん原作の同名小説の映画化です。物語は自分の存在が数時間で人の記憶から消えてしまう少女とその子に恋した男の子の話です。
 大学受験を控えた高校三年生の葉山タカシは、ある夜自転車にぶつかった女の子が同じ高校の中にいるのを見つける。織田あずさと名乗った彼女にタカシは次第に惹かれていく。タカシは同級生とのバーベキューにあずさを誘うが、やってきたあずさに対し、同級生たちけこんな子はクラスにいないと言う。立ち去ったあずさを追ったタカシは彼女から、彼女に会った誰もが、数時間のうちに彼女についての記憶を失ってしまうと聞く。信じられない告白を本気にしなかったタカシだったが、周囲の人々が皆あずさの存在を覚えておらず、タカシ自身までもが彼女のことを忘れかけている事実に気づき愕然とするが、自分だけはあずさのことを絶対に忘れるまいと、必死の努力を続ける・・・。
 原作でも映画でも、彼女が忘れられる理由は描かれていません。不可思議な現象をあまり突き詰めると、例えば、彼女のことを忘れた父が、家に彼女をおいておくのは不自然でしょうとか考え始めてストーリーがおもしろくなくなります。

(これ以降ちょっとネタバレあり)

 自分の存在を忘れられるなんて、辛いですよね。ましてや、交際していた男の子から、君の名前は?なんて尋ねられるなんて、かわいそうすぎます。タカシはあずさのことを忘れないよう、壁に写真を貼ったり、スマホに彼女との約束を通知したりするのですが、実は1年前には二人は既に交際していた、それをタカシは忘れていたことが明らかになります。このシーン、あずさの気持ちを考えると、本当に切なくなります。
 ラストは唐突な終わり方です。あれで終わりでは救いようがないです。あまりに悲しすぎます。原作もそうだったのでしょうか。
 あずさを演じたのは、元ももクロの早見あかりさん。撮影は昨年の夏のようですが、現在TBSテレビの「A-Studio」で笑福亭鶴瓶さんのアシスタントをしているのを見ると、失礼ですが何だかかなり太った気がします。
アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン(27.7.5) 
監督  ジョス・ウェドン 
出演  ロバート・ダウニー・Jr  クリス・ヘムズワース  マーク・ラファロ  クリス・エヴァンス  スカーレット・ヨハンソン  ジェレミー・レナー     アーロン・テイラー=ジョンソン  エリザベス・オルセン  ポール・ベタニー  コビー・スマルダーズ  ステラン・スカルスガルド
     ドン・チードル  ジェームズ・スペイダー  サミュエル・L・ジャクソン 
 アベンジャーズ第2弾。今回アベンジャーズが戦うのは人工知能です。
 秘密結社ヒドラ党の基地を殲滅したアベンジャーズ。トニー・スタークは、そこで研究されていた人工知能のデータを持ち帰り、それを利用して地球の平和を守るためのロボット軍団を製作しようとするが、人工知能“ウルトロン”は地球の平和のためには人類の滅亡が必要だとして人類の抹殺を図るため、アベンジャーズに宣戦布告をし、姿を消す・・・。
 マーベルコミックのヒーローが結集するアベンジャーズの登場となれば、アメリカで人気があったのも無理ありません。僕自身は映画では“アイアンマン”と“ハルク”を観ただけで、“ソー”と“キャプテン・アメリカ”は観たことはありませんが、観ていない人でも十分楽しめます。できれば、「アベンジャーズ」の前作を観ておくことを進めます。更に細かいところでは、冒頭登場する秘密結社のヒドラ党のことや前作の「アベンジャーズ」にも登場していたシールズの長官、ニック・フューリーが出てこないところは“キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー”を観ていなければ何のことやらと思います。
 今回、アベンジャーズに新たな仲間が加入します。二人はパンフレットの表紙に小さく掲載されていますが、もう一人は逆光ではっきりとはわかりません。まあ中では大きく取り上げられていますが。
 今作では、メンバーでありながら肉体改造がなされているわけでもなし、ロボットのスーツを着るわけでもない、単に弓の名手にすぎないホークアイの家族関係(結婚して子どももいたんですね)やハルクとブラック・ウィドウとの恋愛模様が描かれています。ファンとしても楽しいところです。
 周囲が止めるのも聞かず、自分の独断で開発を進めることによって地球滅亡の危機に陥らせることになったアイアンマンのトニー・スターク。科学者としてのおごりがありますよね。いったい、彼のせいで何人の人が死んだのでしょう。責任とれ!と声を大にして言いたいです。
 エンドロールの途中であるものが登場します。いよいよ次回は彼との戦いになるのでしょうか。 
ターミネーター 新起動(27.7.10) 
監督  アラン・テイラー 
出演  アーノルド・シュワルツェネッガー  ジェイソン・クラーク  エミリア・クラーク  ジェイ・コートニー  J・K・シモンズ  イ・ビョンホン 
 シリーズ最新作、それもアーノルド・シュワルツェネガーが復帰ということで、大きな期待を持って観に行ったのですが・・・。
 人類は長い戦いの未、機械軍に勝利するが、人工知能スカイネットはその直前、歴史を改編するため、人類の指導者ジョン・コナーの母親、サラ・コナーを殺害するため、ターミネーターをタイムマシンによって1984年の世界へと送る。ジョン・コナーは母親の殺害を防ぐため、腹心の部下のカイル・リースを1984年の世界に送る・・・。
 ここまでのストーリーは前作までのストーリーを踏襲していますが、ここからが違います。なんと1984年にはすでにターミネーターT800がいて、スカイネットが送ったターミネーターを待ち伏せしていたのです。さらには、か弱きウエイトレスであったサラ・コナーがそこでは戦闘服に身を包んだ逞しい女性となったいました。いったいどうなったの?と理解できませんでした。その上、カイル・リースが向かった先ではターミネーターT1000が待ち受けているのですから。
 なぜ、過去が変わっているのか説明不足。その上、カイル・リースが審判の日は1997年ではなく、2017年だとタイムトラベル中に見えたとして、2017年にタイムトラベルするのですが、これもやはりなぜ?です。だんだん話がよくわからなくなります。タイムトラベルを多用するとつじつま合わせの説明が難しくなります。あまり理屈のことは深く考えずに観た方が楽しめるかもしれません。
 ターミネーターT800の皮膚は人間同様老化するというのが愉快。ターミネーターはサラとカイルがタイムトラベルする2017年まで実時間を生きるのですが、2017年になると、老けているんですねえ。笑ってしまいました。 さすがに若き頃のアーノルド・シュワルツェネガーとは違いますから、うまい設定にしたものです。
 サラ・コナー役は大抜擢のエミリア・クラーク。第1作でサラ・コナーを演じたリンダ・ハミルトンに比べてぽっちゃりとした女優さんで、イメージが違うなあという感じです。もう少しスレンダーな女優さんであってほしかったなあというのが1、2作の大ファンの僕の希望です(笑)。
 エンドロールの途中で続編を示唆するシーンがありましたが、そもそもT800をサラ・コナーがまだ9歳の頃に送り込んだのは誰なのか、今回明らかになっていないので、その辺りのことも次回描かれるのでしょうか。
 でも、そもそも未来の世界でジョン・コナーが部下の中に紛れ込んだターミネーターによって殺されたことで、人類の敗退が決まったのではないでしょうか。その当たりも説明不足です。 
サンドラの週末(27.7.18) 
監督  ジョン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 
出演  マリオン・コティヤール  ファブリツィオ・ロンジォーネ  ビル・グロワーヌ  シモン・コードリ  カトリーヌ・サレ 
(ネタバレあり
