▲2006映画鑑賞の部屋へ

Mr.&Mrs.Smith(18.1.6)
監督  ダグ・リーマン
出演  ブラッド・ピット  アンジェリーナ・ジョリー  ヴィンス・ボーン  アダム・ブロディ
     ケリー・ワシントン
 ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーという人気俳優が共演した映画です。二人の役柄は夫婦です。幸せな結婚生活を送っていますが、実は二人とも裏では殺人を請け負う暗殺者だったのです。こんな奇想天外な設定は普通ではあり得ませんよね。そのうえ、同じ対象者を狙って邪魔しあって失敗。相手を48時間以内に殺さなくてはならなくなるというのですから。お互い疑心暗鬼になりながら食卓に向かうシーンには笑ってしまいます。
 それにしても、映画全体を通して言えることですが、ブラピよりアンジェリーナ・ジョリーの方が強そうですよね。アンジェリーナ・ジョリーは役柄にピッタリです。あの気の強そうな不敵な面構え、鍛えられた体。もともとこの役はニコール・キッドマンが第1候補だったようですが、彼女ではあの激しいアクションシーンはできなかったのではないでしょうか。アンジェリーナ・ジョリーに変更して大正解だったと思います。さすがはトゥーム・レイダーで主人公を演じた女優です。女王様のコスチュームまで着てしまって、相変わらずの見事な肢体も披露してくれます。
 一方、ブラピですが、完全にアンジェリーナ・ジョリーに喰われてしまっています。殺し屋という役柄自体はかっこいい役なんですが、いまひとつ影が薄い感じがします。とはいえ、2時間たっぷりブラピとアンジェリーナ・ジョリーを楽しめる映画です。これはもうブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーのファンのための映画です。二人のファンなら必見ですね。
 この二人もこの映画ですっかり息が合ってしまったらしく、いい関係になっているようです。さて、本当の夫婦になるのでしょうか、今後が楽しみです。
ミリオンズ(18.1.8)
監督  ダニー・ボイル
出演  アレックス・エテル  ルイス・マクギボン  ジェームズ・ネスビット
     デイジー・ドノヴァン  クリストファー・フルフォード  
 ミニ・シアター系の作品です。こんな素敵な作品を地方の映画館で観ることができるなんて、館主に感謝です。監督は「28日後」のダニー・ボイル。あのゾンビが走る回る作品を撮った監督の作品とは思えないファンタジックな作品です。暴力シーンもないし、もちろん血がドバァーというシーンもありません。
 母を亡くして新たな街に引っ越してきた幼い兄弟と父親。現実的な兄アンソニーと、信仰に厚く、神を信じる弟ダミアン。ダミアンは、尊敬する人はと問われて、聖人の名前を挙げるのですから、すごいですね。
 ある日、段ボール箱で作った隠れ家で遊んでいたダミアンに頭上からポンド紙幣が入った鞄が落ちてきます。その金額22万9320ポンド。折しもイギリスはポンドからユーロへの切り替え期限まで12日となっていました。それが過ぎると、ポンドはただの紙になってしまいます。兄は好きなものを買いまくり、弟は貧しい人に金を与えようとします。このあたり、二人の兄弟が対称的に描かれます。兄は投資のために家を購入しようとし、弟はお金を神からの贈り物だとして、貧しい人を探してお金を渡そうとしますが、ともになかなかうまくいきません。ダミアンが贈った金を使って、モルモン教徒がいろいろな贅沢品を買ってしまうところが愉快です。この監督、モルモン教に恨みでもあるのでしょうかねえ。
 とにかく純粋無垢な弟役を演じるアレックス・エテルくんのそばかすだらけの顔の表情がとても素敵です。ダミアンの目にしか見えない聖人たちの登場もファンタジックです。聖人たちに「天国で聖モーリーンを見た?」と死んだ母のことを尋ねるのにはジーンときてしまいます。そして、最後にはある奇跡が・・・。オススメの映画でした。  
キング・コング(18.1.9)
監督  ピーター・ジャクソン
出演  ナオミ・ワッツ  エイドリアン・ブロディ  ジャック・ブラック  トーマス・クレッチマン
     コリン・ハンクス  ジェイミー・ベル  アンディ・サーキス  イヴァン・バーク
 1933年制作の「キング・コング」の2回目のリメイクです。1976年制作の最初のリメイク版についても観に行った記憶があるのですが、コングが愛する(?)女優がジェシカ・ラングであったこと以外よく覚えていません。今回メガホンを取ったのは、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのピーター・ジャクソンです。
 主演の女優アン・ダロウを演じるのは、リングの主演女優だったナオミ・ワッツです。グラマラスな女優さんではないですが、すらりとした肢体の綺麗な女優さんです。僕としては、以前デビッド・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ」という、いかにもリンチ監督らしいという難解な映画に主演していたのを観たときにちょっと気になった女優さんでした。派手な顔立ちではないですが、理知的な感じですね。相手役の劇作家ジャック・ドリスコルを演じるのは「戦場のピアニスト」でアカデミー主演男優賞を獲得したエイドリアン・ブロディです。面長のヒョロッとした体型で、とてもアンを助けに行くという感じではありません。途中で簡単に死んでしまいそうです。この二人が恋に落ちるのですが、憧れの劇作家ということではあるにしても、少し唐突な感じがします。まあ、この二人が恋に落ちなければあの救出劇がないのだから、そこはどうしても恋に落ちなければなりませんが。
 スカル・アイランドの島民によってコングの生け贄とされたアンを救出するために、ジャックらが島の中に入っていくのですが、そこはコングだけでなく、恐竜が今でも生き残っているという島でした。ティラノサウルス(この島独自の進化を遂げたオリジナルな恐竜として、バスタトサウルスと名付けられています。)を始め、さまざまな恐竜や巨大な昆虫たちが、CG技術により、見事なまでに本物らしく描かれています。このあたりを見るとジュラシック・パークです。
 コングを捕まえてからニューヨークで暴れ出すまではあっという間です。ただでさえ、3時間を超える上映時間なので、無理もないですね。撮影はしたけど、かなりカットされたのでしょう。
 劇場内では感動している人もいるようでしたが、僕自身はそれほどというのが正直な感想です。コングはアン・ダロウ以外の女性は無造作に投げ捨てていましたからねえ。ただ、氷のうえでコングがアンとともに滑るシーンは良かったですね。
 ラストはエンパイアステートビルに登って戦闘機の銃弾を浴びるというお決まりのシーンです。
スタンドアップ(18.1.14)
監督  ニキ・カーロ
出演  シャーリーズ・セロン  フランシス・マクドーマンド  ショーン・ビーン  リチャード・ジェンキンス
     シシー・スペイセク  ミシェル・モナハン  ウディ・ハレルソン
 「モンスター」でアカデミー主演女優賞を獲得したシャーリーズ・セロンが再び挑んだ社会派ドラマです。鉱山という男社会の中で、セクハラ訴訟に立ち上がる女性の姿を描きます。
 夫の暴力に耐えかねて二人の子供を連れて実家に帰ったシャーリーズ・セロン演じるジョージー。しかし、父親はジョージーの言葉を信じず、彼女に落ち度があったためだと彼女を責めます。彼女は二人の子供を育てるために、友人グローリーの薦めで、グローリーと父親が働く鉱山で働くようになります。しかし、わずか十数人しかいない女性従業員に対する男性従業員のセクハラは激しく、会社も見て見ぬふりをする中で、ジョージーは立ち上がります。
 物語は、最後には娘を理解しなかった父親も、組合の会議で話す娘に投げかけられるヤジを聞いて、立ち上がりますが、それまでのあまりの理解のない言動をしていた父親からすると、ちょっと唐突という感じがします。このあたり駆け足で描きすぎてしまったのではないでしょうか。しかしながら、ストレートな感動作です。じわっと来ます。
 シャーリーズ・セロンが「モンスター」で増加した体重を元に戻して、主人公を演じます。今回も炭坑で働く女性のため、化粧はほとんどせず素顔で奮闘していますが、素顔でもなかなか綺麗です。これまでは単に綺麗で妖艶な女優さんという印象でしたが、「モンスター」でそんな印象を吹き飛ばし、今回の映画とともに重厚な役もできるということを証明しましたね。
 いつも悪役という印象しかないショーン・ビーンが、今回は珍しく押さえた演技でいい男を演じています。その妻グローリー役のフランシス・マクドーマンドも男社会の中でも一目置かれた女性として好演しています。
 男性従業員のセクハラ行為があまりにひどいためか、Rー15指定となっていましたが、青少年たちにもセクハラというものはどういうことかを知らしめるためにも、もう少し年齢制限を低く設定しても良かったのでは。女性ばかりでなく、男性も必見。考えさせられますし、勇気を与えられます。おすすめです。  
博士の愛した数式(18.1.27)
監督  小泉堯史
出演  寺尾聡  深津絵里  浅丘ルリ子  吉岡秀隆  齋藤隆成  井川比佐志
 原作は本屋の店員さんが選ぶ第1回本屋大賞を受賞した小川洋子さんの同名小説です。大賞を受賞したことからもわかるように、多くの人の共感を呼んだ作品で、僕自身もその年に読んだ本のベスト10に入る作品でした。果たしてこれだけの作品を小泉堯史監督がどう料理をするのか非常に興味深いところでした。
 物語は、交通事故により記憶が80分しか持たない数学博士と、その家に派遣された家政婦と博士からルートと名付けられた家政婦の息子との心の交流を淡々と描いていきます。
 博士を演じたのは小泉監督作品ではおなじみの寺尾聡さんです。この人の演技力には定評がありますので何ら言うことはありません。ただ、原作では博士は64歳で、“ひどい猫背のために160センチほどしかない身長はますます小さく見え”とは異なってちょっとかっこよすぎますが。一方家政婦を演じたのは深津絵里さんです。イメージとしては、もう少しおばさんを思っていたのですが、深津さんも家政婦という仕事に誇りを持つ女性を見事に演じていました。博士の義姉を演じたのは浅丘ルリ子さんです。愛した博士の記憶の中にある自分は常に事故の起こった10年前のもの。現実にはそんな博士の前に老いた姿を見せなくてはならないというのも辛いですよねえ。そんな悲しみと義弟への思いを胸に秘める義姉を鮮やかに演じています。
 ストーリーは基本的に原作を忠実になぞっているのですが、原作より前面に出てきたものが、博士と義姉との関係です。博士の義姉への気持ちがナレーションで流れたり、薪能を二人で観ているときに、博士の手がそっと義姉の手に重ねられるシーンがありますが、原作ではそれほどあからさまには二人の関係は述べられていなかったと思います。
 涙を流すというような映画ではありません。しかし、見終わって心の中にじわ〜と感動がわいてくる作品でした。おすすめです。学生時代大嫌いだった数学のことをちょっとおもしろく感じさせてくれる映画でした。
フライトプラン(18.1.29)
監督  ロベルト・シュヴェンケ
出演  ジョディ・フォスター  ショーン・ビーン  ピーター・サースガード  エリカ・クリステンセン
     ケイト・ビーハン
(ネタバレあり)

