▲2011映画鑑賞の部屋

ソーシャル・ネットワーク(23.1.28)
監督  デヴィッド・フィンチャー
出演   ジェシー・アイゼンバーグ  アンドリュー・ガーフィールド  ジャスティン・ティンバーレイク  アーミー・ハマー
     マックス・ミンゲラ  ジョシュ・ペンス  ブレンダ・ソング  ラシダ・ジョーンズ  ジョン・ゲッツ  
 今年最初に観た映画はデヴィッド・フィンチャー監督の「ソーシャル・ネットワーク」です。先日発表されたアカデミー賞では作品賞をはじめ8部門にノミネートされています。
 映画が描くのは、ハーバード大学の学生、マーク・ザッカーバーグが創設した今や世界に5億人を超えるユーザーを持つ世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)となった“facebook”の創設経緯とその後のアイデアを盗用されたとするウィンクルボス兄弟との訴訟、創設当時の共同経営者エドゥアルド・サリバンとの訴訟の経過です。
 先のチュニジアの政変にも、そして現在起こっているエジプトの反政府デモにも大きな役割を果たしているとされる“facebook”ですが、この映画が公開されるまではその存在自体知りませんでした。日本最大のSNSであるmixiでさえ、登録者数は2000万人ほどですから、ユーザー数5億人とは凄い数字です。色々な面に影響を及ぼすというのもわからないでもありません。でも、そんな世界最大の“facebook”が、マークが彼女に振られた腹いせからインターネットで行った女子学生のランク付けがきっかけだったとはびっくりです。
 エンドロールでは、この映画は事実に一部創作があると書かれていましたが、登場人物全員が実在の人物ですし、現実に訴訟もあったのですから、どう考えても事実を描いた映画ととってしまいます。ただ、原作者はマーク・ザッカーバーグからは話を聞くことができなかったようなので、彼の心の中は想像するしかありませんが・・・。それにしても、この映画を見る限りでは、マーク・ザッカーバーグは自己中心的な他人のことを思いやるなどということはまったく考えない嫌な奴としか思えません(ユーザー100万人突破パーティーに参加せずに一人で会社に残っていたシーンに、彼の心の中の苦悩を汲み取ることもできないではないですが)。上映直後のマークの自己中心的な早口なセリフを聞くだけでも、女性は彼のこと嫌いになるでしょうね。そんな男に描かれたマーク・ザッカーバーグからは、この映画の上映差し止めとか、名誉棄損による損害賠償という話はなかったのでしょうか。遥か昔の人の話ならともかく、今を生きている人の話ですからね。
 友達は数人だけと自任する社交性のないマークが、人と人の繋がりを作るシステムを作り上げたというのが何とも皮肉的です。現在彼は世界で一番若い億万長者と言われています。映画の中のマークには共感できませんが、本当はどんな男だろう、映画で描かれるような天才にありがちな独善的な男なんだろうかと興味深いです。2時間飽きさせません。おすすめです。
アンストッパブル(23.1.29)
監督  トニー・スコット 
出演  デンゼル・ワシントン  クリス・パイン  ロザリオ・ドーソン  イーサン・サプリー  ケヴィン・ダン
     ケヴィン・コリガン  ケヴィン・チャップマン  リュー・テンプル  T・J・ミラー  ジェシー・シュラム  
 人為的なミスで貨物列車が無人のまま暴走を始める。列車には有毒物質が積まれており、脱線転覆となれば住民に多大な被害が及ぶことが予想された。鉄道会社は列車を止めるために様々な策を講じるがことごとく失敗する。残るのは同一線路内を暴走貨物列車を追いかけて走るベテラン運転手のフランクと新米車掌のウィルの乗る貨物列車。彼らは暴走機関車に自分たちの機関車を連結させ、ブレーキをかけて停車させようとする。
 暴走機関車の映画となれば、思い出すのは黒澤明監督の原案をアンドレイ・コンチャロフスキーが映画化した「暴走機関車」ですが、あれは男の闘いの映画だった記憶があります。一方、こちらは娘に愛想を尽かされている父親と、妻から嫌われた夫という二人の男が考え方の違いからときに対立しながらも、協力して暴走機関車を止めることにより、家族の信頼を回復する映画です。単なるパニック映画ではなく、人間ドラマでもあります。
 上映開始直後から列車の暴走が始まるので、目が離せません。結果はわかっているとはいっても、緊迫シーンには手に汗握ります。99分間の上映時間があっという間でした。
 監督はトニー・スコット、フランクを演じたのはデンゼル・ワシントンという、二人のコンビ作品は「クリムゾン・タイド」「マイ・ボディガード」「デジャヴ」「サブウェイ123 激突」に次いでこれで5作目。よほどウマが合うのでしょうね。
完全なる報復(23.1.29)
監督  F・ゲイリー・グレイ
出演  ジェラルド・バトラー  ジェイミー・フォックス  コルム・ミーニイ  マイケル・アービー  ブルース・マッギル
     レスリー・ビブ  グレゴリー・イッツェン  レジーナ・ホール  ヴィオラ・デイヴィス
 二人組の強盗により、妻と幼い娘を惨殺されたクライド・シェルトン。犯人は逮捕されるが、ニック・ライス検事との司法取引によって、主犯の男は5年間の懲役だけですんでしまう。それから10年後、死刑が確定したもう一人の犯人の死刑執行中、死刑に用いられる薬品が取り替えられ、犯人は苦しんで死ぬ。さらには主犯の男も無惨な惨殺死体で発見される。犯人としてクライドは逮捕されるが、彼が獄中にあっても、事件の関係者が次々と殺されていく・・・。
 司法取引によって死刑を免れたことに怒りを感じるのは被害者の家族であれば当然でしょう。ましてや、主犯の男が死刑を免れるのですから。もっていきようのない怒りに自分の心がおかしくなってしまうかもしれません。
 ただ、司法取引をしなければ、そもそも彼らを有罪自体に問えなかったかもしれないことを考えると、ニックが行った司法取引が一概に悪いとも言えません。第三者として考えると非常に難しい問題ですね。
 この映画、途中までは妻子を目の前で殺されたクライドに感情移入ができるのですが、犯人たちの次に弁護士、裁判官、司法省の職員たちが殺されていくとなると、司法取引という制度を告発するにしては、いくら何でもやりすぎでしょう。単なるクライドの復讐という自己満足に過ぎないと思わざるを得なくなります。こんなことをしても結局は市民の共感を得られないでしょうし、制度への批判ということにはならないでしょう。単に家族を殺された男のすさまじいまでの復讐劇を描いた映画といえるでしょう。ラストも唖然です。あんなことしていいのかなぁ。
GANTZ(23.2.10)
監督  佐藤信介
出演  二宮和也  松山ケンイチ  吉高由里子  本郷奏多  夏菜  田口トモロウ  浅野和之  山田孝之
 週間ヤングジャンプに連載されているコミックが原作の映画化です。二宮和也くん演じる玄野と松山ケンイチくん演じる加藤が地下鉄に轢かれる寸前(?)にGANTZと呼ばれる黒い球体に召喚され 「星人」との戦いを強いられるところから始まります。「星人」を倒すごとに戦いに応じたポイントが与えられ、100ポイントが貯まると、記憶を消されて解放されるか、好きな人間を生き返らせることができるというルール。
 この作品は2部作のパート1ということで、色々な謎が残ったまま終わりました。戦いが終わって生き残っていると、彼らは現実の世界に戻ることができるのですが、生き残っている限りはGANTZによって何度でも召喚されます。果たして彼らは本当は死んだのか、あるいは生きているのか。彼らが戦う世界は何なのか、パラレルワールドかと想像したのですが、現実の世界に戦いの痕跡は残されているし、いったいどうなっているのでしょう。そしてGANTZの中にいる男はいったい何者なのか等々これだけ謎が残されるとパート2を観ないわけにはいきません。特にラストシーンは最大の謎ですね。おこりんぼう星人によって破壊された博物館に集まる群衆の中に、いるはずのないあの人がいましたねえ。
 戦う「星人」は、ネギ頭の“ねぎ星人”とか、ラジカセを持った“田中星人”とかおかしなものばかり。それにしても、“田中星人”には笑ってしまいました。あれって田中星児さんのパロディですよね。歌も田中さんの「切手のないおくりもの」ですからね。見た目と違って攻撃力は凄いのも、どことなくコミカルです。
太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男(23.2.11)
監督  平山秀幸
出演  竹之内豊  井上真央  山田孝之  唐沢寿明  阿部サダヲ  ショーン・マクゴーウァン  中嶋朋子  
     岡田義徳  板尾創路 柄本時生  光石研  近藤芳生  酒井敏也  ベンガル  ダニエル・ボールドウィン
 第二次世界大戦中のサイパン島を舞台に、アメリカ軍から“フォックス”と呼ばれ畏敬された日本陸軍の大場大尉を描いた作品です。
 僕自身戦後に生まれた世代なので、戦争は実体験としてはありません。しかし、サイパン島といえば、激しい戦闘によって軍人はもちろん、民間人も多数の死者を出し、更にはアメリカ軍の投降勧告に応じずに、岬の突端から「天皇陛下、万歳」と叫びながら身を投げた人も多くいたと聞いています(戦後、その岬は「バンザイクリフ」と呼ばれるようになったそうです。)。自決者の数は1万人にも上ると言われているほど悲惨な戦いが行われた島だったそうですね。
 この作品では、前半でバンザイ突撃の戦闘シーンはありますが、それほど激しい戦闘シーンはありません。最近の戦争映画では、爆撃により手足がちぎれたり、内臓が飛び出すなど非常に残酷なシーンが描かれることが多いことからすると、戦争映画としてはおとなしい描写といえます。
 ただ、だからといって戦争の悲惨さを描く度合いが低いというわけではありません。傷つき総攻撃に参加できないことから自決しなければならない兵士の姿、捕虜になれば殺されると信じて民間人でありながら投降をしない人々、さらには家族を殺されたことから自分で銃を手にとってアメリカ兵を殺したいと望む井上真央さん演じる青野千恵子の姿など、戦争の悲惨さ愚かさを感じさせるシーンはそこかしこにあります。中でも総攻撃を前にして部下を鼓舞するために部下の前で指揮官が自決するなんて、戦争の愚かさをものの見事に表しているとしか言いようがありません。。
“フォックス”と畏れられた割には映画で描かれる大場の活躍は、一人生き残った赤ん坊をアメリカ軍に発見されるようにしたこと、追跡してきたアメリカ軍を罠にかけたこと、野営地を知られてアメリカ軍が攻めてきた際に住民を避難させてアメリカ軍をやり過ごしたことというエピソードだけで、それほど華々しいものではありません。そのうえ、元地理教師という背景もあったのでしょうか、映画が描く大場は常に冷静さを保っていたため、大場という主人公に強烈な印象を持つことができませんでした。まあ2時間の上映時間の中ではそう色々と描くことはできなかったかもしれません。
 大場以上に強烈なキャラだったのが唐沢寿明さんが演じた堀内今朝松一等兵です。やくざ者丸出しの風貌で、まず頭より行動という大場とは対照的なキャラが印象的です。
 それにしても阿部サダヲさんは・・・(ネタばれになるのでここまで)
THE TOWN(23.2.11)
監督  ベン・アフレック
出演  ベン・アフレック  レベッカ・ホール  ジョン・ハム  ジェレミー・レナー  ブレイク・ライブリー
     タイタス・ウェリバー  ピート・ポスルスウェイト  クリス・クーパー
 ベン・アフレック監督・主演作品です。
 アメリカの中でも強盗多発地区といわれるボストンのチャールズタウンで生まれ育ったダグは、一時はアイスホッケー選手としての将来を夢見たが、今では幼馴染のジェムらと銀行強盗を繰り返す日々を送っていた。ある日、銀行強盗に入って人質に取った女性支店長クレアがチャールズタウンに住むと知ったダグは、彼女が何を見たか知るために彼女に近づくが、しだいに彼女に惹かれていく。
 強盗グループのリーダーと人質となった女性が恋に落ちるという映画らしいストーリー(現実には、とてもありえないでしょうけど)。恋したダグは、強盗から足を洗い、彼女とともに“タウン”を出ていこうとするが、幼馴染や“タウン”の元締めはそれを許さないというのも、よくあるストーリーで、さてラストはどうなるのかなと思ったら・・・。このラストは余韻が残りますねえ。オレンジに込められたダグの思いはクレアに伝わるのでしょうか?