 病気で会社を休職をしていたサンドラ。病気も癒え、復職しようとしたが、経営が厳しい中、彼女がいなくても仕事が回るからと、解雇を言い渡される。同僚の取りなしで、翌月曜日に、サンドラの復職に賛成するか、ボーナスの支給に賛成するかの社員投票を行うこととなる。サンドラは夫の励ましで週末同僚の家を回って自分の復職に賛成してくれるよう頼んで回るが・・・。
 主人公サンドラを演じたマリオン・コティヤールが今年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされましたが、確かに彼女の演技で成り立っている映画といってもいいでしょう。
 各社員にとっては家計が苦しい中、サンドラの復職よりボーナスの支給の方が重要なのは当たり前ですし、契約社員にとっては雇い主に叛旗を翻してサンドラの復職に賛成することは、首になるのではと心配するのも当然です。ボーナスを捨ててまでサンドラの復職に賛成する方が凄いです。そんなどう転んでも勝ち目のない戦いにサンドラは挑んでいくのですが、同僚の冷たい態度に絶望し、自殺を図ったりします。しかし、自分を支えてくれる夫の優しさを感じ、サンドラの行動を見て自分の生き方を変えていく同僚も出てくるのに至って、再び戦い始めます。
 でも、監督は夢物語のようなラストにはしません。あまりに淡々としたラストで、「え、これで終わり」と唖然とする中でエンドロールとなります。ただ途中で悲観して自殺を図ったサンドラが、これからの人生は強く生きていくだろうと感じることができるラストとなっています。最初から最後まで地味な映画です。眠くないときに観ることを勧めます。 
HERO(27.7.25)
監督  鈴木雅之
出演  木村拓哉  松たか子  北川景子  杉本哲太  佐藤浩市  濱田岳  小日向文世  角野卓造  八嶋智人  松重豊 吉田羊
     正名僕蔵  田中要次  勝矢  大倉孝二  イッセー尾形  森カンナ  新井浩文  児嶋一哉  三浦貴大  YOU  近藤春菜
 フジテレビのドラマの映画化です。今作の目玉は、テレビの第2シリーズに出演していなかった雨宮検事を演じる松たか子さんの登場です。第1シリーズの時は木村拓哉さん演じる久利生検事の事務官で検事を目指していましたが、10年かかって検事に任官、現在大阪地検難波支部に勤務しているという設定です。たぶん、この映画の撮影中は妊娠されていたようで、全体的にかなりふっくらとした体型でしたし、お腹はロングコートで常に隠されていました。和服を着たときはさすがに目立ちましたけど。
 物語はパーティーコンパニオンの女性の交通事故死事件から始まります。車にはねられた女性が死亡、運転手は女性が突然飛び出してきたと主張します。彼女が飛び出してきた先にはネウストリア公国大使館。久利生は大使館に事情を聞きに行こうとするが、折しもネウストリア公国との貿易交渉を控えていた外務省から法務省に厳重な抗議が寄せられます。亡くなった女性が大阪地検が捜査していた広域暴力団の犯罪の証人であったことから、大阪地検で捜査に当たっていた雨宮が城西支部にやってきます。
 外交特権の壁に久利生たちがどう戦っていくかが見所です。そこはチームワークで乗り越えていくといういつものパターン。小日向さんや杉本哲太さん、松重豊さんなどベテランの芸達者がそろっており、見ていて安心です。松たか子さんの登場で久利生の事務官役の北川景子さんの影が薄くなってしまったかな。
 弁護士にプロポーズされている雨宮が、果たしてそれを受けるのか、それとも断ることで、これからも久利生との聞かどうなるのかとファンをやきもきさせます。
 角野卓造さん演じる牛丸次席検事にそっくりな娘であって杉本哲太さん演じる田村検事の妻役として、今作にハリセンボン近藤春菜さんが登場するかと期待していましたが、残念ながらスマホの待受画面での映像だけでした。(先日のテレビドラマの再放送で追加された場面についに登場しました。)
進撃の巨人(27.8.1) 
監督  樋口真嗣 
出演  三浦春馬  長谷川博己  石原さとみ  ピエール瀧  水原希子  本郷奏多  三浦貴大  桜庭ななみ  松尾諭  水崎綾女     國村隼  渡部秀  武田梨奈  
 諫山創さん原作の同名漫画の映画化です。公開されてからの評判は賛否画論。「原作を無視しすぎている」とか「恋愛要素はいらない」とか「原作の改変は許せない」などの強硬な反対意見に対し、現在公開中の「バケモノの子]の細田監督などは称賛の声を上げている
そうです。原作のマンガを読んだことがない僕としては初見になるわけですが、登場人物たちの外見が日本人なのにカタカナ名というところに違和感がありました。そのくせ、原作にない長谷川博己さんが演じた調査兵団偵察隊の隊長がシキシマとはあまりに日本的。マンガはまだ続いているようですし、映画はマンガとは別の「進撃の巨人」として観るのが一番でしょう。
 残虐シーンが多すぎるという批判もありますが、当然巨人は人間を食べるという設定なので、観ていて残虐なシーンが多いのも致し方ないところでしょう。
 突っ込みどころは満載です。冒頭、壁を破られる原因となる予想以上の巨大な巨人はその後どうしてしまったのでしょう。ミカサはあんなに大きな歯形か残るくらいに喰われたのに、生き残っているのは不思議です。
 三浦春馬くんが主人公なんでしょうが、彼よりハンジを演じた石原さとみさん、弾けてますねえ。原作のキャラがそうなんでしょうか。ちょっとぶっ飛びすぎです。ヒロイン役は水原希子さんですが、正直のところ彼女では役不足の感があります。
 性器もないので生殖の方法も謎という巨人ですが、その赤ちゃんが登場するシーンには笑ってしまいました。
 9月には後篇が公開されますが、原作がまだ続いている中で、どういう終わり方をするのか、気になるところです。 
ジュラシック・ワールド(27.8.8) 
監督  コリン・トレボロウ 
出演  クリス・プラット  ブライス・ダラス・ハワード  イルファン・カーン  ヴィンセント・ドノフリオ  タイ・シンプキンス  ニック・ロビンソン
     ジェイク・ジョンソン  オマール・シー  B・D・ウォン  ジュディ・グリア 
 前作から14年を経てのシリーズ第4弾です。
 コスタリカ沖に浮かぶイスラ・ヌブラル島には今ではテーマパークとしての“ジュラシック・ワールド”がオーブンしており、ザックとグレイの兄弟はそこで責任者をしている叔母のクレアを訪ねてやってくる。クレアはパークの人気を高めるため、飼育係のオーウェンの反対を無視して遺伝子操作により凶暴な恐竜インドミナス・レックスを作り出していた。ある日、インドミナス・レックスが驚くべき知恵によって飼育サイトを逃げ出したことから、パークは大混乱となる。
 CGとわかっていても現実味のある恐竜の姿に驚くばかりです。お馴染みのヴェロキ・ラプトルも登場。恐竜といいながらも小型ですが、凶暴さは相変わらずです。3Dではなく、2Dで観ましたが、臨場感は2Dでも十分あって、登場人物たちが恐竜に襲われるシーンは恐かったですねえ。
 第1作のジュラシック・パークの廃墟があるというのがファンとしては嬉しいですね。ザックたちが松明に使った布は第1作でティラノサウルスの骨格標本のあったホールに張ってあった幕でしょうか。
 クレアを演じたのはブライス・ダラス・ハワードさんです。僕が彼女を観たのはM・ナイト・シャマラン監督の「レディ・イン・ザ・ウォーター」のときですから、それなりのお歳だと思うのですが、なかなかコケティッシュな女優さんで、イメージが以前と変わりました。
 まさしく娯楽大作。2時間があっという間のおもしろさでした。
日本のいちばん長い日(27.8.9) 
監督  原田眞人 
出演  役所広司  本木雅弘  松坂桃李  山崎努  堤真一  神野三鈴  大場泰正  久保酎吉  中嶋しゅう キムラ緑子 麿赤兒 
     蓮仏美沙子  小松和重  中村育二  山路和弘  木場勝己  田中美央  奥田達士  矢島健一  関口晴雄  嵐芳三郎