 ジョディ・フォスター主演のサスペンス映画です。
 夫がベルリンでアパートの屋上から墜落死し、その亡骸とともにニューヨークに向かう飛行機に搭乗したジョディ・フォスター演じるカイル。搭乗後、睡魔に襲われて眠ったカイルが目覚めると、一緒に乗った娘の姿が見えない。乗務員とともに探したが、娘の荷物もなく、娘の搭乗記録もない。そのうえ、娘は父親とともに6日前に亡くなっているという連絡が入る。果たして娘と乗ったというのは彼女の妄想なのか・・・。
 予告編を観たときには、飛行機という密室の中からの人の消失というミステリっぽい話に大いに興味をそそられました。しかし、正直のところ期待はずれ。途中までは真相はこうではないか、ああではないかといろいろ考えさせられ、話の中に引きずり込まれたのですが、真相が明らかになってしまうと、なんだぁ〜とがっかりです。
 そうなると、アラがいろいろ見えてしまいます。一番大きな問題は、カイルと娘が別の座席で休もうとしたのは、彼女が搭乗してから席が空いているのを見て言い出したことだったということです。もし、そのまま隣同士(それも娘の方が窓側の席ですしね)なら、どうやって娘を連れ去るつもりだったのでしょう(最後まで娘を連れ去ったときのことは描かれませんでした。)。
 二番目の問題としては、いくらなんでも小さな女の子がいたことを400人以上の乗客が誰も知らないなんてありえません。いくら現在が他人に無関心の時代にせよ、それはないでしょう。大人なら乗客が多くてわからないかもしれませんが、小さな女の子ですからねえ。
 ストーリーのアラはともかく、すでに2回のアカデミー主演女優賞を受賞しているジョディ・フォスターは、相変わらずの熱演です。娘を捜し出すために全力を尽くす表情に意志の強さが感じられます。はっきり言ってジョディ・フォスターのためだけの映画でしたね。
 出演者の中で知っているのは機長役を勤めたショーン・ビーンでしたが、存在感が全然なかったです。先日見た「スタンドアップ」の押さえた演技とは大違いでした。
ミュンヘン(18.2.4)
監督  スティーブン・スピルバーグ
出演  エリック・バナ  ダニエル・クレイグ  キアラン・ハインズ  マシュー・カソヴィッツ
     ハンス・ジシュラー  ジェフリー・ラッシュ
 1972年ミュンヘンオリンピックの開催中に起きたイスラエル選手に対するテロ事件とその後になされたテロ首謀者へのイスラエルの報復を描いた作品です。
 スティーブン・スピルバーグが前作の「宇宙戦争」とは一転、「シンドラーのリスト」、「プライベート・ライアン」に続いて歴史の裏に隠された事実に基づいて描いた人間ドラマです。完全にアカデミー賞狙いですね。
 人質となったイスラエル選手全員の死亡という悲惨な結果に終わった事件については、今でも記憶の中に残っていますが、まさか、その後にイスラエルによるテロ首謀者への報復があったとは知りませんでした。今から30年以上も前のことですが、現在でもアラブ過激派によるテロは起き、それに対しイスラエルは報復爆撃を行う(いや、鶏が先か卵が先かの問題で、どちらが先かは実際わからないのでしょうが)という血で血を争う報復劇は今でも続いています。終わることのない底なしの泥沼ですね。つい最近はパレスチナにテロ容認の強硬派が選挙で勝利しましたから、この現実は今後も続いていくのでしょうか。
 テロ事件の後、首謀者たちの殺害のために選ばれたアヴナー。彼は任務を遂行するために身重の妻にも事情を隠してヨーロッパへと旅立ちます。彼と行動を共にする仲間は爆弾づくりのロバート、ドライバーのスティーヴ、文書偽造のハンス、襲撃の後始末をする洗濯屋のカールの4人。彼らはフランス人の情報屋のルイから襲撃対象の居場所の情報を得て、行動を起こします。
 アヴナーを演じるのはエリック・バナ。最初は髪型のせいもあってか、「トロイ」や「ブラックホーク・ダウン」のときのような自信に溢れた男には見えませんでしたが、殺害を重ねるごとに表情が変わっていきます。このあたり役者さんですねえ。ロバートを演じるのはマシュー・カソヴィッツです。この人、役者では「アメリ」等に出演していますが、それより「クリムゾン・リバー」、「ゴシカ」の監督といったほうが有名ですね。この作品では仲間を殺されたことから報復を決意するアヴナーたちに疑問を感じ悩む爆弾のスペシャリストロバートを見事に演じています。スティーヴを演じるダニエル・クレイグは、なんと次のジェームズ・ボンドだそうです。この映画を見た限りはちょっとイメージが合いませんが、果たして007映画ではどう変身するのでしょうか。
 報復は報復を産み、追うものはいつか追われるものになるという悪循環に安心して休むこともできない恐怖。また、国のため、正義のためといいながら任務を遂行していたのに、復讐のために暗殺をすることに対しての苦悩。報復は彼らの心に何をもたらすのか。この映画はこれらを見ている者に大きな問題を投げかけます。2時間40分があっという間です。
 ※ラストの背景に見えた2つのビルは、あの世界貿易センタービルなのでしょうか。
THE 有頂天ホテル(18.2.4)
監督  三谷幸喜
出演  役所広司  松たか子  佐藤浩市  香取慎吾  篠原涼子  戸田恵子  生瀬勝久
     麻生久美子  YOU  オダギリジョー  原田美枝子  唐沢寿明  津川雅彦  伊東四朗
     西田敏行
 年越しまで2時間あまりの大晦日のホテルを舞台に、ホテルの従業員と客たちそれぞれのドタバタを描いた三谷幸喜監督作品です。大勢の登場人物たちの人間模様がホテルアバンティで交錯する、いわゆるグランドホテル形式の映画です。三谷監督もそれを意識して、舞台となるホテルのスイートルームには映画の「グランドホテル」の出演者の名前にちなんだルーム名を付けています。
 登場人物がすごい数で、それを演じる役者さんも普通の映画が何本も撮れるほどです(と言っても言い過ぎではないでしょう。)。ホテルの副支配人で宿泊部長の役所広司演じる新藤を中心に、歌手になることを断念して田舎に帰ろうとする香取慎吾演じるベルボーイ、新藤を密かに思う戸田恵子演じるアシスタント・マネージャーの矢部、年越しイベントにかける伊東四朗演じる総支配人、新藤をライバル視するもう一人の副支配人の生瀬勝久演じる瀬尾、松たか子演じる国会議員の元愛人にして今ではホテルの客室係竹本ハナ、オタギリ・ジョー演じるホテルの筆耕係、石井正則演じるホテル探偵など、ここまでがホテルの従業員。そして客として登場するのは、原田美枝子演じる新藤の元妻とその夫、西田敏行演じる自殺願望のある演歌歌手、佐藤浩市演じる汚職事件の渦中にいる国会議員武藤田、篠原涼子演じるホテルに客捜しに潜り込もうとするコールガールのヨーコ、唐沢寿明演じる芸能プロの社長赤丸、YOU演じる歌手桜チェリー、津川雅彦演じる若い女性を愛人に持つ大富豪、麻生久美子演じる謎のフライトアテンダントなど様々です。彼らそれぞれの人生がホテルの新年を迎えようとしている夜に交錯します。
 あの三谷幸喜監督の作品だけあって、とにかくおもしろいです。劇場内は笑いに溢れていました。伊東四朗や西田敏行がコミカルな演技をするのは当たり前ですが、この映画ではなんとあの役所広司もいつものかっこいい役とは異なって元妻に見栄を張っておかしな行動に走る男を演じています(やっぱり、ちょっと無理がありますがね)。
 多くの俳優さんの中で、かわいくて一生懸命なコールガールのヨーコを演じた篠原涼子がいいですねえ。今テレビで放映している「アンフェア」の刑事役とは180度違う印象の女性を演じています。最近ちょっとファンです。
  
 笑いの中に見えるテーマは自分の心に正直に生きろということでしょうか。ともかく、悩みのある人も疲れている人も、はたまたなんの悩みもない人も大いに笑って帰る時はいい気分になれる映画です。

 それにしても、大晦日を舞台にしていながらどうして公開を正月が過ぎた時にしたのでしょう。ハリー・ポッターやキングコングなどの正月映画とぶつかるのを避けようとした営業上の理由からでしょうか。12月だったら、気分的にもっと映画の中に入って行けたのにね。
美しき野獣(18.2.11)
監督  キム・ソンス
出演  クォン・サンウ  ユ・ジテ  オム・ジウォン  ソン・ビョンホ  ガン・ソンジン
テレビドラマ「天国の階段」のヒットでで日本の女性たちにも絶大な人気を誇る韓流スター、クォン・サンウとカンヌ映画祭グランプリ作品「オールド・ボーイ」で強烈な印象を観客に与えたユ・ジテの共演で送る刑事アクションドラマです。

 ソウル中部署捜査課の刑事チャン・ドヨンは捜査のためには暴力もためらわないが、純粋で正義感に溢れる男。そんなある日、ドヨンが自らの手で逮捕した義弟イ・ドンジクが出所直後に刺殺されてしまう。犯人逮捕を誓ったドヨンは独自の捜査でドガン組の幹部グァンチュンを割り出す。一方その頃、冷徹で妥協のない仕事ぶりで知られるエリート検事オ・ジヌは、ドガン組の撲滅に乗り出していた。。やがて2人は運命的に出会い、オ・ジヌはドヨンを見込んで捜査チームの一員に加える。捜査が進むうち彼らの前には巨大組織を操る一人の男が立ちふさがる・・・。