 ベン・アフレックのための映画なのは、彼自身が監督ですから当たり前でしょうが、彼の幼馴染であり仕事仲間であるジェムを演じる「ハート・ロッカー」のジェレミー・レナーもいい味出していました。“タウン”の元締め役のピート・ポスルスウェイトも悪役顔が堂に入っています。
ヒアアフター(23.2.25)
監督  クリント・イーストウッド
出演  マット・デイモン  セシル・ドゥ・フランス  ジェイ・モーア  ブライス・ダラス・ハワード  マルト・ケラー
     ジョージ&フランキー・マクラレン  ティエリー・ヌーヴィック
(ネタばれあり)

 これは非常に微妙な映画です。正直のところ、ちょっと退屈してしまいました。予告編では津波のシーンがあり、クリント・イーストウッドもいよいよCGを使うスペクタクル作品を作るようになったのかと思ったのですが、CG場面はそれぐらい。クリント・イーストウッドも年齢を自覚したのでしょうか。今回のテーマが“死”“来世"とは。ブライス・ダラス・ハワードが出演していたし、クリント・イーストウッド監督作品と知らなければ、M・ナイト・シャマラン監督作品と言われても違和感がない内容でした。
 大津波によって生死の境をさまよい臨死体験をしたジャーナリストの女性・マリー、双子の兄を事故で亡くした弟・マーカス、かつて霊媒師として活躍したが、今はそれを隠して生ぎている男・ジョージ。物語はこの3人を交互に描きながら、やがて出会うまでを描きます。
 観ていてもどうもすっきり心の中に入ってきません。死んだ兄に会いたいがために霊媒師を捜すマーカスが、ジョージに出会って降霊をお願いするのはまだわかりますが、なぜ、ジョージとマリーがそれまで何らの出会いもないのに、ああなってしまうのでしょうねえ。“来世"を信じることができる二人だからと言ってしまえばそれまでですが・・・。納得いきません。宗教の下地がないと素直に映画の中に入っていけないような気もします。日本であまり評判がいいと言えないのも、そこに理由があるのではないでしょうか。
 小説では“幽霊もの"は好きなのですが、この作品はあまり楽しめませんでした。このところのクリント・イーストウッド監督作品の中では、僕としてはいまひとつの評価です。
英国王のスピーチ(23.2.26)
監督  トム・フーパー
出演  コリン・ファース  ジェフリー・ラッシュ  ヘレナ・ボナム=カーター  ガイ・ピアース  ティモシー・スポール
     デレク・ジャコビ  ジェニファー・イーリー  マイケル・ガンボン
 今年のアカデミー賞作品賞、監督賞、主演男優賞を始め、4部門を受賞した作品です。
 吃音があるため、人前で話すのが苦手な英国王ジョージ5世の二男・ジョージ6世。治療のために様々な方法を試みるが、うまくいかず、妻のエリザベスは、評判を聞いてスピーチ矯正の専門家ライオネル・ローグに吃音治療を依頼する。ライオネルの一風変わった治療に時に怒り、仲違しながらも、いつしか彼との間に信頼関係を築くこととなる。そんな中、ジョージ5世の死によって兄のエドワード8世が王位を継承するが、兄は離婚経験のある女性と結婚するために王位をなげうってしまい、ジョージは思いがけなく王位を継承する。果たして英国王としてジョージ6世はスピーチをうまくできるのか・・・
 現在のイギリスのエリザベス女王の父であるジョージ6世と彼の吃音治療に当たったライオネルとの身分を超えた友情、そしてジョージ6世を優しく励ます妻のエリザベスの愛情を描いた映画です。それにしても、現在は亡くなっている人とはいえ、王族をああまで描くとは、さすが開かれていますよね。さて、日本だったら、皇族をあんな風に描けるでしょうか。
 ジョージ6世を演じたのはコリン・ファース。「ブリジット・ジョーンズの日記」や「ラヴ・アクチュアリー」などに出演していましたが、なんとなく僕がイメージするイギリス俳優という雰囲気が漂う役者さんです。見事にアカデミー主演男優賞を受賞しました。スピーチが仕事と言われる王族の中にあって吃音というのは、非常に辛かったでしょう。イライラしてしまい、それが悪循環になって更に吃音が激しくなってしまうというのも辛いですね。コリン・ファースは、そのあたりの辛さ、もどかしさ、怒りをうまく演じていました。
 夫を優しく励ます妻のエリザベスを演じているのは、ヘレナ・ボナム=カーターです。ティム・バートン監督の奥さんです。夫の作品では変な役ばかりですし、ハリー・ポッターシリーズではハリー・ポッターと敵対する憎たらしい魔女役を演じるなど、非常に個性的な役者さんですが、今回はいたって普通の人を演じます(とはいっても王族ですが)。変な化粧をしていない彼女を久しぶりに見たような気がします。
 ライオネルを演じたのはジェフリー・ラッシュです。パンフレットを読むまで気がつきませんでしたが、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズに登場する海賊の船長さんでしたね。アカデミー賞は受賞できませんでしたが、なかなかいい味出していました。
 映画の見所は、ヨーロッパを席巻するナチスドイツに対して戦うことを国民にスピーチする場面です。英国王として国民を引っ張っていかなければならない大事なスピーチだったのでしょうが、実際はどうだったのでしょう。人間なんだから緊張して吃音になることも無理もないと思うのですが、英国王たるものにはそれは許されないのでしょうか。
トゥルー・グリット(23.4.9)
監督  ジョエル・コーエン  イーサン・コーエン
出演  ジェフ・ブリッジス  マット・デイモン  ヘイリー・スタインフェルド  ジョシュ・ブローリン  バリー・ペッパー
     ブルース・グリーン  マイク・ワトソン
(ちょっとネタばれ) 
 1969年に公開され、ジョン・ウェインが念願のアカデミー賞主演男優賞を獲得した「勇気ある追跡」のリメイクです。
 父を殺された少女・マティは犯人・チェイニーに復讐するため、連邦保安官ルースターを雇いチェイニーを追います。別件でチェイニーを追ってテキサスからやってきたテキサス・レンジャーのラビーフも加わり、3人での追跡劇が始まります。
とにかく、マティ役を演じた新人女優のヘイリー・スタインフェルドがいいです。ひとくせもふたくせもある大人たちに負けまいと大人ぶるマティ役は最高の演技です。アカデミー助演女優賞にノミネートされたのも納得です。とてもこの作品が映画デビュー作とは思えません。ルースター役のジェフ・ブリッジスとラビーフ役のマット・デイモンがすっかり喰われてしまっていますね。この映画の成功は彼女の名演技によるところが大きかったと言えます。
 オリジナルを観ていないので、アカデミー賞を受賞したジョン・ウェインの演技はわからないのですが、ジェフ・ブリッジスも十分渋い男を演じています。
 一方、テキサスレンジャーのラビーフ役のマット・デイモンですが、はっきり言って、カウボーイハットと口髭はまったく似合いません。何だかあの口髭があることが渋いというより逆にとっちゃん坊やという感じに見えてしまいました。
 ラストは予想外の展開です。当然、ハッピーエンドを予想したのですが、あんな展開になるとは・・・。
SP 革命編(23.4.10)
監督  波多野貴文
出演  岡田准一  香川照之  真木よう子  堤真一  山本圭  松尾諭  神尾佑  春田純一  野間口徹
     大出俊  江上真悟  平田敦子  堀部圭亮  伊達暁  古山憲太郎  近江谷太朗
 昨年公開された「野望編」の続編です。いよいよテレビシリーズからの謎が解き明かされます。今回の舞台は国会議事堂。尾形とその仲間は、本会議が開催されている国会議事堂を武装占拠し、大臣たちに自らの不正をカメラに向かって告白するよう強要する。一方、尾形の指示によって委員会室の検索を行っていたことにより、難から逃れてた井上ら第四係のメンバーは、本会議場の占拠を知り、尾形らを止めようと行動を起こす。
 尾形の正体とその目的、麻田総理との今まで描かれていた事実の裏にある本当の関係、与党幹事長伊達との関係等待ちに待った謎がようやく明らかとなります。長く待たされましたが、本当に思いもかけない事実に満足です。
 尾形に父親が自殺した過去があるというのは以前から描かれていましたが、まさかその事実が観ている人をミスリードしているとは気がつきませんでした。もう1回今まで描かれていた事実をバラバラにして組み立てなおしたという感じです。それがうまくハマりましたね。
 相変わらず、岡田くんはカッコいいです。アクションシーンも彼が参加して考えたそうですが、岡田くん自身は常日頃から鍛えているだけあって、一つ一つのシーンが決まっていますね。あんな小柄なSPは実際はいないだろう!と思いながらも、岡田くんだったらやれそうだと思ってしまいます。
 真木さんのカッコよさも変わりません。本会議場の机の上に飛び乗って、拳銃を撃つシーンは惚れ惚れします。あのかすれた低音で話すのも笹本役に合っています。山本の頭をはたくいつもの漫才のようなシーンも大好きです。
 完結編ということですが、ラストではまだ続きそうな感じで終わります。テレビシリーズに出ていたあの4人組が、最後にまた仕事していますし、事件は解決したといっても、肝心のあの人物がどうなったのかという後日譚もありません。何だか続編を作る余地を残した終わり方とも考えられます。ファンとしてはぜひ続編をお願いしたいのですが。
ザ・ライト(23.4.16)
監督  ミカエル・ハフストローム
出演  アンソニー・ホプキンス  コリン・オドノヒュー  アリーシー・ブラガ  トビー・ジョーンズ  キアラン・ハインズ
     ルトガー・ハウアー
 若きエクソシストを描いた作品です。葬儀屋という家業を嫌い町を出る理由のため神学校に通ったマイケルだったが、神の存在を信じることができずに、神父となることを断念しようとする。それを知った恩師は、彼にエクソシストになる修行をすることを勧める。イタリアにやってきた彼はルーカス神父に師事し、エクソシストの修業を始めるが・・・
 エクソシストといえば、誰もが思い浮かべるのは1973年の映画、題名がそのものズバリの「エクソシスト」でしょう。少女の体に乗り移った悪魔と神父の戦いを描いた作品でしたが、エクソシストそのものは、映画の中だけのものではなく、現実にバチカン公認の正式な職業だそうです。キリスト教徒ではない僕には悪魔の存在はまったく実感できないのですが、キリスト教徒、少なくともキリスト教の大元であるバチカンは信じているんですね。
 「エクソシスト」同様、この映画の中でも少女の体に悪魔が乗り移った様子が描かれます。エクソシスト役のルーカス神父が、「緑色のへどを吐いたり、首が360度回ると思ったか?」というようなことを言いますが、これって「エクソシスト」へのオマージュですね。
 ストーリーは思わぬ方向へ転んでいきますが、エクソシストのルーカス神父をアンソニー・ホプキンスが演じていることが、ここで生きてきます。やっぱり、「羊たちの沈黙」でわずかな出演ながらも強烈な印象を残した彼らしい役どころです。 元々原作がドキュメンタリーなので、「エクソシスト」のようにホラーとしての怖さはいまひとつですが、アンソニー・ホプキンスの演技は見ものです。
 それと、もうひとつ。マイケルの父親役を演じているのはルトガー・ハウアーです。SF映画好きなら、「ブレード・ランナー」のレプリカントの演技は忘れられない俳優です。この演技があまりに印象が強すぎて、逆にそれ以降の彼の俳優生活にマイナスになった感がありますね。
GANTZ PERFECT ANSWER(23.4.23)
監督  佐藤信介
出演  二宮和也  松山ケンイチ  吉高由里子  山田孝之  田口トモロヲ  伊藤歩  本多奏多  夏菜
     千阪健介  戸田菜穂  綾野剛  白石隼也  水沢奈子  緑友利恵  越村友一        
 おこりんぼう星人との戦いで死んだ加藤を100点メニューで生き返らせようと、ミッションに挑む玄野たち。そんな彼らの前に以前100点メニューで解放された人物たちが再び召喚されてくる。さらに、死んだはずの加藤が現実世界で玄野の前に現れる・・・
 前編で多くの謎を残したままの今回の後編です。前編はガンツに召喚され、そのミッションによって、色々なユニークな星人たちと戦う玄野たちが描かれました。前作では、ミッションを遂行した戦いの跡は現実世界の中に残るのですが、現実世界の人間には影響を及ぼすことはありませんでしが、今回は黒服星人との戦いにより、現実世界で多くの人が犠牲になります。さらには、玄野に恋する小島多恵が星人ではないのにミッションの標的になったり、ガンツのことを探る男を登場させるなど新たな謎を提示しながら物語は進みます。
 黒服星人との戦いのシーンは、非常に見所がありました(特に黒服・参の女性はかっこよかったです)。前作の星人たちは、どこかコミカルでしたが、黒服星人はいかにも“星人”という雰囲気です。
 また、今回出演の伊藤歩さん、スタイルが良くてガンツスーツがよく似合っていました。そういえば、この映画でガンツスーツを着た女優さんは、みんな手足の長いスタイルの良い人ばかりでしたね。