     田島俊弥  野間口徹  茂山茂  戸田恵梨香  松山ケンイチ  池坊由紀  鴨川てんし  井之上隆志
 太平洋戦争終戦直前のポツダム宣言を受諾するか否かで揺れる日本を、当時の総理大臣・鈴木貫太郎、海軍大臣・阿南惟幾、そして若手陸軍参謀・畑中少佐を中心に描いていきます。
 昭和20年8月、敗戦が濃厚になった中、陸軍では若手将校たちが本土決戦を叫んでいた。鈴木総理は終戦を考えていたが、陸軍の強硬な反対で内閣の意見はまとまらなかった。鈴木は天皇からの聖断を仰ぐという奇策に出る。激高する若手将校はクーデターを起こそうとするが・・・。
 公開2日目に観に行きましたが、会場内は満席。年寄りが多いだろうなあという予想を裏切って、大学生くらいの年齢の人から戦中を知っていそうな年齢の人まで種々雑多な人が観に来ていました。戦後70年となり、若い人の中には日本が戦争をしていたことさえ知らない人も出てきています。安保法案で国会が揺れている中、多くの若い人たちも戦争ということに関心を持ってきたのでしょうか。
 劇中で陸軍参謀の若手将校が、本土決戦で全国民が特攻の精神で戦えば神風が吹くと言っていましたが、当時は冗談でなく本当にそう信じていたんですね。参謀本部の若手将校と言えばエリート集団ですが、そんな頭のいい人たちでさえ、非常識なことを当たり前だと思っていたのですから恐ろしい時代でした。戦争という状況が物事を冷静に判断する能力を奪っていたのでしょう。
 阿南惟幾を演じたのは役所広司さん。本土決戦を叫ぶ阿南惟幾大臣をどう演じるのかと思いましたが、閣議でポツダム宣言受諾が賛成を占める中、若手参謀たちに反対が多いと嘘の電話をして反乱を防ごうとするところは、やっぱり役所さんでなくてはと思いました。何を演じさせても安心して観ていられます。
 鈴木貫太郎を演じたのは山崎努さん。やはり熟練の役者さんだけあって、鈴木のとぼけた味を出すのがうまいですねえ。
 血気にはやる若手参謀・畑中少佐を演じたのは松坂桃李さん。将校役ですから髪を坊主頭にしたのは当然ですが、いつもの温厚な役どころと違って、顔に青筋立てて怒るところは鬼気迫るものがありました。見事な演技でした。
 昭和天皇を演じたのは本木雅弘さん。感情を露わにしない天皇の役どころをうまく演じています。こうやって、天皇を真正面から映画で描くことができるのもいい時代なんでしょう。 
ミッション・インポッシブル ローグ・ネイション(27.8.10) 
監督  クリストファー・マッカリー 
出演  トム・クルーズ  ジェレミー・レナー  サイモン・ペッグ  レベッカ・ファーガソン  ヴィング・レイムス  アレック・ボールドウィン
     ショーン・ハリス   
 シリーズ第5弾です。このシリーズの見所は何といっても、イーサン・ハントを演じるトム・クルーズの体当たりのアクションです。今回も冒頭からトム・クルーズが離陸する輸送機のドアにつかまったまま空の上という度肝を抜くシーンで始まります。CGではなく、トム・クルーズ本人が実際にやるのですから凄いです。CMで観たときは、これがクライマックスシーンと思ったら、プロローグのシーンというのですから、もったいないくらいです。
 水中のシーンも凄いです。水の中に飛び込んで実際6分間も息を止めていたそうですが、そんなこと可能なの!と唖然です。更にはオートバイでの追跡シーンの凄さも負けていません。あのスピードでカーブであんなに体を傾けて倒れないのかと驚くばかり。
 今回の敵は世界の紛争を裏で糸を引いている“シンジケート”と呼ばれる組織です。イーサン・ハントは冒頭シンジケートによって拉致されますが、これを助けたのがシンジケートの一員のイルサ。彼女は果たして何者なのかがトム・クルーズのアクションシーンと共にこの作品の大きな見所のひとつです。このイルサが本当に格好いい女性です。今回イーサン・ハントは彼女によって何度も命を助けられます。演じたのは、レベッカ・ファーガソン。大作に出演したのはこれが初めてですが、僕好みの顔立ちです(笑)。ラストの彼女のセリフからすると、次作にも登場が期待できそうです。
 第1作から登場しているルーサー、「ゴースト・プロトコル」で登場したウィリアム・ブラントのIMFのメンバーも健在です。メンバーのひとり、サイモン・ペッグ演じるベンジーはお笑い担当ですかね。オペラハウスの中でも彼のせいでイーサン・ハントが笑ってしまうピンチに陥ります。手に汗握るアクションシーンの中でホッと息を抜ける場面も必要ですね。 
at Home(27.8.27) 
監督  蝶野博 
出演  竹野内豊  松雪泰子  坂口健太郎  黒島結菜  池田優斗  板尾創路  千原せいじ  村本大輔  國村隼 
 本多孝好さん原作の同名小説の映画化です。
 冒頭、家族関係に恵まれない者たちが、知り合って疑似家族を作っていく様子が描かれていきます。竹野内豊さん演じる和彦は空き巣が仕事。ある日、盗みに入った家で虐待され風呂場に閉じ込められていた男の子・隆史を見つけ、連れ帰って一緒に住み始める。また、盗みを終えて逃げてきた和彦は、優秀な弟と常に比較され、家族の中での居場所をなくして家を飛び出した淳と出会い、家に巡れ帰る。一方、松雪泰子さん演じる皐月は夫のDVに耐えかね、電車に飛び込もうとしたところ、父親から性暴力を受け同じように飛びこもうとしていた少女・明日香に気づき、彼女を押しとどめて一緒に暮らし始める。そんな3人の男と2人の女の5人が疑似家族として生活を始める・・・。
 原作では皐月が和彦に結婚詐欺を働こうとしたことがきっかけで、5人が疑似家族となったことがさらっと語られているだけですが、映画ではその点が描かれていません。ペットショップで出会い、和彦が皐月たちを食事に招いたところが描かれるだけ。原作を読んでいない人にはわかりづらいのではないでしょうか。
 映画は結婚詐欺を働いていた皐月の嘘がばれてしまい、危機に陥るのを家族でどうやって肋けるのかという話へとなっていきます。ここで登場するのがウーマンラッシュアワーの村本大輔さん。原作を読むとこの男も実は結婚詐欺師だったのですが、映画ではそこはわかりませんね。日頃ブラックなギャグをネタとする村本さんらしい悪役は合っていますが、悲しいかな演技者としてはいまひとつでした。
 ラストはお決まりのパターンですが、こういう映画、嫌いではないです。
ナイトクローラー(28.7.27) 
監督  ダン・ギルロイ 
出演  ジェイク・ギレンホール  レネ・ルッソ  リズ・アーメッド  ビル・パクストン 
 ルイス・ブルームは銅線やマンホールを盗んで売り払うというケチな泥棒だったが、ある日、事故現場に遭遇し、それをビデオに撮って放送局に売っているナイトクローラーと呼ばれる男たちを知り、自分も同じことを始めようと考える。盗んだ競技用自転車と交換で手に入れた安物のビデオと警察無線の傍受機を使って、事件現場に行き、生々しいビデオを撮り始めたルイスは、やがてやってはいけないことにも手を染めていく・・・。
 この映画、なんといっても見所は主役のジェイク・ギレンホールの怪演といっていい演技です。この映画のために12キロ体重を落としたせいか、目がギョロッとしていて、見ただけで“危ない男”感いっぱいです。自分の言いたいことを立て板に水のように話しますが、実はそれらはすべてインターネットの世界で学んだ他人の考えを話しているだけで、実は薄っぺらい、自己顕示欲が強い男にすぎません。
 そんな男がのし上がっていくのは、そもそもそういう刺激的な映像を期待するテレビ局等のマスコミ、そして結局はそれを見る視聴者の責任によるところが大です。映像を流す際に「これから刺激的な映像が流れるので自己責任で見てください」はマスコミの責任逃れです。
 ルイスに雇われたリックがあまりにかわいそう。ブラック企業そのもので働き、その結果があれではひどすぎです。
 あまりに後味悪いラストでしたが、これが現実かもしれません。 
共犯(28.7.27) 