 今回、クォン・サンウは、いつもの色白な気弱そうな印象とは異なり、髪はぼさぼさで無精髭という姿で暴力刑事チャン・ドヨンを演じます。しかし、この刑事、犯人逮捕のためなら暴力も厭わないが実は母思い、弟思いのやさしい一面を持っています。やっぱりクォン・サンウが演じる刑事ですから女心をくすぐる一面も持たないとね。アクションシーンもすべて自分で行っているそうですから、また女性ファンの心をしっかり掴んでしまったようですね。特にラストがああでは尚更ですねえ。
 対するユ・ジテは法の力を信じ冷徹に捜査を進める検事オ・ジヌを演じます。正義のためには大きな権力にも立ち向かう男を見事に演じきっています。「オールド・ボーイ」のときには、あの切れ長の目が冷静だが異常な男にピッタリでしたが、今回の冷徹な検事役も似合いました。

 僕からすれば、ラストは納得のいかないものに終わりましたが、映画全体としては十分楽しむことができました。中年の女性たちに韓流スターを見せるだけの映画ではありませんでしたね。僕が観に行ったときはカップル以外の男性客は数えるほどで、ほとんどが中年の女性でしたが、ぜひ男性の皆さんにも足を運んでみて欲しいですね。韓国映画のパワーはすごいです。ただ、映画館のおばさんパワーには負けてしまうかな・・・
 それにしても「美しき野獣」という題名はどうにかなりませんかね。原題は「RUNNING WILD」ですよ。  
クラッシュ(18.2.18)
監督  ポール・ハギス
出演  ドン・チードル  サンドラ・ブロック  マット・ディロン  ジェニファー・エスポジト
     ウィリアム・フィットナー  ブレンダン・フレイザー  テレンス・ハワード  サンディ・ニュートン
     クリス“リュダクリス”ブリッジス  ライアン・フィリップ  ノナ・ゲイ  ラレンツ・テイト
 「ミリオンダラー・ベイビー」の脚本でアカデミー賞にノミネートされた、ポール・ハギスの監督デビュー作です。先日の第78回アカデミー賞では作品賞、助演男優賞、脚本賞を始めとする6部門にノミネートされました。素晴らしい脚本ですね。参りました。「クラッシュ」という題名どおり、衝突事故から始まり衝突事故で終わります。見事としかいいようがありません。この構成はミステリファンの鑑賞にも十分堪えられる作品ではないでしょうか。今回はアカデミー脚本賞の受賞は堅いと僕は思うのですが。
 物語は、ロサンゼルスという街を舞台にした群像劇です。ドラック中毒の母、行方不明の弟を持つロサンゼルス市警の警部グラハム(ドン・チードル)、その恋人で同じく警部のリア(ジェニファー・エスポジド)、野心家の地方検事のリック(ブレンダン・ブレイザ)、その妻で猜疑心に満ちたジーン(サンドラ・ブロック)、人種差別主義者のロス市警の巡査ライアン(マット・ディロン)、その相棒の若手警官ハンセン(ライアン・フィリップ)、差別を受ける黒人のTVディレクターキャメロン(テレンス・ハワード)、差別にいらだつその妻クリスティン(サンディ・ニュートン)、イラク人と間違えられ差別されるファハド(ショーン・トープ)、強盗を繰り返す黒人青年アンソニー(クリス“リュダクリス”ブリッジス)とピーター(ラレンツ・テイト)等々大勢の登場人物の人生が複雑に交錯しながら事故や強盗等に巻き込まれていく様子が描かれていきます。
 一番大きなテーマはやはり人種差別です。黒人差別だけではなく、アメリカ国籍であってもアジア系アラブ系というだけで差別が行われる様が描かれます。地方検事の右腕のフラナガンが言います「黒人の服役囚が白人の8倍なのは社会のせいだ。教育や機会の不平等、司法の問題などきりがない。それでも彼らは根っこのレベルで犯罪に手を染めやすい。事実無根だが、ついそう思ってしまう。」この言葉は、多くのアメリカ人の心の中を言い当てているのではないでしょうか。人種のるつぼのアメリカならではの映画だといえます。
 そして、ある黒人青年の死が、この人種差別の理想と現実を語っています。
 多くの俳優が出演していますが、一番目立ったのはロス市警の刑事を演じたマット・ディロンでしょう。人種差別主義者として、黒人に対し因縁を付けたりしますが、家では父親を介護している優しい一面を見せるという難しい男を演じています。アカデミー賞助演男優賞にノミネートされるのも頷けるところです。ただ、最後はちょっとかっこよすぎではないでしょうか。
 ジグソーパズルの最後のピースがはまるように、様々な出来事がいい意味にしろ悪い意味にしろ収束を迎えますが、ここにきて、あ〜そうかぁ〜だからあのとき・・・と思わず感嘆してしまいました。いろいろな伏線がさりげなく張ってあったんですね。何度も言いますが素晴らしい脚本です。ネタバレになるので詳しく書けませんが、1つは予告編の中にもあった“拳銃を向けられた父親に向かって走る娘、父親に抱きついた途端に発射される弾丸、果たして・・・” う〜ん、ボキャブラリーが乏しくて同じことしか言えませんが、素晴らしいです!今年観た映画の中では一番のオススメです。
 アカデミー主題歌賞にもノミネートされた音楽も映画の雰囲気に合っています。
歓びを歌にのせて(18.2.19)
監督  ケイ・ポラック
出演  ミカエル・ニュクビスト  フリーダ・ハルグレン  ヘレン・ビョホルム  レナート・ヤーケル
     ニコラス・ファルク  インゲラ・オールソン  
 昨年のアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたスウェーデン映画です。初めて見たスウェーデン映画になります。
 世界的な指揮者のダニエルは、過密なスケジュールと過度のストレスによって心臓疾患を患い、演奏会中に倒れてしまいます。彼はすべてを捨てて子供時代を過ごした故郷の村へと戻ってきます。彼はそこで教会の聖歌隊の面倒をみてくれるよう依頼されたことから、村の人たちとの交流が始まります。ダニエルの指導に次第に歌うことに喜びを覚えるようになる村人たち。しかし、ダニエルが村の生活に入っていく中でメンバーの間に様々な確執が表面化してきます。
 歌が素材になると、どうしても美しい映画を想像してしまいますが、この映画では美しい歌声とともに人間の醜い一面が描かれていきます。信者そして妻が教会よりも合唱に喜んで行くことを嫉妬する牧師、ダニエルが特定の女性に思いを寄せていると思い嫉妬する女性シヴ、虐待をしている妻ガブリエラが合唱に喜びを見いだしていることをダニエルに恋しているせいではないかと嫉妬する夫、聖歌隊の一員のアールからの長年のいじめに我慢が爆発するホルムフリッド。歌がすべてを解決するというような甘い映画にはなっていません。ただ、歌うということでそれまで閉鎖的な村の中で生きていた人々が心の自由を取り戻していく姿を描きます。ラストは感動です。でも、これでいいのでしょうかと思ってしまいました。ちょっと悲劇的すぎるなあ。
ナルニア国物語 第1章ライオンと魔女(18.3.10)
監督  アンドリュー・アダムソン
出演  ジョージ・ヘンリー  スキャンダー・ヘインズ  ウィリアム・モーズリー  アナ・ポップルウェル
     ティルダ・スウィントン  ジェームズ・マカヴォイ  ジム・ブロードペンド
 C.S.ルイス原作の「ナルニア国物語 第1章ライオンと魔女」の映画化です。このところ、トールキンの「指輪物語」、J.K.ローリングの「ハリー・ポッター」と、いわゆるファンタジー小説が映画化されて人気を博していますが、この「ナルニア国物語」、果たして3匹目のドジョウとなることができるでしょうか。金曜夜の最後の上映回ということで、さすがに子供たちの姿を見ることはできませんでしたが、若い人から老人の人まで幅広い人が見に来ていました。
 物語は、第2次世界大戦中ドイツ軍の空爆を逃れて、いなかに疎開したペペンシー家の4人の子供たちが主人公です。疎開先の邸宅の一部屋に置かれた大きな衣装ダンスを見つけた末妹のルーシーは、かくれんぼの最中にそこに隠れ、衣装ダンスの奥からナルニア国へと足を踏み出します。
 話としては4人の兄弟弟妹が、喧嘩をしながらも最後は力を合わせてナルニア国の窮地を救うため魔女と戦うという児童文学らしいストーリーです。子供たちが見るには一番の映画ですね。また、同じファンタジー作品「ロード・オブ・ザ・リング」に比べて明るい雰囲気の映画です。
 出演している俳優の中で知っているのは、白い魔女を演じたティルダ・スウィントンだけです。彼女は、キアヌ・リーブス主演の「コンスタンティン」で天使役を演じていた女優さんです。そのときも、非常に個性的な存在感のある女優さんという印象を受けたのですが、今回も圧倒的な存在感を見せていました。子供たちの中ではルーシーを演じたジョージ・ヘンリー(男の子みたいですね)の演技力にはびっくりさせられました。撮影当時まだ9歳ということですが、その見事な演技で他の俳優をすっかり食ってしまいましたね。子役は大成しないと言われますが、さて果たしてこの子はどうなるのでしょうか。
 俳優としては登場していませんが、ライオンのアスランの声を出しているのはリーアム・ニーソンです。ナルニア国を作ったアスランの役にはぴったりの重厚な声です。吹き替え版で見るとわからないところですね。
 とにかく、家族で観るにはオススメの映画です。
エミリー・ローズ(18.3.17)
監督  スコット・デリクソン
出演  ローラ・リニー  トム・ウィルキンソン  キャンベル・スコット  ジェミファー・カーペンター
     メアリー・ベス・ハート  コルム・フィオール  ジョシュア・クロール
 悪魔払いの儀式の後に死亡した女子大生エミリー・ローズ。儀式を催したムーア神父は過失致死の疑いで裁判にかけられることになる。弁護士を務めるのは、死刑確実な殺人犯の無罪を勝ち取ったばかりの女性弁護士エリン。彼女は、自分の出世のために弁護を引き受けるが、神父の真摯な態度に悪魔の存在を裁判の中で争っていくことを決意する。
 悪魔払いの映画といえば、なんといっても頭に浮かぶのは、1974年にウィリアム・フリードキン監督、リンダ・ブレアー主演で公開された「エクソシスト」です。悪魔にとりつかれた少女の首が360度回転したり、不気味に変わった顔、少女の口から吐き出される緑色の反吐といったセンセーショナルの映像と、「チューブラ・ベルズ」という映画にあまりにマッチした音楽で当時評判を呼んで大ヒットしました。あれはこわかったですねえ。当分夜のトイレに行くのを我慢したものです(^^;
 その「エクソシスト」はストレートに少女に取り憑いた悪魔と二人の神父との戦いを描いたジャンルでいえばホラーといっていいのでしょうが、それに対しこの作品は悪魔と神父との戦いだけではなく、それに法廷劇をミックスした作品です。
 実話に基づく作品だそうですから、実際に法廷で悪魔の存在の有無が争点になったのでしょう。アメリカと異なって日本では現在陪審制が行われていませんが(近々裁判員制度ができます)、もし陪審制であったとしても、多神教の日本では神や悪魔の存在が争われるということはなかったのではないかと思います。たぶん、裁判官も陪審員も、なにより弁護士自身がその存在を争うなんていう法廷戦術はとらなかったことでしょう。キリスト教世界という風土の中であってこそ行われたものだと思うのですが。また、エミリーの取った行動も熱心な信者であったことからでしょうが、僕には理解できません。そんなこともあって、海外で評判を呼んだこの映画も、日本でのヒットは難しいかなと思います。僕自身は法廷劇は好きなので、割と興味深く見ることはできましたが。
 エミリーを演じたのは新人のジェニファー・カーペンターですが、この女優さん、メイクを施さなくても顔がこわかったです。すごい熱演といえば熱演なんでしょうが。
 弁護士エリンを演じていたのはローラ・リニーです。「トゥルーマン・ショー」のコメディエンヌぶりも良かったですが、「ラヴ・アクチュアリー」の弟への愛のために愛する男と上手くいかないサラ役が印象的です。今回はなかなかカッコイイ弁護士役でした。
 法廷劇の部分でひとこと。裁判ですから最後に結論が出るのですが、あんな量刑でいいのでしょうか。アメリカの裁判制度にはどうもなじめません。 
サウンド・オブ・サンダー(18.3.25)
監督  ピーター・ハイアムズ
出演  エドワード・バーンズ  キャサリン・マコーマック  ベン・キングズレー  ジェミマ・ルーパー
 これはいわゆる“B級映画”と言っていいのでしょう。お金がかかっていないということが見てわかります。「ジュラシック・パーク」で描かれた恐竜は、本当に生きて動いていると思うばかりの見事なCGで作られていましたが、この映画の冒頭で出てくる恐竜は、動きもぎこちない一昔前のSF映画を見ているようでした。また、高架を走る電車もミニチュアということが明らかにわかってしまいます。もうそれだけで一気にこの映画の評価が落ちてしまいました。パンフレットの中の解説では製作会社も大手ではないようなのでしょうがないのですかね。

