▲2007映画鑑賞の部屋へ

ディパーテッド(19.1.20)
監督  マーティン・スコセッシ
出演  レオナルド・ディカプリオ  マット・デイモン  ジャック・ニコルソン  マーティ・シーン
     マーク・ウォールバーグ  ビーラ・ファーミガ  アレック・ボールドウィン
     レイ・ウィンストン  アンソニー・アンダーソン
(ちょっとネタバレあり)
 アンディ・ラウとトニーレオンの共演で大ヒットした香港映画「インファナル・アフェア」のハリウッド・リメイク版です。
 ブラッド・ピットが惚れ込んだが、さすがにブラビ自身が主演では年齢的に無理ということで、ブラピはプロディーサーに回り、今回主演するのはレオナルド・ディカプリオとマット・デイモンです。オリジナルでトニー・レオンが演じた役をディカプリオが、アンディ・ラウが演じた役をマット・デイモンが演じます。
 そして、この二人が霞んでしまう演技を見せるのはアイルランド系のギャングのボス役を演じたジャック・ニコルソンです。オリジナルでも、ギャングのボス役はアクの強い印象的な役柄でしたが、この作品ではなおいっそう強烈なキャラクターで観客の目を惹きつけます。まあ、あのジャック・ニコルソンが演じるのですから、周りの人が霞んでしまうのは無理のないところです。
 しかし、ディカプリオも観るたびにいい役者になってきましたね。もちろん年齢が大人の雰囲気を醸し出すことができる年齢になってきたこともあるでしょうし、このところこの作品でも監督をしているマーティン・スコセッシとコンビを組んで、骨太の作品に出演しているせいもあるでしょう。この作品でも、警官でありながら、犯罪を犯さなくてはいけない苦悩、自分が警官であることが露見するのではないかと恐れる男を見事に演じています。ディカプリオとマット・デイモンを比べると、今回の作品ではディカプリオの勝ちでしょうか。
 そのほか、ディカプリオに潜入捜査を命じる警部と巡査部長にマーティン・シーンとマーク・ウォールバーグが、マット・デイモンの警察での上司の警部にアレック・ボールドウィンが出演するなど、出演陣は豪華です(マーク・ウォールバーグが途中で退場してしまって、あれれどうしたのかと思ったら・・・)

 ストーリー自体は、リメイク版ということでオリジナルとほとんど変わるところはありません。パンフレットの中に掲載されている監督のマーティン・スコセッシへのインタビューによると、『「インファナル・アフェア」3部作から拝借したのは「潜入捜査をするふたり」というプロットだけで、わたし自身が強く惹かれたのは、「信頼と裏切り」というテーマだ。だから結果的にはまったく別の作品になったんじゃないかな。』と言っているし、同じくパンフレットに掲載されている映画文筆業の人も「リメイクは多くの細部を原作に借り受けながら、全く別種の世界を作り上げている。」と述べていますが、一般人である私にとっては、“別の作品”とまでは思えなかったというのが正直な印象です。ただ、オリジナルでは、ふたりの間には立場を同じくするものという共感が心の奥底に流れていたのですが、リメイクにはそれは感じられませんし、また、ジャック・ニコルソンをマット・デイモンが殺す理由にも大きな違いがあります。さらには、ラストはまったく違うものとなっています。このラストは賛否両論でしょうね。このラストによって、見終わった後の余韻はオリジナルとはまったく違ってしまいましたからね。この点を取り上げれば、確かにオリジナルとは違う作品とも言えるのでしょうが・・・。
 僕としては、あんな割り切ったラストよりも、オリジナルのラストの方が好きですし、オリジナルの方が印象的でした(リメイク版はストーリがわかっているという不利益はありますが)。とはいえ、2時間30分の上映時間を出演陣の豪華さとその個性で飽きずに観ることができる作品です。

※ラストでマット・デイモン演じるコリンの部屋のベランダにネズミが現れるというのはちょっと滑稽。
リトル・ミス・サンシャイン(19.1.28)
監督  ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファレス
出演  アビゲイル・ブレスリン  グレック・キニア  ポール・ダノ  アラン・アーキン
     トニー・コレット  スティーヴ・カレル
 先日発表された第79回アカデミー賞ノミネートでは、作品賞を始めとして、脚本賞、助演男優賞にアラン・アーキン、助演女優賞にアビゲイル・ブレスリンがノミネートされました。
 映画は崩壊しかけている家族の再生の話です。だからといって、深刻な映画ではなくユーモアたっぷりで観ていて楽しい映画でした。
 おなかぽっこりの幼児体型とメガネの女の子で美少女コンテストとはほど遠い雰囲気なのに、コンテストでの優勝を夢見る長女のオリーブ。空軍のパイロットになることを希望している15歳の長男のドウェーン。彼はニーチェに心酔し、ニーチェに倣って“沈黙の誓い”をたて、9か月の間誰とも口をきかず、家族とも筆談をしています。「負け組になるな!」と独自の成功論を振りかざす父親のリチャードは、自分の理論を本にしようと躍起になっているが、話はうまくない方向に・・・。祖父のグランパは、ヘロイン吸引がやめられず、老人ホームから追い出される始末。さらに自称“アメリカ最高のプルースト研究者”の伯父のフランクは、ゲイで、ライバルに名誉ばかりか恋人の男性を奪われ、自殺未遂を起こしてフーヴァー一家の元にやってくる。普通なのは、母親のシェリルくらいという、フーヴァー一家です。
 そんな、変な家族がオリーブのコンテスト出場のために、なぜか全員で車で会場まで旅をすることになる、いわゆるロード・ムービーです。
 オリーブ役のアビゲイル・ブレストンは、ポスト・ダコタ・ファニングの呼び声が高まっているそうですが、ダコタ・ファニングとはチョット雰囲気が違います。あちらは美少女というイメージですが、こちらは本当に普通の女の子。ただ、あの演技力はダコタ・ファニングにも負けません。この映画の魅力のかなりの部分が彼女の演技に負うところが大きいですね。
 アカデミー助演男優賞にノミネートされたグランパを演じるアラン・アーキンもいい味出しています。言いたい放題言うグランパのキャラクターが最高です。負け犬になるとパパに嫌われると心配するオリーブに対し、グランパが言う「本当の負け犬は、負けることを恐れて何も挑戦しないヤツらだ」という言葉が、ありきたりではありますが、心に響きます。このグランパが最後の美少女コンテストである大きな存在感を見せつけるのですが、それは見てのお楽しみです。やっぱり、あの好色じいさんらしい!
 そのほか、父親役にはグレック・キニア、母親役にはトニ・コレット、フランク役にはスティーヴ・カレルらが脇を固めます。
 会場へと向かう家族が乗ったおんぼろの黄色いミニ・バスは、途中でギヤが壊れ、押しがけしないと動かなくなってしまいます。家族がみんなで車を押し、エンジンがかかると一人一人が飛び乗る姿はユーモラスです(特に、オリーブの走る姿は最高ですね(^^))。そのうえ、次にはクラクションが鳴りっぱなしになるなど旅の前途は多難。家族それぞれにも、旅の途中で試練が降りかかります。おんぼろバスがなんとなく、家族の姿を表しているかのようです。
 ラストの美少女コンテストは、あのジョンベネ殺害事件で有名になった美少女コンテストというものを皮肉っているんでしょうかねぇ。
 最後は当たり前の終わり方にはならなくてよかったです。露骨に涙を誘うような映画ではありません。でも、観ていてジワ〜と心に温かさが広がってくるような素敵な映画でした。
それでもボクはやってない(19.2.3)
監督  周防正行
出演  加瀬亮  役所広司  瀬戸朝香  山本耕史  もたいまさこ  小日向文世  尾美としのり
     高橋長英  鈴木蘭々  光石研
(少しネタバレありです)

 今年最初に観た日本映画です。周防正行監督が「シャル・ウィ・ダンス」以来11年ぶりの待望の新作です。前作の雰囲気とは一転、今回監督が作ったのは硬派な法廷映画です。
 主人公の金子徹平は就職の面接に向かう電車内で女子高校生から痴漢呼ばわりされ、警察に逮捕されます。罪を認めた方が早く釈放されるという当番弁護士の声に耳を貸さず、無実を主張した徹平は留置され、裁判にかけられることになります。
 男性は必見。痴漢をする男は厳罰に処せられるべきなのはもちろんですが、女性に痴漢だと間違えられると、男性としては違うとしか言いようがなく、非常に不利な立場に立たされます。痴漢行為は、第三者である目撃者がいるのであるならともかく、そうでなければ、結局「やった」「やらない」の水掛け論になっていしまいます。その際被害者の女性と、加害者らしき男性の言い分のどちらを信じるとしたら、やはり被害者である女性を信じる人が多いでしょうから、男性としては無実を主張するのは大変です。
 物語は徹平の警察での取り調べ、拘置所での生活、検事による取り調べ、それに続く起訴から裁判といった具合に克明に実際の手続どおりに描かれていきます。しかし、この映画を観た人は日本の司法を疑ってしまうでしょうね。警察の都合のいいように書かれる調書、容疑者を全く信じない副検事、自分を信じてくれない当番弁護士等々観ていても嫌になってしまいます。自分が同じ立場に立たされたときのことを考えると恐ろしいですね。あれでは、やっていなくても釈放されたいがために罪を認めてしまいそうです。有罪になるまでは無罪が推定されるなどとは嘘ばっかりです。机上の空論。逆に有罪が推定されてしまうのです。
 徹平には支援者もつき、様々な検証をしながら裁判に向かいます。しかしながら、裁判官の質問に的確に答えられない部分があるなど、彼が犯人かどうか観ている人には疑問が生じてきます。このあたりミステリっぽくてミステリファンとしても楽しむことができます。果たして彼は有罪なのか無罪なのか、それは劇場で観てのお楽しみです。
 徹平を演じるのは先頃「硫黄島からの手紙」の中で、心優しき故に憲兵隊から追いやられた兵士役を演じた加瀬亮。彼を助ける弁護士役には「シャル・ウィ・ダンス」の役所広司と瀬戸朝香。そのほか徹平の友人を斉藤達雄役を山本耕史が、母親役をもたいまさこが演じています。また裁判官役として正名僕蔵と小日向文世が登場しますが、彼の話をよく聞いてくれる正名と強硬な訴訟指揮で被告の言い分を聞こうとしない小日向といった具合で好対照です。小日向さんの演じる裁判官の被告人への質問が的確なだけに憎たらしいこと。でも、これだけ裁判官の印象が異なると、裁判官によって判決が大きく変わるのではないかという印象を持ってしまいますね。
 この映画は、痴漢という犯罪を扱っていますが、監督が描きたかったのは痴漢という犯罪自体ではなく、日本の司法制度だったのでしょう。それゆえ、監督は日本の裁判制度を忠実に描いているのでしょう。2年後に国民が裁判に参加する裁判員制度が始まりますが、今まで職業裁判官によって維持されてきた裁判制度が素人の参加によって上手く機能していくのか疑問があります(もちろん、逆に裁判所という狭い世界に住む裁判官に、一般国民の普通の考え方はこうだということを教えるといういい面はあるのでしょうが。)。 