 そもそも星人たちのいる世界はどこなのか。前編で描かれた星人との戦いの世界には星人と玄野たち以外の人間はいませんでしたが、今回の黒服星人は現実世界にいます。このあたりどう説明されるのか。そればかりでなく、なぜ、ガンツは星人たちと死んだ人間を戦わせたのか、ガンツとは何なのかという、この物語の根源的な謎だけでなく、黒服星人たちは何者なのか、ミッションが表示される際になぜラジオ体操の歌が歌われるのかという些細な疑問まで多くの謎が解決されないまま終わってしまいました。論理的な説明を求める方がいけないのでしょうかねえ。
 ラストは想像どおり。ハッピーエンドと言っていいのか・・・
ブラックスワン(23.5.12)
監督  ダーレン・アロノフスキー
出演  ナタリー・ポートマン  ヴァンサン・カッセル  ミラ・クニス  バーバラ・ハーシー  ウィノナ・ライダー
 2011年のアカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞などにノミネート、主演のナタリー・ポートマンが見事主演女優賞を受賞した作品です。
 ニナは、元バレリーナの母親と二人暮らし。プリマ・バレリーナを目指し、レッスンに励んでいたが、ある日、「白鳥の湖」の主役に抜擢される。しかし、妖艶な黒鳥の踊りがうまく踊れず、その重圧のために、しだいに精神的に追いつめられていく。
 映画を観るまでは、一人のバレリーナが頂点に上り詰めるまでを描いた人間ドラマと思っていましたが、これが大違い。はっきり言って、これはホラーです。
 プレッシャーのため、気づかないうちに背中を自ら掻いて傷だらけにしてしまったり、次第に目の前の状況が現実なのか幻覚なのかがわからなくなっていきます。観客に対しても、現実なのか幻覚なのかがわからないように描いていくのですが、結末はだいたい予想どおり。ストーリーの骨格自体はどこかで観たような印象を与えますが、ナタリー・ポートマンの熱演が救いで、観ていて目が離せません。
 ただ、自慰にふけるシーンや幻想の中でリリーと愛し合うシーンはエロティック過ぎですねえ。母親に抑圧されていたものが、いっきに溢れだしたということでしょうか。
 ナタリー・ポートマンは、バレエは幼い頃経験があるだけだそうですが、あれだけ踊るのですから(代役でないとしたら)、並大抵の努力ではなかったでしょうね。そうした苦労を共にしたせいか、振り付けを担当した男性と結婚してしまいましたね。生死を共にすると何とも思っていなかった相手でも好きになってしまうというパターンかな。
 歳を取り、引退を余儀なくされるバレリーナ・ベスをウィノナ・ライダーが演じています。「シザーハンズ」で人造人間に恋する可憐な少女を演じた彼女も、すっかり中年女性の役が似合う歳になってしまいました。最初見たときには気付きませんでした。時の流れは残酷です。
アジャストメント(23.5.27)
監督  ジョージ・ノルフィ
出演  マット・デイモン  エミリー・ブラント  アンソニー・マッキー  テレンス・スタンプ  ジョン・スラッテリー
     マイケル・ケリー
 「ブレード・ランナー」や「」の原作者でもあるSF作家、フィリップ・K・ディックの短編の映画化です。人の運命は、アジャストメント・ビューロー(運命調整局)なる機関によって、操作されているという世界の中で運命に逆らおうとする男を描いていきます。
 主人公のデヴィッドは上院議員候補だったが、スキャンダルから落選。トイレで敗北宣言の演説を考えているときにエリースという女性と出会い心魅かれる。その後、デヴィッドを担当していた運命調整局のエージェント・ハリーの居眠りによって、バスに乗り遅れる運命のはずが、バスに間に合ってしまったことから、彼はバスの中で会うはずでなかったエリースと再会する。しかし、これは運命調整局にとってはあってはならないこと。二人が本物のキスをすると運命が変わってしまうため、二人の出会いの邪魔をしようとする。
 運命調整局というのは、映画の中でもはっきり言っていませんが、その長であるチェアマンとは、神のことでしょうか。そしてハリーたちエージェントは天使ということでしょうか。それにしては、疲れて眠ってしまったりと、あまりにどんくさいです。帽子が力の源であるというのも笑えます。
 設定はSFですが、内容はラブ・ストーリーです。それもかなりべた甘なラブ・ストーリーとなっています。本当のキスをしたら運命が変わってしまうなんて、まるでディズニーのアニメ映画のようです。期待外れの雰囲気の映画になってしまいました。
 主演のマット・デイモンの肉体は、逞しいというより、太っているという感じがします。それに対し、エリース役のエミリー・ブラントは、ダンサーという役柄もあってか、引き締まった身体をしていましたね。
 ドアを開けるとそこはまったく別の場所というのを見て、多くの人は思ったのではないでしょうか。あれはドラえもんの“どこでもドア”だと。 
プリンセス トヨトミ(23.5.28)
監督  鈴木雅之
出演  堤真一  綾瀬はるか  岡田将生  中井貴一  和久井映美  笹野高史  沢木ルカ  森永悠希
     江守徹  平田満  宇梶剛士  甲本雅裕  玉木宏  宅間孝行
 大阪に検査に行った会計検査院の3人の検査官が検査の対象である財団法人OJOの存在に疑間を持ったことから、驚愕の事実が現れるという、万城目学さん原作の破天荒なほら話とでもいえる作品の映画化です。いろいろととんでもない事実が出てきますが、これをあほらしいとみるか、素直に受入れるかによりおもしろく観ることができるか否かが決まります。 会計検査院の検査官が、歴史上日本政府も隠していた壮大な事実を暴いてしまうというのが愉快です。近年、国や地方、天下り法人等の税金の無駄遣いが会計検査院の力で暴かれ、会計検査院の力というのが見直されていますから、万城目さんも目をつけたのでしょうか。
 原作では松平副長の部下は短躯の鳥居とフランス人とのハーフで美人、スタイル抜群で頭も切れるゲーンズブールでしたが、映画ではゲーンズブールを演じるのは岡田将生くんで、男性に変更になっています。その代わりに鳥居役は綾瀬はるかさん演じる女性へと変更されています。相変わらず綾瀬さんはどことなくポケッとした感じなので、原作のゲーンズブール役は似合いそうもありません。それにしても、実際も大阪城を見て寺だ神社だと言ったそうで、記者会見でも大爆笑をとっていた人ですから、あの性格は演技ではないのですねえ。
 破天荒な物語の中に隠されたテーマは父と息子の関係。映画の中でも言っていましたが、確かに息子は成長すると父親とじっくり話すことはなくなるのが普通です。あの長い廊下は、長い時間をかけて歩くことで、父と息子が会話をする機会を設けるためというのがいいですね。

 ※テレビで放映された「鹿男あをによし」に出演していた玉木宏さんと宅間孝行さんがカメオ出演。特に宅間さんは原作どおり南場先生役で出演しています。
マイ・バック・ページ(23.5.31)
監督  山下敦弘
出演  妻夫木聡  松山ケンイチ  忽那汐里  石橋杏奈  韓英恵  中村蒼  長塚圭史  山内圭哉  古舘寛治
     あがた森魚  三浦友和  
 僕自身は学生運動という大きな波に乗り遅れた世代。大学に入学したときには、既に学生運動は下火となっていました。立看板はまだ乱立していましたが、立ち止まって興味を示す学生は皆無。なぜか試験前になると騒ぎを起こすセクトがあり、学校側がロックアウト、試験はレポートとなリー般学生は喜ぶという、もはや学生運動は見る影もない状況でした。無理して、柴田翔の「されど我らが日々」や高橋和巳の本を読んで、まるでわからないと嘆き、庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」や三田誠広の「僕って何」を読んで、やっぱりこちらの方がおもしろいなあと思った時代でした。
 仕事帰りに慌ててシネコンに見に行ったら、180人ほどを収容する劇場に誰もいない。上映時間になっても僕だけ。結局、一人だけの上映となりました。大きなスクリーンに、ど真ん中の席。なんという贅沢。地味な映画ですから田舎では観客動員は難しいとは思っていましたが、まさかここまでとは。妻夫木聡くんと松山ケンイチくんという、今が旬の若手の共演なのに、彼らのファンや全共闘世代はどうなってしまったのでしょう。あの世代が自分の若き頃を振り返ってみたくはないのでしょうか。
 この映画の元となったのは、映画評論家でもある川本三郎さんのフィクションだそうです。映画では妻夫木くん演じる沢田が働くのは東洋ジャーナルとなっていましたが、これは朝日ジャーナルのこと。あの頃、変に背伸びをして、わかりもしないのにページを開きました。そこの記者だった沢田が、松山くん演じる活動家の梅山との出会いによって、学生運動に共感しながら次第にのっぴきならない事態へと追い込まれていく様子が描かれます。
 妻夫木くんも熱演でしたが、それ以上に松山ケンイチくんの演技は見ものです。彼が演じる梅山は、立て板に水が流れるように、すらすらと言葉が出てきますが、当時自分の言葉に酔っていた彼のような人もいたのでしょうね。
 そのほかでは、東大と京大の全共闘議長を演じた二人の役者の存在感が凄かったです。東大は長塚圭史さん(長塚京三さんの息子さんです。)、京大はこの話し方はどこかで聞いたことあると思ったら「パコと魔法の絵本」の山内圭哉さんでした。二人ともわずかな出演時間ですが、強烈な印象を残します。
 男が泣くことを軽蔑していた主人公が、ラストで昔の知り合いに会って、耐えきれず涙を流すシーンは、彼の心の変化を表すシーンでよかったです。でも、彼はいったい何を想い泣いたのでしよう。
 忽那汐里さんが演じた週間東洋の表紙モデルの倉田眞子さん、彼女はその後早世してしまうようですが、いったい誰をモデルとしていたのでしょうか。気になります。
パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉(23.6.4)
監督  ロブ・マーシャル
出演  ジョニー・デップ  ペネロペ・クルス  イアン・マクシェーン  ジェフリー・ラッシュ  サム・クラフリン
     アストリッド・ペルジェ=フリスペ  ケヴィン・R・マクナリー  ジェマ・ウォード  キース・リチャーズ
 パイレーッ・オブ・カリビアンシリーズ第4弾。前作までジャック・スパロウと一緒に活躍していたオーランド・ブルーム演じるウィル・ターナーと、キーラ・ナイトレイ演じるエリザベス・スワンが今回登場しないのは残念です。ウィル・ターナーがあんなことになってもジャックと宝探しの旅に出てもおかしくないと思うのですけど。
 彼らに代わって登場するのが、ペネロペ・クルス演じるアンジェリカです。かつてジャックと恋仲だったという設定ですが、作品の中ではあまリラブ・シーンはありませんでした。
 今回は飲むと永遠の命をもたらすという生命の泉を求めて、イギリス王に雇われたバルボッサ船長と共に航海の旅に出ます。一方、スペインやさらには伝説の海賊黒ひげも生命の泉を求めて探索に乗り出します。
 ウィルとエリザベスは出ませんが、再びパルボッサの登場。今回はピーターパンのフック船長のように片足に義足をつけての登場です。あれ、どうしたのかなと思ったら、プラックパール号で航海中に黒ひげと出会い、足を捕縛されたときに、自ら切断して逃げたからというもの。自分で足を切ってしまうのですから、一段と悪役の海賊のイメージが深まりましたね。
 今回の悪役は、伝説の海賊黒ひげと娘のアンジェリカ。ただ、黒ひげは、バルボッサやデイヴィ・ジョーンズと比べると、悪役としてはちょっと迫力不足。それより強烈なキャラは、人魚です。美人だけど、歯をむき出して人間に襲いかかるシーンは怖かったですね。今までの人魚のイメージとのギャップが凄いです。
 今回は、海の上よリジャングルの中でのシーンが多く、海賊という感じがしませんでした。僕としては、キーラ・ナイトレイの出演していた前のシリーズの方が好きです。
 初めて3Dで観たのですが、高い料金を払ったのを後悔しました。はっきり言ってあの3Dでは、普通の2Dで十分だったと思います。劇場の3Dの方式にもよるのでしょうけど。 
阪急電車−片道15分の奇跡−(23.6.11)
監督  三宅喜重
出演  中谷美紀  戸田恵梨香  南果歩  宮本信子  谷村美月  勝地涼  有村架純  戸田愛菜  小柳友
     玉山鉄二  相武紗季  大杉漣  鈴木亮平  安めぐみ  高須瑠香
 有川浩さん原作の同名小説の映画化です。片道15分という短い鉄道路線である阪急今津線を舞台に、それを利用する様々な人の人間模様を描いた作品です。いわゆるグランドホテル形式の映画というのでしょうか。
 ほぼ原作どおりですが、原作では図書館で出会ったカップルが映画では登場しないのが唯―残念なところです。ただ、二人の男女の出会いということでは、彼ら以外に軍オタの圭一くんと田舎娘の美帆さん(演じた谷村美月さんのどんくさいところはお見事)のカップルのエピソードがあるので、2時間あまりの上映時間では省かれたのでしょう。