 タイムマシンTAMIを使ったタイムトラベルツアーで6500万年前の恐竜ハンティング中、トラブルが起きて客の一人があるものを持ち帰ってしまう。それはわずか1.3グラムのものだったが、その後地球にタイム・ウェイブ(進化の波)が押し寄せ、風景が一変する。TAMIの開発者ソニア・ランド博士から、第2、第3の波が来るとともに、原始的な生物から複雑な生物へと進化の変化が起こり、最終的には人間に及ぶと聞いたツアーの案内者役のトラヴィスは、何かを持ち帰ったツアー客を捜してソニアたちともに未知の生物が徘徊する街の中に出ていくが・・・

 映画は、タイムトラベルの際の過去のほんのわずかな改変が現在に大きな変化をもたらすという、SFでは語り尽くされてきた話です。したがって、それなりに何か特徴がなければヒットはしないと思うのですが、上で述べたようにCGにお金をあまり使っていないようですし、出演者も話題を呼ぶような大物がいません。アカデミー受賞者のベン・キングスレーが、ツアーを売り出す旅行代理店の社長役として出演していますが、もともと地味な俳優ですし、主人公トラヴィス役のエドワード・バーンズもまだまだ売れっ子というわけではないですね。やはり製作会社にお金がないのが影響しているのでしょうか。
 監督はピーター・ハイアムズです。ピーター・ハイアムズといえば、何と言っても「カプリコン・1」です。それ以降「2010年」とか「レリック」「エンド・オブ・デイズ」などそれなりの作品を残していますが、「カプリコン・1」ほどの作品はないですね。今回もいまひとつでした。
 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のようなタイムトラベル映画は大好きです。ただタイムトラベルものというのはどうしてもタイムパラドックスの問題がつきまといます。タイムパラドックスの論理的解決を図るためにパラレル・ワールドのような考えが生まれてくるのですが、今回もパンフレットの解説図によるとパラレル・ワールドの考え方がとられているのでしょうかね。