 何はともあれ、男性は満員電車に乗ったら両手で吊革につかまっていた方がいい、又は片手は鞄などを持っていた方が無難だということを教えてくれる映画です。いつ自分自身が痴漢と間違えられるかわかったものではありませんから。
 ちなみに、刑法の強制わいせつ罪に至らない痴漢行為は、各都道府県が制定しているいわゆる迷惑防止条例違反で逮捕されるのですよ。
バブルヘGO!! タイムマシンはドラム式(19.2.11)
監督  馬場康夫
出演  阿部寛  広末涼子  吹石一恵  伊藤裕子  劇団ひとり  小木茂光  森口博子
     薬師丸ひろ子  伊武雅刀  
 バブル崩壊後の日本経済の危機を救うため、1990年の日本にタイムトラベルしてバブル崩壊を食い止めようとする話です。バブル崩壊がなかったら、果たして日本は幸せになっていたのかなんて余計なことは考えずにあの頃のバブルの時代を懐かしみましょうという映画です。
 「私をスキーに連れてって」のホイチョイプロダクション原作、製作・脚本は「踊る大捜査線」シリーズの亀山千広と君塚良一ですから、おもしろいわけがありません。ただ、この映画、タイムパラドックスとかの細かいことを考えて観てはだめです。単純に観るのが一番楽しむことができます。
 誰もが終わることがないと思っていた好景気のバブルの時代。僕自身がバブルを身近に感じることができたのは、預金の利率が今とは考えられないほどの高い利率だったということしかないのですが、世の中はすごかったんですね。タクシーを止めるために、お札を振り回すなんて考えられないことですよね。いったいどれだけ多くの人があんな経験をしたのでしょうか。田舎に住んでいた僕には、まったく考えられません。ワンレン・ボディコンかあ。そんなことばもありましたね。ディスコなんてとても行くことができなかったなあ。バブル時代の学生ってあんなに贅沢な生活ができたんですかねえ。
 バブル崩壊を食い止めようと画策する財務官僚に阿部寛。女たらしのとぼけた演技が相変わらずです。そんな阿部寛扮する下川路に依頼されて行方不明となった母を捜して1990年にタイムトラベルする真弓に広末涼子。このところいまひとつだった広末さんですが、この映画はいいですよ。以前の輝きが戻っている感じですね。見た感じは幼いですが、船上パーティーのシーンのダンスも色っぽくて見事でしたよ。タイムマシンの発明者で、1990年の世の中で行方不明となる真弓の母・真理子を薬師丸ひろ子が演じます。
 タイムマシンがドラム式洗濯機という発想も愉快です。そのうえ、タイムトラベルの際には洗剤も入れるというのですから、思わず笑ってしまいました。バブル→泡→洗剤→洗濯機という発想でしょうか。
 とにかく、いろいろ考えずに、バブルの時代を懐かしみたい人にオススメです。
ドリームガールズ(19.2.17)
監督  ビル・コンドン
出演  ジェイミー・フォックス  ビヨンセ・ノウルズ  エディ・マーフィー  ダニー・グローバー
     ジェニファー・ハドソン  アニカ・ノニ・ローズ  キース・ロビンソン  シャロン・リール
 今年度、ゴールデングローブ賞の作品賞、助演男優賞、助演女優賞等を受賞し、第79回アカデミー賞でも最多6部門にノミネートされている作品です。
 ブロードウェーで上演されたマイケル・ベネット演出によるミュージカル「ドリームガールズ」の映画化です。ミュージカル好きにとってはたまらない作品です。どうして、アカデミー賞で作品賞にノミネートされなかったのか不思議です。
 ストーリーは、ショービジネスの世界でスターを夢見た三人娘が、彼女たちの実力を見出した男の手によって、しだいにスーパー・スターへの道を歩んでいく姿が描かれていきます。その途上で、三人のメインを歌のうまいエフィーから、美人で男性の目を引くディーナに代えたことによる三人の間に芽生える確執、そしてエフィーの解雇と、スターへの道を歩む彼女らの影の部分が描かれていきます。このあたりのストーリーは、あのダイアナ・ロスがいたシュープリームスというグループのことを下敷きにしているといわれていますが、そんなことを知らない人にとっても関係なく楽しむことができます(知っている人にとっては、ビヨンセの役がダイアナ・ロスだなと思いながら楽しむことはできますが)。
ミュージカルで主演スターの歌が吹き替えというのは昔の話。今では、先頃のアカデミー賞作品賞を受賞した「シカゴ」でもわかるように出演者が自ら歌って踊るのは当たり前ですが、それはこの作品でも同じです。
 日本の菊地凛子と助演女優賞を争うと予想されているエフィー役のジェニファー・ハドソンは、この作品がスクリーンデビュー作とは思えないほど堂々とした見事な歌を披露してくれます。ディーナ役のビヨンセは歌手ですから歌のうまいのは当たり前ですが、10キロ減量して出演したとあって、ちょっとイメージが変わりましたね。彼女がラスト近くで愛する男と別れるときに歌う「Listen」は聞き応えがあります。三人の可能性を見出す男カーティス・テイラーJrを演じたジェイミー・フォックスの歌のうまいのは、オスカーを獲った「Ray/レイ」で実証済みです。今回はなかなか歌わなかったのですが、歌うとなるとやっぱり上手いです。
 驚いたのは、ジェームズ・アーリー役を演じたエディ・マーフィーです。コメディアンとしての実力はわかっていましたが、まさかこんなに歌が上手いとは思いもしませんでした。ゴールデン・グローブ賞の助演男優賞を受賞し、アカデミーにもノミネートされているのも納得できます。今回はお笑いは全然なく、スターから最後には悲しい人生の終わりを迎える男を見事に演じています。
 途中で男の子5人組が出てきますが、これは間違いなくジャクソン・ファイブがモデルでしょうね。あの真ん中の子がマイケル・ジャクソンです。
パフューム(19.3.3)
監督  トム・ティクヴァ
出演  ベン・ウィショー  レイチェル・ハード=ウッド  アラン・リックマン  ダスティン・ホフマン
 18世紀のフランスを舞台に香水に魅入られた若者の物語です。
 ジャン=バティスト・グルヌイユは、市場で働く女が産み落とした子供としてこの世に生を受けます。嗅覚が異常に発達していたグルヌイユは、皮職人の使いで街に出た際、赤毛の少女の匂いに魅せられ、彼女の後をつけますが、彼女の悲鳴を止めようとして彼女を殺してしまいます。その後、落ち目の調香師バルディーニの店で、ライバルの人気商品の香水を同じように作ったことから、彼の店に雇われ、究極の香水作りに打ち込みます。さらに高度な技術を持つ職人の街グラースに旅立ったグルヌイユは、その街の商人リシの娘ローラに赤毛の少女と同じ匂いを感じます。この世にひとつの香り作りに着手してから、街では若く美しい娘が次々と殺されます。娘の身を案じたリシは、ローラを連れて街を出ますが・・・
 香水づくりに魅入られたと言えば聞こえはいいですが、実際は女性の体から臭いを抽出しようとした変質者の話です。犬以上の嗅覚を持ち、どこへ逃げても臭いを追ってくるのですから、女性にとってはたまったものではありません。もちろん、こんな主人公に感情移入できるわけありませんし、逆に嫌悪感を感じてしまったのですが、最後にこの男がどうなるのかという興味だけで最後まで観ることができました。しかし、ラストは「え!何だ」という終わり方。ちょっと納得できないですねぇ。
 ラストの750人の裸の男女の絡み合いで物議を醸した作品でもあります。これがCGでないのですから、すごいですよねえ。圧巻のシーンです。ただ、聖職者まで裸になって女性に抱きつくのですから、キリスト教の国では問題になるのも無理ないかもしれません。それに、よくよく目をこらしてみていると、男性の性器も見えますしね。でも、彼が目指した究極の香りというのは、人間にあんなことをさせる(いい意味で考えると誰でも愛してしまうようになる)香りでしょうか。ちょっと、使ってみたい(^^;
 パリの街があまりに悪臭が満ちていたがために、香水というものが発達したというのはおもしろいですね。臭いの元をどうにかするのではなく、悪臭をいい香りでごまかすわけですね。華麗な街パリに悪臭というイメージは全然思い浮かびませんが。
 調香師バルディーニを演じたのは、大物俳優ダスティン・ホフマン。さすがダスティン・ホフマンだけあって、なんの役をやらせてもうまいです。あの化粧した顔にはぞっとしてしまいますが(笑)
 グルヌイユを演じたのは、新鋭のベン・ウィショー。どこか弱々しげな体型が変質者にはピッタリです。
アンフェア(19.3.17)
監督  小林義則
出演  篠原涼子  寺島進  江口洋介  加藤雅也  濱田マリ  椎名桔平  成宮寛貴
     大杉漣  寺田農  加藤ローサ  向井地美音  阿部サダヲ
 テレビで放映していた同名作品の映画化です。今回の映画はテレビのスペシャル版の続きという形をとっています。フジテレビも営業が上手いですよね。スペシャル版でまだ何かあるぞという終わり方をすれば、作品のファンとしては続きを観ないわけにはいきませんよね。フジテレビにしてやられました(笑)
 ストーリーは、ある朝、雪平警部補の車が爆破され、娘のベビーシッターが死亡、娘も重傷を負い警察病院に収容されるという事件が発生するところから始まる。その警察病院にテロリストたちが乗り込み、患者たちを人質にとって立てこもる。その後患者たちは解放されるが、娘は病院内に取り残されてしまう。テロリストたちを率いるのは、元SAT隊長の後藤。彼は警察の不正を内部告発したため、無実の罪を着せられて服役していた。彼の目的は、警察の裏金80億。金を出さない場合は警察病院の研究室に保管されていた病原菌をばらまくと脅迫する。閉じこめられた娘を救出するため、雪平は病院内に潜入する。
 主人公の雪平警部補を演じるのは篠原涼子。相変わらず黒いロングコート姿が決まっています(夏になったらどうするのだろうと思いますが)。今回の映画では、水に濡れた白いシャツに浮かび上がった黒いブラというちょっとエロティックな姿も見せてくれます。とにかく、単独でテロリストたちに立ち向かう姿が相変わらずのカッコよさです。
 そのほか、テレビ版でおなじみの面々が出演。雪平の上司である公安部総務課の管理官斉木にはテレビスペシャル版で登場した江口洋介、かつての上司で今は警視庁捜査一課・特殊班の管理官山路に寺島進、鑑識課でありながらどこにでも姿を表す三上に加藤雅也、雪平の友人であったにもかかわらず、彼女を裏切った蓮見に濱田マリ。そしてテロリストのリーダー後藤を演じるのは椎名桔平、後藤の部下戸田に成宮寛貴など出演陣は豪華です。
 いったい、彼らの中で誰が“アンフェア”なのか。観ていると誰もが怪しく描かれます。脚本的にはあれれと思うところがいっぱいあって、ツッコミどころ満載ですが、ファンとしてはあまり細かいところは気にせずに雪平警部補のカッコ良さにしびれましょう。
 この映画、エンドロールが終わるまで席を立たずに観ていましょう。本当のラストの場面があります。それにしても、この終わり方を観ると、まだ続きがあるのかなあ。
ブラッド・ダイヤモンド(19.4.7)
監督  エドワード・ズウィック
出演  レオナルド・ディカプリオ  ジェニファー・コネリー  ジャイモン・フンスー  マイケル・シーン
     アーノルド・ボスロー
 映画の舞台は、内戦状態が続くアフリカのシエラオネ。反政府軍に拉致され、ダイヤモンド採掘場で強制労働をさせられているソロモン・バンディーは、ピンク・ダイヤモンドという幻のダイヤを見つけ、穴を掘って隠します。一方、ダイヤモンドの密売を商売にするダニー・アーチャーはソロモンがピンク・ダイヤモンドを隠し持っているという噂を聞き、反政府軍の手から逃れたソロモンに、離ればなれになった家族を捜すことを条件にダイヤの隠し場所に案内するよう持ちかけます。女性ジャーナリスト、マディーの力を借りて、難民キャンプにいた家族を捜し出しますが、そこには息子の姿がありませんでした。息子は、反政府軍に拉致されていたのです。
 ダニー・アーチャーを演じるのはレオナルド・ディカプリオです。「タイタニック」では甘いマスクの少年という感じだったディカプリオが、ここでは無精髭を生やし、すっかり逞しい男という雰囲気を漂わせています。今年のゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞にノミネートされ、惜しくも受賞は逃しましたが、この作品を観ると受賞してもおかしくなかったですね。「ディパーテッド」以上の演技だったと思います。このままいけば、ディカプリオのアカデミー賞受賞も遠い未来のことではないでしょうね。
 もちろん、ディカプリオファンにはたまらないシーンも用意されています。ラスト近く、岩山にいるディカプリオの姿はカッコイイと言わざるを得ないですねえ。
