▲2009映画鑑賞の部屋へ

セントアンナの奇跡(21.7.25)
監督  スパイク・リー
出演  デレク・ルーク  マイケル・イーリー  ラズ・アロンゾ  オマー・ベンソン・ミラー
     マッテオ・シャポルディ  ヴァレンティナ・チェルヴィ  ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ
     セルジオ・アルベッリ  ジョセフ・ゴードン=レヴィット  ジョン・タトゥーロ
(ちょっとネタバレあり)

 スパイク・リー監督の初めての戦争映画です。40億の製作費をかけながら、本国アメリカではコケてしまったそうですが、僕にとっては僕好みのど真ん中ストライクの映画でした。2時間40分以上の長い映画でしたが、途中だれることもなく、楽しむことができました。

 物語は、ニューヨークの郵便局で定年間近な局員が窓口に切手を買いに現れた一人の男を突然射殺することから始まります。その局員のアパートからは闇市場では500万ドルの値段が付くという第二次世界大戦中に行方不明となったサンタ・トリニータ橋のプリマヴェーラの彫像の首が発見される。真面目に生活してきた男が何故人を殺したのか、何故彼のアパートに消えた彫像の首があったのか、その謎は第二次世界大戦中に遡る。

 戦闘中に一人の傷ついた少年を助けたトレイン、ビショップ、スタンプス、ヘクターの4人は、部隊とはぐれイタリアの小村に身を隠す。黒人差別をしない村人との生活にひとときの安らぎを得るが、上層部は彼らにドイツ兵を捕虜にしろという無理な命令を下す。そこにドイツ兵を捕虜にしたパルチザンが現れる。怯える少年だが、ドイツ兵とは顔見知りのようであった。

 郵便局員が殺人を犯したのはなぜか、少年はいったい何者なのか、ドイツ兵とはどんな関わりがあるのかという謎が、それまでの伏線がいっきに収束されて明らかとなっていくところは見事です。
 今までも社会性の強い映画を作ってきたスパイク・リー監督ですから、この映画でも黒人差別問題を痛烈に批判しています。“バッファロー・ソルジャー"と呼ばれる黒人だけの部隊に白人の指揮官。彼は黒人の部下の言うことには耳を貸さず、部隊を窮地に陥れる。また、回想シーンとして、かき氷を買うために寄った店で、アメリカのために戦っている黒人がドイツ人たちより酷い扱いを受ける事実に、公民権運動以前の時代のアメリカ国内での状況を描きます。そんな彼らが迷い込んだイタリアの村では、村人たちからは黒人ということでの差別を受けず、彼らの一人スタンプスは「ここではニガーではなく、俺は俺だ」と呟きます。大いなる矛盾ですね。自国では虐げられるだけなのに、他国の地では安らぎを得ることができるという矛盾。
 もう一つ、今回は黒人差別問題だけでなく、戦争ということも真正面にとらえています。反戦もこの映画の大きなテーマです。上映開始直ぐに描かれる戦闘シーンでは、顔を打ち抜かれたり、手足をもがれたりという凄惨な場面がリアルに描かれます。この当たりは明らかにスティーブン・スピルバーグの「プライベート・ライアン」を意識しているような感じです。
 セントアンナの虐殺シーンにおけるナチの容赦なさ、特に赤ん坊まで銃剣で刺し殺すというところはショッキングなシーンですね。戦争の非人間性を描いているというだけではすまされない気がします。そしてラストもセントアンナの奇跡という題名から奇跡が起こって、万事がうまくいくという明るいラストを予想したのですが、あんなことになるなんて・・・。戦争って、決して人間を幸せにしないですよね。
 本当に素晴らしい映画です。おすすめです。

※戦争を憂うドイツ軍将校がどうして登場してきたのか不思議だったのですが、あんな伏線となっていたんですね。
96時間(21.8.24)
監督  ピエール・モレル
出演  リーアム・ニーソン  ファムケ・ヤンソン  マギーグレイス  リーランド・オーサー  ジョン・グライス
 主人公ブライアン・ミルズは、アメリカの元工作員。愛する娘への過剰なまでの干渉が娘や別れた妻から非難されるが、それでも口出しはやめられない。ある日、いやいやパリ旅行に送り出した娘が人身売買の組織に誘拐される。過去のデータから96時間以内に救出しないと助けることは困難と知ったブライアンは、すぐにパリに飛び、元工作員としての能力を発揮して娘の行方を追う。
 とにかく、娘を助けるためだったら容赦はしません。助けて<れといっても容赦なく殺してしまうし、昔の友人でも手がかりを得るためなら関係のないその妻も撃つという非情さです。娘を助けるまでに何人殺したことでしょう。
 娘が誘拐されてからはたたみかけるようなスピード感で娘を救出しようとするブライアンのハチャメチャな行動を描いていきます。目を離している暇もありません。とにかく、娘を助けるために暴走します。リュック・ベンソンが脚本を書いているだけのことはありますね。
 ブライアンを演じたのは、リーアム・ニーソン。彼の役どころといえば「スター・ウォーズ」のクワイ=ガン・ジン役や「シンドラーのリスト」のシンドラー役のように落ち着いていて尊敬すべき人物がビッタリという印象ですが、今回はまったく違います。彼とすればイメージ・チェンジではないでしょうか。
 父親としては、娘はかわいくて仕方がないもの。いくら嘘をつかれても、減らず口をたたかれても、最後には娘の言うことを聞いてしまうのが、父親というバカな生き物です。同じ娘を持つ父親として彼の行動は理解できますが、それにしても凄すぎです。娘を持つお父さんたちが1時間30分の間、ブライアンを自分に置き換えて気持ちの良くなる映画です。
 ※ブライアンの元妻役を演じているのは「Xメン」のファムケ・ヤンセンですが、あまりに歳とった容貌にびっくりです。
3時10分、決断のとき(21.8.29)
監督  ジェームズ・マンゴールド
出演  ラッセル・クロウ  クリスチャン・ベール  ピーター・フォンダ  グレッチェン・モル  ベン・フォスター