 1.3グラムの正体が何であるかが、カオス理論との関係でおもしろいです。
 それと、もう一つ、最後のタイム・ウェイブがやってきた後の人間の進化の姿が出てきましたが、笑ってしまいました。
イーオン・フラックス(18.3.31)
監督  カリン・クサマ
出演  シャーリーズ・セロン  マートン・ソーカス  ジョニー・リー・ミラー  ソフィー・オコネドー
     アメリア・ワーナー  フランシス・マクドーマンド
 「モンスター」でアカデミー主演女優賞を獲得したシャーリーズ・セロン主演のSFアクション映画です。このところ公開された「モンスター」、「スタンドアップ」と社会派映画の主演が続いていますが、この作品はそれらとは全く異なる毛色の娯楽作品です。
 「モンスター」の次の作品がこの「イーオン・フラックス」だったそうですが、「モンスター」で14キロも増やした体重を見事に元のスレンダーなスタイルに戻しての熱演です。普通アカデミー主演女優賞などを取ると、こんな娯楽作品に出演するのかと思ってしまいますが、本人は「モンスター」とはまったく違ったスタイルの作品を探していたようです。とにかく、手足の長いシャーリーズ・セロンの魅力を余すところなく引き出しています。体にピッタリとフィットしたコスチュームはスタイルが良くなくてはとても着ることはできません。ホントに足が長くてうらやましくなってしまいます。そして、両足を開いて地面についてしまうほどの体の柔らかさにはびっくりです。バレエをやっていたということが頷けますね。
 物語はウィルスの蔓延によって人口の99%が死んだ地球が舞台。生き残った人々はウィルスに対するワクチンを開発した科学者トレバー・グッドチャイルドの子孫が圧政を敷く、外界と壁で隔てられた都市ブレーニャに住んでいた。主人公イーオン・フラックスは、反政府組織モニカンの戦士であったが、ある日最愛の妹を政府に殺されてしまう。モニカンの司令塔ハンドラーからの命令で君主トレバーの暗殺に向かったイーオンだったが、トレバーを前にしてイーオンの脳裏に覚えのない記憶が浮かび、囚われの身となってしまう。病気も飢えも戦争もない完璧な社会の裏にはある隠された事実が・・・
 MTVの短編アニメシリーズが原作です。そのため、それを知っていることが前提となっているのか、モニカンという組織がどういうものなのか、イーオンがなぜそこに属しているのかの説明、特に司令塔のハンドラーについての説明がまったくなされていません。最後、ハンドラーはどうしてしまったのでしょう?
 結局、この映画はシャーリーズ・セロンのスタイルの良さを思う存分見せてくれる映画だったのですね。戦う女性としてアンジェリーナ・ジョリーのような逞しさはありませんが、美しさを見せてくれました。シャーリーズ・セロンのファンは必見。
 監督は、「ガール・ファイト」の女性監督カリン・クサマです。「スタンドアップ」でもシャーリーズ・セロンと共演したフランシス・マクドーマンドがモニカンの司令官ハンドラー役で登場しています。
プロデューサーズ(18.4.8)
監督  スーザン・ストローマン  
出演  ネイサン・レイン  マシュー・ブロデリック  ユマ・サーマン  ウィル・フェレル  ゲイリー・ピーチ
     ロジャー・バート  アイリーン・エッセル  
 物語は落ち目のプロデューサー、マックス(ネイサン・レイン)が、気弱な会計士レオ(マシュー・ブロデリック)を巻き込んで史上最低のミュージカルを作ろうと奔走する話です。出資者から制作費を集めて一晩でショーがコケれば出資者に配当金を支払わなくて済み、プロデューサーが儲かるという図式を描いて、二人は最低の脚本家、最低の演出家、最低の出演者を集めますが・・・
 もともとミュージカル映画は好きなのですが、この映画は同じく舞台が映画化された「オペラ座の怪人」や「シカゴ」ですら獲ることができなかったトニー賞12部門、史上最多受賞のブロードウェイ・ミュージカルの完全映画化(パンフレットに載っていた謳い文句です)なので、観る前から大いに期待していました。見終わった感想はというと・・・おもしろかったです!ブロードウェイ・ミュージカルで同じ役を演じたネイサン・レインとマシュー・ブロデリックが主演していたこともおもしろさの一因だったのでしょう。特にびっくりしたのはマシュー・ブロデリックです。彼については、若き頃の「ウォー・ゲーム」、近年ではアメリカ版「ゴジラ」ぐらいしか見たことはなかったのですが、ブロードウェイのミュージカル俳優とは思いませんでした。そんな印象ではなかったのですが、見事に歌って踊っていましたねえ。幼い頃に使っていた毛布の切れ端が手放せない小心者というのは、彼にピッタリでしたが。
 ヒロインを演じたのはユマ・サーマン。ユマ・サーマンといえば僕が観た「ガタカ」や「キル・ビル」では厳しい顔つきの役しか知らなかったので、まさかミュージカルで歌いダンスまでするとはイメージ一新です。背が高いので(ヒールを履くと190センチにもなるそうです。マシュー・ブロデリックより大きいですが、男二人が胸に顔を埋められるくらいの背の高い女というのが監督の意図のようですね。)、スタイルは素晴らしいです。足長いですしねえ。うらやましい。
 オリジナルキャストとして出演した史上最低の演出家ゲイのロジャーを演じたゲイリーピーチとその助手(兼恋人)のカルメン・ギアを演じるロジャー・バートも最高です。二人の登場シーンには客席から笑いが起こりました。特にカルメンの「イエ〜ス」の最後のS音をのばす喋り方には劇場内大爆笑でした。彼は舞台でマシュー・ブロデリック降板後のレオの役も演じているそうですが、どう演じ分けたのか興味のあるところです。
 ダンスシーンで最高に素晴らしいと思ったのは、歩行器で歩く老婦人たちの集団のダンスです。最初、「え!おばあちゃんたちがあんなに見事に踊るの?」とびっくりしながら観ていたのですが、どうもあれはおばあちゃんたちではないようですね。そうですよねえ。いくらなんでもあそこまで元気な老人はいないでしょう。
 舞台は1968年に公開されたメル・ブルックスの初監督作品「プロデューサーズ」(この作品でメル・ブルックスはアカデミー脚本賞を受賞)をベースにメル・ブルックス自身が脚本、作詞、作曲までも手がけたものだそうです。それを今回メル・ブルックスが制作・脚本・作詞・作曲を再度担当し、舞台版で演出・振付を担当し、トニー賞に輝いたスーザン・ストローマンを監督に据えて作っているのですからおもしろくないわけがありません。とにかく、見所いっぱい、笑いどころいっぱいで、嫌なことを忘れて楽しみたい人におすすめです。
 映画はエンドロールが終わって明かりがつくまで席を立たないでください。メル・ブルックスが出てきますよ。
タイフーン(18.4.14)
監督  クァク・キョンテク
出演  チャン・ドンゴン  イ・ジョンジェ  イ・ミヨン  キム・ガプス  ディヴィッド リー マキニス
 「ブラザーフッド」のチャン・ドンゴン主演の韓国映画です。
 台湾沖でアメリカ船籍の貨物船が襲われ、積んでいた核ミサイル用衛星誘導装置が奪われる。犯人はタイを根城にする北朝鮮出身の海賊のシン。彼は、子供の頃北朝鮮から韓国への亡命を求めた彼の家族が亡命を拒否されたうえ、両親を殺されるという過去を背負っていた。北朝鮮、韓国への復讐を誓うシンに対し、韓国海軍大尉のセジョンは、ロシアでシンの生き別れの姉を拘束し、彼に取引を申し出る。
 今でも脱北者は後を絶たないようですが、南北の分断がある限り、こういう映画は製作され続けるのでしょうね。今回は北朝鮮だけを悪として捉えるのではなく、政治的背景の犠牲となって家族を殺され、北朝鮮、韓国双方に憎しみを抱く脱北者を描いています。
 チャン・ドンゴン演じる主人公シンは、両親を殺され、唯一生き残った姉とは生き別れ、復讐だけを糧にどん底の生活を生き抜いて北朝鮮、韓国に復讐を誓う同情すべきキャラクターです。目的のためには殺人を何とも思わない非常な男であるとともに、生き別れの姉を思う優しい男を演じます。しかし、チャン・ドンゴンより印象的だったのは海軍大尉を演じたイ・ジョンジェです。セジョンを演じるイ・ジョンジェは「イルマーレ」で見たことがあるのですが、「イルマーレ」のときのような優しいまなざしの男ではなく、鍛えた肉体と強靱な精神力を持つ精悍な軍人を演じています。役柄上当たり前ですが、全然雰囲気が違います。不治の病であるシンの姉ミョンジュと関わることにより、シンとミョンジュの悲惨な過去を知り、シンに対し友情にも似た感情が芽生えてくるという難しい役柄を見事に演じています。
 冷戦後の核の拡散という点を捉えてストーリーが作られていますが、シンが朝鮮半島にもたらそうとしていた惨劇は実現可能なものだったのでしょうか。その点、絵空事かなという気持ちが強すぎて、ラストはいまひとつという印象を持ってしまいましたが・・・。
 監督は「友へ/チング」のクァク・キョンテクです。
アンダーワールド エボリューション(18.4.22)
監督  レイ・ワイズマン
出演  ケイト・ベッキンセール  スコット・スピードマン  トニー・カラン  ビル・ナイ
     シェーン・ブローリー  スティーヴン・マッキントッシュ  デレク・ジャコビ  
 闇の世界でのヴァンパイアとライカン(狼男)の闘いを描いた、ケイト・ベッキンセール主演の「アンダーワールド」の続編です。今回は前作でお気に入りのケイト・ベッキンセールのロング・コート姿があまり見られませんでした。とはいえ、タイトな黒の革のコスチューム姿は健在です。相変わらずカッコイイですねえ。アンジェリーナ・ジョリーのような逞しい体ではありませんが、気の強そうな顔が戦う女にピッタリです。
 それにしても、テレビCMの「エロかっこいい」という宣伝文句は勘弁してもらいたいですね。なんてセンスがないのでしょう。確かにケイト・ベッキンセール演じるヒロイン、セリーンと、ヴァンパイアと狼男との混血のスコット・スピードマン演じるマイケルとのセックスシーンはありますが、“エロ”という下品な言葉には似合わないシーンだと思いますが・・・(それにしても、ケイト・ベッキンセールと監督のレン・ワイズマンは前作が縁で結婚をしていますが、よく自分の作品の中で妻と男優とのセックスシーンを撮りますね。仕事だと割り切ってしまえるんですねえ)。
 ストーリーは、前作のラストでセリーンが、ヴァンパイアの長老ビクターを倒した後から始まります。まったくの続編ですので、前作を観ていないと話がわからないかもしれません。そのうえ、映画の最初で描かれる西暦1200年頃のいきさつが複雑で、前作を観ていても話の筋が初めよくわかりませんでした。というより、正直に言うと最後までよくわからなかったのですが(^^;今回は単純にヴァンパイアとライカンとの種族の争いを軸にした話ではなく、近代的な武器を身にまとった部隊まで登場し、複雑な様相を呈します。ライカンも登場するのですが、前作のライカンのリーダー、ルシアンのような男が登場するわけではありません。
 一番よくわからなかったのは、部隊を率いる男が実は○○(ネタバレになるので書くことができませんが)だったということです。いったい彼はなぜここにいるのか、結局何をしようとしているのか、まったく理解できませんでした。説明不足ですね。
 現代を舞台としながらゴシックな雰囲気を醸し出していた前作と比べると、雰囲気ががらりと変わってしまった感があります。期待しすぎた点はありますが、前作ほどの衝撃度はありませんでした。やっぱり、この作品はケイト・ベッキンセールのボディ・スーツ姿の魅力に尽きます。あの終わり方からすると、パート3はもうないのでしょうか。
Vフォー・ヴェンデッタ(18.4.22)
監督  ジェイムズ・マクティーヌ
出演  ヒューゴ・ウィービング  ナタリー・ポートマン  スティーブン・レイ  ジョン・ハート
 ナタリー・ポートマンがスキンヘッドになることで公開前からセンセーショナルな話題を呼んだ作品です。
 物語は第三次世界大戦後のイギリスが舞台です。アメリカはすっかり凋落し、イギリスはサトラー議長の下独裁国家として恐怖政治を行っていました(ナチスドイツを思い起こさせます。)。そんな中に現れたのが“V”と名乗る仮面を着けた男。彼は中央刑事裁判所を爆発し、次の“ガイ・フォークス・デイ”に国民に国会議事堂前に集結することを呼びかけます。
 “V”を演じているのは、「マトリックス」でエージェント・スミスを演じて一躍有名となったヒューゴ・ウィービングです。彼はこの作品の中では結局一度も素顔をさらすことがありませんでした。普通顔も見せないような役を演じるなんて、それがたとえ主人公であったとしても、俳優は嫌がるのではないかと思うのですが、そこは「マトリックス」で、ヒューゴ・ウィービングを起用したウォシャウスキー兄弟が製作者であったことが、ヒューゴがこの役を引き受けた大きな理由だったのでしょう(パンフレットの中でも、ヒューゴの顔が写っているのは1カ所だけでした。)。
 Vが単なるテロリストなのか、それとも圧政から国民を救う救世主なのか、結局最後までよくわかりませんでしたし、その正体についても最後まで明らかにされませんでした。収容所に入れられていたことは描かれますが、その前は彼は何者だったのか、このあたりを描かないと、単なる復讐者としか捉えられないのではないでしょうか。
 ナタリー・ポートマンがスキンヘッドにされる点についても、ある理由があるのですが、このあたりのところも理解するのが難しいですね(映画館出てからよくわからないなあと娘に言ったら、それはこれこれだからでしょうと説明を受けてしまいました(^^;)。そこまでする必要があるの?と思ってしまいますね。
 ナタリー・ポートマンはスキンヘッドになって熱演です。すっかり女性らしくなって「レオン」に出演したときの少女の姿からはさすがに大きく成長しましたね。そのため、逆に少女好きの神父の前に現れたときのナタリー・ポートマンの少女に変装した姿には思わず笑ってしまいました。あのミニスカート姿はとても似合いません。
 アメコミ原作にしては、ストーリーはわかりにくく、ちょっとこっくりしただけで理解不能になってしまうところがあるので、これから見る人はぼぉーとして見ないようご用心を。
※“ガイ・フォークス・デイ”とは、ガイ・フォークスによる国家転覆事件が未遂に終わったことを祝う日(11月5日)だそうです。
 また、題名のヴェンデッタとは、復讐、敵討ちを意味するそうです。
ホテル・ルワンダ(18.4.27)
監督  テリー・ジョージ
出演  ドン・チードル  ソフィー・オコネドー  ニック・ノルティ  ホアキン・フェニックス  ジャン・レノ
 ルワンダにおいて、ツチ族とフツ族間の民族対立、そしてそのとき起こった大量虐殺については、本で読んで知っていましたが、恥ずかしながら、映画の中でホアキン・フェニックス演じるカメラマンの言うとおり、「世界の人々はあの映像(注:大量虐殺の映像)を見てー“怖いね”と言うだけでディナーを続ける」のと同じ意識しかありませんでした。
 実際に100万人もの人が虐殺されるというこの出来事を、いったいどう理解したらいいのでしょうか。手元にある「民族の世界地図」(文春新書)を見ると、もともとツチもフツも同じ地域に住み同じ言葉を話す人々で、違いといえば牛という財産の所有者であるか、その牛を預かって放牧したり農耕を営んだりするか、という点だったとされます。そんなツチとフツに「生業の違いやら背の高さや鼻の形の違いやらを持ち出して民族意識、ひいては対立をもたらしたのは、旧宗主国ベルギーや、西洋の人類学者だった」(民族の世界地図より)のです。
 問題は、かつてこの地を植民地化していたベルギーによってツチ族が支配階級とされていたことに発端があるようです。ベルギーの統治にとって少数派のツチ族を使って、多数派のフツ族を統治することが便利だったのでしょう。このことが、ツチとフツの間に報復合戦を生むことになってしまうのです。白人たちの身勝手が不幸を生んだのです。
 白人たちの身勝手は映画の中でも描かれます。この紛争に対し世界は背を向け、せっかく来た国連軍も外国人たちだけを退去させ、難民たちは見捨てるのです。
 映画は、外国資本の高級ホテル「ミル・コリン」で支配人として働くポールが主人公です。彼はツチ族の妻や子どもたちを守るために必死になりますが、やがて民兵による虐殺を目の当たりにして、ホテルに逃れてきた難民たちを救おうと奔走します。
 霧で周りが見えない中、乗っていた車が大きくバウンドしたのは、道を外れたからだと思ったのが、実は道路に倒れていた死体に乗り上げたためだと知ったときの衝撃は大きいものがありました。道路を埋めるように倒れている人々。人間はどうすればあんなに残酷なことを平気で行うようになるのでしょうか。
 ドン・チードルという、あまり主演には縁がない俳優が主人公のポールを演じます。それほど逞しくない普通の男が1200人もの難民を助けることが、このルワンダの悲劇をしっかり見つめることになるのでしょう。パンフレットにも書いてありました。「ウェズリー・スナイプスだったら。クンフーで民兵の二、三人をやっつけてしまうかもしれない。彼らはヒーローだから、何の躊躇もせずに正義の戦いを始める。そのほうが確かに客は入るだろうが、映画館を出たらルワンダの悲劇を忘れてしまうだろう」そのとおりかもしれません。
 何の役にも立たないといいながらも最後までポールを助けたオリバー大佐役を演じたニック・ノルティとホテルの親会社の社長を演じたジャン・レノの二人がそれぞれいい味出していましたね。ジャン・レノはクレジットに名前が出ていなかった気がします。
また、カメラマン、ジャック役でホアキン・フェニックスも出演しています。髭を生やしているせいか、ホアキン・フェニックスだとは思いませんでしたが。
 感動もありますが、それよりこの事実をしっかり見つめておいてほしい作品です。おすすめです。
アンジェラ(18.5.13)
監督  リュック・ベンソン
出演  ジャメル・ドゥブーズ  リー・ラスムッセン  ジルベール・メルキ  セルジュ・リアブキネ  
(ネタバレあり)
 最近プロデュース業に専念していたリュック・ベンソンの久しぶりの監督作です。
 借金に苦しんでセーヌ川に飛び込み自殺をしようとしたアンドレは、先に飛び込んだアンジェラという名前の美女を助けることに。彼女はアンドレが見上げるほどの長身で金髪の美女。そんな彼女がアンドレと行動を共にするようになる。いったいアンジェラは何者なのか。
 パンフレットにリュック・ベンソンから、決して「エンディングの秘密」は明かさないでくださいと書いてあるので、あまりネタばれ的なことは書けません。しかし、アンジェラの正体は始まってすぐにアンジェラとある塑像が重なる場面があって、すぐ予想がついてしまうのですがね。だいたい、パンフレットに書かれた原題を見ればそのとおりですし。
 テーマは愛です。人を愛し、愛されたことのないアンドレがアンジェラとの関わりの中でどう変わっていくのか、映画はそれを描いていきます。
 主人公アンドレを演じるのはジャメル・ドゥブーズ。右手をいつもポケットに入れているのですが、これは子供の頃に事故で右手を失っているからなんだそうです(「アメリ」にも出演しているそうですが、残念ながら「アメリ」は、まだ見ていません。)。コメディアンということですから、映画の中で彼のコメディアンらしさを感じさせるものがあるかと思ったのですが、それはなかったですね。
 こんなジャメル・ドゥブーズを風采の冴えない小男に見せてしまうアンジェラを演じるのは、リー・ラスムッセンです。モデル出身だけあって、180センチの長身で素晴らしいスタイルですよね。あの足の長さは本当にうらやましい(^^;「フィフス・エレメント」のミラ・ジョヴォヴィッチの流れを汲むスレンダーな女優さんですが、リュック・ベンソンはこういうタイプが好きなんですかね。
 リュック・ベンソンがいう「エンディングの秘密」も驚きのない予想どおりの結末で、まあめでたしめでたしでしょうか。正直のところ期待していた割には、平凡な作品でした。
 ストーリーとは別にモノクロで描かれるパリの街が新鮮な感じで楽しめました。
グッドナイト&グッドラック(18.5.13)
監督  ジョージ・クルーニー
出演  デヴィッド・ストラザーン  ロバート・ダウニー・Jr  パトリシア・クラークソン  レイ・ワイズ
     フランク・ランジェラ  ジェフ・ダニエルズ  ジョージ・クルーニー
 1953年のアメリカでは第二次世界大戦後の米ソ冷戦時代を迎え、共産主義の恐怖を煽るマッカーシー上院議員による“赤狩り”、いわゆるマッカーシー旋風が吹き荒れ、一般市民の生活をも脅かしていた。大統領さえも押さえきれず、マスコミも声を出さない状況の中、マッカーシーに対し敢然と立ち向かった一人のテレビ・キャスターがいた。その男の名前はエド・モロー。映画は自由を守るために時の権力者と闘ったモローと彼のスタッフたちを描いていきます。
 俳優ジョージ・クルーニーの監督第2作です。「コンフェッション」に続く今回は、残念ながら受賞は逃したもののアカデミー賞作品賞、監督賞、主演男優賞を含む6部門にノミネートされました。クルーニーといえば、テレビの「ER」や映画の「オーシャンズ11」など、プレイボーイ的な役柄を演じていますが、役者の時とはがらっと趣の異なるこんな社会派・硬派の映画を作るとは、イメージが変わりました。パンフレットに掲載されてる彼へのインタビューを読むと、ニュース・キャスターだった父親の影響が大きいようですね。
 その当時に生きていなかった私がマッカーシー旋風といって知っているのは、その影響が映画界にも及んだことです。エリア・カザンが仲間を売り、チャップリンがこのときにアメリカから離れていったのはよく知られています。それほど、このマッカーシー旋風はアメリカ社会の隅々にまで及んだようです。
 結局はモローの報道がマッカーシーを打ち負かすのですが、そのモローの報道が、娯楽に取って代わられることになるのは、何とも言えません。パンフレットの表紙の裏面に書かれた1958年10月の報道番組制作者協会でのモローの演説を、マスコミ関係者に読んでもらいたいですね。
 主人公エド・モローを演じたのは、デヴィッド・ストラザーン。「L・Aコンフィデンシャル」にも出演していたようですが、どこに出ていたのでしょうか。あまり知名度は高くない俳優さんです。ジョージ・クルーニー自身もモローを助けるディレクター、フレッド・フレンドリー役で出演しています。
 モローの敵役のマッカシーには当時の映像を使って、マッカーシー自身が登場しています。本人以上にマッカーシーを演じられる人はいないでしょうからね。
 硬派な題材のせいか、公開されたばかりなのに劇場内は観客が20人いたかという不入りでした。観客も私以上の年配の人ばかり。ジョージ・クルーニーが出演したとはいえ、主演男優はネームバリューのない人であることが原因でしょうか。