 息子を助け出すために自分の命を省みない父親ソロモンを演じたのは、ジャイモン・フンスーです。彼もまたディカプリオに負けず劣らずの熱演でディカプリオとともにアカデミー賞にノミネートされたのも当然という演技でいた。あんな父親になりたいと思いますが、ちょっと真似できません。
 この作品は、エンターテイメントであるとともに、硬派な社会派映画です。アフリカの内戦といえばルワンダの内戦の際の大虐殺が頭に浮かびますが、この作品にもあまりに辛い現実が描かれていました。反政府軍は、拉致した少年たちを兵士として洗脳教育します。躊躇うこともなく女子供に対してもライフルを撃ちまくる少年たちの姿に戦慄を感じざるを得ませんでした。ありふれた言い方ですが、戦争というのは、こんなにも悲惨なことが当たり前の現実になるのです。のほほんと毎日を過ごしている僕たちにとっては、目を背けたくなる現実ですが、しっかり直視しなければいけないことなのでしょうね。
 ディカプリオファンだけでなく、多くの人に観てもらいたい映画です。
デジャヴ(19.4.8)
監督  トニー・スコット
出演  デンゼル・ワシントン  ポーラ・パットン  ヴァル・キルマー  ジム・カヴィーゼル
     アダム・ゴールドバーグ  ブルース・グリーンウッド  エルデン・ヘンソン
 いつも読んでいるブログで、タイムトラベルものだと書いてあるのを見て、慌てて見に行った作品です。タイムトラベルものは大好きなんですが、デンゼル・ワシントンとタイムトラベルなんて組み合わせは考えもしなかったので、まさか「デジャヴ」がタイムトラベルものだったとは・・・。
 543人が犠牲になったフェリー爆破事件を担当することになったATF(アルコール・タバコ・火器局)の捜査官ダグ。彼は一人の女性クレアの死体を見たときに、彼女を見たことがあるというデジャブを感じる。やがて、彼は特別捜査本部に招集され、そこで4日と6時間前の過去を見ることができる装置があることを知る。その装置で過去の彼女の行動から犯人を割り出そうとするうちに、ダグは次第に彼女に惹かれていく・・・。
 愛する人を助けに過去に遡るという話は、タイムトラベルものによくある話。でも、これこそタイムトラベルものの中心となる話なんですよねえ。何度も何度もタイムトラベルして過去を変えようとするが、なかなかうまくいかないというのがパターンですが、この作品では一か八かですのでチャンスは一度きり。そして、その結果はといえばネタバレになるので内緒です。ラストからすると、これはパラレルワールドの考えなんでしょうか。タイムトラベルものは、タイムパラドックスとかいろいろ難しいのですが、映画の中でタイムトラベルについてダグに説明がなされているところが理解の助けになります。
 タイムトラベルものだけあって、様々な場面にいろいろな伏線が張られています。それがあとになって、「ああそうだったのかぁ。だからここにこんなものがあったのかぁ。」などと納得できるように説明がされていて、そういう点はおもしろかったですね。したがって、見ているときには目をこらして細かい部分にまで注意を向けていなければいけません(笑)
 難を言えば、いくらクレアに惚れてしまったとはいえ、紙を送るのがやっとという段階のタイムトラベル装置に乗ろうと考えるでしょうか?ちょっと唐突すぎる気がしますが。
 犯人役を演じたのは、ジム・ガヴィーゼル。彼はといえば、タイムトラベルものの1つといえる「オーロラの彼方」で主人公を演じていました。今回の狂信的な犯人役とは異なって、父親を愛する素敵な男を演じています。
ホリデイ(19.4.14)
監督  ナンシー・メイヤーズ
出演  キャメロンディアス  ケイト・ウィンスレット  ジュード・ロウ  ジャック・ブラック  イーライ・ウォラック
     エドワード・バーンズ  ルーファス・シーウェル  ミフィ・イングルフィールド
 観に行きたいけど男一人ではなあと躊躇していたホリデイをようやく観に行ってきました。男一人では、何となく恥ずかしい気持ちがするけれど、心が温まるラブ・ストーリーが好きな僕としてはやっぱり観に行かなければと、意を決して映画館へ。あまり入っていませんでしたねえ。カップル2組と女性同士が2組と数えられるだけの人数。真ん中の席で男一人、ゆっくり観ることができました。
 ロンドンで新聞社に勤めるアイリスは、3年間愛し続けた同僚が彼女の目の前で婚約発表をし、衝撃を受けます。一方その頃ロサンゼルスでは映画の予告編製作会社を経営するアマンダが、同棲していた男の浮気に激怒し、男を家からたたき出します。そんな二人が痛手を癒すために休暇を取ってホーム・エクスチェンジをすることに。生活環境がまったく違う中で二人には新たな出会いが・・・
 アマンダを演じるのはキャメロン・ディアス。今もソフトバンクのCMに出ているので、テレビでいつも見るのですが、あのすらっとした足の長さには恐れ入ってしまいます。決して美女ではないのですが、嫌みのない表情が大好きなんですよね。恋に不器用なアマンダの役がキャメロン・ディアスにお似合いです。
 アイリスを演じるのはケイト・ウィンスレット。彼女はどうしても「タイタニック」の印象が強いのですが、あの頃と違って落ち着いた大人の女性という雰囲気が漂う女優になってきました。今回、共演がキャメロン・ディアスなので、そのふっくらした体型がちょっと目立ってしまいましたが、あの感じはおじいちゃんたちには安心感を与えます。老脚本家と仲良くなる役は適役ですね。
 アイリスの兄であり、アマンダと恋に陥るグラハムを演じるのはジュード・ロウ。こんないい男が現れれば、恋するのも無理ないでしょうが、それにしても男はこりごりだと思っていたアマンダが、あんなにも簡単にグラハムにのめり込んでしまっていいの!と突っ込んでしまいたくなります。
 他方アイリスといい仲になるマイルズを演じるのはジャック・ブラック。こちらは見た目はいまひとつだが、いいヤツの典型。女優に弄ばれるというかわいそうな男ですが、同じ男としては、声援を送りたくなるような魅力的な男性です。
 この作品には、もう一人重要な登場人物がいます。イーライ・ウォラックの演じる老脚本家です。彼の口から語られる映画の話がこの作品の大きな魅力になっていました。パンフレットでイーライ・ウォラックの紹介を読んだら、出演作に僕が好きな「荒野の七人」がありました。もしかしたら、この人、あの野盗の親玉だった人かぁ、懐かしいなあとしばし感動。家に帰ってから「荒野の七人」のDVDで確認してしまいました。
 マイルズがビデオ(DVD?)ショップの中を歩きながら、手に取った作品の音楽を歌うシーンには、この映画も、あの映画も見たことがあると思いながら観ていました。楽しいですねえ。ある大物俳優がチラッと顔を出していた(セリフもひとことあります。)のにもびっくりです。
 ラストは予定どおりのハッピーエンド。ほんわかした気持ちで映画館を出ることができました。
ラブソングができるまで(19.4.21)
監督  マーク・ローレンス
出演  ヒュー・グラント  ドリュー・バリモア  ブラッド・ギャレット  クリスティン・ジョンストン
     キャンベル・スコット  ヘイリー・ベネット
 アレックスは1980年代に爆発的な人気を博したバンドのヴォーカル。同じバンドのもう一人のヴォーカルは、バンド解散後ソロとして活躍し、今では「ナイト」の称号まで持つ人気者。それに対し、アレックスはすっかり忘れられた存在で、時折当時を懐かしむ年代のおばさんたちが集まるイベントにお呼びがかかる程度の状況となっていた。そんなアレックスに、スーパースター、コーラが新曲の提供を依頼する。起死回生のチャンスとばかりに応諾するが、作詞は大の苦手。悪戦苦闘するそんなとき、部屋の植木に水やりのアルバイトに来たソフィーが口ずさんだフレーズを気に入ったアレックスは、彼女に作詞を依頼しようとするが・・・。
 ヒュー・グラント、ドリュー・バリモア共演のロマンティック・コメディーです。とにかく、アレックスを演じるヒュー・グラントが最高です。このところ、「ノッティング・ヒルの恋人」「ブリジット・ジョーンズの日記」「アバウト・ア・ボーイ」「ラブ・アクチュアリー」と、ロマンティック・コメディーといったらヒュー・グラントを思い浮かべてしまうほど、こうした作品には似合う男優ですね。特に、二枚目でありながらどこか駄目な男を演じさせたら右に出るものがいないくらいです。
 映画の冒頭で、彼が入っていたグループの80年代のMTVもどきの映像が流されますが、これには大笑いです。どう見ても、ヒュー・グラントは20代には見えません。あの腰回りの太さで20代は無理がありますねえ(笑)それに、ダンスもいまひとつ乗り切れていない気がしましたし。
 圧巻は映画の中で何度か見せてくれる腰ふりダンスです。エルビス・プレスリーばりの腰ふりには笑ってしまいました。やりすぎて、腰を痛めてしまうというところも芸が細かいです。歌は、コンピューターの手助けでましに聞こえるようにしてくれているとインタビューに答えていますが、そうはいっても、素敵な歌声でしたね。
 ソフィーを演じたドリュー・バリモアは、愛した男に裏切られながらも、その男を忘れられないという、心の痛みを持った女性をかわいく演じています。子役で人気が出てから生活が乱れた中から、よくここまで立ち直っていい女優になりましたね。
 先週の「ホリデイ」に続いて、ラブ・コメディーといえる作品を観ましたが、こういうジャンルの作品は大好きです。笑って、感動して本当にいい気分で映画館から出てくることができました。ストーリー自体は想像どおり進み、ラストも予定どおりの映画ですが、ヒュー・グラントの腰ふりダンスを見るだけでも観た甲斐(?)があるというものです。
バベル(19.4.28)
監督  アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演  ブラッド・ピット  ケイト・ブランシェット  ガエル・ガルシア・ベルナル  アドリアナ・バラッザ
     役所広司  菊地凛子  二階堂智  エル・ファニング  ネイサン・ギャンブル
 公開初日の初回を観に行ってきました。アカデミー賞作品賞のノミネート作品でもあるし、日本の女優菊地凛子さんがアカデミー助演女優賞にノミネートされたため、公開前から評判を呼んだ作品でしたが、その割には地方の映画館には観客が入っていませんでしたね。ブラビファンらしき女性の姿もあまり見られず、ちょっと寂しい公開初日となってしまいました。
 映画は神に近づこうとして天まで届く塔を建てようとした人間に対し神は怒り、人間の言葉をバラバラにしたという旧約聖書の創世記をモチーフに作られたそうですが、正直のところ難しい映画でした。簡単に言ってしまえばコミュニケーションの大切さ、心を通わせることの難しさを描いたと言えますが、果たしてそんな薄っぺらい言葉で表現できるものなのかどうか・・・。
 モロッコの片隅で少年によって放たれた銃弾が、観光バスの窓を撃ちぬき乗客のアメリカ人女性スーザンに命中する。彼女と夫のリチャードは壊れかけた夫婦の関係を修復しようと子供を置いてアメリカからやってきたのだった。アメリカでは、彼らの二人の子どもたちがメキシコ人の乳母に連れられて、乳母の子供の結婚式のためにメキシコへと旅立つ。日本では、妻に自殺された男とその聾唖の娘が、妻であり母の自殺から立ち直れず、二人の間には心の溝が広がっていた。モロッコで狙撃に使われた銃がその男の所有であったことから、刑事が尋ねてくる。
 一発の銃弾がモロッコ、メキシコ(アメリカ)、日本を結びつけるという設定は強引すぎます。だいたい、猟銃を簡単に日本国外に持ち出せるのか疑問ですし、それ以上に、例え適法に持ち出せたとしても日本に持って帰らずに人にあげるというわけにはいかないでしょう。観ながらそんなこと考えていたら映画にのめり込むことができなくなってしまいました。モロッコとメキシコの関係はわかる、でも日本は関係ないでしょう・・・。
 アカデミー賞にノミネートされた菊地凛子さんといえば、女子高校生役には無理があったでしょうというのが正直の感想です。日本人は外国人の目から見れば幼く見えるといいますから、そうであればまあいいかという感じ。だいたい、愛が欲しくても、一目惚れした刑事の前で突然全裸にはならないでしょう? 監督の意図がまったくわかりませんでした。
 それより、愛ということでいえば、ケイト・ブランシェット演じる妻のトイレを手伝うブラビ演じる夫のシーンは、これは愛だなあと素直に感動できるシーンでしたね。これで、子供の死で心が離れていた夫婦がまた愛を取り戻していくのでしょうね(そこまで映画では描かれていませんが)。

