▲2008映画鑑賞の部屋へ

スウィーニー・トッド(20.1.20)
監督  ティム・バートン
出演  ジョニー・デップ  ヘレナ・ボナム=カーター  アラン・リックマン
     ティモシー・スポール  サシャ・バロン・コーエン  ジェイミー・キャンベル・バウアー
 スティーブン・ソンドハイムによるブロードウェイ・ミュージカルの映画化です。
 「パイレーツ・オブ・カリビアン」とはがらりとイメージを変えて、それ以前のジョニー・デップが戻ってきたという感じの映画です。「パイレーツ」でジョニー・デップのファンになった人から見れば、びっくりするでしょうね。監督がティム・バートンですから、暗い映画になるのは当たり前ですが、とにかくR−15になるだけの映画でした。
 ジョニー・デップはパンフレットを見るとバンドをやっていたということですが、ミュージカルはこれが初めて。歌は正直それほど上手だとは思えませんでしたけどね。そもそもミュージカルで歌を楽しむよりは、残酷シーンの方が衝撃的すぎて印象に残ってしまう映画でした。
 妻と生まれたばかりの娘の3人で幸せに暮らしていたフリート街の理髪師・ベンジャミン・バーカーは、妻の美しさに目を奪われた判事のターピンの策略によって無実の罪を着せられてしまう。10数年後にフリート街に戻ってきたバーカーは、名前をスウィーニー・ドットと変えて、ターピンへの復讐を誓う。
 妻と娘を奪った判事への復讐劇だったはずが、カミソリを使って人を殺すことへの欲求を抑えることができなくなってしまい、いつの間にか狂気の殺人鬼へ変わっていく男の話へと。喉をかき切ったときに血がドバァーと出るシーンは目を背けたくなる残酷さです。スプラッター映画も顔負けです。そのうえ、殺した人間の死体を使って、ミートパイを作るというグロテスクな話へとなっていきます。人肉ミートパイとは悪趣味すぎて、ジョニー・デップや有名俳優たちが出演していなかったら、単なるB級映画になってしまいそうな話ですね。
 人肉ミートパイを作るミセス・ラベットを演じたのは、ヘレナ・ボナム・カーター。この人、ティム・バートンの奥さんです。「猿の惑星」「ビック・フィッシュ」「チャーリーとチョコレート工場」と、ティム・バートン監督作品には欠かせない女優さんです。毎回メーキャップがすごくて、素顔で演じているところを見たことないなあという印象です。
 敵役のターピン判事を演じたのはアラン・リックマン。歌うシーンはあまりありませんでしたが、低音でなかなかの歌いっぷりでした。
 映画はR−15の制限。「パイレーツ〜」ですっかりジョニー・デップのファンになった娘が15歳になっているので大丈夫だろうと連れて行ったら、15歳でも中学生は駄目とのこと。でも、この残酷さでは見せなくてよかったですね。特にラストシーンは子どもを持つ親としてはちょっと見せられない衝撃的なシーンでした。しかし、これこそティム・バートンとジョニー・デップのコンビの真骨頂ですね。こういう暗い映画がジョニー・デップにはお似合いです。

 パンフレットの中に登場人物とそれを演じる俳優さんの名前があるのですが、ある登場人物の写真は載せていないのに、演じる俳優さんの名前が出てしまっていて、これではラストのシーンが驚きになりませんでしたよ。これは制作会社のミスですね。くれぐれもパンフレットは映画を見る前に見ないように。
陰日向に咲く(20.1.26)
監督  平川雄一朗
出演  岡田准一  宮崎あおい  伊藤淳史  緒川たまき  平山あや  塚本高史
     西田敏行  三浦友和  本田博太郎  北見敏之  根岸季衣
 お笑い芸人、俳優と多彩な活躍を見せる劇団ひとりの作家デビュー作である同名小説の映画化です。
 最近テレビの「SP」でも注目を浴びている“V6”の岡田准一くん演じる借金まみれの青年シンヤの話を中心に、9人の男女の人生が描かれていきます。
 シンヤのほかには亡くなった母親が若い頃漫才コンビを組んでいた相方を捜す寿子、ホームレスの生活に憧れる中年サラリーマンのリュウタロウ、売れないアイドル歌手を声援するアイドルオタクのゆうすけなどのそれぞれのエピソードが語られるのですが、それが何らかの形で結びついていくところがラストの感動へと繋がっていきます。このあたり、へそ曲がりとしては、この広い世の中でそんな簡単に人の繋がりがあるわけないと思ってしまうのですが、これがこの映画の映画たるところです。現実ではちょっと考えられないなと思う世界を2時間堪能することも必要ですよね。
 「SP」では、カッコイイ姿を見せている岡田くんが、パチンコにはまって借金まみれの冴えない男を演じるのもおもしろいです。でも、最後はやっぱりカッコイイですけどね。リュウタロウを演じるのは三浦友和さん。三浦さんのような堅い印象の俳優さんが、鏡を見ながらホームレスの扮装が似合うかどうか奮闘している姿は意外にお似合いです。リュウタロウが憧れるホームレスのモーゼを演じるのは西田敏行さん。かなりアドリブも入った演技のようですが、大ボラ吹きのホームレスの演技が見事です。西田さんのようなベテランが脇を固めると違いますよねえ。
 それぞれのエピソードが関連のある中で、独立した話といっていいゆうすけのエピソードも良かったですね。単なるオタクが崖っぷちアイドルを声援する話かと思ったら、その底にはそんな彼の思い(ネタバレになるので伏せます)があったなんて。いいぞ!ゆうすけと言いたくなってしまいました。
 原作は未読ですが、今度読んでみたいと思わせる映画でした。
結婚しようよ(20.2.9)
監督  佐々部清
出演  三宅裕司  真野響子  藤澤恵麻  AYAKO  金井勇太  岩城滉一
     松方弘樹  入江若葉  モト冬樹
 三宅裕司演じる主人公香取卓は不動産会社に勤めるサラリーマン。そんな香取家では、夕ご飯は家族揃って食べるというのがルール。卓は、仕事が終わると真っ直ぐに自宅に帰ってきて家族と食卓を囲む。妻や娘もそれが当たり前のように、夕ご飯前には帰ってきていたが、長女に交際相手ができたり、次女がやっているバンドがライブハウスのオーデションに受かったことから、その習慣に翳りが見え始める・・・。
 吉田拓郎の数々の名曲をバックに父と娘、夫と妻、そして家族を描いた映画です。悪人がまったく出てこない、昔懐かしい松竹映画というテイストの作品です。
 吉田拓郎といえば、言わずとしれたフォークの神様であり、団塊の世代にとっては誰もが夢中になった歌手といっていいのではないでしょうか。僕自身はもう少し後の世代ですが、大学時代にはLPレコードを買ってよく聞いたものでした。パンフレットの裏面に、R−45?と表記されていましたが、当を得ているかもしれませんね。
 それにしても、今時、夕飯を家族で食べる家ってどれだけあるのでしょうか。夫は仕事で遅くなり、子どもたちは夜遅くまで塾に通うなんていう時代に、毎日夕飯を一緒に食べるというのは奇跡的なことですよね。そういう僕も土日はともかく、平日はほとんど家族と夕飯を食べるということはありません。残業(それもサービス残業)がどうしてもありますから(泣)
 夕ご飯のことはともかく、子どもたちが成長していくうちに、しだいに親の元から離れていくのは、当然のことといえど、やっぱり寂しいですね。そういう点では、二人の娘が自分のコントロールできないところへと行ってしまうのは、男親としては悲しいというのは理解できます。特に長女の詩織のように男に持って行かれてしまうのは・・・。卓と同じように娘を持つ親としては見ていて身に染みます。
 全編を通して流れる吉田拓郎の歌が、またいいんです。駅前でストリートバンドが歌っていた「落陽」を卓が一緒に口ずさむシーンがありましたが、私も思わず小さな声で歌ってしまいました(なにせ、館内には5人しかいないし、小さな声では聞こえないだろうと思ったので(^^;)。
 子どもが旅立っていけば残るのは夫婦だけ。この映画では、卓と真野響子演じる妻の幸子の夫婦がとてもいい感じです。あんな夫婦になりたいですね。
 二女を演じた女の子が、歌が上手いなあと感心したのですが、パンフレットを見たら、なんと二女たちのバンドは「中ノ森BAND」という本当の歌手だったんですね。どおりで上手なはず。それにしてもおじさんは知らない歌手でした(笑)
 団塊の世代だけでなく、吉田拓郎ファンはもちろんのこと、吉田拓郎を知らなくても、誰でも楽しむことができる映画です。おすすめ。
チーム・バチスタの栄光(20.2.10)
監督  中村義博
出演  竹内結子  阿部寛  吉川晃司  井川遥  田口浩正  池内博之  玉山鉄二
     田中直樹  佐野史郎  國村隼  野際陽子  平泉成  ベンガル  野波麻帆
 このミス大賞を受賞した海堂尊さんの同名小説の映画化です。大学病院を舞台にした医学ミステリーなんですが、白い巨塔の中での重厚なミステリーかと思えば、これがちょっと違います。主人公とともに術死の真相を探る厚生労働省技官・白鳥のあまりに強烈な個性によって、一つ間違えばいわゆるバカミスになりかねないおもしろさと、ミステリーとしての謎のおもしろさがうまく均衡を取り合っている作品です。
 映画化に際し、一番興味があったのは、誰が白鳥を演じるかということでした。やっぱりというか、このところ三枚目役がすっかり板に付いてしまった阿部寛さんでしたね。厚生労働省のキャリアという優秀な頭脳を持ちながら、とんでもない思考をする変わり者という白鳥の役にピッタリでした。劇場内も阿部さん演じる白鳥の言動に観客から大きな笑いが起こっていました。この映画の成功するか否かは、白鳥に誰を配役するかにかかっていると思いましたが、その意味では成功したといえるのではないでしょうか。ただ、白鳥の登場シーンが少なかったような気がして、小説ほどのインパクトは与えられなかったかな。それにしても、阿部さん、こんな役ばかりで大丈夫なんでしょうかね。
 主人公の田口は原作では男性でしたが、映画では女性へと変更され、竹内結子さんが演じていました。やはり映像的には「トリック」の仲間由紀恵さんと阿部寛さんのコンビのように男性と女性の方がいいのでしょうか。竹内さんも、決して優秀とは思えないボケッとした精神科医をなかなか見事に演じていましたね。
 主人公たちの周りも垣谷第一助手役の佐野史郎さんや羽場臨床工学技士役の田口浩正さん、氷室麻酔医役の田中直樹さんなど、癖のある役者さんが出演していて、原作を読んでいて犯人を知っている僕にとっても楽しむことができました。田口と白鳥のコンビによる作品はシリーズとなっていますので、今後も映画化を期待したいです。
アメリカン・ギャングスター(20.2.16)
監督  リドリー・スコット
出演  デンゼル・ワシントン  ラッセル・クロウ  キウェテル・イジョフォー  キューバ・グッディングJr.
