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法律豆知識

11.不法原因給付

 当事者がどのような内容の<契約>を締結しようと、それは当事者の自由とされています。これを<契約自由の原則>といいます。

 しかし、この自由も無制限ではなく、その制約の一つに、契約の内容が「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗」(合わせて「公序良俗」と略称されます)に反する事項を目的とするものである場合は、その契約は無効という規定(民法90条)があります。


「公序良俗」という概念は明確ではありませんが、著しく倫理に反することを意味すると理解してよいでしょう。

例えば、一夫一婦制を建前とする我が国では、妻子あるA男がB女との間で、毎月50万円のお手当でB女を愛人とする契約(愛人契約)を締結したとしても、その契約は公序良俗に反するものとして無効です。

契約が<無効>であるとは、その契約からは当事者間に何の拘束力も生じないということです。ですから、A男が約束を守らず、B女にお手当を支払わない場合、B女はA男に対して50万円の支払を請求できません。もっと具体的にいえば、B女が裁判所に対して、「A男に50万円を支払うように命じてほしい」と訴訟を提起しても、裁判所はB女の請求を認めてくれません(請求棄却)。


 ところで、逆に、A男がB女に50万円のお手当を支払ったのに、B女が約束を守らず、性的交渉に応じてくれない場合はどうでしょうか。

 この場合、A男が裁判所に対して、「B女に性的交渉に応じるように命じてほしい」と訴訟を提起しても(いかにも講壇設例ですが)、裁判所はA男の請求を認めてくれません(請求棄却)。愛人契約は無効ですから、当然のことです。


それでは、A男はB女に対して、支払済みの50万円の返還を請求できるでしょうか。契約が<無効>ということは、契約が<初めからなかった>ことと同じことですから、B女は受け取った50万円を保有できる理由がありません。このように、法律上の原因がないのに、他人の損失において利益を得ていることを「不当利得」といいます。不当利得は(損失を受けている他人に)返還しなければなりません(民法703条)。

そうすると、A男が裁判所に対し、「B女に50万円を返還するように命じてほしい」と訴訟を提起すれば、裁判所は判決で、B女に対し、50万円の返還を命じてくれそうです。


ところが、残念ながら(?)そうはいかないのです。民法は、「不法の原因」のために給付した者は、その給付した物の返還を請求できない、と規定しています(民法708条)。「不法の原因」とは、先ほどの<公序良俗>とほぼ同じ意味です。この制度を「不法原因給付」といいますが、もしA男の返還請求を認めるとなると、裁判所が公序良俗に反する契約の一方当事者であるA男の権利の実現に手を貸すことになるため、適当ではない、ということです。その結果、B女は<もらいどく>ということになります。


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