※気になるのは、菊地凛子さん演じる女子高生が二階堂智さん演じる刑事に渡したメモには何が書いてあったのでしょう。
ロッキー・ザ・ファイナル(19.4.30)
監督  シルベスター・スタローン
出演  シルベスター・スタローン  バート・ヤング  アントニオ・ターヴァー  ジェラルディン・ヒューズ
     マイロ・ヴィンティミリア  トニー・バートン
 「いまさらどうしてロッキー?」というのが観る前の正直な感想でした。30年以上前に第1作が公開されたときは、ロッキーのストーリーと、ロッキー役のシルベスター・スタローン自身のストーリーがアメリカンドリームを体現しているということで評判を呼び、アカデミー作品賞をはじめ3部門に輝いた作品も、シリーズが進むうちに単なるマッチョな男のボクシング映画になってしまっていました。第1作のヒューマンドラマが次第に変質していってしまいましたものね。第3作、4作のひどさに、ついに第5作は見に行くことをやめました。今回、第5作からも15年以上がたち、今さらと思ったのですが、意外と公開前の評判がよく、シリーズもラストだし、区切りとして観てこようかと思った次第。
 愛する妻のエイドリアンは病気でなくなり、普通のサラリーマンとしてロッキーとは違う道を歩んでいる息子とは、うまくコミュニケーションが取れないロッキー。引退して妻の名前をつけたレストランを経営し、ときどき客に昔の試合の様子を話したりする生活を送っています。そんななか、あまりの強さで人気の出ないチャンピオンが、ロッキーと闘うことによってイメージアップを図ろうと対戦を申し込んできます。
 初老となり、妻の墓の前で時間を過ごすロッキーに哀愁が漂います。しかし、やっぱり歳をとってもロッキーには闘う姿が似合いますね。さすがに若い頃と同じというわけにはいきませんが、相変わらず鍛えた肉体です。あれで60歳ですからねえ。すごいとしか言えません。そして、あのトランペットのテーマが流れてくると心が高揚してきます。一緒に階段駆け上ってしまおうかと思ってしまいますものね。映画史上に残る名曲です。
 息子に「人生はばら色ばかりじゃない。いくら打たれても前に進むんだ。自分を信じなきゃ人生じゃない。叶わない夢はない!」と語るロッキーの姿がベタだけどめちゃくちゃかっこいいですね。グッときてしまいました。10歳以上も年下の僕だってまだまだ夢を持たなくてはと考えてしまいます。
 ラストとあってファンに対するサービスもいっぱいです。エイドリアンとスケートをするシーンや、あのフィラデルフィア美術館の階段を駆け上がるシーン、生卵の一気飲み等、第1作へのオマージュのシーンが満載でした。
 さよならロッキー・・・ 
スパイダーマン3(19.5.5)
監督  サム・ライミ
出演  トビー・マグワイア  キルスティン・ダンスト  ジェームズ・フランコ  トーマス・ヘイデン・チャーチ
     トファー・グレイス  ブライス・ダラス・ハワード  ジェームズ・クロムウェル  ローズマリー・ハリス
 シリーズ3部作の最終話です。2のラストで愛するメリー・ジェーンとの仲もうまくいき、市民の人気者となって、ちょっと傲慢になってきた感じのスパイダーマン。歓迎式典で同級生とキスをしたりしています。あれはメリー・ジェーンに対して失礼ですよね。あの、糸にぶら下がって逆さになってキスをするというのは二人の大事な思い出だったのではないでしょうか。このあたり、単なる完全無欠のヒーローではなく、若者らしい人間臭さが現れていていいですよね(いいというのはおかしいですけど。)。
 今回の見所はCMでも思わせぶりに流されていた黒いスーツを着たブラック・スパイダーマンです。さて、その正体は?といえば、蓋を開ければこれは取り付いた宿主の攻撃的な力を増幅させる宇宙生命体で、ピーターはこれによって手に入れた強力なパワーを、怒りの発露に利用する快感を覚えてしまいます。ここも欠点のある人間らしいところです。それにしても、ピーターとメリー・ジェーンがデートをしているそばに落ちてくるなんて、何だか御都合主義だなあと思いますけどね。
 思わず笑ってしまったのは、ピーターがストリートでリズム取ってる姿、そしてすれ違う女の子に流し目を送るシーン。メリー・ジェーンが歌う店で踊るところもどうもそれまでのまじめなピーターの印象があるせいか、滑稽に見えてしまいました。
 今回ラストということもあって、スパイダーマンの戦う相手は3人と豪華です。スパイダーマンを父の敵と思い、スパイダーマンに復讐しようとするハリーは、ニュー・ゴブリンとなってスパイダーマンを襲います。二人目はサンドマンです。叔父のベンを殺害した真犯人であるマルコが刑務所から脱走する途中で素粒子分離実験場に落ちて全身が砂状になるサンドマンに変身してしまいます。かわいそうなのは、ピーターのカメラマンのライバルのエディです。スパイダーマンから離れ落ちた宇宙生物に取り付かれて怪人ヴェノムに変身してしまうのですから。最後の最後までかわいそうなエディ君でしたよ。
 スパイダーマンと彼ら3人がどう戦うのかは見てのお楽しみです。これで最後ですからね。親友のハリーとピーターがどうなるのか、ハリーがピーターを憎んだまま終わるのかが戦いの行方を左右します。
主人公は僕だった(19.5.19)
監督  マーク・フォスター
出演  ウィル・フェリル  マギー・ギレンホール  ダスティン・ホフマン  クイーン・ラティファ
     エマ・トンプソン  トム・ハルス  リンダ・ハント  トニー・ヘイル
 主人公は、何でも決まったとおりに生きている男ハロルド。彼は歯磨きは何回、バス停までは何歩、ランチタイムは何分、何時には就寝といった具合に・・・。そんな生活を送っていたある日、彼の頭の中に女性の声が聞こえてきます。それは、あたかもどこかで彼のことを見ているかのように、彼のしていることを語ります。そして、彼女は言います。まもなく彼に死が訪れることを。
 「プロデューサーズ」でゴールデングローブ賞助演男優賞にノミネートされたウィル・フェレル主演のコメディ(?)です。
 自分がある作家の描く小説の主人公だったらというのがこの映画のお話。通常、こうした設定では、作家と主人公は違う世界に住んでおり、作家というのは神の存在というのが考えられる姿ですが、この作品では、作家と主人公が同じ世界に住んでいるのですから、ちょっと話がややこしくなってきます。どうして、なぜ?と考え出したらこの映画を楽しむことができません。最後までなぜは語られることはありません。提示された事実を前提に映画の世界に入っていくのが一番です。
 ハロルドの運命を握る作家カレンにエマ・トンプソン、ハロルドがアドバイスを求めに行くヒルバート教授にダスティン・ホフマンと芸達者に役者が脇を固めます。
 頭に聞こえる声が悲劇作家のものだと知って、喜劇にしようとあれこれ動き回るが思い通りに行かないハロルドがおもしろいのですが、切ないですね。結局、主人公が最後に死ぬことによって、小説が後世に残る作品となると言われたハロルドのとった行動は? そして、主人公が死ぬことによってハロルドも死ぬと知ったカレンは、主人公を死なすことができるのか? それらは観てのお楽しみ。それにしても、自分の人生が誰かの手に握られているなんて、とんでもないことですよね。
 ときどき挿入されるストーリーとは関係ないと思われたシーンが、伏線となってラストで収束します。これは、へぇ〜と思ってしまいました。
 こうした不思議な設定の映画は好みなんですが、残念ながら期待したほどではなかったというのが正直な感想です。
パッチギ!LOVE&PEACE(19.5.20)
監督  井筒和幸
出演  井坂俊哉  中村ゆり  西島秀俊  藤井隆  キムラ緑子  風間杜夫  手塚里美
     キム・ウンス  米倉斉加年  馬渕晴子  村田雄浩  ラサール石井  杉本哲太
     でんでん  寺島進  国生さゆり  田口浩正  松尾貴史  桐谷健太  すほうれいこ
 舞台は前作から6年後の東京。アンソンとキョンジャの一家は、筋ジストロフィーを患ったアンソンの一人息子チャンスに、よりよい治療を受けさせようと京都から東京でサンダル工場を経営する伯父の元へ引っ越してきます。
 前作では在日朝鮮人に対する差別問題を扱っていましたが、一方で日本人の男子高校生とアンソンとの友情、そしてキョンジャとの恋を描いた青春映画でもありました。今回は差別問題という部分を描いているのは同じですが、青春映画の側面は影が薄くなり、その代わりに難病を患う息子とそれを支える家族の話がクローズアップされます。アンソンも大人になったためか、前作のような大暴れは最初の駅での殴り合いぐらいなのがちょっと物足りない気がしますが・・・。
 出演陣は豪華です。アンソンとキョンジャ役は前作の高岡蒼佑と沢尻エリカから井坂俊哉と中村ゆりに交代し、前作からの出演者はアンソンたちの母親役のキムラ緑子と今では国土館大学(こくどかん大学だそうですよ。)の応援団に入った宿敵近藤役の桐谷健太くらいですが、そのほか、伯父夫婦に風間杜夫と手塚里美、キョンジャが所属する芸能プロダクションの社長にでんでんら経験豊富な脇役陣が若いアンソンとキョンジャ役の二人を盛り立てています。若手の中では東北出身の児童福祉施設育ちの佐藤を演じた藤井隆がなかなかの好演でした。
 重いテーマが今回なおいっそう掘り下げられています。アンソンたちの父親が第二次世界大戦中に日本軍に徴用されそうになり、南方の島まで逃げ出す過去が挿入されるなど、日本と朝鮮半島に住む人々との間の深い溝の歴史も描かれています。あの時代の彼らの日本人に対する憎しみというものは、日本人が「謝っただろう。もう60年以上がたつのだから、いいかげんいいじゃないか」などと言ってすまされる問題ではないのでしょうね。
 芸能界に入ったキョンジャが出演した戦争映画の公開の日、舞台挨拶に立ったキョンジャにああいう行動を取らせたのは、井筒監督としては当たり前すぎるかなあと思わないではないですが、こうすることが一番観客に訴えるでしょうし、まあ仕方がないか。
 電車に“動労”などとペンキで描かれていたり、仮面ライダーアマゾンやブルース・リーなど舞台となる時代を偲ばせるものが出てきて懐かしかったですね。あの当時は男の子はブルース・リーをまねて「アチャ!」とか言っていましたっけ(ぬんちゃくは危険ということで学校で禁止されました。)。「GORO」にも本当にお世話になりました(^^;
 それにしても、キョンジャの出演した映画は、某知事が脚本を書いて現在公開中の映画を明らかに意識しているのではないでしょうか。井筒監督らしいと笑ってしまいました。それに、あのノーベル平和賞に対して登場人物に批判的な意見を述べさせていますし、やっぱり、井筒監督はこうでなくては。
リーピング(19.5.26)
監督  スティーブン・ホプキンス
出演  ヒラリー・スワンク  デイビッド・モリッシー  アイドリス・エルバ  アナソフィア・ロブ