     ダラス・ロバーツ  アラン・テュディック  ヴィネッサ・ショウ  ローガン・ラーマン  ケヴィン・デュランド
 スティープン・キングが選んだその年のベスト10の第7位の映画ということで、気になっていました。1957年にグレン・フォード主演で製作された「決断の3時10分」のリメイクだそうです。地元で公開される予定がなかったので、今回、東京に観劇に行ったついでに観てきました。上映館は新宿ピカデリー。懐かしいです。この映画館に入ったのは大学生の頃以来です。大好きな「天国から来たチャンピオン」を観たのもここでした。当時と違って今では10のスクリーンを持つ大きなシネコンになっていましたけど。
 内容は、最近では珍しい西部劇です。昔は「荒野の七人」とか「荒野の用心棒」とか好きだったんですけど、このところ観なくなりました。というより、西部劇映画自体の公開がなくなりましたね。この作品も2007年制作で2009年公開ですから、公開にも紆余曲折があったのでしょうか。
 主演は「バットマン」のクリスチャン・ベイルと「グラディエーター」等のラッセル・クロウですから、ちょっと異色の組み合わせです。
 クリスチャン・ベイルが演じるのは、南北戦争で片足を失った貧しい牧場主のダン・エヴァンス。ラッセル・クロウが演じるのは駅強盗団のボス、ベン・ウエイド。ダンは、牧場経営がうまくいかず、数日後には借金のかたに土地を取られることになっています。貸主から嫌がらせを受けても、たまたまベンの強盗の場面に出くわしても何もできないダンを、長男は歯がゆい思いでみています。
 ダンは謝礼を目当てに、逮捕されたベンをユマ行き3時10分発の列車に乗せるための護送の役目を引き受けます。護送されていく中で、しだいにダンの苦悩を理解していくことになるベン。ベンの部下たちに取り囲まれたホテルの一室で、ダンが護衛を買って出た本当の理由を語るシーンは、同じ父親としてグッときてしまいます。この物語は、ベンとダンの男たちの物語であるだけでなく、ベンとその息子の親子の物語です。
 ラッセル・クロウが本当にいいですよ。スケッチが趣味で、ミスをして味方を窮地に陥れた部下は容赦はしないという非情な男。そんな男がラストで見せる行動は、あまりに格好良すぎです。悪役でしたが、単純な悪役というわけではありませんでした(それにしても、部下はかわいそすぎです。)。日本人好みのラストです。思わず、ジーンときます。おすすめです。
 ピーター・フォンダが、ビンカートン探偵社の賞金稼ぎということで、久しぶりに出演しています。さすがに歳を取りましたね。エンドロールで名前に気づかなければわからないところでした。
サブウェイ123 激突(21.9.4)
監督  トニー・スコット
出演  デンゼル・ワシントン  ジョン・トラボルタ  ジョン・タトゥーロ  ルイス・ガスマン
 1974年に製作された「サブウェイ・パニック」のリメイクです。
 地下鉄がジョン・トラボルタが演じるライダーらによってジャックされ、人質となった乗客の身代金として1000万ドルが市に要求されます。猶予は1時間。その際、運転指令室で指示を送っていた地下鉄職員がデンゼル・ワシントンが演じるウォルター・ガーバー。彼は人質解放に向けてライダーとねばり強く交渉をします。
 ジョン・トラボルトとデンゼル・ワシントンが犯人と交渉の相手となる地下鉄職員として対峙するのですから、丁々発止のやりとりがなされるかとも思ったのですが、その点では期待はずれ。二人の会話のやりとりのおもしろさは感じられませんでした。どちらかというと、ハイ・テンションで容赦なく人を撃ち殺すジョン・トラボルタにデンゼル・ワシントンが押され気味でしたね。ラストの二人の対決もそれほどでもなし。
 まあ高ポイントといえるのは、上映時間がちょうどいい時間だったこと。ライダーが身代金準備までに猶予した時間が1時間だったので、実際の時間どおりに映画の中の時間も流れていたという感じですね。ウォルターが収賄の疑いを持たれているなど彼らの個人的事情も出てきますが、それほど深く掘り下げられて彼らの人となりが描かれているわけでもないので、この程度の時間で十分だったのでしょう。
20世紀少年ー最終章ーぼくらの旗(21.9.4)
監督  堤幸彦
出演  唐沢寿明  豊川悦司  常盤貴子  香川照之  平愛梨  藤木直人  石塚英彦  宮迫博之
     佐々木蔵之介  山寺宏一  古田新太  佐野史郎  石橋蓮司  中村嘉葎雄  黒木瞳
     研ナオコ  高嶋政伸  田村淳  北村総一朗
 「20世紀少年」3部作の最終作です。いよいよ待ちに待ったラストです。原作とは異なるラストとされ、試写会でも最後の10分間は上映されなかったそうです。かなり興味を煽っていたので期待して観に行ってきました。
 風呂敷を広げすぎてしまったせいか、「えっ?彼がともだちの正体なの?」と唖然としてしまった原作に比べて、こちらの“ともだち"の正体の方が納得がいきました。最後の10分間もわかりやすかったですね。
 第1作の同窓会のシーンに大きなヒントがあると聞いていたので、自分なりに“ともだち"の正体を予想していたのですが、残念ながらはずれ。いいとこに気づいたと思ったのですが。
 原作に割と忠実だった第1作と比べ、第2作、第3作としだいにアレンジされている部分が大き<なってきました。万丈目は川越関所になんて流されていないしね(原作での万丈目の僕たちの町での最後は良かったんですけどねえ。撃たれて最後は同じだとしても。)。
 また、あの膨大なストーリーをこの3部作の中に凝縮したのですから、原作からはしょった部分も多くなっています。原作を読んでいる人にとっては、ちょっと物足りなさを感じるところもあったかもしれません。まあ上映時間という時間的制約があるのですからやむを得ないところです。
 原っぱの秘密基地なんて、今の小学生には想像できないでしょうね。今は原っぱもなくなってしまったし、小学生も放課後となれば友だちが集まって遊ぶより、塾に通うことが多くなってきたでしょうから。ケンジたちの小学生時代は、まさしく僕らの小学生時代でした。映画を観ながら、ふとあの頃を思い出したりしながら観ていました。楽しませてもらった3部作でした。