     ジョシュ・ブローリン  テッド・レヴィン  アーマンド・アサンテ
 重厚な映画でした。1970年代のアメリカを舞台に二人の男の戦いを描いていきます。
 一人は、賄賂を取らずに正義を貫こうとする刑事リッチー・ロバーツ。この刑事が職務には真面目なくせに、女に対してはだらしないというところが、単なる正義のヒーローではなく、人間臭くて本当の話らしくていいですね。だいたい、自分の女性弁護士と関係してしまうのですから、奥さんが離婚を申し立てるのも無理からぬところです。そんなだらしない男でありながら、夜学に通って弁護士の道を目指すという努力をするところが人間という動物のわからないところです。
 もう一人は、マフィアが100年かかってもできなかったことをやり遂げたと言われるほどの麻薬王となった黒人のギャング、フランク・ルーカス。マフィアは家族を大事にしたようですが(ゴッド・ファーザーを見ると、その点わかりますね)、フランクも家族を呼び寄せ、弟たちをそれぞれ麻薬の売り捌き所の責任者として、富を築いていきます。
 スーツを優雅に着こなしながら、冷静に殺しも行うフランクと正義感溢れながら男としてはだらしないリッチーとの対比がおもしろいですね。
 フランクのモットーは、あまり目立たないようにすることだったのですが、結婚した妻の選んでくれた派手なコートを着て出かけたことから、しだいに歯車が狂ってきます。なかなかフランクとリッチーの二人が出会わないので、イライラするのですが、ラストの対決は見物。リッチーが格好良すぎです。
 リッチーを演じたのはラッセル・クロウ。「グラディエーター」の時のような鍛えられた身体とはほど遠い、肉がだぶついた身体を見せてくれます(笑)。
 一方フランクを演じたのはデンゼル・ワシントン。この人は南北戦争時代の北軍兵士を演じた演じた「グローリー」でアカデミー助演男優賞、悪徳警官を演じた「トレーニング・デイ」でアカデミー主演男優賞を受賞するという、善人を演じても悪人を演じても素晴らしい演技を見せてくれますが、どちらかといえば、「トレーニング・デイ」の時のように、悪人を演じたときの方が凄みが出ますね。
 さすが二人ともアカデミー賞俳優だけあって見応えのある演技でした。今年のアカデミー賞にノミネートされなかったのが不思議なくらいの演技です。
 それにしても、女優があまり目立たない硬派な、言ってみれば男臭い映画でした。
ジャンパー(20.3.1)
監督  ダグ・リーマン
出演  ヘイデン・クリステンセン  ジェイミー・ベル  レイチェル・ビルソン  ダイアン・レイン
     サミュエル・L・ジャクソン  マイケル・ルーカー  
 5歳のころ母親が家を出て行ったことにより、父親と二人暮らしのデヴィッド。ある日、彼は川に落ちたことがきっかけとなって、テレポーテーションの能力が目覚める。家を出たデヴィッドは、テレポーテーションの能力を使って銀行の金庫室から大金を手に入れ、自由気ままな生活を送ることにする。そんなある日、テレポーテーション能力を持った者を抹殺することを使命とする組織・パラディンから、彼は命を狙われることとなる。
 テレポーテーションの能力があったらいいなあと思ったのは少年時代の頃。SF漫画を読んで憧れたものです。「サイボーグ009」という漫画に登場する“001”がテレポーション能力の持ち主だったなあと思い出しました。
 上映時間1時間28分という、最近の映画にしては短い上映時間のため、スピーディーな展開だったのですが、逆に短いがゆえに説明し切れていない部分もあった気がします。5歳の頃に能力が目覚めるといいながら、なぜ彼は今までその能力が目覚めなかったのか。銀行から金を盗んだのが彼だとどうしてわかってしまったのか。そもそも彼のようなテレポーテーションの能力を持ったジャンパーたちとその抹殺を図ろうとするパラディンという組織の関係もよくわかりません。そして、ラストのほうで明かされる彼と母親との秘密からすれば、彼と母親との関係の描き方があまりにさらっとしすぎではなかったでしょうか。せっかく、ダイアン・レインを母親役に配役しているのですから、もう少し二人の関係を深く掘り下げたほうが良かったのではと思ってしまいます。予告編を見て大いに期待したのですが、B級作品という感じになってしまいました。
 日本で撮影した場面もあって、渋谷や銀座が登場しています。
死神の精度(20.3.30)
監督  筧昌也
出演  金城武  小西真奈美  富司純子  光石研  石田卓也  村上淳  奥田恵梨華
     吹越満
 伊坂幸太郎さんの同名小説の映画化です。原作の小説は6編からなる連作短編集となっていますが、映画はこの中から3つの話を取りだして再構成しています。
 主人公は死神です。といっても金城武さんが演じるのですから、格好いいんですよね(ただ2話目のちんぴら役の格好はどうもですねえ(笑))。彼は死を予定されている人物を1週間観察し、「死」を実行するのに適しているかどうかを判断し、報告をする役を担っています。映画は死神の観察対象となった人の1週間の人生を描いていきます。
 ヴィム・ベンダースの映画「ベルリン天使の詩」の中に登場する天使たちは本好きで図書館に集まってきましたが、この作品に登場する死神たちは歌好きで、CDショップに集まります。死神役の金城武さんがCDショップでヘッドフォンで歌を聴きながら頭を振っているシーンがありましたが、笑ってしまいました。
 原作では直接リンクがなされていない話を映画ではリンクさせているので、原作のファンにとってはちょっと違和感があるかもしれません。そういう僕も、原作の中でラストの「死神対老女」にリンクがされている「恋愛で死神」が一番好きなのですが、残念ながら映画ではこの話は描かれませんでした。
 黒犬の存在もいまひとつ。そもそも黒犬の正体もわかりませんし(パンフレットによると上司ということですが)、その存在理由もよく分かりませんでした。
 3話の間に時間が経過していることを描くためにか、ラストの話の中で主人公の老女の店を手伝う女の子がロボットということになっていましたが、ちょっと無理がありましたね。何だか映画の風景にあっていませんでした。わざわざ、そんなことをすることもないのにと思ってしまうのは、僕だけでしょうか。
 1話の主人公を演じたのは小西真奈美さんですが、彼女が原作のように目立たない女性だというには無理があります。彼女だったらいくら何でも男性が放っておかないと思いますけど。まあ、映画だからしょうがないか。意外だったのはこの映画の主題歌を歌った小西さんの歌のうまさです。予想以上でしたね。
 そのほか、金城さん演じる死神の同僚役を務めた村上淳さんが印象的でした。
 批判ばかり多いですが、一緒に観に行った息子はおもしろかったと感激していました。原作を知らずに観た方が楽しめるかもしれません。
クローバーフィールド(20.4.5)
監督  マット・リーヴス
出演  マイケル・スタール=デヴィッド  リジーキャプラン  マイク・ヴォーゲル
     ジェシカ・ルーカス  T・J・ミラー  オデット・ユーストマン
(少々ネタバレあり)

 自由の女神の首がもぎれ、マンハッタンの高層ビルからは煙が上がっているというショッキングな画像だけで、題名もなかなか明らかにされなかった“クローバーフィールド”がいよいよ公開されました。
 マンハッタンが怪物に襲われるらしいというだけで、公開前日までその内容が明らかにされず、せっせと早起きして初日の朝一番の上映に行ってしまった僕は、すっかり映画会社の宣伝にうまく乗せられてしまった口ですかね。
 映画は事件が沈静化した後、事件現場のマンハッタンで発見された一般人が撮ったビデオカメラに映っていた映像というということになっています。すべてがそのビデオを撮った人の見たものだけしか描かれていません。怪物がどうして現れたのかとか、怪物に対してアメリカの首脳たちはどういう対応を考えたのかとか、とにかく撮った本人が知らない客観的な事実というものは描かれません。また、一般の人が撮ったビデオですので当然手ぶれもひどく(このあたり凝った作りですよね。実際にその場にいるような感覚になります。)、怪物の姿も最後まではっきりと映されていません。かつてゴジラがアメリカの都市を破壊しましたが、今回は怪物の姿がよくわからないだけにより恐怖を感じます。現実として怪物が目の前に現れたら、きっと同じような状況になるのでしょう。物語はマンハッタンを破壊する怪物だけではなく、実はもっと驚くべきことが描かれています。ネタバレになるので詳細は伏せますが、リドリー・スコットの「エイリアン」を思い描いた人も多かったのではないでしょうか。
 あの「LOST」の生みの親であるJ・J・エイブラハムが作ったというだけで観に行かなくてはと思っていたのですが、J・J・エイブラハムは製作で、監督は無名の(僕からすればですが)マット・リーヴスという人でした。俳優陣も無名な知らない人たちだったので、なおさら一般の人が撮影したビデオという設定が行きましたね。手ぶれがひどいため、車酔いする人は注意が必要かも。
バンテージ・ポイント(
監督
出演
フィクサー(20.4.12)
監督  トニー・ギルロイ
出演  ジョージ・クルーニー  トム・ウィルキンソン  ティルダ・スウィントン  シドニー・ポラック
     マイケル・オキーフ  デニス・オヘア  オースティン・ウィリアムズ
 弁護士といえば、普通僕たちは法廷で検事たちを相手に颯爽と被告を弁護する姿を想像してしまいます。しかし、この映画を観ると、アメリカの大きな弁護士事務所では法廷で弁護をする弁護士とこの映画のジョージ・クルーニーが演じた弁護士のように裏で仲介役としてもし消し作業をする弁護士といったように仕事が分けられているみたいですね。主人公が弁護士ということから法廷ものを期待していた観客は肩すかしを食ったかもしれません。

 農薬会社に対する損害賠償請求訴訟を担当していた同僚弁護士アーサーが、良心の呵責に耐えきれず異常な行動に出たためこの件に関わることになったマイケルは、アーサーが訴訟の裏に隠されている真実を掴んでいることを知るが、彼からそれを聞く前にアーサーは自殺に見せかけて殺される。マイケルにも危険が忍び寄ってくるが・・・。

 主人公マイケルは検事補から法廷弁護士を夢見て弁護士に転身したが、今では揉み消し屋となり、その風貌を見ても、いかがわしそうなギャンブルに手を出している状況を見ても、人生に満足していないことがわかります。弁護士というと高級スーツでピシッと決めて、陪審員を前に弁舌爽やかという印象があるのですが、まったく異なる感じの弁護士、マイケルをジョージ・クルーニーが演じます。いつもは二枚目役を颯爽と演じるジョージー・クルーニーがいい味出していました。
 この作品の演技でアカデミー助演女優賞を受賞したティルダ・スウィントンですが、法務部の本部長として男性社会の中でそれなりの地位を守るために身を削っている女性を見事に演じています。男女機会均等社会などといわれても実際には男性上位社会の中で女性がそれなりの地位を確保するということは難しいことなのはよくわかります。実力でその地位についても、男性からは逆差別だといういわれのない非難を受けることもありますしね。インタビューを受ける前に受け答えのリハーサルをして、高級そうな(高級なんでしょうね)スーツに身を包み、隙のないところを見せなければならない。大変な努力でしょうね。脇の下にべったりと汗のシミが付いているシーンがありましたが、プレッシャーの凄さを感じさせるシーンです。ラスト、マイケルの前で力無く崩れ落ちるシーンが印象的です。アカデミー賞受賞もなるほどと思わせる演技でした。ただ、「コンスタンティン」のときより、太ってしまっていませんか?
 映画監督でもあるシドニー・ポラックがマイケルの上司であるマーティ・バックを演じています。
 硬派な映画ですが、見応えがありました。おすすめです。
大いなる陰謀(20.4.19)
監督  ロバート・レッドフォード
出演  ロバート・レッドフォード  メリル・ストリープ  トム・クルーズ  マイケル・ペーニャ
     アンドリュー・ガーフィールド  ケヴィン・ダン  デレク・ルーク
 先週の「フィクサー」に引き続き硬派な映画を観てしまいました。正直のところ、難しい、そして観るものに考えさせる映画でした。
 監督はロバート・レッドフォード。久しぶりの監督作になりますね。

 映画は同じ時間に3つの異なる場所で行われていることを描いていきます。1つは共和党の次期大統領候補と目されている若手政治家アーヴィング上院議員の部屋。そこでは、アーヴィングがジャーナリストのジャニーンに対してアフガニスタンで展開させる新たな作戦について情報をリークし、好意的な記事を書くことを求めていた。2つ目はカリフォルニア大学のマレー教授の部屋。そこではマレー教授が、豊かな才能がありながら欠席が続いている学生トッドに対し、かつて彼の教え子であり、「参加することの重要性」を研究発表の課題に選び、その実践のために軍を志願したアーネストとアーリアンの話を聞かせていた。3つ目はアフガニスタン。アーヴィングの発案による作戦のため、ヘリで高地占領に出発したアーネストとアーリアンの所属する小隊は、思わぬ敵の攻撃を受け、アーネストはヘリから転落。彼を助けようと敵が包囲している中アーリアンは自らヘリを飛び降りる。

 アーヴィングを演じるのはトム・クルーズ、ジャニーンを演じるのはメリル・ストリープ、そしてマレー教授を演じるのはロバート・レッドフォードとあまりに豪華な出演者です。3人のうち1人だけでも主役を張って映画が作れるのに、3人が揃ってそれもこんな地味な映画に出るのですから、すごいですよ。
 アメリカの俳優は割と民主党支持者が多いと聞きますが、この映画でも無関心な民衆に対する問いかけをテーマにしながらも、共和党政治を批判していることはみえみえです。アーヴィングがブッシュ大統領やライス国務長官と写っている写真がありますが、日本だったら架空の人物にするだろうに、本物を使ってしまうところがアメリカ映画のすごいところです。