     スティーブン・レイ
アカデミー賞女優ヒラリースワンク主演のホラー映画です。
 ヒラリー・スワンク演じるキャサリンは、かつては聖職者だったが、布教活動中のスーダンで夫と娘を殺されてからは信仰を捨て、今では超常現象の真相を暴く第1人者となっていた。そんな彼女の元に、ヘブンズという町で起こっている不思議な現象を調査して欲しいとの依頼が持ち込まれる。彼女はパートナーのベンとともにヘブンズを訪れるが・・・。
 アカデミー賞主演女優賞を2度受賞しているヒラリースワンクの初めてのホラー映画への出演ということで期待して観に行ったのですが、裏切られました。やっぱり、ホラーというのは難しいですね。ルイジアナという南部の町(ホラーの舞台は南部が多いです)、次々と起こる十の災い、悪魔の生まれ変わりと思われる少女と、どうしてもいつものホラー映画のパターンの域を出ない設定です。正直のところ、観ていて眠くなってしまって、ふと気づいたら場面がかなり飛んでしまっていたことも・・・。予想されたストーリーで、ラストもこういった映画にはありがちな、「これで、終わりだと思ったら間違いだぞ。」と思わせる終わり方で、おもしろくなかったですねえ。
 そんな中で、何か褒めるものを挙げるとしたら、怪しい少女役を演じたアナソフィア・ロブでしょうか。「チャーリーとチョコレート工場」でチューインガムを噛む少女を演じていた彼女ですが、そのときとは違って大人びた妖艶な表情を見せています。今後も注目の子役の一人となりそうです。
パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド(19.5.26)
監督  ゴア・ヴァービンスキー
出演  ジョニー・デップ  オーランド・ブルーム  キーラ・ナイトレイ  ビル・ナイ  チョウ・ユンファ
     ステラン・スカルゲート  ジェフリー・ラッシュ  ジャック・ダヴェンポート  ジョナサン・プライス
     ナオミ・ハリス  トム・ホランダー  リー・アレンバーグ  マッケンジー・クルック
 (おおいにネタバレあり)
 3部作の最終話です。前作のラストで、ジャックはタコの怪物クラーケンに飲み込まれてしまい生死不明、そして驚いたことに第1作で死んだはずのバルボッサが姿を現しました。謎を抱えての第3作のスタートです。
 とにかく、最初は話がややこしくて、ついていけませんでした。捕らわれた子供が歌い出した海賊の歌がどうしたとか、9人の海賊長がどうしたとか、9人の海賊長の手によって女神カリプソを人間の体に閉じこめたとか、ちょっと説明不足で理解できませんでした。字幕スーパーではうまく表現しきれなかったのかと思うくらい、話がわかりにくくて消化不良でした。
 だいたい、ジョニー・デップの出番が少なすぎです。なかなか登場してきません。それに比べてエリザベス役のキーラ・ナイトレイは、彼女が主演かと思わせるくらい最初から縦横無尽の活躍です。すっかり板に付いた海賊姿が凛々しいです。
 一方オーランド・ブルームが演じるウィルはといえば、ジャックを裏切ってベケット卿についたり、こちらに戻ったりと、いったいどうなっているのだろうと思う行動を見せます。この彼の行動が話をわかりにくくさせている原因の一つですね。
 3部作の最後とあって、今まで広げていた風呂敷をたたまなくてはなりませんので、いろいろまとめようとして話は盛りだくさん。今までの登場人物が総登場する(猿も犬もオウムもです。)うえ、新しい登場人物まで出てきて、これで今までの謎がすべて明かされることができるのかと途中で心配になってしまいました。盛りだくさんすぎるせいでか、新しい登場人物としてチョウ・ユンファ演じる中国の海賊サオ・フェンが出てきましたが、前評判と違って全然この人の見せ場がありません。あれれと思う間に舞台から姿を消してしまいます。あれではチョウ・ユンファも不満でしょうね。
 同じ途中退場するのでも、格好良かったのは元提督のノリントンです。ベケット卿の部下となりながらも、いまだにエリザベスを想いながら、彼女を助けて命を落とします。短い登場時間ですが、印象に残るお得な役どころです。しかし、第2作での活躍ぶりからしてもう少し登場場面があってもよかったですね。
 前作の敵役だったデイビイ・ジョーンズは、心臓をベケット卿の手に握られ、今回はベケット卿の手下になってしまって憎さ半減です。それに、あれだけ前作で暴れ回ったデイビイ・ジョーンズの僕クラーケンがあんな姿になってしまうとは。あれまあという感じです。
 サオ・フェン以外の海賊長たちも、結局彼らは戦ったのかという思いが残るばかりの出演です。それに比べてジャックの父親役で出演していたローリング・ストーンズのキース・リチャーズは存在感ありましたね。さすが大御所です。ジョニー・デップがジャックの役作りでキース・リチャーズの振る舞いを参考にしていたそうですが、まったく親子そのものでした。母親はどうしたと思ったら、思わぬ姿で登場。笑ってしまいました。
 ジャック、ウィル、エリザベスの三角関係がどうなるのかが、やはり最終作の最も気になるところです。エリザベスがジャックを取るのか、ウィルを取るのか、気を持たせながら話は進みますが、ラストであんなことになるとはねえ(まあ、伏線はあったのですがね。)。これって悲恋の話だったのですか?
 前作もそうでしたが、今回もエンドロールが終わるまでは席を立ってはいけません。エンドロールのあとに大事なシーンが待っていますよ。
ザ・シューター 極大射程(19.6.2)
監督  アントワーン・フークア
出演  マーク・ウォールバーグ  マイケル・ペーニャ  ダニー・グローバー  ケイト・マーラ
     イライアス・コティーズ  ローナ・ミトラ  ネッド・ビーティ
 2000年版「このミス」で海外編第1位となったスティーヴン・ハンター原作「極大射程」の映画化です。
 原作は、「このミス」で第1位になったことを契機に読んで、非常におもしろかった印象があるのですが(実は、おもしろかったという記憶だけで、内容はよく憶えていなかった。)、映画も上映時間2時間5分をあっという間に感じさせるほどのおもしろさでした。
文庫で上・下500ページ以上の作品を、よくあれだけ凝縮して映像化できたものです。脚本家の力に寄るところが大きいのでしょう。
 アフリカでの任務で軍に見捨てられ相棒のドニーを失ったスワガーは、脱出後軍を退役し、愛犬と共にワイオミングの山中でひっそりと暮らしていた。そんなスワガーの元に彼の狙撃の腕を見込んで、退役軍人のジョンソンが大統領暗殺計画を防ぐために協力を要請してくる。それに応じて彼は狙撃場所の検証をするが、大統領の演説中に大統領とは別の要人が射殺され、さらにスワガー自身も警官に撃たれ、犯人として追われる身になってしまう。
 原作では主人公ボブ・リー・スワガーはベトナム戦争で傷を負い退役し、それから30年後の話となっているので、年齢は50歳過ぎの初老の男ですが、それでは古すぎるということでしょうか、この作品では9.11後の話であり、スワガーも若者という設定に変更されています。
 主演のマーク・ウォールバーグは、アカデミー賞助演男優賞候補になった「ディパーテッド」より、やはり主演ということもあり、いい味出していましたね。 だいたい、「ディパーテッド」のときより、身体が絞られています。2000年版「このミス」の紹介文には、「キアヌ・リーヴス主演で映画化も決定!」とありましたが、キアヌではスワガーはちょっとスマートすぎます。やはり泥臭さがあってもいいのではないでしょうか。その点、マーク・ウォールバーグの方がお似合いかなという気がします。ただ、彼だと地味な印象はぬぐえませんけど。
 ジョンソンを演じるのはダニー・グローバーです。これでもかというほど憎たらしい役を好演(?)していました。「リーサル・ウェポン」の刑事から悪役までと幅広い役を演じる役者さんですね。
 スワガーの無実を信じたことから、彼と行動を共にすることとなるニック・メンフィス刑事役はマイケル・ペーニャです。このところ、「クラッシュ」「ワールド・トレード・センター」と話題作に出演し、頭角を現してきた役者です。パンフレットには「バベル」に出演とありましたが、どこに出ていましたっけ?
 展開が速いので、飽きることなく観ることができます。アクション映画ファン、銃器ファンは楽しめるでしょうね。
しゃべれども しゃべれども(19.6.3)
監督  平山秀幸
出演  国分太一  香里奈  松重豊  森永悠希  八千草薫  伊東四朗
 昨年「一瞬の風になれ」が大ヒットした佐藤多佳子さんの同名小説の映画化です。小説は97年度の「本の雑誌」ベスト10の第1位に輝いただけのことがあって、掛け値なしにおもしろい作品です。僕としては「一瞬の風になれ」よりも大好きな作品で、映画化と聞いて、さてどんな形になるのかなと楽しみに観に行きました。
 落語家の二つ目の今昔亭三つ葉。落語が思うように行かず悩む彼の元に落語と話し方を習いたいと、無愛想な美人、大阪弁のためにいじめにあっている少年、口下手な元プロ野球選手の3人が集まってきた。彼らは会うたびに言い争い、三つ葉を困惑させる。
 話し方教室に来るうちに三人が変わっていくだけでなく、三つ葉自身も変わっていくというお話です。
 主人公の三つ葉を演じたのはTOKIOのメンバーの国分太一君。原作を読んでいると、どうしても読者の頭の中では登場人物のイメージを出来上がっているのですが、国分太一君の三つ葉は、僕のイメージとはちょっと違うかなあという感じでした。僕のイメージとしては落語には真剣だけどもう少しくだけた若者というイメージを持っていたのですがね。とはいえ、なかなかの熱演でした。この国分君の演技を見たある関西の落語家が(それも若手ではなく年配の人です)、自分ももっと頑張らなくてはいけないと思ったとテレビで言っていましたが、そう言わせた国分君の落語家の演技は見事だったと言わざるを得ないでしょうね。
 美人だけど話しベタで無愛想な十河五月役は香里奈さん。きりっとした美人ですので、原作のイメージにぴったりでした。元プロ野球選手の湯河原太一役は松重豊さん。最近ではテレビの「プロポーズ大作戦」にも出演していますが、強面だけど、どこかズレているという役をやらせたら最高です。本のイメージとしてはもっとがっしりとした人を考えていたのですが、松重さんの演じているところを見ると、湯河原ってこんな人なんだと思えるようになりました。
 小学生の村林優役を演じた子役の森永悠希君はめちゃくちゃいいですよ。大人たちより目立っていましたね。うまいのひとこと。役柄としてもいじめにあいながらも明るさを失わない愛すべき優に拍手です。
 三つ葉の祖母役の八千草薫さんも、いつものおっとりとした役柄と異なって今回は気っぷのいい下町の年配女性を演じていますが、これがまた抜群にうまいです。
 原作のよさを損なわずに楽しめる2時間弱です。今年今まで見た日本映画の中で一番です。オススメの作品です。