 今回もちょい役でいろいろな俳優さんが登場しています。ロンドンブーツの田村淳さんが出ているのにはビックリしたけど、それより高嶋政伸さんが顔を出していたのにはもっとびっくりです。猟師役で遠藤賢司(エンドウケンジ)さんが出ていたのは、お遊びですか?それにしても、前作でも言いましたが、小泉響子役の木南晴夏さん、本当に原作の雰囲気にピッタリです。
ディア・ドクター(21.9.13)
監督  西川美和
出演  笑福亭鶴瓶  瑛太  余貴美子  香川照之  八千草薫  松重豊  岩松了  笹野高史  井川遥  
(ネタバレあり)
 第141回直木賞候補作となった西川美和監督自身の短編集「きのうの神様」に収録された「ディア・ドクター」のアナザーストーリーともいうべき作品です。映画は僻村の診療所の勤務医の伊野が突然失踪したことから始まります。嫌気が差したのだろうと考える警察でしたが、捜査を進めるうちに実は彼は偽医者だったということがわかります。どうして伊野が偽医者になったのか。この映画では詳しく語られていませんが、小説の「ディア・ドクター」では、その当たりのことが描かれています。映画を観た人はこちらも目を通した方が彼の心情が理解できるのではないでしょうか。映画と小説でセットで伊野の姿が浮き上がってくるという感じです。
 あれほどまでに伊野を慕っていた村人たちが、伊野が偽医者と判明したあとの反応、そして伊野の仕事ぶりに憧れて研修後に診療所に戻ってこようと決意していた瑛太演じる研修医の相馬の反応はあまりに悲しすぎます。
 人口1500人の僻地の村で頼りにされている医者の伊野を実福亭鶴瓶さんが演じます。あの憎めない表情が村
人に安心感を与える医者役にビッタリです。相馬に対して、ふと真情を吐露し、自分は偽物だと言ったときの切ない表情がまたいいですよ。この映画の成功は、鶴瓶さんを主役に据えたことが大きな理由ではないかなあと思います。 伊野を支える看護師役を演じたのは余貴美子さん。刑事たちから伊野が偽医者だということを聞いたときの表情が何とも言えずよかったですね。
 ラストシーンも素敵でした。おすすめです。
ウルヴァリン X−MEN ZERO(21.9.19)
監督  ギャヴィン・フッド
出演  ヒュー・ジャックマン  リーヴ・シュレイバー  ダニー・ヒューストン  ウィル・アイ・アム  ライアン・レイノルズ
     リン・コリンズ  ケヴィン・デュランド  ドミニク・モナハン  テイラー・キッチュ  ダニエル・ヘニー
 「Xメン」シリーズのメイン・キャラクターであるウルヴァリンを主人公にしたいわゆるスピン・オフ作品です。
 物語は、シリーズより以前の話です。ウルヴァリンとなるローガンの生い立ちから始まります。それにしても、ミュータントってあんなに長生きするんだとびっくりです(ただ、子どもから大人にはなるのに、それ以降は全然成長しないというのはおかしくないですかねえ。)
 南北戦争、第一次・第二次世界大戦、ベトナム戦争とローガンはミュータントである兄ビクターとともに時代を生き抜きます。人を殺すことに喜びを感じる兄に反発し、平穏な生活を望んだローガンは、ストライカーが指揮するミュータントで編成された特殊部隊から離れ、カナダで彼を愛する女性と生活します。しかし、ある日、愛する女性がビクターによって殺され、彼も瀕
死の重傷を負います。ストライカーによって超金属アダマンチウムを身体に注入され、ローガンは、ウルヴァリンとして生まれ変わります。
 なかなかうまく作ってありますよ。シリーズ第2作に登場したストライカーとウルヴァリンとの関係も、うまくシリーズと矛盾がないように作られています。目から光線を放出する若き頃のサイクロップスことスコットも登場しますが、ウルヴァリンと
の遭遇がないようになっています。また、シリーズに登場したミュータントの幼い頃らしい者たちもちらっと顔を出していて、シリーズのファンにとっては嬉しいでしょうね。スピン・オフ作品ですが、シリーズ作品以上におもしろく作られています。ジョニー・デップに似たテイラー・キッチュ演じるガンビットのキャラは、この作品だけではもったいないくらいです。
私の中のあなた(21.10.9)
監督  ニック・カサヴェテス
出演  キャメロン・ディアス  アビゲイル・ブレスリン  アレック・ボールドウィン  ジェイソン・パトリック
     ソフィア・ヴァジリーヴァ  ヘザー・ウォールクィスト  ジョーン・キューザック  トーマス・デッカー
 なんていう邦題なんでしょうか。これから想像できるのは、二重人格の話かよくて死んだ恋人を想い続ける人の話です。これでは配給会社のセンスを疑います。
 あまりの邦題のひどさに、つい題名のことから入ってしまいましたが、ストーリーは、白血病の姉のドナーとして生まれてきたアナが、弁護士に依頼してもう姉のドナーにはならないと両親を訴える話です。協力し合って病気に立ち向かってきた家族にいったい何があったのか・・・・
 病気というテーマだと、日本映画ではどうも単なるお涙ちょうだい映画になってしまって、観るのが辛くなるのですが、この映画はそれだけにとどまらず、多くのことを考えさせてくれます。ドナーとして生まれてきたことを知りながら、いつも姉のことを想うアナ、常に前向きに娘の介護に献身するサラ、アナを傷つけ、失語症の弟や父から母を奪ったことを知りすぎるほど知っているケイト、そんな家族をやさしく包み込む父のブライアン。それぞれが家族のことを想いながら最後のときへ向かっていきます。本当に素敵過ぎる家族です。ラスト近くでアナの行動の理由がわかったときは、目頭が熱くなってしまいました(歳を取って涙腺が緩くなってしまって困ります。)。
 弁護士を辞め、娘の介護に懸命になる母親・サラを演じているのはキャメロン・ディアス。コメディエンヌとの印象が強い彼女が、薬の副作用で髪の毛がなくなった娘を励ますシーンで、自らも頭を丸めるなど体当たりの演技です。