 モノクロ画像にジャズの音楽、そしてモローが吸ったタバコの紫煙が似合います。
ナイロビの蜂(18.5.19)
監督  フェルナンド・メイレレス
出演  レイフ・ファインズ  レイチェル・ワイズ  ユベール・クンデ  ダニー・ヒューストン
     ビル・ナイ  ピート・ポスルスウェイト
 スパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレ原作小説の映画化です。
 ケニアのナイロビ。ガーデニングが趣味の英国外務省一等書記官ジャスティンのもとにアフリカで精力的に救援活動を続ける妻テッサの死が伝えられる。警察はよくある殺人事件の一つとして処理しようとしていたが、事件に不審なものを感じたジャスティンは、意を決して自ら調査に乗り出す。やがて、事件には国際的陰謀が絡んでいたことを知るが、そんな彼にも身の危険が迫ってくる・・・。
 映画は、アフリカ難民問題や大手製薬会社と英国政府の癒着問題といった複雑な現実をサスペンスタッチで描きながら、その中で夫婦の愛を描いていきます。テッサの死の背景の問題が複雑で、ぼけーと観ているとサスペンスの部分がよく理解できないかもしれません(かくいう私も、「あれっ、この人誰だっけ?」ということになってしまいました。)
 主人公の妻テッサを演じたレイチェル・ワイズが今年の第78回アカデミー助演女優賞を獲得しています。アフリカで地元民のために活動する女性という役ですので、今までのように化粧をしっかりしたかわいい役ではありません。そのうえ、妊婦としてお腹を膨らませた姿(たぶん特殊効果でそう見せているのでしょうが)のヌードを見せたりと体当たりの熱演です。ただ、濃いきりりとした眉毛のせいか、気の強い役というのは今までどおりですね。
 映画の前半は、テッサが亡くなるまでの彼女の活動の様子が主体で描かれていきます。彼女から仕事については干渉しないという約束のためか、彼女のすることに口を出さず、趣味の花作りに精を出すジャスティン。でも、これは相手を尊重するようでいて実は彼女のことを思いやっていないのではないかと思ってしまいます。相手のことを思うのであれば、干渉ということではなく、お互いに理解できるよう話し合うべきではないのでしょうか。干渉するなといわれたから何も言わないでは、結婚して一緒にいる意味がありません。彼女の死の責任の一端は、やはり彼にもあると言わざるを得ませんね。
 後半は一転、妻の死に疑問を抱いたジャスティンがその謎を追う姿を描いていきます。今までは、見て見ぬふりをいていたジャスティンが妻の死の真相に真正面から向き合っていくのですが・・・やっぱり遅すぎるんですよね。まあ映画だからこうでなくては先に進まないのですが。ネタバレになるので書けませんが、ラストは思いもよりませんでした。原作は読んでいませんが同じなんでしょうか。
 ジャスティンを演じるのは「シンドラーのリスト」や「レッド・ドラゴン」等のレイフ・ファインズです。原題は「The Constant Gardener」ですから「変わらない・誠実な庭師(造園家)」とでもいうのでしょうか、これはジャスティンのことですから、当然主人公はジャスティンのはずですが、映画はレイチェル・ワイズに食われてしまった感があります。後半の彼の演技もあまり印象に残りませんでしたし・・・。
 監督は前作「シティ・オブ・ゴッド」が評判だったフェルナンド・メイレレスです。
 それにしてもアフリカのどこまでも続くスラムの描写は衝撃的でした(この映画の中で一番印象に残ったものかもしれません)。
 それからもう一つ。話の本筋とは関係ありませんが、直前にあんなに貶した相手とその日のうちに一夜を共にしてしまうとは、どうだろうと思ってしまいますけど。
デイジー(18.5.27)
監督  アンドリュー・ラウ
出演  チョン・ジヒョン  チョン・ウソン  イ・ソンジェ  チョン・ソジン  デヴィッド・チャン
(ネタバレあり)
 「インファナル・アフェア」三部作で一躍有名になったアンディ・ラウ監督が韓国の人気俳優3人を起用してオランダ・アムステルダムで撮影したラブ・ストーリーです。物語は簡単に言ってしまえば、ラブストーリーとしてはよくある三角関係の話です。
 アムステルダムに住む画家の卵、ヘヨンは定期的に彼女にデイジーの花を贈ってくる名前も顔も知らない人を想い続けていた。そんなある日、広場で肖像画を描くヘヨンの前に客として現われたジョンウを一目見た瞬間に、ヘヨンは彼こそ彼女が想い続けてきた相手と確信する。しかしジョンウはインターポールの刑事で、張り込みのために客に成りすましていただけで、実際にヘヨンにデイジーを送り続けていたのは、プロの暗殺者、パクウィだった。
 ツッコミどころは満載です。なんだなんだと思う間に突然広場で始まる銃撃戦。なぜ、ジョンウが狙われたのでしょう。そして、思いこみの激しいヘヨン。デイジーの鉢を持っているだけでジョンウが自分にデイジーを送り続けた男だと思いこんでしまうなんてあまりに単純。なんて細かいところにこだわっていると映画がつまらなくなります。こういう映画はあまり深くは考えないで観る方が楽しめます。
 ヘヨンを演じたのは「猟奇的な彼女」「僕の彼女を紹介します」のチョン・ジヒョン。このところ人気の韓国の女優さんと比較して派手な顔立ちではありませんが、コミカルな役もこなす、なかなか魅力的な女優さんです。上記2作の気の強い女性役からは一変して、二人の男性から愛されるかわいい女性を演じています。特に途中からは声を失っていますから、なおいっそう演技が難しかったと思いますが、見事に演じています。
 暗殺者パクウィを演じるのは「私の頭の中の消しゴム」のチョン・ウソンです。「私の頭の中の〜」で初めて見たときは、カッコイイ俳優さんだなと思いましたが、今回も相変わらずいい役を演じています。これでまた女性の人気がうなぎのぼりですね。
 ジョンウを演じたのは、僕は初見のイ・ソンジェです。チョン・ウソンのような二枚目ではありませんが、爽やかな顔立ちでこれまた人気が出そうです。
 この映画で印象的なシーンがありました。怪我をしたジョンウが治療を終え韓国から戻って、ヘヨンを訪ねたシーンです。ヘヨンの部屋にはパクウィがいたので、ヘヨンは廊下に出てドアを閉めてジョンウと向き合います。このとき、ヘヨンとジョンウ、そして部屋の中に残されたパクウィの3人がそれぞれ画面に分割されて描かれます。ヘヨンに愛していると言えないジョンウ、そんなジョンウから愛していると言ってもらいたいヘヨン、二人を嫉妬して苦しむパクウィ。いや〜見事な描き方でした。拍手です。
 それからもう一つ、ラスト雨宿りをしている三人のシーンです。そのときのジョンウの同僚刑事の言葉と共に印象に残ります。
 ラブ・ストーリーが中心ですからそれもやむを得ませんが、ラウ監督らしいアクション場面は少ないです。ラストになってようやくラウ監督らしい激しい打ち合いが見られました。それにしても、どうしてアムステルダムでなければいけないかの必然性はまったくありませんでしたね(あ〜、また突っ込んでしまいました(^^;)。
陽気なギャングが地球を回す(18.5.28)
監督  前田哲
出演  大沢たかお  松田翔太  鈴木京香  佐藤浩市  大倉孝二  加藤ローサ  古田新太
     大杉漣  篠井英介  松尾スズキ  木下ほうか  光石研
 伊坂幸太郎さんの同名小説の映画化です。
 伊坂ファンとしては、小説を読んで頭に描いていたイメージがあるのですが、今回の映画はそのイメージどおりにはいきませんでした。やはり小説と映画は別物です。映画は監督の別の作品といった方が良いでしょう。新書刊行時の作者のあとがきには「90分くらいの映画が好きです。」とありましたが、この映画は92分。この点についていえば、作者の意向に添っていると言えるでしょうか。