  「しゃべれども しゃべれども 気持ちを伝えられず
   しゃべれども しゃべれども “想い”に言葉は敵わない
   しゃべれども しゃべれども 伝えたいことは ただひとつ
   何かを 誰かを 「好き」 という想い
   ただ それだけ                    」
プレステージ(19.6.9)
監督  クリストファー・ノーラン
出演  ヒュー・ジャックマン  クリスチャン・ベール  マイケル・ケイン  スカーレット・ヨハンソン
     パイパーー・ペラーボ  レベッカ・ホール  デヴィッド・ボウイ  アンディ・サーキス
(映画の結末は誰にも言わないでくださいとの監督からのお願いですので、なるべくネタバレのないように書きますが、できれば未見の人は観てからどうぞ。)

 クリストファー・ノーラン監督、ヒュー・ジャックマン、クリスチャン・ベール主演作品です。あの「メメント」のクリストファー・ノーラン監督の作品ですし、そもそも主人公たちが奇術師ですので、一筋縄ではいかない、きっとどこかにトリックが散りばめられているのだろうと思ったら、そうきましたか。1度見ただけではわからないですよね。
 舞台となるのは19世紀のロンドン。映画は奇術師のボーデンが、長年のライバルであるアンジャーを溺死させたとして逮捕されるところから始まる。二人の間には若き頃、奇術師ミルトンの下での修行時代、ボーデンのロープの縛り方のせいで、ミルトンの助手を勤めていたアンジャーの妻が水中脱出から失敗して死亡したという過去があった。それ以来、二人は対立し、お互いのマジックを邪魔するなどの確執が続いていた。そんななかで、ボーデンは「瞬間移動」マジックを生み出し人気を得るが、アンジャーは自分と瓜二つの役者を雇い、同様に「瞬間移動」で対抗する。しかし、どうしてもボーデンのトリックがわからないアンジャーは、美しい助手オリヴィアにボーデンのトリックを探らせるが・・・
 刑務所でボーデンが読むアンジャーの日誌による回想形式ながら、さらにその中でアンジャーが盗んだボーデンの日誌を読むという形式をとるという、「メメント」の監督らしい構成になっています。主人公たちが日記に翻弄されるように、観ているこちらも何が本当なのか騙されてはなるまいと思いながらも翻弄されてしまいます。
 観終わったあとで、サイトでネタバレのシーンの解説を読みましたが、本当にさまざまなところに伏線が張られていました。1度見ただけでは気がつきませんねえ。とにかく、最初のタイトルバックから目を凝らしていなければいけませんでした(僕は知り合いらしい女性が近くに座ったのが気になって見落としてしまいました(^^;)。
 ラストでそれまでの謎が明かされていくところはおもしろかったのですが、最後のどんでん返しが、ミステリーやサスペンスだけでなく、ある要素が含まれている点はどうなのかなあと思ってしまいます。そこが人によってこの映画の評価の違いになるところでしょうね。
 それにしても、結局、ボーデンとアンジャーはどっちが悪いやつだったのでしょう。う〜ん、あのラストは、善が勝ったのか、悪が勝ったのか・・・。
 エンド・ロールでデヴィッド・ボウイの名前を見てびっくり。いったいどの役と思ったら、発明家のニコラ・テスラ役での出演でした。いやぁ〜歳をとりましたねぇ。「ロード・オブ・ザ・リング」や「キング・コング」のアンディ・サーキスも今回は普通の人間として登場しています。
ゾディアック(19.6.16)
監督  デビッド・フィンチャー
出演  ジェイク・ギレンホール  マーク・ラファロ  ロバート・ダウニー・Jr  アンソニー・エドワーズ
     ブライアン・コックス  ジョン・キャロル・リンチ  クロエ・セヴィニー
「ゾディアック」とは、アメリカで60年代の終わりから70年代にかけて起こった連続殺人事件の犯人が自ら名乗った名前です。いまだに犯人が明らかとなっていないこの事件を「セブン」のデビッド・フィンチャーが映画化しました。
 犯行後新聞社に犯行声明と暗号文を送り、新聞紙上に暗号文を載せるよう要求し、そのうえ、自分の犯行ではない事件まで自分がやったというゾディアックは、今でいう劇場型犯罪のはしりですね。映画はゾディアックが犯す事件を描くとともに、ゾディアックを追うことによって人生を狂わしていく三人の男たちを描きます。一人は、サンフランシスコ・クロニクル新聞の花形記者のポール・エイブリー。一人は同じ新聞社で風刺漫画を描いているロバート・グレイスミス。そしてこの事件の捜査に携わるサンフランシスコ市警殺人課の刑事デイブ・トースキー。この実在の人物たちが、ゾディアック事件にかかわることにより、ある者はアルコールにおぼれて身を持ち崩し、ある者は職場を追われ、ある者は家庭が崩壊してしまうなど、それぞれの人生を崩壊させてしまいます。事件を追うデイブ・トースキーとポール・エイブリーが事件にのめり込むのはわかるのですが、グレイスミスがあそこまでのめり込むのはちょっと異常です。実在の人物ですから本当のことなんでしょうけど。
 実際の事件で迷宮入りしているので、犯人がわからないのはしょうがないのでしょうが、やっぱりラストは消化不良。「セブン」のような衝撃度はありません。
 主人公を演じたジェイク・ギレンホールやロバート・ダウニー・Jrより気になったのは、途中で家族のために違う部署に異動を申し出るトースキー刑事の相棒ウィリアム・アームストロング刑事を演じた役者さん。髪がふさふさしているので最初わからなかったのですが、「ER」のグリーン医師役のアンソニー・エドワーズだったのですね。あれって鬘かな?
300〈スリーハンドレッド〉(19.6.16)
監督  ザック・スナイダー
出演  ジェラルド・バトラー  レナ・ヘディー  デイビッド・ウェナム  ドミニク・ウェスト
     ビンセント・リーガン  マイケル・ファスベンダー  トム・ウィズダム  ロドリゴ・サントロ
 スパルタ教育という言葉が今でもあるように、スパルタにおける教育というのは厳しいものがあったようです。この映画においても、冒頭で生まれたときに障害があれば谷底に捨てられるし、その後も過酷な戦いのための教育が施され、一人前になるためには狼と戦わなければならない様子が描かれます。スパルタに生まれなくて良かったと本当によかった。
 映画は、紀元前480年にあったスパルタとペルシャとのテルモピュライの戦いを描いたものです。受験で世界史をとっていたというだけでなく、歴史を読むことが大好きだったのですが、この戦いのことは記憶にまったくありません。試験には必要ない知識なんでしょうか。司祭に戦うことを禁止されたスパルタ王が率いるスパルタ軍はわずか300名、一方ペルシャ軍は100万の軍隊。思わず一人当たり何人倒さなければならないか計算してしまいました。たとえ10万人であったとしてもスパルタ軍は一人当たり333人を倒さなければなりません。これはいくらスパルタ軍が精鋭であっても無理でしょう。と思って観ていたら、これが倒すわ倒すわどんどん倒す。腹を突き刺し、首はちょん切るで、一回の戦いで十人以上を倒してしまうのですから、これはいってしまうかなと思ったのですが・・・・。
 映像がすごいです。実写なのかCGなのかわからないです。アメリカン・コミックの雄フランク・ミラー作品ですので、映像もコミックを見ているような感じです。CGがすごすぎて、あれだと、本当の人間が演じなくてもいいのではないかという方向に行きそうです。
 主人公のスパルタ王レオニダスを演じたジェラルド・バトラーは、「オペラ座の怪人」でファントムを演じた人。今回は無精髭、ムキムキマンとなってイメージ一新です。
憑神(19.6.23)
監督  降旗康男
出演  妻夫木聡  西田敏行  香川照之  江口洋介  夏木マリ  佐々木蔵之介
     鈴木砂羽  森迫永依  笛木優子  佐藤隆太  赤井英和  石橋蓮司  鈴木ヒロミツ
 浅田次郎さんの原作が意外に(失礼!)おもしろかったので、公開初日に観に行ってきました。
 主演の妻夫木くん人気で女性が来ているのかと思いましたが、若い女性の姿はほとんど見当たらず。地方では妻夫木くんの人気もいまいちかな。
 ストーリー自体は原作とほとんど変わっていません。ただ、文庫本で350ページの作品を2時間弱の映画にするのですから、話の展開が速いのはいたしかたのないことでしょう。原作では重要な登場人物である官軍参謀の中松与平が登場してきませんし、勝海舟や榎本釜次郎の登場も少なすぎます。本当は、これらの人物がもっと登場してこそのラストの感動シーンでもあったのですが。ラストに彦四郎を見送るのは勝海舟と、二八蕎麦屋の親父ではちょっと原作のようには感動が盛り上がりませんね。
 そして、もう一点、最後に登場する神と彦四郎の関係は、原作ではあんなではなかったですね。あれは感動させようとして逆に原作を知っている人には評判は悪いのではと思ってしまいます。
 また、原作にはないシーンを映画では最後に付け加えていますが、あれはない方のがよかったのでは。まあ活字だとあのラストで余韻が残りますが、映像だとはっきりわかるところまで見せなくては駄目なんでしょうか。
 貧乏神を演じたのは、西田敏行さん。やっぱり、この人うまいです。貧乏神らしくない貧乏神を本当に好き勝手に(?)演じて見せてくれています。この人の演技で劇場内に何度笑いが起こったことか。すばらしい。
 疫病神を演じたのは赤井英和さんですが、赤井さんには悪いですがミスキャストかと・・・。原作を読んだイメージでは、疫病神は横綱にも負けないほどの巨漢の力士のはずですが、いくら元プロボクサーでも、赤井さんでは巨漢といえません。高下駄を履いて背を高く見せようとしてはいましたが無理がありました。だいたい、四股が全然様になっていなかったのは大きなマイナスです。
 最後の神を演じた女の子は、森迫永依ちゃんという、先日まで実写版の「ちびまる子」を演じていた女の子です。あれを見てすごい子だなあと思ったのですが、TV「あした天気になあれ」や映画「この胸いっぱいの愛を」にも出ていたそうです。気づかなかったなあ。
 兄の左兵衛を演じる佐々木蔵之介さんはこの役にピッタシです。この人、気難しい役もこなしますし、今回の左兵衛のような享楽的な人物も演じますし、イメージを固定しないなかなかの役者さんです。
 この作品の重要な登場人物の一人である小文吾は原作では彦志郎の元部下でしたが、映画の中では婿養子先の小者になっています。演じたのは佐藤隆太さんですが、これまた原作の鰓の張ったあばた面というイメージとはほど遠い役者さんでした。
 やっぱり、原作がある作品というのは、登場人物に対する読んだ人のそれぞれのイメージがありますので、配役を誰にするのかは難しいですね。