 両親を訴えるアナ役を演じるのは「リトル・ミス・サンシャイン」のアビゲイル・ブレスリンです。「リトル〜」のときはお腹がぽこっと出た幼児体型のまだまだ少女でしたが、いくらか成長しましたね。「リトル〜」でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされただけあって、若いといっても演技は折り紙つき。今回もキャメロン・ディアスを相手に堂々と渡り合っていたという感じです。
 アナが雇う弁護士を演じるのはアレック・ボールドウィンです。この人、若い頃の「レッド・オクトーバーを追え」などのときは二枚目俳優だという印象があったのですが、すっかり太って中年おじさんそのもの。でも、うまく二枚目キャラから転向できたのではないでしょうか。
さまよう刃(21.10.10)
監督  益子昌一
出演  寺尾聰  伊東四朗  竹之内豊  長谷川初範  木下ほうか  池内万作  中村有志  山谷初男
     酒井美紀  岡田亮輔  佐藤貴広  黒田耕平
 東野圭吾さんの同名小説の映画化です。2時間という上映時間でしたので、小説よりかなりかけ足になってしまったのはやむを得ないところです。しかし、小説のテーマは映画でも十分描かれています。テーマは非常に重いです。少年犯罪の問題、そして犯罪被害者(その家族)感情の問題と、簡単に語ることができない問題が描かれています。
 残虐化する少年犯罪に対し、"少年法"によって身を守られる加害者に対し、犯罪被害者としては納得できない思いを抱えることもある現実は、近年大きな社会問題となっています。長峰の気持ちはよくわかります。ここに描かれる犯人達の残虐性といったら、あまりに非人間的で、彼らを少年法で守るべき人間とは思えません。長峰と同じように娘がいる立場として、娘が同じような犯罪の被害者になることがあったら、やはり心の中では復讐を考えるでしょう。でも実際は、普通の人にそんなに簡単に人を殺すなんてことができるわけがありません。いろいろな葛藤があるでしょうし、いざ犯人に対峙しても、手を下せるかどうかはわかりません。そんな普通の人が復讐ということを考えることのないように、国家がその代わりに犯罪者を罰しなければならないのです。そうでなくては、世間はリンチが許される世界となってしまいます。そのためにも少年法に限りませんが、犯罪を犯した限りは、法によって、それに対応する罰は与えられなくてはならないと思います。相手が死刑になっても被害者家族の感情は鎮まることはないのでしょうが、それでも、できる限り同様の罰は与えることが必要なのではないでしょうか。
 現在の裁判では人を1人殺しただけでは死刑にはならないといわれています。でも、故意に他人の人生を奪った人には、それと同様の罰が与えられても仕方がないと思うのです。犯罪の再犯率が高い現状では、教育的な刑罰には期待はできません。
 ただ、竹之内豊演じる刑事が、長峰に対し情を寄せますが、やはり警察官である限り、法を最優先にしなくてはなりません。そうでなくては法治国家など成り立たなくなってしまいます。その点、長峰の気持ちを十分わかりながらも警察官として行動した伊東四朗さんが演じた真野刑事の方が苦しんだであろうと思います。
 主人公・長峰を演じたのは寺尾聰さんです。「半落ち」でもそうでしたが、あまり感情を表に出さずに心の中で苦しむ男を演じさせるとうまいですね。ただ、つい、僕であったらと自分を長峰に置き換えて考えてしまうのですが、あんなに冷静に事を運んで行くことはできないでしょうね。娘を殺されたという怒りに、感情をそこらじゅうにぶちまけてしまいそうです。そのところだけは、長峰に自分を写すことはできませんでした。
カイジ人生逆転ゲーム(21.10.12)
監督  佐藤東弥
出演  藤原竜也  天海祐希  香川照之  松尾スズキ  山本太郎  松山ケンイチ  佐藤慶  光石研
     もたいまさこ  吉高由里子  
 読んだことはないのですが、最近多いこれまたマンガが原作の映画化です。
 主人公のカイジを演じた藤原竜也さんは、いつも知的な落ち着いた役柄のイメージが強いのですが、今回は、泣き叫び、自分の生き方にくどくど言い訳ばかりするかっこ悪いフリーター・カイジを演じます。それに比べ、相変わらず天海祐希さんはかっこいいですねえ。気の強い女性役がぴったりです。カイジを罵倒するところなど、様になっています。僕だってビビってしまいますよ。
 利根川を演じた香川照之さんは、8月には主役を演じた舞台を見てきましたが、やっぱりうまいですねえ。どんな役でも演じることができる役者さんですが、今回は悪役。「限定じゃんけん」で参加者を一喝するシーンは迫力満点でしたし、ラストの「Eカード」で利根川がああだこうだと心の中で悩むシーンは圧巻です。藤原くんはすっかり香川さんに喰われてしまいましたね。
 特別出演していた一人に、「DEATH NOTE」で藤原くんと敵対する“エル”の役を演じた松山ケンイチがいました。鉄骨渡りのシーンだけの出演ですが、ちょっと中途半端。
 ゲームが豪華客船の中で繰り広げられるかと思ったら、それは最初の「限定じゃんけん」だけ。ゲームで負けたカイジは一転、地下のシェルター建設現場の強制労働へ。ありえないなあと思っても、そこはマンガが原作なので深く考えない方がいいです。その次には高層ビルに渡された鉄骨を渡る「鉄骨渡り」ですからねえ。つい、鉄骨から落ちたら下では大騒ぎになるのだろうなあとか考えてしまうのですが、そんな余計なこと考えていては楽しめません。鉄骨渡りのはらはらドキドキ感を単純に味わった方がいいですよね。あくまでマンガの世界の話なんですから。それにしても、“ゲーム”ということだから、知能を駆使して難問を乗り越えていくのだとばかり思っていましたが、「鉄骨渡り」は度胸とバランス感覚の問題ですからねえ、ちょっと期待外れです。
 ラストの展開はすっきりです。あれでカイジが大金持ちになっていたら、みんな怒りますよ。