監督  チャン・ロンジー 
出演  ウー・チェンホー  チェン・カイユアン  トン・ユィカイ  ヤオ・アイニン  ウェン・チェンリン  サニー・ホン  リー・リエ アリス・クー 
 アパートの一室から転落死した少女の死体を発見したのは、偶然その場に通りかかった、いじめられっ子のホアン・リーファイ、優等生のリン・ヨンチュン、不良のイエ・イーカイの3人。学校ではまったく接点もなかった3人だったが、死体を発見したことで一緒にスクール・カウンセリングを受けることとなり、彼女の死の真相を話し合うようになる。少女の死は自殺なのか事故なのか。彼女が美少女でありながらクラスの中では孤立し、素行もあまり良くなかったことが次第に明らかになってくる中で、やがて、ホアンが彼女の部屋で「チュウ・チンイー 全部あなたのせいよ」と書いた紙を見つけたことから、彼女がチュウ・リンイーにいじめられていたのではと考え、3人は彼女の復讐を企てるが・・・。
 2年前に観て感動した「あの頃、君を追いかけた」と同じ台湾映画、それも高校生を主人公にしたものだったので、期待して観に行ってきました。ただ、こちらはミステリーということで、爽やかな笑いもあった「あの頃、君を追いかけた」とは異なって、重苦しい作品となっています。
 学校でいじめにあっていたホアンが孤独なのはもちろん、勉強ができ、常に友人に囲まれていたようにみえるリンも、そしてイエも本当の友人と呼ぶべき者はいず、どこか満たされないものがあったことが、次第に3人を結びつけていくことになり、そしてそれゆえ、その後の悲劇を招くことになっていきます。
 映画の冒頭で描かれたシーンはいったい何だったのか、やがてそれが明らかとなりますが、あまりに悲しい結末です。
 スクール・カウンセラー役の女優さんがすごく綺麗で、ストーリーの中で重要な位置を占めるのかなと期待しましたが、まったくのちょい役でした。残念。 
アンフェア the end(27.9.5) 
監督  佐藤嗣麻子 
出演  篠原涼子  永山絢斗  AKIRA  吉田鋼太郎  向井地美音  丸山智己  阿部サダヲ  加藤雅也  寺島進  佐藤浩市 
 4年ぶりの映画化。これでテレビから始まったシリーズにピリオドが打たれます。
 冒頭、検事と元検事総長を務めたその父親が殺されるところから話はスタートします。その検事は前作「アンフェア the answer」に登場した山田孝之さんが演じた村上検事(今回、山田さんは登場しません。)で、容疑者として津島というSEが逮捕される。津島は雪平になら話をするということで雪平が呼ばれるが、彼は自分は警察・検察・裁判所を牛耳ろうとするグループの極秘データを盗んだのではめられたと話す。雪平は彼を逃がすが・・・。
 前作のラストで、佐藤浩市さん演じる一条も加藤雅也さん演じる三上も敵グループの仲間だということがわかりましたが、果たして村上検事を殺して、その後釜に座ったのは誰か。これはもう最初から登場人物を見ただけでわかってしまいましたけど。
 果たして雪平は津島とともに逃げ切ることができるのか。彼の持つデータと雪平の持つデータを白日の下に晒して悪を倒すことができるのか。今回のストーリーはいまひとつ。正直のところ、雪平の敵はなぜこんな回りくどいことするの?と思うことばかり。最初から雪平の娘の美央を人質にしてデータとの交換を要求すればいいのに。これは、ある人物(ネタバレになるので伏せますが、正体はすぐ明らかになります。)が相当のお馬鹿のせいですね。
 雪平の父親を殺す命令を下したのはスペシャルドラマで描かれたように裏金作りを糾弾された警察幹部の4人だったのですが、今作では実際に手を下した人物が明らかになります。また、パンフレットを見ると、「アンフェア the movie」でラストに江口洋介さん演じる斉木を射殺した人物も明らかとされます。やっぱり、あの人だったんですね。
 冒頭とラストに篠原さんのバックショットのヌードシーンがありましたが、自分から提案したシーンだそうです。残念ながら暗くてよく見えませんでしたが、ブラのCMに出て胸の谷間を露わにしたり、今回はお尻を見せたりと、相当自分に自信があるんですねえ。 
キングスマン(27.9.11) 
監督  マシュー・ヴォーン 
出演  コリン・ファース  マイケル・ケイン  タロン・エガートン  マーク・ストロング  ソフィア・プテラ  マーク・ハミル ソフィー・クックソン
     サミュエル・L・ジャクソン 
 ロンドンのサヴィル・ロウにある高級テーラー「キングスメン」は、表向きはテーラーだが、実はどこの国にも属しないスパイ組織の本拠地。メンバーのひとりが殺されたため、キングスメンは新たなメンバーの選定を始める。メンバーのひとりであるコリン・ファース演じるハリー・ハートは、かつて自分の命を救った男の息子で今は街のチンピラとなっているエグジーを推薦する。物語は、新たなメンバーの選定の様子を描くのと並行して、人類の大量殺戮を企図するIT富豪のリッチモンド・ヴァレンタインとキングスメンの戦いを描いていきます。
 イギリスといえば紳士の国というわけで、外見はテイラーメイドの背広服姿に傘を持つ紳士ですが、ところがこの傘は防弾でマシンガンにもなるという昔の007を思い起こすようなスパイの七つ道具みたいなもの。そのほかにも、毒薬の入った万年筆とかライター型手榴弾などキングスメンは様々な武器を駆使します。特に爪先からナイフが飛び出る靴は、確か007で敵の女スパイが使っていたような記憶があります。
 昔懐かしいスパイ映画の雰囲気がいっぱいの作品ですが、ただ昔の007のようなスマートなスパイ映画ではありません。教会での虐殺シーンは007のスマートさとはだいぶ違います。血しぶきは飛ぶし、まるでスプラッター映画のようです。ラスト近くの頭が吹き飛んで首なし死体がいっぱいというのもグロテスクです。また、両足がナイフの義足という女性によって、身体が真っニつにされてしまうシーンはどこか滑稽というか漫画的。更に気球で宇宙に行って人工衛星を破壊するなんて、ばかばかしすぎて笑ってしまいます。とにかく、いろいろな要素が詰め込まれた作品ですが、意外に飽きずに最後まで観ることができました。コリン・ファースのアクションは新鮮です。 
ピエロがお前を嘲笑う(27.9.14) 
監督  バラン・ポー・オダー 
出演  トム・シリング  エリアス・ムバレク  ヴォータン・ヴィルケ・メーリング  アントニア・モノー・Jr  ハンナー・ヘルツシュブルンク
     トリーヌ・ディルホム 
 「シックスセンス」や「ファイトクラブ」、更には「ユージュアル・サスペクツ」と同様、ラストであっと言わせる映画ということで評判を呼んでいる作品であり、ドイツ映画ですが、すでにハリウッドで再映画化の権利の争奪戦が行われているそうです。
 ベンヤミンは人付き合いが苦手なコンピューターオタク。好きな女子大生のために試験答案を盗もうと大学のサーバー室に侵入して逮捕される。初犯のため社会奉仕活動を命じられたベンヤミンは、そこで、マックスと出会い、意気投合した二人は彼の仲間とともに4人でハッカー集団「クレイ」を結成する。彼らは、ハッカーの大物に認められたいがために、連邦情報局へのハッキングを試み、成功したものの、その際に盗んだ情報を流したいざこざから、命を狙われることになる・・・。
 物語は、ハッカー集団「クレイ」の一員、ベンヤミンが捜査機関に保護を求めてくるところから始まります。ベンヤミンが女性捜査官に対し、そもそものクレイの結成から犯罪に手を染めていくまでを語っていくのですが、このパターンは「ユージュアル・サスペクツ」と同じです。当然ベンヤミンが語る話には嘘があるのではないか、騙されないぞと目を凝らして観ていましたが、女性捜査官と同じようにある方向に誘導されて、ものの見事に騙されてしまいました。さりげなく、ここ見過ごすなよとばかりにカメラがあるものを映します。それらに気づくと、ある考えが思い浮かぶのですが、その時点で観客はすでに騙されています。更にパンフレットによると、ベンヤミンの部屋の壁にある映画のポスターが貼ってあったそうですが、これも大きな意味を持っています。観客に気づいてもらえないとダメですけど(僕は見過ごしました。)。母親の病気の話が唐突すぎるのは否めませんが、どんでん返しに次ぐどんでん返しで、大いに楽しむことができました。 