 原作で一番強烈な印象を与えてくれた、元恋人とその元恋人を寝取った女との結婚式に純白のドレスで出席した翔子は、映画では中谷美紀さんが演じています。これがまた役柄にぴったりです。賢そうで勝気。その彼女が宮本信子さん演じる時江の言葉によって泣くシーンはよかったですね。僕自身はこういう女性の方が好きなんですけどねえ(笑)
 宮本信子さんの演技のうまさは言うまでもありません。孫にも甘くないし、筋の通った、端からみれば嫌味な感じの老女をものの見事に演じています。反面、夫の若い頃に似た玉山鉄二さん演じる竜太に見惚れて頬染めてしまうかわいらしさを演じさせても文句ありません。中谷さんと宮本さんの配役がこの映画の成功のかなりの部分を占めますね。
 暴力を振るわれながらも、イケメンの彼氏と別れられない女子大生ミサを演じたのは戸田恵梨香さん。細くて長い足でした(そんな感想でごめんなさい)。
 それにしても、ラストで時江に怒られた大阪のおばちゃん、反省しているかと思えば、電車を降りたとたんまたおばちゃんらしさ爆発。何十年も生きてきたんだから、1回怒られたくらいで懲りるわけないですよね。
 今回の映画が面白かったのは、もちろん原作によるところが大きかったのでしょうが、脚本家の手腕にもよる部分があったのではないかと思います。一例を挙げると、車内で大騒ぎをしている大阪のおばちゃんたちを見て「先生に電車の中では静かにしなさいって言われたよ・・・」と言う場面で、原作では時江は「お前もややこしいところへアヤをつけにいったものだわね。誰に似たのかしら?」と心の中で思うのですが、映画ではこれを口で言わせ、それに対し亜美が「おばあちゃんに似ているって言われる」と言わせています。ここで、場内は爆笑。いやぁ、うまいです。
 2時間、幸せな気分で観ることができました。“片道15分の奇跡”という副題は大げさすぎますけど。おすすめです。
X−MEN ファースト・ジェネレーション(23.6.18)
監督  マシュー・ヴォーン
出演  ジェームズ・マカヴォイ  マイケル・ファスベンダー  ケヴィン・ベーコン  ローズ・バーン  ニコラス・ホルト
     ジェニファー・ローレンス  ジャニュアリー・ジョーンズ  キャレブ・ランドリー・ジョーンズ  ルーカス・ティル
     ゾーイ・クラヴィッツ  ジェイソン・フレミング  アレックス・ゴンザレス
(ネタばれあり)
 X−MENもすでにシリーズ3作と、ウルヴァリンを描いたスピンオフ作品1作が製作されていますが、今回はシリーズの前章ともいうべき、プロフェッサーXとマグニートーの若き頃を描いた作品です。
 プロフェッサーX、若き頃の名はチャールズ。彼は裕福な家庭に生まれ大学教授として、CIAが追うセバスチャン・ショウの探索に協力していた。ショウはミュータントを率い、第三次世界大戦の勃発を画策していた。一方、マグニートー、若き頃の名はエリック。彼は幼き頃ナチスの強制収容所で当時ナチスのショウによって母親を殺されるという悲しい過去を持っており、復讐のため、やはりショウを追っていた。ショウとの戦いで偶然出会った二人は、若きミュータントたちを組織し、ショウに立ち向かおうとします。
 今は敵となって戦うプリフェッサーXとマグニートーが若い頃はお互いを理解し合う仲間だったことや、プロフェッサーXが車椅子生活になった原因、彼がミュータントの学校を開設した理由など、今までのシリーズで語られなかったことが、いっきに明らかにされます。そして、びっくりなのはシリーズ3作に登場するミスティークがレイブンという名で実はチャールズが妹のようにかわいがっていたという事実です。彼女は今までのシリーズの中では、妙齢のスタイルのいい女性として描かれていたのですが、チャールズたちと同じ位の年齢だとすると相当な年齢。この映画の中でもレイブンの細胞は通常の人間の4倍は若いというようなことを言っていたので、肉体的な年をとるスピードが普通の人間より遅いということでしょうか。
 人間を信じようとするチャールズと、強制収容所の経験もあり人間を信じられないエリックという対照的な二人が、最後に袂を分かちます。1962年に実際に起こったキューバ危機をストーリーに取り入れているところもうまいです。
 ラスト、現在禿頭ではないチャールズがプロフェッサーXの禿頭を思い浮かべさせるユーモアあふれる話をするのもアメリカ映画らしいところ。シリーズの中で一番楽しめました。
 ※ウルヴァリンがカメオ出演しているのもファンとしては楽しいです。
スーパー8(23.6.24)
監督  J・J・エイブラムス  
出演  カイル・チャンドラー  エル・ファニング  ジョエル・コートニー  ガブリエル・パッソ  ノア・エメリッヒ
     ロン・エルダード  ライリー・グリフィス  ライアン・リー  ザック・ミルズ  
(ネタばれあり)
 スティープン・スピルバーグが製作、J・J・エイブラムスが監督、そして公開まで詳しい内容が発表されないとあって、観に行きたいと思う気持ちは増すばかり。というわけで、会社帰りに公開初日のレイトショーを観に行ってきました。 題名の“スーパー8"とは、映画の舞台となった1970年代に流行っていたコダックの8 mmフイルムのこと。物語は映画作りに夢中になっていた子どもたちが、映画の撮影中に空軍の貨物列車が車との衝突により脱線事故を起こしたことを目撃したことから始まります。
 予告編では、脱線した貨車の内側から何かが出ようとしている様子が描かれていましたが、本編ではそのシーンはありませんでした。貨車の外壁を破ってしまうような力を持ったものを何の補強もせずに何故運んだのかと、ここは突っ込みどころです。
 あの予告編なので当然エイリアンが登場するのだろうなあ、それにスピルバーグが製作ということから、これは「ET」へのオマージュかな、当然エイリアンとの交流も、と思ったのですが、そこは監督がJ・J・エイプラムスです。単なるファンタジーではすまされませんでした。
 少年たちが主人公ということから、「ET」はもちろん、「スタンド・パイ・ミー」のような少年たちの成長物語としても期待していたのですが、大人びたエル・ファニング(あのダコタ・ファニングの妹です。)演じる少女を巡っての恋のさや当てもあったものの、成長物語としてもちょっと中途半端。エイリアンにしても、不細工でもかわいげのあった「ET」のエイリアンとは異なり、おそろしげな風貌でした。かわいそうなエイリアンという反面、人間を容赦なく襲うという面はエイブラムスらしいですね。でも、ラストはやっぱり、スピルバーグかな。
アイ・アム・ナンバー4(23.7.8)
監督  D・J・カルーソ
出演  アレックス・ベティファー  ティモシー・オリファント  テリーサ・パーマー  ダイアン・アグロン
     カラン・マッコーリフ  ケヴィン・デュランド  ジェイク・アベル
 地球から遠く離れた星に住むロリエン人は、モガドリアンによって滅ぼされ、9人の特殊な能力を持った子どもたちがその守護者と共に地球へと逃げてくる。地球人の中でひっそりと暮らす彼らをモガドリアンは探しだし、bPからbRまでが殺される。この映画の主人公bSことジョンの元にもやがてモガドリアンの魔の手が忍び寄ってくる。
 予告編を観たときには主人公たちが宇宙人とは思いもしませんでした。超能力を有する新人類を恐れた人間が、彼らを殺そうとする話かと勝手に思っていたので、予想外の展開でした。ストーリー展開としてもいまひとつ。モガドリアンがわざわざ地球まで逃亡した9人を追ってくる理由がはっきりしません。ほっとけばいいだろうと思うのですが、ジョンたちのペンダントに何か理由があるのでしょうか。このあたり、シリーズ化を意識したのでしょうが、謎のままにしておいたら、観客動員数が悪くてそのまま終わってしまったということでは洒落になりませんね。
一番良かったのは、bU役のテリーサ・パーマーです。体にぴったりの黒いレザースーツで大型バイク、ドゥカティに乗って、bSの危ないときに駆けつけます。カッコいいですよねぇ。アンジェリーナ・ジョリーやミラ・ジョヴォビッチに続く戦う女の誕生です。
 ファッションということではモガドリアンのサングラスに黒いダスターコートが決まっていました。でも、そんなカッコよさと対照的に顔の横に鰓みたいなものがあるのが魚類をイメージさせてユニークな顔でしたが。
 この映画を観て思ったのは「トワイライト」の二番煎じではないかということ。普通の人間とは違う男の子を普通の女の子が好きになってしまう青春ドラマですしね。「トワイライト」はシリーズ3作まで現在公開されていますが、果たしてこの作品はどうでしょう。今回登場したのは4と6だけで、まだ5、7、8、9もいますし、ぜひ彼らの能力も知りたいですね。
ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2(23.7.15)
監督  デイビッド・イエーツ
出演  ダニエル・ラドクリフ  ルパート・グリント  エマ・ワトソン  レイフ・ファインズ  アラン・リックマン
     ヘレナ・ボナム=カーター  ロビー・コルトレーン  マギー・スミス  マシュー・ルイス  トム・フェルトン
     キアラン・ファインズ  ジェイソン・アイザックス  ジュリー・ウォルターズ  ボニー・ライト  イバンナ・リンチ
 2001年の「ハリー・ポッターと賢者の石」から始まったシリーズも、いよいよ最終章です。ついにヴォルデモートとの最後の決戦を迎えます。
 PART1に続き、ヴォルデモートの分霊箱を探すハリーたちと、最後はホグワーツに攻め入るヴォルデモートー派との攻防戦が描かれます。死力を尽くして戦う中で味方の中にも命を落とす人が出てきます。おなじみの人の死に、観客の中にはすすり泣く人も。シリーズのファンにはたまらないでしょうね。今回は、今まで脇役だったネビルが大活躍。最後の分霊箱を巡ってのキーマンになります。
 この10年の間にあんなに幼くてかわいかったハリー役のダニエル・ラドクリフが、今では髭も生えて一人前の男になってきました。ロン役のルパート・グリントは、すっかりおじさんですね。―方、ハーマイオニー役のエマ・ワトソンは、綺麗な女性に成長しました。よくメンパーを変えずに彼らの成長に合わせて作ってきたものだと感心してしまいます。
 これでラストですから、今まで謎だったハリーとヴォルデモートとの因縁や隠されてきた事実が明かされます。ふむふむ、そういうことだったのかぁ。だからあの人(ヴォルデモートではありません。)は、ハリーを守っていたのですね。改めてPART1をレンタルしてきて、再度細かなところをチェックしました。
 これまで魔女として多くの人の反感を買っていたベラトリックス役のヘレナ・ボナム=カーターが今回はそれほど目立っていなかったのは残念。僕としては、「英国王のスピーチ」の普通の人の役よりも、この作品のような切れたキャラを演じる彼女が好きなんですが。
 既に亡くなったダンブルドアやシリウス・プラックも登場し、最後を飾っています。何だかんだ言いながらこの10年楽しませてもらったシリーズでした。
 この作品はシリーズ最初にして最後の3D作品となりましたが、はっきり言って3Dにした意味はないと思います。3Dで凄いなあと思ったシーンはまったくありませんでした。映画が始まる前の「三丁目の夕日」の予告編の3Dの方が観客が「おぉ〜」とどよめいていましたよ。
トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン(23.7.29)
監督  マイケル・ベイ  
出演  シャイア・ラブーフ  ジョシュ・デュアメル  ジョン・タトゥーロ  タイリース・ギブソン  パトリック・デンプシー
     ロージー・ハンティントン=ホワイトリー  ケヴィン・ダン  ジュリー・ホワイト  ジョン・マルコヴィッチ
     フランシス・マクドーマンド
 シリーズ第3弾です。オプティマスプライムたちオートボットは、その後もディセプティコンから地球を守るために、れノックスが指揮するNESTとともに、ディセプティコンの残党と戦っていた。一方サムは前2作までの恋人ミカエラに振られたが、新たな恋人カーリーもできて、ワシントンDCに住みながら就職口を探していた。
 今回の戦いは前作よリパワーアップしています。地球が滅亡してしまうか否かの戦いが繰り広げられます。オートボットにも新たな仲間が加わっていますが、ディセプティコン側にも巨大なミミズのようなワーム型ロボットのショックウェーブというものすごいロボットが登場します。
 トランスフォーマー同士の戦いを描くCGも凄いですが、人間が高層ビルから羽のようなものを付けて舞い降りるシーンは迫力があります。実際に飛んでいるそうですが、あんなわずかな羽みたいなものだけで滑空できるなんて驚きです。それもビルの谷間を縫って飛ぶのですから、かなりの危険も伴うでしようから、観ていてもスリル満点です。