きみがぼくを見つけた日(21.10.24)
監督  ロベルト・シュベンケ
出演  エリック・バナ  レイチェル・マクアダムス  アーリス・ハワード  ロン・リビングストン
     スティーブン・トボロウスキー  ジェーン・マクリーン  ブルックリン・ブルー
 大好きなタイム・トラベルものです。タイム・トラベルの能力を持った男性・ヘンリーと、幼い頃から、しばしば自分の元にタイム・トラベルして訪れるヘンリーに恋をした女性・クレアとのベタなラブ・ストーリーです。
 タイム・トラベル能力があるといっても、自分でタイム・トラベルする"とき"も"行く先"も制御できないのですから大変です。そのうえ、彼自身と一緒に衣服はタイム・トラベルできないので、タイム・トラベル先に出現するときには、真っ裸のまま。したがって、タイム・トラベル先の時代でまず行うことは、衣服を確保すること。裸でタイム・トラベルといえば、思い浮かぶのは「ターミネーター」ですが、あちらはマシンですから寒さも感じませんが、こちらは人間ですから真冬の屋外に出現したら大変です。動物園の檻の中に出現したシーンには笑ってしまいましたね。
 ヘンリーが、なぜタイム・トラベルができるのかは、映画の中ではタイム・トラベルの能力がある遺伝子を持っているからという説明があるだけで、それ以上のことは述べられません。また、なぜ、彼女のもとに何度もタイム・トラベルしてくるのかの説明もありません。交通事故で亡くなった母親の元にたびたびタイム・トラベルするのは、なんとなく理解できるのですが(心で強く想っている人のところにタイム・トラベルするということなのでしょう。)、彼女を想うようになるのは、何度も彼女の元にタイム・トラベルしたからでしょう。あまり考えると、卵が先か鶏が先かという話になってしまいそうです。
 それにしても、彼女が妊娠をするときの荒業には唖然としてしまいますねえ。そうきたかあ、タイム・トラベルをうまく使っていますね。やっぱり女性の方が男より一枚上手です。
 ヘンリーを演じたエリック・バナやクレアを演じたレイチェル・マクアダムスよりも印象的だったのは、クレアの子どもの頃を演じた子役とヘンリーとクレアの子ども・アルバを演じた子役の二人の女の子です。大人に負けない演技力ですね。ヘンリーを見つけたアルバの笑顔の素晴らしさといったら、最高の笑顔でした。
 エンド・ロールの中にブラッド・ピットの名前があるのに気付きました。パンフレットで確認すると、製作総指揮になっていました。 
ホースメン(21.10.30)
監督  ジョナス・アカーランド
出演  デニス・クエイド  チャン・ツィイー  ルー・テイラー・プッチ  クリフトン・コリンズJr.  チェルシー・ロス
チャン・ツィイーが猟奇殺人犯を演じるという宣伝にひかれて、千葉に出張の帰りに渋谷に寄って観てきました。金曜日の夜の渋谷ですから、ものすごい人波。映画館は大丈夫だろうかと思ったら、なんと入場者は7人だけ。え!東京でこれだけ、この映画大丈夫かなあと心配になってしまいました。
 チャン・ツィイーを前面に押し出しての宣伝でしたが、実際の主役はデニス・クエイド演じる刑事・エイダンです。妻が亡くなるときにも捜査に出ている仕事人間のため、息子たちとの間がうまくいっていない父親を演じます。そんな彼が担当する事件がヨハネの黙示録に基づいて起きる連続猟奇殺人事件。やがて、第一の犠牲者の養女クリスティンが自ら養母を殺したことを告白します。
 クリスティンを演じたのがチャン・ツィイー。「グリーン・ディスティニー」や「HERO」のときのような凛々しさとは異なって、怪しげな妖艶な表情を見せます。"映画史上最も美しい殺人鬼"というのは、さすがに大げさかなという気がしますが、魔性の女という感じは十分出しています。確かにチャン・ツィイーとしては新境地でしょうね。ただ、エイダンとクリスティンとの二人だけの戦いではないので、チャン・ツィイーとしてはちょっと中途半端だった気もします。もうちょっと最後まで関わり合ってほしかったですね。
 ミステリの要素もあったのですが、残念ながら、ストーリーは序盤でだいたいわかってしまいました。ラストも衝撃には程遠かったです。
風が強く吹いている(21.10.31)
監督  大森寿美男
出演  小出恵介  林遣都  中村優一  川村陽介  橋本淳  森廉  内野謙太  ダンテ・カーヴァー
     斉藤慶太  斉藤祥太  水沢エレナ  津川雅彦  五十嵐隼士  渡辺大
     和久井映見  高橋ひとみ  近藤芳正  寺脇康文  鈴木京香
 高校時代に天才ランナーと言われながら、心ない言葉を吐いたコーチに殴りかかったことから陸上から遠ざかることになった蔵原カケル。彼は、入学した大学で野宿をしていたところを清瀬ハイジに声をかけられ、竹青荘というアパートに住むことになります。カケルが住むことで10人になった中で、ハイジは住人たちに宣言します。この10人で箱根駅伝を目指すと。
 三浦しをんさん原作の同名小説の映画化です。駅伝好きで、正月の箱根駅伝も地元の大学の活躍を期待して毎年テレビの前で一日を過ごしている僕にとっては、この映画、観に行かないわけにはいきません。原作を読んだ時も、彼ら10人が箱根を目指す姿にわくわくドキドキしたのですが、この映画も最初から涙が滲んで仕方ありませんでした。
 500ページの作品を2時間の映画にまとめるのですから、原作で描かれる彼ら10人の気持ちが十分描き切れていないところはしょうがないでしょう。でも、それでも感動ですよ(中年男は涙もろい!)。
 陸上経験のあるのは3人だけ、そのほかはかつてスポーツをやった経験があるだけ。そんな彼らが箱根駅伝まで1年弱で、箱根駅伝に出場してしまうのですから、実際に箱根を目指して頑張っている大学生からすれば、絵空事でしょう。そんな甘いものではないと怒られるかもしれません。それに、根性、根性で血を吐くまで練習ということでもないですし、彼らからすれば、笑ってしまうかもしれませんね。突っ込みどころ満載ですが、あまり細かいことは言わずに楽しみましょう。夢物語のようなストーリーですが、みんながお互いを信じあいながら一つの目的のために頑張る姿には感動しないわけにはいきません。最近の青年には珍しいほど爽やかなハイジと、そんなハイジのためならばと立ち上がる仲間たちもまた爽やか過ぎます。いいですよぉ。