 トム・クルーズが三つ揃いスーツにレジメンタル・タイをピシッと締めた自信満々、ある意味傲岸な政治家をものの見事に演じています。こういう政治家って、決して自らが先頭に立つことはなく、後方で手を汚さずに号令だけかけている典型ですね。それにしてもトム・クルーズもだんだん役柄が広くなってきましたねえ。
 一方、トム・クルーズと対峙するメリル・ストリープはさすがアカデミー賞ノミネート14回という名女優です。何も言うことはありません。どっしりとかまえていましたね。というか、僕たちの年代からすれば歳取ってしまいましたねえと言わざるをえないですね。「クレイマー、クレイマー」の奥さんもすっかり皺が目立つようになりました。
 そんなメリル・ストリープより老いが目立つのは我が憧れのロバート・レッドフォードです。僕の心の中では、いつまでも「明日に向かって撃て」のサンダンス・キッドであり、「スティング」のジョニー・フッカーなんです。しかし、歳を取っても相変わらず男性の僕から見ても素敵な男ですよね。今後も監督業ばかりでなく、ときには俳優として顔を見せてもらいたいですね。
 パンフレットの中にこんなメリル・ストリープの言葉が書かれています。「何も行動を起こさないなら、すべてを危険にさらしてでも立ち上がらないなら、何を感じていようと意味をなさないということを、この映画は教えてくれる。」これは耳に痛いですね。確かにニュースでテロのニュースが流れていようと「ひどい話だなあ」と思いはすれ、この映画のラストの場面のようにチャンネルは見たい娯楽番組へと切り替えてしまいますものね。思っても何もしなくては無関心そうと何ら変わりがないことを教えてくれます。
 ただ「参加することの重要性」を説いたアーネストやアーリアンたち若者の夢や希望も戦争の力学の前には為す術もないのでしょうか。何だか切ないラストになってしまいました。
相棒(20.5.9)
監督  和泉聖治
主演  水谷豊  寺脇康文  鈴木砂羽  高樹沙耶  岸部一徳  木村佳乃  西村雅彦
     原田龍二  松下由樹  津川雅彦  本仮屋ユイカ  柏原崇  平幹二朗  西田敏行
 テレビ朝日で放映している「相棒」の映画化です。意外にしっかりしているストーリー構成が人気を呼び、今ではテレビシリーズ化している作品です。
 GW中に観に行ったら、なんと満員で入場できませんでした。地方の映画館では子どもが対象のアニメではともかく、通常の映画でこれほどの人を呼ぶとは信じられない人気です。本当にみんなテレビを観ていたんでしょうかねえ。ともあれ、テレビに顔を出すことが苦手な水谷豊も精力的にCM活動をしたことも(なんとNHKの歌番組に出演したのには驚きました。)この爆発的な人気の原因なんでしょう。
 映画化ということで、テレビのときより事件は派手です。寺脇さんが演じる亀山が走り回るのはいつもどおりですが、今回はいつもは冷静な水谷豊演じる右京さんがかなり興奮しています(笑)爆破シーンでも亀山に代わってアクションを見せます。
 テレビシリーズのレギュラーだけでなく、時々顔を見せている、法務大臣役の津川雅彦や若手女性政治家片山雛子役の木村佳乃、武藤弁護士役の松下由樹らも登場し、ファンとしてはうれしい限りです。相変わらず腹黒いのかいい奴なのかわからない岸部一徳が演じた官房長のキャラクターはいいですねえ。この人と右京さんの会話は最高におもしろい。
 テーマは非常に現代的で、いつでもどこでも起こりうる(実際に今も起こっています。)話です。政治やマスコミ批判が行われますが、まさしくこんなこともありうるでしょう。登場人物の平幹二郎が演じた元総理大臣はどこかで見たような人なのはご愛敬か。
ブラックサイト(20.5.10)
監督  グレゴリー・ホブリット
出演  ダイアン・レイン  ビリー・バーク  コリン・ハンクス  ジョゼフ・クロス  メリー・ベス・ハート
 インターネットが私たちの生活の一部となった今、あまりに今日的な題材のストーリーです。
 FBIの女性捜査官ジェニファーは、インターネットでの犯罪を専門に取り締まる捜査官。ある日、あるサイトに捕らわれた人物の映像がアップされ、そのサイトの閲覧数が上がるごとに犯人が仕掛けた装置によりその人物が死に近づいていく。サイトの閲覧数は鰻登りに上がり、ついには捕らわれている人は死に至ってしまう。
 サイトを見ている人は何らの責任も感じていないのでしょう。いや、考えたくはないですが、あるいはその人の死を楽しんでいる人もいるかもしれません。この映画はフィクションではありますが、現実にも同じようなことは起こっています。少年が犯人の事件が起きると、サイトには瞬く間にその少年の顔写真がアップされ、口コミでそのサイトの存在が知って、みんなが少年の顔を見ようとそのサイトを閲覧します。これも同じことではないでしょうか。
 犯人捜しのミステリではないため、途中で犯人は誰だかが特定されます。ひとひねりあって、実は同僚のFBI捜査官が犯人だったというストーリーだったらおもしろかったのに(途中で同僚の捜査官が思わせぶりな電話をしたときには、てっきりそう思ったのですが。深読みでした。)。
 主人公ジェニファーを演じているのはダイアン・レイン。化粧もほとんどしていない顔で頑張っています。
さよなら。いつかわかること(20.5.10)
監督  ジェームズ・C・ストラウス
出演  ジョン・キューザック  シェラン・オキーフ  グレイシー・ベドナルジク  アレッサンドラ・ニヴォラ
 イラクに派兵されていた妻の戦死に知らせを受け動揺するスタンレー。二人の幼い娘にその事実を知らせなければならないが、話すことができず、娘が行きたいと言った遊園地へのドライブに出かける。
 目が悪くて除隊させられたという劣等感を抱える中で、妻は兵士として戦場に出ているという夫の気持ちというのはどんなものなのでしょう。現在アメリカ軍の中で女性兵士の占める割合が14.3%で、そのうち子どもがいる女性が40%だそうです。当然、危険な任務についている女性兵士もいるでしょうし、この映画のように妻が戦死するということは、現実問題としてあるのでしょう。
 家に電話をして、留守番電話に録音されている妻の声を聞くという姿には涙を誘われます。ドライブをしていた間の時間は娘たちに話をする決意をする時間というよりは、結局スタンレーが自分の中で妻の死を納得させる時間だったのでしょう。
 スタンレーを演じるのはジョン・キューザック。ちょっと内股歩きで自信のなさそうな男を演じます。長女を演じたシェラン・オキーフが素晴らしい演技です。父親の様子がおかしいと思いながら口に出さない表情、とても映画初出演とは思えません。
音楽を担当したのは、なんとクリント・イーストウッドです。今まで自分の映画で自作の音楽を使用したことはありますが、他人の監督した映画への提供は初めてだそうです。この作品でゴールデン・グローブ賞音楽賞・主題歌賞にノミネートされたそうですから、その才能は恐るべしですね。
 非常に静かなトーンで映画は流れていきます。あまりにゆったりとした映画でシネマスクウェアとうきゅうの座り心地の良い席で眠りそうになってしまいました。いけない!こんな感動の映画で。
ミスト(20.5.10)
監督  フランク・ダラボン
出演  トーマス・ジェーン  マーシャ・ゲイ・ハーデン  ローリー・ホールデン  アンドレ・ブラウアー
     トビー・ジョーンズ  ウィリアム・サドラー  アレクサ・ダヴァロス  ネイサン・ギャンブル
 スティーブン・キング原作小説の映画化です。ダラボン監督がキング作品を映画化するのは「ショーシャンクの空に」、「グリーンマイル」に続いて三作目になります。前2作がアカデミー賞レースに加わるほどの作品だったので、今回も期待をして観に行ったのですが・・・。
 大嵐の翌日、突然町を覆った霧(ミスト)。町のスーパーに買い出しに来ていたデヴィッド親子は急いで帰ろうとしますが、霧から逃げてきた老人から霧の中に何かがいると聞き、スーパーに閉じこもります。
 霧の中にいるものの存在は、最後までその正体が明かされず、恐怖を煽っていくのかと思っていましたが、予想に反してすぐそのグロテスクな姿を見せました。
 物語は、異生物との戦いとともに、恐怖下におかれた中での人間たちの行動を描きます。町の変わり者とされていた女性が次第に集団の中でアジテーターとして賛同者を増やしていきます。人間というのは、追いつめられた状況下では何かに縋りたいという気持ちになるのでしょうね。そして強力な指導者が自分に代わって判断してくれるのを望むのでしょう。それにただ従っている方が楽ですから。善悪など関係なく、指導者が言うことを盲信するようになるのは某新興宗教と同じ。人間の心の憶測に潜む嫌な面を描くスティーヴン・キング原作らしい話です。
 原作にないという驚愕のラストということですが、「え!これはないだろう」というのが正直な感想です。原作でラストがどうなっているのか読んでみたくなりました。
 主人公デヴィッドを演じるのは「ディープ・ブルー」「ドリームキャッチャー」のトーマス・ジャーン。彼を助ける高校教師アマンダを演じるのは「マジャスティック」のローリー・ホールデン、みんなを扇動するミセス・カーモディーを演じるのは「ミスティック・リバー」のマーシャ・ゲイ・ハーデンで、いわゆる大物俳優は出演していません。この点が、この映画がちょっと地味な感じになってしまった一因かもしれませんね。
残念ながら「ショーシャンクの空に」や「グリーンマイル」には及ばない作品でした。
再会の街で(20.5.11)
監督  マイク・バインダー
出演  アダム・サンドラー  ドン・チードル  ジェイダ・ビンケット=スミス  リヴ・タイラー
     サフロン・バロウズ  ドナルド・サザーランド
 昨年公開され、観に行きたかったのですが、地元の映画館では公開されませんでした。半年経って小さな映画館で2週間限り上映されることになり、慌てて観に行ってきました。
 ストーリーは、9.11テロ事件で妻と3人の子供を失ったことから、それまでの生活を捨て自分の殻に閉じこもってしまった学生時代のルームメイトをどうにか立ち直らせようとする男の物語です。
 9.11事件による心的外傷性ストレスに陥っている人々はいまだに多いと聞きますが、無理ないですよね。この作品のチャーリーのように一時にして家族の全てを失ってしまえば、そんなに簡単に時が解決するとは言えないでしょう。チャーリーは事件の当日の朝、妻が台所のリホームの話をしたのに、冷たくしてしまったことを悔やみますが、悔やんでも悔やみきれないですよね。もう謝ろうにも謝れないのですから。辛いとしか言いようがありません。
 9.11で妻子を失った友人チャーリーをアダム・サンドラーが演じます。コメディー俳優であるアダム・サンドラーが今回は深い悩みを抱えた男を演じていますが、これが意外にいいですよ。彼が妻と3人の娘達のことを語るシーンでは涙なくして見ることができませんでした。パンフレットの中にもありましたが、風貌がボブ・ディランぽいです。
 一方友人を立ち直らせようと奔走する歯科医アランをドン・チードルが演じます。シリアス映画は「ホテル・ウガンダ」や「クラッシュ」等でお手の物のドン・チードルですが、ストーカー女性に迫られてあたふたするところには思わずニヤッとしてしまいました。この作品では、アダム・サンドラーに代わってお笑い部門を担当しています。
 幸せな生活を送っているはずのアランが、若い女性のセラピストが帰るところを待ち伏せて、友人のことを話すふりをして自分の相談をします。これは一歩間違えばストーカーです。社会的地位のある歯科医でさえこうなのですからアメリカは病んでいますね。多くの人が精神科医の主治医を持つというのも肯けるところです。
 アランの妻役を演じるのは、ウィル・スミスの奥さんであるジェイダ・ピンケット=スミス。あの「マトリックス」に出演していた人です。若いセラピストを演じたのは「アルマゲドン」のリヴ・タイラー。ドナルド・サザーランドが判事役で渋い演技を見せています。
最高の人生の見つけ方(20.5.16)
監督  ロブ・ライナー
出演  ジャック・ニコルソン  モーガン・フリーマン  ショーン・ヘイズ  ロブ・モロー  ビバリー・トッド
 末期癌で余命6か月と宣告された二人の男。一人は大富豪のエドワード。もう一人は自動車修理工のカーター。何もなければ知り合うことのなかった二人が病院で同室になったことから始まる物語です。
 もともとエドワードは病院の経営者ですので、個室にはいるのが当たり前で二人が同室になることなどあり得ないのですが、その理由にはきちんと伏線が張られています。おもしろい。
 金はうなるほどあるが、見舞客は秘書だけというエドワード、一方学者になる夢を諦めて貧しいながらも今まで家族のために脇目もふらず頑張ってきたカーター。カーターが人生でやり残したことを書いた紙を見たエドワードは、自分がやりたいことをリストに加え、カーターを病院から連れ出します。リストに書いたことを一つ一つ実行していくうちに、カーターは家族のもとに帰ることを決心します・・・。
 原題は「THE BUCKET LIST」、日本語に訳すと棺桶リスト、それは死ぬ前にやりたいことのリストです。以前ペドロ・アルモドバル監督の「死ぬまでにしたい10のこと」という映画を観ましたが、これは男性版「死ぬまでにしたい10のこと」でしょうか。ただ、あちらの映画と異なってこちらはユーモア溢れた映画となっています。

 若い頃のように明日なんていつだってくると思っていた頃と違って、平均寿命の半分をとっくに過ぎた身としては、“死”は身近に感じるようになってきました。残された人生、いかに生きるべきか。やりたい事はいっぱいあるし、時間は無駄に使いたくありません。この映画を観て、自分も“棺桶リスト”作ってみようかななんて思ってしまいました。
 エドワードを演じたのはジャック・ニコルソン。カーターを演じたのはモーガン・フリーマン。この映画を興味深く観ることができたのは、前述のように自分自身が“死”を考えるような年齢になってきたことばかりでなく、やっぱり個性的なこの二人の演技によるところが大きいですね。特にジャック・ニコルソンの相変わらずの怪演ぶりや逆にモーガン・フリーマンの落ち着いた演技は好対照で見ものです。