 シリーズファンにはおなじみのレノックスや彼の元部下のエップスをはじめ、ジョン・タトゥーロが演じているシモンズも登場します。彼が出ないと笑いの場面がないですからねえ。
 今回、サムの恋人となったカーリー役のロージー・ハンティントン=ホワイトリーがまたスタイル抜群の女性。サムのあの顔でどうしていつもスタイル抜群の美人を恋人役に配置するのか疑問です(笑)
 シリーズで初めての3D作品であり、かなり売り物にしていましたが、僕が行った映画館の3Dではそれほど「凄い!」という印象を持つことはできませんでした。これで通常より400円高いのでは費用対効果の面からは2Dで十分という気がします。安物のメガネをかけて観る3D方式のせいでしょうか。
モールス(23.8.11)
監督  マット・リーヴス
出演  クロエ・グレース・モリッツ  コディ・スミット=マクフィー  リチャード・ジェンキンス  イライアス・コティーズ
(ネタばれあり)
 スティーヴン・キングが2010年bP映画に選び、さらに、この20年でbPのスリラーと大絶賛した映画です。観ないわけにはいかないと、東京出張帰りに、初めて六本木ヒルズの映画館に観に行ってきました。
 元々はスウェーデン映画「ぼくのエリ 200歳の少女」を、「クローバーフィールド」で一躍名を挙げたマット・リーブスがリメイクした作品です。
 父母は別居状態、学校では「女の子」と囃し立てられて虐められているオーウェンが住むアパートに、少女・アビーが父親とともに引っ越してくる。雪の上でも裸足のアビーにやがて惹かれていくオーウェンだったが、実はアビーの正体は・・・。
 映画の始まりは、病院に酸を顔にかぶった男が運び込まれるところから始まります。そして、その男が「I'm sorry Abby」というメモを残して病院の窓から転落死したところから場面が時間を遡り、ここに至るまでを描いていく体裁になっています。
 アビーの正体がヴァンパイアであることは、すぐに明らかとされます。彼女が人を襲う場面が怖いのなんのって。もちろんCGなんでしょうが、これは凄いです。かわいい顔をした少女とヴァンパイアになったときの少女との落差が凄すぎます。
 アビーの部屋で、ある写真がクローズアップされます。この写真がオーウェンにとっても大きな意味を持つことになるのがラストで気がつきました。そして彼女の父が「I`m sorry Abby」とメモを残した理由も。オリジナルにはこの場面がありませんが、この場面があった方がオーウェンの未来を観客が想像する手助けになります。あまりに切ないラストです。
 題名の「モールス」は、オーウェンとアビーが、壁越しにモールス信号を使って話をするということから付けられたものでしょうが、最初は「たいしてモールス信号でのやりとりの場面なんかないじゃないか! いまひとつの題名だな」と思ったのですが、ラストの場面でなるほどなあと納得です。でも、原題の「LET ME IN」もあるシーンを端的に表していて、いい題名だと思います。
 アビーを演じたのは、クロエ・グレース・モリッツ。「キック・アス」での演技が絶賛され、その後のオファーが凄いそうですが、確かに撮影当時12歳にしてはうますぎる演技です。
 一方、オーウェンを演じたのは、コディ・スミット=マクフィー。荒廃したアメリカ大陸を旅する父子を描く「ザ・ロード」で息子役を演じた少年です。
ツリー・オブ・ライフ(23.8.14)
監督  テレンス・マリック
出演  ブラッド・ピット  ショーン・ペン  ジェシカ・チャスティン  フィオナ・ショウ  ハンター・マクラケン
     ララミー・エップラー  タイ・シェリダン
 寡作で知られるテレンス・マリック監督の4作目の作品です。この作品で彼はカンヌ映画祭の最高賞であるパルム・ドール賞を受賞しました。
 しかし、はっきり言ってよくわからない映画でした。テーマ自体は父と息子という、もう何度も映画では描かれてきたものですが、抽象的な映像が何を語っているのか、まったく理解できませんでした。始まったとたんに眠くなってしまったほど。こんなに早く睡眠に入りそうになったのは初めてです。映画は長男が自らの少年時代に思いを馳せるというところから始まるようなのですが、実はそのあたりはすでに意識が遠退いていて、ショーン・ペンが出てきたかどうかもわかりませんでした(ショーン・ペンはラストだけでなく、最初も出てきたのでしょうか?)。
 厳格で口うるさい父親に反抗する長男、心のやり切れなさを次男にぶつけてしまうというところもよくある話。どの時代にあっても、こうした父と子の物語はあるものであり、これといって目新しいテーマでもないのに評判を呼んだのが不思議です。あまりに哲学的すぎて、僕にはこの映画の真の姿を理解できなかったのかもしれません。
 父親役を演じたブラッド・ピットは、いつものかっこよさはなく、独善的な父親を演じています。このところ、「ベンジャミン・バトン」といい、単なるイイ男という役だけでなく、演技の幅が拡がってきましたね。
シャンハイ(23.8.20)
監督  ミカエル・ハフストローム
出演  ジョン・キューザック  コン・リー  チョウ・ユンファ  デヴィッド・モース  渡辺謙  菊池凛子
     フランカ・ポテンテ  ジェフリー・ディーン・モーガン
 舞台は太平洋戦争開戦前夜の1941年の上海。そこは、列強各国が租界を構成して微妙なバランスの上に成り立っていた都市。そんな上海にやってきた米国諜報員のポール・ソームズは、親友の諜報員コナーの死に直面し、その謎を追う。彼の前に現れたのは、コナーが調べていた上海の裏社会の黒幕ランティン、その美しい妻のアンナ、日本軍情報部のタナカ大佐。そしてコナーの愛人で彼の死亡後姿を消した日本人女性スミコ。新聞記者に扮し彼らに近づくうちに、彼はアンナの妖しげな行動に気付くとともに、彼女にしだいに魅かれていく。
 太平洋戦争勃発前の上海の租界という治外法権が認められ、列強が利権を求めて蠢く街で米国のスパイ、日本陸軍の軍人、中国のギャング、レジスタンスたちの暗躍を描いていきます。見所は、3カ国の俳優たちの共演です。日本の渡辺謙、中国のチョウ・ユンファとコン・リー、そして米国のジョン・キューザック。彼らの演技のぶつかり合いが、ストーリーとは別に楽しませますが、贅沢を言えば、米国のジョン・キューザックは、ちょっと米国代表としては役不足という気もします。「ハイフィディリティ」や「セレンディピティ」「2012」に出演して、決して2流の俳優さんではないのですが、中国と日本がそれぞれ国を代表する役者が出ていることと比較すると見劣りがします。
 内容自体はありふれた話でしたし、死んだ友人が何を探っていたかも、当時の政治情勢を考えればあまりに当然のことで、見ている僕らからすれば何の驚きもありません。期待が大きかっただけに落胆は大きかったです。
神様のカルテ(23.8.27)
監督  深川栄洋
出演  櫻井翔  宮崎あおい  加賀まりこ  要潤  吉瀬美智子  池脇千鶴  朝倉あき  柄本明  西岡徳間
     岡田義徳  原田泰造  野間口徹
 2010年の本屋大賞で第2位を獲得した夏川草介さん原作小説の映画化です。
 大ベストセラーとなった原作なので、いかに原作のおもしろさを損なわずに映画化するかという点について、制作側としては苦労したことでしょう。原作に思い入れがある読者としては、どうしてもアラを探したくなるものですし、制作側としてはその批判を受けることを覚悟してこの映画を作らざるを得ないでしょうから。
 そういう僕もアラ探しをした一人です。学士殿を見送るシーンでの桜の花を描いたのは誰かということが原作と異なること(僕は原作の設定の方が好きです。)、安曇雪乃の遺書が改変されていることはどうかと思います。わざわざ遺書の中で「神様のカルテ」という題名の意味づけをしているのはどうかなあと思ってしまいました。もちろん、全体としては原作どおり地域医療の問題も、大学病院からの誘いに揺れる一止の気持ちも描かれていましたし、学士殿を送るシーンは原作同様ジ〜ンとくる素敵な映画になっていることは否定しません。宮崎あおいさんもハルさんの役柄にビッタリでした。
 それに、原作どおりでなくてよかったところもあります。あの時代がかった言葉遣いが、映画ではなかったこと。いくら夏目漱石の「草枕」が好きだからといって、現実にあんな言葉遣いをする人はいません。あれは本の中だからできることです。まあ、医者なのに、いまひとつ自信なさそうな物言いは、どうかとは思いますが。
 暖かな気持ちになれるのは原作と同じなので、見てがっかりすることはない作品には仕上がっています。
アンフェア the answer(23.9.17)
監督  佐藤嗣麻子
出演  篠原涼子  佐藤浩市  山田孝之  阿部サダヲ  加藤雅也  大森南朋  寺島進  香川照之  吹越満
 今回の映画で、今までのテレビシリーズと映画で続く謎が明らかにされるというストーリーだけでなく、以前からのファンの篠原涼子さんが久しぶりにスクリーンに登場するということで期待大の作品でした。
 ストーリー的にはいろいろ粗も目につきました。だいたいキャリアでもない篠原さん演じる雪平が東京から北海道の警察署に異動になるなんて、考えられません。脚本家は理解しているのか気になります(先日、テレビでこの映画に続く前日譚が放映され、ラストに雪平がちょっと登場したようですが、この当たりのことが説明されたのでしょうか。)。
 ひとつが目につくと、へんなところまで気になります。雪平と元夫の佐藤が車の運転席と助手席に座って話をしているのを、後ろから撮影しているシーンがあるのですが、よく見ると、なんと座席のヘッドレストが外してあるんですよ。まあ、ヘッドレストがあると顔がよく映らないためでしょうが、あまりに不自然。
 また、元検事総長の息子だからといって村上検事がやりたい放題というのも現実的でないですね。ストーリーは現実的でなくても、もしかしたらこんなこともあるのか?と観ている人に思わせるのが、脚本家なり監督の腕の見せ所なんでしょうが、ちょっとこの作品にはそういうところはみられませんでした。
 篠原さんの上半身裸のバックショットや黒い下着姿などファンにとっては嬉しいサービスシーンが満載でしたが、これって、B級映画で必要もないのにヌードシーンが登場するのと同じですよね。
 出演陣は、シリーズに登場していた人に加え、雪平の新たな上司となる一条を演じる佐藤浩市さん、東京地検のエリート検事村上を演じる山田孝之さん、雪平をつけ狙う謎の男、結城を演じる大森南朋さんとすごい豪華です。その中で、テレビの「新・警視庁捜査一課9係」で癖のある刑事役をやっていて、割と気になる役者さんの吹越満さんは、この映画ではチョイ役。冒頭にあっという間に殺されてしまいました。出番という出番もないままの退場は残念でした。
 怪しい人はだいたい観ていて想像できてしまいました。ただ、雪平を裏切っていたシリーズメンバーが、あの人だったとは・・・
探偵はバーにいる(23.9.18)
監督  橋本一
出演  大泉洋  松田龍平  小雪  西田敏行  高嶋政伸  松重豊  田口トモロヲ  石橋蓮司  中村育二
     竹下景子  浪岡一喜  桝田徳寿  榊英雄  カルメン・マキ  マギー  片桐竜次  本宮泰風
     安藤玉恵  吉高由里子  有薗芳記
 東直己さん原作のススキノ探偵シリーズの映画化です。題名はシリーズ第1作から取られていますが、ストーリーは第2作目の「バーにかかってきた電話」です。
 札幌の歓楽街ススキノにあるバー「ケラーオオハタ」を事務所代わりにしている探偵の"俺"に"コンドウキョウコ"と名乗る女から電話がかかってくる。彼女の依頼どおりに動いた結果、あやうく雪の中に生き埋めにされたりと危険な目に遭うが、電話の女と同姓同名の名前の女が放火事件の被害者になっていることを知り、"俺"は真相を追い始めるが・・・。
 "俺"を演じたのは、大泉洋さん。ハードカバーの発売時に読んだ原作小説はすっかり忘れていたので、観る前には、探偵役が大泉さんと聞いて、どうなのかなあと危惧していました。でも、"俺"がこんなに軽い男だとは・・・。大泉洋さん、ピッタリです。あの探偵には大泉洋さん以外にはいないと思うほどのハマり役と言っていいでしょう。
 コンビを組む大学の助手・高田には松田龍平さん。こちらも役柄にピッタリ。彼の無愛想なところ、素っ気ないところが、また絶妙。コンビとしても最高です。この二人を配役したことが、この映画の成功を約束したと言っても過言ではありません。これほど、おもしろい映画になるとは思いもしませんでした。
 原作発表当時は携帯電話も普及していませんでしたが、今となっては携帯を持たない探偵というのも苦しい設定。でも、ケラーオオハタを事務所代わりにしているという設定は捨てがたいですし、どうしたものでしょう。
 少なくとも第2作目の製作は決まったそうですが、次作も大いに期待できます。
世界侵略:ロサンゼルス決戦(23.9.18)
監督  ジョナサン・リーベスマン
出演  アーロン・エッカート  ミシェル・ロドリゲス  ラモン・ロドリゲス  ブリジット・モイナハン  NeーYo