カケルを演じたのは、林遣都くん。彼の走り方は綺麗でしたねえ。見ていても本当に走るフォームがきれいで、あれでは実際にも速いのではないかと思ってしまう走りでした。何でも、どこかのコーチから誘われたという噂も・・・。
 ハイジを演じたのは小出恵介くん。ハイジ役にぴったりの爽やかさでした。そのほか、双子の斉藤慶太、祥太の兄弟やソフトバンクのCMで一躍有名になったダンテ・カーヴァーも出演しています。
スペル(21.11.6)
監督  サム・ライミ
出演  アリソン・ローマン  ジャスティン・ロング  ローナ・レイヴァー  ディリーブ・ラオ  デヴィッド・ベイマー
     アドリアナ・バラッザ
 銀行の融資係のクリスティンは空席となっている次長職への昇進のため、支店長から認められようとして、ローンの返済延期を求めてきた老婆の依頼を断ってしまう。その日の帰り、彼女は駐車場で老婆に襲われ、ある呪いをかけられる。
 サム・ライミ監督作品です。サム・ライミといえば最近は「スパイダーマン」の監督として有名ですが、僕としてはやはり「死霊のはらわた」等のホラー作品の監督と言った方が馴染みがあります。今回は昔通りの正統派のホラー作品となっています。
 大音響や、老婆の恐ろしい顔が突然目の前に現れるという観客の驚かせ方はホラー作品の常套手段で、何ら新しいものがあるわけではありません。それよりこの作品が怖いのは、何といってもローナ・レイヴァーという女優さんがが演じている老婆ですよねえ。車の中での乱闘でホチキスで目蓋を閉じられても、スケールを喉に刺されても怯むことなく襲いかかってくるところは怖いの何のって。目を大きく開けていられずに、薄目で観ていました。恐怖の老婆ナンバー1ではないでしょうか。
 結局、悪魔払いのおばさんに依頼することになるのですが、このおばさん、悪霊ラミアと戦うことが念願だったと言いながら、1万ドルも費用を取るとはふっかけすぎ。そのうえ、あまりにあっけなさすぎる戦いです。とにかく、この悪魔払いの部分は、取って付けたような感じで、あってもなくてもよかったですね。
 主人公を演じたアリソン・ローマンも、それほど花がある女優さんでもなく、あのお婆さんのキャラで売るしかない映画です。
ソウ6(21.11.7)
監督  ケヴィン・グルタート
出演  トビン・ベル  コスタス・マンディラー  ベッツィ・ラッセル  マーク・ロルストン  ピーター・アウターブリッジ
     ショウニー・スミス
 ソウシリーズ第6弾になります。ソリッド・シチュエーションという言葉が一般に流布されるきっかけとなった第1作には衝撃を受けましたが、シリーズは次第に人の殺し方を競うような作品になってきた感があります。いかに残酷に殺すのか、そのための大がかりな器具を見せつけるような作品が続いています。
 そのため、R−15指定ですし、観る人を選ぶ映画ですよね。観に行ったときは女性はほとんどいませんでした。怖い映画というよりグロい映画ですから女性の皆さんには厳しいものがあります。
 シリーズ第1作には驚愕のラストがありましたが、今回はだいたいラストは想像がついてしまいました。続編ありますよという終わり方はいつもどおり。ひとつ意外性があったのは、ある人物の設定(ネタバレになるので詳細は言えませんが)を観客が思っていたのと180度ひっくり返したところです。ミステリ小説でいえば叙述トリックみたいなものですね。
 それにしても、毎回感心するのは、よくもまあうまく話を繋げるものだということ。「なぜ、この人が?」という思わぬ人を再登場させたりして話を紡いでいったり、とっくに死亡したジグゾウを、いまだにストーリーの中心人物として登場させているところはうまいですね。
 さて、今回も、まだジグソウが考えたとおりに話が進んでいくのですが、次回はどうなるのでしょう。中心となるのはもちろん、あの人でしょうけど、まだまだラストであんな目にあった方も舞台から立ち去ってはいないようですよ。毎回見終わったときには、もうこれで観るのは終わりと思うのですが、ついつい公開されると観に行ってしまいます。何も得るものなどない映画なのにね。
なくもんか(21.11.14)
監督  水田伸生
出演  阿部サダヲ  瑛太  竹内結子  塚本高史  いしだあゆみ  陣内孝則  伊原剛志  皆川猿時
     片桐はいり  鈴木砂羽  カンニング竹山  光石研  高橋ジョージ  小倉一郎  藤村俊二
 「舞妓Haaaan!!!」の監督水田伸生、脚本宮藤官九郎、主演阿部サダヲらが再び集まって作った作品です。
 ストーリーは、両親の離婚で父親に引き取られ、その父親の失踪により、父親が働いていたハムカツ屋で生活することになった阿部サダヲ演じる下井草祐太を巡る"家族"の物語です。
 「舞妓〜」のハチャメチャぶりから、そのスタッフが結集した今回の作品はどうなるのかと思ったら、意外と正統派の下町人情物語という雰囲気でした。もちろん、脚本が宮藤官九郎さんですから、そこらへんのホームドラマとは違った笑いもありますが、「舞妓〜」に比べると、そのハチャメチャぶりがそれほどでもという印象です。これは、○○さんが言っているように、彼にとっての初めてのホームドラマということも影響したのでしょう。また、思うに共演が瑛太さんということも理由のひとつではないでしょうか。「舞妓〜」は、堤真一さんが共演でしたが、彼の場合は真面目な硬派な男から三枚目まで幅広く演じることができる役者さんであり、宮藤さんのバカさ加減が突き抜けたような脚本であっても、演じ切れてしまうんですよねえ。でも、瑛太さんのイメージではそこまではという気がします。