カリフォルニア・ダウン(27.9.14) 
監督  ブラッド・ペイトン 
出演  ドウェイン・ジョンソン  カーラ・グギーノ  アレクサンドラ・ダダリオ  ヨアン・グリフィス アーチー・ハンジャビ ポール・ジアマッティ     ヒューゴ・ジョンストン=バート  アート・パーキンソン 
 サンフランシスコを巨大地震が襲い、崩壊する街の中から消防局のレスキュー隊に勤める父親が娘を助け出すというパターンと言えばパターンの家族愛の映画です。東日本大震災を経験した人にとっては、あのときを思い出すことになってしまうかもしれません。
 映画ではサンフランシスコの高層ビルが次々と崩壊、そこに大津波が襲うという、もの凄い映像の作品となっています。観たのは2Dでしたが、それでも迫力のある映像と地震の際の音響は座席が震えるほどでした。
 高層ビルが崩落してがれきの山となった街の中から、更には津波が襲って水で覆われた街の中から娘を探して助け出すというのですから、「あり得ない!」と思ってしまいますが、そこは映画です。実際には不可能なことを実現してスカッとするのが一番です。レスキュー隊の隊員が救助活動を行わずにレスキューのヘリで家族を助けに行っていいのかとか、街の上空で飛行機を乗り捨ててしまっていいのとか、突っ込みどころは満載ですが、家族愛の映画と思って許してあげてください。 
ヴィンセントが教えてくれたこと(27.9.14) 
監督  セオドア・メルフィ 
出演  ビル・マーレイ  メリッサ・マッカーシー  ナオミ・ワッツ  クリス・オダウド  テレンス・ハワード  ジェイデン・リーベラー 
 酒と女と賭け事が好きなちょい悪オヤジのヴィンセントと隣家に引っ越してきた少年オリバーとの交流を描いていきます。
 オリバーを酒場や競馬場に連れて行くし、喧嘩の仕方を教えるなど、やることはハチャメチャなヴィンセント。ところがヴィンセントは、認知症で彼のことがわからなくなっている妻を施設に入所させて8年前から世話をしているという意外な一面を持っており、また、ロシア人のストリッパーである妊婦のダカの面倒も悪態をつきながらも投げ出しません。たぶん、お腹の子はヴィンセントの子どもではないのでしょうけど。
 ラスト、学校の講堂である発表会が開催されます。そこでこの映画の原題が「St.Vincent」である理由がわかりますが、このときのオリバーの発表がうまいこと。いやぁ~思わずうるっときてしまいました。この映画、当初全米で4館の公開だったのに、最終的には2500館まで拡大公開したそうですが、それも頷けます。
 ゴールデン・グローブ賞にもノミネートされたビル・マーレイの演技ももちろん見事ですが、このオリバー役のジェイデン・リーベラーの映画初出演という演技によるところも大です。妊婦役のナオミ・ワッツもぶっ飛んだ演技ですねえ。彼女のあんな演技は初めて観ました。この映画、観て損はありません。オススメです。 
進撃の巨人 エンド オブ ザ ワールド(27.9.19) 
監督  樋口真嗣 
出演  三浦春馬  長谷川博己  水島希子  本郷奏多  三浦貴大  桜庭ななみ  松尾諭  石原さとみ  ピエール瀧  國村隼 
 いよいよ後篇。原作のマンガが連載中の中、どういう結末をつけるのか大いに期待していたのですが・・・。観客動員はいいようですが、正直のところ今年一番にチケット代がもったいなかったと思う作品でした。
 エンドローグ後の何者かによる会話からすると、まだこの世界の謎が明らかになっていないと示唆する終わり方は続編を製作するつもりがあるようです。しかし、今作に限っていえばまったくの期待外れ。壁を壊す、壊さないでストーリーに破綻がありましたし、前篇の冒頭で壁を壊した巨人の正体が実は“あの人物”だったというのにはあっけにとられました。原作には登場しないシキシマの正体も「え~」と思ってしまいました。
 上映時間が90分弱でしたが、これでは前後半をもう少しはしょって1本で公開しても十分だったのでは。興行的には2本で儲けようと思ったのでしょうけど。  
ふたつの名前を持つ少年(27.9.20) 
監督  ペペ・ダンカート 
出演  アンジェイ&カミル・トカチ  ジャネット・ハイン  エリザベス・デューダ  ライナー・ボック  イテー・ティラン 
 ポーランドのゲットー(ユダヤ人居住区)から逃げたスルリック。彼は父から絶対に生きろ、そのためにユダヤ系の名前を捨てろと言われ、ポーランド人らしい名前のユレク・スタニャクと名乗って逃亡生活を送る。
 物語はユダヤ人の8歳の少年がナチから逃れて生き抜いていく姿を描いていきます。8歳といえばまだ小学校の2年生か3年生。そんな少年が、それも戦時下を生き抜くのは相当困難だと思うのですが、生きるために農家で働きながら、ユダヤ人だとわかると逃げることを繰り返しながらソ進軍が侵攻してくる東へと進みます。
 ドイツ軍が子どもでも容赦なく捜索の手を伸ばすのは、ヒトラーのユダヤ民族を根絶やしにしようということからでしょう。子どもまで殺すことはないと思うのが普通でしょうが、躊躇なく子どもを殺せるなんて戦争は恐ろしいことです。
 彼が、苦しくても生きることを選択した理由がラストで明かされますが、あまりに辛い現実です。ラストに語られる彼のその後の人生にホッとさせられます。この映画、真実に基づいた映画だそうです。 
向日葵の丘(27.9.26) 
監督  太田隆文 
出演  常盤貴子  田中美里  藤田朋子  芳根京子  藤井武美  百川晴香  別所哲也  津川雅彦  並樹史朗  烏丸せつこ
     仲代奈緒  岡本ぷく  斉藤とも子 
 あることが原因で高校を卒業してから会わなくなった多香子とみどり。それから30年が過ぎ、映画のシナリオライターとなった多香子のブログにみどりから連絡が入る。みどりが病気でもう長くない命だと知った多香子は父親を嫌って高校卒業以来帰ってなかった故郷を訪ねる・・・。
 物語は30年前、映画が大好きだった多香子とみどりが部員がエリカ一人の映画部に入部し、3人で近所の人たちの協力を得て、学園祭で発表する自主製作映画の製作をしていく様子を描いていきます。                           4  
 舞台となる時代は1983年。松田聖子と中森明菜が人気を二分しており、そのときにはまだビデオも普及していず、CDではなくレコードであったという、その時代の状況が描かれ、懐かしさを感じてしまいました。彼女らが撮る映画も8ミリで、テープはスーパー8でしたからねえ。
 パンフレットの中で監督が『日本人が今すべきは過去を振り返ることではないか?そうすればきっと、いろんなことに気づくはずだ。懐かしい記憶だけではなく、忘れたい悲しい想い出も、苦しすぎる痛みも、しっかりと見つめ直すことで、きっと大切なものが見つかるはずだ。』と語っていますが、僕も賛成です。
 主人公多香子の高校時代を演じるのは、最近売れっ子の芳根京子さん。彼女の演技は特微がありますね。TBSで放映していた「表参道高校合唱部」の時と雰囲気が同じです。大人時代を演じたのは常盤貴子さんですが、年齢を感じさせない美貌です。
 
ファンタスティック・フォー(27.10.9) 
監督  ジョシュ・トランク 
出演  マイルズ・テラー  ケイト・マーラ  マイケル・B・ジョーダン  ジェイミー・ベル  トビー・ケベル  ティム・ブレイク・ナルソン
     レグ・E・キャシー 
 マーベル・コミックの映画化。2005年に公開された同名映画の再映画化です。