※鈴木ヒロミツさんが上司役で出演していました。亡くなる前の最後の映画出演だったのでしょうか。
アヒルと鴨のコインロッカー(19.6.29)
監督  中村義洋
出演  瑛太  濱田岳  松田龍平  大塚寧々  関めぐみ  田村圭生  関暁夫
     キムラ緑子  なぎら健壱
(ネタバレあり)

 第25回吉川英治文学新人賞を受賞した伊坂幸太郎さんの「アヒルと鴨のコインロッカー」の映画化です。
 地元の映画館では公開しそうにないので、休みを取って恵比寿ガーデンシネマまで観に行ってきました。予想に反して人の入りはあまりよくありません。ガラガラといっていい状態でした。地味な映画ですし、伊坂さんの小説を読んだ人、又は主人公を演じた瑛太くんのファンの人くらいしか来ないのでしょうかね。田舎から早く出て行って、せっかく入場順が3番目のチケットを取ったのですが、それほどしなくても楽々入場できました。

 映画のストーリーは、ほとんど原作と同じです。ただ、原作は現在と2年前が交互に語られる形をとっていましたが、さすがに映画だとそれは無理でしたね。それをしてしまうと、肝心の読者(映画の場合は観客)へのトリックがトリックでなくなってしまうので、致し方ありません。あれは本だからできることですからね。
 主役公の一人椎名を演じるのは濱田岳。先日までフジテレビの「プロポーズ大作戦」で主人公の親友としてテンションの高い役を演じていましたが、今回はちょっととぼけた感じの役です。意外に好評です。やはり椎名は格好良すぎては駄目ですよね(濱田くん、ごめんなさい。)。
 もう一人の主役、河崎を名乗っていたドルジを演じたのは瑛太。彼は小説の役柄にイメージピッタリです。留学時のきっちりした髪型とシャツをズボンの中に入れる垢抜けてない様子から、河崎を名乗るようになると、無精髭に髪型も変わって表情が一転します。なかなか瑛太クン、いいですよ。本物の河崎を演じた松田龍平も登場シーンは少ないのですが、存在感出していましたね。
 女優では、ペットショップのオーナー麗子を演じた大塚寧々さんが、原作の無表情、沈着冷静の麗子の役にピッタリでした。琴美役の関めぐみさんだけがちょっと印象薄かったかな。やはり、原作では琴美は2年前のパートの語り手として前面に出ていたせいもあるのかもしれません。

 ラスト、神様を閉じこめようとするのは、原作ではドルジでしたが、映画では椎名。それまでドルジに引っ張り回されていた椎名が、ここは格好良かったですね。このラストも意外にしっくりきて、僕としてはOKです。
 
 ※この新幹線改札口脇のコインロッカー、僕もこの3月に仙台に行ったときに荷物を入れようとしたのですが、すべて使用中でした。
ダイ・ハード4.0(19.6.30)
監督  レン・ワイズマン
出演  ブルース・ウィリス  ジャスティン・ロング  ティモシー・オリファント  クリフ・カーティス
     マギー・Q  ケヴィン・スミス  メアリー・エリザベス・ウィンステッド
 前作のダイ・ハード3の公開が1995年だそうですから、12年後の新作となります。3ではかろうじて髪があったブルース・ウィリスもスキンヘッドになって登場です。すでに52歳になってのアクションですが、このところ「ロッキー」のシルベスター・スタローンが60歳、これから製作される「インディー・ジョーンズ4」のハリソン・フォードなどは65歳ですから、ブルース・ウィリスにはまだまだ頑張ってもらわなくてはなりません。
 「ダイ・ハード」「ダイ・ハード2」とクリスマスに大事件に巻き込まれたマクレーン刑事の活躍を描いて、この2作はアクション映画として最高のおもしろさでした。ところが「ダイ・ハード3」は全2作と比較してかなり落ちる作品だったので、今回もあまり期待は持たないで観に行ったのですが、いい意味で期待が裏切られました。これが意外とおもしろい。
 今回マクレーンはアメリカを襲うサイバー・テロリストたちに立ち向かっていきます。宣伝文句がアナログ対デジタルとは上手い言い方をしていますが、デジタルなサイバーテロリストたちに対しアナログ刑事マクレーンが身体だけを武器に戦います。
 「ダイ・ハード2」のときは、旅客機の翼の上に飛び乗りましたが、今回は空軍戦闘機Fー35の上に飛び乗ってしまうのですから(もちろん、本物ではないでしょうけど)、すごいですよ。冒頭からアクションの連続で、目が離せないし、観ているこちらも思わず身体中に力が入ってしまいます。車でヘリコプターをたたき落としたり、現実には考えられませんが、ありえないアクションシーンがあるのがこれまたダイ・ハードらしいところです。高所恐怖症だったマクレーンが、それを克服するためにヘリの操縦を習ったところもまた愉快。
 ラスト、首謀者を撃つところなども、マクレーンらしいやり方。かなり、痛いでしょうけどね。
 女忍者みたいな派手な格闘シーンを見せてくれたのは「MI:3」に出ていたマギー・Qです。身体にフィットした黒い服姿が格好いいこと。最後はマクレーンに容赦なくやられてしまってかわいそうです。
 とにかく、難しいことは考えずにひたすら手に汗握るアクションシーンに堪能する映画です。
傷だらけの男たち(19.7.7)
監督  アンドリュー・ラウ  アランマック
出演  トニー・レオン  金城武  スー・チー  シュー・ジンレイ  チャップマン・トゥ  エミー・ウォン
二人の男の話です。一人は恋人の自殺により刑事を辞め、今ではアル中の私立探偵となっているポン。もう一人はポンのかつでの上司で、今では億万長者チャウの娘スクツァンと結婚し幸せの絶頂にある刑事のヘイ。ある日、チャンが自宅で惨殺され、父の死に疑問を持ったスクツァンは、ポンに事件の捜査を依頼する。
 話が進むにつれ、二人の男の悲しい心の傷が露わにされます。ただ、ポンの悲しさよりはヘイの悲しみの方がどうしようもない深さがあります。あの悲しさは決して忘れることはできませんね。一方ネタバレになるので詳しくは言えませんが、ポンの悲しみは単に愛する女性に自殺されただけではないんですよね。僕自身はポンのようにはなれません。
 事件の真相は最初から観客には明らかにされます。そういう点ではサスペンスとしては弱い気がします。それを補うのは、スクツァンが何者かに狙われているというところですが、これもちょっと考えるとだいたい真相がわかってしまいます。この映画はサスペンスよりも過去に心に大きな傷を持った二人の男たちの人間ドラマに重点を置いた作品なので、まあそんな程度でいいのでしょう。
 ポンを演じるのは金城武。日本人の俳優さんですが、もともと香港映画に出演していただけあって、違和感がありません。でもアル中という設定でありながら、あまりにかわいいアル中でした。無精髭を生やしたあの優しげな顔が、今回のポン役にはうってつけでしょうか。映画の中のスー・チー演じたフォンのように、女性の方は守ってやりたいなんて思ってしまうのだろうなあ。
 ヘイを演じるのは、香港映画のスター、トニー・レオン。今回は冷静沈着な刑事ではあるが、犯人を前にしては容赦しないという残酷な一面も持ち合わせた男を演じています。「インファナル・アフェア」のときも思いましたが、トニー・レオンという役者さんは、あの顔立ちからして、どんくさい役はたぶん似合わないでしょうね。今回も理性的なイメージとは別の行動も見せますが、スマートさは全然崩れません。
 脇役の一人に見たことがある顔が。「インファナル・アフェア」で、ちょっと頭の足りないちんぴらを演じていたチャップマン・トゥが同僚の刑事として出演しています。「インファナル・アフェア」のときより、体型に貫禄がついたかなという感じです。
 監督は「インファナル・アフェア」シリーズのアンドリュー・ラウとアランマック。あれほどのインパクトはなかったというのが正直な感想です。それにしても、「インファナル・アフェア」に続く柳の下の二匹目のドジョウとばかりに、この作品もすでにディカプリオ主演でハリウッドのリメイクが決まっているそうです。アメリカ映画界はネタ切れなんでしょうかね。
転校生 さよならあなた(19.7.14)
監督  大林宣彦
出演  蓮佛美沙子  森田直幸  清水美砂  厚木拓郎  寺崎咲  石田ひかり  田口トモロヲ
     斉藤健一  窪塚俊介  犬塚弘  古手川祐子  長門裕之  宍戸錠  山田辰夫
     高橋かおり  入江若葉  小林桂樹  根岸季依  細山田隆人
 25年前に大林宣彦監督が尾道シリーズの第1作として製作した「転校生」の自作リメイク作品です。
 今回舞台になるのは前作の舞台となった尾道を離れて、長野県です。また、心が入れ替わってしまう原因も異なります。前作では神社の階段から落ちたことが原因ですが、今回は水の中に落ちたことによって入れ替わりが起こってしまいます。