     マイケル・ペーニャ
 世界各地の大都市沿岸部に隕石らしき物体が次々と落下。やがて隕石が落下した海中から異星人の出現し、人間に襲いかかる。ロサンゼルスでも全軍に出撃命令が下ったが、圧倒的な異星人の攻撃力の前にアメリカ軍は撤退を余儀なくされる。そんな中、第1小隊に警察署に取り残された民間人の救出命令が出される。小隊長は、士官学校を出たばかりで実戦経験のないマルチネス少尉。その彼を補佐するため実戦経験豊富なナンツ軍曹が第1小隊に配属される。第1小隊は異星人と交戦しながら警察署に辿り着き民間人を保護するが、異星人の攻撃の前に一人また一人倒れて行く。最初は兄がナンツの指揮下で戦死したことでナンツに反感を持っていたロケット伍長ら小隊のメンバーもナンツを信頼するようになり、やがて最後の決戦に。
 超有名俳優は出演せず、かろうじて知ってるのは、ナンツ軍曹役の「サンキュー・スモーキング」のアーロン・エッカートと、戦う女という印象の強いサントス曹長役のミシェル・ロドリゲスの2人だけ。そんな無名俳優の多い映画ゆえに、逆にリアルティの強い映画となっています。また、手持ちカメラのぶれが、まるでドキュメンタリー映画を観ているような臨場感を与えます。2時間の上映時間があっという間でした。
アジョシ(23.10.8)
監督  イ・ジョンボム
出演  ウォンビン  キム・セロン  キム・ヒウォン  キム・ソンオ  キム・テフン  ソン・ヨンチャン  キム・ヒョソン
     タナヨン・ウォンタラクン
 ウォンビン主演のアクション映画です。ウォンビンの魅力満載で、黒いスーツをまとったウォンビンがカッコよすぎです。
 ウォンビン演じるテシクは風采の上がらぬ質屋の主人。なぜか隣家の娘ソミからは慕われている。ソミの母親が犯罪組織の麻薬を横取りしたことから、二人は組織に連れ去られる。テシクは二人を助けるために組織に立ち向かっていく・・・
 友だちの鞄を盗もうとしたソミが警官に両親はと問われたときに、偶然通りかかったテシクを父親だと言うが、テシクは無視してしまいます。そんなテシクにあとでソミが言った言葉には泣かされてしまいます。「でも嫌いにならない。おじさんまで嫌いになったら、私の好きな人がいなくなっちゃう」こんなこと言われてしまうと、グッときてしまいますよね。テシクのように強くないので、助けに行くことはありませんが。
 質屋の主人のテシクがなぜあんなに強いのかという点は、ネタ晴れになるので避けますが、そこに現在彼が質屋をやっている理由となる、ある悲しい過去があります。これは観てのお楽しみということで。
 日本では芦田愛菜ちゃんほか子役の活躍がすごいですが、この映画でソミを演じているキム・セロンも負けていません。この映画の成功は、ウォンビン人気だけでなく、彼女の演技にも寄るところが大きかった気がします。どこも子役が凄いです。
 ほかにこの映画で印象に残ったのは、殺し屋のラム・ロワンを演じたタナヨン・ウォンタラクン。情け容赦なく殺しまくりますが、思わぬ心根を見せるところがあります。そういうことからは、彼の結末は残念です。
 劇場内はウォンビン人気でかなりの割合でおばさま方が見に来ていましたが、血がドバドバ出る残酷シーンが多かったせいか、顔を覆っている人も見られました。ちょっと女性には刺激が強すぎるかもしれません。
 ※「アジョシ」とはおじさんのことだそうです。
ミケランジェロの暗号(23.10.8)
監督  ウォルフガング・ムルンベルガー
出演  モーリッツ・ブライプトロイ  ゲオルク・フリードリヒ  ウルズラ・シュトラウス  マルト・ケラー  ウド・ザメル
     ウーヴェ・ボーム  ライナー・ボック
 舞台は第二次世界大戦中のナチス・ドイツに占領されたオーストリア。そこで画商を営むユダヤ人カウフマン―家の息子ヴィクトルが主人公です。ヴィクトルの父はミケランジェロの絵を密かに所有していますが、ある日、ヴィクトルは使用人の息子で幼なじみのルディにそのことを話してしまいます。ルディは親衛隊に取り立てられるために、カウフマン一家を裏切り、絵のことをドイツ軍に密告、ドイツ軍はイタリアとの間での協力関係を築くために、ミケランジェロの絵をイタリアに渡そうと、絵を奪い取り、カウフマン一家を収容所へと送ります。ところが、後日、絵が偽物だと判明するが、絵を隠したヴィクトルの父は彼に不思議な言葉を残して既に収容所で死亡。隠し場所を知らないヴィクトルだったが、絵と母親の命を引き換えにドイツ軍相手に賭けに出ます・・・。
 ユダヤ人ということから、ホロコーストを思い浮かべてしまい、暗い映画かと思ったのですが、意外にそうでもありません。いや、逆に笑いもある作品となっています。もちろん、ユダヤ人として収容所へ入れられるシーンもありますが、暗くなりそうなところを笑いで吹き飛ばしています。特に ひょんなことからヴィクトルとルディが入れ替わることになったドタバタには大笑いでした。その入れ替わりが、その場面だけでなく、戦争が終わったときにも影響を及ぼすところには、よく考え抜かれた脚本だと感心してしまいます。
 父の残した言葉の意味がわかったラストは痛快です。爽やかな気分で映画館を後にすることができます。拍手喝采。
ツレがうつになりまして。(23.10.9)
監督  佐々部清
出演  宮崎あおい  堺雅人  吹越満  津田寛治  犬塚弘  梅沢富美男  田山涼成  大杉漣  余貴美子
 ハルさんは売れない漫画家。彼女が“ツレ"と呼ぶ彼女の夫はIT企業勤務のサラリーマン。自分で昼の弁当を作り、毎日食べるチーズの種類も、していくネクタイも曜日毎に決めているという几帳面な男。そんなツレが体調を崩し、医者に診てもらったところ鬱病の診断が下される。そんなハルさんとツレとの鬱病克服記というか、鬱病とうまくつきあっていく様子を描いていく作品です。
 誰でも鬱病になっても不思議ではない世の中です。僕自身も朝出勤する足が重くなることがたびたびです。鬱病になるのは仕事とか、家庭生活とか、いろいろ個々の事情はあるのでしょうが、ツレの場合は、いかにも鬱病になりそうな感じの上に、仕事でもクレーマー対応ですから、追いつめられていくのも無理ないかも。
 ツレを演じているのは堺雅人さんです。堺さんは、こういう頼りない感じの役をやらせるとうまいですね(現在テレビで放映している「南極大陸」では、意地の悪そうな男を演じているので、結局何やらせてもうまいということでしょうけど)。
 ハルさん役は宮崎あおいさん。堺さんとはNHK大河ドラマ「篤姫」に続く夫婦役ですね。鬱病の夫にうまく連れ添っていく妻を好演。普通、会社辞めろなんていいませんよねえ。とにかく、かわいい奥さん役です。「神様のカルテ」を観たときも思いましたが、いいなあ、あおいさんの奥さん。あの笑顔にはほっとさせられます。
 ときに挿入されるハルさんの書く絵は最高です。夫が鬱病でも、こうしたマンガ(というか日記というか)を書ける気持ちを持っていたのが、病気をともに乗り越えていけた理由のひとつでしょうか。
一命(23.10.15)
監督  三池崇史
出演  市川海老蔵  瑛太  満島ひかり  役所広司  中村梅雀  竹中直人  笹野高史  青木崇高
     新井浩文  浪岡一喜
(ネタばれあり)
 時代劇初めての3D映画だそうですが、日頃、眼鏡をかけている僕にとっては、更に3D用の眼鏡をかけるのは、うっとうしくて仕方がありません。だいたい3Dで時代劇を観る必要があるのかと思い、あえて2Dで観てきました。
 主家が取りつぶしになり、浪人生活を送りながら娘・美穂と亡くなった友人の息子千々岩求女を引き取って、男手―人で育てている津雲半四郎。やがて、子どもたちも成長し、好きあった二人は夫婦となり子どもも産まれて貧しいながらも幸せな生活を送っていた。しかし、ある日、子どもが病気になり、治療のためには3両が必要だと知った求女は、巷で流行の“狂言切腹"を申し出て金子を得ようとする。
 “狂言切腹"とは、武家屋敷に行って、切腹をしたいから庭先を貸してくれと申し出て、面倒を嫌う家から幾ぱくかの金をもらうというもの。そんなことが実際にあったのかは知りませんが、求女が不幸だったのは、申し出た井伊家が“狂言切腹"の風潮を嫌っていたこと。体よく金を出して追い出されるどころか、庭先で切腹をすることを許されてしまいます。求女も焦ったでしょうね。妻子のために武士の面目も捨てて3両を求める求女が哀れです。更に求女が普請奉行の息子でどこかにまだ侍の心を持っていたこともまた不幸の一因です。
 貧しさのために武士の命である刀も売り、竹光で腹を切らなければならなかったなんて、悲惨すぎます。何度も何度も竹光で腹を突くシーンには、こちらの体にも力が入ってしまいました。
 津雲半四郎を演じたのは話題の市川海老蔵さん。あの事件があったせいで公開も遅れたのでしょうね。どうもセリフが歌舞伎っぽくて好きになれません。それに対して求女を演じた瑛太さんは良かったです。好青年はいつもと同じですが、武士の面目を捨てて金を請うところから切腹に至るまでの瑛太さんの演技に引きつけられてしまいました。
 役所広司さんが珍しく嫌われ役。といっても、太平の世になって武士の生き方を忘れてきた藩士たちに、それを思い起させようとしたのでしょうから、悪人というわけでもありません。
 それにしても、後味悪い映画でしたね。
猿の惑星 創世記(23.10.7)
監督  ルパート・ワイアット
出演  ジェームズ・グランコ  フリーダ・ピント  ジョン・リスゴー  ブライアン・コックス  トム・フェルトン
     アンディ・サーキス  
 (前シリーズを観ていない人はネタ晴れになるので、読まないでください。)

 前シリーズでは、地球滅亡の直前にロケットで脱出したチンパンジーの科学者夫婦が、テイラー(チャールトン・ヘストン)とは逆に過去の地球にタイムトラベルします(「新・猿の惑星」)。その2匹の間に産まれた子どもがやがて猿たちのリーダーとなって人間と戦うことになるのですが(「猿の惑星 征服」) 、今回の作品では、認知症の特効薬の実験台になったチンバンジーから産まれた子どもが異常に知能が発達していて、やがて猿たちを率いて人間との戦いに至るというもの。
 前評判がよかっただけあって、おもしろかったです。2時間堪能しました。前シリーズヘのオマージュも散りばめられているようです。テレビにテイラー(チャールトン・ヘストン)たちが乗ったロケットの発射シーンがあったり(気がつきませんでした。ありましたっけ?)、リーダーとなるチンバンジーの名前がシーザーだったり、シーザーが水をかけられるシーンがテイラーが水をかけられるシーンの逆だったり等々僕が気がつかないところにいろいろあるようです。
 タイムトラベルといういかにもSFらしい前シリーズと異なって、今回は認知症の特効薬による知能の発達という、いかにもありそうな話になっています。しかし、あれだけ近代的に武装した人間が、武器という武器を持たないサルたちにああも簡単にやられてしまうのかなあという気がしますが。
 前シリーズでは、ジョン・チェンバースのサルの特殊メイクが評判となりましたが、今回はシーザーほか数匹はパフォーマンス・キャプチャーという手法、あとはCGIだそうですが、よくできています。シーザーを演じた俳優がアンディ・サーキスという以前キングコングを演じた役者さんだけあって、ある意味猿には慣れていますが、特にあの目の表情はすごいです。話せなくても目の表情だけで心の内を語ってしまっています。
 ラストで人間の未来が暗示されていましたが、果たしてシリーズ化されるのでしようか。
 シーザーを育てるウィルを演じたのは、「スパイダーマン」で有名なジェームズ・フランコ。ウィルの父親役にジョン・リスゴーが演じていますが、彼も歳を取りましたねえ。ハリー・ポッターシリーズのドラコ役のトム・フェルトンが意地悪な飼育員を演じています。
カウボーイ&エイリアン(23.10.22)
監督  ジョン・ファブロー
出演  ダニエル・クレイグ  ハリソン・フォード  オリヴィア・ワイルド  サム・ロックウェル  アダム・ビーチ
     ポール・ダノ  ノア・リンガー
 荒野の真ん中で目覚めた男。自分が何者かもわからず、左手首には見たこともない機械が巻き付けられていた。
 西部劇とSFという全く異なるジャンルを融合させた映画です。カウボーイと地球にまでやってくる科学力を持ったエイリアンでは、戦えばどちらが勝つかは火を見るより明らか。いくら銃の名手、早撃ちのガンマンであっても勝てるわけがありません。通常はそんな設定は考えるわけもありませんが、この映画の原作であるグラフィック・ノベルは、その点、うまく考えています。男の左手にはめられた機械、これがエイリアンの武器で、これで男はエイリアンと五分に戦える男となります。
 そんな記憶をなくした男とともに、今回主役となるもう一人の男は町を牛耳るボスのダラーハイド。西部劇のパターンとしては、町の外から来た流れ者のガンマンが町を牛耳るボスを倒して、ラスト、地平線の彼方へ去っていくというのが多いのですが、当然今回は違います。ダラーハイドは確かに馬鹿な息子をかわいがり、無理難題をふっかける典型的な悪役。ところが、この作品では悪役はエイリアンですから、この男、しだいに良い役になっていくんですよねえ。もちろん、演ずるのがハリソン・フォードですから悪役のままというのは考えられませんが。