 ストーリーも原作とはいくぶん異なっています。4人が出会った場所も原作では銀行ではなく映画館ですし、何といってもパンフレットでも演じる人が隠されている神崎の正体は映画ではひねりを効かせていましたね。
 今回主役を演じた4人は、嘘を見抜く名人成瀬に大沢たかお、演説の達人響野に佐藤浩市、スリの天才久遠に松田翔太、そして正確な体内時計を持つ雪子に鈴木京香でした。家族で話したところ、成瀬は最近県庁職員役を演じた織田裕二がいいのではないかという意見が出ました。あと雪子は松嶋菜々子はどうだという意見もありましたが、私としては松嶋菜々子では若すぎる、鈴木京香さんの落ち着いた雰囲気が好きですね。また響野役の佐藤浩市に金髪頭には驚きましたが、なかなかいい線いっていたのではないでしょうか。久遠については作者の伊坂さんが、えなりかずきの久遠を見たかったと言っていましたが、えなりくんでは悪いのですがスマートさがありません。
 残念だったのは、響野の妻の祥子役がまだ20歳の加藤ローサだったこと。やはり祥子は雪子と同年代でなければ。

 小説が発表当時から映画化の希望が殺到し、webでも映画化した際の登場人物の役者予想まで行われるほどの人気だったようですが、果たして4人を演じる役者は誰が人気だったのでしょうか。それもちょっと興味ありますね。
ポセイドン(18.6.3)
監督  ウォルフガング・ペーターゼン
出演  カート・ラッセル  ジョシュ・ルーカス  リチャード・ドレイファス  エミー・ロッサム
     ジャシンダ・バレット  マイク・ボーゲル  ミア・マエストロ  ケビン・ディロン
     ジミー・ベネット  アンドレ・ブラウアー
 1972年に公開された(日本では1973年)「ポセイドン・アドベンチャー」の30数年ぶりのリメイク版です。監督は「Uボート」「パーフェクト・ストーム」のウオルフガング・ペーターゼンです。
 大晦日の夜、ニューヨークに向けて航行中の豪華客船“ポセイドン号”では、ニューイヤー・イブの祝宴が華やかに催されていた。ところが、今まさに新年を迎えたその瞬間、巨大な波がポセイドン号を襲い、船は瞬く間に転覆してしまう。上下逆転したボール・ルームに残るわずか数百名の生存者たち。船長は救助が来るまでこの場に止まるよう命じるが、プロのギャンブラー、ディランは自らの直感を信じ、今や海上に出ている船底に向かって脱出をしようとする。一方、前NY市長のラムジーも、娘ジェニファーを捜すため、ディランと行動を共にする。
 オリジナル版公開当時、少年だった僕の心に深く残った作品です。特にジーン・ハックマン演じる牧師の“苦しいときに神に祈らないこと、勇気を持って自力でやることだ”という演説に深く感動したものでした(それに、付け加えて言うと、パニック映画のドキドキ感とは別にパメラ・スー・マーチンやキャロル・リンレーのすらりと伸びた足にドキドキしましたっけ(^^;)。今回のリメイクでは72年版とは登場人物の役柄が全く異なっています。オリジナルではみんなをリードするジーン・ハックマン演じる牧師、新婚旅行中のアーネスト・ボーグナイン演じる刑事とその若い妻、ジャック・アルバートソンとシェリー・ウインタース演じる老夫婦、レッド・バトンズ演じる独り者の雑貨商、親に会いに行くパメラ・スー・マーチン演じる姉と弟、ロディー・マクドウォール(この人「猿の惑星」のチンパンジー役やってます。)演じるポセイドン号のウエイター、そしてキャロル・リンレー演じる歌手でしたが、リメイク版では、ギャンブラーに、元ニューヨーク市長とその娘と娘の恋人、自殺志願の老設計士、若きシングルママとその息子、密航者、ポセイドン号のウエイターといった具合で、両方で同じ役というのはウエイターだけですね。
 オリジナル版ではシェリー・ウインタースの名演で夫婦愛がクローズアップされましたが、今回は夫婦は1組もいず、それに変わるのは親子愛でしょうか。
 30年という長い間の技術の進歩というものは目覚ましいものがあって、オリジナル版では冒頭のポセイドン号が海を航行するシーンは、今観るとおもちゃの船をプールに浮かべているというのがはっきりわかるのですが、今回冒頭で描かれるポセイドン号と海はすべてCGで描かれているというのですから驚きです。実際に豪華客船を撮影していると言われてもわかりません。
 この映画のおもしろさの一つに、上下が逆さまになった船内の様子があるのですが、この点についてはオリジナル版に軍配が上がります。オリジナル版のトイレの便器が逆さまになっている様子を少年が見ているシーンはいまだに忘れられないシーンですが、今回は残念ながらそれほどの印象的なシーンはなかったですね。
 みんなをリードするギャンブラー・ディランを演じるのは、ジョシュ・ルーカス。“ビューティフル・マインド”に出演していたそうですが、あまり印象に残っていません。今回は、元潜水艦乗りという設定もあって、派手なアクションシーンがあるのですが、ほとんど自分でこなしているそうです。甘い二枚目ではないのですが、なかなか渋い顔立ちなので、どちらかというと通好みの役者さんと言えるでしょうか。
 元消防士で元市長ラムジーを演じるのはカート・ラッセル。元消防士というのはやっぱり9.11のことが意識されているのでしょうか。そういえば、この人“バックドラフト”でも消防士役でしたね。オリジナル版の牧師役に近いのがこのラムジー役でしょうか。
 ラムジーの娘ジェニファーを演じるのは、エミー・ロッサムです。「オペラ座の怪人」の歌声が印象に残っていますが、今回は歌は披露せず、アクションに挑んでいます。
 そして、老設計士を演じるのは大物俳優リチャード・ドレイファスです。かつて、「アメリカン・グラフィティ」「グッバイ・ガール」「ジョーズ」「未知との遭遇」と次々と話題作に登場していましたが、このところ出演作品が見られなかったのですが、久しぶりの登場です。
明日の記憶(18.6.9)
監督  堤幸彦
出演  渡辺謙  樋口可南子  渡辺えり子  坂口憲二  吹石一恵  水川あさみ
     及川光博  木梨憲武  田辺誠一  袴田吉彦  木野花  大滝秀治  香川照之
 荻原浩さんの山本周五郎賞を受賞した作品の映画化です。
 50歳を前にして突然若年性アルツハイマーと診断された男が主人公です。同年代としては他人事ではないし身につまされる話です。映画館の中も観客のほとんどが高齢者でした。やはり、皆さん、いつかは自分もという気持ちがあって観に来ているのでしょうか。
 映画の中で主人公が病院でアルツハイマーかどうかの簡単な検査を受けるところがあります。私も主人公と一緒に診断を受けるつもりでやったのですが、「これは、まずい!」と思ってしまうほどの不出来。最近物忘れがひどいですしね。主人公が映画俳優の名前が思い出せなくて四苦八苦する場面がありますが、私も同じことがいつもです。とにかく、自分が記憶が失われていくことがわかるのですから、それは辛いものがあります。全てを忘れてしまうまでの過程は地獄ですね。記憶が失われるだけでなく、人格までもが破壊されていくのですから、本当に自分自身がアルツハイマーになったらどうしようと思ってしまいます。
 主人公佐伯を演じる渡辺謙自身が原作に惚れ込んで映画化をしたということもあって、熱演しています。アルツハイマーと診断される前の仕事一筋の熱血社員から最後の表情に乏しくなったところまで、見事な演技です。
 佐伯の妻を演じるのは樋口可南子です。アルツハイマーと診断された夫を励まし献身的に支えます。ここまで自分を捨てて介護できますかねえ。自分自身の人生もあるし、施設に入れるのも仕方がないと思います。そこまで妻を拘束することはできないでしょうね。
 監督はなんと「トリック」の堤幸彦監督です。今日から「トリック2」も公開され、今脂が乗り切っている監督です。「トリック2」とはまったく趣の異なる作品を作り出しました。
 観ていて辛い映画でした。しかし、映画はあそこで終わりましたが、その先にはもっと辛い現実が待っているのでしょうね。