 ラストに迎えるのは二人の死ですが、悲しさだけでなく、観ている人に前向きな気持ちを与えてくれる作品です。
チャーリー・ウィルソンズ・ウォー(20.5.17)
監督  マイク・ニコルズ
出演  トム・ハンクス  ジュリア・ロバーツ  フィリップ・シーモア・ホフマン  エイミー・アダムス
     シリ・アップルピー  ネッド・ビーティ
 テキサス州選出の無名の下院議員が、ソ連が侵攻したアフガン支援に奔走。彼の尽力によってアメリカのアフガン支援が徐々に大きくなり、最後にはソ連撤退の結果をもたらしたという実話に基づく映画です。
 チャーリー・ウィルソンという議員、ストリッパーとジャグジーに入り、麻薬も吸うという型破り。チャーリーズ・エンジェルと呼ばれる美人の女性秘書たちを侍らすなんて、うらやましい限りです。何だかやりたいようにやっていたという感じの議員ですね。チャーリー・ウィルソンを演じたのはトム・ハンクスですが、真面目な役が多いトム・ハンクスのイメージとはちょっと違った役柄です。
 チャーリーといい仲の大富豪ジョアン・ヘリングを演じたのはジュリア・ロバーツ。相変わらず小作りだけど目や口の造りが大きい派手な顔立ちですねえ。もう40歳になろうというお歳ですが、水着姿を見せるなどサービス精神旺盛です(当たり前ですが、「プリティ・ウーマン」の頃のスレンダーではなくなりましたが。)。
 チャーリーを助けるCIAエージェント、ガストを演じたのはフィリップ・シーモア・ホフマン。この人、割と癖のある演技をする人だと思っていましたが、今回はあまり目立ちませんでしたね。
 ラスト、ガストの助言によってソ連撤退後のアフガニスタンの子どもたちのために学校建設の支援をすべきだと主張するところは格好良すぎです。本当に、この議員さん、そんなところまで考えたんでしょうかね。
 トム・ハンクスが主役を演じると、ついアカデミー賞はどうだろうと思ってしまうのですが、今回はそれほどのことはないというのが正直な感想です。
ランボー 最後の戦場(20.5.24)
監督  シルベスター・スタローン
出演  シルベスター・スタローン  ジュリー・ベンツ  ポール・シュルツ  マシュー・マースデン
     グレアム・マクダビッシュ  ケン・ハワード  レイ・ガイエゴス  ティム・カン
(ラストのネタバレあり)

 60歳を過ぎ、一昨年「ロッキー」が30年ぶりに公開されましたが、こちら「ランボー」は前作から20年ぶりの公開になります。我が身の貧弱な体に比較して、いまだにあの筋肉モリモリの体には驚きますが(筋肉増強剤でも使用しているんでしょうかねえ。)、先日公開にあわせてテレビで放映された第1作のときのスタローンと比べると、さすがに顔には年齢が出ていますね。しかし、アクションは1つのシーンを除いてスタローン自身で行っているそうです。もう、凄い!としか言えません。
 「ランボー」最終作の舞台となるのは、現在、北朝鮮同様に世界の注目を浴びているミャンマーです。僕らの若い頃はビルマと言っていたのですが、いつの間にかミャンマーと名前が変えられたようです。アウンサン・スーチーさんの軟禁に象徴される、軍事政権による圧制は、昨年には日本のジャーナリスト長井さんが政府軍によって射殺されるなど、日本人にも知られるようになってきました。しかし、映画に描かれるような少数民族の虐殺などまったく知らないことでした。
  物語は、ミャンマーの少数民族の医療支援に入ったアメリカ人たちが政府軍に拉致され、救出に雇われた5人の傭兵とともにミャンマー政府軍と戦うランボーの姿を描きます。
 とにかく、そのあまりの虐殺シーンには目を覆うばかりです。手足が飛び、頭が飛び、子供の殺害シーンもあるという、もちろんCGなんでしょうが、これほどの残虐シーンは見たことがありません。これらのシーンには、批判があったようですが、戦争というのは本当にこういう残虐な行為が行われるものなんでしょう。決してカッコいいものではないし、撃たれれば痛いということをわかってほしいですね(自分が撃たれないなんていうことは保証されないのですから。)。
 90分という短い上映時間ですが、最後まで緊張して観ることができます。ラスト、アーミージャケットとジーパンで故郷に帰っていくランボーの姿が、第1作の登場シーンと同じというのがシリーズのラストらしいです。

 前作まで出演していたトラウトマン大佐役のリチャード・クレンナは2003年に亡くなっているため、今回は残念ながら出演していません。
ノーカントリー(20.5.30)
監督  ジョエル・コーエン  イーサン・コーエン
出演  トミー・リー・ジョーンズ  ハビエル・バルデム  ジョシュ・ブローリン  ウッディ・ハレルソン
     ケリー・マクドナルド  ギャレット・ディラハント  テス・ハーバー
 今年のアカデミー賞作品賞を始め、監督賞、助演男優賞など4部門を受賞した作品です。
 東京で公開されてから2ヶ月遅れの公開となりましたが、それも無理のないところです。はっきり言って、アカデミー賞作品賞受賞作というだけでは、この田舎ではなかなか客を呼べません。
 ストーリー自体は、麻薬取引中に撃ち合いになって全員が死亡した現場から残された現金を持ち逃げした男を、組織に雇われた殺し屋と保安官が追うというわかりやすいストーリーなのですが、予想外のストーリー展開だった上にラストが非常に難解です。ラストシーンの保安官の夢の話なんて、なんのこっちゃと思ってしまいます。思っているうちに唐突にエンドロールが始まるという感じです。パンフレットに一つの考察が書かれていましたが、そんなこと見ながら考えられないですよ。それよりも、あまりに予想外の結果にあ然としてしまいました。あそこまで引っ張っておいて、結局あの最後とは・・・。
 見所は前評判どおりこの作品で助演男優賞を獲得したスペインの俳優、ハビエル・バルデム演じる殺し屋の演技です。長髪の七三分けという奇妙な髪型もですが、鬼気迫る形相で保安官助手を殺す冒頭、かといえば、表情一つ変えずにドライバーを殺すなど、その強烈な印象を与える演技はアカデミー賞も当然です。さらには、ボンベを持ち、そこから伸びるホースからの圧縮空気(?)による殺害方法というのも見たことないですね。撃たれたところを自分で治療するところは、ターミネーターの一場面を思い起こしてしまいました。この作品、ハビエル・バルデムに始まり、ハビエル・バルデムに終わるといった作品です。2004年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した「海を飛ぶ夢」に出演していましたが、あのときはかなりの年齢と思ったのですが、まさか僕より若いとは・・・。びっくりです。
 追われる男、モスを演じたジョシュ・ブローリンも、追う保安官ベルを演じたトミー・リー・ジョーンズも、ハビエル・バルデムに比較すると印象が薄いです。特に、ジョシュ・ブローリンは出番も多く、あれだけ頑張ったのに、ハビエル・バルデムの割を食いましたね。
僕の彼女はサイボーグ(20.5.30)
監督  クァク・ジェヨン
出演  綾瀬はるか  小出恵介  桐谷健太  田口浩正  遠藤憲一  小日向文世  
     竹中直人  吉行和子
 日本映画ですが、監督は「猟奇的な彼女」や「ラブストーリー」「僕の彼女を紹介します」の韓国の監督クァク・ジェヨンです。「猟奇的な彼女」にしてもベタ甘なストーリーでしたが、こういうストーリーは大好きで3作品ともお気に入りです。
 そんなわけで、今回、「僕の彼女〜」もぜひ観に行きたいと思っていたのですが、綾瀬はるかさん主演では、ちょっと、中年のおじさんが一人で観に行くのは躊躇してしまいますね。娘を誘ったのですが冷たく断られたので、しょうがなくレイトショーに一人で行ってきました。
 主人公のジローは彼女もいず、20歳の誕生日も自分のために自分でプレゼントを買い、レストランで食事をするという寂しい青年。ところが、そこに自分も誕生日だという若い女性が現れ、ジローは楽しい日を過ごすが、彼女はその日以来姿を消してしまう。ところが、1年後のジローの誕生日に再び彼女は現れるが、どこか1年前とは異なる雰囲気。突如起こった銃乱射事件からジローを守った彼女は、なんと未来のジローが送り込んだサイボーグだった・・・。
 これはもう完全に綾瀬はるかさんのための映画ですね。サイボーグのコスチューム姿も格好良かったですし、ファッションショーまでやってしまって、綾瀬ファンには最高の映画です。確かにかわいかったですよね。スタイルもよかったし。タイムパラドックスとか深く考えてしまうと、いろいろややこしいことになるので、単純に綾瀬はるかさんの頑張りを観るのが、この映画を楽しむことができるコツです。ニワトリが先か卵が先かなどと考えてはいけません。
 未来からやってきたサイボーグの登場シーンは、「ターミネーター」のパロディです。笑ってしまいました。
 相手役を演じたのは、小出恵介くん。弱々しい男の子が相手役というのも、クァク監督作品らしいところです。
ザ・マジックアワー(20.6.7)
監督  三谷幸喜
出演  佐藤浩市  妻夫木聡  深津絵里  綾瀬はるか  西田敏行  小日向文世
     寺島進  戸田恵子  伊吹吾郎  浅野和之  市村萬次郎  柳沢慎一  香川照之
     甲本雅裕  近藤芳正  中井貴一  鈴木京香  谷原章介  寺脇康文  天海祐希  唐沢寿明
 公開直前の三谷幸喜のマスメディアへの露出といったらすごいものがありましたね。あちこちの番組に登場して宣伝を精力的に行っていました。監督たるもの、こうあるべしという姿を見せてくれました。
 そんな三谷さんの宣伝に踊らされたわけではありませんが、公開初日の第1回目の上映を観に行ってきました。混雑するのではと思って、30分以上前に劇場に行きましたが、予想に反して観客はまばら。劇場側もシネコンの一番収容能力のある劇場にしたのに腰砕けですねえ。東京とは大きな違いです。
 映画は三谷さん監督ですから、難しいことは考えずに大いに笑わせてくれました。気分すっきり劇場を出ることができて、それだけでも高い入場料を払った価値がありました。
 ギャングのボスの女に手を出した備後。ボスが伝説の殺し屋“デラ富樫”を探していることを知った備後は、命欲 しさから知りもしないのに自分が居場所を知っているので連れてくると言ってしまう。結局探し出すことができず、切羽詰まった備後は、売れない俳優の村田をデラ富樫に仕立て、村田には映画の撮影だと言って、ボスのもとに連れて行くが・・・。
 殺し屋の役を演じていると思っている村田と、村田を本物の殺し屋“デラ富樫”と思っているボスたちとのちぐはぐさがこの映画のおもしろいところです。
 村田を演じた佐藤浩市さんが、いつもの堅苦しい演技と違って、ユーモラスに演じている姿が愉快です。ナイフを舐め回すときの表情など大笑いです。真面目に演技するところにおかしさがあるという、三谷さんらしい作品です。
 ボスを演じたのは、西田敏行さん。やっぱり、佐藤さんと掛け合うこの人の演技があってこそ佐藤さんの演技がおもしろくなるという気がしますね。三谷さんが言うには、今回アドリブは最後の場面以外は封印してもらったということですが、それでも西田さんの存在感はすごいです。
 備後役の妻夫木くんも、いつもと違ったコミカルな役どころに挑戦していますが、なかなか熱演です。
 そのほかちょい役の出演で、中井貴一さん、唐沢寿明さん、鈴木京香さん、天海祐希さんらが顔を出しています。
豪華ですよ。スマップの香取慎吾くんが街角でギターを弾いて歌っているところなど、前作の「THE 有頂天ホテル」を見た人にとっては楽しい演出です。
 とにかく、大いに笑ってつまらないことなど吹き飛ばしたい人にはおすすめです。
アフタースクール(20.6.7)
監督  内田けんじ
出演  大泉洋  佐々木蔵之介  堺雅人  常磐貴子  田畑智子  北見敏之  山本圭  伊武雅刀
 先に東京で公開されて評判がよかったので、観に行きたいと思っていた映画です。公開初日にせっせと映画館に足を運びました。地味な日本映画なので、200人弱の定員のところに観客は20人ほど。大泉洋(それとも佐々木蔵之介さんか?)のファンか、よほどの映画好きでしょうね。
 中学校の教師をしている神野のもとに中学時代の同級生・島崎だという探偵が訪ねてくる。やはり同級生の木村の行方を捜しているという。神野と木村は中学校からの親友だった。神野は島崎により強引に木村探しを手伝わされることとなるが、その捜索の過程でまじめなサラリーマンと思っていた木村の別な一面が浮かび上がってくる。
 「ふむふむ、そんな話かぁ」と、あらすじを読んだら、もうその時点からあなたは騙されています。なにせ、この映画の謳い文句が「甘くみてると、ダマされちゃいますよ」ですからね。
 前半は割りと淡々とした進み方で、前夜夜更かしをした身としては、思わず眠ってしまいそうになってしまいました。これは前評判倒れかと思ったら、後半いっきに話が動き始めます。いろいろな伏線が張ってあるし、観客を明らかにミスリードする場面も描かれているので、よく目を凝らして観ていることが必要です。最後にはものの見事に、今まで見ていたものが、ひっくり返って、違う様相を見せます。う〜ん、騙されまいと思っていましたが、やっぱり騙されてしまいました。見事です。
 神野を演じたのは、大泉洋さん。いつもの大泉洋さんらしさが随所に出ていましたね。特に産気づいた美紀を病院に運ぶ車の中で「出していい?」と美紀に尋ねられたときのあわてぶりには大いに笑ってしまいました。でも、ラスト、島崎(北沢)に言った「あのなあ、学校なんてどうでもいいんだよ。お前がつまんないのは、おまえのせいだ」という台詞を言うときはかっこよかったですね。
 真面目なサラリーマン・・・だったはずの木村を演じたのは堺雅人さん。このところ、NHKの大河ドラマ「篤姫」への出演などテレビでの露出も多い俳優さんですが、どこか冷めた役をやらせるとうまいですね。
 探偵の島崎(北沢)を演じたのは、佐々木蔵之介さん。テレビではいい人役が多いのですが、今回はちょっと嫌なやつを演じています。
 この映画は、エンドロールの後に大事なワンシーンがあります。くれぐれも最後まで席を立たないように。
インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国(20.6.14)
監督  スティーブン・スピルバーグ
出演  ハリソン・フォード  ケイト・ブランシェット  カレン・アレン  ジョン・ハート  シャイア・ラブーフ
     レイ・ウィンストン  ジム・ブロードベント  イコール・ジジキン  
 公開が待ちきれずに先行ロードショーの第1回目の上映を観に行ってきました。もともと荒唐無稽の映画ですが、それにしても、今回は一段とすごい。冒頭のあの歴史的にも有名な砂漠の中の実験場でのシーンでインディが死なないのですからねえ(冷蔵庫に入って助かるなんてありえないだろ!鉛製というのがミソですけど、それにしてもです。)。その上、今回最後に明かされる事実は・・・、う〜ん、どう評価したらいいのでしょう。でも、上映時間2時間、ハラハラドキドキ飽きずに楽しむことができました。映画なんて観た本人が満足すればいいのですから、僕としては金払った価値がある映画でした(それに、今日は映画館の記念日で1000円で観ることができたし)。でも、批判的な意見も出るのではないかなあ。
 物語は、アマゾンの奥地に眠るという秘宝クリスタル・スカルを巡ってインディとソ連軍との争奪戦を描きます。冒頭のアメリカ軍基地でソ連軍が探していたものを見ると、なんのことかが想像できてしまうのですが(ラストは思ったとおりとなりました。)、あの人たちのスカルってどうしてあの形になってしまうのでしょうね。
 シリーズ第1作の「レイダース 失われたアーク」から27年、前作の「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」からでさえ、19年という月日が経っていますからねえ、ハリソン・フォードが歳を取るのは仕方ありません。映画の中でも前作の舞台が1938年でしたが、今回は1957年と奇しくもシリーズと同じ19年が過ぎたことになっており、インディが歳を取って見えるのも当然ということになりますね。。御歳66歳ですから、以前のように派手な動きを期待するのはかわいそうというもの。どこまで、スタントマンなしで演じているのかわかりませんが、歳の割には頑張っていると拍手を送りましょう。
 一方、相手役を演じたのは、第1作のヒロイン・マリオンを演じたカレン・アレンです。第1作の公開当時、気の強さが顔に出ているけど笑顔がかわいい、割と好みの女優さんだったのですが、やっぱり歳を取りましたね。彼女も今年57歳になるというのですから、これまたやむを得ません。体つきもちょっとふっくらとなりました。今回、彼女が登場するのが、実は・・・このあとは映画を観てのお楽しみ。
 映画の中でも19年の時代の流れがあるので、ショーン・コネリーが演じていたインディのお父さんも、また、デンホルム・エリオットが演じていたインディの冒険を援助していたマーカス・ブロディも既に死亡し、今回は写真だけでの登場となっていました。公開前は大物俳優がサプライズ出演という噂もあったのですが、残念。(ちなみにデンホルム・エリオットは、とぼけた演技が冴える味のある役者でしたが、1992年にエイズで亡くなっています。)
 インディの相棒マットを演じるのは、シャイア・ラブーフ。あまり男臭くない、どちらというと気の弱そうな容貌ですが、すっかり、売れっ子になってしまいましたね。今回の作品では、大きな鍵となる青年を演じます。
 敵役は、第1作、第3作のナチに代わって、今回は1957年という米ソ冷戦のさなかという時代を反映して、ソ連が登場します。その中心人物イリーナ・スパルコを演じるのは、アカデミー賞女優のケイト・ブランシェット。この人、何回見ても美人には到底思えないのですが、存在感はすごいですよね。特に「エリザベス」なんて、この人あっての映画という感じでした。今回の冷たそうな軍人役も嵌っていました。
 インディが最初にイリーナたちソ連軍に捕まえられて連れてこられるのは、「レイダース」の最後に“アーク”が保管された場所です。インディが逃げるときに積んであった木箱が壊れますが、あれはもしかしたら・・・。
 一歩間違えばおバカ映画になってしまいそうな作品でしたが、インディ・ジョーンズシリーズということで、踏みとどまったという感じです。あれがインディ・ジョーンズものでなかったら、きっとおバカ映画という批判もあったのではないかなあと思うのが正直なところ。
クライマーズ・ハイ(20.7.5)
監督  原田眞人
出演  堤真一  堺雅人  高嶋政宏  尾野真千子  山崎努  遠藤憲一  田口トモロヲ  堀部圭壱
     マギー  滝藤賢一  皆川猿時  でんでん  中村育二  螢雪次朗  野波麻帆  西田尚美
 横山秀夫さん原作の同名小説の映画化です。
 原作で描かれる日航機墜落事件があったのは、まだ就職間もない頃の暑い夏の日。そろそろお盆で夏休みを取ろうかと考えていたときのことでした。500人以上が亡くなった大惨事でしたが、当時は小説の中で語られていたように、機体の残骸周辺にバラバラになった死体が散乱していたということも思いもせず、生存者がヘリからつり上げられて救出されるシーンをスペクタクル映画を観るように見ていただけでした。
 この作品では、事件現場となった群馬の地方新聞社を舞台に、事件の特命全権に指名された社長の妾の子と陰口をたたかれる遊軍記者の悠木を中心に、新聞社内での勢力争い、大事件を取材する若い記者たちに対するかつて記者であった管理職たちのやっかみ、事故の惨状を目の当たりにして精神のバランスを失う若手記者等を描いていきます。
 硬派な映画です。責任を背負う者の苦しさが主人公の悠木を見ているとひしひしと伝わってきます。ここでの決断がスクープを生むか生まないかというところには思わず力が入ってしまいます。
 今回悠木を演じた堤真一さん以上に印象的だったのは県警キャップ佐山を演じた堺雅人さんです。NHK大河ドラマ「篤姫」への出演もあって、我が家の女性陣には人気の俳優さんです。いつもは感情を表に出さない役が多いという印象が強かったのですが(最近観た「アフタースクール」でも淡々とした演技でした。)、今回は一転して悠木に対し激しく感情をぶつけます。意外にもこうした感情を剥き出しにする演技も良いですね。見直してしまいました。
 山崎努さん演じる新聞社の社長ははまり役です。あの顔だけでも嫌なやつという雰囲気が漂っています(山崎さん、すみません。)。ホント憎たらしいですねえ。
 それにしても新聞社というと正義を標榜するところのはずですが、あんな醜いエゴが充満しているとは驚きです。まあ新聞記者たちも新聞記者である前にただの人間に過ぎないということですね。それと、いつもガムを噛んでいる販売局長なんてやくざそのものです。新聞社もすごいところです。
 劇場はやはり当時の事件を知っている年配の客が多く入っていました。
ハプニング(20.7.25)
監督  M・ナイト・シャマラン
出演  マーク・ウォールバーグ  ズーイ・デシャネル  ジョン・レグイザモ  アシュリン・サンチェス
     ベティ・バックリー
 「シックス・センス」以降の作品が、ことごとく期待を裏切ってくれているM・ナイト・シャマラン監督の最新作です。
 “公園内を歩いていた人々が突然立ち止まり、倒れたり、後ろ向きに歩き出す。ビルの工事現場で働いていた人が次々と屋上から飛び降りる。”という衝撃的な予告編の映像、そしてポスターに描かれたハイウェイに乗り捨てられた車に、これはおもしろそうだと大いに期待を持って観に行ったのですが・・・。
 慌てて怪現象が起きた街の中心地から郊外へと逃げ出す人々。迫り来る姿の見えないものに対し恐怖を感じる人々。このあたりまでは、ドキドキ感いっぱいに映画の中にのめり込んでいたのですが、逃げる主人公が原因らしきものに気づいたときから、何だこれは!という映画になっていってしまいました。
 植物が原因?人間が多く集まっていると危険?人間に対する自然の警鐘?最後まではっきりとは原因は明かされず、唐突に怪現象は終了します。家の外には出てはいけないと知りながら、愛する人と一緒にいたいと、家から出る主人公とその妻だったが、何も起こりません。え〜?結局、愛は奇跡を起こすのか?それはないでしょう!などとツッコミを入れたくなってしまいました。
 そのうえ、終盤に登場した精神的にチョットおかしな女性は何のために登場させたのか、これもまったくわかりませんでした。
 スタートはおもしろかったのになあ。これで入場者数が伸びるとしたらそれはシャマラン監督ではなく、予告編やテレビスポットを制作した人の手腕に寄るところが大きかったと言えるでしょうね。あ〜あ、また期待はずれでした。もう、あの「シックス・センス」のシャマラン監督作品だからといって無条件におもしろいだろうと考えるのは止した方がいいです。
 主役を演じたのは、「極大射程」のマーク・ウォールバーグ。アクション俳優から脱皮するために選んだ作品だとしたら、はっきり言って失敗でしたね。
ドラゴン・キングダム(20.7.27)
監督  ロブ・ミンコフ
出演  ジャッキー・チェン  ジェット・リー  マイケル・アンガラーノ  リュウ・イーフェイ
     リー・ビンビン  コリン・チョウ
 カンフー好きな気弱な少年ジェイソン。彼はストリート・ギャングに脅され、馴染みの質屋を襲う手助けをさせられる。ギャングに撃たれた質屋の老人から“如意棒”を持ち主に返してくれと託されるが、強盗たちにビルの屋上に追いつめられたビルから転落してしまう。気がつくと、そこはジェイド将軍が支配する異世界の中国だった。そこでの彼はジェイド将軍によって石に変えられた孫悟空を如意棒で救う伝説の人物の役割を与えられていた。酔っぱらいのルー・ヤン、ジェイドを父の敵と狙うスパロウ、謎の僧侶サイレント・モンクをお供に孫悟空を助ける旅に出る。
 ジャッキー・チェンとジェット・リーというカンフースター競演でおくるファンタジック・ストーリーです。
 夏休みということで、上映されている映画は「崖の上のポニョ」「ポケモン」「「ゲゲゲの鬼太郎」「花より男子」等々お子様向けの映画で、映画館は大混雑。でも、「ドラゴン・キングダム」は大したことないだろうと思ったら、なんと入場口は長蛇の列が。どうにか端の席を確保することができましたが、ジャッキー・チェン侮ることなかれです。意外に人気ありますねえ。
 ルー・ヤン演じるジャッキー・チェンとサイレント・モンク演じるジェット・リーのカンフーシーンは見物です。二人のアクションシーンは見事としかいいようがありません。あっぱれです。まあ二人ともスターですから、もちろん映画の中でも優劣はつけていませんけれど。
 それにしても、懐かしかったです。ジャッキー・チェンが最初から酔拳で出てきましたからねえ。嬉しくなってしまいました。そのほか、蛇拳とか鶴拳とか出てくるのも昔のジャッキー・チェン映画を観たことのある人には楽しいですね。
 ジャッキー・チェンとジェット・リーがそれぞれ特殊メイクで別の役を演じているのもご愛敬。ジェット・リーがいつもは冷静な感じの役が多いのですが、今回の特殊メイクで演じた役はコミカルな演技を見せていて、パンフレットで読むまでは、ジェット・リーとは思えませんでした。
 ちなみにジェイド将軍を演じたのは、「マトリックス・リローデット」「マトリックス・レボリューションズ」でセラフ役を演じたコリン・チョウです。
 ラストは、現代に戻った少年が成長した姿を見せるということでハッピーエンド。見終わった後爽快感いっぱいの作品です。
インクレディブル・ハルク(20.8.3)
監督  ルイ・レテリエ
出演  エドワード・ノートン  リヴ・タイラー  ティム・ロス  ウィリアム・ハート  タイ・バーレル
     ティム・ブレイク・ネルソン
 アメコミから生まれたヒーロー、ハルクの映画化です。昔、東京に住んでいた頃にテレビで放映していた「ハルク」を見ていた記憶があります。行く先々で事件に巻き込まれ、逃亡生活を続けるというストーリーは、パンフレットにありましたが「逃亡者」を彷彿させるストーリーでした。2003年にはアン・リー監督、エリック・バナ主演で映画化されていますが、そちらは未見。いまひとつの評判だったようです。
 今回は、ハルクに変身するブルース・バナーにエドワード・ノートンをはじめ、ブルースが愛するベティにリヴ・タイラー、脇役にウィリアム・ハート、ティム・ロスと豪華俳優陣が出演しています。
 ストーリーは、実験の失敗で脈拍数が200を超えるとハルクに変身してしまう身体となったブルースが、ブラジルに隠れ住んでいるところから始まります。ウィリアム・ハート演じるロス将軍の追撃の手から逃れたブルースは、久しぶりにアメリカに戻り、彼を支援する科学者ブルーを頼って治療を受けようとするが、ロス将軍とティム・ロス演じる彼の部下ブロンスキーに捕らわれる・・・
 元の身体に戻りたいと思いながらも、怪物と化したブロンスキーを倒すために自ら変身するというストーリーはお決まりの展開ですが、やっぱり主人公の悲しさにグッときます。
 主人公が怒りを抑える方策を学ぶために武術家から呼吸法を学びますが、その武術家としてなんとあのヒクソン・グレイシーがカメオ出演しています。それにしても、脈拍数が200を超えるのは怒りのためだけではないので、ブルースがベティと愛を交わすことができないのも辛いですねえ。同じ男として同情してしまいます。
 ハルクの敵役となるティム・ロスは、表情はふてぶてしいですが、体格は貧弱で、ちょっと敵役としてはイマイチです。性格俳優かと思いきや、「猿の惑星」では猿を演じたり、今回は怪物に変身したりと、変身することを嫌がらない人ですねえ。
 ラストにおまけが。一人酔いつぶれるロス将軍の元にある人物が訪れます。この人物が9月公開の映画の主人公ときているのですから、なかなかしゃれた演出です。
ダークナイト(20.8.9)
監督  クリストファー・ノーラン
出演  クリスチャン・ベール  マイケル・ケイン  ヒース・レジャー  ゲイリー・オールドマン
     アーロン・エッカード  マギー・ギレンホール  モーガン・フリーマン
 クリストファー・ノーラン監督描くバットマンシリーズ第2作です。