 幼い頃から物体移動に興味を持って研究を続けてきたリード・リチャーズはバクスター財団のストーム博士に誘われて研究室に入る。そこで、ビクター、ストームの養女のスー、息子のジョニーと研究を重ねたリードはついに物質転送装置の完成にこぎ着ける。しかし、財団の幹部から彼らを外してNASAと実験を開始することを知ったリードらは、自らが実験台としてリードの親友のベン・グリムを誘って異次元の世界へと向かう。ところがそこで事故が起き、ビクターを残して元の世界に戻ったが、リードは身体がゴムのように伸びる体質となり、スーは、身体が透明になり、ベンは身体が岩石に覆われ、強大な力を持つようになり、ジョニーは身体が発火させるとともに空を飛べるようになる。政府は再度装置を製作して異次元世界へ行こうとするが・・・。
 全シリーズでは4人は宇宙船を浴びて特殊な能力を身につけるのですが、今作では異次元空間のパワーによって身につけます。
 この作品、ビクターが変貌したDr.ドゥームとの戦いはわずかな時間だけで、ラスト新たな研究施設に4人が来たところで終了。きっと前と同様にシリーズ化するつもりなのでしょう。当然Dr.ドゥームは生きていて次作にも登場ということになるのでは。
 これといった感動も目を見張る場面もなく、マーベル・コミックのファンはどうぞという作品でした。異能を持つようになった(そしてベンに限っていえば見た目も異常な姿となった)苦悩とかは、あまり深く描かれていません。自分がこういう姿になったのはリードが自分を誘ったことが原因だということで、ベンがリードを当初憎んだくらいです。結局、異能で地球の敵と戦う部分がメインのストーリーになっていくのでしょうか。 
図書館戦争 THE LAST MISSION(27.10.10) 
監督  佐藤信介 
出演  岡田准一  榮倉奈々  田中圭  福士蒼汰  西田尚美  石坂浩二  栗山千明  松坂桃李  橋本じゅん  土屋太鳳
     相島一之  浪岡一喜  デビッド伊東  手塚とおる  阿部丈二 
  2年前に公開された「図書館戦争」の続編です。
 かつて図書隊にいた経験があり、今では文科省にいる手塚光の兄・慧は私的なグループ“未来企画”を立ち上げ、ある計画を密かに進めていた。ある日、図書隊員による焚書が行われたというリークがマスコミにあり、笠原郁に共犯だという疑いがかかる。一方、水戸美術館において表現の自由をテーマに「芸術の祭典」が開催されることとなり、そこに図書隊で保管する“図書館法規要覧”の初版本が貸し出されることが決定する。堂上、笠原らのタスクフオースがその警備に当たるために茨城県立図書館に派遣されるが、そこに良化隊の検閲が入り、拒否をしたタスクフォースとの間で戦闘が始まる。
 今回の見所は前作以上に激しい戦闘シーンです。容赦ない良化隊の攻撃にタスクフォースが次々と倒れていきます。堂上役の岡田准一くんのアクションシーンも相変わらず見事。さすがにプライベートでもフィリピンの格闘技を習っているだけあります。
 今回の注目キャラは松坂挑李くん演じる手塚光の兄・慧です。図書隊の優秀な隊員でありながら、辞めて文科省に入り直したというエリート。図書隊では何もできないとの考えを持ち、自らの考えを推し進める中、郁に罠をかけたりと、ちょっと悪役として登場します。このところ、痩せてアゴの辺が鋭角になったせいか、悪役も似合いますね。
 自分の“王子様”が堂上教官だと知った郁ですが、なかなか自分の気持ちを打ち明けられません。そうした中でラストは素敵なワンシーンでした。原作はこれ以後の二人の関係も描かれていますが、映画はこれで終わりでしょうか。
 先日のテレビで小牧と中澤毬江の恋物語が描かれましたが、この作品にも土屋大鳳さん演じる毬江がラストにちょこっと顔を出します。
マイ・インターン(27.10.11) 
監督  ナンシーマイヤーズ 
出演  ロバート・デ・ニーロ  アン・ハサウェイ  レネ・ルッソ  アダム・ディヴァイン  アンダーズ・ホーム  クリスティーナ・シエラー
     リンダ・ラヴィン  ジェイソン・オーリー  ザック・バールマン  アンドリュー・ラネルズ  ジョジョ・クシュナー 
 65歳以上の老人を対象に募集のあったインターンに採用されたベン。社長のジュールズのもとでインターンとしての仕事を始める。ジュールズが始めたファッションサイトは今では社員220人を抱えるまでになり、ジュールズは主夫となった夫の協力のもと、八面六曹の活躍を見せていたが、同僚の重役からは会社が大きくなってジュールズの目の届かない部分も出ており、会社の発展のためにCEOを迎えるべきだと忠告されていた。自分が作った会社の経営権を理解のない人に渡したくないと苦悩するジュールズだったが・・・。
 今更言うまでもないですが、ベンを演じるロバート・デ・ニーロの演技が素晴らしい。彼があっての作品だと言ってもいいくらいです。いつもは眉間に縦皺を寄せた影の社会の大物が似合うロバート・デ・ニーロが、この作品では怒った顔を見せません。ジュールズを見守る目の優しいことといったらありません。こんな老人になりたいなあと憧れるダンディな素敵な老人、ベン役を見事に演じます。
 ジュールズ役を演じるアン・ハサウェイもいいですねえ。知的で気が強くて、心に悩みはあるけどもそれを隠して一所懸命頑張る姿に、惚れてしまいます。ジュールズの会社がファッション関係の通信販売をする会社だけあって、ジュールズのファッションにも注目です。スタイルがいいから何着てもお似合いですけど。
 ベンの同僚の3人の脇役の存在もこの映画の大きなポイントです。ジュールズの母親の家に4人で侵入した際のドタバタは大いに笑わせてくれます。
 女性だけでなく、僕らの年代の男性にもオススメの映画です。 
メイズ・ランナー2 砂漠の迷宮(27.10.24) 
監督  ウェス・ポール 
出演  ディラン・オブライエン  カヤ・スコデラリオ  トーマス・ブロディ=サングスター  キー・ホン・リー  ジェイコブ・ロフランド
     デクスター・ダーデン  アレクサンダー・フローレス  ローサ・サラザール  パトリシア・クラークソン  ジャンカルロ・エスポジート
     エイダン・ギレン  バリー・ペッパー  ナタリー・エマニュエル  リリー・テイラー 
 シリーズ第2弾です。
 迷路から抜け出したトーマスたちはジャンソンをリーダとする組織に救助され、彼らの施設へ送られる。そこにはトーマスたちと同じように他の迷路から脱出した若者たちが保護されていた。ジャンソンはここから安全な場所に若者たちを送るといい、毎回何人かの者が選ばれて施設を出て行った。やがて、先に保護されていたエリスに誘われて施設の内部を探ったトーマスは、実はジャンソンはWCKDだったことを知り、施設の中で驚くべき事実を見て、ニュート、ミンホらとともに施設を脱走する。しかし、施設の外は広大な砂漠が広がっており、元は人間だったがウィルスによって人を襲う凶暴な存在に変貌したクランクが待ち受けていた・・・。
 今回は迷路ではなく、WCKDに対抗するRA(ライト・アーム)に会うためにクランクの襲撃から逃れながら砂漠化したかつての都市の中をさまようトーマスたちを描きます。
 前作では迷路から脱出するトーマスたちを襲うグリーバーという怪物が登場しましたが、今回はクランクというゾンビがトーマスたちの前に立ちはだかります。このゾンビ、今時のゾンビで走る、走る。早すぎるスピードでトーマスたちを襲います。噛まれれば定番のゾンビ化してしまうのですから、これは怖いです。
 トーマスたちと一緒に戦う新しいメンバーも登場し、最終作はいよいよWCKDとの戦いになるようです。

(ここからちょっとネタバレ)

 今回はトーマスたちの仲間にも思わぬ事態が生じます。ある人物がトーマス裏切るのですが、これは観ていて腹が立ちましたねえ。その裏切りのせいで何人の人が死んだことでしょう。これは許されません。最終作ではきっとトーマスの元に戻るのでしょうが、このときの行為をどう釈明するのでしょう。このことを忘れていたら許されません。おじさんは、大いに怒っています! 