 阿部サダヲさんは、同じ大人計画の脚本家である宮藤さんの作品ですから、遠慮なくハチャメチャぶりを演じていましたね。しかし、今回は、「お人好し」、「八方美人」と言われる心の中に鬱積したものを抱える役柄でしたので、「舞妓〜」のように、ただ、エネルギッシュに演じればいいというわけにもいかなかったでしょう。でも、そのあたりも阿部さん、うまく演じていました。
 プチ整形疑惑のあった祐太の妻役を演じた竹内結子さんもいいですねえ。彼女はぴしっとした美人を演じるよりは、この作品や「チームバチスタの栄光」のときのような気怠げな女性を演じた方がピッタリきます。
 パンフレットにあったように、この作品は「"泣ける喜劇か"!?"笑える悲劇"か!?」という言葉がぴったりの楽しめる作品でした。ホームドラマという性格上、「舞妓〜」のような勢いはありませんでしたが。
イングロリアス・バスター(21.11.20)
監督  クエンティン・タランティーノ
出演  ブラッド・ピット  メラニー・ロラン  クリストフ・ヴァルツ  イーライ・ロス  ダイアン・クルーガー
     ミヒャエル・ファスベンダー  ダニエル・ブリューゲル  ティル・シュヴァイガー  マルティン・ヴトケ
     マイク・マイヤーズ  ジュリードレフュス  
 映画は、農作業をしている一人の男のもとにナチスのジープがやってくるところから始まります。農家に匿われたユダヤ人家族を捜索しにきたのです。マカロニウエスタンを彷彿させる音楽の中、マカロニウエスタン風なら、このあとは当然農夫が一人で隠していた拳銃を取り出し、ナチスを撃ち殺すという流れになるのかと思ったら、違いました。男は何もできず、ユダヤ・ハンターとあだ名されるナチのハンス・ランダ大佐とその部下は、ユダヤ人家族が隠れる床下に向けて銃を乱射します。一人、家から逃げ去るユダヤ娘のショシャナ。これは、てっきりショシャナの復讐劇になるのだろうと思ったのですが・・・。
 場面は一転、ドイツ軍を混乱させるためにドイツ軍が占領するフランスに"インゴリアス・バスターズ"と呼ばれるアルド・レイン中尉率いる部隊が投入されます。これは、親衛隊の大将ハインリッヒを暗殺するためにチェコに潜入した亡命チェコ軍兵士を描いた「暁の七人」(この映画、DVD化してほしい!)のような暗い映画になるかと思ったら、これまた裏切られます。びっくりですよ。アルド中尉は、殺したナチの頭の皮を剥げというのですから(実際に、剥ぐ場面もあります。)。悲劇的な映画になるかと思ったら、“頭の皮を剥ぐ”ですからねえ。誤解を恐れずに言うと、悲劇的というよりちょっとコミカルです。そのうえ、ユダヤの熊とあだ名される男が出てきてバット一振り頭をかち割ってしまうのですからねえ。唖然としてしまいます。これこそ、タランティーノの映画なんでしょうね。
 映画には二人のヒロインが登場します。一人は家族を殺され、復讐に燃えるショシャナ、もう一人はドイツ女優でありながら連合国のスパイを務めるブリジットです。当然、ヒロインとなれば、観客にもそれなりに思うところがあるのですが、タランティーノは、女優には優しくないです。観客はものの見事にその期待を裏切られます。
 アルド・レイン中尉を演じたのは、ブラッド・ピット。いつもの二枚目だけの俳優ではなく、シリアスな中にもコミカルな味を出していました。"バーン・アフター・リーディング"もそうでしたが、こういうブラビもいいですよ。
 二人のヒロインはメラニー・ロランとダイアン・クルーガー。ドイツ人そのもののダイアン・クルーガーより、フランス人のメラニー・ロランの方がタイプです(笑)
 とにかく、ストーリーだけでなく、ブラビの役柄にしても裏切られどおしの映画でした。でも、これがタランティーノの真骨頂なんでしょうね。おもしろい。おすすめです。
2012(21.11.20)
監督  ローランド・エメリッヒ
出演  ジョン・キューザック  キウェテル・イジョフォー  アマンダ・ピート  オリヴァー・プラット
     タンディ・ニュートン  ダニー・グローヴァー  ウディ・ハレルソン
 ローランド・エメリッヒ監督の描くディザスター映画です。知らなかったのですが、マヤ文明では2012年12月21日が"世界終末の日"と予言されているそうです。これは、その予言をもとにした映画です。
 地殻の異常な変動をいち早く察知したアメリカの地質学者エイドリアン・ヘルムズリーは、地球滅亡が近いことを知り政府に報告する。各国は秘密裏にチベットの奥地で滅亡に備えた脱出船の建造を始める。偶然に地球滅亡を知った売れない作家のジャクソン・カーティスは、別れた妻と二人の子、そして妻の恋人とともに街から脱出を開始する。
 地表が割れ、ビルが倒壊し、山々が噴火するなど、その様子を描くCGは目を見張ります。臨場感たっぷりで手に汗握るというのはこんなこと言うんだろうなあという感じです。危機一髪の場面では体に思わず力が入ってしまいました。
 ディザスター映画に観客が入るのは、こうした現実ではまず遭遇しないような災害を目の当たりにできるCGの凄さにもよりますが、それだけではなく、これが家族の絆を描く映画でもあるからです。同じエメリッヒ監督の「デイ・アフター・トゥモロー」では、雪に閉じこめられたニューヨークに息子を救出しに行く父親の姿を描いていましたが、この映画でも妻に引き取られた息子との関係がうまくいかない父親が、家族を守るために奮闘する姿を描いていますし、それだけでなく、アメリカ大統領父娘やヘルムズリーとその父との別れを感動的に描いています(アメリカ大統領の取った行動は、かっこよすぎです。)。やっぱり、そんな親子の姿を観てみんな感動するのでしょうね。特に僕たち父親とすれば、頼りないと思われていたジャクソンが危険を省みず家族のために頑張る姿に、自分を重ねてしまうんですよね。まあ、ビルが倒壊する中、鮮やかなハンドルさばきでリムジンを運転して街を抜け出していくところは、スーパーマン並ですけど。