 エイリアンの造型もインパクトはあまりなかったし、おなかが割れて中から手のようなものが出てくるというのも、「エイリアン」で口の中から更に口が出てくるようなもので、全然驚きません。この映画、内容はともかく、西部劇にエイリアンを登場させたという設定だけがインパクトがありました。
 エイリアンが地球にやってきた理由には笑ってしまいました。まさしく西部劇の悪役らしい。オリヴィア・ワイルドが演じた女性エラも何だかよくわからない存在でしたし、ひとつ間違えばおバカ映画になるところでした。
 007のダニエル・クレイグとインディ・ジヨーンズのハリソン・フオード共演なので、もう少しおもしろいものを期待していたのですが。
ステキな金縛り(23.10.30)
監督  三谷幸喜
出演  深津絵里  西田敏行  中井貴一  阿部寛  竹内結子  浅野忠信  草薙剛  市村正親  篠原涼子
     小日向文世  小林隆  KAN  木下隆行  山本亘  山本耕史  戸田恵子  生瀬勝久  浅野和之
     梶原善  深田恭子  近藤芳正  佐藤浩市  唐沢寿明  阿南健治  大泉洋  西原亜紀  
 宝生エミは、敗訴続きの弁護士。今回彼女が担当するのは妻殺しの容疑者。犯行時刻、彼は山奥の旅館の一室で、落ち武者の幽霊にのしかかられ、金縛りにあっていたとアリバイを主張。旅館を訪ねたエミは、落ち武者の幽霊・更科六兵衛に出会い、彼に法廷での証言を頼むが・・・
 この作品、今までの三谷作品の中で一番好きです。落ち武者役の西田敏行さん、検事役の中井喜―さん、エミの上司役の阿部寛さんら脇役陣の演技のうまさは言うまでもありませんが、何と言っても宝生エミを演じた深津絵里さんです。とにかく、仕草がかわいい。すっかりファンになってしまいました。「悪人」や「踊る大捜査線」とはまったく違う魅力が出ています。この魅力を引き出した三谷監督にも拍手です。
 脇役陣も豪華です。三谷作品に出演していた人たちが、ちょい役で顔を覗かせています。佐藤浩市さんは「ザ・マジックアワー」と同じ役で登場しましたし、市村正親さんと篠原涼子さんの夫婦も出ています(篠原さんの役は「有頂天ホテル」に登場していましたね。)。唐沢寿明さんなんて、最後の方で2、3分だけの登場です。贅沢ですよねえ。もっとすごいのは、エンドロールが流れる背景の写真の中に「勝訴」という紙を持った大泉洋さんがいたこと。あのパーマ頭でなかったらわかりませんでしたよ。
 三谷作品初出演の浅野忠信さんは、最初は福山雅治さんかと思ったほど、イメージが違いました。パンフレットを見たからわかりましたが、そうでないと浅野さんとわからないのではないてしょうか。
 西田、中井、阿部の3人には笑わせてもらいました。西田さんの演技(アドリブもあったんじゃないですかねえ。)にも終始大笑い。笑いとはほど遠い中井さんも、口からピンポン球を出したり、エアドック(これは何かは観てのお楽しみです。)をしたりと大活躍です。阿部さんのタップ・ダンスにも笑ってしまいました。
 幽霊を見るためには、三つの条件があるというのもおもしろい設定です。これがラスト生きてくるんですよね。大いに笑って、ラストほんのりさせてくれる素敵な映画でした。おすすめです。

※六兵衛を連れ戻しにきた段田譲治は、僕が好きな「天国からきたチャンピオン」の天使長ジョーダンのイメージだそうです。登場した瞬間にわかりました。
スマグラー お前の未来を運べ(23.10.27)
監督  石井克人
出演  妻夫木聡  永瀬正敏  松雪泰子  満島ひかり  安藤政信  高嶋政弘  小日向文世  阿部力
     我修院達也  テイ龍進  島田洋八  大杉漣  松田翔太  寺島進  津田寛治
 初めて観た石井監督作品です。砧は、学生時代はいじめられっ子で、俳優になりたくて入った劇団も辞め、毎日を目的もなく生きていたが、チャイニーズ・マフィアに騙されて借金を背負わされ、返済のために、訳ありの品物を運ぶジョーが社長の運送屋の手伝いをすることになります。ある日請け負った仕事は、暴力団の組長を殺した“背骨"という殺し屋を暴力団の事務所まで届ける仕事。ところが、途中、砧が背骨に情けをかけたことから、背骨に逃げられ、窮したジョーたちは、砧を背骨の身代わりとして暴力団に差し出し、背骨の行方を追います。
 とにかく、全編暴力とそれに伴う血でいっぱいです。これは観る人を選ぶ作品です。拷問シーンもあって、目を背けたくなります。瑛太くん、痛そうですねえ。見ているこちらも、痛くなります。
 暴力団・田島組の河島を演じた高嶋政宏さんは怪演といってもいっていい演技です。上半身は古い日本軍の軍服、下半身はおむつという、それだけでも強烈なイメージですが、砧を拷問するときの顔つきは凄すぎるとしか言いようがありません。完全に瑛太さんを喰ってしまいましたね。
 キャラとしては、背骨役を演じた安藤政信さんも凄かったですねえ。あんなに撃たれても死なないんですから。チャイニーズ・マフィアの事務所でのジョーとの戦いには笑ってしまいましたけど。あれでは蜘蛛男かエクソシストのリーガンみたいです。
 ジョーを演じた浅野さんは最後まで正体不明です。マシンガンも扱うところをみると、それなりの過去を背負っているのでしょうけど。「望まぬ日常に埋もれるカスにはなるな」このセリフ、カッコいいですねえ。
 最近引っ張りだこの満島ひかりさんが田島組組長の若い妻を演じますが、どうもピッタリきません。話し方に違和感があります。まるで素人芝居を観ているようなせりふ回しです。たぶん、無理にあんな話し方をしているのでしょうけど、耳に馴染みません。彼女、真面目な役柄よりも、こうしたすれた役柄の方が合うとは思うのですが、今回の役はいまひとつ。
 いろいろな俳優さんがちょい役で出ていましたが、津田寛治さんだけが気がつきませんでした。
ミッション:8ミニッツ(23.11.1)
監督  ダンカン・ジョーンズ
出演  ジェイク・ギレンホール  ミシェル・モナハン  ヴェラ・ファーミガ  ジェフリーライト
 米国陸軍大尉コルターが目覚めたのはシカゴ行きの列車の中。目の前の座席の見知らぬ女性は彼をショーンと呼び、親しげに話しかけてくる。洗面所に入った彼は鏡に見も知らない男の顔が写っているのを見て驚く。持っていた身分証にはショーン・フェントレスという名前。洗面所を出て、前の座席に座っていた女性に、状況を説明しかけたとき爆発が起こり、気がつくと彼は狭苦しいコックピットのようなカプセルの中にいた。目の前のモニターに映った女性は、彼に列車を爆破した犯人は誰と問うが・・・。
 予告編では、列車の爆発の8分前に何度も戻って爆破犯人を捜すということだったので、タイムトラベルの映画かと思っていました。ところがこの映画では脳が死ぬ前の8分間の記憶を記録していて、コルターは爆発によって死んだ乗客の一人の意識の中に入り込み、死ぬまでの8分間を何度も繰り返しながら犯人を捜すというストーリーです。
 いったいどういうことだと考えてもよくわかりません。8分間の記憶を記録しているといっても、彼という異質な存在が死んだ人の意識の中に入って、その人が8分間で経験していない行動をどうしてとることができるのかが理解できません。未だに解決できない疑問です。列車の中は「マトリックス」のようなプログラムによって作られた仮想現実空間なのでしょうが・・・。
 犯人探しに重点が置かれるかと思いましたが、そうではないようで、犯人は観客にはすぐにわかってしまうと思います。 ラストもよくわかりません。てっきりキスシーンで終了かと思ったら、続きがありました。あの世界はどう理解すればいいのでしょうか。パラレルワールドなのでしょうか。それに、どうして、メールは届いたのでしょう? そして結局コルターはどうなったのでしょうか。誰かわかるように教えてほしいです。
 あまり、細かいことは考えずに観た方が楽しめる映画です。ストーリー的にはこういう映画は嫌いではありません。
三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船(23.11.2)
監督  ポール・W・S・アンダーソン
出演  ミラ・ジョヴォヴィッチ  ローガン・ラーマン  オーランド・ブルーム  レイ・スティーブンスン  ルーク・エヴァンス     マシュー・マクファディン  クリストフ・ヴァルツ  マッツ・ミケルセン  フレディ・フォックス  ジュノー・テンプル
     カブリエラ・ワイルド
 3Dと2Dの両方の上映がありましたが、2Dを選択して観ました。三銃士といえば、原作を読んだことがないので、どこかで聞きかじった「皆は―人のために、一人は皆のために」くらいしか知りませんでした。
 ダルタニアンと三銃士が、王妃のために、盗まれたネックレスをめぐってイギリスのバッキンガム公爵と闘う話です。このバッキンガム公爵を演じたのが「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのオーランド・ブルームです。今まで好青年役ばかりでしたが、今回は悪役。でも、悪役なりに格好いいですし、違和感はありません。
 一方、ときのフランス宰相リシュリーと組んだかと思えば、イギリスの○○と組んで三銃士たちを翻弄する悪女がミレディ。演じたミラ・ジョヴォヴィッチが監督の奥さんということもあってか、彼女の活躍が目立ちます。「バイオハザード」の戦う女の面目躍如、今回も派手なアクションを披露します。アトスに追いつめられて、取った行動も格好よすぎます。でも、正直のところ、豪華なドレス姿はいまいちの感がありましたが。
 ダルタニアンと三銃士も剣のアクションよリダ・ヴィンチが設計図を描いたという飛行船でのアクションの方が目立っています。ダ・ヴィンチって何でも作ってしまうんですねえ。
コンテイジョン(23.11.12)
監督  スティーブン・ソダーバーグ
出演  グウィネス・パルトロウ  マット・デイモン  マリオン・コティヤール  ローレンス・フィッシュバーン
     ジュード・ロウ  ケイト・ウィンスレット  ブライアン・クランストン  ジェニファー・イーリー  サナ・レイサン
 突然世界中で新たなウィルスによる病気が蔓延し始めるなかで、伝染病の拡大を防ごうとする疾病予防管理センターの女性医師エリン、エリンを派遣した上司のエリス・チーヴァー博士、発生源を突き止めようとする世界保健機構から派遣されたレオノーラ・オランティス、中国衛生部の職員でありながら、故郷の村の住民を守るために非常手段をとるフェン、妻と息子を亡くし、残った娘を感染から守ろうと奮闘するミッチなど、群像劇の形をとりながら、それぞれの人々の愛する者への想いを描いていきます。
 グウィネス・パルトロウ、マリオン・コティヤール、ケイト・ウィンスレットというアカデミー賞主演女優賞を受賞した豪華女優陣を始め、マット・デイモン、ジュード・ロウ、ローレンス・フィッシュバーンらそれぞれ一人で主演を張れる俳優たちが顔を揃えました。
 バンデミックものとしては、淡々とドキュメンタリーのように描かれています。誤った情報に踊らされてパニックとなり暴徒化する人々。現実でも当然あり得る事態です。特にインターネットが世界中に張り巡らされている現在、何が真実で何が嘘なのか、情報を判断するということは非常に難しいことです。この映画のジュード・ロウ演じるアラン・クラムウィディのように情報を発信する人は至る所に出てくるでしょうし、それを、正しい情報はこれ、誤っているものはこれといったように区別することは不可能でしょう。それにしても、アランは結局嘘の情報を流していたのか、それとも自分では本当だと思って流していたのか、そのへんがわかりませんでした。
 グウィネス・パルトロウ演じる最初の感染者ベスの解剖のシーンはドッキリです。頭の皮をめくるシーンがあるのですから。なにせ、死体として横になっていたのは、アカデミー賞女優ですからねぇ。普通あんな大物女優はあまりそんなシーンは演じないでしょうにね。
 ベスの夫役を演じたマット・デイモンが“ジェイソン・ボーン”の雰囲気とはまったく異なり、普通のおじさんを演じています。若手俳優だと思っていたのに、体型も中年オジサンのようでした。ちょっと、がっかり。
 つい最近の新型インフルエンザの発生のときは、一時日本中も騒然としたものがありました。外を歩く人は皆マスクをし、マスクが品切れとなる事態が生じましたが、もうすっかり、その時の騒ぎは忘却の彼方という感がします。でも、この映画のようなことが起きる可能性が低くないことは、今では誰もが否定しないでしょうね。
マネーボール(23.11.12)
監督  ベネット・ミラー
出演  ブラッド・ピット  ジョナ・ヒル  フィリップ・s−モア・ホフマン  ロビン・ライト  クリス・プラット
     スティーブン・ビショップ  ケリス・ドーシー