 前作のラストで示唆されていたとおり、今回登場する敵役はジョーカーです。このジョーカーという人物は、ティム・バートン監督作品ではあの大物俳優ジャック・ニコルソンが演じていました。ジャック・ニコルソンといえば、ジョーカーのような切れた役柄をやらせたら天下一品ですが、今回この役に挑戦したのは、「ブローク・バック・マウンテン」などに出演していたヒース・レジャーです。ジャック・ニコルソンが演じたときには、バットマンに追いつめられて酸の入ったタンクの中に落ちたことが原因であんな顔になってしまうのですが、この作品では最初からあの顔で登場します。ヒース・レジャーの演技はなかなか鬼気迫るものがありました。ジャック・ニコルソンに決して負けるものではなかった気がします。ただ、あまりに役にのめり込んだせいでもないでしょうが、今年1月に公開を待つことなく薬物中毒で世を去りました。生きていればアカデミー賞にノミネートされたかもしれません。
 ジョーカーとともに今回の作品で大きな存在は、アーロン・エッカート演じる地方検事のハービー・デントです。腐敗したゴッサム・シティの浄化を図るために、マフィアたちの撲滅を図ろうとします。一方、このハービー・デントが、ブルース・ウェインが好きなレイチェルの恋人ときているのですから、ブルースとしては心穏やかではありません。果たして、レイチェルがブルースとハービーのどちらを選ぶのかが、この映画のひとつの見所でもあります。結果は意外でしたけどねえ。
 ハービー・デントは映画の後半、ジョーカーの策略によって、顔に大きな傷を負い、トゥー・フェイスとして、バットマンの前に立ち塞がることとなります。
 バットマンに協力するのは、前作と同じく、ウェイン・エンタープライズ社の応用科学部の部長であったモーガン・フリーマン演じるルーシャス・フォックス(今回は社長に昇進しています。)、マイケル・ケイン演じる執事役のアルフレッド、ゴッサム・シティ警察署の警部補であるゲイリー・オールドマン演じるジム・ゴードンです。モーガン・フリーマンは相変わらず渋いですねえ。マイケル・ケインは、イギリス紳士そのままといった雰囲気です。今回は、ジム・ゴードンの活躍場面が多く、ゲイリー・オールドマンとしては美味しい役どころでしたね(彼を巡って思わぬ展開となりますが、それは観てのお楽しみ。)。
 おっと、バットマンを演じたクリスチャン・ベールのことを言い忘れそうでした。正直のところ、この作品ではジョーカーを演じたヒース・レジャーの印象が強すぎて、クリスチャン・ベールについては、これといって語れるものがありません。可もなく不可もなくですね。
 今回の作品の中で今までと異なった印象を持つのは、舞台となるゴッサム・シティのことです。これまでは夜の街という印象だったのですが、今回は昼間のシーンも多く現代的な都会という姿を見せてくれます。
 また、バットマンといえば乗る車はバットモービルですが、今度はバットマンが乗るオートバイ、バットポッドが登場します。これが凄いです。タイヤがなんとバットモービルのタイヤですから、巨大です。それに、40oブラスト砲と50口径マシンガンを2門ずつ装備しているのですから。あのタイヤで本当に走ることができるのでしょうか。興味のあるところです。

 好きな場面をひとつ。2隻のフェリー(1隻には一般人が乗船し、もう1隻には囚人が乗船しています。)にジョーカーが爆弾を仕掛けます。それぞれの船に相手の船を爆破するスイッチを与え、スイッチを押した方の船の乗客は命を助けるといいます。囚人の船なんだから爆破しろと叫ぶ一般人、俺が押すと一人の乗客がスイッチを持ちます。一方囚人の船では、スイッチを持った警官に一人の囚人が近寄り、お前にはできない、俺に貸せと手を伸ばします。スイッチは囚人の手へと移り・・・・これ以降は映画館で見て下さい。
ハムナプトラ3(20.8.15)
監督  ロブ・コーエン
出演  ブレンダン・フレイザー  ジェット・リー  マリア・ベロ  ジョン・ハナ  ミッシェル・ヨー
     アンソニー・ウォン  イザベラ・リョン  ルーク・フォード  ラッセル・ウォン
 ハムナプトラシリーズ第3弾です。今回はいつものオコーネル夫妻だけでなく、成長した夫妻の一人息子アレックスも一緒に活躍します。今回の舞台は、今までのエジプトから中国へと移ります。原題は「Mummy」ですからミイラということですが、今回の“始皇帝”はミイラではないのではないかなあと最初から素直に話に入っていけませんでした。やっぱり、ミイラとなれば舞台はエジプトでしょう。
最初は中国映画かと思ってしまうような出だしから始まります。そのうえ、ジェット・リーとミッシェル・ヨーとの剣劇シーンもあって中国映画というか香港映画っぽさ満載です。さらに、始皇帝を甦らせようと画策するヤン将軍役で「インファナル・アフェア」シリーズのアンソニー・ウォンも出演しています。
 欧米系の監督がアジアを描くとどうもおかしな部分があるのですが、今回もリン役のイザベラ・リョンが最初に出てきたシーンでは、まるで日本の忍者のような姿。そもそも荒唐無稽な映画ですが、いくら何でもあの姿はないでしょうとあ然としてしまったのですが。何だか安っぽい映画になってしまいますよね。それに、幼い頃のゴジラ映画ファンから言わせてもらえば、始皇帝が変身する龍の化け物はゴジラ映画に出てくるキングギドラのパクリでしょう?あ〜キングギドラだと思わず言ってしまいましたよ。
 リック・オコーネルを演じたのは前作までと同じブレンダン・フレイザーですが、エヴリン役が前2作までのレイチェル・ワイズからマリア・ベロに変わりました。レイチェル・ワイズはかわいくて、どこかコミカルな感じがあったのですが、今回のマリア・ベロは逞しくて強すぎです。やっぱり、レイチェル・ワイズの方がよかったなあ。マリア・ベロには華がないですよね。
 ラストのエリック・ハナ演じるジョナサンのセリフから想像すると、次の舞台は南米でしょうか。南米ならインカやマヤ文明もあるから、ミイラも違和感ないですかね。
ハンコック(20.8.31)
監督  ピーター・バーグ
出演  ウィル・スミス  シャーリーズ・セロン  ジェイソン・ベイトマン  ジェイ・ヘッド  エディ・マーサン
 主人公は、嫌われ者のヒーロー、ハンコック。ヒーローで嫌われ者というのも変ですが、常に酔っぱらっており、悪を退治するときも周りの迷惑など考えず、ハチャメチャにやってしまうので、評判が悪いのです。そんな彼に助けられたPR会社で働くレイは、彼のイメージを変えようとします。まずは罪を償うために刑務所に入って社会復帰を図るという計画を立てますが、ハンコックがいなくなった街では犯罪が急増してきます。
 これまた、アメリカン・コミックヒーローかと思ったらオリジナルなキャラ。理解されないヒーローとしては、ハルクがいますが、ハルクは悲しいヒーローですが、こちらハンコックは憎たらしいヒーローです。だらしないアル中の親父という風貌も、従前のアメコミヒーローでは考えられなかったところです。どう見てもヒーローには見えません。だいたい普通の格好で空を飛ぶのですからね。
 そんなハンコックをウィル・スミスが演じるところがまたお似合いです。どこかユーモアを感じさせるあの風貌がかっこよくないヒーローにピッタリです。
 レイの妻を演じているのはシャーリーズ・セロンです。アカデミー賞女優のシャーリーズ・セロンが単なる奥さん役を演じるのかなあと思ったら、やっぱり驚きの展開が(このあたりネタバレになるのでここまで)。アカデミー賞女優でありながら、ここまでやるところがすごいですね。
 上映時間が1時間32分という短さですので、ストーリーの展開が速く、だれることなくあっという間にラストに突入です。何も考えずに楽しむ映画としては最高です。
20世紀少年(20.9.1)
監督  堤幸彦
出演  唐沢寿明  豊川悦司  常磐貴子  香川照之  石橋英彦  宇梶剛士  宮迫博之  生瀬勝久
     小日向文世  佐々木蔵之介  佐野史郎  石橋蓮司  中村嘉津雄  黒木瞳  池脇千鶴  片瀬那奈
     竹中直人  津田寛治  竜雷太  光石研  石井トミコ  吉行和子  研ナオコ
 ビックコミックスピリッツに連載されていた浦沢直樹さん作の漫画の映画化です。全3部作が予定されており、今回は2000年12月31日血の大晦日までが描かれます。
 子どもが読んでいた漫画を何気なく読み始めたらすっかり引き込まれてしまい、今では全巻が揃っている有様。ラストは浦沢さん、拡げた風呂敷を畳めなくなってしまったかという感がしますが、それでも最後までおもしろく読みました。ちょうど主人公たちと同じ年代で、描かれる少年時代の様子は自分たちの子どもの時と同じということもあったのでしょうか。夢中になってしまいました。お婆さんが店番をしている駄菓子屋さんもあったんですよね。
 漫画を読んでいる人にとっては、話にすっと入っていくことができますが、漫画を読んでいない人にとっては、現在、過去を行ったり来たりで描いているので、背景を理解するのがわかりにくいかもしれません。特に最初のシーンは2015年の刑務所からですからねえ。
 主人公ケンヂ役は唐沢寿明さん、ユキジは常磐貴子さんが演じます。そのほか主要登場人物を演じている役者さんたちが原作のイメージどおりなのには笑ってしまいました。中でもフクベエを演じた佐々木蔵之介さんとか、ヤン坊・マー坊を演じた佐野史郎さん、ヨシツネを演じた香川照之さんは最高ですね。やっぱり、原作のイメージというのは大きいので、イメージとまったく異なる役者さんが演じたら、原作とは違う映画になってしまう気がします。そういう意味ではこの映画は、これらの役者さんを配役した時点で、ある程度成功したといえるでしょうね。
 それは子役についても同じです。オッチョ役を演じた子なんて、顔つきが将来のオッチョを想像させるほどぴったりでした。
 監督は今回の第1作は原作に沿って作ったと言っていましたが、さて、問題はこの後です。来年1月公開の第2作は、第1作と並行して撮影されていたようですが、すべてが明らかとなる第3作はどうなるのでしょうか。“ともだち”の正体は原作と変えるのか、それとも原作どおり○○くんなのか、今から気になるところです。
幸せの1ページ(20.9.12)
監督  ジェニファーフラケット&マーク・レヴィン
出演  ジョディ・フォスター  アビゲイル・ブレスリン  ジェラルド・バトラー  
 いつも眉間に皺を寄せているという印象が強いジョディ・フォスター。今までの映画もアカデミー賞を取った「羊たちの沈黙」をはじめ、「パニック・ルーム」「フライトプラン」「ブレイブワン」と、演じるのは気の強い女性ばかり。もともとハーバード大学卒業の才媛という理知的な女性ですから、そんな役ばかりになるのも無理ないところでしょうか。。
 ところが今回、彼女が出演したのはコメディータッチの作品です。ジョディーが演じるのは引き籠もりで潔癖性の人気冒険小説家です。引き籠もりの冒険小説家という設定からして笑いを誘います。彼女が孤島に父親の海洋学者と住む女の子から救助を求められたことから、冒険の旅が始まります。いつものように、毅然と困難を乗り越えていくジョディーと違って、やることなすことうまくいかず、あたふたするジョディ・フォスターもいいですね。笑顔も素敵で、なかなかチャーミングです。
 救助を求める女の子を演じるのは、「リトル・ミス・サンシャイン」で見事な演技を披露したアビゲイル・ブレスリンです。「リトル・ミス・サンシャイン」のときはおなかがぽっこりの体型で美少女コンテストを目指す少女をかわいく演じていましたが、あれから2年がたって、背も伸び、いくらか細くなった感じです(もちろん、まだまだ少女体型ですが)。父親の無事を祈って健気に一人で頑張る演技が相変わらずうまいですね。
 この映画では人間だけでなく、動物たちも見事な演技を見せています。アシカのセルキー、トカゲのフレッド、ペリカンのガリレオと、もちろんその動きにはCGもあるのでしょうが、彼らなくしてこの映画の成功はなかったでしょうね。空を飛ぶフレッドの表情には思わず笑ってしまいました。
おくりびと(20.9.14)
監督  滝田洋二郎
出演  本木雅弘  広末涼子  山崎努  吉行和子  余貴美子  笹野高史  山田辰夫  杉本哲太
(ネタバレあり)
 所属していたオーケストラが解散し、自分の才能に見切りをつけて、妻を連れて故郷へと戻ってきた小林大悟。新聞広告に載った「旅のお手伝い」という求人広告に誘われて訪れたNKエージェント。社長の勢いに押されて入社してしまったが、そこは何と葬儀社の下請けで納棺を請け負う会社だった。大悟は妻に本当の仕事を隠して勤め始めたが・・・
 「死」というものを描いているためか、劇場内は年配の客がほとんどでした。僕自身もしだいに「死」というものを考えるような年齢になってきたこともあって、興味を持って劇場にやってきました。とはいえ、身近に「死」というものを経験していないので、葬儀を行ったことはなく、納棺師というような職業があることは知りませんでした。劇中、広末涼子演じる大悟の妻が、彼が納棺師をしていることを知り、汚らわしいと罵倒する場面や、幼なじみがもっとましな職業に就けと言う場面があります。下賤な職業という認識が一般の人にはあることを端的に示しているのでしょう。しかし、この映画で納棺師が行っていることをみると、逆に崇高な仕事という感じがします。妻を亡くした男が、化粧を施された妻の顔を見て、今までで一番きれいだと涙を流し大悟たちに感謝する姿にそれを見ることができます。
 大悟を演じたのは本木雅弘さん。夢破れて故郷に戻り、ひょんなことから納棺師になることとなった男をユーモラスに、かつ、感動的に演じます。そんな大悟の妻を演じるのは広末涼子さん。本木さんとではちょっと夫婦としては歳が離れすぎていますが、本木さんが若く見えることもあって、以外にお似合いの夫婦です。そのうえ、広末さんも本木さんに胸を揉まれるシーンを演じるなど、いつもより大胆に大人の女性を演じています。広末さんももう28歳ですからね。いつまでもキャンキャンした役をしていられませんものね。