 ジャクソンを演じたのは、ジョン・キューザックです。見た目、頼りなさそうな人物で、主人公にピッタリですね。
 158分と長い上映時間ですが、展開も早く、飽きることなく観ることができます。こうした映画ですから、やはりテレビ画面で観るより大きなスクリーンで観るのが一番です。
母なる証明(21.11.21)
監督  ポン・ジュノ
出演  キム・ヘジャ  ウォンビン  チン・グ  ユン・ジェムン  チョン・ミソン
 兵役、怪我で俳優業を休業していた人気俳優ウォンビンの5年ぶりの新作です。
 そんな韓流スターの作品ということもあってか、場内は年配の女性方が大部分でした("年配の"ということでは僕自身も"年配"ですが(笑))。
 僕自身は、ウォンビンよりも監督が「殺人の追憶」や「グエルムー韓江の怪物ー」のポン・ジュノということがこの映画を観ることにした大きな理由です。映画の雰囲気としてはやはり「殺人の追憶」の雰囲気を思い起こさせる映画でした。でも、意外にウォンビンも印象的な演技を見せてくれます。登場人物の一人がウォンビン扮するトジュンの目を"小鹿のよう"と評しますが、そんな目を持っても体は大人で女性にも興味を持つという難しい役柄を演じます。
 そんなウォンビン以上に存在感を示していたのが主演女優であり、トジュンの母を演じたキム・ヘジャです。冒頭の野原で踊るシーンから、すでに観客を映画の中に引き込んでいました(まあ、ここは監督の演出のうまいところでもあるのですが。あの年配のおばさんがなぜこんなところで踊り始めるんだと誰でも思うでしょうからね。)。
 女子高校生殺しの犯人として逮捕された息子の無罪を信じて奔走する母親の姿を描いた映画ですが、単に親バカな母親の映画と思うなかれです。息子を救いたいと真犯人捜しに突き進む母親の姿には圧倒されます。
 監督の演出もうまいですね。冒頭とラストに置かれた母親のダンスシーンもですが、実はこの事件の真相がわかるよう丁寧に伏線を張っています。しかしながら、観ているときにはなかなか気づきませんでした。
 真犯人はああだこうだと観客を弄びながら、ラストで監督が用意した真実には愕然とさせられました。これはおすすめです。
フォース・カインド(21.12.19)
監督  オラトゥンデ・オスンサンミ
出演  ミラ・ジョヴォヴィッチ  ウィル・パットン  イライアス・コーティーズ
 映画の舞台となったのはアラスカ州北部の町ノーム。この町では以前から多数の住民が行方不明となる事実があり、FBIの訪問回数も多いという町です。この映画は、そんな町を背景に、その町で多数発生した不眠症患者の治療に当たった心理学者アビゲイル・タイラー博士が現実に撮った映像とアビゲイル・タイラー博士をミラ・ジョヴォヴィッチが演じた再現映像を組み合わせて構成されたものです。
 テレビCMでは、かなりショッキングな感じだったので、大いに期待して観に行ったのですが。これが思っていたのとは大いに違って期待外れ。題名の"フォース・カインド"の意味ってああいうことだったんですね。知っている人からすれば、最初から話の流れはわかったのでしょうが・・・。知っていれば観に行かなかったなあ。途中で気づいて、「あ〜、そっちの話に進まないでくれ〜!!」と思いましたが、残念ながら話は嫌な方向へと。
 事件の真実は、僕としてはパンフレットの中に書かれていた法政大学心理学科の越智教授の考えが、そうじゃないかなあと思います。だいたい、肝心な部分になると、現実のビデオ映像が乱れて何が起こっているのかわからないなんて、パターンですよね。ただまあ、第三者の証言もあるし、映画の初めにミラ・ジョヴォビッチが出てきて言う「"フォース・カインド"に関する解釈は、あなた自身の判断にゆだねられます。」でもいいですけど。
アバター(21.12.25)
監督  ジェームズ・キャメロン
出演  サム・ワーシントン  ゾーイ・ソルダナ  シガニー・ウィーバー  スティーヴン・ラング  ミシェル・ロドリゲス
     ジョヴァンニ・リビシ  ジョエル・デヴィッド・ムーア  ラズ・アロンソ  CCH・パウンダー
 今年最後に観た映画です。ストーリーとしては自己の利益のため、先住民族をその居住地から追い出そうとする異民族との争いの中で、先住民族の中で生きることを決意し、彼らとともに戦う異民族の男を描いた作品です。ストーリー的にはよ<あるパターンです。もちろん、ストーリーとしては多くの人の共感を得るでしょうが、それより、この映画はその映像のすごさです。3D映像で上映している映画館もありますが、地元では残念ながら2Dのみの上映でした。しかし、2Dでも十分に素晴らしい映像でした。CGであることはわかっているのですが、その映像美には圧倒されます。CGとはいえ、舞台となる惑星パンドラの情景、そこに生きる動物や植物たち、そして先住民であるナヴィの造型は、創造力がなければ作り上げることができないものです。この映画を作り上げたジェームズ・キャメロンのチームの創造力はすごいです。バンドラの空に浮かぶ陸地は、まるで「天空の城ラピュタ」がいっぱいあるという感じでした。
 3時間近い長い上映時間でしたが、その長さをまった<感じることなく、最初から最後まで飽きることがありませんでした。この映画はDVD化されるのを待つことなく、映画館の大きなスクリーンで観なければなりません。3Dで観てみたいですね。
 主人公のジェイクを演じたのは「夕―ミネーター4」で、主役のクリスチャン・ベイルを喰ってしまう演技を見せて一躍スターとなったサム・ワーシントンです。短髪のときは精悍なイメージですが、今回、ちらっと見せて<れた長髪姿はソフトな感じのいい男でした。これでまた、人気が出そうです。相手役のナヴィの美しい娘・ネイティリを演じたのは、ゾーイ・サルダナです。ナヴィの娘役で、顔がCGで変えられていたので、素顔がわかりませんでしたが、最近では「スター・トレック」に出演していた女優さんでしたね。シガニー・ウィーバーも出演していますが、今回は、「エイリアン」のような戦う強い女ではなかったところがちょっと残念。