ミケランジェロ・プロジェクト(27.11.7) 
監督  ジョージ・クルーニー 
出演  ジョージ・クルーニー  マット・デイモン  ビル・マーレイ  ケイト・ブランシェット  ジョン・グッドマン  ジャン・デュジャルダン
     ヒュー・ボネヴィル  ボブ・バラバン  ディミトリー・レオニダス 
 第二次世界大戦中、ナチス・ドイツが占領した国から美術品を略奪したという歴史がありました。ヒトラーは美術学校出でしたから、美術品には思い入れが相当あったのでしょうか。作品中にもありましたように略奪した美術品を展示するために「総統美術館」なる美術館を造ろうとしていたのですから、盗人猛々しいですね。この映画は、ナチス・ドイツに略奪された美術品を取り戻そうと奮闘する男からを描いた実話がベースになった作品です。
 映画はジョージ・クルーニー演じるハーバード大学付属美術館の館長ストークスが、メトロポリタン美術館の学芸員ジェームズ・グレンジャー、元歴史家ドナルド・ジェフリーズ、建築家リチャード・キャンベル、美術商ジャン=クロード・クレルモン、美術史学者で舞台興行主のプレストン・サヴィッツ、彫刻家ウォルター・ガーフィールドを招集し、盗まれた美術品の探索を始めるところから始まります。
 チームを作って何かをするときには「荒野の七人」「黄金の七人」のように7人が一般的ですが、今回も途中でドイツ語ができるということで仲間に加わる一人を除けば7人です。ただ、「荒野の七人」(あるいはその元となった「七人の侍」)のようには個々のメンバーがそれぞれ違う職業でありながら、ストーリーの中にそれがあまり活かされていなかった気がします。
 彼らが奪還した絵画の中には、最近大人気のフェルメールの作品もあり、彼らの命をかけた活躍で今あの絵が見られるというのは、感謝しなくてはいけないですね。ヒットラーの「国内のインフラ・資源・産業施設などを敵に渡さないためにすべて破壊せよ」という“ネロ指令”により、焼却されてしまったものも多いようですから。それにしても、ヒトラーはメチャクチャですね。 
MOZU(27.11.7) 
監督  羽住英一郎 
出演  西島秀俊  香川照之  真木よう子  池松壮亮  松坂桃李  伊勢谷友介  長谷川博己  伊藤淳史  小日向文世  阿部力     杉咲花  ビートたけし  マーシュ彩 
 逢坂剛さん原作の百舌シリーズの映画化です。テレビドラマの続編ですが、もうすっかり原作とは異なるストーリー展開になっています。
 高層ビルのフロアが権藤をリーダーとする武装集団により占拠される。同じ頃、ペナム共和国大使館の車が襲われ、乗っていた少女・エレナが拉致されそうになるが、たまたま現場に居合わせた倉木が襲撃犯を撃退する。武装集団の本当の目的は少女の拉致にあったため、武装集団は撤収するが、その後少女を匿っていた大杉の事務所が襲われ、大杉の娘のめぐみが拉致される。犯人はめぐみと交換にエレナをペナム共和国に連れてくるよう要求する。倉木と大杉はエレナを連れてペナム共和国に向かうが・・・。
 ドラマを見ていなかった人にはまったくわからないストーリーです。2時間ほどの上映時間にいろいろなものを詰め込もうとしたのに、たぶん編集でカットされたせいか、話がわからない部分もありました。例えば、エレナを連れてペナム共和国に向かった倉木と大杉が、ペナムでいつのまにかチンピラにエレナをさらわれてしまっているとか。
 百舌こと新谷和彦を登場させる必然性はあまり感じられません。新谷宏美に心酔して百舌と同じ殺し方をする権藤と戦うためだけにわざわざ海外まで行きますかねえ。権藤と戦う場面だけの登場で終了ですからね。登場させるなら、もう少し意味のある登場シーンがあってもよかったのでは。
 出演者の中では松坂桃李くんが強烈な印象を残します。いつもはイケメンで落ち着いた雰囲気の松坂くんが狂的なまでの切れた男・権藤を演じています。イメージが崩れ落ちてしまいますねえ。松坂ファンがびっくりしてしまうのでは。
 もう一人印象的なのは長谷川博己さんです。長谷川さんが演じる東は原作にないドラマで生まれたキャラですが、これまた今までの長谷川さんの役柄とは異なる切れたキャラで、長谷川さん、弾けてました。
 今回、謎の人物“だるま”役で登場したのはビートたけしさん。登場シーンは少ないですが存在感はありますね。
 全体に暗いトーンの中で、ラストの大杉と明星美希の会話は笑わせます。うまいなあ香川さん。 
グラスホッパー(27.11.7) 
監督  瀧本智行 
出演  生田斗真  浅野忠信  山田涼介  吉岡秀隆  波瑠  宇崎竜童  村上淳  麻生久美子  菜々緒  石橋蓮司  山崎ハコ
     金児憲史  佐津川愛美 
 伊坂幸太郎さん原作の同名小説の映画化です。主役が生田斗真くんに加え“Hey! Say! Jump”の山田涼介くんも出演するせいか、劇場内は原作ファンというよりはジャニーズファンの女性、それも年齢層が低い女性が多かったです。伊坂ファンの僕としては、ジャニーズ人気で客を呼ぶのかよと、残念な気持ちもあり、小説のイメージをジャニーズで壊してもらいたくないなあと、作品にはあまり期待しないで観に行ったのですが、意外に楽しめました。
 婚約者を麻薬中毒者の暴走運転の犠牲で亡くした鈴木は、事故現場で「本当の犯人は別にいる」というメモを拾い、復讐するためにメモに書いてあったキャッチセールスの会社に社員として雇われる。その会社の社長・寺原の息子が交差点で“押し屋”によって道路上に押し出され、車にひかれて死亡する瞬間を見た鈴木は、女性幹部の比与子から“押し屋”の後をつけるよう命令される。しかし、“押し屋”が妻と子どもがいる家庭を持つ男だと知った鈴木は比与子への通報を止めるが、“押し屋”の依頼主は鈴木だという何者かのたれ込みによって、自分自身が比与子から追われることとなる・・・。
 相手を自殺したい気にさせる殺し屋の“鯨”は原作では巨漢の男ですが、映画で演じているのは浅野忠信さんです。体型的には異なりますが、浅野さんの雰囲気が役にぴったりです。押し屋の“槿”を演じる吉岡秀隆さんも安心して見ていられます。普通のサラリーマン
を演じる、あの力の入っていない演技は相変わらずですね。比与子を演じた菜々緒さんはテレビドラマの「サイレーン」と同様に怖い女を演じています。あの顔立ちには怖い女がお似合いです。
 登揚人物が殺し屋たちですから、伊坂さんの原作でも具体的な殺しの揚面、特に“蝉”がナイフで人を殺す場面は細かく描写がなされているのですが、不思議と血のイメージが頭に思い浮かびません。でも、この映画では“蝉”の殺しの場面はスプラッター映画のように血が吹き出し、飛び散ります。
 ちょっと原作とは異なりますが、これはこれで、原作とはまた異なる作品だと思えばいいのでしょう。できれば、中村義洋監督に撮ってもらいたかったなあ。 
ハンガー・ゲーム FINALレボリューション(27.11.20) 
監督  フランシス・ローレンス 
出演  ジェニファー・ローレンス  ジョシュ・ハッチャーソン  リアム・ヘムズワース  ウディ・ハレルソン  フィリップ・シーモア・ホフマン
     エリザベス・バンクス  ジュリアン・ムーア  ジェフリー・ライト  スタンリー・トゥッチ  ドナルド・サザーランド 
 いよいよ、今作品はハンガーシリーズ最終章です。最後はブラムと反乱軍との戦いとその決着を描いていきます。
 カットニスの人気を妬む反乱軍のリーダー・コイン首相は、カットニスが前線に出ることを禁じるが、カットニスは密かに前線へ向かう。それを知ったコイン首相はカットニスを戦場の様子を撮影する部隊と一緒に行動するよう命令する。カットニスらはパネムの中心に向かうがそこにはいたる所に“ポッド”と呼ばれる装置が仕掛けられ、彼女らを襲う。
 今回初登揚となるのは、走るゾンビのようなミュットと呼ばれるゾンビのような生物。これは怖いです。カットニスを守るためにネタバレになるので言えませんが、主要な人物がミュットによって命を落とします。 
 前作でも反乱軍のリーダーでありながら、権力欲も覗かせていたコイン首相でしたが、今作ではそれがはっきりと表に出てきます。反乱軍は最終的に勝利を収めるのですが、思わぬ形での終戦となります。ラストは予想どおりの決着です。