 最後の父親の死は必要があったのかなという気はします。すでに大切な人である吉行和子演じるツヤ子の死を納棺師として迎えているのですから、それに加えて行方不明の父親の死を持ち出さなくてもよかったのではと思うのですが。確かに、父親の手に握られていたものが大悟が幼い頃父親に渡した石だったとわかったところは感動でしたけど。
 「納棺師」という厳粛な職業をテーマにしながら、ユーモアもそこかしこに見られます。特に大悟が初めて納棺師としての作業で遺体を拭く場面で、あれっ(?)となるところです。顔が女性なのについていてはねえ。思わず笑ってしまいました。
ウォンテッド(20.9.14)
監督  ティムール・ベクマンベトフ  
出演  ジェームズ・マカヴォイ  アンジェリーナ・ジョリー  モーガン・フリーマン  テレンス・スタンプ
     トーマス・クレッチマン  コモン  コンスタンチン・ハベンスキー  マーク・ウォーレン
 パニック障害で、上司には無能と責められ、友人には彼女を奪われるうだつの上がらぬ青年ウェスリー。スーパーマーケットで彼の命を狙った男から彼を救ったフォックスに連れられて行ったところで会ったのは、スローン。スローンは何年もの昔から存在するフラタニティという暗殺者集団があり、彼の父親もその組織の暗殺者の一人であったが、最近殺されたと話す。そして彼に父親を殺したクロスという男を倒すよう組織に勧誘する。
 ウェスリーを演じたのは「ナルニア国物語 第1章ライオンと美女」で半人半獣の“タムナスさん”を演じていたジェームズ・マカヴォイ。気弱そうな表情で背も高くないマカヴォイにとって、ウェスリーは役柄的にはぴったりだと思うのですが、主役としての存在感はいまひとつ。いかんせん、共演者がアンジェリーナ・ジョリーですからねえ。あの濃い顔とスタイルで主役以上に存在感は抜群。闘う女を演じさせると右に出るものはないですね。あの長い足ですくっと立たれると、うっとりと見つめてしまいますよね。そのうえアクションシーンも格好良いのでマカヴォイくんはすっかり喰われてしまっています。
 監督は「ナイト・ウォッチ」「デイ・ウォッチ」のティムール・ベクマンベトフ。この2作で認められてのアメリカ映画進出ですが、そこかしこにこれらの映画と同じ雰囲気が感じられましたね。特に、人を撃ち抜いた弾が逆回しで撃つところまで戻るシーンに強く感じられました。
 また、この2作で主人公を演じていたロシア人俳優コンスタンチン・ハベンスキーも出演していましたが、ちょっと影が薄かったですね。パンフレットを見るまでは、彼だと気づきませんでした。
 スローンを演じたモーガン・フリーマンは、今回は前作の「最高の人生の見つけ方」の人のよい普通の男と異なって渋いワル役。何を演じてもうまいですね。しっかり脇を固めています。
 そのほか、懐かしい顔としてテレンス・スタンプが重要な役どころで出演していました。 
 とにかく、マカヴォイの映画というよりアンジェリーナ・ジョリーの映画でした。
イキガミ(20.9.27)
監督  瀧本智行
出演  松田翔太  柄本明  笹野高史  劇団ひとり  塚本高史  金井勇太  りりィ  北見敏之
     風吹ジュン  佐野和真  塩見三省  山田孝之  成海璃子  井川遥
 この作品の描く日本では「国家繁栄維持法」に基づき、小学校入学時の予防接種によって1000人に1人の確率でその体内に「ナノ・カプセル」が注入され、その者が18歳から24歳の間に体内で破裂し、その命を奪うことになっていた。それは、死の恐怖を国民に与えることにより、生命の価値に対する意識を高めるためとされていた。死亡予定者には24時間前に死亡予告証、通称“イキガミ”が届けられることになっていた。この作品は、“イキガミ”を死亡予定者に届ける厚生保健省の役人、藤本を主人公に、彼がイキガミを届ける3人の男女の物語を描きます。
 読んだことはありませんが、この作品も、現在上映されている「20世紀少年」と同様、漫画を原作とした作品です。
 この映画を観て考えるのは、やはり自分自身または家族に“イキガミ”が届けられたらどうするだろうかということ。愛していると告白できなかった人に「好きです」と告白する、それとも憎く思っていた人を殺す?いやいや、犯罪は駄目ですね。犯罪行為を行うと、せっかくの遺族年金は出ないし、残された家族は相手に賠償金を払わなくてはなりませんから。この作品のエピソードのように人それぞれ違うのでしょうが、残された時間はわずか24時間ですから、あまりに短すぎます。確かに、そういう可能性があるから一日一日を大切に生きろというのは説得力があります。でも、人間なんて勝手なものですから、自分がその該当者である可能性があっても、自分であるわけがないと考えてしまうものです。前もって心掛けをする人なんているわけないでしょうね。「どうして死ななくてはならないんだ!!!」と、ひたすら嘆くことで時間を費やしてしまうか、あるいはショックでボゥ〜としてしまうかというのが実際のところではないでしょうか。
 そのうえ、その死がその者の責任とは関係なく与えられるものであることは、あまりに理不尽。国家のために普通の個人が犠牲になるなんて、「お国のために死ね」と教育されていた戦前と同じです。ある意味、死んだ人は生贄になったようなものです。
 松田翔太演じる藤本が届ける“イキガミ”は3枚。3つのエピソードのうち、最初のストリートミュージシャンのエピソードと3つ目の兄と盲目の妹のエピソードは非常にわかりやすいストレートな観客の涙を誘う物語です。2話目の国家繁栄法を支持する国会議員の母親と引きこもりの息子のエピソードは、若き頃は思想犯だったという母親の過去が語られないため、母親が“イキガミ”を受け取った息子さえ選挙のために利用しようとする話が薄っぺらな感じがしてしまいます。時間の関係で描ききれなかったのか、それとも元々原作もこのとおりなのか興味あるところです。
 しだいに制度に疑問を持ち始める藤本を描いていきますが、この終わり方だと、今回観客が入れば続編も期待できそうです。
アイアンマン(20.9.27)
監督  ジョン・ファヴロー
出演  ロバート・ダウニーJR  テレンス・ハワード  ジェフ・ブリッジス  グウィネス・パルトロー
     ショーン・トープ  ファラン・タヒール  レスリー・ビブ
 実業家であり、天才的な発明家でもあるトニー・スタークは、父親から引き継いだ武器製造の大企業スターク・インダストリーズのCEO。ある日、自社の開発した新型兵器のデモンストレーションにアフガニスタンに行った際、テロ集団によって襲われ囚われの身となってしまう。テロ集団のリーダーから武器製造を強要されたトニーは、同じく囚われの身となっていたインセンとともにパワードスーツを開発して、どうにか脱出に成功する。テロ集団が使用していた武器が自分の会社の製品であることを知ったトニーは、武器製造からの撤退を表明し、改良したパワードスーツを着用して悪と戦おうとするが・・・
 「スパイダーマン」やこの夏上映されていた「インクレディブル・ハルク」同様、マーベルコミックからのヒーローものの映画化です(「インクレディブル・ハルク」のラストには、アイアンマンのトニー・スタークがおまけで登場していましたね。)。
 主人公大企業のCEOであったトニーが、アイアンマンとして悪と闘っていくという点では、主人公が同じく大企業の社長である「バットマン」と設定が同じですが、人間的に深く悩み苦しむ主人公の心を描く「バットマン」と異なって、こちらの「アイアンマン」は自分の武器によって人々が殺されることに心揺さぶられて後悔はしますが、「では、パワードスーツで悪と闘いましょうか」という感じで、そんなに暗いトーンの映画ではありません。観客としては、あまりいろいろ考えずに楽しんでくださいという映画です。
 そんな割と軽めのタッチの映画にしては、出演者たちは豪華です。何といっても、一番はトニーの秘書役ペッパー・ポッツを演じたグウィネス・パルトローです。最初に「セブン」で見た当時は、ブラッド・ピットの恋人ということばかりが先行していましたが、「恋に落ちたシェイクスピア」でアカデミー賞主演女優賞を受賞して、今では大女優といってもいいのでしょう。そんな彼女が、こうしたアメコミ・ヒーローものの映画に出演したことは意外な感じです。それほど美人というわけではありませんが、今回の映画の中では、なかなかチャーミングな女性を演じています。こんな役もするんだと再認識しました。
 忘れてはいけない(笑)。主人公トニー・スタークを演じたのはロバート・ダウニーJRです。この人は、「チャーリー」でアカデミー主演男優賞にノミネートされながら、その後薬物中毒で鳴かず飛ばずの人だったのですが、どうやら最近は中毒を克服したようで、いろいろな映画に顔を見せるようになってきましたね。僕としては、「ワン・モア・タイム」がすごく印象的だった俳優さんなので、再登場はうれしいところです。
 エンドクレジットが始まると、席を立つ人が多いのですが、今回は親切にもエンドクレジットの後にも場面があることが出たため、皆さん最後まで席にいました。僕自身にはわからなかったのですが、サミュエル・L・ジャクソンが登場するそのシーンは、アメコミに詳しい人にとってはアメリカ映画の遊びの演出がわかるシーンだったようですよ。
容疑者Xの献身(20.10.4)
監督  西谷弘
出演  福山雅治  柴咲コウ  北村一輝  堤真一  松雪泰子  渡辺いっけい  真矢みき
     品川祐  ダンカン  長塚圭史  金澤美穂
 直木賞を受賞した東野圭吾さんの同名小説の映画化です。
 「容疑者Xの献身」が映画化されると知って一番気になったのは、石神を誰が演じるかということでした。聞こえてきたのは石神役は堤真一さんが演じるということでした。小説に描かれる石神の容貌は、“ずんぐりした体型で、 顔も丸く、大きい。そのくせ目は糸のように細い、頭髪は短くて薄く、そのせいで五十歳近くに見えるが・・・”で すから、堤さんとはタイプが違うだろう、原作の趣を損ねてしまうのではないかと危惧したのですが。いやぁ〜意外 にもよかったですねえ。ずんぐりとした体型というわけにはいかなかったですが、背を丸めて猫背のところなんて、 役柄にぴったりのイメージでした。髪の毛も抜いたりしたそうで、さすがに役者さんだなあと感心してしまいました 。
 小説では湯川とともに、メインキャラクターである草薙刑事ですが、テレビドラマでは湯川とコンビを組むのは柴崎コウさん演じる内海刑事で、草薙は脇役で時々顔を見せる程度でした。しかし、今回の映画では内海とともに出ずっぱりです。演じたのは北村一輝さん。あの濃い顔はどうも悪役向きだと思えて、僕自身の草薙のイメージとはほど遠いのですが。
 そんな草薙の割を食ったのは、内海刑事です。もちろん、柴咲コウさんが演じていますから、それなりに出番はあるのですが、北村さんと一緒に登場のシーンが多かったですね。ついでに言えば、テレビで内海刑事とコンビを組んでいた弓削刑事役の品川庄司の品川さんは、それ以上に出番がなくほんの1シーンだけでした。
 小説では論理的に割り切れないものには興味がない湯川が、人間臭いところを見せる作品となっていますが、映画でもその点は福山さんがうまく演じていました。やっぱりいい男は憂いを見せる表情もかっこいいです。
 とにかく、予想以上に原作の良さを失っていない映画でした。堤さんに拍手です。
イーグル・アイ(20.10.18)
監督  D・J・カルーソ
出演  シャイア・ラブーフ  ミシェル・モナハン  ロザリオ・ドーソン  マイケル・チクリス
     ビリー・ボブ・ソーントン  アンソニー・マッキー
レッドクリフ(20.11.1)
監督  ジョン・ウー
出演  トニー・レオン  金城武  チャン・フォンイー  チャン・チェン  リン・チーリン  ヴィッキー・チャオ
     フー・ジュン  中村獅童  ユウ・ヨン  バーサン・ジャプ  ザン・ジンシェン  ホウ・ヨン
 ジョン・ウー監督の新作は、三国志の世界を描いたもの。その中でも、題名が「レッドクリフ」ということからわかるように、有名な「赤壁の戦い」を描いた作品です。
 三国志といえば先ず思い浮かべる人物は、“諸葛亮孔明”です。蜀の君主、劉備の懐刀として、その英知が天下に聞こえた人物です。「三顧の礼」とか「泣いて馬謖を斬る」などの故事成語でも孔明は有名です(受験勉強も役に立つ!)。三国志をよく知らなくてもこの人物だけは知っているというくらい有名な人ですよね。演じるのは、金城武。ちょっと線が細いという嫌いはありますが、中国語が堪能だけあって、堂々とした演じぶりでした。
 そのほか、劉備と義兄弟の契りを結んだ関羽、張飛の三国志でもお馴染みの人物も登場します。張飛は見事な髭と大きな声が特徴の思い通りの人物に描かれていたのもうれしいところです。序盤、劉備の妻子を助けるために敵陣の中に突撃し獅子奮迅の活躍を見せた趙雲もいいですねえ。
 三国志のヒーローたちがこの映画の中でも、一人ずつその活躍シーンが描かれます。戦乱の中で、わざわざ一人ずつが登場して戦うわけないだろう!と突っ込みたくなりますが、まあそれはそれ、三国志ファンには嬉しいところでしょう。
 トニー・レオンが演じたのは、蜀と同盟を結ぶ呉の周瑜です。恥ずかしながら、この人物のことは知りませんでした。受験の世界史に出てきたかなあ。でも映画の中では孔明と対を張るのですから、それなりの人物だったのでしょう。
 そんな周瑜より、気になったのは、周瑜の妻であり絶世の美女とされた小喬です。演じたのは映画初出演のリン・チーリンですが、さすが絶世の美女役を演じただけあって綺麗な人でした。今後人気が出そうです。
 とにかく、人員を動員する中国映画らしいスケールの大きな映画で、ワイヤーアクションの見せ場もあります。ワイヤーアクションでは周瑜の部下甘興を演じた日本人俳優の中村獅童も頑張っていました。派手な活躍シーンで、クレジットでは特別出演となっていましたが、おいしい役でしたねえ。
 映画は、いよいよ席へ気の戦いが佳境に入るかというところで“パート2に続く”となってしまいました。続き物だったとは知りませんでした。どおりで、終演時間が近づいているというのになかなか戦いが始まらなかったはずです。パート2は来年4月公開予定です。早く観たい!!