※ 主人公佐伯の誕生日は、監督の誕生日でしたね。
インサイド・マン(18.6.10)
監督  スパイク・リー
出演  デンゼル・ワシントン  クライブ・オーウェン  ジョディ・フォスター  ウィレム・デフォー
     クリストファー・プラマー  キウェテル・イジョフォー    
 デンゼル・ワシントン、クライブ・オーウェン、ジョディ・フォスター共演のクライム・サスペンスです。

 マンハッタン信託銀行で強盗事件が発生。事件発生の連絡を受けNY市警のフレイジャーとミッチェルが現場に急行するが、犯人たちは人質たちに自分たちと同じ恰好をさせて、銀行内に立てこもる。一方、事件の発生を知った銀行の会長アーサー・ケイスは、やり手の女性弁護士マデリーンを犯人との交渉役として現場へと送り出した・・・。
 デンゼル・ワシントンとジョディ・フォスターというアカデミー賞俳優の共演でしたので、二人の丁々発止の演技が観られるかと思ったのですが、ジョディ・フォスターはまったくの脇役で、途中と最後にちょっと登場するだけです。犯人役のクライブ・オーウェンとの行き詰まる交渉を期待していたのですが、残念ながらそれもありません。あれでは別にジョディ・フォスターなどという大物を起用しなくてもよかったのではないかと思ってしまいます。

 人質に犯人たちと同じ恰好をさせていた理由がラストになって明らかとされます。そして、途中で犯人たちがせっせと穴を掘っていたのは・・・、う〜ん、そういうことだったんですねえ。なかなか芸が細かいですね。

 デンゼル・ワシントン演じるフレイジャーとコンビを組むミッチェルを演じている俳優は、どこかで見たことがあると思ったら、「ラブ・アクチュアリー」でキーラ・ナイトレイと結婚をする男性役を演じたキウェテル・イジョフォーですね。その他にも大物俳優が登場しています。銀行の会長を演じているのがクリストファー・プラマー、そしてNY市警のダリウス警部を演じていたのは「プラトーン」のウィレム・デフォーです。
 監督はスパイク・リーです。これだけの俳優たちが出演したのは、彼の力によるところが大きかったのでしょう。ジョディ・フォスターが脇役を演じるなんて普通では考えられないですからね。

 しかしながら、俳優陣が豪華な割にサスペンス映画としてはちょっと地味という印象は拭えません。見終わった後に爽快感もなかったですし・・・。ただ話としては上手く作られています。冒頭、クライブ・オーウェンの独白で始まりますが、ラストで初めて、ああ、あれはこのことだったのかあと驚かせられます。そして題名の意味も!
ダ・ヴィンチ・コード(18.6.23)
監督  ロン・ハワード
主演  トム・ハンクス  オドレイ・トトゥ  イアン・マッケラン  アルフレッド・モリーナ
     ポール・ベタニー  ジャン・レノ  ユルゲン・プロホノフ
 ダン・ブラウン原作の大ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」の映画化です。

 評判の映画ですので、公開から1月ほどが過ぎ、かなりの人が観に行っているようです。通常原作がある映画だと、読んでから観るか、観てから読むかという話題になるのですが、この映画はラストがわかってしまっていても、読んでから観に行った方が楽しめると思います。なにせ上下2巻(文庫だと上中下3巻)の膨大な原作を2時間半に収めているのですから、内容の密度が濃すぎます。本では細かく説明されている部分も、映画では簡略に説明されている部分もあるので、原作を読んでいる人はともかく、読んでいない人には話がわからない部分があったのではないでしょうか。うちの子供も話題作だからと原作を読まずに観に行ったのですが、途中でわからなくなって眠くなったと言っていました。ヨーロッパの歴史も出てきますしねえ。原作を読んでいないとなかなか話の流れについていくのが難しいですね。ただ、 “インディ・ジョーンズ”シリーズが好きな人には、聖杯とかテンプル騎士団が登場してきたので、身近に感じることもできたのではないでしょうか。

 主役のロバート・ラングドンを演じたのは、トム・ハンクス。それほど違和感なく見ることはできましたが、それほど印象に残る演技ではありませんでした。いつもより髪の毛がふさふさしている気がするという点では印象的でしたが(笑)大学教授という役柄からは、ハリソン・フォードというイメージも浮かんだのですが(“インディ・ジョーンズ”の影響大です。)・・・。
 ラングドンとともに謎を追うソフィーを演じたのは、オドレイ・トトゥ。これまでは、変わった役というイメージしかなかったので、普通の姿はこんな女性だったんだぁと再認識してしまいました。原作を読んだときはフランス人=金髪というイメージを抱いていたのですが、フランス人だから金髪というわけでもありませんよね(笑)
 イメージピッタリだったのは、シラス役を演じたポール・ベタニーです。あの白い肌(化粧をしているのでしょうね)、筋肉隆々の肉体がシラスっぽいです。そのほか、フランスの男優といったら昔はジャン・ポール・ベルモンドにアラン・ドロン、渋いところではジャン・ギャバンでしたが、今ではジャン・レノというくらい日本では知名度の高いジャン・レノが、ベズ・ファーシュ警部を演じています。ただ、脇役のせいか、今回はあまり目立っていません。ジャン・レノファンとしてはちょっと消化不良です。
 銀行の夜間支配人ヴェルネを演じていた俳優をどこかで見たことのある人だなあと思ったら、“Uボート”に出演していたユルゲン・プロホノフでした。久しぶりに懐かしい顔を見ました。

 小説では、ダ・ヴィンチの描いた「最後の晩餐」や「岩窟の聖母」に隠されている謎について細かく描かれていて興味深く読むことができたのですが、さすがに2時間半の映画ではそこまでは描ききれなかったですね。とにかく、おもしろい小説を映画化するのは難しいということが証明されたような映画でした。
ウルトラヴァイオレット(18.6.24)
監督  カート・ウィマー
出演  ミラ・ジョヴォヴィッチ  キャメロン・ブライト  ニック・チンランド  ウィリアム・フィクトナー
     セバスチャン・アンドリュー
 闘う女性ミラ・ジョヴォヴィッチ主演のSF映画です。
 時は21世紀。新種のウィルスが蔓延した世界では、ウィルスに感染し通常の人間より知力・体力とも勝るファージと呼ばれる感染者と彼らを抹殺しようとする人間との戦いが続いていた。ファージを一瞬で絶滅させる最終兵器を開発した人間に対し、ファージ側はその兵器を奪うべく一人の女性兵士を送り込む。彼女の名はヴァイオレット。
 ストーリーは二の次、とにかくヴァイオレットを演じるミラ・ジョヴォヴィッチのアクションシーンを見るための映画と言っても過言ではないでしょう。スレンダーな体で、贅肉などまったく付いていないウエスト部分を露出したコスチュームで、敵をなぎ倒していくシーンは格好良すぎです。“マトリックス”のネオよりすごいんです。四方八方から撃たれる拳銃の弾を軽く避けてしまうのですからね。どうしてか最後までわかりませんでしたが、髪の毛がヴァイオレットになったり黒になったり、コスチュームの色も赤になったり白になったり黒になったりと楽しませてくれました。
 監督はクリスチャン・ベール主演の「リベリオン」で監督でデビューしたカート・ウィマー。「リベリオン」で監督が独自に考案したという「ガン・カタ」のガン・アクションが評判でしたが(残念ながら未見(>_<)、アクションにはこだわりがあるのか、今回のガン・アクションも見事でしたね。 

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