 父母が離婚し、母と共に尾道から幼い頃を過ごした長野へと越してきた斉藤一夫は、幼なじみの斉藤一美と再会。彼女と思い出の水場に行くが、一緒に水の中に転落し、気が付くと互いの心が入れ替わっていた。途方に暮れる2人は、ひとまずそれぞれの家で普段の生活を続けようと試みる。

 前作は男の子の身体であって女の子の心、女の子の身体であって男の子の心を持った二人の戸惑いにおもしろさがありました。最後の「さよならオレ」「さよならアタシ」に爽やかな感動を覚えました。今回は笑いもあるのですが、ちょっと大林監督ずるいです。ラストをあんな風にしたら、お涙頂戴物になってしまうではないですか。あれでは感動しないわけにはいきません。僕としては前作のラストの方が好きです。
 一美役を演じた蓮佛美沙子さんがとっても素晴らしい演技を見せています。映画では身体は女性でありながら心は男性という演技をしなければなりません。当然恥ずかしがらずに下着姿になったり、男っぽく歩いたりするわけですが、無理しているというところが見えない自然な演技です。表情もとっても素敵です。最近の若手女優とは異なった端整な顔立ちで聡明さを感じさせる女優さんですね。前作の一美役の小林聡美さんより女性を感じさせますね。これからが期待できます。
 大林監督の作品には大林組と呼ばれるように以前の大林作品に出演していた俳優さんがよく出ています。
 山本弘の亡くなったおじいちゃん役は小林桂樹。弘役の厚木拓郎くんと小林桂樹さんは大林宣彦監督の「あの、夏の日 とんでろじいちゃん」で孫と祖父を演じています。知っている人にとってはニヤッとしてしまいますね。
 先生役は「ふたり」の石田ひかりさんですし(この人の声好きなんですよね)、25年前の「転校生」で一美の父を演じた宍戸錠さんが旅回り一座の座長役で、一美の母を演じた入江若葉さんが一美の亡くなった祖母役で登場しています。ちょい役で出演していたピアノ配達の女は「あした」の高橋かおりさんでしたよね。びっくりしたのは、お笑い芸人のヒロシが金髪ではない普通のかっこうで出演していたということ。パンフレット読むまでまったく気がつきませんでした。
ゴースト・ハウス(19.7.28)
監督  ダニー&オキサイド・バン
出演  クリステン・スチュアート  ディラン・マクダーモット  ペネロープ・アン・ミラー
     ジョン・コーベット 
(ネタバレちょっとあり)

 夏はやっぱりホラー。ぞぉーとする涼しい思いをしようと東京に行ったついでに観に行ってきました。監督は、この作品がハリウッド・デビュー作となる香港の双子の兄弟ダニー&オキサイド・バン。
 ロイ、デニース夫婦と長女ジェスと長男のベンのファミリーは、父親の失職やジェスが起こした事故によってバラバラとなった家族の絆を再生しようと、シカゴからノース・ダコタの田舎にやってくる。そこで1軒のの家を買い取って、ひまわり栽培に賭けようとする。ある日カラスに襲われたロイを助けたジョンを手伝いとして雇い入れ、ギクシャクとした家族関係の中で新しい生活が始まる。しかし、やがてジェスは、家の中に怖ろしい存在がいるのに気がつく。口がきけない幼い弟だけには幽霊の姿が目に見えるらしいが、誰も彼女の言うことを信じようとしてくれず、彼女の身体の傷も自分自身で傷つけたものだと思いこむ・・・。
 なぜ、カラスはロイを襲ったのか。なぜゴーストがジェスだけに危害を加えていたのかという理由が、映画が終わったあとでもわかりませんでした。あのラストであるなら、これらの事実は必然性がないと思うのですが。
 ラスト近くでこの映画のように写真を見て真実に気づくというパターンはよくありますし、話としてはネタがすぐ割れてしまいました。正直のところ、ホラーとしての怖ろしさもいまひとつですし、涼しくなることはできなかったですねえ。ホラーの要素に家族の再生の話が加わっただけの映画です。
 ちなみに、ジェスを演じたのは「パニック・ルーム」でジョディ・フォスターの娘役を演じたクリステン・スチュアートです。言われないと気づきませんね。それから、パンフレットにも記載されていませんが、不動産屋の役を演じたのは、「Xファイル」のスモーキングマン役の俳優さんではないでしょうか?
 製作は「スパイダーマン」のサム・ライミです。 
トランスフォーマー(19.8.4)
監督  マイケル・ベイ
出演  シャイア・ラブーフ  タイリース・ギブソン  ジョシュ・ディアメル  アンソニー・アンダーソン
     レイチェル・テイラー  ミーガン・フォックス  ジョン・タトゥーロ  ジョン・ヴォイト
 とにかく理屈抜きにおもしろいです。まあ、観てくださいという映画ですね。監督が「アルマゲドン」のマイケル・ベイ、製作がスティーブン・スピルバーグときているのですから、娯楽色いっぱい、おもしろくないわけがありません。
 男なら誰でも幼い頃にロボットのおもちゃで遊んだり、ロボットが活躍するテレビ番組に胸躍らせた経験はあるでしょう。そんな男の子であったなら、今何歳であっても楽しむことができる作品です。
物語は、地球より遥かかなたの惑星で戦いの最中に宇宙へと流出したエネルギーの源オールスパークこと“キューブ”を巡って、平和主義のオプティマス・プライムをリーダーとするオートボットと地球を支配しようとするメガトロンをリーダーとするディセプティコンが地球で戦いを繰り広げます。
 おもしろいのは彼ら金属生命体は、何にでも変身ができてしまうということ。CDプレイヤーや携帯電話などの小さなものに変身するのはご愛敬。車やヘリコプター、ジェット戦闘機に変身して戦いを繰り広げます。ただ、どういうわけかオートボットの方はみな車からの変身ですが、ディセプティコンの方はジェット戦闘機、戦車、特殊戦闘ヘリ、地雷除去車等いかにも強そうです。見所の変身シーンは、目を瞠るCGです。すごいですよ。
 アメリカ映画らしく、ユーモラスなシーンもあって楽しいです。主人公のサムが初めてバンブルビーを見た時に、あんな最新鋭のロボットは日本製だと言う場面があります。やはり日本製というのは時代の先端を行くというイメージがあるのですね。日本人としてうれはうれしいですねえ。
 また、単にCGが売り物だけではなく、サムと憧れのマドンナミカエラとの恋も描きますし、サムとオートボットのバンブルビーとの友情というところも忘れていません。ここはジ〜ンとくるところです。
主人公のサムを演じるシャイア・ラブーフは、見た目二枚目というほどの俳優でもないですし、何だか頼りなさそうな男の子ですが、アメリカではこのところ人気だそうです。この秋に日本公開されるサスペンス映画「ディスタービア」でも主演していますし、なんとあの「インディー・ジョーンズ4」の出演も決まっているそうです。注目ですね。
 サムが恋するミカエラを演じているのはミーガン・フォックス。最初はイケメン男と付き合うなど嫌な女という外見でしたが、サムとともに闘う中でいい表情の女性に変身していきましたね。
 そのほか、ジョン・ヴォイトやジョン・タトゥーロといったくせ者俳優が脇を固めています。特にセクター7の捜査官を演じたジョン・タトゥーロのユニークさは最高ですよ。
消えた天使(19.8.4)
監督  アンドリュー・ラウ
出演  リチャード・ギア  クレア・デインズ  ケイディー・ストリックランド  アヴリル・ラヴィーン
     レイ・ワイズ  ラッセル・サムズ  マット・シュルツェ
(ちょっとネタバレあり)
 リチャード・ギア演じる主人公エロル・バベッジは、性犯罪者を監視する監察官であったが、職務から外れる強引な行動をとることから1月後の退職を勧告されていた。そのバベッジの後任としてきたのはクレア・デインズ演じるアリスン。そんな折、一人の少女が行方不明になるという事件が起き、バベッジは、性犯罪者の中に犯人がいるとして、アリスンを連れて彼らの元を訪ね歩きます。
 アメリカではメーガン法という法律により性犯罪者の登録制度と情報公開がなされており、自分の近所にどういう性犯罪者がいるのかもわかるようになっているそうです。この映画を見ると、人間の本質というものはそんなに簡単に変わるものではないということが思い知らされます。だからこそ、性犯罪者の登録制度があり、一般の人はそれを見て気を付けなさいよということなんですね。人ごとではありません。日本でも性犯罪の急増に伴い、平成5年から警察が性犯罪出所者の居所を把握するようになったそうです。アメリカの跡を辿っているようですね。
 原題は、「THE FLOCK」、日本語で「群れ」ということです。この題名の意味するところが最後にわかります。
 ラスト何分は、あのブラッド・ピット、ケヴィン・スペイシー共演の「セブン」に匹敵するとあって、期待したのですが、う〜ん、残念ながら期待はずれ。そこまではというところです。確かにシーンとしては似ているのですが・・・。映画の最初と最後に出てくる警告「怪物と戦う者は、その際、自らも怪物にならぬよう気をつけよ」は考えさせられるものがあります。バベッジは闇の深淵に絡み取られてしまったのでしょうか。
 主演のリチャード・ギアは、「プリティ・ウーマン」に代表されるダンディな二枚目とはまったく異なる狂気を秘めた男を演じています。髪も薄くなったし、歳取りましたねえ。
 監督は「インファナル・アフェア」シリーズのアンドリュー・ラウです。初めてのハリウッド進出映画ですが、香港の監督という雰囲気は感じさせません。いかにもというようなカンフーシーンもありませんし、アジア人の出演もみられません。アメリカそのものという乾燥した田舎町を舞台に映画は描かれていきます。
 歌手のアヴリル・ラヴィーンが性犯罪者のガールフレンド役で出演しています。娘がサード・アルバムを買ったので、オヤジも知っていましたよ。