 米大リーグのお荷物球団のアスレチックス。金持ち球団のヤンキースと比較すれば、運営費はその5分の1程度しかない。せっかく育てていい選手になっても、活躍をすれば他チームヘ引き抜かれてしまう有様。GMのビリー・ビーンは、野球経験のないフロントスタッフピーター・ブラントを他チームから引き抜き、チームの改革に着手する。
 打率よりも、出塁率や長打率のある選手を優先するという、既存の常識とは異なる考えでチーム作りをして、お荷物球団を大リーグの常勝球団にしたGMを描いた映画です。
 野球界を舞台にしてはいますが、緊迫した試合の場面はありません。大リーグ新記録となる20連勝の試合では、今までいまひとつだった選手が代打で決勝サヨナラホームランを打つなど、感動的であるべきシーンはありますが、個々の選手を掘り下げて描いているわけではないので、映画を観ている人にとっては涙が出るほど感動的ということはありません。いわゆる“野球映画”だと思って観ると、期待を裏切られるかもしれませんね。
 ビリー・ビーンを演じたブラッド・ピットを見ていると、何だかロバート・レッドフォードに似てきました。ただのイケメン俳優ではなくいい役者になってきたなあという感じです。彼の片腕となるピーター・ブラント役のジョナ・ヒルはいい味出していましたね。コメディ映画で活躍している役者さんのようです。ビリーの言うことを聞かない頑固な監督を演じたのが、フイリップ・シーモア・ホフマンだったとは気付きませんでした。
 それにしても、物を売り買いするように他のチームのGMと電話一本で選手の移籍を決めるシーンがあります。プロというのは非情ですねえ。
 こちらでは人気球団の某ジャイアンツで内紛が起き、球団代表兼GMと球団会長との間で相手のけなし合いがなされています。あまりにタイミングが良すぎた映画の公開でした。
カイジ2 人生奪回ゲーム(23.11.19)
監督  佐藤東弥
出演  藤原竜也  伊勢谷友介  吉高由里子  生瀬勝久  香川照之  松尾スズキ  柿澤勇人  光石研
     山本太郎  嶋田久作
 再び地下帝国の住人となっていたカイジ。仲間が拠出してくれた金を元手にサイコロ賭博「チンチロリン」で稼いだ金で14日間、外の世界へ戻ることを許される。カイジの目的は、14日間で仲間たちの借金分の金を稼いで仲間を自由の身にすること。カイジは前作でカイジに破れ、帝愛グループから追放されていた利根川から渡された帝愛グループのスペシャルカジノへ足を踏み入れる。
 今回のメインは“沼"と呼ばれる巨大なパチンコ。機械相手なので前作のEカードのような心理合戦ということはありません。そういう点では、相手の裏の裏をうかがう心理合戦を描いた前作と比べるとおもしろさは劣ります。ただ、そのパチンコからいかにして玉を出すかでカイジたちの考えた方法には度肝を抜かれます。頭を使うより力業ですね。
 最後はどんでん返しをやりすぎです。これでもかというほど、何回もどんでん返しということになるとさすがに緊迫感が薄れます。
リアル・スティール(23.12.9)
監督  ショーン・レヴィ
出演  ヒュー・ジャックマン  ダコタ・ゴヨ  エヴァンジェリン・リリー  アンソニー・マッキー  ケヴィン・デュランド
     ホープ・デイヴィス  ジェームズ・レブホーン  カール・ユーン  オルガ・フォンダ
 ヒュー・ジャックマン主演の父子の絆を描いた作品です。はっきり言って、父親なら泣けます。日本では芦田愛菜ちゃんや鈴木福くんなど子役の活躍がすごいですが、この作品でもヒュー・ジヤックマンの息子役を演じたダコタ・ゴヨ、この子がまたうまいんですよねぇ。この映画のヒットはこの子の演技による部分がかなり大きいのではないでしょうか。小憎らしいまでの演技力です。ホント、泣かせられます。
 物語の舞台は、人間のスポーツとしてのポクシングが廃れ、今ではロボットによるボクシングにとって代わられるようになった時代です。元ボクサーのチャーリー・ケントンは、ロボットボクシングのトレーナーとして各地を転戦していた。そんな彼の前に別れた妻が亡くなったといって彼の息子マックスが現れる。チャーリーは、新しいロボットを買うため、親権を欲しがっていた義妹夫婦に金で親権を売り渡すこととしてしまう。義妹夫婦がバカンスの間、一緒に暮らすこととなった二人は、ロボットの部品を探しに行ったスクラップエ場でスパーリングパートナー用の旧式ロボット・アトムを見つけ、家に持って帰る。ロボットボクシングの試合にアトムを出場させようとするマックスに対し、最初は相手にしなかったチャーリーだったが・・・。
 最初はお金のために親権を譲ったりした父親が、次第に親として息子への情を感じていくようになるところが予定調和的ですが、やっぱりよかったです。世の父親として、こういう映画を観ると感動してしまうのは当たり前ですよね。
 親子を支えるチャーリーの恋人役ベイリーを演じたのは、エヴァンジェリン・リリーです。あの「LOST」で遅しい女性を演じていた女優さんです。決して美人ではありませんが、男を支える役というのは適役でした。
 ロボットの胸に「超悪男子」と日本語で書いてあったり、ロボットの名前が「アトム」だったり、この監督(脚本家?)は相当日本好きですね。
 ところで、入場してくるときにロボットが踊りを踊るところは、総合格闘技の元選手、須藤元気の入場シーンを思い出しました。
ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル(23・12・17)
監督  ブラッド・バード
出演  トム・クルーズ  ジェレミー・レナー  サイモン・ペッグ  ポーラ・パットン  ミカエル・ニクヴィスト
     ウラジミール・マシコフ  ジョシュ・ホロウェイ  アニル・カブール  レア・セドゥー  トム・ウィルキンソン
 ブライアン・デ・パルマが監督した第1作は、思わぬどんでん返しもあって、テレビシリーズとはまた違ったおもしろがあった作品でした。その後シリーズ化された第2作、第3作に大いに期待したのですが、第1作の印象があまりに強烈だったせいか、両作品とも僕的にはいまひとつでした。ところが今回の第4作、これはなかなかの傑作。132分の上映時間、退屈することなく、スクリーンから目を離すことができませんでした。
 冒頭、「LOST」のジョシュ・ホロウェイが登場、「リアル・スティール」に出演したエヴァンジェリン・リリーと同様「LOST」の出演者が活躍しています。ただ、ジョシュの場合は、ビルから落ちながら拳銃で敵を撃つシーンがかっこよかったのですが、この後あっさり退場。ジョシュ退場のときの向こうから女性が歩いてくるシーンを見て、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの「スティング」の一シーンを思い浮かべたのは僕だけでしょうか(そっくりなんですよ。)。
 今回、イーサン・ハントは、なぜかロシアの刑務所に入っています。どうして刑務所にいたのか、しだいにその理由が明らかとなってきます。刑務所から助け出されたイーサンに出された指令は、クレムリンに侵入して、ある男の情報を盗み出すこと。しかし、突然クレムリンで爆破が起こり、イーサンのチームにその容疑がかけられてしまいます。米大統領はロシアからの追求を逃れるため、「ゴースト・プロトコル」を発令し、I・M・Fは解体、イーサンのチームは孤立します。イーサンはチームの仲間とともに、爆破事件の犯人を追ってドバイに向かいます。
 前3作と大きく異なるところは、監督の演出のせいもあるのでしょうか、ところどころに、ユーモアが散りばめられていること。抹消されるはずの指令が、そうはならずハント自身の手で電話を壊したりする場面では思わずニヤリとしてしまいました。登場人物にも今までにないベンジーというユニークなキャラも登場(前作にも出ていたようですが)。このベンジー、フェイス・マスクにやたらと執着、でもマスクを作る機械が途中で故障。これには笑ってしまいました。
 シリーズの名シーンというと、天井からつり下げられたイーサンが危ういところで床に落ちないでバランスを取るシーンですが、今回はイーサンではなく、ある人物が同じようなシーンを演じます。今回は上からつり下げられるのではなく、磁石の反発で浮き上がっているのですが。やっぱり、こういうシーンがあるのはシリーズファンとして嬉しいですね。
 パンフレットにも掲載されていませんが、シリーズファンには嬉しい人物が顔を出していますし、この監督、サービス精神が旺盛ですね。
 テーマ曲はお馴染みのものですが、かなりアレンジされています。僕としては、第1作目のオリジナルに近い方がよかったのですが。
ニューイヤーズ・イブ(23.12.23)
監督  ケイリー・マーシャル
出演  ハル・ベリー  ジェシカ・ビール  ジョン・ボン・ジョビ  アビゲイル・プレスリン  ロバート・デ・ニーロ
     ジョシ・デュアメル  ザック・エフロン  ヘクター・エリゾンド  キャサリン・ハイグル  アシュトン・カッチャー
     セス・マイヤーズ  リー・ミシェル  サラ・ジェシカ・パーカー  ミシェル・ファイファー  ティル・シュバイガー
     ヒラリー・スワンク  ソフィア・ベルガラ  クリス・“リュダクリス”・ブリッジス
 ニューイヤーズ・イブとは“大晦日”のこと。この作品は、“大晦日”の1日を過ごすいろいろな人たちの人間模様を描く、いわゆる群像劇です。
 群像劇といえば、最近では「ラブ・アクチュアリー」や「バレンタインデー」のように豪華俳優陣を思い浮かべますが、この作品も同様に出演者は豪華です。長く会っていない父と娘を演じるロバート・デ・ニーロとヒラリー・スワンクというアカデミー賞主演男優賞・主演女優賞に輝く二人だけでなく、同じくアカデミー賞主演女優賞を受賞しているハル・ベリー。主演賞を受賞した俳優が三人も出演しているだけでもすごいのに、若手では「リトル・ミス・サンシャイン」のアビゲイル・ブレスリン、「ハイスクール・ミュージカル」のザック・エフロン、「バタフライ・エフェクト」のアシュトン・カッチャーが出演しています。意外な配役だったのは、ミシェル・ファイファーです。彼女のイメージとしては「恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」のクラブ歌手のような“妖艶”という言葉がお似合いの役者さんですが、今回はまったく違います。職場と自宅を往復するだけだった女性が、会社を辞めて“今年の目標リスト”を達成しようとします。普通のおばさん役なんですが、これがまたかわいいんですね。ステキな女性です。
 歌手のジョン・ボン・ジョヴィもロックスター役で登場し、素晴らしい歌を披露してくれます。そのほか、「バレンタインデー」にも出演したジェシカ・ビールや「SEX AND THE CITY」のサラ・ジェシカ・パーカーも出演し、大いに楽しませてくれます。やはり、予想したとおり、最後はそうきましたかというラストです。
 あまりに出演者が多いので、最初それぞれの関係を把握するのが大変ですが、一度頭に入ってしまえば、あとは楽しむだけ。それぞれが大切な人に想いを伝え、ハッピーエンドとなるこの話。年末を温かな気持ちで迎えたい人にはピッタリの映画です。
聯合艦隊司令長官山本五十六(23.12.23)
監督  成島出
出演  役所広司  玉木宏  柄本明  柳葉敏郎  阿部寛  吉田栄作  椎名桔平  益岡徹  袴田吉彦
     五十嵐隼士  坂東三津五郎  原田美枝子  瀬戸朝香  田中麗奈  中原丈雄  中村育二  河原健二
     碓井将大  伊武雅刀  宮本信子  香川照之
 あまりに有名な太平洋戦争中の連合艦隊司令長官山本五十六を描いた作品です。
 戦争に反対しながらも、ときの情勢に押し切られ、戦闘の矢面に立たなければならなかった男を描いていきます。内容としては、戦争に勝つために真珠湾攻撃を指揮し、早期講和を画策しながら、海軍の勢力争いの中で思うような状況を作れず、最後は前線基地を激励に回るために乗っていた飛行機が打ち落とされて戦死してしまうという、これまで「山本五十六」という人物が語られてきたものと変わるところはありません。それゆえ、なぜ今、山本五十六なのかとの思いもあります。市民を煽るマスコミ、それに盲目的に迎合する一般市民、戦況を冷静に判断できない軍司令部という最悪のパターンが日本を焼け野原にしてしまうことを再認識させる意味はあるでしょうけど。
 三船敏郎の演じる山本五十六は重厚感がありますが、役所広司さんの演じる山本五十六は、温厚な雰囲気と人を包み込むような人間性が感じられて、なかなか似合っています。日本映画にはなくてならない役者さんですね。
 とにかく、こうした戦争映画を観た人には、カッコいいとか、国のためなら死ねるなんて思わずに、愛する人が次々と死んでしまうような悲惨な状況になる前に、何かをするということを考えてもらいたいと思ってしまいます。そして、マスコ
ミに煽られて一方向だけ見ずに、まずは立ち止まって冷静に周囲を見渡してみるということも必要だと思うのです。なんて、真面目に考えてしまった映画でした。