連載 第172回
エリック・ウィテカー「バーチャル合唱団2000人の声」
〜9月3日放送のNHK”スーパープレゼンテーション”という番組を見ました〜
(2012.09.15 up)
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◆NHKの”スーパープレゼンテーション”という番組は、各界の最先端を行く人が登場して、英語でプレゼンする”語学教養番組”だそうです。
・その中で、この9月3日に放送されたのが、”エリック・ウィテカー「バーチャル合唱団2000人の声」”でした。
NHK”スーパープレゼンテーション”
http://www.nhk.or.jp/superpresentation/backnumber/120903.html
◆私は、バーチャル合唱団のことも、作曲者・指揮者のエリック・ウィテカーのことも、まったく知りませんでしたが、彼は、日本にも合唱講習指導に来たことのある超有名な人だそうです。 昔はロックスターを目指していたと言うだけあって、格好のよい指揮をしますが、手首が少し動きすぎかなと・・・。
・語学教養番組ですから、30分の放送の中はエリック・ウィテカーのプレゼン・スピーチが中心で、”バーチャル合唱団”の演奏は部分的にしか聴けませんでした。 そこで、You Tubeで検索していろいろ聴いてみました。
◆問題の「バーチャル合唱団(virtual choir )」ですが、要は各自が自宅のPCの前で1人で歌うところを録画して投稿し、それらを集めて合唱のように仕立てたものの様です。
・You Tubeで、3曲ほど見つけました。 番組のタイトルとなっている”2000人”のバーチャル合唱『Virtual Choir 2, "Sleep" with 2052 people』のほか、『Virtual Choir, 'Lux Aurumque'』、『Virtual Choir 3, 'Water Night' 3746videos』の3つです。
・下記にアクセスして聴いてみて下さい。
Virtual Choir 1, 'Lux Aurumque'
http://www.youtube.com/watch?feature=endscreen&v=D7o7BrlbaDs&NR=1
Virtual Choir 2, "Sleep" with 2052 people
http://www.youtube.com/watch?v=6WhWDCw3Mng&hd=1
Virtual Choir 3, 'Water Night' 3746videos
http://www.youtube.com/watch?v=V3rRaL-Czxw&feature=related
◆どれも、宇宙や海などをモチーフにした幻想的な曲です。ゆったりとしたスケールの大きな演奏で、映像の良し悪しは別としても、音楽としての出来栄えはすばらしいです。
・インターネットを通じて音源を集め、合成して一つの音楽に仕上げるというやり方は、You Tube 等の動画投稿サイトがもたらした時代の寵児として、新しい音楽のジャンルを切り開いたことになるかもしれません。
◆・・・しかし、”合唱(choir)”という言葉に少々引っかかりました。
・結局、2千人分の録音はこの作品の素材に過ぎず、実際に音楽に息を吹き込んだのは、後でビデオ音声を編集したレコーディングエンジニア(=指揮者? )でしょう。
@演奏を聴いてみると、子音を含んだ個人の声がけっこう聞き取れます。 映像では2千人の顔が均等に並べてありますが、実際には、この曲にマッチした何十人かをピックアップして拡声し、残りの参加者の声は限りなく”二千分の一以下”の音量に矮小化してミックスしていると思われます。
A自宅での個人録音においては、強弱を十分につけて歌うことは困難でしょう。 これも後でレコーディングエンジニアが修正して、全体の強弱を強調しながら揃えているはずです。
Bさらに、宇宙的な広がりと響きに包まれた演奏が聞こえますが、風呂場ででも歌わない限り、自宅録音でこれほどの残響が付くはずもなく、後で電子的にリバーブ(残響)やサラウンドといったエフェクトを付加して仕上げたものでしょう。
◆出来上がった音楽はすばらしいものですが、相互に繋がりを持ち影響し合いながら音楽を作ってゆく、または一期一会の演奏を楽しむという、生の合唱や合奏の趣旨とはかなりかけ離れた内容の作品です。
・世界中の多くのメンバーが一同に会しているという映像のイメージとは裏腹に、実際には歌い手同士の繋がりのまったく無い、”合唱”です。 自宅で1人ヘッドホンを耳にしてPCの前に座って歌います。 周囲の歌声に邪魔されることが無い代わりに、相乗効果が生まれることもありません。
・・・だから”Virtual Choir=仮想合唱”なのでしょうね。
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◆今時の音楽録音は必ずと言って良いほど電子的な修正が加えられており、さらにCG合成技術や音声合成技術が急速に発達して映像作品や音楽作品に”生の人間”を使う必要がなくなってきています。 今更上記のようなことを言うのはナンセンスかも知れません。
(!斬捨て御免!、!問答無用!)