 カットニスを演じるジェニファー・ローレンスは、このシリーズだと本当に少女のようです。女優というのは化けますね。それにしても、カットニスの恋人役を務めるジョシュ・ハッチャーソンはミスキャストではないかなあ。 
スペクター(27.11.27) 
監督  サム・メンデス 
出演  ダニエル・クレイグ  クリストフ・ヴァルツ  レア・セドゥ  ベン・ウィショー  レイフ・ファインズ  ナオミ・ハリス  モニカ・ベルッチ
     デイヴ・バウティスタ 
 ジェームズ・ボンドがダニエル・クレイグになってから第4作目です。
 それまでのボンドは、生い立ちなどまったく描かれていなかったのに、ダニエル・クレイグ演じるボンドシリーズのストーリーには、ボンドの生い立ちが深く関わってきます。それ故今までのボンドシリーズがアクションとボンドガールとの艶っぽいシーンがいっぱいというどちらかと言えば明るい雰囲気の映画だったのに(ボンドは世の男たちの憧れの存在でしたね。)、ダニエル・クレイグのボンドシリーズは雰囲気が暗い作品となった感じがします。女たらしという点でも、ショーン・コネリーらのボンドは女なんてお遊び、さっと捨てるという感じだったのに、クレイグのボンドは本気で好きになってしまうという感じです。
 今作は前作の「スカイフォール」でMI6の本部が爆破され、Mが死ぬ(新しいMが登場しましたが)というストーリーの続編です。
 冒頭から派手なアクションシーンで映画の幕が開きます。ボンドはメキシコで独自に行動し、ある組織の幹部を殺害します。更には、「カジノ・ロワイヤル」で登場したMr.ホワイトを訪ねだり、彼の娘を訪ねたりと、この辺り、ストーリー展開がまったくわからず、戸惑ってしまいました。結局、今までボンドが戦ってきた相手は“スペクター”という組織の人物たちで、そのボスがボンドの生い立ちに関係のある人物だということが、おぼろげながら次第に明らかになっていきます。
 今回、ボンドガールはシリーズ史上最年長のモニカ・ベルッチとレイ・セドゥ。イタリア女優であるモニカ・ベルッチは若い頃から妖艶で有名な女優さんでしたが、この歳(51歳だそうです)でボンドガールとはびっくりです。ただ、ほんの少しの出演でしたが。一方レイ・セドゥはそれほど妖艶さはなく(スタイルもびっくりするほどというわけでもありません。)、僕的にはボンドガールのイメージに合わないと思ってしまうのですが・・・。
 ラストは、これでダニエル・クレイグのボンドシリーズも終了かという終わり方になっていますが、さて、ダニエル・クレイグはどうするのでしょうか。 
母と暮らせば(28.12.13) 
監督  山田洋次 
出演  吉永小百合  二宮和也  黒木華  浅野忠信  加藤健一  広岡由里子  本田望結  小林稔侍  橋爪功  辻萬長 
 1945年8月9日午前11時2分、長崎に原爆が投下され、爆心地に近かった長崎医科大学で学んでいた福原伸子の息子・浩二は死亡する。3年がたも、ようやく息子の死を受け入れることができた伸子の前に浩二の幽霊が現れる。
 僕らより上のいわゆる“サユリスト”と違って、吉永小百合さん主演だから観に行ったのではなく、大好きな幽霊ものだったので観に行ってきました。
 物語は、母である吉永小百合さん演じる助産婦の伸子、その息子の二宮和也くん演じる浩二との母と子の関係、そして浩二と彼の婚約者であった黒木華さん演じる町子との関係を描きながら進んでいきます。
 主演の吉永小百合さんですが、相変わらずとても70歳になるかとは思えぬ若さです。凄いですよねえ。二宮くん演じる浩二は今でいう“チャラ男”です。戦時中でありながら、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」を愛し、戦争の時代の悲惨さをその態度からは感じさせない青年です。伸子は町子に息子のことは忘れていい人を見つけるように言います。それに反発する町子。浩二も町子が自分以外の男と結婚することを最初は心よく思いません。気持ちわかりますよね。兵隊にとられて戦地にいるなら死を覚悟しているのでしょうけど、浩二は講義中に自分が死ぬことなど考えない中であっという間に死んでしまったのですから。死と折り合うのは難しいかもしれません。一方、町子は浩二のことを愛し、伸子から浩二を忘れなさいということばに反発しながら、自分を愛してくれる人の出現に心が揺れ動きます。浩二以外の男性に心揺れる自分を責めますが、しょうがないですよねえ。
 劇中で町子が担任するクラスの女生徒が出征した父親の消息を復員局で尋ねるシーンがあります。何があっても泣くなと祖父に言われてきた女生徒は父親の戦死を知らされても歯を食いしばって泣きません。いやぁ~これはこちらが泣いてしまいました。この子役、演技うまいなあと思ったら本田望結ちゃんでした。いい女優さんになりそうです。
 幽霊となった親と子の関係を描いた映画には、風間杜夫さん、片岡鶴太郎さん共演の「異人たちとの夏」があります。あの作品では大きくなった子どもに安心して両親は消えていくのですが、そちらと違って、この作品は幽霊となったのが子という逆転です。それゆえ、ラストはあの形になるのでしょうか。 
スター・ウォーズ フォースの覚醒(27.12.18 27.12.20) 
監督  J・J・エイブラムス 
出演  デイジー・リドリー  ジョン・ボイエガ  ハリソン・フォード  キャリー・フィッシャー  アダム・ドライバー  グウェンドリン・クリスティー     オスカー・アイザック  ドーナル・グリーソン  ルピタ・ニョンゴ  アンソニー・ダニエルズ  ピーター・メイヒュー  マーク・ハミル
     マックス・フォン・シドー  アンディー・サーキス   
 待ちに待ったスター・ウォーズシリーズ最新作です。前作「スター・ウォーズ シスの復讐」から10年がたちました。ルーカスフィルムはディズニーに買収され、今作品にはジョージ・ルーカスは関わってきませんが、それでも監督はJ・J・エイブラムスですし、脚本がなんと「帝国の逆襲」と「ジェダイの帰還」に関わったローレンス・カスダンですから期待しないわけにはいきません。
 物語は「スター・ウオーズ ジェダイの帰還」から30年後の世界を描きます。今回の主人公はデイジー・リドリー演じるレイです。今までの作品と異なって主人公が女性というところが現代的でしょうか。レイは、幼い頃、宇宙に旅立っていった親(?)の帰りを待ちながらひとりで逞しく生きています。お姫様というイメージとはほど遠い気の強そうな表情に惹かれます。
 もう一人の主人公はストームトルーパーでありながら人を殺すことができずに脱走したジョン・ボイエガ演じるフィンです。ちょっとがに股で格好いい男とは決して言えませんね。
 この二人がジャクーで出会ったところから物語は進んでいきます。ルークは新しいジェダイを育てようとしたが、一人の若者に裏切られ、失意のうちに宇宙の彼方に姿を消し、それをレイア姫とファースト・オーダーと呼ばれる帝国軍の流れを汲む組織の両者が探しているというもの。
 ハン・ソロやレイア姫、ルークも登場するシリーズファンには嬉しい作品になっています。ただし、あれから30年がたっているということで、みんな老いていますが・・・。ハン・ソロ役のハリソン・フオードはいろいろな映画に出演していましたから、その老い方がわかっていたのですが、映画に登場しなかったレイア姫役のキャリー・フィッシャーの老い方にはびっくりです。その上、出演者が顔を出したテレビ番組でのあまりの態度の悪さにレイア姫のイメージが崩れてしまいました。
 ダース・ベイダーの後を継ぐのはカイロ・レン。この正体については公開前にもネットであれこれ想像されていましたが、意外にあっけなくその正体は明かされます。演じたのはアダム・ドライバーですが、個人的には風貌がダース・ベイダーの後継者といった感じではなく、チンピラのようなワルといった感じでダース・ベイダーのような重厚感がないです。まあ、まだ若いからやむを得ませんか。
 シリーズは後2作が残っていますから、ラストはいいところで終わりです。レイの正体がまだ明らかになっていませんが、この映画を観た多くの人が想像するような人でしょうね。とにかく、早く続きが観たいと思わせる作品でした。次回監督がJ・J・エイブラムスでないのが残念です。