Xファイル:真実を求めて(20.11.8)
監督  クリス・カーター
出演  デヴィッド・ドゥカブニー  ジリアン・アンダーソン  アマンダ・ピート  ビリー・コノリー
     ミッチ・ピレッジ  アルヴィン“イグジビット”ジョイナー
 大ヒットしたテレビシリーズが終了してはや6年。いまさらというか映画化第2弾が公開されました。
 最後は大きく広げた風呂敷を畳むことができなくなってしまった感のあるテレビシリーズですが、個人的には大好きで、ビデオレンタルされると急いで借りに行ったものでした。
 オタクのモルダーと理性的なスカリーのコンビがうまくこのシリーズの雰囲気にはまっていましたね。今回の映画では、テレビ終了後時間が流れたように、映画の中の時間も同様に過ぎています。二人ともFBIは辞めており、モルダーは引き籠りの中年男になっており、一方スカリーは医者としてキリスト教系の病院に勤務しています。そんな二人の元にFBIから協力要請がきます。FBI捜査官が失踪した事件に不思議な能力を持った神父がかかわっているというのです。
 期待して観に行ったのですが、正直期待外れです。テレビシリーズでは、宇宙人、超能力、異生物等々不思議な謎満載で、今回は何だろうとワクワクして見ていたのですが、この映画の謎はいまひとつ。昨日映画化第1弾がテレビで放映されましたが、それと比べてもかなりスケールが小さい話となっています。
 それより、この映画は、テレビシリーズでは中途半端だったモルダーとスカリーの男女関係がはっきり描かれているところがファンにとっての見どころと言えます。二人が同じベットに入っているシーンとか、ちょっとドッキリするようなセリフもあります。
 終盤にかつてFBIでモルダーたちの上司であったスキナーが登場するのも、ファンにとってはうれしいところです。
ブラインドネス(20.11.22)
監督  フェルナンド・メイレレス
出演  ジュリアン・ムーア  マーク・ラファロ  アリス・ブラガ  伊勢谷友介  木村佳乃  ドン・マッケラー
     モーリー・チェイキン  ミッチェル・ナイ  ダニー・グローヴァー  ガエル・ガルシア・ベルナル
(ちょっとネタバレ)
 突然目の前が白い闇となり、目が見えなくなるという奇病が発生。最初に車を運転していて目が見えなくなった日本人男性に接した人は同じように目が見えなくなり、次第にそれは伝染病のように広がっていく。ねずみ算式に患者は増えていく中で、政府は伝染を防ぐために、患者を元病院の建物に収容する。政府によって隔離された人々は共同生活を始めるが、そこで繰り広げられたのは、人間社会の縮図そのものだった。
 自分を王と名乗り、食糧を自分たちのものとし、食糧の見返りに女性を陵辱する男たちなど、あまりに醜い人間の姿が描かれていて、子どもたちには見せたくない映画です。
 観る前は、ただ一人目が見える女性が何か未知のものと戦うホラー映画かと思っていたのですが、違いました。目が見えなくなった原因は何ら明らかにされず(一人の女性だけ目が見える理由も明らかにせず)、目が見えないことで、より本性が剥き出しになった人間たちを描く人間ドラマでした。しかし、収容施設内のことも人間ってこんなものと嫌悪感を感じるだけの映画で、これといって心に訴えるわけでもなし、かといって結局ホラーやサスペンスでもなかったし、期待はずれだったというのが正直な感想です。それにしても、あの突然のラストはいったい何だったのでしょう。
 一人だけ目が見える医者の妻を演じたのは、ジュリアン・ムーアです。ヌードも見せての熱演でした。最初に目が見えなくなった日本人男性を伊勢谷友介、その妻を木村佳乃と日本人俳優が出演しています。外国の映画に日本人俳優が出演し活躍しているのは、日本人としてうれしいですね。
 そういえば、この感想を書くためにパンフレットを見たら、登場人物たちはみな名前を持っていませんでした。ジュリアン・ムーアは“医者の妻”、伊勢谷さんは“最初に失明した男”、木村さんは“最初に失明した男の妻”といった具合です。そうでしたっけ。みんな相手をどう呼んでいたのでしょうか。全然気づきませんでした。
1408号室(20.11.23)
監督  ミカエル・ハフストローム
出演  ジョン・キューザック  サミュエル・L・ジャクソン  メアリー・マコーマック  ジャスミン・ジェシカ・アンソニー
 主人公のマイク・エンズリンは売れない作家。かつては、親子の交流を描いた小説も書いていたが、娘を亡くしたショックから妻とも別れ、今では心霊場所のルポをしながらオカルト小説を書いて生活をしている。ある日、彼の元に届いた一枚のハガキからドルフィンホテルの1408号室を知ったマイクは、支配人が止めるのも聞かず、強引に1408号室に宿泊する。そこは宿泊した56人の客がすべて死亡している部屋だった。
 マイクを演じるのはジョン・キューザック。昨年は「さよなら、いつかわかること」で妻の死を子どもたちに伝えられず苦悩する父親役を演じていました。今回も彼が演じるのだからホラーといいながらも人間ドラマの要素も大きいのではと思いましたが、単に娘を亡くしたことから心にトラウマを抱えた男が恐怖を味わうホラー映画でした。
 怖がらせ方も音でびっくりさせたりと従来のホラー映画のとおり。1408号室がどうしてこのような状態になったのかの説明もなかったし、ホラーとしての怖さもあまりなかったですね。ホテルの支配人を演じたサミュエル・L・ジャクソンの方が、よほど不気味で怖かったです。
 原作はスティーヴン・キングの短編「1408号室」です。スティーヴン・キングの作品は映画化すると評判があまり良くないのですが、今回も映画自体はいまひとつのでき。それとも、そもそも原作自体がいまひとつの作品だったのでしょうか。
SAW5(20.11.29)
監督  デイヴィッド・ハックル  
出演  トビン・ベル  コスタス・マンディラー  スコット・ラターソン  ベッツィ・ラッセル  マーク・ロルストン
     カルロ・ロータ  ジュリー・ベンス  グレッグ・ブリク  ローラ・ゴードン  ミーガン・グッド
 シリーズも第5作となりました。1作目のラストに大いに驚き、それからズルズルとその後のシリーズ作品も観ているのですが、次第に内容がどれだけ衝撃的な殺し方をするのかを見せることが主体になってきたような気がします。観ているだけで、こちらが苦痛を感じてしまうほどです。
 3作目でジグソウも死亡し、どうなるのかと思ったら4作目にはジグソウの後継者が登場する思わぬ展開でシリーズは続いています。今回の5作目は、その続きとなりますが、ラストの衝撃度はそれほどでもありません。予想通りの終わり方と言っていいでしょう。さすがに、ここまでくると、ちょっとダレ気味という感は拭えません。
 6作目の制作を考えて作られているようで、ジグソウの元妻がジグソウから贈られた箱の中身は最後まで明らかにされず、謎を残したままです。これからすると、6作目は元妻が大きな役割を果たしそうです・・・。
 いったいどこまで続くのでしょう。いい加減、映画館まで観にいくのはやめようかなと思ってしまいます。
地球の静止する日(20.12.20)
監督  スコット・デリクソン
出演  キアヌ・リーブス  ジェニファー・コネリー  ジェイデン・スミス  ジョン・ハム  キャシー・ベイツ
 1951年制作の「地球の静止する日」のリメイクです(とはいえ、旧作を見ていないのですが。)。
 突然宇宙からやってきた飛行物体から下りてきた宇宙人。パニックから取り囲んでいた兵士、警官の誰かが銃撃してしまい、病院へと運ばれる。宇宙服らしきものの中から現れた生命体はしだいに人間の体をなし、言葉を発するようになり、自らをクラトゥと名乗る。一方クラトゥが銃撃されたときに宇宙船から現れたロボットは、驚異的な破壊力を見せる。果たして彼は地球人の敵なのか味方なのか。
 予告編で観たCGの凄さに期待して観に行ったのですが、僕自身の評価としては期待はずれでした。ロボット(でいいのかな?)にしても、初めて登場してきたときは昔懐かしい形のロボットかなと思いましたが、あんな形に変わってしまうとは・・・。あれではアメリカの軍隊だってかないませんよ。
 人間の優しい気持ちを感じて、心が動かされるというのは、ワンパターンな展開で先が読めてしまいました。まあこういうラストでなくては困るのですが。
 クラトゥを演じるのはキアヌ・リーヴスです。元々あまり人間臭さを感じさせない端正な表情なので、今回の冷たい雰囲気の宇宙人役にはぴったりです。近作では冷たい刑事役も演じるようですし、どうもこのところ感情を見せない役ばかりですね。
 地球外生物を研究する女性科学者を演じたのはジェニファー・コネリーです。また、女性の国防長官役で「ミザリー」のキャシー・ベイツが登場しています。そこら辺の男よりずっと貫禄あります。
ワールド・オブ・ライズ(20.12.23)
監督  リドリー・スコット
出演  レオナルド・ディカプリオ  ラッセル・クロウ  マーク・ストロング  ゴルシフテ・ファラハニ
     オスカー・アイザック  サイモン・マクバーニー  アロン・アブトゥール  アリ・スリマン
 世界中を飛び回り、死と隣り合わせの危険な任務に身を削るCIAの工作員フェリス。一方、彼の上司はアメリカの本部や自宅など平和で安全な場所から指示を送るベテラン局員ホフマン。そんな彼らは、国際的テロ組織のリーダー、アル・サリームを捕獲するという重要任務にあたっていた。やがて、命懸けで組織の極秘資料を手に入れ重傷を負ったフェリスに、ホフマンは、資料による情報のもと、次なる目的地ヨルダンへ向かうことを命じる・・・
 中東で活動するCIAの工作員ロジャー・フェリスを演じるのは、レオナルド・ディカプリオ。「タイタニック」のときのような子供っぽい表情はすっかり影を潜めました。このところ、ディカプリオの出演作は硬派なものばかり。無精髭があるからというわけではありませんが、男臭さたっぷりの表情に頼もしさを感じるようになってきました。いい俳優になってきましたね。 一方、フェリスの上司ホフマンを演じるのは、アカデミー賞俳優のラッセル・クロウです。相変わらず何を演じさせても存在感たっぷりの俳優ですが、今回は体重を20キロほど増やしての熱演です。この二人が、一人はテロリストと直接対峙する危険な場所での活動を行うのに対し、一人ははるか離れたアメリカの安全な地から電話で指示を送るだけという対照的な立場を演じるのが見どころでしょう。
 そんな二人以上の存在感を見せつけたのは、ヨルダン総合情報総局の局長ハニ・サラームを演じたマーク・ストロングです。高級そうなスーツに身を包み、紳士風でありながら表情を変えず容赦ない過酷さを見せつけるハニ・サラームの役柄にぴったりの容貌でした。
 リドリー・スコットらしい硬派な映画でしたが、やっぱり男は愛する女性のために行動してしまうものですかねえ。
K−20 怪人二十面相・伝(20.12.30)
監督  佐藤嗣麻子
出演  金城武  松たか子  仲村トオル  國村隼  高島礼子  本郷奏多  今井悠貴  益岡徹
     鹿賀丈史  要潤  嶋田久作  小日向文世
 北村想さん原作「怪人二十面相・伝」の映画化です。とはいっても、映画は原作とはまったく違うものと考えた方がいいでしょう。原作ではサーカスの曲芸師の男が怪人二十面相となり、明智小五郎との闘いで傷つき姿を消すまでを、そして、続編の「怪人二十面相・伝 PARTU」では、怪人二十面相の名跡を継いだ男の一生を描いた話となっています。しかし、映画では怪人二十面相の正体は誰かという点に焦点が当てられていますし、そもそも映画の舞台が第二次世界大戦を行わなかった日本というパラレルワールドの話になっています。
 パラレルワールドの日本、そこでは華族制度が残り、厳然とした身分制度の下、社会の下層では貧しい人たちが食うや食わずの生活をしています。主人公は怪人二十面相に騙され、怪人二十面相に仕立て上げられてしまったサーカスの曲芸師遠藤平吉です。彼は生活のため、盗人長屋に住むサーカスのカラクリ師源治から渡された盗人教本をお手本に盗賊の修業をします。その最中、二十面相に襲われた羽柴財閥の令嬢・葉子を助けた平吉は、葉子の婚約者である明智小五郎とともに二十面相の計画を阻止しようとする。
 平吉を演じるのは、金城武。2008年は「レッドクリフ」で孔明を演じるなど活躍が目立ちます。今回の平吉役はちょっとかっこよすぎですけどね。
 名探偵明智小五郎は、原作では江戸川乱歩の小説とは異なって、嫌な感じの人物に描かれていましたが、その点は映画でも同じですね。上流階級の気障な男という感じです。演じたのは仲村トオル。先月まで放映されていたテレビの「チーム・バチスタの栄光」での白鳥役は幾分無理がありましたが、今回の仲村さんの明智は原作に一番合っていたのではないでしょうか。
 原作にはない葉子を演じたのは松たか子。跳ねっかえりのお嬢さん役を演じると、松さんうまいですよねえ。なかなかかわいいです。